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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
竜覚醒編
267/302

継承×呼吸×進化_3

 宙に舞う。

 何が? 頸が。

 誰の頸が? 女性の頸だ。

 どんな女性の頸が?  シニヨンアレンジにした蒼髪に金色の瞳をした美女の頸が。

 ドサッと何かが倒れた。何が倒れたのか?

 女性の胴体が。

 誰に斬られたのか? 少年が――。

 どんな少年が? 紅髪の少年が。そう、南方公爵家次期当主――ユーヤ・R・ムーマ。その人が女性の頸。アルフィーリングの頸を撥ね飛ばした。


「はあ……はあ……はあ……」

 肩から息を切らす。否、肩で呼吸しているユーヤは目いっぱいに空気を吸おうと喘息気味に呼吸をしている。

(ヤバ……意識が、朦朧と……)

 フラフラと視界が良好どころか悪化する一方。火事場のクソ力を引き出したかのごとく、()()()()()()()()を引き出し、使った反動が全身に重くのしかかってくる。

 ゼーハーゼーハーと呼吸が荒く意識が朦朧として今にも倒れようとしていた。

「ユーヤ!」

 アヤが必死に声を飛ばしているのがユーヤの目に入る。

(ごめん。俺、もう、限――)

 倒れようとしたところでガシッと誰かに受け止められたユーヤ。誰に受け止められたのか。

「まさか、まだ齢十代の子供にキミが負けるとはな……アルフィーリング」

 ルフスがユーヤを抱きとめた。彼が焼け野原に落ちた頸と胴体に声を投げる。

 すると――

「なっ――」

(嘘……あれで死なないというの……)

 アヤが見た。頸を飛ばされたアルフィーリングが霧散して数秒後に五体満足で復活した。

「まいったわ。まさか、子供に頸を飛ばされるなんて……」

「嘆くことじゃない。子孫は()()()()()()()()()。でも、キミが屈服されるなんて思わなかったよ」

 彼は彼女に容赦のない言葉を投げる。

「ええ。負けたわ。悔しいかぎり……でも、この子はこの私を見事に討ち取ってみせた。どうやら、アルザードもアルフォードもやられたみたい。アルフェンはこれからだけど、アルクェイドはとっくの昔にヘルトと融合していたし。問題はアルトルージュ姉様とアルトゥール姉様の覚醒が待ち遠しい。特に難題はアルビオンよ。あの娘は破壊ばかりしていたから心配でしょうがない」

 ため息を漏らすアルフィーリング。しかし、彼女の身体は今、崩壊が始まった。

「融合するのか?」

「ええ。そのとおりよ」

 アルフィーリングはユーヤの背中に触れる。ちょうどそのタイミングでアヤが駆けつける。彼女の身体が粒子となって霧散していき、ユーヤの中に入っていき取り込まれていた。

 消えていく彼女を横目にルフスがアヤに語る。

「アルフィーリングが子孫と()()()()をしている。融合を済ませたとき、子孫は()()()()()()()()()()()()()()()()

「想像を絶する力?」

「知らないか? ヘルトは現代に転生した。あいつの強さは俺たちが一番知っている。そりゃ、あのミノタウロスに深手を与えた。千年前ではヘルトが史上最強の大英雄と称され、[戦神ヘルト]と語り継がれたのも俺は嬉しく思っている。あいつこそ最強ってな」

 ルフスはアヤに向かってそう言う。ついでと言わんばかりにいいことを教える。

「ついでに言えば、この試練もそうだが、ギガース山脈の迷宮は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「千年以上前の空気?」

「わかりやすく言うなら、大気中の魔力濃度が高い」

「――?」

 アヤはルフスが言っている意味がわからなかった。

「あっ、ごめん。難しかったようだね。単純に言えば、空気濃度が高い、って意味。南方の密林は蒸し暑く息苦しさを感じたと思うけど、息を吸う空気の量と質が高い。あそこって動物とか魔物とかいないじゃん。代わりに南国食物が実っていただろ?」

「あっ、はい。実っています。でも、密林には誰も足を踏み入れません。私とユーヤの部下には獣族(アンスロ)がいますけど彼らでも密林へ行きません」

 アヤが南方にある密林へ入らないのをルフスは聞き、おおよその事情を察する。

「あっ、そっか。あの密林は今も外在魔力(マナ)濃度が高いのか。開拓もされていないか。なら、南方を盛り上げるために俺から子孫にアドバイスを送ろう。覚えといてくれ」

「は、はい!」

「あの密林は獣族(アンスロ)の誕生された起源が記された遺跡が眠っている。とは言っても遺跡というより地下迷宮に残されている。地下迷宮の最深部に千年前に俺が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思う」

「初代様が滅ぼした王国の隠し財宝が今もあるのですか?」

(もし、本当にあるのなら南方の財政も多少なりとも潤う)

「だけど、あの密林を攻略するのは難解。紅銀城(ローティンブルグ)を含め、樹海や密林、荒野、砂漠は巨大な国の領地だった」

 ルフスはユーヤが目を覚ますまで昔話を語りだした。

紅銀城(ローティンブルグ)は俺が命名した。だが、昔は美しい都だった。大きな湖の上に浮かぶ美しい都。俺が攻め滅ぼし、その領地を魔法陣として流用した」

「…………侵略した後悔とかなかったのですか?」

 アヤはルフスに攻め滅ぼした後悔はないのか尋ねる。

「……ないわけない。だが、当時は戦乱を収めるために、この世界……いや、この大陸のすべてを平定するほかなかった。平定するために武力をもってねじ伏せるしかなかった。そして、リヒトは皇帝と、ライヒは大帝国へと成長した。それから千年間。幾多の山あり谷アリを乗り越えて今があると思っている」

「初代様……」

 アヤはルフスの言葉に覚悟があるのと知り、二の句が継げなかった。

「でも、あの時代、武力で平定したのは理由がある」

「理由、ですか?」

 首を傾げる彼女に彼はこう言う。

紅銀城(ローティンブルグ)に南方の歴史のすべてが収蔵されている。特に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「彼女?」

 ルフスが言う彼女が何者なのかアヤは首を傾げる。

「それだけは俺の口から言えない。フランなら口にするだろうけど、俺は口にしない。彼女を口にするのはヘルトが許さないだろうから」

「え?」

(ヘルト……もしかして、[戦神ヘルト]! まさか、彼女というのは――)

 アヤはルフスが言葉を濁す彼女の正体に気づいた。

「まあ、彼女の異能は髪の色が変わる異能――“無垢なる色彩(イノセント・カラーズ)”。皇家のみに継承されている。()()()()()()()()()()()()()()。それが“無垢なる色彩(イノセント・カラーズ)”」

「“無垢なる色彩(イノセント・カラーズ)”……」

(異能にも種類があるのかしら……)

 アヤは()()()()()()()()()()()のではと心がざわついた。

「彼女の異能をキミは継承されている。それは事実だ。でも、“無垢なる色彩(イノセント・カラーズ)”は自分()()()()()()()()()()()()を深く理解するのと同時にとうまく扱えない」

「肉体構造……」

 彼女はルフスの話を真剣に聞く。

「“無垢なる色彩(イノセント・カラーズ)”は魔力循環系マギ・サーキュレートリというのを熟知しないといけない」

魔力循環系マギ・サーキュレートリ、ですか? 聞いたことがありません」

「だろうな。千年前でも知っている人が少なかった」

 ルフスは語る。

魔力循環系マギ・サーキュレートリは全種族の身体に流れる“闘気”を循環させる回路……血管と捉えてくれ。“静の闘気”は魔力循環系マギ・サーキュレートリの循環を安定させ、感覚を鋭くさせる。逆に“動の闘気”は魔力循環系マギ・サーキュレートリの循環を活発化させ、放出しやすくする」

「“闘気”が関わっているのですか?」

「そう。ああ、でも、“無垢なる色彩(イノセント・カラーズ)”は魔力循環系マギ・サーキュレートリをより深く扱える異能さ」

「――?」

(より深く……)

 彼女の頭上に疑問符が大量に浮かんでいる。ルフスの語る内容がぜんぜんわからない。

「“無垢なる色彩(イノセント・カラーズ)”はたしかに髪の色が変わる異能。しかし、その本質は()()()()()()()()()()()()()()()()()()異能」

「超越した、力? どうしてそう言い切れるの? そもそも、肉体構造って……」

 彼が語る内容にアヤは頭が追いつかない。ルフスも彼女の反応を見てもなお語り続ける。

「ヘルトの異能は知っているな? “両性往来者(トラフィックダイト)”……性転換を。実は男と女の身体で魔力循環系マギ・サーキュレートリが違う」

「え? 男と女で違うの?」

(知らなかった……)

 現代を生きるアヤも知らないことが多い。むしろ、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

「男と女の身体で“闘気”の循環が違うというが正確に言えば、“闘気”を一時的に貯蓄できる構造が違う」

「貯蓄構造? えっ? そもそも、“闘気”って貯蓄できるんですか!」

 アヤはマジで知らない反応を示す。

「ああ」

 ルフスは表情を変えずに語り続ける。そもそも、知らないのを前提で語っているからだ。あと――

(時間を稼がないとな。アルフィーリングと魂の融合……ひいては()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。種族進化は個人差がある。ヘルトはすぐだったが、俺やメランたちは違った。ヘルトの話だと普段から対話していれば自然と仲良くなると言っていたが……そう簡単なものじゃない。やはり、ヘルトはスゴい奴だと思う)

「身体の構造に関しては紅銀城(ローティンブルグ)に帰還した後、人族(ヒューマン)の人体構造を勉強してくれ。獣族(アンスロ)耳長族(エルフィム)などの異種族とは肉体構造が少しだけ違う」

「違う? それって、人族(ヒューマン)が特別なの?」

 彼女は未だに彼の話を聞き続ける。

「いや違う。異種族が特殊なだけで基本は人族(ヒューマン)とほぼ変わらない」

「そうなんだ……」

 アヤは感心している。ルフスからしたら気になっている。

(そもそも、子孫もそうだが、アヤ(キミ)もたいがい()()()()()。“無垢なる色彩(イノセント・カラーズ)”は魔力循環系マギ・サーキュレートリをより深く循環させるということは“()()()()()()()()()()()。速くなるということは()()()()()()()()()()()()()()()()

 ユーヤもそうだが、アヤも比較的常人の枠に入っていない。むしろ、超人の枠にカテゴライズされる。

 と、思っていたところで、ユーヤの指がピクッとかすかに動いた。

「――!」

「あっ……」

「うっ……」

 ユーヤは意識がおぼろげになりつつも徐々に覚醒する。

「うぅ~……はっ!」

「よっ、起きたか」

「あっ、初代様!」

「アルフィーリングと融合を済ませたか?」

「は、はい……身体が急に軽くなった気がして……」

「そうか」

(なら、キミは人族(ヒューマン)。いや、()()()()()()()()ことを意味する。ようやく俺と同じ領域に到達した)

「よし。ここからがキツめに行く。アルフィーリング。手を貸してくれ」

「え?」

 ルフスの言葉に呆けるユーヤ。だが、次の瞬間、彼の身体から“闘気”が漏れ出し形をなしていく。

「え? えぇ~!?」

 アヤも驚きを隠せずあんぐりした顔をしていた。すると、“闘気”が美女の形をなしていく。その姿はまさに先程ユーヤと魂の融合を果たしたアルフィーリングだった。

「な、なんで……」

「ユーヤの身体から“闘気”が漏れ出て……」

 見たことのない現象に驚きの驚きの連続。驚きすぎて疲れてしまっていた。

「おや? まさか、この技術まで知らなかったのか。“闘気”には三つの段階に分けられる。一つ目が“発動”。これは“闘気”を知り、“静”と“動”を知る。二つ目が“解放”。この段階になると“闘気”を常時に練り込むことができる。そして、三つ目が“掌握”。この段階に至れば、“闘気”を自在に扱える」

「“闘気”を――」

「自在に……」

 知り得ない話を聞き、言葉が出てこなかった。故にルフスは口で説明するだけ無駄だと判断し、先駆者として到達者として実演する。

「“闘気”を掌握すれば、このようなこともできる」

 彼が“闘気”を放出させ、形をなしていく。その形が鷹の姿へとなっていく。

「鷹に……」

「すごい……って、あの鷹ってまさか……」

 アヤはルフスが“闘気”で鷹の形にさせたのか気づいた。

「おっ、気づいたか。そう。この鷹こそがムーマ公爵家の家紋。俺が愛した鷹を家紋にしたのさ。空を支配する捕食者。それはつまり頂点を示す象徴。俺がこの鷹に頂点に君臨する証を後世に残すため家紋として残し続けた」

「あの鷹こそが初代様の想いを込めた象徴……」

(俺も意志と想いを受け継いでいかないと……)

 フゥ~ッと息を吐き、聖剣(レーヴァティン)を手に構える。アヤも棍棒を回して構える。二人が構えるのを見たルフス。彼が真っ先に見たのは面構えもそうだが、瞳だ。

(どうやら、迷いがなくなったな。この分だととことん鍛え込ませることができそうだ)

 彼はアルフィーリングに視線を転じる。彼女も彼の意図を汲み、アヤの前へ移動する。

「え?」

「あなたの相手は私がするわ。でもね。私はすでにユーヤくんの一部。一部ということは彼の特性を使えるって意味よ。そこだけは忘れないでね」

「急に理由のわからないことを言わないで。でも、彼の隣に立つのはこの私よ!」

「あら、気合が入っていることはいいことよ。でも、半端な覚悟は捨てなさい。すべてを得るためなら何が何でも向かってきなさい」

「言われずとも!」

 アヤは棍棒を片手にアルフィーリングへ挑みかかった。


 女同士の戦いをよそにユーヤは聖剣(レーヴァティン)を片手にルフスへ斬りかかる。しかも、スゥッと息を吸い、自然とフランの炎が一気に凄みを増していく。ただ炎が大きくなったのではなく、炎の質が変わった気がした。

「――!」

(炎の質が変わった……)

「ハッ!」

 振り下ろされる剣の重みをルフスも聖剣(レーヴァティン)で受け止めにかかる。ギリギリと火花を散らす。子供と大人。体型も肉体も骨格も成長度合いも経験も違う二人。

 ユーヤとルフス。

 ルフスが剣を振り上げればユーヤの剣なんぞ吹き飛ばせるだろうと思っていた。思っていたのだが、振り下ろされた剣の重みに押し負けている実感を味わう。

「なに?」

(押し負けている?)

「グッ!」

(初代様。初代様は間違えなく歴史に名を残した大英雄。でも、そんな大英雄も剣にかける想いが弱い! この俺が南方を、皆を、アヤを守っていくんだ!)

 剣にかける想いが人を強くさせる。人族(ヒューマン)は未完成の種族。それは真人間(ハイヒューマン)も同じであった。

 ユーヤは生まれながらの真人間(ハイヒューマン)。しかし、竜種“灼熱竜アルフィーリング”と魂の融合を果たしたことで進化した。真人間(ハイヒューマン)から■■■(■■■■■■■)へと完成されていく種族へ――。

 ユーヤの想いがルフスの想いに勝り、その結果が剣と剣の鍔迫り合いに表れている。

「初代様。あなたが伝説の大英雄だろうと俺には関係ない話だ。原初がなんだ……天使がなんだ……竜種がなんだ……俺の南方を仇なす者は全員、敵だ!」

「そうか。なら、俺も敵か?」

「そうだ。南方に脅威となす者はすべて敵だ!」

 気持ちを撒き散らす咆吼とともに振り下ろされた剣が受け止める剣を弾き飛ばした。

「“呼吸術”・“陽光牙突”!」

 炎をまとった聖剣の鋒がルフスの喉元へ伸びる。しかし、ルフスとて歴戦の英雄。ユーヤの狙いなんぞお見通しだった。

「“呼吸術”・“幻夜一閃”」

 刺突する鋒に対し、揺らめく斬撃がユーヤの喉元へ振るわれる。

(このまま突っ込んでいけば頸が撥ね飛ばされる)

 と承知でユーヤは足を蹴った。しかも、彼の右目から緑色の魔力光が漏れる。右手の甲から緑色の雷が迸る。そして、ユーヤの喉元へ紅刃の刃先が迫りくる。迫りくる刃を彼は左腕一本で受け止める。

「ッ――!」

 ブシャッと鮮血が飛び散る。紅刃がユーヤの腕にめり込み、肉と血管を切り裂き、骨に食い込む。

 左腕から走る激痛が全身を駆け巡る。脂汗が身体から滲み出る。激痛がユーヤの集中力を乱そうとする。しかし、彼とて英傑の道を歩み始めた少年。ならば、この程度の痛みで集中力を乱してならぬ、と本能が叫ぶ。

「あぁ!!」

「何!?」

(こいつ、腕一本犠牲にしてまで俺の頸を獲りにきた! だが、左腕は……何――!?)

 ルフスの紅眼に入る光景に驚く。

 バリバリと緑色の雷が左腕に走る。否、それだけじゃない。剣から流れる感触に違和感を覚える。

(斬り込んでいるのに感触が浅い? まさか――!?)

 彼は瞳に“静の闘気”を回し相手の“闘気”の流れを可視化させる。

(――! “動の闘気”を大きくまとわせている。そうか。それで防御力を……いや、フランの炎が流れている。炎属性は攻撃と防御に特化した特徴。しかも、呼吸により治癒速度を上げている! 骨まで届いて――)

「――!」

「なっ――!」

(筋肉で剣を――! “動の闘気”とフランの炎で筋力を極限まで――)

「アァアアア!!  “陽光牙突”!」

 ユーヤが腕を伸ばし、紅の鋒がルフスの喉元へ伸びる。彼も表情が苦くなるも首を右に倒す。首を倒すことで喉元を突き刺す鋒の軌道が理想の軌道と違った。

「――!」

 ブシャッと首から血飛沫が舞う。首を右に倒したことで鋒の軌道がズレて首の肉を斬り裂くだけにとどまった。

 しかし――

「――!?」

 ゴボッと口から大量の血が吐瀉物となって吐き出された。ゲホゲホと咳き込みながらもルフスはギラッとユーヤを睨みつける。もちろん、殺気を乗せた眼光で――。

 鋭き眼光を受け、ユーヤがたじろがない。常人ならたじろぐ眼光を彼は臆せず眼光を返す。

「この……いい気になるな……子孫が……」

「黙れ! 初代様が現代までしゃしゃり出るな! これからは俺らの時代! 遺物はさっさと――」

 ユーヤは左腕の力を緩め、刃を引き抜き聖剣(レーヴァティン)の柄を掴む。掴んだ剣をルフスの首から退く。退いた反動で身体をねじり、今度こそ確実にルフスの首を獲りにいく。

 しかも、ドクドクとこぼれ落ちる傷口めがけて剣を振り抜く。

「青いわ!」

 ルフスがユーヤの頭蓋を掴み剣で腹を突き刺す。突き刺した一撃に炎が拡散し、彼の()()()()()()()()()()()()

「――――!」

 声にもならぬ悲鳴が、雄叫び、絶叫となって響き渡る。肉や骨、神経、血管、臓物のすべて焼き尽くされる痛みは常人では理解できぬほど想像を絶する痛みである。

(痛い……痛い痛い……炎が、身体を焼かれるように痛い……こんな、炎の使い方を……)

 声を発することすら難しいほど激痛に苛まれるユーヤ。それでも――

「――!」

 ギンッと殺意のこもった瞳がルフスを睨む。手から剣が落ちそうになる。

(ま、だ、あきら、める……ものか!)

 ギュッと剣を強く握り、ブンッと剣を振り抜き、寸分たがわず紅刃が頸の傷に斬り込む。

「――!? 何!? こいつ……」

(まだ、こんな力が……)

 しかも、刀身に炎が走り、白熱するほど全身を燃え上がっている。

「――――!!」

 言葉にならぬ叫び。声にもならぬ咆吼を上げるユーヤ。頸を獲ろうとする彼にルフスとて容赦なく頭蓋を握りつぶそうと万力で掴みかかる。しかも、腹を貫く赤き刀身から漏れる炎が灼熱に燃え上がり、ユーヤの身体を内部から焼き尽くす。

 その温度は熱湯の温度を超え、火山のマグマ否、家屋を焼き尽くす炎の温度に匹敵するほどに燃え上がっている。

(痛い……い、たい……)

 本来、人体は体温を超える温度を浴びたり、受け続けたりすると死に至る。しかし、そいれは通常の人族(ヒューマン)の話かと思うが、耳長族(エルフィム)獣族(アンスロ)小人族(ドワーフ)魚人族(フィッシャー)魔族(ゾロスタ)などですら不可能だ。真人間(ハイヒューマン)から■■■(■■■■■■■)から進化を果たしたユーヤですら不可能な話だ。

 彼が持つ異能――“無限適応(アンフィニ)”でも適応するのに時間がかかりすぎる。かつてルフスですら白熱する炎を浴びた経験があっても順応するのに時間を要したのを忘れない。ユーヤも白熱する炎を浴び続けて順応するのに時間を要するかと思った――

「あ……ぁ、アァアアア、あ――」

「ッ! まさか、こいつ――」

 白熱する炎を受け続けたせいで虚ろとしていた瞳。虚ろの瞳に炎が灯りだした。ルフスは死にかけの子供が息を吹き返す様にゾクッと怖気が走る。ユーヤは今、白熱する炎に焼かれているというのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ほどの――。

 白熱する炎を内側から浴び続けていたら確実に死ぬ。無限適応(アンフィニ)をもってしても死ねるだろう。しかし、ユーヤは息を吸って体温の限界を超えさせる。体温の限界を超えることで本能が身の危険を感じ順応速度を加速させる。奇しくも()()()()()()()()()()()()()と似ていて、無意識に使用していた。

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