継承×呼吸×進化_2
「ちょっ――!?」
アヤが何かを言いかけようとしたけどユーヤが急ぎ距離を取ったために舌を噛んでしまった。
「――! 舌噛んだ……」
「急に喋るなよ」
「いしょごうとしてひゃゆーひゃがわりゅい!」
「いや、なんて言っているかわからないのだが?」
言っている意味がわからず困り果てるユーヤ。ムゥっと頬を膨らますアヤ。苛立ちが募る一方だ。
しかし、ユーヤが一歩目で大きく距離を取ったのは事実だが、二歩目を駆けようとしたけどバランスを崩したたらを踏みかける。
「おっ、と……」
「ら、らいじょうぶ?」
「な、なんとか……」
(クソッ。一歩目は良くても二歩目は難しいな。これは一歩目の踏み込みが肝だな。調節しないと二歩目三歩目の対応がうまくいかない。とはいえ――)
チラッと後ろを見やるユーヤ。ルフスとアルフィーリングから十分に距離を取れ――
「――取れたと思った?」
「――!?」
「ヒィッ!?」
顔を前にやるとルフスとアルフィーリングがいた。
「いつ、のまに……」
「二歩目を踏み込もうとしたとき、バランスを崩したよな? その間に回り込んだ話。でも、高い集中力で駆け抜けたのは見事だ。音を超え、光にも等しい走りだったよ」
称賛するルフス。
「だけど、その走りに対して、脚力もそうだが、鍛錬が足りない。だが、呼吸と集中力、力の配分を直感的に対応した。それを褒めよう」
ベタ褒めするルフスだけど、アルフィーリングは厳しかった。
「ダメよ。二人を一人前にしないと、この試練は突破できない。だからここからはシチュエーションを変えましょう」
「シチュエーション?」
首を傾げるユーヤ。ルフスも「そうだな。そろそろ頃合いだろ」と考えを切り替える。
「次は実戦形式での呼吸と集中力を維持しよう。“闘気”は実戦の中でさらに成長する。格上中の格上に挑めば挑むほど強くなっていく」
「格上に挑めば強くなる……」
「そうよ。それじゃあ始めましょうか。竜種から指導を受けてもらえるなんてそうそうないからね。感謝してよ」
ウフフとほほ笑みを浮かべるアルフィーリング。ユーヤとアヤからすれば目の前の鬼と相手にしなければならないと知り、ブルリと身震いした。
「とにかく気合を入れろ。死ぬ気で乗り切らないとまた死ぬだけだ」
「うん!」
自ら鼓舞して気合を入れる二人。アルフィーリングは二人をさらに呷る
「そうよ。その意気よ。この程度を乗り切らないと次はないからね」
「次?」
「これってまだ初歩?」
「ええ、初歩中の初歩よ」
ピシッと軟弱な心が砂となって消えていくのがルフスの耳には聞こえた。
(あぁ~、心が折れたな。いや、軟弱な精神が壊れた音が聞こえてくる)
「とりあえず、現状維持したまま実戦に入るわ」
扇子を手にするアルフィーリング。ルフスは少しだけ後ろに下がった。対して、ユーヤは聖剣を、アヤは棍棒を手にして構える。
「剣を振るにも、棍棒を払うにも呼吸を整え、集中し続けなさい」
彼女に言われて二人はフゥ~ッと息を吐いて集中――させてもらえなかった。
「ぶっ!?」
バチンと閉じた扇子が頬にめり込み転ばされる。ゴロゴロと焼け野原を転がっていく。
「雑念が多い。目に入る炎に意識を向けすぎよ」
ユーヤもそうだが、アヤにも言える指摘を飛ばす。
「心に雑念が多い。心を無にしなさい」
「って、言われてもどうやればいいんだ?」
「意識してできるものじゃないと思う……」
二人して弱気になる。弱気な二人にアルフィーリングがげんこつを送る。
「泣き言を言わない! “闘気”は全種族、全生命体の誰もが身につけることができる力。その強弱は日頃の鍛錬度合いで大きく変わる。そして、心の強さが大きく関わるの」
「心の強さ……」
「疑わないことは強さの一つ。大きな挫折を経験し、壁を乗り越えた人だけが身につけることができる力……それが“闘気”よ。あなたたちはすでに“闘気”を開花している。あとは強固な土台を築き上げるだけよ」
「土台を……」
「ほんとに開花しているの?」
アヤは自分が“闘気”を身に付いているのか信じられなかった。
「安心なさい。私はルフスを鍛えた経験がある。私がつきっきりで鍛えてあげる」
ユーヤは「え?」と呆ける。ルフスを鍛えた、という話を聞き動揺する。
(初代様を鍛えた。アルフィーリングさんはいったい何者?)
彼女を見る目が変わる瞬間だった。そんな彼にルフスはアドバイスする。
「俺もそうだが、ヘルトもメランもベルデもアルブムも彼女らに拾われ育ててくれた。俺にはアルフィーリングが母親か頼れる姉に思えた」
「もう、ルフスったら……」
嬉しげに身体をくねらせる彼女を横目にルフスは大事なことを告げる。
「子孫よ。この試練を乗り越えた際、俺の魂はキミの一部となる。アルフィーリングはキミの魂と融合する。これはメランもアルブムもベルデもそうだ。自分らの子孫の魂の一部となる。ヘルトは千年後の未来……つまり、ヘルトの末裔に転生する。同時に魂と融合した竜種もそのまま現代に流れて蘇る」
「え?」
(俺だけじゃなくカズもユンもユージもそうなのか? じゃあ、ズィルバーはどうなるんだ? そもそも、転生ってなんだよ。死んだ人間が生き返るとでも言うのか?)
ユーヤの頭の中では難しすぎる話が入り込んでパンパンになっていた。混乱しまくって自分がどうにかなりそうだった。
「まあとりあえず、キミは俺のすべてを継承させる。だから、アルフィーリングの特訓を乗り越えろ。それが絶対条件だ」
「…………」
このとき、ユーヤの心の中では
(あっ、これは何度も死ぬ羽目になるな)
諦めの境地に至った。むしろ、死すら生ぬるい地獄が始まるのだと自覚した。
「それじゃあ始めるわよ。大丈夫。ルフスも毎日、私が面倒見たおかげで世界最強の剣士になったから」
「…………」
(面倒見た、だったか? あれが……)
彼の中でも彼女に面倒見てもらった部類なのか疑いたくなった。
「じゃあ、始めましょうか」
「お願いします」
「死ぬ気で倒します」
覚悟を決めるほかなかった。ギュッと剣と棍棒を握って“闘気”を流すユーヤとアヤ。力が力んでいるのが見え見えだった。否、緊張しすぎて身体がガチガチになっていて力んでいた。
「力みすぎね。それじゃあ反応が鈍くなるわ」
「ぶっ!?」
「グッ!?」
一瞬で移動したように錯覚し、二人の頬に扇子の一撃が炸裂する。首の骨、筋肉がねじれ飛びそうなのをガチガチになっていた筋肉で抑え込んだ。
(あら、無意識に“動の闘気”を頬に集中させたね。“静の闘気”で無意識に反応したのかしら?)
アルフィーリングはユーヤとアヤを交互に見て無意識だけど“闘気”を使い始めているのは間違えないと実感した。実感したからこそ、指導の仕方を変えないといけない気がした。
(厳しく教えるのはいいとして厳しすぎるのもよろしくないわ。とりあえず、自信をつけさせないと――。“闘気”を扱うには自分の強さに疑わない自信を身に付けさせないと……)
彼女はユーヤとアヤを一流の戦士にさせる責務があった。
それと同時にいずれくる戦争に備えて大将軍にさせるのがアルフィーリングとルフスの目的である。
否、千年前以上の大戦争がライヒ大帝国並びに隣国を巻き込むことだろう。
その大戦争を生き延びるためにルフスたちは子孫を鍛え上げる。
それこそが、初代皇帝リヒトとの約定である。
その約定に従い、ルフスとアルフィーリングはユーヤとアヤを鍛え上げる。
アルブムとアルフェンもユージとユリスを鍛え上げる。それこそが先達者の目的だった。
「あら、ほんの少しずつだけど動きが良くなっているじゃない。一時的に目を潰してあげたおかげで感覚が鋭くなったのかしら?」
彼女はユーヤとアヤに向けて恐ろしい言葉を吐く。目を潰す。むろん、眼球を潰したのではなく、頭に強烈な衝撃を与えて視神経を一時的に麻痺させた。麻痺した視神経から入る情報が一切途絶えれば戦えることなどほぼ不可能。常人ならば、な。
「いいか。子孫たち。現代では“闘気”の習熟度合いはわからないが、“静の闘気”は基本、一点の曇りなく心を落ち着かせることが大前提。その心を落ち着かせる呼吸を今、キミたちはやっている。無意識にな。その無意識を維持しろ」
「…………!?」
(無意識!? そんなこと言ったって、意識すれば……はっ! そうか。意識しているから余計に集中力を割く。なら、集中力を割かずに無意識にそれをやってしまえば……)
フッと笑みを浮かべるユーヤ。彼はアヤに声を投げる。
「アヤ。今のまま維持しろ。ついでに目を閉じろ。使えない目を使うより集中して心を乱さないことだけ考えろ」
「う、うん」
彼女はユーヤに言われて目を閉じ、意識を集中させる。彼に言われたとおりの呼吸法で心を落ち着かせる。
すると――
「――!」
頭の中に一瞬だけ扇子の陰影がよぎった。陰影を頼りに無駄のある動きで躱した。
「うーん。動きに無駄があるわね。躱すだけなら身体をそらすだけで十分よ」
「――! は、はい」
フゥ~ッと息を吐いて心を落ち着かせる。心を落ち着かせるということは、それは無心になるのを意味する。無心の行。アヤは無意識に心を閉ざす法を手にした。
「――!」
アヤの頭にまたもや扇子の陰影がよぎる。再び、陰影を頼りに次こそは大きさに合わせて棍棒で受け流してそのまま――
「はっ! “無王”」
扇子を受け流すだけにあらず、はたき落としにかかる。しかし――
「“竜甲”」
アルフィーリングも棍棒をラクラク躱すだけにあきたらず、手の甲で弾き返す。
「――!」
(弾かれた!)
研ぎ澄まされた感覚が告げる。弾かれた、と――。
逆にユーヤはフゥ~ッと息を吐き、極限まで集中する。
(“静の闘気”……剣術科の先生が言っていたな。優れた剣士は気配や間合い、力の流れを自在に扱える。ズィルバーがあそこまで強かったのは精霊の加護だけにあらず。力の流れを自在に扱いこなせるからだ。力の流れなんてイメージがつかない。血の流れとかも詳しく知らない。でも、一つだけ言えるのは――)
スゥ~フゥ~
深呼吸して身体から発する熱、炎のめぐりを“静の闘気”で無意識に感じさせる。身体に覚えさせる。
(俺の得意属性は火。初代様と同じように炎を扱いこなす一族。ならば――)
フゥ~ッと息を吐いたのと同時に薄く広範囲に炎で間合いを作る。それはまるで“静の闘気”の一つ“剣界”と同じように――。
「――!」
「ほぅ」
アルフィーリングはアヤから距離を取り、ルフスはユーヤに関心する。
(炎をそう使うか。子供ながらの幼稚な発想……いや、子供だからこそ思いついてやってみたって感じだな)
「考えてみれば心が熱く燃えようが、頭がクレバーになればいいだけの話。“闘気”ってのもイメージ次第で感覚をつかめる」
「――!」
タッと地面を蹴り、炎の剣閃が走る。
「“神大太刀”!」
閃く剣筋が炎の斬撃となって放たれる。伸びる炎の剣閃にアルフィーリングは「まあ!」と驚く。
「まさか、ヘルトの剣を身に付けていたなんて……でも、まだまだね。彼の剣に対抗できるのは同じく彼の剣よ。“闘気流し”」
彼女は扇子に“闘気”を流し、炎の斬撃を彼方へ受け流した。
「“竜掌”!」
“闘気”をまとわせた掌底が衝撃波となって波状攻撃を仕掛ける。
「――!」
(波を打ってくる。波状攻撃! こういった防御陣形にはこう対処されるのか!)
「グッ!?」
「水蓮流は“静の闘気”を体得していることが前提条件。あなたのそれは水蓮流の一つ“剣界”。しかし、剣界にも弱点が存在する」
「――?」
(弱点?)
ユーヤはアルフィーリングが言う弱点がわからなくてもフランが思念を飛ばす。
『“剣界”は自分の間合いを作り上げる基本技。ヘルトもルフスも最初に“闘気”を体得してすぐに“静の闘気”の体得に優先した。もう一度言うと“剣界”は自分の間合いを作り上げる基本技。心に波が生まれると壊れてしまうのだけど、強制的に波を生み出して間合いを崩されるのが“剣界”の弱点』
(はっ! 波――だから、波状攻撃!)
「どうやら答えをフランが教えてくれたようね」
「はっ? しまっ――」
「“竜掌”!」
“動の闘気”をまとった掌底が胸に押し詰められ、衝撃波が心臓と肺を揺さぶるように貫通する。
「――! ガハッ――!?」
口から大量の吐瀉物を吐き出すユーヤ。吐瀉物の中には血も混じっており、集中力をかき乱されただけにとどまらず、身体中を巡る炎も呼吸までも乱れに乱れてしまった。
「うぐっ……」
(乱れた……何もかも……ひとまず、復習する。今の失態が何かを……――)
ユーヤは無意識下に放射する薄い炎を小さくしていく。否、小さくするだけにとどまらず、より強くより質く、そして、呼吸を整え身体のめぐりを早めていく。
(失態は……無駄が多すぎる。子どもの俺が無駄をするなというのが間違え。なら、間違えを多くして……より強くなればいい)
迷いが多くあれど。回り道が多かれど。それが南方を統べる王の証であった。
フゥ~ッと息を吐く。
(まず……)
『もう一度、心を落ち着かせて……アヤちゃんと同じように無心にして』
(ああ、そうする)
ユーヤは息を吐いて心を無にする。アヤと違い、呼吸にて頭の中を空っぽにした。そもそも、呼吸で頭も心も空っぽにしたり無にしたりなんてできない。
呼吸はあくまで身体機能と能力を飛躍的に向上させる技術。頭と心の中を無にする技術ではない。
ユーヤが呼吸で頭と心の中を無にできたのはひとえに才能がそれをさせた。否、性格だ。
彼は単純だ。
頭の中でごちゃごちゃ考える性分じゃない。ムーマ公爵家の当主になるために細やかな手腕も必要だけどもそういったことは家臣や部下たちに任せればいいだけの話だ。
そもそも、ユーヤは小難しいこともモヤモヤすることも苦手だ。っていうよりユーヤはネガティブになることもない。なるときはあるけども一日経てばすっかりと開き直ってしまうのだ。
彼の単純さが功を奏した。
ムカムカする心情を消し飛ばすほどの無にできた。
「フゥ~」
(よし。頭の中が空っぽになった。心も無に……いや、できないな。心が落ち着かない。無理矢理にやっても痼が残る。そういえば、ズィルバーは心を無にしなくても“静の闘気”を扱えていた。そっか。心を落ち着かせればそれでいいんだ)
単純さ故にすっかり頭を空っぽにしたユーヤは脳裏に相手の攻撃が幾重にもよぎった。
「――!」
スッと頭を後ろにそらせば、閉じた扇子が通り過ぎる。
「“北蓮流”・“剣舞”!」
聖剣がふるった炎の剣閃が乱れるように放たれる。しかも、ただ乱れるように放たれたのではない。
「――!」
アルフィーリングは扇子できれいに剣閃を捌く。
(私の動きを封じてきた?)
チャキと扇子を開こうとすれば、ユーヤは聖剣を十字に振り抜いた。
「“北蓮流”・“十字架斬り”!」
「甘い!」
扇子を開いたのと同時に十字斬りをはたき落とした。
「――!」
(これもダメか。なら、やることは一つ。父さんが教わった剣を使うまで――!)
フゥ~ッと息を吐けば、口から“闘気”が炎のように燃え広がる。
「“呼吸術”・“灼骨炎舞”!」
“闘気”が渦を巻くように走り、剣先から吹き出すフランの炎が熱を強める。アルフィーリングは扇子で払おうとしたが、広がる渦に目を見開く。
(逃げ場を封じている……なら――)
「“陽光牙突”!」
炎の渦の中心から真正面に突っ込んでくるユーヤ。突きの構えをしている時点で次なる手が容易に想像できる。
「その程度で私を出し抜けると思わないで!」
扇子を目いっぱいに払ったら突風が吹きすさび、子どものユーヤなんて瞬く間に吹き飛ばされてしまう。現に彼は突風の前に吹き飛ばされた。
「フッ……はっ――」
アルフィーリングの視界に映るユーヤの姿が霞んで消えていく。
「消え――」
「“呼吸術”・“幻夜一閃”」
景色と同化していた彼が彼女の背後を取って首を獲りに行く。炎が煌めく剣閃が彼女の首を捕らえる。
(――獲った!)
ガキンッ!
甲高い音が木霊する。ユーヤが振るう紅刃がアルフィーリングの首筋に切れ込みを入れたところで止まった。
「――!」
(剣が止まった――)
「正直に言って、私の首を狙うとはやるじゃない。でもね……」
ギロッと金色の瞳が強く光る。
「この私――“灼熱竜アルフィーリング”を甘く見ないで!」
「――!」
全身に重くのしかかる圧に身体が軋み始める。苦悶の表情を浮かべるユーヤ。
(身体が重い……骨が軋む……だけど、ここで逃げるわけには、いかない!)
ギュッと聖剣の握りを強める。今まで閉じていた目を開く。紅の瞳が炎のように煌々と輝く。その瞳はアルフィーリングを睨みつける。
「私を睨むか。あなたは私を……竜種を相手に臆さないと言うか!」
「竜種とか……“灼熱竜アルフィーリング”とかなんだ! 俺は俺だ! キミが俺の一部なら俺に従え! 従わないなら……俺の女にするまでだ!!」
バリバリと右手の甲から漏れる緑色の雷。右目から漏れる緑色の魔力光。
「――!」
(この色は豊穣神の――!?)
アルフィーリングはすぐに後ろへ退こうとした。
しかし――
「――!!」
「――!?」
ユーヤの眼力に身動きを封じた。
「アァアアアアアア――――!!」
(足りない! この程度の力では……この女の首は獲れない! 力がもっと必要だ! これの十倍いや百倍の力を……――!!)
ピキッとこめかみに筋が走る。緑色の魔力光が聖剣に帯びていく。しかも、無我夢中に“動の闘気”をより大きく纏っている。
感情が炎のように燃え上がる。燃え上がる感情がユーヤの魂の奥底に眠る力を引き出した。
「アァアアアアアア――――!!」
ユーヤの瞳と髪の色が大きく変化し始める。
「え?」
「――!」
(ほぅ、感情の爆発もそうだが、荒れ狂う力が子孫の身体を、魂を駆け巡り根源に眠る奴の力を引き出したか)
ルフスはユーヤが自分と同じ力を引き出し始めていると歓心する。
桃色の髪、桃色の瞳に変わるユーヤ。しかも、髪が燃え盛る炎のように猛りだす。
(ひねり出せ!)
「貴様がアヤを傷つけたことを地獄で後悔しやがれ!!」
猛る感情がフランの力を最大限に引き出す。硬すぎる“動の闘気”による強化もさらなる力の前になすすべがない。紅刃がアルフィーリングの首を獲ろうと進んでいく。
「――!」
(まずい。このままじゃあ……ルフ――)
「貴様みたいな女なんざ喰らい尽くすまでだ! 黙って! 俺の言う事を聞いてやがれ!」
ユーヤはアルフィーリングを屈服させようとする。
猛る咆吼。燃える感情がユーヤの心の内に秘める想いを全部吐き出し続ける。咆吼とともに剣閃がきらめき燃え盛る炎のごとく爆裂する。聖剣を振り切った。同時に宙を舞う一つの頸。女性の頸。そう、アルフィーリングの頸が今、飛んだのだ。
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