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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
竜覚醒編
265/302

継承×呼吸×進化

「――胸を借りますよ、初代様」

「じゃあ、始めようか」

 ルフスは試練だってのに教官じみた声が出し始める。

「まず見た感じ、キミの剣は見様見真似だな。父親か()()()()()()()()()()()な」

「――! 父さんの動きだけど、ズィルバーの動きを真似ている」

 ユーヤは他人の真似事をしていると明かした。ルフスは彼の話を聞き、すぐに答えを出す。

「ズィルバーって子がどのような剣の使い手かはわからない。だが、断言するならその剣を真似るのはやめておけ」

 ルフスは断言する。ズィルバーの剣は真似できる代物じゃないと――。

「俺も昔、ヘルトの剣を真似てみたが独特すぎて真似できる代物じゃなかった。でも、ヘルトが剣を振るう際、()()()()()()を使っているのを見抜き、その呼吸法をとことん突き詰めた。メランもアルブムもベルデもヘルトから何かを盗み突き詰めた結果が独自の戦闘スタイルへと進化した」

 地方公爵家の初代は[戦神ヘルト]の剣を真似て独自の発展を遂げたと明かす。

「俺たちの剣は共通して“魔剣術”と呼称して後世まで残そうと考えた。魔剣術ってのは精霊と“闘気”などを混ぜた剣術体術の総称」

「精霊と“闘気”を混ぜた技術……?」

 にわかに信じがたい話だが、面白みのある話に聞こえる。それはアルフィーリングとじゃれ合っているアヤも意識をそちらに向けてしまうほどの内容だった。

「俺がヘルトから盗んだのは呼吸法。キミにその呼吸法を手取り足取り教えてやる」

「――!」

 空気が変わったのをユーヤは肌で感じとる。手取り足取りを教えられ叩き込まれるということは同時に“闘気”の上達につながると直感したからだ。

『同時に私の扱い方も身体で理解させられるわ』

 フランからも自分の使い方を叩き込まれると知るユーヤ。ああ、死ぬかもと思ってしまった。

「安心しろ。ここは心象世界だ。死の淵に追いやられても死ぬことはない」

「え? なんで分かったの?」

「“静の闘気”は気配を探るのと同時に呼吸や心拍数を測ることができる。もっとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

「初代様だけの技……」

「ヘルトは基礎を徹底して磨き込んで“帝剣流”を編み出した。ヘルトは洗練されていて後世に残す流派を刻んだ。たいして、俺やベルデらは代々子孫にのみ継承され続ける道を選択した」

「一族のみに継承する道を選んだ……」

(ということは、俺にしかできない技があるということ……)

 ユーヤはルフスの話から自分にしかできない技があると推測する。

「じゃあ続きを始めるぞ。“静の闘気”は基本、気配を探ることに特化しているが、極めると少し先の未来を視ることができる」

「未来が視える……そんなのできるの!?」

「ああ、できる。とはいえ、これは個人個人特徴が異なっているため精度の判別がある。ヘルトもそうだがベルデに関しては先を見通せる精度はずば抜けていた。逆に俺は先をい通せるほどの精度は体得できなかった。ただし、()()()()()()()()()()のはずば抜けていた」

「相手の心理……つまり、心理戦ですか?」

「そう。優れた“静の闘気”は心を読み取ることができる。ヘルトは心を読み取れる術を体得し、俺は盗んだ。盗み極めることで理解した。俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それってつまり……相手に俺の考えていることが読み取れなくなる」

「武芸では心を閉ざす法が存在する。できる奴もいればできない奴もいる。俺の血族は全員できる方だから安心しろ」

 言葉のキャッチボールができているのか不明だが、ルフスが言おうとしていることがユーヤにも理解し始めている。

「いいか。“闘気”を年数が経てば経つほど極まっていく。ひとまず、俺がキミに教えてあげられるのは基礎だけだ。“闘気”と呼吸法を徹底して身体に叩き込ませる。アルフィーリング。キミは俺が()()()()()()()()()()()を徹底的に叩き込ませてくれ。殺しても構わないよ」

「おい、サラッと怖いことを言ったぞ!」

『ユーヤ。私を十全に扱いこなせるためにもルフスに鍛えてもらいなさい!』

(フランもなんてことを言うの!?)

「アヤ。キミもなにか――」

「――ごめん」

 バタッとアヤは倒れた。ルフスに言われてさっそくアルフィーリングはアヤに一撃を見舞った。突然のことでアヤも対処できずにガフッと血を吐いて倒れ伏した。

「アヤ!」

「だ、大丈夫……ダメージが重かっただけ、だから……」

「どこに安心できる要素があるんだ?」

 ユーヤとしても信用できる要素がなかった。




 一方でユーヤの部下であるマリリンとリリィはというと――。

「ヒィイイイイ――――!?」

「何なのよぅ!?」

 二人はギガース山脈の地下迷宮の大広場ではなく――。

 吹きすさぶ砂粒が十代半ば女子に襲いかかる。叫ぶだけでも口の中に砂粒が入るかもしれないのもお構いなく二人はひたすら走り続ける。

 どこを?

 もしかして、大広場を? ではなく、吹きすさぶ砂嵐。足場がバランス感覚の取りにくい砂場。

 そう、今、二人がいるのは広大な砂漠地帯。

「うぅ~、足が~!」

「泣き言を言わなーい! 私だって嫌だもん!」

 泣き言を言いながらもひたすら砂漠を走り続けている。しかも、何かに追われながら――。

 何に追われているのか。それはもう伝説上の生き物――“魔獣”と言われた生物。

 獅子の身体、鷲の翼、人族(ヒューマン)の顔をした魔獣――スフィンクス。

 そのスフィンクスから追いかけられる。地獄の鬼ごっこをされていた。しかも、一体じゃない。三体のスフィンクスから追いかけられるマリリンとリリィの二人。

 さらに言えば、スフィンクスだけじゃなく、下半身が蛇。上半身が人族(ヒューマン)の身体をした魔獣――ラミア。

 そのラミアが軍勢となって二人を追い詰めていく。さらにさらに言えば、マリリンとリリィは砂漠の上を靴とか履いておらず、()()()()()()()()()()()()()


 では、なぜそうなったのか。

 それはほんのちょっと前に遡る。

 マリリンとリリィの前に突如出現した大英雄――ラムセス・U・マート。

 その男は千年以上前、当時、ライヒ王国の南方大将軍ルフスが砂漠国家の王、ラムセスと戦端を開き、敗北してこの世を去った大英雄。

 而して、その強さはルフスですら命の危機に瀕した、って言われるほどの大英雄だった。

 その男が千年の時を経て現代に復活した。むろん、魂だけの存在。精神生命体という形として現代に顕界している。

「ふん。斯様な戦場を駆けていた余の前に小娘二匹がいるとはな」

「ムッ!」

 マリリンがラムセスの物言いに不機嫌になる。しかし、リリィはラムセスの顔を見て惚けてしまった。

「昔の人にも色男がいたんだ……」

「コラッ! リリィ! あんた、ユーヤにもそんな反応をしていたよね! っていうか、あんたは色男が好きすぎだろ!」

 声を荒げまくるマリリン。まさかのリリィが無類の男好きだったとは思わなかった。なお、それは恋愛とかではなく趣味嗜好の域であった。

 ハアハアと息を荒げるリリィにマリリンが説教しているシーンにラムセスも腹の底から高笑いする。

「なんとも余を笑わせる小娘共よ。貴様らを見ているとかつてルフスに仕えていた女剣士を思い出す」

「女剣士? ルフスとは何者?」

「ルフスか……どんな色男かなぁ~」

「お前の頭はそんなことしか考えていないのか!」

 バチコンとマリリンはリリィの頭を叩いた。

「いったーい! もうマリリンもそう叩かないでよ。頭が割れちゃう!」

「割れちまえ、そんな頭!」

「ひどーい!」

 痴話喧嘩をしている二人。だけど、ラムセスはマリリンの質問に答える。

「ルフス・X・ロート……初代ムーマ公爵家の当主だった男だ」

「ムーマ公爵家……」

(つまり、ユーヤの先祖……この人……千年以上前の人間なんだ……)

「まさか、千年前の王様が現代まで生きているなんてね」

「フッ。余は生きているのではない。すでに死んでいる。余は魂。精神生命体となって現代に生きているだけにすぎない。あの男はすでに()()()()()()()()()()()()な。あの化け物は……」

 ラムセスはかつての記憶を思い起こし、炎のように燃え上がる超人然とした動きをしていた大英雄の姿を――。

 そして、男に殺され、命を落としていく様を思い出す。

「なんとも忘れがたき記憶よ」

「え?」

「なんでもない。ライヒ……貴様らはライヒの人間か?」

「そうだと言ったら?」

「面白い」

 ラムセスに向かって啖呵を切るマリリン。普通ならリリィが止めるべきなのだが禁断症状まがいの惚けていて制する気すらない。

「余を前にして啖呵を切る度胸と胆力を認めよう。而して、余自ら戦う相手にならず。貴様らは余の下僕共がふさわしかろう!」

 ラムセスの声が高らかに響き渡った瞬間、辺り一面が砂漠となり、ズシンズシンとけたたましい足音とともに魔獣が姿を現す。

「こいつは……」

「え、えぇ~っとマリリン。これってたしか……伝説の――」

「スフィンクス。余が飼っていた獣よ。あの男の部下に斬られたときは嘆いたものよ」

「スフィンクス……神話に実在したとされる伝説の魔獣……まさか、実在していたというの……」

()()()()()()()()()()()()()()……そうか。我らの時代はもはや神話に等しき歴史か……」

「ん?」

(神話に等しき歴史……?)

 マリリンはラムセスが口にした言葉に訝しむ。

「よかろう。この大広場にて。余が貴様らに与える試練は一つ。我が獣――スフィンクスから逃げおおせてみよ」

「なっ――」

「どういう意味?」

 詳細を聞こうとするマリリンだが、ラムセスは鼻で笑う。

「答えるまでもない。貴様らがいる場所はギガース山脈内部。あの竜人――ドラグル・ナヴァールを奉る遺跡となれば、余が貴様らに試練を与えなくてならん」

「なぜ、試練を与える? あなたに利がない」

 当然の言い返しをする彼女にラムセスもわかりきっていた。

「余とて分かっておる。故に太陽として王としてすべての決定をなさなければならない。だが、余はすでに死人。故に貴様らを強くさせるほかないのだ。ルフスの部下と()()()()()()()()ならぬ」

「話になっていない」

 マリリンは筋が通っているとは思えないからだ。リリィには何がなんだか理解できていない。

「黙れ! 貴様らが理解することではない! いずれ、余も()()()()()()()()()()()()()()()()()。その時、貴様らは大きな荒波を乗り越えられるかな?」

「大きな荒波……?」

「体験しなかった戦乱……?」

 ラムセスが言う戦乱とは何か。大きな荒波とは何か。今の二人では到底理解できないことだろう。だが、いずれくる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。

「今の貴様らは荒れ狂う大波を乗り切る術を余が教えてやろう」

「教えてやると言いつつ、獣を使うとか些かおかしいと思う」

「黙れ! 余の強さと貴様らの強さなど天と地ほど隔たっているのだ。しかし、そこまで文句を言える胆力があるのなら……こいつもつけてやろう」

 ラムセスが追加に獣を呼んだのは蛇なる魔獣。

 人と蛇が融合した魔獣――ラミアが召喚された。

「ちょっ――!?」

「逃げろー!!」

 名状しがたい化け物を見た瞬間、逃げ出したマリリンとリリィ。否、嫌悪感を抱かせる化け物。

 スフィンクスを見たときは驚愕が支配されていたけど、今は支配されているのは恐怖。

 恐怖に支配された瞬間、声にならない悲鳴を上げて砂漠を駆けるのだった。

 その二人はスフィンクスとラミアが追いかけ始めるのだった。


 そして、現在、マリリンとリリィはスフィンクスとラミアの群れから必死に逃げおおせている。

 しかも、砂漠の上を裸足で走っている。なぜ、裸足なのか。理由はラムセスが靴で走って逃げたところで意味がない。足かせばかりを押し付ける。

『裸足で逃げおおせることができたら、そのときこそ、貴様らは壁を乗り越えることができることだろう』

 と言われる始末。マリリンは怒りを吐きたい気分だったが、我慢して必死に逃げることばかりを考えるのだった。

「覚えていろ、あの色男」

「もし、死んじゃったら抱いてくれるかな?」

「何、変態じみた思考をしているのよ! あんたは!」

 彼女の怒りは敵味方に撒き散らすのだった。




 場面を戻し、ユーヤとアヤはルフスとアルフィーリングの過酷で地獄の修行を死にたいと思えるぐらいに――。泣きたいぐらいに――。そもそも、涙すらも流す暇なんて与えてくれない。

「ほらほら、呼吸を乱さない」

「いや、鬼か!」

「鬼? 鬼族(デモンズ)に言って」

「この悪魔!」

「原初に言って」

「この暴君!」

「ヘルトに言って」

 嫌味を言えば嫌味で返される。ユーヤとアヤは今、燃え盛る大地の上を走っている。否、逃げている。

 ルフスが剣を、アルフィーリングが扇子を片手に笑顔を浮かべながら二人を追いかけている。

「動きにキレがありません。呼吸を維持しなさい」

「だから、呼吸を整えるって何よ!」

 ユーヤとアヤからしたら呼吸を整える意味がぜんぜんわからない。

「コラ! 集中し続けろ、“静の闘気”の維持も忘れるな!」

「こんなに、必死だと……集中、でき、ない!」

 ハアハアと息を切らすユーヤ。アヤも息を切らして足を止めてしまう。足を止めてしまえば二人に追いついてしまう。化物二人に――。ルフスとアルフィーリングに――。

「はい。また殺された」

「まだ常人の域ね。それじゃあ()()()()()()()()わよ」

 と言ったあと、二人はユーヤとアヤの首を跳ね飛ばした。

 首を跳ね飛ばされれば人は死ぬ。それはこの世界において絶対解だ。

 しかし、それは()()()()()()()()()()()()()()()。そして、魂の世界において肉体の死なんて存在しない。

 故に――

「はっ――!」

「ッ――!」

 目を覚まし、ガバッと起き上がる。

「起きたか」

「死ぬ気で呼吸を整えさせる修行……ほんとにいいの? これじゃあ二人の魂が疲れ果てちゃうよ?」

「構わん。そもそも、二人が起きてそうそうに聞くことじゃない。それに身体になじませないといけない。越えるべき相手がいるのなら尚更な」

 ユーヤとアヤは起き上がってすぐにルフスの顔を見た瞬間、顔色を変えて「いや~!」と叫びながら逃げ出すのだった。

 二人から見て自分は鬼に思えて仕方ないのだろうか、と思えるルフス。しかし、心を鬼にして二人を追いかけ始める。

「まったく」

 頭を振るアルフィーリングも二人の後を追う。


 ユーヤとアヤはルフスとアルフィーリングから逃げることだけに集中している。集中している中、二人は呼吸を整えることに専念する。意識を張り巡らせている。

 ルフスが行うとする呼吸術……またの名は“■■剣術”は使用者の呼吸に大きく関わっている。

 呼吸術を体得した場合、“魔族化”になりにくくなる。人族(ヒューマン)は心を闇に堕落すると魔人族(ダークマン)に成り下がってしまうのだが、呼吸術を体得した場合、魔族(ゾロスタ)にならないとされている。

 むろん、あくまで通説。噂に等しい。しかし、南方では魔族(ゾロスタ)が生まれることがなかった。

 ムーマ公爵家が何代にも渡って継承されてきた呼吸術の恩恵とも言えた。

 而して、技術とは数世代に渡って継承されるとは限らない。伝承は薄れ、伝えられる部分しか継承されていなかった。現にローレルから継承されたのは舞のみ。呼吸までは継承されていなかった。

 それ故にユーヤとアヤが呼吸を整える術を体得するのに時間がかかりすぎていた。


 息を切らしつつ走る中、ユーヤは少しずつ身体が呼吸による負荷に馴染み始めていた。

(なるほど。空気を大量に吸うのもそうだが、心肺機能が極限までに圧迫させて空気を全身に流し込む。そうすることで身体能力を大幅に向上させられる)

「アヤ……ゆっくりと、呼吸を……整えろ……」

「え? 今、なんて?」

「だから、ゆっくり呼吸を整えろ。息を目一杯吸ってゆっくりと吐くんだ。そうすれば身体が、ちょっとずつ動きが良くなる」

「いや、そんなふうに言われても……いやー!」

 いつの間にか、ルフスとアルフィーリングがユーヤとアヤに追いついていた。アヤはまた殺される恐怖に呼吸が粗くなる。

「アヤ。落ち着いて。そんなに怖がることじゃない!」

「で、でも……ヒィ――!?」

「ったく、もう!」

 ユーヤはアヤがこれまで以上に取り乱しているのですぐさま抱きかかえてルフスとアルフィーリングから距離を取る。

「おっ?」

「あら?」

「ハア……ハア……」

 地を蹴って二人から距離を取っていくユーヤ。アヤをお姫様抱っこしたまま距離を取っていくその姿に王子とお姫様の構図なのだが、ルフスの目には別の意味で捉えていた。

「おや、少しずつだけど呼吸器官が強くなっているな」

(大量の空気を吸うことによって圧迫される心肺機能による負荷が身体に馴染み始めてきた。身体能力が飛躍的に上がってきている。そうすれば肉体構造も理解し始める。いいかい? 集中とは、大英雄とは……技術や加護、異能だけにあらず。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()……キミは今、英傑の道に足を踏み入れただけにすぎず……道の何たるかを知らない子供にすぎない。でも突き進むがいい。キミの進む先に奴がいる!)

 ルフスは道を極めることが何たるかをユーヤに時間をかけて教えていく。

「さて、こっちも本気で行きますか」

「何やら嬉しそうね、ルフス」

「……そうか?」

 タッと地を蹴って二人を追いかけるルフス。アルフィーリングもルフスの後ろをついていく。


 ルフスから逃げているユーヤとアヤの二人。彼は彼女に宥める声を投げる。

「アヤ。落ち着け!」

「で、でも、ユーヤ。あの人が本気で――」

「ティアなら……あんなのが相手でも逃げることはしなかったぞ」

「――! 私とティアを一緒にしないで!」

「ハルナもシノも知らない間に逃げるとか考えなかったぞ。自分らの居場所を守るためなら命を投げ出した! アヤ。ユリスもいずれ、命を投げ出して自分らの居場所を守ろうとする。俺たちはいつまでも子供じゃいられない! 守ろう! 南方を、仲間を、俺たちの居場所を!」

「――!」

 ユーヤにそこまで言われてはアヤも何も言い返せない。普通、子どもの二人に何ができるのが世の中。しかし、時として覚悟を決めて戦わなければいけない。それが明日か明後日かはたまた数年後の未来か定かではない。でも、いずれくる大きな戦乱の渦が近づいているのは直感していた。

「だから、ひとまず落ち着いてくれ。俺が抱えているから呼吸を整えてくれ。ほら、息を目一杯吸って、ゆっくり吐くんだ。そうすれば気持ちも幾ばくか落ち着くから」

「う、うん」

 アヤはユーヤに言われたとおりに深い呼吸。深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 彼女が気持ちを落ち着かせる中、ユーヤは気持ちが安定し、集中力が増したからか“静の闘気”の精度が少しずつ向上している。向上しているからこそ――

「ッ――!」

 背筋に悪寒が走る敵の気配を感じ取れてしまった。

(まずい。足の筋肉に空気を循環させて一気に加速する!)

 足の強靭なバネを最大限に活かすために集中を高める呼吸をして目いっぱいに地を蹴った。

「ちょっ――!?」

 アヤが何かを言いかけようとしたけどユーヤが距離を取ろうと必死だったため、声なんて届かずに走ってしまった。走ってしまったためアヤは舌を噛んでしまった。

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