西方×再会×挨拶
竜種。
それは世界が創生したとされる存在。
世界最強の生命体であり自然災害もしくは自然現象の塊。
故に死ぬこともない生命体。
でも竜種との間に生まれた子供がいる。その名は“ドラグル・ナヴァール”。
竜皇女。竜人族の始祖。そして魔物を生み出してしまった元凶。
竜種とは一つの行動次第で異種族に大きな影響をもたらす。
竜人族の始祖を生み出す。
竜人族の魔族化が鬼族となる。
獣族の因子をバラまき魔物を生み出す。
良くも悪くも竜種の行動次第で世界に大きな影響をもたらす。
それが竜種だ。
そして、竜種の一角。“破壊竜アルビオン”ことキララは主のユウトと共に西へ向かっていた。目的地は“ドラグル島”。里帰りとかではなくラニカ公爵家の公子が一度お目にかかりたいとのことで召喚される事となった。
シノア部隊も馬車に乗ってのらりくらりと西方の都市“緑銀城”へと向かう。
「しかし、険しい渓谷だな。山道も凸凹しているからおちおち眠れねぇぜ」
シーホが嘆きを吐く。
「そんなに嫌なら帰ればいい。山道には慣れているだろ? 東が山道を歩いたからな」
メリナが文句を言う奴を追い返そうとする。シーホも食ってかかろうとするもすぅーすぅーと規則正しく寝息を立てているユウトを見て毒気が抜ける。
「ったく、どうして寝れるんだ?」
「不思議でしょうがない」
「ユウトくん、ってたまに変人っぽいことをするよね」
シーホ、メリナ、ヨーイチと隊のみんな誰もがユウトの異常性を気にする。
「アハハハッ。みなさん文句を言わずに我慢しましょう。風が吹いている分だけいいじゃないですか」
「シノア。そこは笑うところじゃない」
部隊長のシノアがなだめるも言葉の意味が少しおかしいとノイが嗜める。
「――にしても、ラニカ公爵家の公子自らが招待とはどういう風の吹き回し?」
「知らん。だが一つだけ言えるのは風の流れが穏やかだ」
「…………じゃあやはり」
ノイは少なからず予想がついていた。
「うん。ヴァンが……“風帝ヴァン”が完全に覚醒した。そして西方全域はすでにラニカ公爵公子の手中に収まった」
「やはりそうか。私たちがこちらへ向かっているのもヴァンには筒抜けか」
馬車の中まで吹き抜ける風はまるで主へ伝えるかのように駆け抜ける。
“緑銀城”の一角。風紀委員会こと“蒼天なる馬”のトップ、ユージ・R・ラニカの一室。
その一室にいるのは委員長のユージと補佐のユリス。契約精霊こと相棒のヴァン。
そして五人の少女騎士である。
長い茶髪を結わえる少女騎士――“清流の騎士”シャルル。
白髪ポニーテールで赤目の少女騎士――“孤高の騎士”ホウ。
黄色い長髪の少女騎士――“雷鳴の騎士”ナルカ。
桃色ツインテールの少女騎士――“聖煌の騎士”リン。
濡烏色で右目に眼帯をする少女騎士――“混沌の騎士”ララ。
彼女たちこそユージが認める蒼天なる馬の最高幹部“五騎士星”である。
潜在能力もさながら実力も未知数の騎士。
出身は貴族だが親でも手に負えない“問題児”ということでユージの下へ流れ着いたのが経緯。しかしユージの実力と器量は認めており、ユリスにも気の聞ける間柄。
「風が僕に教えてくれる。皇族親衛隊で噂に名高いシノア部隊が“緑銀城”へ向かってきている。丁重にお出迎えしたい」
「つまり私たちの頼みとは彼らを丁重にお出迎えですね」
シャルルが代表として尋ねる。ユージは、彼女の疑問に首肯する。
「お待ちくださいませ。皇族親衛隊が西の統治にちょっかいかけてくる場合もあります」
「ナルカの言う通り、親衛隊は足元を見ている節がある。ユージがお目にかかりたい、と言っても何をするかわからない以上、警戒は必要」
ナルカとララは、危険だとユージに進言する。シャルルも二人の言い分を分かったうえで聞いている。ユージも承知の上で答える。
「僕も親衛隊をあまり信用していない。先日、ズィルバーから一報をもらってね。親衛隊本部内で派閥争いをしていて形骸化がウィッカー皇帝陛下の耳に入り再編を余儀なくされた」
「噂では南方へ左遷されたとか?」
「いやすでに死亡していることが判明している。国内で今までの問題が浮き彫りになり始めている状況を利用して西方を再編する」
ユージが西の在り方をもう一度立て直すべきだとみんなに提案する。
「ユージの決定に異議はありません」
トップの考えに異論はない。異論はないが皇族親衛隊を信用しているわけではない。
「僕も親衛隊を信用していない。でも民を守りたい想いは同じ。丁重に迎え入れる」
ユージが決定した以上、五騎士星も渋々納得する。
「しかし厄介」
「どうした、ヴァン? なにか気になることでも?」
ユージの隣でみんなの話を聞いているヴァンが気になることがある。
「こちらへ向かっている者は何? ただの人族じゃないのが二人。天使族が一人。ただの人族と芳しくないのが三人。計六人だけど……」
「だけど? ヴァン様。それはいったい――」
「あっ、ごめん。気づかれた。あの鬼め」
ヴァンが盛大に舌を打った。一度咳払いをした後言い切る。
「とにかく今回の召喚もそうだけどいつでも動ける準備をしておいて」
「出陣ですか?」
シャルルがヴァンの言葉に反応する。
「ここ最近、西方に吸血鬼族が侵入した。相手は第三始祖。そこらの人間では相手にならない。だから精鋭で向かわせる」
「では五騎士星から一名を連れていきます。全員で行くのは危険です。悪魔団の動きが見えない以上、“緑銀城”を手薄にするわけにはいけません」
シャルルの進言にララたちも同じであった。ユージも同じであり、誰を連れて行こうか困っていた。
「いやそれは問題ない。中央から十数人。中央から帰省している生徒。しかし強者の気配がする。これは“動の闘気”を解放している」
「――!」
ヴァンがこぼした言葉にシャルルが強く反応する。
「どこへ向かっているかわかる?」
「『剣峰山』ね」
「なら“剣蓮流”の剣士……中央って言えば……はっ」
「“白銀の黄昏”の“四剣将”か」
ユージとユリスは一時期、中央にいたためか黄昏のメンバーを多少知っている。
特に――
「四剣将で剣蓮流ならジノとニナだね」
「部下を連れて里帰りか」
ジノとニナの名前を聞き、シャルルの顔つきが少し変わった。
「では早急に彼らを連れてまいります」
「シャルル。彼らとは知り合い?」
リンがジノとニナを知っているのか、シャルルに尋ねた。
「知っているわ。昔、“剣蓮流”の剣を習っていたから」
シャルルはそう告げて退室した。彼女が思い詰めた顔をしていた。浅からぬ関係なのだとユージは察した。
「シャルルに何かしらの事情があったのかな? じゃあシャルルが『剣峰山』へ向かわせよう。残りは親衛隊が来るまで城内で待機していてくれ」
「待機時間は自由にして構いません。修練に時間をあてても構いません」
ユージが待機命令を言い放てばユリスが補足説明して幹部らに納得させる。
「承知しました」
ララが代表で告げて頭を下げて退室した。
部屋に残ったユージとユリス、ヴァンの三人。
「ズィルバーは組織改革を念頭に置いていると聞いていたけど、幹部を動かした意図はいったい……」
「ヴァン様。レイン様から聞いていないのか?」
「レインの話によるとズィルバーは組織改革に尽力する話。学園講師陣の圧力がかからない組織体制を構築する予定とのこと」
「だとすればズィルバーは幹部を使ってまで邪魔者を排除する算段を立てた? 白銀の黄昏には暗殺者もいる。彼らを使って始末すれば……」
「バカかユージ。そんなことをすれば内部統制が取れなくなり外部が付け入りやすくなる。一枚岩に統制するにも余分な部分を排除するのは大事なことだ」
子供ながらにユリスはズィルバーの考えを読み取る。ヴァンもユリスの成長に感心する。
「各地方はしばらく内側に目を向ける。西方も内側に目を向けよう」
ヴァンからの提案にユージは熟考する。
「たしかに内側へ目をやり僕への牽制をする連中を少しずつ駆逐して信頼を勝ち得るのが正しい選択かな」
ユージも今しばらくは内側に目を向けることを選択する。しかし今は目の前の問題を優先すべきだ。
「ヴァン。親衛隊は?」
「馬車は『剣峰山』付近に到着――いやちょっと待て。偶然にも中央から来た者と鉢合わせしてただならぬ空気になっている」
「――!」
このとき、ユージは風精霊の加護を用いて“静の闘気”で西方全域を感知する。
(たしかにヴァンの言う通り、ただならぬ空気だ)
「シャルル。聞こえる?」
彼は早々に風魔法でシャルルに声を飛ばす。
『聞こえております、ユージ。何かありましたか?』
「『剣峰山』付近で皇族親衛隊と“白銀の黄昏”が接触。僕の西方で無用な血を流したくない。急ぎ止めに向かってくれ!」
『今からでは難しい! 風で妨害して時間を――!』
「分かった」
シャルルの要望を聞き、彼はテーブルに指一つ音を立てると風が揺らいだ。
「どこにいようと僕の西方を荒らす輩は何人たりとも許さない!」
地方の次期統治者として覚悟が少しずつだが定まりつつあるユージ。主の成長をヴァンは嬉しく思う。
(覚悟を決めた男の顔は精悍。アルブムにそっくり)
フフッと思わず笑みが綻んだ。
西方『剣峰山』の麓にて。
二つの団体が接触・交錯した。
一つは皇族親衛隊。もう一つは白銀の黄昏。
馬車に乗っているのはシノア部隊。徒歩で来ているのはジノとニナら。つまり顔見知りである。
「なんでシノア部隊が西方へ?」
「それはこっちのセリフだ。黄昏がなんで西に?」
「俺らは里帰り。そっちこそ何しに来た?」
「僕らは西方大貴族ラニカ公爵家に召喚されている」
「はっ? ラニカ公爵家が――」
「召喚された?」
ジノとニナはありえない顔で見合わせる。到底信じがたい顔をしている。
「ありえねぇな。ラニカ公爵家が直々に親衛隊を召喚するなんざ聞いたことがねぇ」
「何かしらの理由があるのでしょ。西方では親衛隊の信頼度は最弱で有名だから」
ジノとニナはラニカ公爵家の真意がわからずにいる。それと――
「それと私たちは山を登るけど、あなたたちはさっさと“緑銀城”へ行けば。この山を迂回すれば着くから」
ニナが行先を指し示す。指し示すもシーホが聞き返す。
「は? 山登りできねぇのか?」
「無理よ。『剣峰山』は馬車で登りきれない。馬車で登れるのは麓の里まで。山を登りきるのは無理。だから迂回しなさい」
ニナがわかりやすーく教えてあげた。
「ほら、お迎えがきたぞ」
ジノが迂回する道から一騎の影が消える。馬に乗っているのは一人の少女。遠目からでも騎士の出で立ちを感じさせる格好をしている。茶髪を結わえる少女。
ニナは顔を見るまでもなく山を登り始める。
「ジノ。行くわよ」
「会わなくていいのか?」
ジノが指を指して聞いてくるもニナは会う気になれなかった。
「いい。一度は道場を出た剣士に会う気もない」
一方的に切り捨ててニナは山道を歩き始める。ジノはやれやれと頭を振る。
「じゃあ行くぞ」
「はい、ジノ様」
追随しているのはシュウやハクリュウなどの豪蓮たちであった。
「ですが、ジノ様。よろしいのですか? こちらへ来られる騎士と会わなくて」
「いい。ニナに逆らわないほうがいい。僕らはあの騎士と少し諍いがあったから」
ジノはそう答えて山道を登り始める。しかし、そうは問屋が卸さない。
「これはこれは中央では有名な“白銀の黄昏”ではありませんか。しかも“四剣将”自ら西方へ来られるとはどのようなご要件ですか? まさか、私たちと戦いに来たのですか。それなら断固として中央へ抗議しないといけませんね」
親衛隊が乗る馬車へやってきた一騎。馬から降りて麓の里へ通じる山道を登っているジノとニナへ声を投げる。
しかもあからさまな挑発にハクリュウらは顔をしかめる。
「挑発だ。いちいち聞くな」
「あら私を無視するなんてずいぶんと偉くなりましたね、ジノ。ああ、そうですか。四剣将まで上り詰めて偉くなったから優越感に浸っているわけですか。それはそれはひどい男になりましたね」
少女騎士はあの手この手で黄昏を挑発する。ジノはハァとため息をつく
「お前らは先に行け」
「はい」
ハクリュウらを先に行かせてジノだけ残った。
「なんだシャルル。俺らに喧嘩を売ってんなら相手になるが?」
背負っている剣を抜くジノ。刀身から禍々しさを感じさせる。シャルルと名乗る少女騎士はジノへ揶揄する。
「ずいぶんと物騒な剣を持ちますね。あーやだやだ。そんな気味悪い剣を持っちゃうとか剣士の恥じゃ――!」
「おいシャルル。ずいぶんと挑発してくるが俺とやるってんなら相手になってやるぜ」
ジノは剣を抜いて早々に“動の闘気”を解放し最初から全力で斬りかかる気でいる。
「“動の闘気”……」
(これが解放、ですか。たしかに荒々しいまでの存在感。部下を連れてきていたら確実に失神しますね。馬も暴れて落ち着きがない)
「はい。ドゥドゥ落ち着いて」
少女騎士は馬を落ち着かせる。彼女は腰に帯剣する剣を抜きたいところだが下手に抜けばジノに首を飛ばされる空気を肌で感じとる。
「ずいぶんと雰囲気が変わったじゃない。昔はニナの腰巾着だったくせに」
「そっちこそ道場を出ていった腰抜けのくせによく言う」
「ええ、腰抜けよ私は。でも今はユージの下で騎士となった。もしユージに仇なす者ならこの私が斬って捨てる」
剣を抜くシャルルにジノは“静の闘気”で彼女の覚悟を感じ取る。
(そうか。道場を出たあと、屈辱を胸に血反吐を吐く努力をして今の立場になったか)
彼女の覚悟を知り、ジノは一考する。
(このまま斬りかかってもいいが今回の目的はあくまで底上げ。戦いに来たわけじゃない)
一考した後剣を収めるジノ。シャルルは逃げる気なのかと問う。
「生憎だが、俺らも目的は別にある。お前らと敵対する義理はない。さっさと“緑銀城”へ帰れ。お前の主は気が気でないみたいだしな」
「え?」
ジノは微かに吹く風に意志が宿っていると気づく。
「さっさと親衛隊を連れていけ。それとズィルバーとエリザベス殿下から手紙を預かっている。ラニカ公爵家公子のユージ殿に渡してほしいとのこと。ああそれとティアからユリス殿下に手紙がある。渡しといてくれ」
ジノはカバンから三通の便箋を取り出しシャルルに手渡した。
「言っておくが捨てるなよ。内容は把握していないが“決闘リーグ”に関する内容が書かれている。大事にしろよ」
ジノは最後にそれだけを言って山道を登り始めた。
三通の便箋を受け取った少女騎士シャルルは苛立ちを募らせるも喚き散らすことなくため息を吐いた。
(ユージ。話は聞いていると思うけど手紙どうする?)
思念を飛ばせば
『僕の下へ持ってきてくれ』
短く返答された。シャルルはユージの命令に従い便箋を馬の背につけたカバンにしまった。
「それじゃあ親衛隊の皆さん。“緑銀城”へご案内します」
シャルルは馬にまたがり手綱を握る。
「言っておくけど好き勝手するなら親衛隊だろうと容赦しないから」
シノアらを睨むシャルル。その目は明らかに軽んじるものだった。
シノアは少し怪訝するも西方における親衛隊の立場をグレン大佐から聞いていた。
『西じゃあ親衛隊の立場なんざねぇと思え』
『なぜですか?』
『昔、親衛隊が好き勝手しまくったせいで民衆が親衛隊を信じきっていねぇ。西方貴族も親衛隊をよく思っていねぇ』
『そういえば“ドラグル島”へ赴く際も漁師さんは好意的じゃあありませんでした』
シノアは“ドラグル島”へ調査に赴いたとき親衛隊を嫌う視線が向けられていたのを覚えている。
『っつうわけで西に行く場合はバカな行動をするなよ。信頼を勝ち得てぇならそれ相応の行動を示せ』
というグレンの助言を思い出すシノア。
西方において親衛隊を信頼する気がないという認識が根深い。上官たちが好き勝手にしたのもあるが民衆の怒りが部下に向けられたこともあり激しいイザコザがあった。
そのイザコザがあったことで西方貴族は皇族親衛隊を信用していない。
故に――
「あぁ? どういう意味だ? 俺らが好き勝手しちゃいけねぇのか?」
シーホが食ってかかろうとするもシノアがその手を掴んで嗜める。
「落ち着きなさい、シーホさん」
「だがよ……」
「今回は私の指示に従いなさい。いいですね?」
「だから……」
「やめろ、シーホ。西方では基本、貴族間の絆が深い。地産地消で生計を立てている人達が多い。自ずとみんなで手を取り合って物事を解決していく。しかも最近になって西方貴族が息を吹き返したと聞く」
メリナがシノアをフォローする。
「姉さんが言うには私たちを召喚したユージ殿は西方全域を知ることができる。私たちが問題を起こせば自ずと排除に動かれるのがオチだ。だからしばらくおとなしくしろ」
ミバルにまで言われてシーホはチッと舌を打った。
ユウトはいまだにスヤスヤと寝息を立てていた。シャルルは馬車の中に眠る少年を見る。
「一つ聞く。馬車の中で寝ている親衛隊隊員は親衛隊の期待の星……ユウトという隊員ですか?」
「え? ああ、ユウトくん。ユウトくんは今眠っているけど話をしたいのなら……」
「いえ、けっこうです」
(彼が、ヴァン様がおっしゃっていた隊員。そして、女性隊員がシノア部隊の隊長シノア。うん。ヴァン様が言っていたとおり、人間にして人族じゃない。いえ人の枠を超えた力を秘めている)
シャルルも二人がただの人間じゃないと気づく。“静の闘気”を使用してのことだ。
(それに二人のそばにいる男女。人の気配じゃない。精霊? いえ精霊にしては歪というか特殊。もしくは天使族? でもヴァン様は天使族が女性隊員だって言っていた。そもそも皇族親衛隊に天使族がいるのはおかしい。天使族は皇家直属機関――“聖霊機関”のはずよ。まさか、当機関が親衛隊の内情を探っている?)
シャルルはメリナが異種族だと知っている。天使族が“聖霊機関”の一員だと知っているのは一部の者しか知らない。シャルルが知っているのはユージの父・アペルトから教えてもらった。ユージも父・アペルトから教えてもらった。聞いているからこそメリナが親衛隊の一員になっているのか気になってしかたがなかった。
しかし気にしていては話が進まないのでシャルルは親衛隊を連れて“緑銀城”へと連れて行く。
西方の居城“緑銀城”こそユージ率いる“蒼天なる馬”の総本山である。
西の居城“緑銀城”へ到着した一行。シャルルの案内でユージがいる応接室へ案内された。
応接室へ入ればソファーの中央に座っていたのは今回の召喚者――ユージ・R・ラニカその人がいた。隣に婚約者のユリス。反対側に座っているのは彼の契約精霊にして“五神帝”の一角“風帝ヴァン”が座っていた。
「ようこそ緑銀城へ。長旅お疲れ様。部屋へ案内したいけどあいにく親衛隊を迎え入れる部屋を手配できなくてね。今、用意してもらっているから。椅子に座って待っていてほしい」
ユージが丁重に案内をする。丁寧に案内をするユージだが、彼の態度が不服に思ったのかシーホが食ってかかる。
「ふざけんじゃねぇ! こっちは何日もかけてお前の召喚に応じたんだぞ。部屋ぐらい早い段階で用意しときゃいいだけの話だろ!」
ユージに詰め寄りかけるも喉元に刃を添えられる。
「言ったはずよ。好き勝手するなら親衛隊だろうと容赦しないって……」
剣を手にシャルルがシーホへ言い放つ。彼も剣幕を立てかけるも「ファァァー」とユウトがあくびを一つ立ててから謝罪する。
「悪ぃ。こっちも最近気が立っていてな。つい剣幕を立てちまった。俺が謝るから許してくれ」
頭を下げるユウトに対し、ユージは意外な反応に驚いた。
「驚いた。期待の星が貴族に謝るなんて……」
「俺だって西方の出身だ。親衛隊を信じていなかった時期もあったからな」
ユウトは親衛隊に入隊する前の頃を口にする。平気で見下してきた親衛隊隊員を根深く思っていたこともあった。
「いい子に育っていますね、鬼騎士団長さん」
「ヴァン。キミも私をそんなふうに言うのか?」
礼儀正しいユウトにヴァンが感銘するも言っている言葉が辛辣だった。なのでキララがビキッとこめかみに筋を浮かべるのだった。
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