考察×企み×決断
ライヒ大帝国の中枢へ原初の悪魔が宣戦布告をしたことは世界各地に知れ渡る。
それは“オリュンポス十二神”のみならず、ハムラを含め、吸血鬼族も気づいたことだった。
「…………」
「ハムラ様。いかがなさいましたか?」
彼女へ紅茶を提供する褐色肌の女性・フィス。ハムラは晴れやかな空を眺める。
「どうやら、神々だけじゃなく、原初の悪魔と七大天使が動き出したのぅ」
「原初?」
ハムラの呟きにフィスは眉をひそめ、オピスとエラフィも顔を見合わせる。三人は天使族を知っていても悪魔が存在していることすら知らない。しかし、ハムラは世界に変化が起きたことを肌で感じとった。
「そうじゃな。フィスらは知らなかったな。世界の成り立ちと異種族の誕生を知らなかったな」
「異種族の……」
「……誕生、ですか?」
「ハムラ様。天使族は存じていますが、悪魔は実在するのですか?」
フィスがオピスとエラフィの疑問を代弁して尋ねた。
「フィス。この世に天使族なんぞおらぬ。あれは妾たちが勝手にそう呼んでいるだけじゃ」
「では、天使族とは一体……」
「天使族とはな……天使が人間の身体に受肉して誕生した種族じゃ。他にも獣族に一括りされておる妖鳥族も魔族に一括りされておる天狗族と堕天使族もそうじゃよ」
「お待ちください、ハムラ様。魔族には“魔族化”という堕落の過程を経て怒れる種族――魔族に進化します。天狗族と堕天使族も魔族です。これらの種族にも“魔族化”の過程を踏まえないと――」
「そうじゃな。語弊を生ませたな。すまぬ、エラフィ。じゃが、お主の言い分は正解じゃ。堕天使族は天使族が“魔族化”した折に堕落したのじゃ。しかし、天狗族は天使が妖犬族と妖狼族の身体に受肉した後と同時に“魔族化”によって堕落したのじゃ。つまり――」
「つまり、アタシら獣族と魔族は天使と悪魔の被害者だって言いてぇのか?」
オピスは不機嫌そうな物言いでハムラに問い詰める。フィスが窘めようとするもハムラは答える。
「そうじゃ。妾たちは天使と悪魔の被害者じゃ。お主らは天使と悪魔を恨んでも何らおかしくないのじゃ」
「なっ――」
「落ち着け、オピス」
「そうですわ。ハムラ様を責めるのはいけませんわ」
エラフィがオピスを揶揄する。オピスは噛みつこうとしたがフィスによって押さえられる。
「じゃが。妾たちでは原初の悪魔には勝てぬ」
「なぜですか?」
「原初の悪魔は世界が開闢したときから生きる精神生命体じゃ。しかも、その実力は妾すらも一撃で倒される怪物じゃ」
「ハムラ様でも勝てない相手……」
フィスらはハムラでも勝てない相手が存在することに驚く。フィスたちからすればハムラは最上位レベルの実力者。その彼女をもってしても敵わない者がいるのを知る。
「しかし、原初と渡り合えるライヒ皇家と五大公爵家は異常じゃな」
「ハムラ様。その言い方ですと、東の蛇・ユンは原初の悪魔に対抗できる言い方ですが……」
エラフィは人間のユンがハムラでも叶わない怪物と戦えること事態がおかしな話だと思っている。
「妾とてそう思いたいが現実、渡り合えるのじゃ」
ハムラは紅茶を口に含ませて事実を告げる。彼女とて歴史の一端を知る者。ユンはベルデの子孫。ならば、ユンも継承されてしまった力があるのをハムラは数多くの文献を紐解き、独自の仮説を打ち立てた。
「これはあくまで妾の仮説じゃがな。初代皇帝リヒト、初代媛巫女レイ、初代五大将軍は人族の枠を超えとったかもしれんのじゃ」
「人族の枠を、ですか?」
「そうじゃ。妾はこの千年、世界中に点在する古代遺跡や古代の文献を紐解いた。石碑や碑文、壁画から読み解けたのは人族は世界最後に誕生した種族なのじゃ」
「人族が世界最後に誕生した種族……」
「それもこの千年の間に誕生した種族での……それ以前の人間は真人間と呼ばれておったらしいのじゃ。獣族の誕生は真人間と深く関わっておるそうじゃ」
「ハムラ様。仮にそうだとしてもそれを確証するだけの情報が……」
「そうじゃ。だから、妾は仮説を立てたのじゃ」
ハムラも今の仮説を証明するだけの確固たる証拠がないのだ。故に確固たる情報を得るためには歴史の深奥が収蔵されていると聞く皇宮クラディウスの図書室ならば、歴史の深奥を知れるとハムラは踏み切る。しかし、それこそが難解であった。
(皇宮クラディウスはライヒ皇家の庭じゃ。東は既にユンの領域じゃ。じゃが、今、ユンは先の戦いで疲弊しておる。ならば、“黄銀城”にも歴史の深奥を知れる書物が一部でもあるはずじゃ)
ハムラは“黄銀城”にも千年以上前の歴史書が実在すると思っている。しかし、唯一、歴史の深奥を知る者がいるのを彼女は忘れていた。
「じゃが、今は静観すべきじゃな。歴史を知るにもライヒ大帝国全体がピリつくことじゃろう。しばらくはどこかに身を潜め、機会が窺うべきじゃ」
「何もできねぇってのか、クソが……」
「オピス。今は我慢の時だ」
フィスがオピスを窘める。彼女も何もできないことを悔いる。エラフィも同じであった。ハムラは一息ついたところで席を立つ。
「幸い、時代の変革期に突入する段階じゃ。力の蓄え時。北と東が動けば、自ずと西と南も動く。舞台に役者が揃うまでの辛抱じゃ。機を窺うとしようぞ」
「「「はい」」」
ハムラの案に三人は賛同するのだった。
時を同じくして、吸血鬼族の総本山・“血の師団”の本拠地でも原初の悪魔と七大天使が動き出したのを肌で感じとった。
「原初と始原の奴らが動いたか」
「先月、神々も動き出した。これで因縁を断ち切れるものです。ウルド様」
頭を下げるレスカー。ウルドも月光が支配する常夜の街を眺めている。“血の師団”の本拠地は常に闇で国を支配されている。吸血鬼族は日光に弱い異種族。死者の魂を固定化させて肉体を稼働し続けている異種族。いわば、世界から嫌われ、呪われた異種族。代償として日光を浴びると死に絶えることとなる。しかし、ウルドやレスカーなどの上位となれば、日光をも克服することができる。それを超克者と呼ばれる。
超克者の一人、ウルドは世界の変化を色で感じ取った。
「“オリュンポス十二神”が動き、原初の悪魔、七大天使が動き出した。残るは竜種だが、奴らがどこに姿を消したのか我々も判明していない。しかし、奴らがどういった形で復活する……」
ウルドは役者が揃いきっていないと言い切る。言い切ったうえでレスカーに確認する。
「レスカー。シカドゥ様に報告は?」
「既に王は奴らの気配を感づいております。アシュラ、クルル、スカトラも気づいております」
「第三始祖ならば気づくか。スターグは?」
「スターグ様ももちろん、気づいておりました。そして、王からの伝令があります」
「話せ」
「西と南を繋がせ、皇家を攻めろとのことです」
レスカーからのシカドゥの考えを聞き、ウルドは瞬時に理解する。
「西と南……リンネンとエドワードを動かせという意味か」
ウルドが口にした二人の名前は西方と南方を裏で支配する者たち。かつて、“教団”の残党が未だにライヒ大帝国に居残り続けている。
「シカドゥ様は邪魔者の排除をお望みというわけですか」
「正確には言われておりませんが、おそらく、そのとおりだと思います。して、誰が向かいましょうか?」
レスカーは誰かを使者として向かわせるべきか尋ねる。ウルドも少し熟考し、結論を出す。
「今すぐの話ではないのなら、何度かに分けて使者を送り、協力を申し立てるように進言しろ」
「はっ!」
「スターグに伝えろ。西と南の巨悪を組ませるように促せ、と」
「かしこまりました。すぐさま、お伝えを――」
「いやいい。私から伝えよう。スターグ。話を聞いていたのだろう」
ウルドがドアの方へ声を飛ばせば、ギィッとドアが開き、一人の吸血鬼族が姿を見せる。
「気づいていたのか、ウルド」
「あからさまに気づかせる素振りを見せるな。それで俺の頼みを聞けるか?」
「ああ、もちろんだとも。西と南の巨悪を唆せばいいのだろう。だが、ただ唆しても無理だろうから。何かしら、恨みと怒りをもたせるべきだと思うよねぇ」
姿を見せた吸血鬼族はウルドと同じ第二始祖・スターグ。スターグの考えにウルドは耳を傾ける。
「ウルド様、スターグ様。自分に考えがあります」
レスカーが具申する。
「話してみよ」
「近い将来、ライヒ大帝国にて次期皇帝を決める大会が“ティーターン学園”が開催されるとのこと。それに乗じて、刺客を送らせるのはいかがでしょうか」
「なるほど。敵の意識を中枢に集め、その間に接触を試みるか。いや――」
「むしろ、その状況を作り出すというのが正解じゃないか? 僕らが誘導して中枢の連中に始末させて、その腹いせに中枢へ攻め込む算段を整える」
「リスクが高そうに見えるが、有効的かもしれん。だが、問題がある」
ウルドはレスカーの案を採用するも問題がある。それはスターグも気づいていた。
「原初の悪魔だね、ウルド」
「ああ、北と東は既に原初の悪魔。原初の空と原初の黄が動いた以上、北と東は動こうにも動けない。それに吸血鬼族にも原初の悪魔との因縁がある」
「原初の紫ですね」
「奴の支配領域が偶然にも一部が重なっている。王も奴には頭を悩ませる。ですが、原初の紫はラニカ公爵家にも因縁があります。ラニカ公爵家を唆すのは――」
「いや、それは危険だ。ラニカ公爵家はアルブムの子孫・ユージ・R・ラニカがいる。奴の力が覚醒でもした暁には奴も西方に釘付けにされる。そうすれば、こちらの計画に支障をきたす」
「既に北と東は釘付けにされた。メランとベルデの子孫が活躍したのを耳にすれば、自ずと西と南も動きを見せる。そうなっちゃうと――」
「原初の紫と原初の藍が動く。それは避けなくてはいけない」
ウルドとスターグはレスカーの案を承認しつつも別の問題を解決しなくてはならなかった。ここでふと、レスカーは原初の悪魔で二柱の存在を気にする。
「ウルド様、スターグ様。原初といえば、原初の黒と原初の白がいます。原初の黒は自由人ですが、原初の白は違います。彼女が静観しているのは些か、変です」
「確かに原初の白にしては活発に動かないのはおかしい」
「そもそも、原初の白は[女神レイ]にご執心だった。彼女がいない今、原初の白が何もしないと言えるよ」
スターグは原初の白が何かしらの理由で静観していると見る。ウルドも同様だが、気になることがある。
「一つだけ言えるとすれば、あの男だな」
「あの男……ヘルトですか?」
「ああ、原初の黒と原初の白はヘルトに殺し合った関係だ。配下を使った痕跡がない以上、あの男も下手に行動が取れない。それに認識した程度だが、あの男が禁術を使用した以上、しばらくは身体の成長を優先するはずだ」
「禁術……時間停止と空間転移ですか。自分も認識した程度ですが動けることができません」
「安心しなよ。それは僕も同じだから。でも、禁術を使ったのなら、むしろ、好機だ。僕らの暗躍もあの男はただただ眺めているだけだろうし」
ニヤリと口元を歪めるスターグ。
「ああ、しばらくは静観しているはずだ。奴が何もできない間に、こちらも策を講じるとしよう。王にもそう伝えてくれ」
「了解しました」
レスカーはウルドとスターグに礼をした後、部屋を出る。部屋に残るウルドとスターグは外を眺める。
「これからどうなると思う」
「しばらくは睨み合いの時期。もしくは蓄える時期だな。しかし、問題がないだけではない」
「伝説に聞く竜種だね。竜種は不滅の存在。どこに姿を隠しているのやら」
「ああ、それもそうだが、問題は竜皇女だ」
「竜皇女? もしかして、ドラグル・ナヴァールのこと? でも、彼女は疾うの昔に……」
「確かに彼女が死んだことは知っている。私と貴様が辛勝したし。最期を見届けたから忘れもしない。だが、覚えていると思うが……」
「ああ、彼女は力を失っていた。僕らが勝てたのも彼女の力がとうに失われていたから勝てたにすぎない」
「そうだ。彼女の力がどこへ消えたのか判明しない今、策を講じるのは危険とも言える」
「でも、ウルド。キミはレスカーに計画を企てるって――」
「ライヒ大帝国に混乱をもたらすぐらいならできる。だが、不確定要素は早めのうちに処理しておきたい。王の計画の妨げになる」
ウルドの弁にスターグは納得する。
「わかった。僕がアシュラとクルルにもう一度、ドラグル島へ調査に向かわせよう。あのときはキララの所在だったけど、今度はドラグルの調査だ。島の何処かに彼女にまつわる遺跡が残っているはず。それを調べれば、なにか判明するだろう」
納得したうえでスターグはウルドが抱える懸念を取り払うことにした。もう一度、“ドラグル島”を調べさせ、懸念を払拭させれば、計画に集中できるものと言い切る。ウルドもスターグに感謝の言葉を送る。
「すまないな。迷惑をかけて」
「いいさ。キミが慎重だからこそ、僕が計画を立てることに集中できる」
「そうだな」
スターグがウルドを褒める。ウルドもスターグの褒め方に口角を釣り上げる。
「さて、僕は計画を立案することにしよう。ウルドはどうする?」
「俺は部下の育成をする。前回の第二帝都への襲撃で欠員が出た。損失分を補填しないといけない」
「ああ、第七始祖や下位始祖の損失は大きいね。そこはウルドに任せるよ」
「ああ、任せろ」
ウルドとスターグはそれぞれの役目を果たしに動くのだった。
場面を変え、北海の海底にある王国――ヴェルリナ王国。
王宮の地下にある秘密の部屋。
その部屋はカズがメランの指導を受けて強くなった場所。そして、メランの魂が保ち続ける特別な聖域でもあった。
その聖域で未だに居続けているメラン。その魂は竜種と融合したことで千年の時を保ち続けていた。しかし、事態が一転する。
「隔たれた空間だというのに、ここまで力が感じられるとは……さすが、原初の空。さて、カズよ。今、キミは歴史と同時に自らの宿命を知ったことだろう。果たすべき約束と役目が必ず来る。その役目を果たすために足掻き続けよ」
フッと不敵な笑みを浮かべるメラン。しかし、自身の手を見ると指先が消え始めていた。魂を保ち続ける内在魔力がほつれ始めてきた。
「どうやら、魂がカズに引っ張られ始めた。まあ、それでいい。原初の空……原初の悪魔を知った今、必要なのは強き力・強き魂だ……ベルデも子孫にすべてを託す気か。では、ヴァン、フラン。俺とベルデは先にヴァルハラへ行く。お前らも役目を果たしてから来るがいい」
メランはほつれていく魂がカズのもとへ向かっていく。ほつれていく魂の欠片はカズと融合していく。まるで、欠損していたピースを嵌っていくかのように――。
消えていく中でメランは現代に転生した友に想いを馳せる。
「全く、キミが羨ましいよ、ヘルト。後はキミに任せよう。千年の時を経てもなお、彼女はキミに恋し続けるとは……運命とはわからないものだ。先にいくよ、ヘルト。ヴァルハラでゆっくり……いや、そうでもないか。彼の中で見届けておくよ」
メランを最期にそう言って身体は粒子となって消えるのだった。
散っていく粒子の中で白髪の美女が微笑む。
「そう、メラン。あなたはよく頑張ったわ。千年間、よく頑張ったわ。後はあなたの子孫に任せなさい。さて、アルフォード。あなたも行く時よ」
美女は散りゆく粒子とともに姿を消すのだった。
耳長族の森の奥にある聖域にいたベルデとヴェルリナ王国の地下にある聖域にいたメランの気配が消失と同時に子孫と魂融合したのを風で感じたズィルバー。
「…………」
(今……風が――)
レインに抱きかかえられたまま、深い睡眠に入ろうとするズィルバー。その中で彼は微かに感じ取れた亡き戦友が消えていく気配を――。
「お疲れ様。今はゆっくり休みなさい」
レインはわずかに動いた指を見てズィルバーが何かを感じ取ったようだが、今は休ませるように睡眠魔法をかけられ、規則正しい寝息を立てるのだった。
皇宮の庭園に降り立ったところで駆けつけてくるかのようにティアとリズ、ヒルデとエルダの四人が走ってくる。その後ろにカルネスが追随する。
「ズィルバー!」
「ズィルバー! 大丈夫?」
「ちょっとズィルバー。寝ていないで返事をして!」
テンパっているティアとヒルデとエルダの三人。カルネスが三人を落ち着かせる。
「ティア様、ヒルデ様、エルダ様もズィルバーは眠っているだけ。落ち着いてください。まだ子供の身体で時間停止と空間転移を連続で使用した反動で疲れただけ。今はレイン様に任せるべきです」
「ええ、ズィルバーは私に任せて。今はゆっくり休ませましょう。彼は彼なりに何かを掴んだみたいだし」
レインが何やら含みのある言い回しにティアは首を傾げるも意味がわからず聞き流した。
「北と東もしばらくは動けない。西と南も何かと不穏な空気が立ち込めそうね」
「……そう」
リズはレインが口に出した言葉を聞き、一人思考する。
(これでは次の“決闘リーグ”に支障をきたしかねないわね)
リズは北と東だけではなく、西と南も動けないとなると学園が開催される“決闘リーグ”に支障をきたす。否、それだけに留まらず、帝国中の民意を集めることができなくなると踏んでいる。
「でも、さすがにそこまで事態が大きくならないわ」
「え?」
レインは事態が大きく急変することはないと言い切る。
「北と東が活躍すれば、自ずと西と南も黙っていないわ」
「あぁ~、確かにユージとユーヤもカズとユンに劣らないぐらい負けず嫌いだったわね」
ティアもユージとユーヤが負けず嫌いなのを思い出す。
「先祖が先祖だけに子孫も子孫よ。今回の一報が耳に入っているとしたら、交流を待たずに自力で強くなる方法を模索するわ。あるいはヴァンとフランが目を覚まして強くさせようと促すはずよ。今、私が西と南に思念を飛ばしてみたから」
レインは西と南に思念を飛ばしたと話す。それは時間をかけている暇なんてないという暗示だった。
「暗示って……そんな事ができるのですか?」
リズは荒唐無稽なことができるとは思えなかった。
「精霊と契約している人間ならできるわ。ただし、上位精霊じゃないとできないから知らないのも当然だけど、精霊同士なら思念を飛ばして会話をすることはよくある話よ」
レインはティアたちにそう説明した。
「とりあえず、しばらくは休みましょう。さすがに疲れたでしょう?」
「そうですね。帰りましょうか」
「お父様にこのことを伝えて、対策を練ろう」
「それは私が伝えるから。ティア。あなたはズィルバーくんと一緒に部屋へ戻りなさい」
リズにそう言われてティアは渋々、頷くのだった。本来なら言い返したかったがズィルバーのことがあるので大人しく引き下がった。
「とりあえず、皇族親衛隊と聖霊機関を集めて緊急対策会議を開きましょう。北の一件から今日に至るまで国庫もそうだけど、何から何まで手が回っていない。北と東は復興に時間が遅れている。税制も考えないと――」
「ガイルズ宰相殿下にも話してもらいましょう。至急、お父様たちへ召喚命令を出すべきよ」
何もできなかったリズたちは自分たちにできることをし始めたのだが、ズィルバーはスヤスヤと寝息を立てながら、夢の世界へ旅立った。
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