英雄はレインの正体を家族に知られる。③
俺が食堂に来たところでルキウスが
「旦那様。ズィルバーお坊ちゃまを連れてきました」
「うむ。ご苦労。ルキウス」
ルキウスをついて入ってきた俺とレイン。
特に俺と一緒にいるレインを見て父さんは
「ルキウス、ズィルバー。その彼女は誰だ?」
聞いてくる。
(だよなぁ~)
と分かりきっていたことを心の中で漏らす。
ここでなら、どうしようと迷うところだが、ルキウスにバレた時点で俺は開き直った。
なので、俺は話すことにした。
「彼女はレイン。父さん。あの台座に刺さっている剣が彼女なんです」
俺は正直に話した。
俺の話を聞いた父さん。既に食堂にいた母さん。ヒルデ姉さんに今日は体調のいいエルダ姉さんもいた。
姉さんたちも俺と一緒にいるレインのことを気にしている。
そして、俺が教えたことに驚いた表情を露わにしている。
それは父さんと母さんも同じだ。
それもそうだな。俺と一緒にいる彼女が剣の姿をしていたレインって言って信じる奴がいるのか?
いや、いないだろう。それが事実だ。
でも、父さんは一度、息を吐いてから
「その話は後で聞こう。とりあえず、席に座りなさい」
言われた。あれ? 気にならないの? というのが俺の心境だった。
そこに母さんが
「確かに、彼女のことは気になります……ですが、今は夕食を食べましょう。給仕。精霊の彼女にもお食事の用意を……」
母さん。どうして、レインに?
俺は首を傾げていると
「夫から聞いていないのね。ライヒ大帝国は神様や精霊を敬う慣習がある。精霊には貢ぎ物。主に食べ物を与えるのがこの国の慣わしよ」
食べ物って…食事とかを与えるのかよ。
それって食費が掛からないか? 忘れていたが…レインって…
(確か…こいつ…結構、食べるはずだぞ)
今になって思い出した。
まあいいか。
どうせ、俺が止めても、レインが駄々を捏ねるだけか。
俺は諦める形で食堂の席に着いた。
俺が席に着いたところで給仕たちがレインのためにお食事を用意した。
あと、レインにはレインの席が用意された。
おい、特等席かよ!?
まあ、それでもレインには無意味だな。
だって、彼奴は
「ズィルバーの隣がいい!!」
と駄々を捏ねるから……。
レインの我が儘に、さすがの父さんたちもビックリだ。
全く、後で俺がレインに注意して方がいいな。
だけど、今はレインの我が儘に付き合うか。
「父さん。レインの隣に行っていいかな。彼女は俺と離れたくないみたいだから」
ここは俺が引き下がることにした。
俺の言い分に父さんは
「分かった。お前たち。ズィルバーの食事をレイン様の隣に置いてほしい」
「かしこまりました」
受け入れてくれたようだ。
でも、渋々、納得したようだな。
全く、レインは……。
いや、レインは俺から離れたくなかったのだろう。ヘルトとしての俺が急に彼女の前から消えたんだ。席の位置が違うだけで離れてしまうと思ったのだろう。
こればっかりは俺のせいかもしれないな。こうなると契約者の俺が過保護に思えてしまうな。
こうして、夕食を食べ始めてから数分後のことだ。
夕食時、父さんたちは周りの給仕、執事たちと話している中、俺は今の俺じゃあ食べきれない食事はレインにあげた。
その理由は……。
「この時代の料理も美味しいわね」
とパクパクと食べるレイン。
これには、父さん、母さん、エルダ姉さん、ヒルデ姉さん。そして、給仕や執事たちも驚いている。
実のところ、レインは大食漢。あの見た目からは、とんでもない量の食事を食す。
レインがここまで食べるのを知ったのはヘルト時代の頃だ。
彼女のせいでリヒトやレイにどんだけ迷惑をかけたことか……。
はあ…思い出すだけで憂鬱だ。
とりあえず、今の俺が食べられる分だけの夕食を食す。残りはレインにあげた。
なのに――、
(俺があげたはずなのにペロリと食す。お前の胃袋はどうなっているんだ!?)
心の中で叫んでしまうほどだった。
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