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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
東方交流~決戦~
226/303

英雄の好敵手。強く在れ。④

今日は成人式の日なんですが、粛々と成人の儀を迎えてください。

北陸で生活している新成人の皆さん、このような形ですが成人になられておめでとうございます。

気持ちだけでも受け取ってくれれば、幸いです。

 純白の雷を纏った聖なる十字架。

 十字架に“洗礼”の力がなくても、弱りに弱まっているアヴジュラには効果は抜群。

 胸に走る十字架を象る傷。

 キララの力が帯びた斬撃を受け、とめどなく血が飛び散る。


「アァ……あ、あ……ガァ…………」


 ドバドバと血が流れ落ち、広がっていく。

 脂汗をにじませ、藻掻き苦しむ。

「アァ……アァアアアアアアアアアアアアーーーーーー!!!!」


 痛みを掻きむしるかのように指でひっかき続ける。

 内部から“洗礼”の苦しみと外部から痛みを掻き消したくて、藻掻き苦しみ続ける。


 ハアハアと息を切らすユウトとシノア。

「とっておき、ってのが、ノイの加護()か」

「ユウトさんだって、とっておきがキララさんの加護()、じゃないですか」

 お互いのとっておきが契約精霊の力とは皮肉なことだ。

「キララさんの加護()は増幅……ってところでしょうか? …………ハアハア。

 どれくらい保ちますか……?」

「なんで、シノアに手の内を明かさねぇといけねぇ……!!」

 剣幕を立てるユウトにムッと頬をふくらませるシノア。


「……………………」

「――!」

「――――!!」

 ブシャーっと血を撒き散らすアヴジュラ。

 血を撒き散らしてもなお、血はとめどなく垂れ続けている。

「踏み潰せ――“リギル・ケンタウルス”!!

 駆け抜けろ――“ハダル”!!」

「「――!?」」

 まさかのまさか、アヴジュラが“呪解”。

 ズンズンと図体がデカくなっていき、脚も二本脚から四本脚。いや、八本脚へと変化していく。

「突き崩せ――“アンタレス”!!

 射抜け――“ベテルギウス”!!

 狩り尽くせ――“リゲル”!!」

 さらにさらに“呪解”を使用し、腕が変形し始める。

 いや、変形なのではない。これは()()だ。

 身体の成り立ちを書き換える。自らの()()()()()()()()()()()、より()()()()()()へと進化させようとしている。

 八本の腕に弓や槍、剣、棍棒、戦斧、鎌、鉤爪、盾を持った怪物へと成り果てていく。

 図体も二メル近くあったのに、今は倍の四メル超えの怪物へと成り果ててしまった。

 大木を思わせる腕と脚。叩きつけられたり、踏みつけられたりしたら、跡形もなく肉塊となることだろう。


 ここまでくれば――

「もう笑えねぇ気分だ」

 ゼーハーと息を切らしているユウトが怒りを通り越して、呆れる他なかった。

「こんな怪物を倒さないと……いけないのですか?」

「命の限り力は出し惜しむなよ……生きて、みんなのところに帰るぞ!!」

 彼が生き延びるために発破をかけるのだった。




「まさか、あそこまでデカくなるとは思わなかった」

「ズィルバー……あれは、一体全体、どうなっているの……」

 ティアはどうなっているのか分からず、言葉足らずに絶句している。

 シューてるもアルスもライナもタークらもレイルズらも、あまりの光景に目を大きく見開き、絶句していた。


「まさか、あれは――」

「ああ、そのまさかだ。

 アヴジュラは()()()()()

 悲痛な面持ちかつ、いたたまれない気持ちに支配されるズィルバー。

(なぜ――なぜだ。

 アヴジュラともあろうものがなぜ、心を闇に堕とす)

 嘆かわしいほどに怒りを抱く。


「なぜだ! なぜ、魔族(ゾロスタ)に成り下がったアヴジュラ!!」


 彼の悲痛で怒りの叫びが木霊する。

「“星獣”を、その身に宿し――いえ、あれは()()――自ら、凶暴な怪物へと肉体を創り変えた、というの…………」

「“リギル・ケンタウルス”、“ハダル”、“アンタレス”、“ベテルギウス”、“リゲル”。

 どれも“星獣”の名に冠する魔物…………おろか、なんて、()()()ことを――」

 嘆かわしく思うほど、悲しみに満ちるズィルバー。

「ズィルバー?」

 不思議そうに見つめるティア。


「“星獣”とは人の身に神なる(有り余る)力…………ハムラが“呪解”という呪術で力の増大を図ったようだが、“魔族(ゾロスタ)”に成り下がった“死旋剣(彼ら)”には毒だった。

 いや、ハムラの呪術の技量が高すぎたから副作用(リスク)を抑え込ませていたんだろう」

「……リスク?」

「おい、ズィルバー!? 奴らのパワーアップには副作用があるってのか!?」

 シューテルがズィルバーに問い詰める。

「ああ。“呪解”ってのは“星獣”の力と異種族の力を回帰させることなんだが、“星獣”の力に()()がある」

「問題?」

 ノウェムが反応する。彼女はおそらく、自分らが戦っていた巨人を思い出したのだろう。

「まさか、副作用というのは暴走することか?」

「いや、それは初期症状と言ってもいい」

「え?」

「なっ――!?」

 コロネとタークは呆ける。

「暴走が……初期症状だぁ!?」

「そうだ。本来、神なる(有り余る)力ってのは、()()()()()()()()()()()()なんだ。

 むろん、人族(ヒューマン)だけの力、といえば、嘘になるが、使いすぎると身体が自壊(クラッシュ)する」

「クラッシュ、って!?」

「諸刃の剣、ってわけか」

 アルスは驚き、ライナはリスクありきの力だと理解する。

人族(ヒューマン)神なる(有り余る)力を持ったまま、“魔族化”すれば、とりわけ、見境なく暴れるだけ暴れまわる怪物と成り果てる」

「つまり、俺らが相手をした、あのデカブツもそうなんだな」

 タークはズィルバーが間違えて始末してしまった怪物のことを指し示す。

「ああ、それで間違っていない。ただし、魔族(ゾロスタ)に成り下がったままで神なる(有り余る)力を行使すれば、()()()()()()()()()()()()()()

「消えてしまう、って……自我が失うというの!?」

「正確に言えば、神なる(有り余る)力に()()()()()()()()()()()()、だ」

『……………………』


 大きすぎる力は一度、人の有り様を失わせる呪われし力――。


(まあ、アヴジュラが、あのような様になったのは心苦しい。だが、耐えきることもできん。

 ()()のように()()()()()()とする様は許しがたいことだ)

 彼は悲痛な面持ちで心を痛める。

「ズィルバー。このままでは、|ユウトくんとシノアちゃん《あの二人》が危険よ。助けに行かないと――」

「待て、レイン。今更、向かったところで終わってるかもしれんぞ。

 それに、次へ備えるだけの体力が殆ど残っていない。シューテルらも疲弊こそしているけど、継戦するだけの体力は残っていないし。

 第一、空気の外在魔力(マナ)濃度が濃い。助けに行ったところで、足手まといになるだけだ」

 彼は今の状態を把握した上で備えるだけの力が残っていないと言い放つ。

「ズィルバーくん。では、我らが」

「レイルズさんはダメだよ。頭がいなくなると、誰が東方貴族をまとめ上げる。今のユンじゃあ、東方貴族をまとめられるか」

「では、ラキ殿、セロ殿を含めた皇族親衛隊に任せるのは――」

「論外」

 ズィルバーはレイルズの提案を一蹴する。

「別に、皇族親衛隊をバカにしてるんじゃない。ああなってしまったアヴジュラと千年以上を生きる妖狐を相手にするだけの力がない。

 ハムラの場合、余興に付き合わされて、はい、サヨナラ、だよ」

 命を弄ばれるだけだと言い切る。

「そもそも、あの女、パーフィス公爵家を根絶やしすることを念頭に置いている。

 東方貴族間での関係が歪になれば、一気に公爵家の地盤が揺るぎかねない。今は、そのまま、時を待て。

 大丈夫さ。()()()()に関していえば、()()()の取り柄ですから」

「あいつ?」

 レイルズが首を傾げて聞き返すもズィルバーは笑みを崩さなかった。


「話を戻すけど、親衛隊の皆さんを死なせるのは忍びない。

 女狐は千年以上も生きている。要するに大昔の時代に生きてた化け物だ。現代を生きる俺らが相手をするのはナンセンスな話さ。命を散らすまでもない。

 ()()()()()()()()()()のは“()()()()()()”であって、“皇族親衛隊”じゃない」

「“ライヒ大帝国”ってのは、ライヒ皇家と五大公爵家だけ、ってか?」

「概ね、そのとおりだ」

「…………」

 シューテルの問いにズィルバーは間違えなしと返答する。彼の返答にシューテルは目を細める。


(ズィルバー。オメエは何者だ? ライヒ大帝国(この国)の建国期を詳しく知る人間はいねぇ。にも関わらず、オメエはそれを知っているのに、知らないふりをしていやがる。

 言いたくねぇのか。あるいは、()()()()()()()()のか、どっちかだろうな)

 思っている矢先――

「シューテル。キミの想像通りだ」

「――!!」

「語りたくもないし。思い出したくもない。だが、一つだけ言っておこう。

 ()()()するな」

「チッ――」

(心を読みやがった)

 “静の闘気”を使われたことに多少、苛立つも追求しなかった。

「だが、一つだけ聞かせろ」

 物申す。

「いいだろう。話すがいい」

「大昔の偉人を蘇らせてまで、現代に生きる俺らを蹂躙させる()()に人の心はあるのか?」

 シューテルはバカだけど、賢い。賢いからこそ、過去に存在した獣や偉人を蘇らせる連中が裏にいると踏んだ。

 彼の物言いにラキとセロのズィルバーを見つめる。いや、彼らだけじゃない。レイルズらもミバルらもノウェムらも、ティアも見つめてくる。

「ない。怪物共を蘇らせる()()に人の心なんてない。そもそも、人の心があるのなら、とっくの昔に()()()()()()()()()()()()()()()

「あん? どういう意味――」

「おっと、これ以上は受け付けないよ」

 口を閉ざすズィルバー。

「でも、一つだけ助言する。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)()()を憎んでいるし、異種族の差別化は()()だ」

『…………』

 最期に告げた助言が彼らに大きな動揺を与える。

「え? それは、一体――」

「これ以上は話さないよ。知りたければ、自分らで探してみたら、どうだ?

 歴史を知れば知るほど、ライヒ大帝国(この国)()()()()()()()()も、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()も、見えてくる。

 連中の強大さと人の儚さを…………」

 口で語る言葉の質量は徐々に軽くなり、安くなる。

 而して、さぞ、戦えとなれば、質量は重くなり、高くなる。

 それほどまでに人の、種族の命など、儚く小さいものだと思い知らされる。


 同時に、ティアは一つだけ確信を持てた。

(私やズィルバーが持つ、この真なる神の加護(摩訶不思議な力)は歴史の深淵に記されている力。

 それは強大で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということ……)

 光り輝いていない刻まれし紋章。

 現代に渡って、呼び起こされず、埋没されていた力。

 それが千年の時を経て、呼び起こされ、掘り起こされた力。


 旧き神秘は今なお、支配し、生者、死者問わずに人形のように操って絶望の淵に貶める。


 ライヒ大帝国は千年の時の流れに寄り添って、残り続けた。苦しみを清算するかのように、罪を洗い流すかのように、因縁を断ち切るかのように――。


 而して、連中は何なのか、未だに判明できず、知る手がかりがないのも事実。

 すべてを知るのはまだ早いのだと、彼の背中がそう物語っていた。




 ドカァン!! ボコォン!!


 粉塵が舞い散る戦場。

 降り注がれるは矢の雨。一メルは優に超える矢弾が二人に押し寄せる。

「ッ――!?」

「痛っ!?」

 掠めるだけでも激痛が走る。

「痛ぇにも程があるぞ」

 ハアハアと息を切らすユウト。


 ドシン!! ドシン!!


 大地を駆ける馬蹄が徐々に近づき、頭蓋を踏み潰そうと上げている。

「ッ……」

(やべぇ。まだ痛みで……)

 苦悶な表情を浮かべている。


 同じく、ハアハアと息を切らしているシノア。

 鎌には淡黄色の雷が帯びたままだ。

「天なる黙示。天が、すぐにも起こるべきことを使徒に示すため天に与え、天の御使をつかわし、使徒に伝えられしもの」

 言祝ぐ聖言がバリバリと雷を強める。


「ッ――」

(やべぇ……)

 馬蹄に踏み潰されそうになるユウト。

「――、――!!」

 咆吼をあげる怪物の背後から胸部にかけて鎌が貫通する。

「――!!」

「…………?」

 動揺する怪物に、呆けるユウト。

「ハァ……ハァ……()()()()も効果抜群のはずです。貫通そのものに痛みなんてありません……ただし――

 汝が我が右手に見た七つの星と金の燭台の奥義。すなわち、七つの星は七つの天使の使徒であり、七つの燭台は七つの愛である!」

 紡がれる聖言に怪物は藻掻き苦しむ。

「星を掲げよ――“天使の祈りは愛の星アンジュ・プリエル・アムル”!!」

 洗礼の刃が、祈りが怪物の内部を駆け回り、苦しませていく。


「――!? ――、――――!!? ――、――、――――、――――――――!?」


 悶え苦しむほどの痛みが駆け回り、全身に流れる血管が切れ、皮膚を破って、血が吹き出す。

 ズシンと体制を崩し、八本脚でも立ち上がれぬほどの痛みを蓄積する。


「――!」

 多腕が握る刃がシノアを八つ裂きにしようと振るうも――

「おい、誰の許可を得て、()()()()()()()()()としてるんだ!」

 バリバリと純白の雷を帯びた剣を手に、真正面から突っ込んでいくユウト。

「“北蓮流”――“偉大なる十字架(グランド・クロス)”!!」

 胸を引き裂くほどの斬撃が怪物に襲いかかる。

 肉を裂いて、骨を砕いた斬撃は怪物の臓腑に深刻な痛みを蓄積させる。


 ズシンと横たわる怪物にハアハアと息を切らしているユウト。

「おい、シノア? 無事か?」

「あ、あの~、ゆ、ユウトさん……今の言葉は本当ですか?」

 しどろもどろに尋ねるシノア。

「あ? 何を……あっ――」

 ユウトは今頃になって、自分が言い放ったことを思い出し、頬を赤らめる。

「い、今のは言葉の綾、とか、じゃねぇぞ。あれは、その――」

「そ、その……」

 ドキドキと胸をキュッと押さえる。彼がどんな言葉を言うのかワクワクしている。

「俺は、シノアをs――」

 彼がなにか言おうとした矢先、ズシンと立ち上がってくる怪物。

「――!?」

「まだ立てるのか!?」

「でも、ユウトさん、腕が――!!」

 シノアが指させば、怪物の八本腕の半数以上の骨が砕け、折れ曲がっていた。

「内部からの衝撃と外部からの衝撃で骨が耐えきれなくなったのか」

 考察するユウト。


「…………繋げろ――“アークトゥルス”」

 新たなる“星獣”を“呪解”させて、砕けた骨をくっつかせ、肉を縫合し、復活を果たす怪物。


「ユウトさん」

 ハアハア吐息を切らすシノア。

「冗談抜きで言います……ハァ……ハァ……次で私は力尽きます……!!

 なので、次が――」

「最後の攻撃か……俺もだが、絶対に外すなよ!!」

「誰に、物を言って――」

 会話する二人に怪物が八本腕にそれぞれ持つ武器を一つにして、特大な斬撃を放つ。


「――――!!」


 両断された樹木を足場にユウトは跳んだ。

「隙だらけだぜ!! “北蓮流”――“剣舞(つるぎのまい)”!!」

 乱雑に振るわれる斬撃が弾幕となって放つ。

 放たれた斬撃は怪物の肉を斬り裂くもたちまち、縫合され、何もなかったようにされていく。

「なら、これはどうだ! “剣蓮流”――“二刀”・“神大太刀(かみのおおたち)”!!」

 二振りの剣から振るわれる光速の斬撃が怪物に直撃し、肉を裂き、骨を断つもたちまち、元通りに戻っていく。

「メチャクチャじゃねぇか!」

 気が滅入るユウト。


「――――――、――!!」


 雄叫びをあげる怪物。

 武器を投げ捨て、ボコボコと肉体を変化させていく。

 八本腕。いや、背中から夥しいほどの腕が生えていた。それは、もはや、人の原型を保っていなかった。

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