英雄の好敵手。強く在れ。②
無茶をするユウトに毒を吐くシノア。
だが、そんな彼について行く彼女もどうかしてると思うのが周りの反応だが、生憎と周りに誰もいないので、文句を言おうにも聞こうにも相手がいないので、無意味なことだった。
「オラァ! 行くぜぇ!」
バリバリと若紫色の雷を纏わせた魔剣で斬りかかってくる。地を蹴ってるとはいえ、構えからアヴジュラは敵の狙いを読み切る。
「喰らいやがれ! “北蓮流”――“十字架斬り”!!」
十字架を象る斬撃が放たれるもアヴジュラは背後に浮かんでいる球の一つが形態変化で障壁で阻む。
「ケッ……さっきと同じかよ」
(まだ、向こうの方が反応が速ぇみてぇだな)
鼻で笑いながらも自身の反応が遅いことに苛立つ。
そもそも、ユウトはバカだ。真なる神の加護には相性が存在する。わかりやすく言えば、戦いにおける向き不向きがある。
さらにわかりやすく言えば、“闘気”と同じように“静の闘気”と“動の闘気”と同じように真なる神の加護にも攻撃寄りの加護と防御寄りの加護に分けられる。
たとえば、ズィルバーが持つ真なる神の加護は空色の加護と真紅色の加護だ。
彼は“両性往来者”を利用し、男と女で戦い方を変えている。
女の場合、空色の加護が働き、絶対無敵の防御力を得られるので、硬さを利用した戦い方をする。
男の場合、真紅色の加護が働き、全貫通する攻撃力を得られるので、俊敏で手数で押す戦い方をする。
一方で、ユウトが持つ真なる神の加護は若紫の加護のみ。
もう片方は“アルビオン”の加護。
若紫色の加護は死の淵に陥りかけても復活させる防御寄りの加護であり、攻撃方面に特化された力ではない
逆に、キララの加護は身体能力を極限まで高める働きがある。つまり、攻撃寄りの加護ということだ。
彼がバカじゃなかったら、これに気づいて対処できるのだが、彼はバカなので、本能で自身が持つ加護が敵に通じないと理解しないかぎり、勝気など訪れはしない。
相手はアヴジュラ。今、必要なのは自分に合った戦い方を模索しなければならない。しかも、戦闘中に、だ。
むろん、それは不可能に等しい。戦闘中に自分だけの戦い方を編み出すのは至難の業だ。
自分だけの戦い方を編み出すのは、幾星霜にも及ぶ修練と実戦を経て、できあがっていくものだ。
ユウトはまだ十代前半だ。修練も実戦経験もなにかも足りない状況だ。
而して、彼には大きなバックがある。そう契約精霊のキララがいる。彼女が彼を補助すればいい。
それだけの話だ。
彼女がユウトを補佐すればいいだけの話だ。むろん、彼がそれを許すとは到底思えないが、背に腹は代えられないことは確かだ。なので、ユウト自身がプライドをかなぐり捨ててでも、キララの教えを受けるほかない。もっとも、彼がバカである以上、無駄にプライドをかなぐり捨てるのかと言われれば、おしまいだが――。
(おい、キララ。どうすれば、俺はあいつに勝てるんだ?)
『あら、意外ね』
と、彼女は意外そうな反応を示す。
「意外とかはねぇだろ?」
ユウトは敵が言葉を発さないのをいいように好き勝手に言葉を投げる。
『しょうがないでしょ。あんたが自分からお願いするなんて初めての経験だし』
それだけ、ユウトの成長が喜ばしかったのだろう。
『じゃあ、どう勝てると思う?』
彼女が彼に勝ち方を逆に尋ねる。
「知るか。あいつの弱点とかねぇのか?」
『あるにはあるけど、それはあなた自身が自分なりの戦い方を見出さないと勝てないわ』
「俺なりの戦い方?」
彼女が言ってる意味が分からず、首を傾げるユウト。
「言ってる意味が分からんが?」
『わからない? いい。あんたは今、自分だけの戦い方を見つかっていない』
「俺だけの戦い方……なんだよ、戦い方は違ぇのか?」
『違うわ。みんな、自分にあった戦い方をしてるわ。でも、あんたは自分だけの戦い方がない』
「キララは自分の戦い方を持ってるのか?」
彼は相棒に戦い方があるのかを尋ねる。
『もちろん、あるわ。それは、好敵手のズィルバーくんよも』
あえて、彼女はライバルの名前を明かした。明かしたことで、自分が今、劣っているのだ、と、わからせるために――。
「ズィルバーにもあるのか?」
『もちろん、あるわ。彼の異能が何かを知ってるでしょ?』
「“両性往来者”」
『そう。男と女……日によって性別が入れ替わる異能…………通称、“性転換”。
男と女で身体のつくりや“魔力循環系”が全然違う。
性別によって戦い方を変えなければならない。相手によって戦い方を変えるか、自分の戦い方を死んでも貫き通すか、のどちらかよ』
「確かに、ズィルバーの奴……自分の戦い方を貫いてるな」
ユウトは今更ながら、好敵手と自分の違いを思い知らされる。
『正直に言えば、ユウトもズィルバーくんと匹敵する才能も持ってるし。身体の素質も上等よ。
つまり、二人は素じゃあ優劣がない。なのに、優劣があるのか。
答えは簡単。あんたが自分にあった戦い方をしていないから』
「俺はあっていねぇ戦い方をしてるわけか」
ユウトは自分にあった戦い方ができていないことに悔いる。
だからなのか、キララは彼に戦闘の最中であるにもかかわらず、言い寄ってくる。
『私があんたをもう一度、取り戻してあげる』
彼女は遠回しに、本音を建前で隠して助言する。
「……………………」
ユウトは戦闘の最中であるにも関わらず、鍛えてやると言い回しにイラッと来るもワーワーと喚いたところで自分がガキなのを認めてしまうだけだと思い、喉から出る言葉を飲み込んで、受け止めた。
「――で、どうすればいい?」
『とりあえず、力の扱い方を考えましょう。真なる神の加護と私の力の使い分けよ』
真っ先に教えるのは力の使い分け。
「力の使い分け?」
『私とノイの加護は同じようで同じじゃない。精霊の加護も同じようで同じじゃない』
「精霊の加護…………そっか」
ここでユウトはようやく、気づいた。
『……………………、――――――――――――』
キララはようやく、気づいたのかと、っていう反応をする。
「そっか。俺は――」
(何でもかんでも“真なる神の加護”を使えば問題ないと思ってたが……キララの力を全然使っていなかった。
俺はただ、キララを契約していただけで、いい気になってたクソガキじゃねぇか)
ようやく、自分が力を得て、粋がってる小僧だと気づかされる。
『……………………』
彼女は無言のまま、心象世界でニコッと笑みを浮かべていた。しかも、満面な笑みを浮かべて――。
ただし、目元だけは……いや、目だけは全然笑っていなかった。
明らかに怒っていますムードを醸していた。
『…………ようやく、気づいた?
あんたは自分だけの力だけでアヴジュラに勝とうとしていた。それがどれだけ無理だったことが、ようやく、わかったようだね』
「面目次第もございません」
今更ながら、誠心誠意に謝罪するユウト。きっちりと上下をはっきりさせるために土下座まで決め込む。
「なぁ、キララ。もう一度だけでいいから。俺を信じてくれ。俺もお前を信じてぇ。
ほんとうの意味で俺はお前を扱ってみてぇ! 頼む!」
もう一度、誠心誠意を込めて、頭を下げて、頼み込む。
彼女は彼が頭を下げて、謝罪させるまでもなく――
『言われなくても、そのつもりよ』
怒気を孕んだ声音でユウトにビシッと決め込む。
『とりあえず、“真なる神の加護”は使用するのを極力控えなさい!
アヴジュラとの戦いでは私の加護を使うこと。相手はどっしり構えてる相手に反応が遅れる戦い方をするなんて以ての外よ。あんたの場合、ズィルバーくんよりも上の反応速度がある。それを駆使して戦わなくて、どうする?』
「ズィルバーよりも上の反応速度……」
彼はフゥーッと息を吐き、左目から漏れる若紫色の魔力光が徐々に弱まっていき、左手の甲に刻まれた紋章の輝きも小さくなっていく。
「――――」
彼のフォローに回っていたシノアが違和感を覚える。
「…………ユウトさん?」
(いきなり、止まって、どうしたの――)
訝しんだ矢先、彼の“闘気”に変化が起きた。左手の甲に刻まれた紋章の輝きが収まれば、逆に右手の甲に刻まれた紋章が輝き出した。
右手の甲に刻まれた紋章は“精霊刻印”。つまり、精霊と契約したときに浮かび上がる証。
漲る“闘気”が、溢れ出る“闘気”が形をなしていく。
その形は“竜”。
一キロメル以上の白銀の竜。漲る“闘気”が形をなすほどの存在感。ユウトの身体から溢れ出る純白の雷。溢れ出る“闘気”が純白の雷となって迸ってる。
「いくぞ、キララ!」
『ええ、思いっきり暴れてきなさい!!』
口を開き放たれるのは咆吼。
それはまさに、超高周波音。
龍、竜だけが叫ぶ咆吼であった。つまり、竜人族だけしか扱えない雄叫び。
ユウトが雄叫びをあげれば、“闘気”で形をなした竜も大気を、大地を、森も震動させる咆吼を上げる。
竜言語が発せられる咆吼――“竜の咆吼”そのものであった。
「――――――――」
間近にいたシノアはあまりの奇声に思わず、耳をふさいでしまう。しかも、鎌を手放してしまうほどだった。
「――――――――」
近くにいるだけなのに、ミシミシと骨が軋み、悲鳴を上げている。
(こ、これは…………)
『これは、雄叫び……“竜の咆吼”…………竜言語が発する雄叫び。
魔力を……“内在魔力”を乗せた咆吼だ。聞くだけでも相当、神経に負荷が及ぶ。ひとまず、こらえろ』
(は、はい――)
シノアはなんとか、雄叫びが収まるのを待ち続ける。
一方、アヴジュラは何事もないようにただただ、ユウトを見つめていた。いや、彼だけを見つめたのではない。彼と漲る“闘気”が形をなした竜を見つめていた。
純白の雷が迸り、存在感を見せつける。
その竜と、その“闘気”を見るだけで彷彿とされる。かつて、敵として相まみえた強敵を――。
“竜神”と称された史上最強の竜を――。
咆吼が静まれば、ビリビリ、バリバリと雷が迸り、大気が大きくざわめく。
ギュッと剣を握れば、形をなしていた竜が消えていく。かわりに剣が帯びる“闘気”が湯気となって漏れ出す。
ギロッとアヴジュラを睨みつけるユウトの眼光は竜の眼光そのもの。
「――――――――!」
ようやくとなって、無機質感が満載なアヴジュラにも些細な変化が起きる。
ビクッと寒気が走ったのか彼の方へ視線を転じる。
「いい加減、そのふざけた球が鬱陶しいんだよ。
まずは、その球、全部、叩き斬ってやる!!」
「――ッ!?」
「……ッ!!」
アヴジュラとシノア。ユウトの背後に顕現する白銀の竜に鳥肌が立った。
「さっきまでの俺とは別人だぞ!
“北蓮流”――“十字架斬り”!!」
十字架を象る一撃が斬撃となって、アヴジュラへ襲いかかる。
「――」
彼は少しの瞬きだけ、目を見開くも、
「提案」
吐露した後、背後に浮遊してる色合いのある球が障壁に形状変化した。
障壁となった球で振るわれた斬撃を防ぎにかかるもガガッ、ガガッと力と力が拮抗し、せめぎ合う。
ギチギチと火花を散らし、せめぎ合う中、ユウトは吠える。
「そんな程度の障壁でキララが負けるわけねぇだろ!」
ビキビキと障壁に亀裂が走る。押され始める力を前にアヴジュラは顔色一つも変えずに粛々と障壁に力を、“闘気”を、魔力を送り続けている。
バチバチと大気が鳴動するわ。ビシビシと周囲の木々に斬撃の余波があたって裂けるわ、と少しずつ力が拮抗し始めた。
最後に、ユウトはアホなことを言い出す。
「俺に斬れねぇもんなんざねぇんだよ!!」
猛る叫びがバリバリと純白の雷が強める。強まっていく斬撃にビキビキと障壁に走る亀裂が広まっていく。
強まっていく力を前にアヴジュラも無意識に力を強めて拮抗させようとしてる。
而して、正面の敵だけの集中し続ければ、背後からの挟撃を受けてしまうことにほかならない。
「隙が生まれましたね」
背後から挟撃を仕掛けるシノア。鎌に走る雷は淡黄色。
彼女が持つ“真なる神の加護”ではなく、右手の甲に刻まれた紋章が光り輝いている。
彼女が、シノアが契約した精霊――ノイ・D・イエスの加護である。
彼が持つ属性は聖属性。攻撃と防御、補助となんでもござれの万能。つまり、攻撃だろうと防御だろうと強化や弱体化も可能な属性。
最高位の精霊――聖帝レインには及ばないが、ノイがシノアに与える加護は絶大。特に洗礼や浄化の力に特化してる。
「“薄羽蜉蝣”!!」
斬ったのかすらも判別ができない斬り込みがアヴジュラの背に襲いかかる。
「――――――――!」
背に襲いかかる痛み。
それは無表情だった顔色を一転させるほどのものだった。
底知れない痛み。忌避感を抱かせる痛み。恐怖を抱かせる痛み。
一転させた顔色から様々な感情が“静の闘気”を介して、読み取れていく。
「あ?」
(瞳に、恐怖が宿りだしたなぁ)
ギチギチと火花を散らしながらも、障壁越しに彼は見た。敵の瞳を――。敵の心を――。
而して、敵の心が読めたとて、ユウトには関係のないことだった。
「障壁に流す力が弱まった! 隙だらけだぜ!」
オラッ! と、剣を振り抜けば、障壁が粉々に打ち砕け、皮膚を引き裂け――なかった。
「……ちぃ!?」
(障壁を打ち破っても鎧は健在ってか)
ギチギチと火花を散らしつつ振り下ろした。
攻撃が通らなかった、ってよりも、守らざるを得なかったという方が正しい。
それだけ、今のアヴジュラは危機に瀕していた。恐怖に脅かされていた。
根源的な恐怖を――。“死の恐怖”という名の危機に瀕していた。
「クソっ。シノアの攻撃が通って、俺の攻撃は通らず、ってか? 理不尽にも程があるぞ」
苛立ちを滲ませる彼にキララが諭す。
『いいえ。あんたの攻撃を受けざるを得なかった。
つまり、躱せたのではなく、躱せなかった。攻撃を受けざるを得なかった、という方が正しい』
「あっ? 受けざるを得なかった?
なんで、あいつが受けなければいけなかったんだ? 奴は神の加護のせいで硬ぇんだろ? だったら、受けるのが筋だろ?」
ユウトは間が悪い発言を咬ますかと思いきや、見当違いの発言を咬ます。
『…………』
キララもハァッとため息を漏らす。
『ユウト。あんたは関係ないと思って無視してたと思うけど、斬撃を防ぐ際、全身に“動の闘気”を纏っていたわ。あんたの斬撃は鎧に阻まされたんじゃなく、“動の闘気”に阻まされたの。この意味わかる?』
「つまり――」
ガシャンと剣を肩に乗せ、答えを言う。
「あいつは今、弱くなってるのか?」
弱まってる。弱体化してる。誰が? アヴジュラが――。では、なぜ、彼は急に弱体化し、“闘気”を纏わせなければいけなかったのか。
『これは予想だけど…………』
キララが憶測を告げる。
『さっき、シノアちゃんが鎌を振るって傷を与えたでしょ?
刃に淡黄色の雷が纏っていた。おそらく、あれはノイの加護。つまり、“天使族”の加護が働く。
天使族が得意とする魔法は聖属性の魔法が多いけど、その中でも“洗礼”という特異な力を持ってる』
「“洗礼”?
なんだよ。罪を償ってください、ってか? 天使族って、お前の話じゃあ、大昔から絶滅寸前まで追い込まれた異種族だろ?
特異な力を持ってるから絶滅するまで追い込まれたってのか? それって、差別だろ?」
バカのユウトですら、天使族の絶滅を“差別”と一蹴する。
「優れた奴……努力した奴が上に立ち、這い上がるのは当然だろーが!
何、自分が特別で優れてる奴なんだって、自意識過剰してるんだ?
それが認めず、許せず、周りに迷惑をかけまくるとか……ガキの癇癪かよ」
彼はアヴジュラの“魔族化”の原因をガキの癇癪と開き直る。
それには――
「――――」
『『――――――――』』
シノアもキララもノイも唖然とする。
「要するに“洗礼”ってのは、“魔族化”した奴にとって毒ってわけだな」
バカでアホなユウトが端的に結論つければ
『そ、そうだね』
キララも唖然としたまま肯定する。
「じゃあ、さぁ~。
そんだけ弱まってるんなら、力押しで斬りゃいいだけの話だよな!!」
追撃を仕掛けるため、地を蹴った。
「シノア! 援護しろ!」
「ッ、は、はい!」
バリバリと二振りの剣に純白の雷を纏わせる。
「シノア。わかってるよなぁ!」
「もー! 言わなくてもわかってますよー!」
背後に回る相方。その手に握る鎌には淡黄色の雷が帯びている。
「いくぜ! “北蓮流”――“十字架斬り”!!」
「もー! ヤケクソですー! “薄羽蜉蝣”!!」
前方から振るわれる十字架斬り。後方から横一閃。弱まってしまったアヴジュラの前で障壁を張ろうにも、“闘気”で受け切ろうにも間に合わない。
なのか――
「粛清。滅亡。力を示すとき――」
ボゥっと球が光りだし、前後から襲いかかる挟撃を、刃が触れることすらなく吹き飛ばす。
「なっ――!?」
「嘘!?」
ここに来て、アヴジュラの反撃を食らってしまい、木に叩きつけられるのだった。
吹き飛ばされるとは思わなかった。叩きつけられるとは思わなかった。そして、反撃に動くとは思わなかった。
まさか、ここに来て、アヴジュラに変化が出るとはユウトとシノアは思わなかった。
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