巨人に挑みし戦士たち。序
“死旋剣”。
“獅子盗賊団”のかんぶに相応しい実力を持つ十人の異種族集団。
しかし、その半分近くはヌッラとフィスの手によって殺された。
生き残っていたのはデスト・リュクシオン、デゼス・プワール、ヌッラ、ソリ・テュード、そして、サクリ・フィス。
彼らはハムラの呪術で“魔族化”を受け、魔族を変成させた。だが、その中でも半分が“魔族化”に耐えきれず、理性なき獣へと成り下がってしまった。
獣に成り下がったといえど、“死旋剣”。
“獅子盗賊団”の中で、“三王”なる最高幹部を除いて、次に実力が高い化物。
その化物を放出しては“獅子盗賊団”の一員として誇りがある。その誇りを守るためにヌッラとフィスは自らの手で同胞を殺めた。
ただ、殺めたはずの化物が一人だけいる。
今、外で巨大な怪物となって縦横無尽に暴れ回っていた。獣の如き、力を振るって、立ち向かう者たちを薙ぎ倒そうとしてる。
その名はコレール。“憤怒”の獣にして、“魔族化”によって暴走したのと同時に“呪解”で巨人族いや狂巨人並のデカい怪物となった。
だが、先んじて述べておこう。コレールは元から巨人族ではない人族だ。
もう一度、言おう。コレールは巨人族ではない人族だ。
そう、コレールは巨人でもなければ、巨大な怪物でもない。もとは巨漢の人間だった。
而して、“魔族化”によって巨漢だったコレールは一気に巨人族へと進化した。
さらに、“呪解”によって“星獣”の力を手にしたことでさらに巨体化し、“魔王傭兵団”にいた“狂巨人”に匹敵するほどの巨大になってしまった。
コレールを“魔族化”した際、“呪解”で力を得た“星獣”は“鯨王フォーマルハウト”。
その名の通り、鯨なのだが、ただの鯨ではない。
かつて、“魚王スピカ”と対等に張り合えた化物であり、その強さは千年以上前の英雄たちですら、手を拱く化物ぶりを発揮していた。
“鯨王”の名に恥じない巨大で“ドラグル島”より西方全域を占めていた鯨だ。
巨大といえど、具体性がなくて、歴史書にも記されていないが、正確な大きさは全長五キロメル、体高三キロメルという鯨にしては似つかわしくないほどの巨大さだ。
文献には特徴が記されていないが、細長い見た目だけでなく、ヒレが複数ある。鯨なので、一見、縦方向に身体が波打つかと思いきや、横方向にも身体が波打つことがある。
そもそも、見た目からして、鯨なのかという一説があるけども、鯨であることに変わりない。
そして、巨人族超えの怪物になったコレールは全長四キロメル、体高四キロメル、体重一兆トンルという明らかに巨人族の常識を逸脱していた。
見た目も異常であり、ヒレを再現してるかのように下半身が計十二本の足を持つ怪物へと変わっていた。
魚の尾を思わせるハンマーのような形状の尻尾が生えてる。
そのような怪物を相対してるのは“白銀の黄昏”のノウェムらと“豪雷なる蛇”のタークら。そこに負傷しつつも外に出たシューテル、ヤマト、ヒロ、シーホら。
彼らが全員。総出で怪物のデカさに眩暈がする。
「あまりのデカさに気が滅入るぜ」
「こんなの見たら、巨人族の常識を疑っちゃうよ」
「っていうか、これも“星獣”って力なのか?」
「“星獣”?」
シューテルが漏らした言葉にシーホらが訝しむ。
「“星獣”?」
「シーホ。そいつはなんだ?」
ヤマトが首を傾げ、ヒロが聞いてみれば、シューテルは頭を掻いた。
「前にズィルバーが言ってたんだけど、正確に覚えてねぇんだ。こんなことだったら、考古学を専攻してたら、って思ってるぐれぇだ」
「ここで嫌みを言ってる場合か。知ってることを話せ」
彼の物言いにイラッときたのかヒロが詰めかける。
「そう怒鳴る。そう喚くな。
俺が知ってる範囲で教えてやるよ」
全くと言わんばかりに頭を掻くシューテル。それでも、ヒロの機嫌は悪かった。
「“星獣”ってのは、千年以上前、この世界に存在したっていう獣の総称らしい」
「総称? まとまりか?」
「ああ、ズィルバーの話だとそうらしいし。レインさんの話じゃあ、初代皇帝も手を拱くほどの厄介な獣だったらしいぜ」
「初代皇帝が……手を拱いた…………」
「そんな化物が、かつて、この世界に存在したのか…………――」
とてもじゃないが信じられないと言い張るヤマトとヒロ。シーホらも同じ見解だった。
「俺だって、最初は信じきれなかった。だけど、俺らが着てるコートも制服も“星獣”っていう毛皮を仕立てたって、ズィルバーは言ってたぜ」
「なんて無駄使いをするんだ、あいつは……」
サァーッと顔を真っ青にするヤマト。ヒロも同様に顔を青ざめる。
「全くだ。だけど、その効能はスゲぇし。なんども助けられてるから文句はねぇだろ?」
「「…………」」
「――――」
シューテルの物言いにヤマトとヒロ、ヒガヤは黙りになる。
「まあ、それよりも…………」
彼は視線を上にやる。彼につられて、ヤマトらも上を見やる。
「まずはあのデカ物をなんとかしねぇことには話にならん」
「確かに」
「ひとまず、ノウェムたちと合流しよう。僕らには僕らなりにできることがあるはずだ」
「アルスやライナも大変だろーしな」
シューテルの吐露にヤマトは仲間の心配を、ヒロは彼に賛同し、ヒガヤは仲間を労う。
「だがよぅ~。俺らが加わったところで、なにができるんだ?」
シーホが水を差す。
「確かに、肝心なのはそこだ。疲弊しきってる俺たちになにができ――」
ドゴンッ!!
途端、ものすごい爆発音が轟いた。
『ッ――!!?』
一行は視線を見やれば、“狂巨人”並の化物に雷撃が直撃し、黒焦げになってるを見る。
視線を上にやれば、上空でハムラと戦ってる金髪の少年が一撃見舞ったようだ。
ハアハアと息を切らしてる金髪の少年。すると、徐々に体力が切れたのかは定かではないが、髪の色が藍色の髪へと変わり、雰囲気も荒々しさから一転して大人しげになっていく。
「あれは……」
「まさか、“豪雷なる蛇”の、総大将……?」
吐露するヒロ。
「見た目が変わってない?」
「ああ、変わったな」
ヨーイチは首を傾げ、シーホは間違ってないと言い切る。
彼らはユンが“人格変性”っていう異能を持ってるのを知らない。だけど、彼らはユンの人格がコロコロ変わるのをここ最近、知ったばかりだ。
なので、シューテルらはユンの変わりように驚きを隠せずにいると――
またもや、派手な爆発音が轟いた。
視線を振り向けば、爆炎と火柱が上がってるのを確認できる。
「火柱!?」
「っていうか、なんで爆発が起きるんだ……!?」
驚きの連続だが、ここでシューテルが驚いてるのは別にあった。
「マジか……」
「シューテル?」
顔が引き攣ってる。明らかに動揺してるのが見てとれる。
「あそこでズィルバーが戦ってる!?」
『!?』
彼が吐露した言葉に“白銀の黄昏”全員が反応する。
「えっ……!?」
「ズィルバーが!?」
「なんで、敵将と戦ってないんだよ!?」
意味が分からないと唖然する。
「なんでか知らねぇけど、建物の反対側じゃあ、親衛隊のエースが別の敵と戦ってやがる!」
「ハア!?」
「ユウトくんが!?」
「あいつ、普通、敵将を潰すのが最優先だろ!」
ヨーイチとミバルが呆気にとられ、シーホが苛立ちを吐く。
各地の戦況が大きく変わってることに今頃、気づいたシューテルたち。
「とりあえず、俺らはノウェムらと合流だ。状況を聞かねぇとな」
シューテルが皆にそう言い、彼らも頷く。そうして、シューテルらは巨大な怪物と戦ってるノウェムたちのところへと向かった。
「ハアハア……ハアハア……ハア、ハア…………」
「ゼーハー、ゼーハー」
「ハーハー、ハァー」
息を切らす者たちが多く、力を使い果たした者たちも多かった。
「ちくしょー……なんてデカさだ」
苛立ちを滲ませるアルス。彼の苛立ちを応じるままにライナも吐露する。
「これじゃあ、私たちがジリ貧……」
息を切らす“八王”に、“虹の乙女”の彼らが予想以上に疲弊していた。
そもそも、アルスやライナの部隊は基本、諜報活動がメインだ。戦闘能力が高くても、“九傑”や“四剣将”には遠く及ばない。
しかし、“九傑”のノウェムとコロネがここまで疲弊してるところを見るに、アルスやライナらでは苦戦が必至なのは明白だ。
「せめて、あの鬱陶しい能力をなんとかしなければ……」
「もー! あんなの狡に決まってるじゃーん!」
不機嫌さ全開にするコロネ。それだけはタークらもハクリュウ、シュウも同意見だった。
彼らが不機嫌さを全開にする理由。それは、巨大な怪物――コレールが得た新たな能力にあった。
それは“星獣”の一角、“鯨王フォーマルハウト”の能力だけじゃない。
他の“星獣”の能力によって強化されてる節がある。
無論、ノウェムたちは巨大な怪物が“死旋剣”だったことも最初は人族だったのも“星獣”の力を得たのも知らない。
知らないからこそ、苛立ちを募らせる。
「くっそー! 攻撃を受ければ受けるたびに巨大化して強くなるとか聞いたことがねぇぞ!」
「明らかに異常すぎる」
タークのぼやきにエルラが冷静に便乗する。
「どっちみち、あそこまでデカくなったら、ツチグモでも歯が立たねぇぞ」
「リュカもリュカで龍の姿でいると格好の餌食……」
「ちくしょー」
地面に拳を打ちつけるターク。
すると、巨大な怪物めがけて雷撃が叩き込まれる。
一同、視線を上に見やれば、宙に浮いてるユンが一撃を見舞ってくれた。怪物は黒焦げになるも倒れるまでに入っていない。
「ユン!」
「…………どうして、あんな無茶を……」
「――――」
「ユン様……」
ボロボロとはいえ、疲弊してるユンに比べれば、まだ戦えるタークら。
「全く……」
タークは息を切らしながらも身体に鞭を入れて、立ち上がる。
「ユンに心配されるようじゃ。俺らもだいぶ、落ち度だな」
「ターク……」
「っていうか、俺らも少しだけ丸くなったかもな。ユンに盾突いてた頃の方がギスギス尖ってた気がするぜ」
今になって自分の落ち目具合に苛立ちを持つ。
彼が吐露した言葉にユキネらも表情を曇らせる。
「大将に心配させてじゃ。カッコ悪ぃだろーが」
苛立ちを、怒りを、“闘気”に変え、滾りに滾らせる。
「おい、いくぜ、オメエら! これ以上、ユンに迷惑をかけるんじゃねぇ!!」
『おぉー!!』
気合いを入れ直す“豪雷なる蛇”一同。
ノウェムやコロネ、アルス、ライナらは彼らの気合いの持ち直しに感服するほかなかった。
「――、――――――、――――!!」
途端、巨大な怪物は声にもならない咆哮を上げ、黒焦げになった身体も徐々に回復するどころか、力を増して復活した。
「――、――――――、――――!!」
さらに力が増大したことにノウェムたちは苦悶する。
「ここに来て、さらに力が増大した。どこまで強くなる気だ?」
「そもそも、こいつ……限界を知ってるの?」
ライナが思わず、怪物に限界があるのか疑ってしまう。
「疑りてぇ気分だが、そんなのは後回しだ」
「とりあえずー」
「あのデカ物をここに留まらせることを第一に考えないと、この国が滅ぶぞ」
ノウェムは最悪自体を想定し、皆に呼びかける。すると、怪物はけたたましい雄叫びをあげながら、拳を作り、大地に叩きつけようとしてる。
明らかに自分へ攻撃してくるノウェムたちを確実に潰そうとしていた。
「何をする気」
ルラキが吐露すれば、ノウェムは“静の闘気”で先を視て、最悪なシナリオを知る。
「まずい! 奴は私たちを確実に潰す気だ」
「おいおい……!?」
「あの巨体で拳を振るったら、地震どころか地形が変わっちゃうぅー!?」
ユキネが具体的に最悪なシナリオを言っちゃえば、残りの皆にも動揺が伝染する。
「冗談じゃねーぞ!?」
「力いっぱい、拳を振るったら……」
アオとクロの視線は遙かな後方にある“黄銀城”に甚大な損害を被ることになる。
「ナギニ! すぐにレイルズ殿に撤退するよう伝えろ! このままでは全滅だ!」
「お、おう」
クロに言われ、ナギニは既に退避した東方貴族の諸侯軍と東方支部の面々を引き下がるよう伝達に向かおうとしたが、トビマル、タカマル、ワシマルらが割り込む。
「問題ない。既に自分らが危険だと思い、撤退するよう話しておいた」
「あと、“白銀の黄昏”の大将と親衛隊のユウトって奴は……」
「今、別の敵と交戦中……こちらに加勢してくるとは思えん」
トビマルらがそう報告してくれたおかげ、トップの戦況を把握することができた。
「他は?」
「それが――」
タカマルが報告するのと同じタイミングで怪物が拳を大地に叩きつけようと振り下ろそうとしていた。
「まずい!?」
「退避ー!?」
逃げるよう叫ぶが、間に合わないのは明白な事実だった。だが、それも――
「“剣蓮流”・“神大太刀”!!」
戦斧から振るわれた神速の太刀が振り下ろそうとした片腕を斬り落とした。
『……!!』
誰もが驚くのに、一人の声が木霊する。
「なに? “白銀の黄昏”も“豪雷なる蛇”の主力が揃っていて、この体たらくとは……情けないね」
スタッと降り立つ少女。戦斧を担いでの登場はまさしく、救世主そのものなのだが、言い分があまりにも辛辣だった。
「いやー、よーく見ても相手が悪かったとしか思えないんだけど……」
続いて姿を見せる少年がノウェムたちをかろうじて、フォローする。
「…………」
二人が何者なのか、ノウェムは姿を見ただけでわかる。
「まさか、皇族親衛隊に助けられるとは……」
(恥ずかしいかぎりだ)
後ろめたい気持ちを抱かせるも、今は背に腹はかえられない気持ちでいっぱいなので、くだらないプライドは捨てることにした。
「ノウェム! コロネ!」
「無事か!」
そこに顔なじみの二人、ヤマトとヒロが近寄ってきた。
「ヤマト……ヒロか……そっちは大丈夫か?」
ノウェムは自分のことより、仲間のことを優先する。すると、そこにルアールとティナ、リィエルの三人が近寄り、傷の治療に入る。
「ノウェム。今は他人のことより、自分のことを心配して!」
「とりあえず、傷を治療する」
「コロネも」
治癒魔法をかけられ、痛みに苦悶するノウェムとコロネ。
「これほどまでに疲弊してるとは……」
ヒロは周囲を見渡し、ノウェムだけではなく、全員が全員、予想を遙かに超えて疲弊しきっていた。
「それほどまでに、あの怪物はすごいということに――」
二人の視線が上に見やれば、怪物は口を開く。
「――、――――――、――――!!」
声にならないけたたましい雄叫びをあげる。雄叫びを上げつつ、斬り落としされた腕を掲げれば、大気中の外在魔力と体内の内在魔力が欠損した腕に集中し、また新たな腕を形成して、復活した。
腕が復活したとか、力が増大とか、関係なく、ヤマトたちも動揺を隠しきれない。
「なに、今の……」
吐露するヤマトにノウェムが答える。
「あれが、あの怪物の能力だ。あいつは喰らえば喰らうほど力が増大し、図体がでかくなっていく」
「ハァ!?」
「つまり、あいつは最初から、あのデカさじゃなかったのか!?」
驚愕の事実にクワッと目を見開くヤマトとヒロ。
「冗談じゃねぇだろ」
「あれでまだデッカくなるのかよ」
苛立ちを吐くシューテルとシーホも到着した。
「シューテルさん!」
ライナは勇み足に彼のもとへ駆けつける。
「おぉ、ライナ。オメエらは無事だったか?」
「は、はい!」
シューテルの前で忠犬ぶりを発揮するライナ。ライナの豹変ぶりにノウェムらは『またか』という印象を持たれ、タークらとミバルらは『なるほど。なるほど』とにやついてた。
「じゃあ、現状を伝えるぜ。敵本拠地にいる敵は軒並み、倒してきた。
あとは大将同士の戦いと、このデカ物だけ! 気を引き締めろ!」
『はい!』
「まだ戦える連中だけは残り、戦えねぇ連中は後方まで下がって治療に専念しろ!」
「ルアールを中心に治癒魔法が扱える奴は後ろへ下がろう!」
シューテルの指示にヤマトが補足し、戦えない者たちを下がらせる。
一方で、ヒロはデカ物になった怪物を見つめる。
「コレール……」
吐露する名前だが、怪物は声にならない声を漏らすだけ。ヒロの声にも気づいてる様子がない。
「ヒロ。知ってるのか?」
ヤマトの問いかけに全員の視線がヒロに集中する。
「奴はコレール。“死旋剣”の一人」
「“死旋剣”か……チッ、幹部が相手かよ」
「あの~、彼は巨人族ですか?」
ユキネはおそるおそる核心に迫る問いを投げる。しかし、ヒロは首を横に振る。
「いや、コレールは巨人族じゃない。人族。巨漢の人間だ」
たった今、ヒロの口から語られた答えに空気が凍りつく。
「今、なんつった……」
「元々は人族!?」
「巨人族でもねぇのなら、どうやって、あんなに図体のデケェ怪物になったってんだ……」
驚きの連発に顔を引き攣ることしかできないシューテルら一行だが、問題は別にあった。
「っていうかよ。これ以上、デカくなったら、大変だぞ」
「攻撃を喰らえば、傷が消え、強くなって復活する」
「逆に逃げようにも、あの巨体の一撃を見舞えば、確実に地形が一変するぞ」
シューテル、シーホ、タークの順に最悪のシナリオを言う中、ミバルは悔しさを滲ませる。
「攻撃してもダメ。逃げるのもダメ。ああ、もう! せめて、力の源を潰せば、解決できるのに!!」
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