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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
東方交流~決戦~
204/302

悪魔を狩る天使と暗殺者。

 凜々しく、雄々しいと思えるヒガヤだが、明確な作戦なんて存在しない。効果的な奇策はなんてものも存在しない。

 だが、これ以上の時間は無意味と判断しただけ。

(今から、目の前の怪物を相手にすると緊張するぜ)

 そう決意したとき、緊張で震える手を後ろから握られた。

「あん?」

「……二つだけ約束して。奴とは正面に立たないで。背後に回ることに専念する」

「んなもん、分かってる。真正面から勝てる相手じゃねぇよ。

 もう一つは?」

「私のことは何があっても考えないでください。見ての通り、天使族(エンジェル)ですから、頑丈なところもあるんです」

「…………」

(信用できねぇ)

 ヒガヤはメリナが言ってることが信用できず、白けた面を向けようとしたが、彼女の声に微かな恥じらいと自嘲があったので、心の中に留めることにした。

 彼は頷いて、彼女の手を放す。柔らかな感触が名残惜しく思えた。

 メリナから離れる。

 ヒガヤは二振りの短剣を抜いて身構える。

 彼方から歩み寄るヌッラ(怪物)と対峙する。

 全身を一度、脱力し、“静の闘気”を限界まで高める。刃を掠めるだけでも、相手の“闘気”を感じられるほどまでに感覚を強める。

 同時に“動の闘気”を全身に覆って、生命維持をできるかぎり持続させる。

 氷河で活動できるのは良くて一分弱。

 その間は人としての感情を捨て、暗殺者、いや、兵器となる。

 恐怖も昂揚もあとにする。

 ――今から。

(俺は奴を殺すだけの暗殺者になる)

 覚悟を決めた眼差しが歩み寄ってくるヌッラ(怪物)を射貫く。

 ここでヌッラは歩みを止め、ヒガヤと視線を合わせる。

 ヌッラは彼を意識している。

 これまでの戦いで強敵認定をした時点で無視することができない。

 互いに相互理解などない。

 彼はヌッラを敵と見做す。

 奴も同様にヒガヤを敵と見做す。

 これ以上にないほど対等だ。

 彼らは十分にわかり合っている。


 瞬間、ヒガヤは目を見開き、氷河()を蹴って駆けだした。

 たった十メルの間合いを走る。

 生き残るにして、死ぬにしても、最後の逢瀬にしては短すぎる。

 時間にして数秒も満たない。呼吸にして一回の刹那。

 ヌッラは手をかざして、メリナめがけて氷塊を放つ。

 放たれた氷塊はヒガヤを無視して過ぎていった。

 的確だ。

 奴は接近する彼よりも先に、心身共に疲労しているメリナから先にトドメを刺しに動いた。

 ヒガヤは振り向かない。その余裕がない。歯を鳴らして奴の間合いに入り込む。


 短剣と槍。

 得物のリーチは比ぶべくもない。

 彼が初撃を通すには、この初手を潜り抜けなければならない。

 ヒガヤめがけて、刺突が放たれる。

 人族(ヒューマン)どころか、異種族の枠を超越した筋力で撃ち出される一撃。

 躱せるはずがない。

 だが、どういうわけか。

(あ?

 目に光がある。力に飲まれたからとて。鋒に合理と経験がある。溢れ出す暴力に頼る愚鈍さが抜け落ちてる)

 つまり――

(こいつは今、俺らと同様に生存に死力を尽くす、単純な生き物ってわけだ)

 迫り来る槍が上空から襲いかかる蛇腹剣によって崩される。

「――!!?」

 ヒガヤの心臓に届かなかった。

 貫くだけの一撃は、後方からの一撃で弾かれたからだ。

 ヒガヤとヌッラとて万能だが、ヒガヤは人族(ヒューマン)、ヌッラは魔族(ゾロスタ)たる単一の生き物ならば、天使族(エンジェル)たるメリナは才能の複合体。いや、メリナは()()()()と言えよう。


 ヒガヤも今になって知る。

(背中を預けるとわかる。このメリナ()は俺以上の基礎能力(スペック)を持ってる)

 ヒガヤはヌッラの背後に回り、初撃を通し、正面からメリナが長大な蛇腹剣を振るった。


 そして、一分以上の絶頂が始まった。

 ぶつかり合うヒガヤとメリナの攻撃をヌッラは槍と体裁きだけで応じる。

 正面から打ち合うメリナとヌッラ。

 背後に回る小兵の一刺し。

 ヌッラ(怪物)は決して背中を見せず、ヒガヤとメリナ(二人の敵)を視界に収めながら、立ち回る。


 踊るような刃の交わり。

 超絶技巧で叩かれる交響曲。

 回転する無骨な刃。その隙間をかいくぐる凶刃の一撃。

 それらを同時に弾きながら、的確に連弾の急所を突く氷の槍。

「ッ――、ァ――……!」

 初めての共演、共闘、それはまさに舞踏会のワルツそのもの。

 メリナはヒガヤが影になるように立ち回り、ヒガヤはメリナの可動範囲に入らないように足を滑らせる。

 仮に、もし、ヒガヤとメリナ(この二人)が舞踏会で踊った場合、出来たてホヤホヤのカップルもしくはコンビどころか、()()()()()()()あるいは()()()と称されるのは間違えない。


 火花を散らす紙一重の攻防。

 際限なく上昇するボルテージ。

 一秒ごとに凝縮していく集中。その集中はまさに、超人の域に達する。

 たゆまぬ鍛錬と実戦を経て、得られる極限の集中力。

 ヒガヤにとって初めての経験だ。()()()()()()()()()()()()()()()だった。


 初めての経験だからこそ、一番体験すれば、また同じように極限の集中力を得ようと試みるも、かえって、それが無駄な感情(雑念)となって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こともある。

 ヘルト(ズィルバー)は同じような経験をし、望めば望むほど、手が届かなくなってしまうという精神的な病(スランプ)に陥ってしまった。

 故に、まず、基本に立ち返り、たゆまぬ鍛錬と実戦を通して、極限の集中力を得られるきっかけ(トリガー)を手にするべきだと、ズィルバーはいずれ、ヒガヤに進言することであろう。


 それを抜きにしても、ヒガヤは紙一重の攻防の中、刃を交えることで、ヌッラの心境を、“竜王カノープス”の心の内が“静の闘気”を通じて流れ込んでくる。

(なんて目映いんだ。今まで見たことがない。ここまでの激闘は初めて。そして、初めて見る。

 ヌッラ()原理(心の内)を――)

 ヒガヤはヌッラの原理()を、“竜王カノープス”の原理()知覚()た。

 決して理解しあえぬもの。

 言語、記録で理論を構築する思考形態では見えないはずの、光を見た。

 全ての原点。

 世界の始まり、歴史の始まり、英傑の始まり、自らの始まりを見た。


 原理()を見たヒガヤは理解する。

(こいつなら、俺たちでも殺せる)

 彼は人族(ヒューマン)の、異種族の範疇だと理解した。

 ヒガヤとメリナ(自分ら)なら確実に葬ることができる。


 ■の聖域。世界(ソラ)を覆う天蓋は謳う。

 ■に呪いあれ。人の世、世界に呪いあれ。

 未だに、この()()()()()()()()()()()()()()()()


 刃を交える中、ヌッラはヒガヤを見る。

「――貴様」

 炎のような殺気に肌が焼かれる。

 耽っていた意識が戻る。

「我の、なにを視た…………!!!!!!!!!!!!」

「“白銀の黄昏シルバリック・リコフォス”の暗殺者、下がって……!」

 メリナが氷河()を蹴って、声を飛ばす。


 ヒガヤの耳にも声が届く。

 だが、視線を向けるだけの体力がない。

 己も不覚さを呪った。

(初めての経験だったからな。つい、見過ぎちまった……)

 ヒガヤはメリナに振り向くどころか、目の前に迫る槍すら捉えられなかった。


 メリナによって距離を取らされたヒガヤは

「っ――、は……!」

 一息で十メルもの距離が空いた。

 彼女が彼を後ろから抱きかかえて、ヌッラ()から距離を取ってくれた。

 だが、十メルも離れているのに、ヌッラの殺気はヒガヤに向いている。

 息をつく余裕はない。

(ここまで離れていても届く殺気。あれは完全に俺を殺すことしか頭にねぇ。

 ちょっち、“静の闘気”で、ヌッラ(あいつ)の心を読み取りすぎたようだな)

 ヒガヤはここで自重する踏ん切りを見つけた。


 氷河()に足を付けたところで、ヒガヤはメリナに離れるよう告げる。

「おい、“聖霊機関(デ・セカンム)”の女スパイ。もう離れろ」

(へたに()()()()()()()()()()()()()()()()

 彼はメリナに対して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気づいていない。

 振り向かずに声をあげる。

 腰に回された腕が解かれる。

 背後で重いものを手にする音がした。

「どうやら、お互いに限界が近いようですね。

 自分がどのような状態か分かってる?」

「ああ、まだ常人の俺が超人然とした振る舞いをすれば、身体の至るところが負傷するに決まってる。

 両腕で一撃分の力しか残ってねぇ」

「そう。じゃあ、()()()()()もいいんだよね?」

「――何を言ってるんだ?

 背中を預けた以上、信じるほかがねぇだろ?

 それとも何か、お前自身、()()()()()()()()()()()って言うのか?」

 彼は遠回しにメリナが自分に()()()()()()()()()()()()()()()()のか指摘する。

「――ッ!?」

 その指摘にメリナは言葉を、息を詰まらせるも

「そんはずがありません」

 やんわり否定する。だが、頬が僅かに赤くなり、ほんの少しだけ笑みを浮かべてたのをヒガヤは見逃さなかった。

(なんだよ。自分だって、人のことを言えねぇじゃねぇか。

 まあ、俺も人のこと言えないけど……だが――)

 彼がつい笑いながら答えた際、目線を逸らしてたのを目に焼きつけた。

 少しだけ胸が苦しい。

 どんな状況であれ、自分の気持ちを理解してもらえるのは、こんなにも嬉しいことだったのか再認識する。

 姿勢を取るヒガヤ。

「よし、じゃあ、いくぜ。女スパイ」

「その言い方はよろしくありませんが、いいですよ。

 暗殺者。まっすぐに自分ができることだけを優先してください」

 言葉を合図にヒガヤは氷河()を蹴り、メリナは宙を舞った。

 もはや、迂回するだけの余力はない。

 彼は正面から疾走を開始し、一息の間を取って彼女は追走する。

 撃ち出される氷の槍。

 槍は全て、ヒガヤに向けられている。にヌッラ(怪物)とって、彼女は、もう()()()()()()として格上げされた。

 だが、届かない。

 耳を裂く射撃音と共に、メリナの銃弾が文字通り、氷の槍を雨に変える。

 彼女は意味もなく後退するなどしない。

 必ず、理由をもって行動する。

 先ほど、あの位置に跳んだのは、落としておいた銃を拾い上げるためであった。


 氷河()を駆けていくヒガヤ。

(あと一息。あと一息で貴様の命を刈り取る。

 狙うは一点!)

 ヒガヤは確実にヌッラ(怪物)を仕留める場所は心臓。本来なら、首を飛ばせば、それでいいのだが、相手の力量、反応速度、再生速度を鑑みれば、確実に勝負を付けるために心臓を狙う。

(心臓には“闘気”の流れ、血液の流れ、その全ての流れの基点だ。

 ならば、その基点を突けば、必ず、このヌッラ(化物)も死ぬ!)

 確証を得ていた。

 無論、このままでは、ただの絵空事。

 全身全霊をかけているのはヌッラ(怪物)も同じだ。どれほど衰弱していようと身体能力では僅かに奴の方が上だ。

 この槍の一撃だけは、ヒガヤだけでは凌げない。

 だから、メリナの助けに懸ける。


 構えるヌッラ。

 奴にとって、この秤をどう取ったか。


 氷河()を走るヒガヤと、上空から援護するメリナ。

 瞬時の判断で、奴はメリナこそ危険だと理解した。自分を殺すのは、あの小娘だと。

 だが――

 だが、その全ての直感を排斥して、奴は地を這う彼を選んだ。

 激情に流れたのではない。本能という絶対命令を、意志の力で押し曲げた。

 “呪解”したばかりの怪物ではない。一人の戦士だ。その戦士が本命を無視するために、果たして、どれほどの意志力を必要としたのか。怒りなど生温い。己の全存在をかけるだけのこだわりが、誇りが、奴に彼を殺すだけを選ばせた。


 この時、ヒガヤは思った。

(なんて奴だ。なんてスゲぇんだ。なんて素晴らしいんだ。

 だが、なんて愚かだ。なんて浅ましさだ。

 俺らは互いに種族が異なろうが、住む場所が異なろうが、俺たちは自らの正義のため、生き残るために、こうして刃を交えた)

 白き翼をはためかせ、宙を舞うメリナが蛇腹剣を振るいながら、言葉を紡ぐ。

「枷は解けり、骨は外れり、仇は成せり――」

 逃れようのない鉄の腕が振り下ろされる。

 この極限において、例外者はなく、全身全霊というのなら、彼女も同じ。

 それは彼女に道を示すように、

「その遠吠えは万里を手繰る――!」

 地を裂く轍となって、奴の半身を打ち砕いた。

 衝撃に揺れる槍の鋒。

 僅か、誤差数ミリのブレがヒガヤの頭を胴体に繋ぎ止める。

 左肩を撃つ氷塊。

(構わねぇ!)

 撃ち抜かれた衝撃に抗いながら、踏み込む。

「“暗殺術”、“閃牙(せんが)”!!」

 猛獣の牙で噛みつかれるかの如く、二振りの短剣の刃がヌッラの心臓をめがけて放たれる。

 刃には、これ以上にない“動の闘気”を纏わせた。

 ズッ、という感触。

 その刃が容易く、ヌッラ(怪物)の胸に滑り落ちた。

「――――――――!」

 声にならない雄叫びを上げる。

 地面に転がり、激痛で顔を顰める。

 なぜ、激痛で顔を顰めたのかは分からない。だが、刃を通して、“闘気”を通して、ヌッラの心の内が流れ込んでくる。

 而して、流れ込んでくるのは、それだけではない。ヌッラをパワーアップさせる要因となった“呪解”。その力の大本である“()()()()()()()”の()()()()が彼に襲いかかった。

 襲いかかる力の奔流がヒガヤの身体をメタメタに痛めつけてくる。

 全身が焼ける。今になって、“呪解”の大本となった力を改めて知ったヒガヤ。

 いや、より正確に言えば、星獣の力を初めて知った、といった方が正しい。

 だが――

「――貴様――」

 激痛に揺れる頭が、漠然と理解する。

「ク、ソ……」

(足りなかった。あいつを仕留めきれるだけの“闘気()”が足りなかった、か)

「――ク、ソ……」

 失敗したと悟り、悔しがるヒガヤ。

 短剣の刃がヌッラ(怪物)の心臓をめがけて放ったも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あと、もう一踏ん張りを見せてれば、例外もなく、確実に殺せていただろう。

 そして――

「――喰らってやる――!!」

 その身に襲う死の恐怖から解放されたヌッラ(怪物)

 ただの戦士へ返り咲こうと、凶爪を振りかざす。


 そこに――

「喰らわれることなく、終わるのは、あなたです!

 ――ヌッラ!!」

 薙ぎ払う蛇腹剣。

 伸縮する大剣は悪魔の身体を、文字通り蛇のようにくわえ込む。

 音を立てて、回転する断罪刃。

 メリナを中心にして、発生した竜巻は、ヌッラ(怪物)の身体を宙に打ち上げ、そして――

「――命は燃える人は病む。血肉は脆く智慧すら溶ける。なれば、静かに立ち帰れば救われる故郷があろう」

 言祝ぐ詠唱。

 変形する鉄の刃。

 剣は収まり、その形は杭打ち機に変えて、落下するヌッラ(怪物)を迎え撃つ。

 宙に打ち上げられたヌッラは言祝ぐ詠唱を聞き、怖気が奔る。

「――待て。それ、は――」

「――()()!?」

 怖気が奔ったのはヌッラだけじゃなく、ヒガヤも同じであった。


 それは、洗礼。

 天使族(エンジェル)()()()()()()()()()()()()()”。

 現代では文献でしか知り得ない噂の産物である。だけども、千年前では聖言を口にする天使族(エンジェル)は幾ばくか存在した。

 大天使ノイ。彼も魔術(魔法)を使う際、“聖言”を用いていた。而して、時代が流れるにつれて、天使族(エンジェル)も数を減らし、“聖言”という存在を噂でしか知られない。

 “聖言”とは悪を滅し、洗礼する秘術。

 魔族(ゾロスタ)を滅し、人族(ヒューマン)を救世し、導くとされる洗礼。

 そして、それは“吸血鬼族(ヴァンパイヤ)”と“呪解”した魔族(ゾロスタ)に絶大な力が発揮する。


 ヌッラ(怪物)に振るわれた一撃。

 それは逃れようのない死の一撃。

 あばら骨はおろか胴体ごと撃ち砕く衝撃を受けて、ヌッラはなおその凶爪を伸ばす。

「貴様――そうか、貴様もか……!

 どこまでも卑しいぞ、天使共!

 死ね、死ね、死ね、死ね……! 俺はここで死ねるか!!」

 それは、今までのヌッラ()には微塵も見られなかった、心からの憎しみだった。

「滅ぶがいい。

 祈りを胸に――“天使の祈りを贖いにエンゲル・デル・ゲート”!」

 最後の詠唱を紡いだ途端、杭打ちが爆発した。

「Aa――――aaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 天を突く断末魔の声。

 容赦もなければ、慈悲もない。

 その杭は罪人を咎める神罰となって、この地上からヌッラ(怪物)の全存在を消滅させた。


 ヌッラの消滅をもって、吹雪は一瞬にして収まった。

 本来なら、誰もが喜び合う中、ヒガヤとメリナはというと――。


 晴れ渡り、静まった空間。

「結局のところ、美味しいところをもってかれたな」

(これじゃ、俺が出張った意味がなかったみてぇだ)

 不貞腐れるヒガヤ。

 だけど、彼は起き上がり、静まりかえった部屋を見渡した。

 彼の言葉には悔しいような、誇らしいような、そんな感想が零れた。

 心肺機能が喜びの悲鳴をあげる。

 長く止められていた呼吸を、ようやく再開させた。

 足が動かない。

 気を緩めたら、意識を失ってしまうという事実だけが、頭の中に残っていたのだった。

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