英雄は精霊と契約をする。
レインから俺が死んだことで周りがどれだけ悲しんだのか知らない。女神――レイがどんな思いで俺の死別と向き合ったのかも知らない。だから、いつかは謝りたい。キミの墓前で誓いたい。俺はもう無茶はしない。誰からも心配されないようにすると誓おう。それだけのことをしたのだから。それで、レインにも……。
俺は顔を見上げ、レインの顔を見る。涙を流したことで赤く腫れている彼女の目元。それだけ、俺に再会できたことを喜んでいるのだろうと思う。
だからこそ、ここで誓いたい。
「レイン。キミにお願いがある」
「なに、ヘルト?」
もう、誰も悲しませたくない。
「もう一度、俺と契約して」
俺から彼女に契約するのを告げる。
彼女はいきなりのことで「え?」と言葉を漏らす。
「いきなりなのは思っている。だけど、ここでもう一度、誓いたい。もう、キミや父さん、母さん。家族の皆から心配されたくない。烏滸がましいと思うけど、お願いだ。レイン。俺ともう一度、契約をしてくれ」
許しを請うように俺はレインに頭を下げる。貴族ならば、あるまじき行為かもしれない。だけど、誰かを悲しませたくないためだったら、頭だっていくらでも下げるつもりだと俺はこの時、決めた。
俺はおそるおそる、顔を上げてみる。顔を上げてみれば、レインは怒っているのかと思いきや、穏やかな笑顔を浮かべている。俺は思わず、
「怒っていないのか? 俺がキミやレイを置いて先に死んでしまったことに……」
「怒っていないわ。こうして、またあなたと一緒にいられるんだもん」
「……レイン」
「でも、これだけは誓って――。二度と無茶だけはしないこと。良いわね?」
「もちろん。キミを泣かせたんだ。俺はもう、無謀なことはしないよ」
俺は誓うために手を差し出す。レインも俺に準じてくれたのか手にとって撫で始める。
「ちゃんと守ってよ。あなたは悲しむ友のためなら私の言うことを無視して無茶するんだから」
「面目次第もございません」
レインにそう言われてはなにも言い返せない。すると、レインは俺の手に触れて詠唱し始める。詠唱を始めると大気のマナが反応して光りだす。光が俺とレインに集めていく。集まったところで、レインは誓いの宣言を唱える。
「汝。我が剣。我が命を誓う。我は聖帝レイン。汝をいつ、いかなる時、守りし者」
「誓う。我は汝の使い手となり。汝の主となると誓おう」
俺も誓いの宣言を唱えて、レインと契約を済ませた。
レインとの契約の証である刻印。刻印の位置は胸。心臓がある位置に刻印された。
「これで契約は完了したわよ」
「ありがとう……レイン」
途端、急に胸が苦しくなり、ハアハアと荒い息遣いでベッドに倒れ込んだ。
「ちょっと、ヘルト!? 大丈夫!?」
「大丈夫……じゃない……息が苦しい……」
「身体を起こすけどごめんね」
レインは俺をゆっくりと上体を起こさせ、上半身を着ていた服のボタンを外されていく。彼女に控えめな胸の膨らみが、俺が女性体であることが知られてしまった。
「……レイン」
俺は恥ずかしげに腕で胸を隠す。レインは俺が女であることに驚かずに服を脱がせる。彼女は服を脱がせると深呼吸してオドの操作をする。準備が整ったのか俺の露出した背中に、右の掌をそっと触れられた。
「……ッ……」
触れられた途端、温かいものがそこから流れ込まれてくる。俺の背中をさすりつつ、レインは俺の身体を聞いてくる。
「ヘルト。この娘の身体。性転換しているよね?」
「ああ、この少年いや少女か。この身体の持ち主ズィルバー・R・ファーレン。彼は俺と同じ『両性往来者』だ」
「やっぱりね。オドの流れが歪だったから。それと今のあなたはズィルバーなのね」
「その通り。だから、これからはズィルバーと呼んでくれ」
「わかったわ」
レインはそう納得して俺のオドの流れを調整した。次第に俺のオドの流れが安定してきた。安定してきたことで俺を苛んでいた息苦しさも徐々に薄れていった。
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