異常性と呪解と乱入者。
拷問の類を受けてるにもかかわらず、平然としているユンに恐怖を抱くハムラ。
ズィルバーはハムラとは違った感情を抱かせる。
(アルスから聞いたことがある。暗殺者は敵に捕まって拷問や尋問されようとも口を割らない訓練を教育として叩き込まれてると言ってた。
その教育の一環として電気を浴びる訓練をされてると聞いてたが、ユンの場合は明らかに異常だ。
アルスでも夥しい教育の果てに電撃に耐えうる身体を手にしたと言っていたが、ユンの場合は違う。
ユンはベルデと同じように生まれつきで雷耐性を持ち合わせていた。
そこに落雷に打たれた。だが、いくら落雷に打たれたとはいえ、雷の出力で戦っていて平然と言われるのはおかしい)
ズィルバーは過去にアルスからファング家の教育方針について聞かせてもらったことがある。
ズィルバーですら、ファング家の教育方針には歪というか恐怖を抱かせた。
そのズィルバーがユンの異常性に恐怖しないわけがない。
(ネルの力に耐えうるために天が……いや、奴らがそうさせたんだろうな。
全く、傍迷惑な連中だぜ)
ズィルバーはユンに落雷を浴びさせた連中に心当たりがあり、内心、罵詈雑言を吐き散らした。
実際、身体に電気を帯びさせて戦うことは非常に危険なことである。
身体に電気を帯びるというのは一時的に人体の限界を突破することに相当する。
現代では電気による神経の伝達速度を向上させることが判明されている。
而して、それを生かそうとする輩は存在しない。理由ははっきりと分かっている。
一時的とはいえ、人体の限界を超えた能力を使用すれば、反動で死の一歩手前まで追い込ませるほどの危険な代物だということが判明した。
歴史学者が過去の歴史を調べて、電気を帯びたまま、戦場を駆け回った英雄がいないか調査したところ、東方を統治するパーフィス公爵家、初代当主が電気を身体に帯びたまま戦場を駆け回ったという伝説が記されていた。
無論、パーフィス公爵家の中にも電気への耐性を持つ者が生まれたという記録が残されている。
この記録をもとに身体に電気を帯びたまま戦えるのか国が研究・実験を推進しようとしたが、パーフィス公爵家の方から抗議してきた。
現代に至るまで電気を身体に帯びたまま、身体を動かせる人族は存在しておらず、電撃に耐えるだけの精神を持ち合わせていないとのことだ。
而して、現代において、国が研究・実験したかった実験体が生まれ、過去の歴史を立証してくれていた。
立証せし者は少年。
ユン・R・パーフィス。
パーフィス公爵家の次期当主にして、ベルデの血と意志を受け継いだ若き蛇である。
「あら、いくぞ!」
ユンは再度、“神威”を使用し、自らの意志で身体を動かせる“電光石火”を選択した。
電気で身体に負荷をかけて超人ばりの動きをする“神威”を連続で使用するユン。
而して、くりだされる拳と蹴りのキレがなく、繊細さが欠けていた。
「――ッ!」
「どうした? さっきとは動きにキレがないぞ?」
建物から飛び出て、宙に浮いてるハムラめがけて拳と蹴りの応酬を叩き込んでいるユン。
だが、ハムラの指摘通り、動きに精細さがかけていた。
それは指摘されるまでもなく、ユンも分かっていた。
「チッ……」
(先に“疾風迅雷”を使っちまったのが痛かった。
“疾風迅雷”も“電光石火”も“闘気”の消耗が半端ねぇ上に“闘気”の総量で持続時間が決まっちまう厄介な技だ)
初めから切り札を使うときは敵に隙を与えず、一気に勝負を持っていかせるしかない。
そういう腹づもりでユンは臨んでいた。
「くっ……」
一行に攻撃の手を緩めないユンにハムラはニヤリと妖艶な笑みを浮かべる。
「どうした? この程度では……妾を倒せんぞ?」
「ッ――!?」
わざとらしい挑発にユンは激昂し、感情を表に出しかける。
一瞬、激昂する感情を理性で抑えた。
その一瞬に生まれた隙。ハムラが反撃に転じる。
「どうした? 攻撃の手が緩んでおるぞ?」
「――ッ!? しまっ――!?」
「“妖狐無限突き”!!」
尾の先に“動の闘気”をより大きく、より強く纏わせ、四方八方から突き攻撃をし始めた。
逃げ場がないことを悟り、ユンは咄嗟の判断で全身に“動の闘気”を纏わせたが“闘気”をなけなしに纏わせていても尾に纏われた“闘気”が軽々と貫き、身体を突き刺した。
「うぐっ……」
身体に走る痛みがユンの集中力をかき乱す。
(た、耐えるしか……)
ユンは身体に襲いかかる猛攻を耐えるしかなかった。
ユンがハムラの猛攻を耐えきろうとしているのと同じようにシノとシノアも敵の猛攻を耐えようとしていた。
オピスによる拳の猛攻。エラフィの蛇腹剣で鎌を封殺された上での手刀の猛攻。
シノもシノアも敵の猛攻を耐えるために“動の闘気”を身体に纏わせて、身構える姿勢を取る。
“闘気”の総量で“動の闘気”の強度が大きく変わる。
たとえば、シノが纏っている“動の闘気”の強度ならば、岩石レベルの硬さになるが、シノアが纏っている“動の闘気”の強度ならば、鉱物と岩石が入り混じるレベルの硬さになる。
而して、いかに強度を高めても、攻撃側の“闘気”の練度と身体能力で大きく化けることがある。
身体能力が低く、“闘気”の練度も低ければ、その威力は水が滴る程度――。
身体能力が高く、“闘気”の練度が低ければ、威力が霧散した一撃となり、身体能力が宝持ち腐れとなる。
身体能力が低く、“闘気”の練度が高ければ、威力が弱くても一点集中の攻撃力になる。
身体能力が高く、“闘気”の練度が高ければ、威力は強く、一点集中でありながら、痛烈な攻撃力となる。
オピスとエラフィによる猛攻は身体能力が高くても“闘気”の練度が低いため、威力が霧散した一撃だが、霧散している“闘気”が防御している“闘気”の強度を壊そうとする意志が働き、綻びが始まっている。
「ぐっ……」
「うっ……」
身体を身構えて、ひたすら防御し続けているシノとシノアの二人。
(相手が獣族な分……)
(一つ一つの威力が高い……けど、“闘気”の扱い方がお粗末ですね……このまま――)
(耐えきれば――)
勝機があると思い込んでいるシノとシノアに対し、オピスとエラフィは攻撃の手を緩めて、距離を取った。
シノとシノアもティアと距離が離れているが、フィスの加勢されても困るので、無意識に二人で受け持つ姿勢を取っていた。
拳圧で皮膚の皮一枚は切れ、服も袖やストーキングも裂けていた。
而して、威力はさほどのものではなかったからか。打撲で腫れていることもなく、打ち身程度で済まされている。
「大丈夫、シノア中佐?」
「中佐を付けないでください。年齢に見合わない実力と階級を手にしているだけですから」
「階級に傲ることなく、自重し、謙虚でいるだけでもさすがのものよ」
シノはシノアが卑下するどころか賞賛していた。
それは味方だけではなく、敵すらも卑下するどころか賞賛していた。
「なるほど。情報通り、中佐だったか。だが、傲慢とか傲りとかがないところを見るに、侮れないな、エラフィ」
「それはあなたの相手も同じではなくて、聞けば、皇家出身だとか……普通だったら、権力を盾にするかと思いましたが……それをしていないとなれば、随分と性根が優しすぎると思います」
「やっぱ、そう思うか。実のところ、あたしも同じことを思っていた。情報なんざ当てにならないって思っていたが、バカにならないな」
「その考えだけは同意します」
オピスとエラフィの言動からシノとシノアの人となりに関しては調べられているようだ。
と、すれば、二人の戦い方なんて熟知済みということになる。
「このままズルズルと戦っていると面倒だな」
「それは言えていますね」
ジャラジャラと蛇腹剣が床に横たわる。
「一気に片を付けちまおう……その方がフィス様のところへ加勢にいけるからな」
「戦場で出し惜しまずに死んじゃうと末代まで呪いたくなりますし」
何やら策があると踏んだシノとシノアは身構える。
(急に――)
(雰囲気が変わりましたわね)
オピスとエラフィに纏う空気が大きく変わりだした。
オピスが腕輪を叩けば、輪っかが外れ、刃がジャキンと飛び出てくる。
「せっかくだから。見ておきな。ハムラって奴から授かった。あたしらの真の力って奴を――」
ニヤリと口角を吊り上げるオピス。
「突き立てろ――“アルデバラン”!!」
「締め付けろ――“スピカ”!!」
それはまさに精霊を呼び出す言霊にそっくりだった。
而して、精霊を呼び出す言霊は目覚めさせることにあり、オピスとエラフィが使用する“真の力”とは違っていた。
むしろ、二人に纏われていく“闘気”いや魔力はシノとシノアも今まで感じたことがなく、警戒心を露わにしている。
逆にシノアの契約精霊であるノイはオピスとエラフィが纏う魔力と名前に心当たりありまくりだった。
『今の名前……まさか!?』
(ノイさん?)
ノイの驚きようにシノアは訝しむもオピスとエラフィを包み込んでいた煙が払われると、二人が目にした姿は先ほどとは打って変わり、異種族の特徴を最大限に発揮できる姿をしていた。
オピスは額から二本の角が生え、全身を紺色の毛皮で覆われた姿を――。
エラフィは下半身が蛇となり、瞳が竜人族や妖蛇族と同じ縦筋が入った瞳になっていた。
「見た目が大きく変わりましたね」
「ええ。まさに獣族と言われても過言じゃない姿ね。だけど、おかしいわ」
ここでシノはオピスとエラフィの変化に違和感を覚える。
「獣族は種族ごとに特徴が変わるけど、自分の意志で姿を変えられる異種族のはずよ。
なのに、今、彼女たちがしたのは精霊を呼び出す方法と同じ。
どうして、学園の授業で人族以外の異種族は精霊と契約できるはずがないのに……」
シノは普段から獣族と一緒にいて、彼らの変身を間近で見ているためかオピスとエラフィの変化に些か、違和感を覚えた。
シノの違和感を答えるかのようにオピスが教えてくれた。
「せっかくだから。教えてやる。
貴様の言うとおり、あたしらは獣族さ。だが、ハムラの呪術によって獣族の力を剣の形に凝縮させ、“魔族化”した。
そして、あたしらの解放とはあたしらの真の姿……真の力の解放を意味する。それをハムラはこう言っていた。“呪解”ってな」
「“呪解”……」
「ついでに教えておきます。解放の際、口にした名前は大昔に存在したとされる生き物の名前からあやかっています。
確か、ハムラさんの話では“星の獣”とか“神なる獣”とか言っていましたわね」
オピスとエラフィが呼称した名前は過去に存在した獣の名前をあやかったというものだという。
シノとシノアはそこまで詳しくないので、小首を傾げるもノイだけは、その名前を知っていた。
「まあ、それでも私たちは、その獣の力を使用できるとハムラさんは教えてくれました」
『――ッ!?』
シノアを通して、聞いていたノイは動揺を隠しきれなかった。
『なっ……アルデバランとスピカの力を扱える、だと!?
ただでさえ、あの二体は“星獣”だぞ!? 今のシノアじゃあ相手はできない』
(ノイさん?)
ノイの動揺にシノアは煩わしそうに訝しむ。
(どうしたのですか、急に……)
シノアは頭の中でノイと対話をする。
『ああ。ごめん。動揺してしまって……だけど、今の二人には負担が大きすぎる』
ノイは今のシノとシノアの実力ではオピスとエラフィの相手にはならないと豪語する。
同時に、ノイの言葉にはかつて、相手をしたことがあるというニュアンスにも読み取れる。
(ノイさん。あなたの言葉には戦ったことがあるニュアンスにも聞こえます)
シノアはあえて、ノイに質問を投げる。
彼の過去に踏み入れるのは失礼だと思われるが、シノアはノイの契約者。彼の過去を知る権利ぐらいはあるはずだと考えている。
シノアからの質問にノイは黙りになろうとはせず、戦いに勝つため、知っていることを全て明かした。
『今、敵が口にした名前は“星獣”といわれ、神代に生息していた獣のことだ』
「“星獣”……神代に存在していた獣、ですか」
シノアはシノにも伝わるように声を発せば、シノもシノアの言葉に耳を傾ける。
『千年前、リヒト様とズィルバーらの手によって討伐され、現代では生存すらしていない獣。劣悪の環境下で生息し、度々、全種族に災いをもたらす危険な獣でもあった』
「劣悪環境下……そう言えば、北方で“白銀の黄昏”が着用していたコートも“大獅子シリウス”という獣の毛皮から作られたと聞いています」
『“星獣”には素材としても価値があるんだが、討伐するのが難解でね。普通に討伐するのは不可能だった。
それこそ、国家が総動員して討伐にあたらないといけない。ただ、当時は戦乱の時代……国家総動員で“星獣”を討伐すれば、敵国に攻め滅ぼされるのは常だった。だからこそ、リヒト様は智慧を振り絞って、“星獣”を討伐したとされる』
「改めて聞くと、伝説の英雄たちは恐ろしいですね」
「その血を受け継いでいるユンもズィルバーくんもすごいってことかしら」
シノとシノアも伝説の時代を生き抜いた末裔たる子孫も只者ではない実感させられる。
『とにかく、“星獣”を相手にするには中隊規模で挑まないといけない。それを単独で相手をするのは自殺行為だ』
ノイは“星獣”の力を、その身に宿したと思われるオピスとエラフィをシノとシノアだけで相手をするのは無謀だと言い放つ。
「私たちでは敵を倒すのは不可能だと言いたいのですか? ノイさん?」
シノアははっきりとした物言いでノイに訊ねる。
『正直に言えば、今のシノアではほぼ不可能だ。それこそ、精霊の力を使わないといけない』
ノイは強調することもなく、あえて、必要最低条件を提示した。
その条件を聞いたシノアはニタリと口角を吊り上げる。
「いいことを聞けました」
「何か、勝算があるの?」
「勝算というわけではありませんが、渡り合える手段を知りました」
シノアはシノに小声でノイが口にした必要最低条件を口にした。
その条件を耳にしたシノは思わず、目を細める。
「精霊の力って……それはつまり、精霊の加護がないと渡り合えないと同義じゃない」
「確かに、その通りです。つかぬことを聞きますが、シノさんは精霊との関係は?」
「まだ、仮契約中よ。私が契約する精霊は “サンダーフェニックス”。
学園の授業で姿を目にしただけで、それ以降は私の呼びかけに応じない。
私自身が未だに成長しきれていないのなら、召喚できないのも頷けるけどね」
シノは未だに精霊との本契約を済ませていないことを明かす。
「言っておくけど、ティアもハルナも未だに契約する精霊と本契約を済ませていないはずよ」
シノの言及からシノアはむぅーっと頬を膨らませる。
「精霊の契約ぐらい済ませておいてください」
遠回しに「役に立たない」と揶揄するシノアの言葉にシノは思わず、食ってかかる。
「うるさいわね。したくてそうなってるんじゃないから!」
言い合いに発展しかける状況下でオピスとエラフィは興味深い事実を知った顔になった。
「おい、聞いたか。エラフィ」
「ええ。聞きましたわ。まさか、人族でありながら、精霊との本契約を済ませていないとは……舐められたものですね」
「ああ。つまり、あたしらなんかに精霊の力を使うつもりがねぇってわけだ」
二人からバカにしてくる発言が気にくわないのかシノは反問する。
「舐めてもいないし。精霊の力を使わないなんて誰が言ったのかしら?
私だって、精霊と心を深めたいけど、私が契約する精霊は気難しい性格なのかしら。呼びかけに応じてくれないだけよ。
その気があったら、とっくの昔に契約しているわ」
シノは豪語する。
「そうかよ」
オピスは額から生える二本の角の間に高密度の魔力の塊を生成する。
「――ッ!?」
「なに、あの球体……」
(ものすごい魔力を感じます)
“静の闘気”を使用しなくても、圧と濃度がはっきりとわかる。
『まずい! すぐに左右に散れ!』
ノイが声を飛ばす。
しかも、その声は危機迫るかのような怒鳴り声に等しかった。
「シノさん。散開!」
「――ッ!」
シノアのかなぐり捨ての声に従い、左右に散る二人。
すると、二本の角の間に生成された球体が奔流となって二人がいた場所に放たれた。
放たれた魔力の奔流は大気を震動させ、圧となって、シノとシノアの身体にのしかかってくる。
それは同時に離れた場所で戦っていたティアとフィスも感じとれた。
「――ッ!?」
(なに、今の“闘気”の圧は……とても魔族や獣族なんかといった“闘気”じゃなかった。
もっと別の人族とか種族とかじゃなく、根本的に生き物としての性能が違うような気が……)
「余所見とは随分と余裕のようだな」
「しまっ――!?」
「フッ!!」
強烈な一撃を見舞われるティア。
咄嗟に剣を受け止めるも片手で振るわれる剣の重みに耐えられず、床にたたきつけられてしまった。
「あぁ――!?」
床に叩きつけられた衝撃が全身に走り、口から血を吐き出した。
フィスは追撃をせずにタンッと床を蹴って距離を取った。
果敢に攻めるのではなく、慎重な攻め。
フィスは最初からティアのことを舐めて戦ってはいなかった。
三人がかりとはいえ、“炎王”センを倒した女子だ。
子供として見ているのではなく、一人前の戦士として見ていた。
ティアもフィスが舐めていないことは動きの節々に見てとれた。
だが、シノとシノアの方から感じられた異質な“闘気”が気になってしょうがなかった。
異質な“闘気”を感じたのはティアだけではなかった。
「――ッ!」
(なんだ、この異質な“闘気”は……いや、この“闘気”……“星獣”じゃないか!?)
ズィルバーの動揺がレインにも伝わり、彼女も動揺を禁じ得なかった。
『確かに、これは“星獣”の気配……まさか、あんな怪物たちが現代に蘇ったというの!?』
レインもレインで厄介な獣が蘇ったと嘆いた。
ズィルバーはユンの方に視線を向ければ、宙に浮いてるとはいえ、ユンは未だにハムラとの戦いに集中していた。
(完全にハムラへ集中している。へたに割り込むのは難しいな)
ズィルバーは次にユウトを見つめる。
ユウトも頭から血を流しているだけで、損傷は軽微なものだった。
ズィルバーとユウトは“獅子盗賊団”の本拠地にいて、ユンは建物の外にいた。
「ユウト。分かってるな」
「分かってる。あの女狐を倒す主役はユンだ。俺らじゃねぇ。
俺も俺で主役を張りてぇな」
「そこまで嘆いていられるなら、大丈夫だろ。ユウト。ここから離れるぞ」
「ああ、他の戦線に協力に行こうぜ。さっきの異質な“闘気”が気にな――」
「――ッ!」
この時、ズィルバーとユウトは不意に巨大な“闘気”を感じとった。
「なるほど。見た目が変わっても、“闘気”だけは変わらなかったようだな」
「どれほどの時が経ったのかは分からないが、懐かしい気配だ」
ズィルバーとユウトがいる部屋の左右の壁が壊れ、舞い上がる粉塵から人影が見えた。
その人影と声にズィルバーは見覚えがあり、胸中で毒を吐いた。
(チッ……ティアたちを助けに行きたいのに……最悪なタイミングで来やがった!!)
新たな敵と戦いを予期した。