英雄は精霊に会う。③
屋敷に戻ってきた俺、父さん、ルキウスの三人。俺と父さんは給仕が用意したお昼を食べた。食べた後、俺は自分の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした。
その手にはお花畑の中心にある台座から抜いた白銀の剣がある。剣を見るだけでわかる。まだ眠っている状態だということが……。なので、俺は彼女に声をかけた。
(レイン……レイン……起きてくれ。もう一度、君の声が聞きたいんだ)
母親が子供に語りかけるように声をかける。
途端――、白銀の剣が光りだす。あまりの光に思わず、目を閉じた。
光が徐々に収まり、目を開けると、見目麗しい美女が宙から舞い降りるかのように床に足を付けた。
窓から差し込んでくる日の光に反射する艶のある虹色の長髪。天使を思わせる白き翼。宝石かのように透きとおる金色の瞳。純白のワンピースを着た美女。
驚きを隠せないが間違いない。彼女がレインだというのを俺は知っている。英雄だった頃、一緒にいてくれた。忘れもしない大切な思い出。
それが今、こうして、俺の目の前に再び、姿を現してくれた。俺は今、喜んでいる。あの時代を生きた友として、仲間として、パートナーとして。今、とても喜んでいる。
彼女――レインが俺の姿を見た。いや、見つめた。
少しの間、レインは俺を見つめた。
「ヘルトなの?」
彼女の第一声はそれだった。
彼女の第一声を聞き、俺は
(まず、第一声はそれか……)
呆れかえってしまう。
彼女は俺が呆れかえっているのをいざ知らずか。金色の瞳でジッと俺を見つめている。時には頬を抓ったり、髪の毛を触ったりと本当に自分がヘルトなのかを確かめている。
(おい、レイン。今の俺はヘルトじゃない。ズィルバーという少年。いや、少女か……とにかく、執拗に身体のあちこちを触らないでくれ)
変な気分になる。
彼女が俺を執拗に触り終えた後、深く考える素振りを見せる。見せた後、レインの決断が
「触った感じ、ヘルトじゃない。ヘルトじゃないのに、オドの波長や魂の波長がヘルトなのはどうして?」
と頭の上に疑問符を浮かべ、捻らせる。
俺はレインの胸中に抱く疑問に答えることにした。
「見た目や声はヘルトじゃなくても、魂やオド、雰囲気までは変わらないと思うよ、レイン」
彼女の名前を言ってあげることで、彼女はようやく、俺をマジマジと見てくる。そう見つめられると妙にもどかしく感じる。
ようやく、レインは俺がヘルトであることが分かり、目尻からポロポロと涙を零す。
「ヘルト……本当に、ヘルト、なんだね……」
「そうだよ、レイン。ずっと、一人で寂しい思いさせてごめん」
少年の身体なので、抱きつかれでもしたら、こちらが絞め殺されてしまう。なので、頭を撫でてあげたいのだけど、こちらも少年の身体いや少女の身体な上にベッドに座っているため、手が届かないという悲しい現実がある。
(頭を撫でてあげたいけど、圧倒的に背丈が足りない)
俺は心の中で涙を流している。
しばらくして、レインが泣き止み、目元が赤くなったままだけど、俺をマジマジと見つめ
「改めて聞くけど、本当にヘルトなんだよね」
「見た目が変わってしまっても、魂だけは変わりはしないよ」
「そうなの?」
あれ? レインってこんなに心配性だったっけ?
「だって、あなた。急に倒れちゃったし。息していなかったんだもん」
やっぱり、俺はあの時、急に倒れ込んだんだな。
「身体を揺さぶっても反応しないし。声をかけても目を覚まさなかったんだもん」
「マジか。俺ってあの時、死んでいたのか?」
「死んでいたじゃなくて……死んじゃったの! あの時、私が泣いたのか知らないでしょう! レイがあなたの死に動揺し、どんだけ悲しんだか知らないでしょう!」
これには、なにも言い返せない。あの日。あの時代。彼女がどれだけ、俺を愛していたのか。俺は死ぬまで知ることができなかった。
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