“死旋剣”の脅威。
両断するかのように剣が振り下ろされる。
ティアの視界から消え、瞬間に剣が振り下ろされ、ティアは取れる対応なんぞ限られている。
ティアは剣で受け止めようと判断するも“静の闘気”で触れた“闘気”の圧と剣速では受け止められないと判断し、“動の闘気”を薄く刀身に纏わせ、刃を走らせるようにフィスの剣を受け流した。
受け流された剣は床に鋭い切れ込みを与えた。
「なるほど。“魔王傭兵団”“三災厄王”の一人――“炎王”センを倒したというだけあって、それだけの咄嗟の対応力もたいしたものだ」
「私だけじゃなく、あそこであなたの大事な部下と戦ってるシノアも含まれてるんだけど……」
ティアは蛇腹剣を鞭の如く振るっているエラフィに鎌で対抗しているシノアを見つめる。
フィスの視線も一度はシノアに目を向けたがすぐさま、ティアに目を向ける。
「だが、それを抜いても瞬時に私の特性を見抜いて、受け流す方を選んだ。
あのまま、剣で受け止めてたら、確実に貴様は左肩から心臓を斬っていた。
瞬時に見極める状況判断とそれを裏付けるだけの“静の闘気”の熟練度の高さに自信がある。
それを差し引いても貴様をライヒ皇家の血筋とは思えない」
フィスはティアの良いところを動きから見ただけで言えるかぎりのことを言い切った中、ティアが本当に皇家の血筋なのか疑ってしまった。
「なに、私が皇家筋じゃないって言いたいわけ?
生憎、私もシノも皇家筋よ。母が違うだけでね」
「そうか」
フィスはオピスめがけて矢を放ち続けるシノに目線が向いた。だが、すぐにティアに目線を戻した。
「貴様が皇家の中でも変わり者だろうが私には関係ないことだ。私の種族特性を戦いの最中で見抜いたのだからな」
フィスはティアの冷静な分析力を賞賛するも言葉の裏にはまだまだと言っているかのようだった。
「だが、私を魚人族だと思っているのなら、些か、間違いだ」
「なんですって?」
ここに来て、フィスは自分が魚人族ではないと明かしたことに訝しむティア。
「正確に言えば、私はただの魚人族ではない。“半血族”だ」
「“半血族”ですって!?」
ティアはフィスが半血族だったことに動揺を隠しきれない。
“半血族”とは異種族同士の交配によって誕生する人種。
獣族だろうと魔族だろうと耳長族だろうと人族だろうとカウントされない。
不気味な立ち位置にいる人種。
千年以上前から“半血族”の存在は軽視されており、ひどい差別を強いられた人種でもある。
フィスが“半血族”だとしたら、どのような“半血族”なのか見当がつかない。
(フィスが本当に“半血族”だとすれば、一つは魚人族に違いない。じゃあ、もう一つはなに?)
ティアはフィスに流れてるもう一つの種族を考え得るかぎり考える。
而して、戦場で考えごとするのはあまりにも危険な行為なのをティアは頭の中から抜け落ちていた。
ティアは考えごとをして隙だらけになった。その隙をフィスがつかないはずがない。
「この状況で考えごととは……随分と余裕だな」
一瞬にして、ティアへ接近し、剣を振り下ろした。
「――ッ! しまっ――ッ!」
この時、ティアの目の端に捉えた足運びの機微。
(まさか……フィスって――)
なにかに気がついたタイミングで剣を振り下ろされていた。
一方――
別部屋で剣を交えていた“四剣将”の一人――シューテルと“死旋剣”のテュード。
一本の剣を振るっているシューテルの剣戟をテュードは剣を一本で受け止めていた。
而して、シューテルとて。ただで剣を振るっているわけではない。
左右の手を交互に変えては斬り合っている。
斬り合いの最中、テュードは気になっていたことがあったが、先にシューテルが声を発する。
「しかし、すごいな」
「なにがだ?」
「俺の剣をここまで受けきるなんて……さすが、経験値が広い」
「柄でもないことを言うじゃねぇか。まだオメエは俺より半分も満たない年のくせにな」
「戦いに年齢とか関係あるのか?」
「確かにねぇな。じゃあ、今度は俺から聞かせてもらうぜ」
「なに?」
テュードはシューテルを指さしながらもの申してくる。
「オメエさん。意識しているのか知らねぇが……右と左で交互に剣を振るっているとき、僅かに間合いを調整しているよな?」
テュードは戦いの最中、シューテルが間合いを調整していることに指摘された。
敵に指摘されて吃驚したのかと思いきや、見抜かれたのかという気持ちが勝っていた。
「参ったなぁ。剣の間合いを気づかせないように努力していたんだが……まさか、見抜かれてしまうとは……俺って、才能がないのかー」
シューテルは手の内を隠す才能がないのか思ってしまいたくなる。
「怖ぇー、な!」
気合い一閃と思わせるほどに間合いが急激に広がった。
しかし、テュードは躱して見せた。一太刀目は身体を逸らして躱し、二太刀目は身体を屈めて躱して見せた。
而して、躱した際、シューテルの急激な間合いを広げたことに驚きを隠し切れずにいた。しかも、齢がまだ十代半ばだというのに、だ。
「すごいな。今の一瞬で間合いを調整したのか!? 吃驚したぞ!?」
「それはどうも!!」
互いに剣がぶつかり合い、軽く振り落とした形で弾き飛ばされた。
後ろに退く中、シューテルは間合いの調整について話してくれた。
「間合いの調整に関しては三学年に上がったときからずっとやっていたんだ」
「ってことは、だいたい半年ぐらい前から間合いの調整をしていたと?
随分と才能があるもんだな」
「いいや。間合いの調整は才能だけで解決できねぇ。調整に場数と鍛錬で身に付けしかねぇーと。
ズィルバーにおもっクソ言われたからな」
シューテルが思いだすのはズィルバーにどやされる毎日だった。
二刀流であるために、両利きであるために、両腕の筋力バランスを必ず保てキツく言われたのだ。
シューテルとて。心がけたつもりだったが間合いの調整をする際に初めて、ズィルバーがキツく言われた意味を理解した。
「それ以来、俺は両腕の筋力バランスを整えてるんだよ」
「難儀なことだな」
テュードはシューテルの苦労に思わず、同情する。
而して、テュードは“白銀の黄昏”の総帥への危険度を高く持つ。
(いくら、間合いの調整を教えるために両腕の筋力バランスを教えるか。
普通なら、感覚を先に教えるだろ。その感覚すらも後で教えるあたり、敵の大将はかなりの大物だな。
今、俺たちの大将は大丈夫かねぇ)
テュードは元ヴァシキの部屋だった部屋で死闘を繰り広げているハムラを気にかけた。
シューテルは剣を中段構えのまま、テュードに話しかける。
「なあ、そろそろ本気になってくれよ?」
「本気で戦う気はねぇよ」
「そう。じゃあ、聞きたいんだけど、テュードさん」
「なんだ?」
「二本になったら、本気で戦ってくれるか?」
「勘弁してくれよ。オメエは今でも十分強ぇよ。二本抜かれたら困るねぇ」
「なるほど」
シューテルはテュードの言葉を聞き、ぼやくも左手はもう一本の剣を掴んでいた。
「じゃあ、二本抜くしかないか」
「そうなっちまうか」
と、シューテルは二刀流でテュードに斬りかかった。
シューテルとテュードの戦いも徐々に苛烈さを増している中、シーホとプワールの戦いは最初から苛烈な戦いだった。
シーホとプワール。両者の剣がぶつかり合う度に壁や天井に亀裂が走る。
二人の戦いはまさに“テュポン・サイクロン”そのものだった。剣がぶつかり合うだけで壁や天井に亀裂が入っているから。
シーホとプワールの戦いを壁越しにミバルにヨーイチ、カルネスが気になってしょうがなかった。
「珍しく、シーホが力任せに戦っていやがる」
「シーホくん。普段、冷静に戦っているけど、根は好戦的だからさ。たまにバカみたいなことをするよね」
「なに、それ?
私、知りませんけど……」
カルネスは初耳らしく、驚きを露わにしている。
ミバルとヨーイチも「そういえば、話していなかった」のを思いだし、カルネスに説明する。
「うちの部隊で一番のアホでバカは間違えなく、ユウトだ。
最近、キララさんに学を叩き込まれているがユウトは根っからのバカだ」
「シーホくんも意外と冷静そうに見えて、バカっぽいところがあるんだ。
たまにユウトと対面向かって、喧嘩するぐらいは……」
「え?」
ここでカルネスはユウトとシーホが喧嘩する事実を知り、呆気にとられる。
しかも、戦場の中で、だ。
「おい、カルネス!?」
「――ッ!?」
カルネスはすぐさま、三叉槍を振り回し、“魔族化”で理性を失った獣共を薙ぎ払った。
カルネスの反応にミバルとヨーイチは「おぉー」と感心する。
「さすが、“白銀の黄昏”の副総帥を護衛を任せるだけはある」
「うん。ズィルバーくんの判断は間違っていなかったというわけね」
カルネスは三叉槍を軽く回した後、ミバルとヨーイチの話を横耳に聞く。
「それでユウトとシーホが喧嘩するのは本当?」
「ん? ああ、本当だ」
カルネスの問いにミバルが正直に答えた。
「あれは単なる負けず嫌いからくるものだ」
ミバルはついでに理由も教えてくれた。
「ユウトくんばかり強くなってるから。男として納得がいかないんだと思う」
ヨーイチは単純に同族嫌悪だと言い張る。
「その発言では、貴様もそうじゃないのか?」
カルネスはヨーイチに問い返す。
「うーん。僕も一度は思ったことがあったけど、ユウトくんは皇族親衛隊の中で期待の星だから。
僕とは考え方が異なるし。強くなりたい理由が違うからね」
ヨーイチはユウトとは強くなりたい理由が違うと強調する。
その言葉にカルネスは目を細め、訝しむも自分が知ることではないと判断し、これ以上は聞かなかった。
苛烈さを増していくシーホとプワールの戦い。
シーホの剣がプワールの左肩に叩きつける。いや、叩きつけるというより、斬り裂こうとしていた。
剣の刃先がプワールの身体を斬り裂こうと金属音を奏でる。
斬り裂いていき、床に剣をたたきつけた瞬間、粉塵と木くずが舞う。
斬れたのか確認するシーホだが、プワールは大剣にも戦斧にも似た武器を振るい、逆にシーホの左肩を斬り裂いた。
「くっ……」
シーホは斬り裂かれた痛みで体勢がよろめくも血気盛んに攻め続ける。
幾重にもプワールの身体に斬りつけるもプワールの身体は一行に斬り裂かれることがなかった。
シーホはここに来て、プワールの肌が異様に硬いことに気づく。
「やけに硬いな……オメエの皮膚は……」
ようやく、気がついたことにプワールは下卑た笑い声を上げる。
「ようやく、気がついたか。じゃあ、何遍も言わせんなよ。俺の皮膚は“魔族化”によって“死旋剣”の中で最高硬度の皮膚。鎧を身に纏っている!! オメエら親衛隊……しかも、ガキなんざの剣で斬れるわけがねぇんだよ!!」
シーホなんかに斬れる訳がないと豪語するプワール。
而して、シーホはプワールの叫びすらも戯言のように感じ、聞き流していた。
「そいつはないだろ」
聞き流した末に真っ向から否定する。
「なに?」
プワールもシーホの言葉を聞き、訝しむ。
「要は“魔族化”の影響で強くなっただけにすぎないんだろ? それって、自分の強さって言えるのか?」
「なんだと?」
シーホは真っ向からプワールが粋がってるだけの男にしか見えなかった。
「まっ、そんなのはどうでもいい。
オメエがいくら粋がろうが、俺には関係のない話だ」
双剣――“悲愛の双剣”を構えるシーホ。
而して、プワールはシーホにバカにされたと思い、歯を食いしばる。
「テメエ……二度とそんなことが言えねぇよ……ズタズタに引き裂いてやる!!」
感情が爆発し、“動の闘気”を荒々しく解き放つ。
床を蹴ってシーホを斬り裂こうと吼えるプワール。
シーホは真っ向からプワールに迎え撃った。
怒濤の攻撃を思わせる銃弾爆撃。
床に散乱する薬莢。
銃口がひしゃげてもおかしくないほどの銃弾を連発しているのに銃口は未だにひしゃげていない。
銃弾爆撃。
弾幕を前に剣閃一つで引き裂くヌッラ。
ヌッラは未だに弾を撃ち続けるメリナよりもその武器に着目した。
(これだけの弾幕を展開したもメリナの魔力は減っている気配がない。むしろ、あの銃器という武器が壊れていない方が不思議だ)
ヌッラは盗賊団の調査で帝国技術局が設計した銃器を概略を思いだす。
(帝国技術局が考案した銃器は基本、制圧に特化した武装。基本設計として弾丸も生産されているという話を聞いたことがあるが……中には魔力……つまり、“闘気”で代用。もしくは“闘気”を弾丸として使用すると調査で判明している。
だとすれば、“聖霊機関”の小娘もこれだけの弾幕を展開できるのは“闘気”を弾丸として使用してるからだ)
ヌッラは結論づけるもここで些か疑問が生じる。
(しかし、あれだけの弾丸を撃ち続ければ、銃器そのものが消耗してもおかしくない。少なくとも、銃口がひしゃげてもおかしくないほどの銃弾を連発している)
ヌッラはますますメリナが使用してる銃器の特徴から逸脱していると推測する。
これまでに手にした調査内容と現場での情報を加味しても異常だと認識させられる。
銃口から火を吹き続ける中、ヌッラは剣閃一つで斬り裂いてはいるものの動作でワンテンポ遅れが生じる。
少しのミスで自らの身体が蜂の巣にされるのは想像に難くない。
と、ここでメリナは銃器の引き金から手を放す。
「おやっ? こんな時に整備不良?
ああ、もう! こうなったら技術局にメンテナンスを頼めばよかったです」
泣き言を言い始めるメリナ。ヌッラは一瞬に生まれた隙を突こうと剣を強く握り、斬りかかろうとした際、不意に“静の闘気”で先の未来を視た。
(これは……)
ヌッラはすぐさま、床を蹴って物陰に隠れる。
すると、再び、重厚から火が吹かれた。
「意外と騙されないものなんですね。“死旋剣”もあながち冷静に物事を見ているのですね」
メリナは戦場に似つかわしくない発言をする。
而して、その発言は“獅子盗賊団”を揶揄する発言にも読み取れた。
だが、ヌッラはメリナの侮蔑的な発言を前にしても臆することなく、平然としていた。
「その程度の挑発は乗らぬぞ」
(どうやら、あの銃器そのものが普通の銃器とは異なることだけは確かだな)
ヌッラは結論づけた。
甲高い剣戟音が木霊する。
吼える雄叫びも猛る遠吠えも木霊する。
棘突き金棒と鋭き鉤爪が交わり、火花を散らす。
火花を散らすは“九傑”の一人――ヤマト・J・オデュッセイアと“死旋剣”の一人――デスト・リュクシオン。
両者が刃を交えていた。
刃を交える中でリュクシオンはヤマトの並ならぬ膂力に違和感を覚える。
「あん?」
(どうなっていやがる……このヤマト……徐々に力が増してやがる)
リュクシオンはヤマトの膂力が徐々に増してきていることのを不思議に思えた。
「どうなっていやがる……テメエ。なんで力が増してやがるんだ?」
ペキパキッと指を鳴らす。
敵が動きを止めたことでヤマトも動きを止め、金棒を肩に担いで疑問に答えてあげた。
「僕はクソ親父との戦いに参戦していないんだ? 僕に疑いの眼が向けられては困るからね。
本当のところは|カイ・J・オデュッセイア《クソ親父》に一撃でもいいから咬ましてやりたかった。
でも、ズィルバーが「王をもって王を制する」って言われてしまっては従わざるを得ないじゃないか。
だから、“獅子盗賊団”を返り討ちすると聞き、僕は東部へ行きたいとズィルバーに直談判した」
「直談判、だぁ?」
「そうだ。僕は戦いに飢えている。僕とて、|カイ・J・オデュッセイア《クソ親父》の血を引いた鬼族。
加えて、僕の母さんの血の影響で戦いに対する執着が強いんだ」
途端、ヤマトは獣如き唸り声を上げる。
“闘気”にも変化が起きる。“動の闘気”が鋭く、とげとげしく、獣を思わせる獰猛さが増している。
ヤマトが徐々に身体が温まってきたが来たことを肌で感じとったリュクシオン。
「ようやく、身体が温まってきたよ」
ニィッと口角を吊り上げるヤマト。
「抜かせ! 身体が温まってきたのはテメエだけじゃねぇんだよ!!」
腰に差してる剣を抜き、口角を吊り上げるリュクシオン。
獰猛な獣が、この場をもって喰らい合おうと床を蹴って喰らい合い始めた。
ヤマトとリュクシオンの喰い合いを周りの|獣如きに成り下がった団員《敵》を鎌で刈り取っているヒロ。
ヒロはヤマトが鬼族とは違う種族の血を引いてたことに唖然としていた。
「え?」
(えぇー!? ヤマトって……鬼族との半血族だったの!?)
ヒロは意外そうな顔を浮かべていた。
同時にズシンズシンと巨大な足音をヒロの耳に入ってきた。
感想と評価のほどをお願いします。
ブックマークとユーザー登録もお願いします。
誤字脱字の指摘もお願いします。




