“死旋剣”に挑む者たち。
ティアとフィス。
二人の戦いが始まったのを“静の闘気”で感じとったズィルバーたち。
しかし、肝心のズィルバーとユウトはユンのもとへ駆けつけ、彼の戦いの手助けを優先することに専念した。
同時刻、シューテルも敵の気配を感じとって、部屋に入ってみれば、思いっきり呆然としていた。
「…………」
彼の瞳に入る敵の姿にどう表現すればいいのか対応に困っていた。
(ね、寝ていやがる……)
彼が戦うのであろう敵がソファーで横になっていてグースカと眠っていた。
この対応にどうすればいいのか判断に困ってるシューテル。
「起こしてやろか?」
緊張感のない相手にどう対応すればいいのか困り果てていた。
(どうしようか……)
彼は腰に携える剣を抜こうかと判断をつかねていた。すると、敵が声を発する。
「あぁー、剣はまだ抜かないでくれ」
「ッ――!?」
敵の声に思わず、抜く構えを見せるシューテル。
敵はノソッと起き上がると一回、欠伸した後、寝惚けた眼差しでシューテルを見つめる。
「ふーん。俺の相手は子供か」
見下してる言い方をする敵にシューテルはムッとし、思わず言い返す。
「子供で悪かったな」
「いや、バカにしてるわけじゃねぇよ」
不服そうな態度を示すシューテルに敵は自分の非を認め、謝罪する。
「子供にしちゃあ、並大抵の実力じゃないことに驚いてる」
どうやら、敵はシューテルの実力を正確に見定めている。
ここら辺で経験値の差がでていた。
逆にシューテルは敵の背格好、髪型から敵の名前を言い当てる。
(あのズボラな髪型に、いつも寝てる癖……孤高を思わせる一匹狼の男……)
「オメエが、ヒロが言ってた“死旋剣”の一人、ソリ・テュード、か?」
「おっ? 俺のことを知ってるのか?
そういや、ヒロの坊ちゃんがお前さんの組織の一員だったな。あいつは元気か?」
「元気もなにも“白銀の黄昏”じゃあ“九傑”を任せてるよ。
学園でもヒロを慕ってる生徒がいるぜ。フードに隠れる素顔を見て、友達になりてぇ生徒が多くて、照れ隠ししてるのがいつもの光景だ」
シューテルは学園でのヒロの日常を話せば、テュードは「そっか」と納得のいった言葉を言う。
「そいつは助かったぜ。なにしろ、ここにいた頃は誰彼構わず、敵対心を剥き出しにしていたから接するのに面倒くさかったんだ。
あいつを変えてくれたお前さんらのリーダーに感謝のほかないな」
「それはどうも。後で、俺がズィルバーに言っておくよ。だが……」
「ああ。分かってる」
剣を抜くシューテル。
テュードも剣を抜き、片手で構える。
「それとこれとは話は別だ。
俺の生活を崩すってんなら、斬らないといけねぇ」
「俺もダチとの生活を失いたくねぇんでな。大人しく斬られろよ」
「そいつは――」
ジャリッと間合いを詰めるシューテルとテュード。
「できない相談だよな!」
互いに床を蹴って、刃を交えた。
シューテルがテュードと刃を交える前に、既にシーホは双剣を振るって、敵と交戦していた。
「出会ってそうそうおっ始めるか。案外、好戦的だな」
「ああ? 何か言ったか?」
シーホが戦ってる敵は左眼に眼帯をして、つり目の青少年だ。
彼の手に握られる武器は大剣にも戦斧にも似た武器だった。
「いや、なにも……」
シーホは双剣を構えたまま、敵に意識を向けてる。
「そういや、あんたの名前を聞いていなかったな」
「ああ? そういやそうだな。相手がガキだったから。手を抜いて戦おうと思っていたが、案外、強ぇからな。名乗るだけの価値はある。名を名乗れ! 親衛隊のガキ?」
「皇族親衛隊シーホ大尉!」
「“死旋剣”、デゼス・プワールだ!!」
プワールが武器を振り落とし、シーホは双剣で受け止めた。
床を鳴らす下駄の音。
背には棘突き金棒を背負ってるヤマト。
その隣にフードを被った背に鎌を背負ったヒロが追随している。
「“静の闘気”を使用しなくても既に幹部と交戦してるようだね」
「こうして走っているのに、襲いかかってくるのは“魔族化”で理性を失った連中ばかりだ。
“獅子盗賊団”もクソ親父と同じなら、最高幹部とかいてもおかしくない。
なのに、その姿を見せていないところを見ると……」
ヤマトは移動してる最中で結論を導きだす。
「やはり、ヒロの言うとおり、盗賊団の最高幹部“三王”は既に提督と一緒に死んでいる可能性が……」
「高いと思う。今も“静の闘気”で気配を探っているけど、死体の気配が多すぎてかえって気分が悪くなる」
気分を弄したのか顔を青ざめるヒロ。すると、ヤマトが彼女の頭に手を置いた。
「な、何をするのさ!?」
ヒロはヤマトに手を置かれて、気を悪くしたのか苛立ちを吐き出す。
「ほら、気分がよくなった」
ヤマトはしてやったり感を出して、ニヤッと口角を吊り上げる。
ヤマトなりにヒロを元気づけたのだろう。
「今更、死んだ奴を気に病むな。この世界は心の弱い奴から脱落していくんだ。
“魔族化”という甘い蜜を啜った結果、彼らは世の中に害をなす獣になり、ならなかった者は死んでいっただけだ。
ヒロが気にすることじゃない。なにより、僕らが盗賊団を潰さなければ、僕らの居場所がなくなる。
それだけを考えればいい」
ヤマトは既に亡き父――カイを失っている。彼は北方を足がかりにライヒ大帝国を征服しようと目論んでいた。
その目論見計画をズィルバーたちがぶちこわした。
カイもカズとの死闘で戦死したのはヤマトも知っている。
彼の死を悼む権利はあれど。ヤマトはそれ以上のことは考えなかった。今の自分の居場所は“白銀の黄昏”であり、“ティーターン学園”なのだ。
居場所を失いたくないためにヤマトは傭兵団と戦ったのだ、と。自分に言い含めていた。
「今は納得できなくても……いずれかは納得が来るときがある。僕たちがそうだったように、キミにも“ヴァシキ”が東部を支配しようとした目的に……そして、盗賊団全体が一枚岩ではなく、こうも容易く、第三者の手によって崩壊されたことに」
ヤマトは金棒を手にし、襲いかかってくる敵を薙ぎ払っていく。
彼女の言葉にヒロもハーッと息をついてから鎌を手にとって巧みに操り、敵を細切れにした。
「そうだね。今更、どうこうなるようなものじゃない。うだうだ考えても応えが出るものじゃない。
なにより、僕たちがいる場所は戦場だ。無謀なことを考えてる暇なんてない」
ヒロは自分なりに自己解釈をして、“獅子盗賊団”全体の問題は頭の片隅に追いやった。
追いやったことで敵が目の前まで来てることに、ようやく気がついた。
「ヤマト!」
「うん……囲まれてるね」
二人は周囲を警戒し始める。
すると、目の前から声が入ってくる。
「さすが、“白銀の黄昏”の“九傑”と称される実力者、と言いましょうか」
目の前に顔の半分を前髪で隠した浅黒い青年が立っていた。
彼が出てきたことで周りもゾロゾロと浅黒い青年たちが理性のない敵を交えて出てきた。
「卑怯とは言いませんよね?」
「ああ。卑怯なんて思っていないさ。ここは戦場。
勝てば問題ない、だろ?」
「さすがに戦場を経験してるだけのことはある。
この状況を理解できますか」
青年はヤマトの状況判断能力の高さに関心する次第であった。
「ヒロ。彼らを知ってる?」
「デスト・リュクシオンと一緒につるんでるチンピラ……全員が異種族でリュクシオンがリーダーを務めてるチンピラ集団」
「本音が出ているよ」
ヤマトはヒロに忠告する。
だが、それと裏腹に真正面から強烈な“闘気”を感じとった。
「なんだよ。ただの雌ガキかと思ったら、強そうじゃねぇか」
顔半分を前髪で隠した青年の後ろから肌の色に変化がない青年が姿を見せる。
「!?」
「あれ?」
ヤマトとヒロは今、姿を見せた青年に違和感を覚える。
(おかしい。“魔族化”を受けたのなら、肌の色が変わっていてもおかしくない。
現に、周りの連中も肌の色が浅黒い。
なのに、こいつだけは肌の色が全然変わっていない)
ヤマトは今、現れた青年の違和感を気にしてる中、ヒロは青年に声をかける。
「そのスカしたアイスブルーの髪は変わらないね。デスト・リュクシオン」
「なんだ、ヒロのガキじゃねぇか。また、ここに舞い戻ってきやがったのか?」
「舞い戻ってきたんじゃない。因縁を断ち切りに来ただけだ」
「ハッ。そうか。そいつは助かる。舞い戻って来たって言ったときは今ここでぶち殺してたところだ」
「相変わらず、破壊衝動を抑えられないのかい? その衝動を“三王”とか他の“死旋剣”にぶつければいいのに」
ヒロはリュクシオンを揶揄する。
「生意気な口調が言えるほどに成長したか。まっ、俺にはどうでもいい」
「僕もその通りだ。でも、キミ……肌の色が変わっていないね。“魔族化”を受けたって聞いてたから」
「あんなので、俺が狂われるかよ。むしろ、俺の破壊衝動が増して、心地よかったぐらいだ」
「ふーん。聞いた僕がバカだった」
呆れてしまうヒロにリュクシオンはビキッとこめかみに青筋を浮かべるもヒロへの意識がそれ以上は持たなかった。
「強くなったのはわかるが……オメエじゃあ俺には勝てねぇよ」
「第一、僕と戦う気がないだろ。ヤマト……僕が周りをやる。キミはリュクシオンを頼む」
「端っから、そのつもりだ」
ヤマトは金棒をぶん回して、肩に乗せた後、瞳をリュクシオンに睨みつける。
ヤマトの瞳を見て、額から出てる二本の角から彼女の種族を悟る。
「雌ガキにしてはマジモンの鬼族かよ。テメエ、名前はなんて言うんだ?」
リュクシオンは改めて、ヤマトの名前を問う。
「僕はヤマト。ヤマト・J・オデュッセイア」
「あん? オデュッセイア?
“魔王傭兵団”の総督――“魔王”カイの関係者か?」
「僕はカイの娘だ!!」
ヤマトは自分が“魔王”カイの子供であることを堂々と言い切ってみせた。
ヤマトがカイの子供だと知り、リュクシオンは深い笑みを浮かべ、好戦的になる。
「そうか。あの魔王の子供か。そいつは壊しがいがあるってものよ!!」
“闘気”を大瀑布の如く放出し、重圧として、ヤマトに重くのしかかる。
重圧を前にしてもヤマトは顔色一つも変えずに言い放ってみせた。
「だったら、やってみるがいい!
この僕を殺してみろ!!」
宣戦布告ともいえる言葉にリュクシオンは爪を立たせて、挑発的に嗤いながら同じく宣戦布告した。
「じゃあ、そうさせてもらうぜぇ!!」
その言葉を合図に、“九傑”の一人と“死旋剣”の一人が衝突した。
敵幹部を倒すために走り続けてるターク、ユキネ、エルラ、ナギニの四人。
幹部を探してる際、理性を失った盗賊団員が襲いかかってくるも
「邪魔だ!」
タークの叫びと同時に一掃していく中、
ズシン! ズシン!
何やら、大型生物が近づいてくる足音が聞こえてきた。
「なんだ?」
「なんだ? じゃあありません!?」
「明らかに巨人族が歩く足音よ」
「だけど、この拠点で歩ける広さはあったか?」
ナギニは“獅子盗賊団”本拠地全体で巨人族のような種族が歩ける広さをしているのか不思議に思った。
ズシン! ズシン! ズシン!
足音は徐々に大きくなっていき、近づいてきてるのがわかる。
「おい……」
「ええ……」
タラリと汗を流すタークたち。
そこに差し込んでくる影。
その影の大きさが図体の大きさを示していた。
タークたちは一斉に上を見やれば、巨人族を思わせる図体をした大男の姿があった。
「なっ……」
タークは図体の大きさよりも気になったのは“魔族化”を受けたと思われる肌の黒さ。
その黒さが焦げ茶色に黒くなっており、端から見れば、怒り狂ってる化物にしか思えなかった。
「なんだよ、この化物……」
「知らないわよ!? とりあえず……」
「ああ、ひとまず……」
「ここから離れましょーー!!」
ユキネの叫び声が響き渡り、一目散に逃げ出すタークたち。
狭い場所で戦えば、巨人族からは小柄に思われるタークたちが優里に思われるが、怒り狂ってると思われる怪物が暴れ回れば、味方の被害も甚大ではないと踏んだタークたちは大急ぎで広い場所へと駆けだしていく。
“獅子盗賊団”本拠地全体に揺れる大きな足音。
その足音を耳にしたリュクシオンやフィス、テュードは鈍い表情を浮かべる。
特にリュクシオンは苛立ちを見せる。
「チッ……ヌッラの奴……しっかり仕留めやがれ!!」
フィスに至っては
「まずいな。あいつをここで暴れされたら、敵味方に関係なく潰されるな」
大きな足音をさせてる正体への危険度を口にする。
「こいつはまずいな。
あいつをこんなところで暴れられたら、こっちも危険じゃないか?」
テュードはシューテルをすぐに倒して、避難しなければならないと考えるもシューテルはそう簡単に倒してくれる相手ではないことはテュードも百も承知であった。
「さてさて、この状況……どう責任を取ってくれるかねぇ。ヌッラは」
テュードは別の場所で敵と交戦してるであろうヌッラに向けて、嫌みを吐いた。
そして、肝心のヌッラはと言えば
「クソ……あの筋肉ゴリラ……大人しく、殺されていればいいものを……後始末する俺の身を考えろ」
彼からしても由々しき事態だと雰囲気だ。
「というわけで、俺はさっさと始末させないといけない用事ができた。大人しくやられてくれないか?
“皇族親衛隊”の小娘」
ヌッラが相手をしているのは親衛隊に配属されたばかりの藍色の髪をした少女――メリナだ。
メリナは親衛隊に転属されて、まだ日数が浅い。
本来なら、実地訓練と実戦を積ませてから遠征に参加するのが新米の常識なんだが、メリナは新米ではない。
だが、メリナはただの親衛隊隊員ではあらず。皇家直属の諜報機関――“聖霊機関”の諜報員。
彼女とて、それなりの使命と覚悟をもって、今回の任務にあたってるつもりだ。
メリナは今、銃器を片手に火を吹いて、魔力で編み出した弾丸を連射していた。
迫り来る弾丸の嵐にヌッラは腰に差してる剣を抜いて、一閃するだけで全ての弾丸が爆散した。
「ッ――!?」
メリナはヌッラの技量の高さと同時に今の自分との実力差を味わわされている。
「つッ――」
(強い……見た感じ、“魔族化”という呪術を受けられてるのに平然としてる。
肌の色も浅黒くなってるどころか真っ白いまま。
人族とか異種族とかのレベルとは到底思えません)
彼女の中で動揺が駆け回っていた。
メリナの足元に散乱する薬莢。
数の暴力、力の暴力、魔力の暴力を前にヌッラは剣を一閃しただけで無力化させたが、気になってることがあった。
「貴様……本当に親衛隊のメンバーか?」
(あの女が持ってる武器はライヒ大帝国。帝国技術局が考案したとされる“銃器”という武器だ。
一介の親衛隊隊員が持つような武器ではない。
明らかに皇家と深い関わりを持つ者にしか手にすることができない代物……)
ヌッラは注意深く、メリナが持つ武器を観察する。
しかし、メリナはヌッラの問いかけにしっかりと答えた。
「ええ。私はメリナ。つい最近、異動で入った親衛隊隊員です」
彼女自ら、親衛隊のメンバーであることを明かした。
だが、彼女は一つの過ちを犯した。
「異動……貴様、今……入隊ではなく、異動と言ったな?」
ヌッラの言葉でメリナは「ハッ!?」となる。
(しまった!?)
メリナとて、それなりの実戦経験を積んだ実力者であるが、年相応であるためか言葉の駆け引き経験が足りていなかった。
よって、ヌッラに自分がどこに所属しているのか明かされる危険性を感じ、危機感を募らせる。
「皇族親衛隊は部署、支部間での転属が多い。だが、組織による異動はされていない。
それが許されているのは皇家直属組織だと聞いている。
なるほど。
皇家直属組織にして、帝国技術局が考案した銃器を試験運行することができる機関はひとつしかあるまい。
女。改めて問おう。
貴様は本当に……親衛隊のメンバーか?」
ヌッラの言動から、言葉の意図から自分の正体に気づかれていると悟るメリナ。
「…………」
彼女は無言を貫いているけど、その表情は苦々しかった。
(完全にバレていますね。
私の話術には欠陥だらけですね。
これも、あの部隊に配属されてからでしょうか。彼らと関わっていく度に私の心と在り方が大きく変わってる気がします)
メリナが皇族親衛隊第二帝都支部、シノア部隊を監視するために皇帝の勅命を受けて“聖霊機関”から異動された。
異動された時から部隊長のシノアから自分の目的を明かされ、挙げ句の果てに模擬戦で力の差を見せつけられたのを未だに忘れられない。
(あの日のことは今でも忘れることができません。
これでも、私は“聖霊機関”では強い部類です。そんな私を相手取れるシノアさんもどうかしてると思います)
メリナはあえて、自分を強者だと言い切る。
自分が弱いのを承知で強者と言い切るあたり、お茶目と言えよう。
なので、彼女は白を切るどころか自分の所属を明かした。
「口は災いの元。とは、このことを言うのですね。
よく勉強しました。
仰るとおり、私は“聖霊機関”の諜報員。
皇家の勅命で親衛隊に異動されました」
「そうか」
ヌッラはメリナの潔さに敬意を表する。
「あの皇家直属組織にして、諜報機関――“聖霊機関”の一員か。
あそこは親衛隊と違い、人族と異種族で構成されてる組織ではなく、異種族だけで構成されてると噂されてるが?」
ヌッラの問いにもならない問答にメリナは先ほどの苦々しい顔つきから満面な笑みを浮かべた。
「さあ、その噂が本当かどうかは、ご自分の目で確認してください」
銃器を突きつけるメリナ。
「それもそうだな」
剣を突きつけるヌッラ。
“死旋剣”との一騎討ち。
“獅子盗賊団”との戦いにおいて、局面を大きく変えると過言ではなかった。
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