英雄は精霊に会う。②
脳内に響き渡る怒鳴り声。
あれ? この怒鳴り声。何処かで聞いたことがあるな。だけど、彼女の声はまだ幼さがあったのを覚えている。だから、大人の声は初めてだ。
脳裏に声が木霊した途端、ビキバキビキバキと石でできた剣に罅が入っていく。
その光景には俺や父さん、ルキウスの目が見開く。
罅が入っていく石の剣。ボロと石の破片が零れ落ちる。零れ落ちた破片の隙間から洩れる光。その光の色は白銀。光は溢れんばかりに洩れだし、お花畑一帯を包み込んでいく。
目映い光に目を閉じていた俺、父さん、ルキウス。光が収まり、俺たちは目を開けてみると爛々と輝く白銀の剣が俺の手に握られていた。
刀身から柄も鍔も純白で彩られた剣。俺は剣を持つ手を誰もいない方に向いて軽く振った。
優しい風が、木々の間を、すり抜けていく。軽く振って分かった。この剣は生まれたときからずっと傍にいたかのようにしっくりくる感覚があった。
でも、俺にはしっくりくるのがわかる。幾多の戦場を駆け回ったときから、ずっと剣を振った感覚。再び、俺の剣となってくれた感覚。いろんな想いが感覚として伝わってくる。
すると、父さんとルキウスが俺のもとに歩み寄ってくる。
「ズィルバー。お前の手に握っているのが精霊レインか?」
「分かりません。これが精霊レインなのかも分かりません」
俺はこの時、父さんに嘘をついた。今、俺の手に持っている剣もレインの姿の一つ。でも、彼女の本当の姿は剣ではない。本当の姿を知っているのは英雄だった頃の俺だけ。
「父さん。一度、屋敷に帰りませんか。俺がこの剣を抜けたということは次期当主として相応しいということになります」
「そうですね、旦那様。ここは一度、屋敷に戻りましょう」
ルキウスも俺の意見に賛同してくれたので俺たちは屋敷へと戻るため歩き出した。
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