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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
東方交流
170/296

英雄の友。伝説に立ち向かう。

 バチン、バチンとなにかがぶつかり合い、激突する。

 しかし、衝撃波は生まれず、雷だけが迸ってた。

 ハアハアと荒い息を吐きつつ、頭から血を流し続けるユンとベルデ。

 なぜ、ぶつかり合った際に生じる衝撃波が生まれなかったのか。答えは簡単。

 ユンとベルデ。双方に限界が近かったからだ。

「ちくしょー」

(まだ立つのかよ)

「それはこっちの台詞だ」

(あんだけ喰らっておいてまだ立つか)

「――ったく

 ……タフすぎるぜぇ」

「俺は負けるわけにはいかねぇからな」

 折れてはいけない理由も覚悟もユンは一心に受け止め、拳に乗せてぶつかってる。

 ベルデとて、拳に乗せてる覚悟に気づかないわけがない。気づいてる上で彼はユンの底知れなさを目の当たりにしてる。

(ここに来て、“闘気”の上昇速度が桁違いだァ。

 “静の闘気”は集中力が少し足りないが、かろうじて先の動きが見え始めてる。

 “動の闘気”は言わずもがな。大きく纏わせて体内攻撃ができはじめてる。

 吸収していやがる。俺から…………

 戦い方を――。戦闘経験を――。

 この土壇場であそこまで成長するとは思わなかったぜ)

 ベルデはユン(子孫)の成長を肌で感じとり、カッと腹の底から盛大に笑いだす。

「この土壇場でそこまで成長するとは大したものだ。

 だが、まだ足りない。俺を倒すにはまだ足りないぜぇ!!」

 不敵に笑い、自分こそがまだまだ上だと言い切るベルデ。

「あぁ?

 俺になにが足りねぇんだよ!!」

 左拳に“動の闘気”と雷を纏わせ、殴りにかかる。

 迫り来るユンに対し、ベルデは口角を吊り上げ、深い笑みを浮かべる。

「足りないんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がな」

 彼の右手の甲が光りだし、左手に山吹色の雷が帯びてく。

 彼は左手を添える。それだけ――。

 なのに、ユンは目の当たりにした。

自らの拳が()()()()()()()()()()()()()()()()ことに――。

「な――ッ!!?」

 驚きの束の間、弾かれ、体勢を崩すユン。

 その隙を突くかの如く、ベルデは右脚を軸に、左脚で回し蹴りをくりだす。もちろん、左脚に山吹色の雷を纏ってた。

 咄嗟にユンは構え、手甲で回し蹴りをしてくるベルデの左脚を防ぐ――が。

「ぐ――ッ!!?」

 ミシミシと腕が軋みをあげる。

 左脚と手甲が()()()()()()()()、距離を空けて激突した後、ユンを大きく吹き飛ばした。

(なんだ、今のは……!? 触れずに俺を……!?)

 訳も分からず、ちんぷんかんぷんに混乱し始めるユン。

 しかし、彼は先の攻撃が自分と違うのはなんとなく気づいてた。

(触れずに攻撃するってのは“動の闘気”を極めれば、できる芸当だ。

 ズィルバーはその域に到達してるのは確かだ。

 だが、さっきの攻撃は明らかに違ぇ。

 まるで、()()()()()みてぇだ)

 ユンは受けた際の感触から“闘気”とは()()()()()()()()のは確かだと理解する。

(――また来やがる!)

 踏みとどまりきれずに宙へ吹き飛ばされたユンへと、ベルデが追撃をかけてきていた。

 一度受けただけでは分からなかった。ならば、何度だって受け続ければ、その正体が掴めるかもしれない。

 目を凝らし、“静の闘気”と知覚を最大限に研ぎ澄ませてベルデの攻撃を感知する。

 ()()()()()()()()()

「防いでみやがれ、ユン(子孫)――加減はしないぞ」

「望むところだ!!」

 空中で二人が激突する。

 十歳過ぎたばかりの子供に大の大人がいたぶってると言われたら、大人げないだろう。

 しかし、これも東部をこれから守ってく男の覚悟の現れ。

 男一匹選んだ死の道を前に憐れみも優しさも侮辱に等しい行為。

 故にベルデはユンを徹底的に叩きのめす。

 圧倒的な力を前に敗北を味わわせ、這い上がらせる身体と心を身につかせるために――。

 ユンとベルデの間には隔たりがある。明確な力の差が現実として存在することを見せつけるように、ベルデの攻撃を防ぎきれずにユンはまたも吹き飛び、雲の大地へと叩きつけられた。

 先ほどまでと違うのは、強烈な一撃が来るのを心構えができていたから。

「……今のは――」

(“闘気”じゃねぇ。

 “動の闘気”は使ってるが、根本的に力の質が違ぇ……

 摩訶不思議な力を持ってるのか。先祖様はよぅ……)

 ユンは視えていた。

 ベルデが振るった力の正体が“闘気”によるものではないことは見当がついた。

 故に対抗策が見当たらない。

 単純に身体を動かせばできる芸当ではない。使い方が分からなければ意味がない。

(おい、ネル。

 先祖様が使ってる力に心当たりがあるか?)

 ユンは念話でネルに怒鳴りつけるかのように言う。

『知らない。私だって、ベルデと出会った時から()()()を使っていやがった。

 だが、言えることはリヒト様が「遙かな時を経て、子孫にも自分らと同じ力が目覚める」って言ってた』

(初代皇帝、ね……)

 ユンはネルの話からライヒ大帝国の建国期から摩訶不思議な力が存在してることだけは理解する。

(どうする――)

 必死に頭を回転させてると、頭上から明確な敵意を感知した。

「貫け――」

 ベルデの右腕が青白い稲妻を帯びて狙いを定める。

(まずいな)

 ユンは反射的に行動を起こす。

「――“金色の天穹(フルゴラ)”!!」

 高密度の雷は雲の大陸を貫いていく。

 当たれば即死してもおかしくないほどの威力が込められている。

「チッ――」

(メチャクチャじゃねぇか)

 思わずユンも内外問わず、悪態を吐き散らす。ようやく、年齢に合わない“静の闘気”がベルデやズィルバー、ユウトの域に到達し、回避する。

 しかし、このままでは反撃ができない。

 先ほどのベルデの攻撃のタネは視えた。だが、それを貫くだけの力が足りないのもまた事実。

「…………」

 ギリッと歯軋りするユン。

 彼は頭に過ぎったズィルバーの姿。

ズィルバー(あいつ)はこんなのも貫いちまうかもって思っちまうと――

 無性に腹が立つ)

 ぶっ飛ばしたい相手が自分より遙かな高みにいることへの苛立ちが強まっていく。

(どうすればいい――)

 とにかく、ユンには時間が足りなかった。

「どうした、逃げてるだけか!

 頭部を守ってく覚悟も力もその程度なのか、ガキ!!」

 頭上からの点攻撃では埒が明かないと考えたのか、ベルデは雲の大陸に降り立って雲を薙ぎ払いながらユンへと追撃をかける。

 たいするユンは雷撃と爪の攻撃の隙間を縫ってベルデへと接近し、“動の闘気”と雷を纏わせた拳を横薙ぎに叩きつける。

 強烈な轟音を立ててベルデの爪と衝突するが、この攻撃すらも彼には届いてない。

 触れることすらできないのでは対処もなにもないが、とにかく、今はひたすらに攻撃し続けて感覚を掴ませるしかなかった。

「誰が逃げるかぁ……!!」

 雷が衝突する度に周りの雲がぶっ飛んで、世界そのものに軋みをあげてる。

(厄介だぁ……)

 ユンはベルデの攻撃に難儀してる。

 彼の攻撃で厄介なのは爪による攻撃だけではない。時折、死角を突いてくるかのように放たれる雷を、同じ雷で相殺しつつ、ユンはなんとか隙を見つけては拳を叩き込む。

(攻撃が届かねぇ――)

 徐々に差が縮まってるかと思いきや、明確な力の差を見せつけられた。

(この感覚はズィルバーの時以来だなぁ……だが、なりふり構ってる場合じゃねぇ!!

 なんとしても全力で、ベルデ(先祖様)の力を削がねぇとな)

『そうだ。

 目の前にいる怪物はこの先、ごまんといると思え!

 そんな奴らを全力でねじ伏せろ!!』

(ああ――!!

 俺の力を見せてやる!!)

 僅かでも力を削ぐためにユンが攻勢に出る。


 ベルデと戦いあってるうちにだが、少しずつ研磨されていた。

 力がついていき、磨かれてた。

 これは信じられないことである。

 もう一度、言おう。

 十歳過ぎたばかりの子供が大の大人に挑むのは無謀なことに等しく敵うわけがない。それが常識であった。

 しかし、現実はそうではなかった。

 ズィルバーもカズもユウトもティアもハルナもシノアも年の離れた大人に挑んで勝利を収めてる。

 これはもはや、奇蹟に等しい。

 そして、奇蹟はユンとシノにも起きようとしていた。


 攻勢に出るユン。

 彼は両拳に“動の闘気”と雷を纏わせて、死すらも恐れない攻撃を仕掛ける。

「“――雷神拳舞(トネール・ファウール)”!!」

 もはや、全“闘気”を使い果たす気でいるユンの攻撃。

 その攻撃はまさに雷の雨そのもの。並大抵の相手であれば、手も足も出せないユンの必殺技である。

 しかし、ユンとベルデに共通点がある。

 それは“雷帝ネル”の契約者である。

 雷を生み出せるエネルギーは極めて莫大。空気中に放出すれば、それだけで急激に空気が膨張するほどの熱を持つ。

 ユンがひたすら攻撃をし続けるのは僅かでもベルデの力を削ぐためである。

「攻め続ける姿勢は見事!!

 ならば、力には力でねじ伏せよう!!」

 ベルデが両腕に山吹色の雷と“動の闘気”に“雷帝ネル”の雷を纏わせて拳の応酬に迎え撃つ。

「――“砕け、雷鳴貫手(トネール・シュペーア)”!!」

 拳の応酬に貫手の応酬で迎え撃つベルデ。

 爪と拳鞘。爪と手甲が掠めあい攻撃の軌道がズレはするものの隙間を縫って、爪が頬を掠め、拳が顔面や胸に叩く。

 ベルデの攻撃は通ってるのにユンの攻撃は通ってない。

 それでも、ユンは真っ向からベルデに突っ込み、込められた“動の闘気”により雷が黒く染まっていく。その雷はベルデの予想を遙かに超えていた威力が秘められていた。

 山吹色の雷を纏わせた手で拳は届かなくても黒き雷が盾を貫いてベルデに襲いかかる。

「ッ!!」

「アァッ――!!」

 黒き雷を受けた痺れ上がると同時に真横からユンが手刀を振るい、ベルデの首へと斬撃を見舞う。

 しかし、ベルデは全身の力を脱力させ、それを間一髪で躱し、ユンへと向き直って山吹色の雷を纏った爪を振るった。

 “動の闘気”を纏わせた手甲が轟音とともに痺れ上がり、至近距離でユンとベルデの視線が交差する。

「まだまだ、だな」

「――この程度でそんな面するんじゃねぇ!!」

 荒れ狂う雷に晒され、ベルデの皮膚にピシピシと火傷を負い続け、それに対抗するためにベルデは雷を放出し続けなければならない。

 炎や風、水や氷などと違い、雷は熱を生み出すにしても、電磁場を発生にするにしても非常に効率が悪い。

 そのため、ベルデには常に一定以上の負荷をかけられていた。

 十歳過ぎたばかりの子供が考え得る策とは到底思えず、本能がそうさせてるのだとベルデはそう判断せざるを得ない。

 而して、出力の一部を攻撃に転じることができないのはユンにとって大きなアドバンテージでもある。

 だが――やはり、その状況下でも許してくれないのが大英雄というものである。

「いい考えだが――そういうのは俺だってできるぞ!!

 貫け――“金色の天穹(フルゴラ)”!!」

 迸る雷撃がひたすらに殴り続けるユンの身体を貫き、痺れ上がらせる。

 痺れ上がってもなお、ギリッと睨み殺すかの如く、殺気を放ちながら未だに殴り続ける。

(……これでも倒れないか。

 俺に似て、雷耐性持ちか。

 あるいは頑丈さ上か)

 並大抵の頑丈さでは耐えられるような攻撃ではない。相手がベルデだからか、それとも生まれつきあのような身体なのか……どちらにせよ、一撃で完全に崩さなければ倒れることもなく攻撃をし続けることだろう。

 故にベルデは“金色の天穹(フルゴラ)”を即座に切り捨て、最大出力での攻撃に転じる。

 この世界において、魔法属性の中で最大火力を持つのは“雷”。

 理由は簡単。

 もっとも莫大なエネルギーを有してるからだ。

 しかし、雷属性を扱いこなせるのは先天的かつ優れた者にしか扱えない。

 ライヒ大帝国の歴史を繙いても雷属性を十全に扱いこなせたのは初代東方大将軍にして、“鬼神”と称されたベルデ・I・グリューエンのみとされてる。

 世界の歴史を繙けば、雷属性を扱いこなせる英雄はいる。されども、雷属性を十全に扱いこなせた大英雄はベルデのみ。

 しかし、雷属性を十全に扱えるからといって、ベルデは大英雄として語りつがれたのではない。

 彼は()()()()()()()()()()

 いくら雷に打たれようが無傷でいられた。

 雷に打たれて、身体を焼かれることもなかった。一説ではベルデ・I・グリューエン――彼は、いや、彼の血には()()()()()が含まれており、その鉱物が雷を受け流してるのだと歴史家の間で考察されてた。

 現に――。

 ユンもベルデが放った“金色の天穹(フルゴラ)”を直撃してもなお、意識が飛ぶどころか、途切れずに殴り続けてる。


 そして、ベルデが最大出力での攻撃をしようと構えた。

「それをさせると――!」

「思ってないさ。だが、磨かれてきてる“闘気”じゃあ俺は崩せないぞ」

 ベルデの行動に反応したユンは迎撃に動いたが、ベルデはそれを気にも留めずに右腕に莫大な雷と山吹色の雷、“闘気”を貯め込む。

 前方からの殴り続ける攻撃を左腕一本だけで凌ぎ――一点に集中させてユンを確実に倒すことを試みる。

「我が最大の爪を受けるがいい!!

 ――“神をも穿つ雷光の鉤爪デウス・ネブラス・ウングラ”!!」

 ベルデの最大出力による一撃。

 防ぐべく身を屈めるを試みるも次々と雲を消し炭にし、まっすぐにユンへと突き進む。

(身を屈めたところで防ぎきれねぇ)

 と、判断したユンはその場にいた雲の大陸から飛び出し、別の大陸へと脱出する。

 消し炭にしていく雷の鉤爪を前にし、ユンは助走をつけ始める。

 全ての力を攻撃に回したベルデへとカウンターを叩き込むために。

 助走をつけて飛び込んだユンは雷の鉤爪の間を潜り抜けて“動の闘気”とネルの雷を込めた右拳に集中させる。

「“壊せ、雷鳴爆拳(トネール・ファウスト)”!!」

 雷の右ストレートが真っ正面からベルデの胴体へと叩き込まれる。

 ベルデは視線を下に向けるばかりで防ぐ気すらなかった。

 防御するよりも攻撃に力を割り振り、ユンへと意識を向ける。

(ハッ。

 こんなものか)

 言わんばかりに。

 ベルデが振るう鉤爪の軌道が真下に変わり、轟音を立てながら、雲を消し炭にしていく。

 強烈な雷撃はなおも勢いを衰えさせることなく、胴へと拳を叩き込んでるユンへと軌道を修正し、自分ごと巻き込んでユンを呑み込んだ。


 雲を貫き、天を貫く雷の塔。

 轟音とともにすさまじい衝撃波が辺り一帯に伝播した。

 雷の塔から飛び出て、別の雲の大陸に叩きつけられたユン。

 途中で雷撃から逃れたユンは身体の至るところに多少なりとも火傷を負いながらも意識を保っていた。

「ぐっ……!」

(ある程度、威力は減衰したが――

 それでも、スゲぇ威力だぜぇ)

『かつて、“鬼神”と言わしめた男よ。

 あれぐらいの威力が出て当然……』

「さすが、俺の先祖だぜぇ…………」

(肖像画でしか…見たことが、ねぇけどな…)

 呼吸が途絶え途絶えであり、意識が保ってる方が奇蹟ともいえた。

 先の一撃はもろに直撃していた。

 直撃していた一撃を途中から逃れて、雲の大陸に叩きつけられる形で難を逃れた。

 難を逃れたとはいえ、並大抵の使い手なら今の一撃で確実に死んでいた。ユンが意識を保てたのは生まれついての雷耐性によるものが大きい。

 ふらつきながらも立ち上がるユンに対し、上空から接近してくるベルデ。

「言っておくが意識があるうちは攻撃を止めんぞ!」

 逃げ道を塞ぐように雷を乱発するベルデ。

 ユンはふらつく身体に鞭を打って“静の闘気”で回避し始める。

 しかし、それすらも読んでいたのか雷の軌道がユンの躱す方に軌道が修正されていく。

「なっ――!?」

 ユンは驚くもベルデからしたら他愛もなかった。

「そんな拙い“静の闘気”で俺から逃れられると思うなぁ!!」

 軌道修正された雷がユンの身体を貫く。

 雷で身体が痺れ上がる痛みに悶えながらも意識を保とうと耐え続けてる。続けざまに身体を貫き続ける雷にユンは悲鳴を上げてる。

 ユンに向けて雷を放ち続けるベルデ。

 彼は悶え続けてたユンが徐々に雷に耐えていき、ギロッと目玉がベルデを睨みつける。

 睨まれてるベルデはユンのもとへ近寄る。まるで、出方を窺うように。

「お前はこの戦いを通じて、強くなってきてる。だが、見たところ、本格的な師匠がいなかったんだろう。

 とんでもなく荒削りだ」

(基礎はパーフィス公爵家の方針で教わったかもしれないが、それだけじゃあ不十分だ)

 ベルデはユンの動きから、これまでの経緯を読み解き、ユンの今の強さでは、この先、守り通せないと諭されてしまった。


 正直に言えば、ベルデとて。自らの戦い方を独学で身に付けたわけではない。

 リヒトとレイに拾われ、王国軍の元で徹底的に教わってる。

 武術、“闘気”、策謀、魔法(魔術)、それにまつわる戦闘技術の全てを。

 ベルデからしたら、家の方針で基礎だけを教わり、そこからほぼ独学でここまで力を付け続けてることが驚嘆に値する。

 だが、荒削りであることは否定しようがない。

 なにより、“闘気”は未だに未発展途上な故に、ユン自身が()()()()()の片鱗すら見せていない。

「金髪の俺の全てを見せたぞ。ここからお前が俺をぶっ飛ばせるまでになるかはお前次第だ」

「な、に……?」

 怒濤なる雷を浴びせられ、ユンの身体は徐々に雷に慣れ始めてきた。

 慣れ始めてる中でベルデの言動を聞き、眉を顰める。

(まるで、俺にベルデ(自分)を倒させようとしてる口ぶりだぞ)

『ほんとにそうなんだろ』

(ネル?)

 雷を浴び続けるユンの頭に語りかけてくるネル。

『ベルデは伝説を乗り越えてほしいと願ってる。

 長きに渡って待ち続けてきた。

 真の意味で東部を守っていき、自分の意志を受け継いでくれる子孫を』

 ネルの口から語られるベルデの本心。

 自分が成し遂げ、守り続けてきた東部を、自分の意志を次の世代に受け継がせるために――。

 本心を知ったけども、直後に発生した極大の雷の前に会話は途切れた。

 自身がいようとも問答無用に呑み込もうとするほどの巨大な雷。

 逃げ場のない広範囲攻撃に、ユンは歯を食いしばり、身体に鞭を打って迎え撃とうとする。

 “動の闘気”を両手に流し込み、雲一つを呑み込みかねない雷を正面から耐えきろうとする。

 痺れ上がる両腕。痛みが走る両腕を尻目に、ベルデは金髪から元の髪質に戻り、左手の甲から迸る朱色の雷を纏わせた拳を振るってユンとぶつかった。

「無駄な行動だ。雷に耐えきり、受け流す身体のはず。

 仲間のために命を賭けるというのか?」

「う、るせぇ……」

 痛みに悶えるユン。髪質も徐々に金髪から元々の髪の色。藍色の髪へと戻っていき、人格も気性の荒い人格から大人しく穏やかな人格へと戻っていく。

 戻ったとて。身体に走る痛みが和らぐことはない。

 地獄ともいえる痛みにユンは耐え続けてた。

「俺、みたいなぁ……小動物を見捨て、るぐらい、なら……

 死んだ方がマシだ!」

 ベルデの言葉に反発し、力を込めて振るわれた拳を受けきってみせるユン。

「カハッ!?」

 口いっぱいに支配する鉄の味。

 吐き散らす血反吐。心身共にボロボロになりながらも心が折れずに耐え続けるユンにベルデは呆れてものも言う気力が失せた。

「東部の民のため、友のために命を投げ出すというのか?

 死が怖くないと言うのか?」

「死なんざ怖くない! 東部を守ると決めた時から俺はもう逃げねぇと決めたんだ!」

 逃げてしまえば、二度と自分の大事なものを守れない気がした、とユンは本能的に分かってた。分かってたからこそ、もう逃げないと心に決めた。その想いだけで大きな負担を負ったまま戦い続ける。

 ベルデの苛烈な攻撃にも少年の身体は耐え、時には反撃する。しかし、絶対的な力の差が埋まることはない。

 消耗の度合いもユンの方が大きく、一昼夜かけて戦い続けた中で先に限界を迎えたのはユンだった。

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