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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
東方交流
168/296

英雄。新世代と共に成長する。後編

 ネルの心の内に秘めるはユンの過去。

 本来、精霊と主は仮契約する際、互いに()()()()()()()()()()()()()()()ことができる。

 主は精霊を――。

 精霊は主の心を見てしまう。

 ネルは初めて、ユンと仮契約をした際、見てしまった。知ってしまった。

 ユン・R・パーフィス。彼がこれまで歩んできた人生を――。


 ユン・R・パーフィス。

 彼はパーフィス公爵家の長男として生まれ、次期跡取りとしてパーフィス公爵家の家訓。東部での絶対なる掟の下に教育を施された。

 “強さこそ絶対”。

 この掟の下にユンは物心がついた頃から厳しい教育が始まった。

 だが、ユンは大人しく穏やかな性格を持ち、人を傷つけることが抵抗感を示していた。

 しかし、父や家臣から強いられる教育に彼の心は徐々に傷ついていき、追い込まれていった。

 “強さこそ絶対”。

 強くなるには勝つことでしか強くなれないと信じ込まされ、同年代の子供と同じ道を歩むことができなかった。

 その時から、ユンの人格が二つに分かたれ始めていたかもしれない。

 教育に安息など存在せず、屋敷の外に出ても、常に教育され続けた。

 そして、“ティーターン学園”で、彼の心は、人格はついに分かたれた。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()かもしれない。

 中央の学園に入学して、彼は今まで叩き込まされた教育を……努力を無にするかの如く、巨大な壁にぶつかり、現実を打ちのめされた。

 ズィルバー・R・ファーレン。

 彼の存在がユンの心に深い傷を負わせた。

 五大公爵家の嫡男の中で実力が高かったとされるのがユンであり、次点でカズと言われていたが、学園に入学試験でも総代を務めたのがズィルバーであり、学園に入学して大躍進したのもズィルバーであった。

 実技でもユンが見たことがない力で同じ新入生たちを圧倒し、“迷宮(ダンジョン)”を攻略し、最終的には学園が抱えてる“問題児”を束ね、“白銀の黄昏シルバリック・リコフォス”を立ち上げてしまったことが屈辱的な敗北感を味わわされた。

 数多くの功績を成し遂げたズィルバーと比較され、ユンは逃げる形でシノとともに故郷である東部へと転校することにした。


 だが、故郷に帰り、転校したとしても待っていたのは比較される日々であった。

 東部は人族(ヒューマン)と異種族が対等という風習がある。その風習がユンの“異能”――“人格変性(ペルソナビオ)”の発現を早めるきっかけになった。

 家訓における厳しい教育。

 東部の“問題児”による暴行。

 幾多に及ぶ悪意がユンに襲いかかり、大人しく穏やかな心が傷つかれ、壊れ始めた。

(なんで……俺は、こんな惨めな思いを、しないといけないんだ――)

 彼は人知れず、涙を流し、シノに慰める日々が続いた。

 彼女も彼女でティアに比較される日々に心が徐々にすり減っていた。

 そして、発現した。

 パーフィス公爵家初代当主にしか発現しなかった“異能”――“人格変性(ペルソナビオ)”が千年の時を経て目覚めてしまった。

 きっかけは些細なこと。

 しかし、その些細なことはユンにとって大きなきっかけでもあった。


 ユンは居城――“黄銀城(グリュンブルグ)”の図書室で勉強していた。

「うーん」

(なんか、妙に呪術だけは馴染みやすいんだよなぁ)

 彼は呪術の勉強をしていた。

 呪術の本を読んでいる最中、図書室にクラスメイトが入り込んできて、危機迫るかのようにユンに話しかけた。

「ユンくん!! シノちゃんが――!?」

「ッ――!?」

 それがきっかけだった。


 クラスメイトに連れて来られた場所は城内でも近寄りがたい“問題児”の巣窟。

 連れて来られて彼は目にしてしまった。“問題児”にいじめられていた()()の姿を――。

(えっ――)

「シノ、……」

 彼が目にしたのは“問題児”にいじめられ、傷を負わされたシノの姿。

 彼女の周りに“問題児”が集まり、今まで積もりに積もった鬱憤を晴らすかの如く、痛めつけていた。

 ユンが来たことで事態が悪化の一途を辿っていく。

「おい、旦那が来たぜ。皇女様よ」

 襟首を掴み上げ、ユンに見せつける。痛めつけられたシノの顔を――。

「…………」

 ユンは見てしまった。殴られて、赤く腫れたシノの顔を。綺麗で美しかったシノの顔を。

「……あっ――」

(シノの顔が……)

 意気消沈。その言葉が相応しいかのように顔を俯かせるユン。

 そんな彼に追い打ちをかけるかの如く、“問題児”が言い寄ってくる。

「よぅ、公爵家のお坊ちゃんよ」

「お前が引き籠もっていなければ、皇女様(彼女)はこうならずに済んだんだぜぇ」

 下卑た笑い声を上げる彼らの声が、言葉がユンの心に影を落とす。

(俺が……シノに引き籠もらなければ……シノが、傷つかなかった――俺の……俺のせいで、シノが――)

 この時、ユンの心は完全に壊れた。

 壊れた心に、誰かがつけ込まれ、声が届く。

『優しさだけじゃぁ。なにも守れねぇ。なにかを守りてぇなら、力を示せ』

(力を――?)

 ユンは声をかけられてるのが分からず、困惑する。

『そうだ。力がなければ、なにも守れねぇ。強さを示さなければ、荒くれ者共なんざぁ言うことを聞かねぇよ』

(誰? 誰だよ!? お前――!?)

 ユンはますます、困惑する。心に響く声。頭に直接に響かせる声。聞いたことがあるようで聞き覚えのない声に彼の心は徐々に蝕んでいく。

『おいおい、誰だ、とは皮肉だなぁ?』

 バリバリと雷が迸り、目映い光が視界を覆う。

 覆われた視界が鮮明になれば、彼は目にする。雷を轟かせ、荒廃した荒野の世界を――。

(ここは――)

『よぅ、来たか』

 ユンは声が耳に入り振り向いた。そこにいたのはもう一人のユン(自分)

 だが、髪の色と瞳の色が違うことから別人だと錯覚し、思い込んでしまいそうになる。

(お前は、いったい……)

 狼狽える彼に、もう一人の彼が言い寄ってくる。

『俺はオメエの中にいる弱さ。いや、怒りそのものだと思ってくれ』

(俺の、怒り――?)

 突拍子のないことを言われ、ますます困惑していくユン。

『まっ、急に言われても分かんねぇだろ。俺はオメエ自身が生んだ。心の傷から生まれたもう一人の俺だ』

(俺が生んだ、もう一人の俺……)

 自虐するかのように雷鳴が轟き始める。

『ここは俺ら自身が生み出した心の世界――俺らが心の内に募りに募らせた怒りの感情が渦巻いている』

(ここが……俺が生み出した、心の世界……)

 ユンは視界の入る世界が、ユン自身が生み出した心象世界だと知る。

 荒れ狂う雷鳴。全てを破壊し尽くさなければ、収まらない怒濤に鳴り響く雷。

 荒れ狂う雷鳴そのものがユンの心の内に秘める怒りそのもの。

 抑えうることもできない怒りが、このような心象世界を生み出した。

『言っとくが、オメエ自身がこの怒りを捨てることはできねぇ。こいつは理不尽に対する怒りだ。誰かを憎むためにある感情じゃねぇ。だから――』

(黙れ)

 ユンは顔を俯かせて、もう一人の自分を黙らせる。

(俺は今、苛立ってるんだ。許せないんだ。シノを傷つけた連中にぶっ飛ばさないと気が済まないんだ。なに、理論や正論振りかざしてるんだ? “強さこそ絶対”だというんだったら、シノに嫌な思いをさせたくなければ――)

『邪魔立てする奴を薙ぎ倒すか……』

 ニヤリと笑みを浮かべ、もう一人の自分がユンの心につけ込んでくる。

『だったら、俺に変われよ。大事な女を傷つけた奴ら全員に……恐怖を叩き込んでやる』

 甘い蜜を差し出してくるもう一人の自分にユンはかろうじて首肯し、気を失った。

 気を失い、倒れ伏すユンにもう一人の自分はニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、

『それじゃあ、思いっきり暴れさせてもらいましょうか』

 人格が表出してしまった。


 ピキ、パキ。


 城内の壁に亀裂が入る。


 ビリ、ビリ。


 空気が震動する。


 ドクン、ドクン。


 なにかが脈動する。

 誰かの生誕を心待ちにしていたかのように“黄銀城(グリュンブルグ)”そのものが脈動し始めた。

「ん?」

「なんだぁ?」

「城が脈動してる?」

 “問題児(彼ら)”も城に異変が起きてることに気づく。

 同時に彼らは目にする。目の前にいる()()()()()()()()()()()()ことに――。

 ドクン。

「おい……あの坊ちゃん――」

 ドクン。

「ああ。あいつも脈動していやがる!?」

 ドクン。

「なんだよ!? これ!? いったい、なにが起きてるんだよ!?」

 恐怖に震え、吼え上がる“問題児”。

「う……う、ん――」

 痛めつけられたシノは腫れあがった傷を痛めながら、朧気な瞳でユンを見た。

「――えっ……?」

 彼女ですら、信じがたい光景を目の当たりにする。

 ユンの髪の色が変化しようとしていた。

 深みのある藍色の髪から雷が閃く金髪へと。同時に彼女は肌で感じとってしまう。

(雰囲気が……ユンの雰囲気が……変わって、いく――)

 バリバリと雷が迸り、ユンの身体に帯びていく。

「あぁー、いい気分だぁ」

 ユンから発せられる声にビクッと震え上がる“問題児”。

「初めての感覚だぜぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()ってのをよぅ……」

 “問題児(彼ら)”は恐怖した。

 全身に悪寒が走りだした。そして、本能が叫んでいる。『目の前にいる怪物と戦うな』と全身から叫んでいた。

「ユ、ン――」

 シノは変化し、表出された新たな人格を見ることもなく、痛みで気を失ってしまった。

 逆に“問題児”共はユンから放たれる“闘気”を肌に掠め、恐怖で顔を青ざめる。今すぐにでも逃げおおせたい気分でいるのに彼から発せられる“闘気”が逃がそうとしてくれない。

「おい、なに逃げようとしてるんだよ。俺を弄くり倒したいんだろ? なら、やろうぜぇ?」

 顔を上げ、曝け出された金の瞳が“問題児”を睨みつける。

「だったら、やろうぜぇ? イジメって奴をよぅ」

 口調が荒々しく、雰囲気が轟く稲妻。他を圧倒させる存在感を醸し出してる。


「ん?」

 “黄銀城(グリュンブルグ)”、学園長室にして当主部屋。

 ユンの父――レイルズ・R・パーフィス。彼はふと、肌に掠めた“闘気”を感じとる。

(なんだ、この“闘気”……)

 彼は突如として肌を掠めた“闘気”に訝しげに目を細める。

 細めた目つきで周囲を見渡していれば、教師が扉を勢いよく開け放ち、入り込んでくる。

「レイルズ様!!?」

「どうした? 何かあったか?」

「あなたの息子さんが――!?」

「ッ――!!」

 レイルズの耳にユンが城内にたむろっている“問題児”と決闘ならぬ喧嘩が起こそうとしていた。

 生徒同士の喧嘩が起きようとしてるのを耳にし、急ぎ足で城内広場へと向かう。

 向かっている最中、横道から彼を呼ぶ声がした。

「お父様!!」

「セイか!?」

 彼を呼び止めた深みかがった藍色の髪をした女子生徒――セイ・R・パーフィス。ユンの実姉で彼を人一倍に溺愛にしている。

「シノちゃんが――!?」

「なに!?」

 セイの話では“問題児”がシノを痛めつけたというのを聞いたレイルズは

「次から次へと――」

 苛立ちを募らせる一方だった。

 怒鳴りたい気持ちを押さえつつ、レイルズはセイにシノの容体を聞く。

「シノちゃんの容体は?」

「今、ミウが医者を呼んで診てもらってる。でも、殴られたのか赤く腫れあがっていて――」

「治ったとしてもしばらくは青痣が残る、か」

 事態が困窮している状況下でレイルズができることは一つ。

「すぐにでも、この騒ぎを沈静化する!!」

「はい! お父様!?」

「セイ。保健室へ赴き、医療体制の配備。空き部屋も開放しろ!! おそらく、大量の負傷者が出るはずだ」

「は、はい!」

 彼女は父――レイルズに言われて、保健室へ急行する。

 レイルズは悪態を吐きつつ城内広場へと急ぐ。


 一方、城内広場では大勢の生徒が集まっていた。

 広場の中心にいるのはパーフィス公爵家嫡男――ユン・R・パーフィス。

 彼が件の中心人物であり、彼を取り囲む大勢の生徒が得物を手に、ユンを睨みつけていた。

 彼を取り囲む大勢の生徒は“黄銀城(グリュンブルグ)”に巣くう“問題児”。

 彼らはユンの挑発に真っ向からとは言えないが、逃げる気がさらさらなく出鼻を挫く気概に満ち溢れていた。

 その中にはタークやユキネも混じっていて、彼らも人族(ヒューマン)と異種族がなぜ、対等でいなければならないか、と。

 日々、鬱憤を溜め込んでいた。

 そして、その鬱憤を晴らすかの如く、ユンからの誘いに乗ったのだ。

 そして、肝心の件の中心人物――ユンはと言えば。彼は手甲と足甲を装着し、拳鞘を嵌めて、ポキポキと指を鳴らす。

 周囲を見渡し、数を数える。

(見たところ、二百人強はいるなァ)

 目測で二百人以上はいると推測するも実際のところ、三百人近くいて全員がユンを叩き潰すために広場に集まった次第だ。

 その中でリーダーシップを取っていたのが鼬族(ヴィーゼル)のタークであった。

「ようやく、その面を切り刻めるってものだ」

「御託はいい。さっさとこい」

 ユンは指でクイッと挑発してくる。ビキッと青筋を浮かべ、苛立ちを募りに募らせていくターク。

「減らず口を……吠え面かかせなくしてやる!!」

 目つきを深め、憎らしげにユンを見つめる。

 タークが腕を掲げれば、“問題児”の大半が臨戦態勢を取る。

「ゆけ!! オメエら!!」

 掛け声と共に一気呵成に攻めかかる“問題児”共。

 ユンは自分に振るわれる剣の刃を手甲で受け止め、前後左右から彼を仕留めにかかる。

 得物の刃がユンに突き刺さったのを確信した誰もが度肝を抜かれる。

 仕留めにかかった“問題児”が殴り飛ばされていくのを――。

 ドサッ、ドサッと床に倒れ伏す“問題児”。彼らは()()()()()で意識をぶっ飛ばした。

 しかも、拳だけで荒くれの“問題児”を気絶させたのだ。

 それは即ち、自らの身体能力だけで気絶させたのだ。しかし、それは断じて、不可能とも言える。

「あの程度でのぼせ上がらないでね」

「エルラ。邪魔するな」

 タークは雪女族(スノウーム)の少女――エルラに睨みを利かす。

「だが、エルラの言うとおりだ。のぼせ上がるな。たった八人。まだ三百人以上もいる“問題児”を相手に。

 いくら、貴様といえど、体力が底をつく」

「私たちにやり合えると到底思わないで。

 絶対に不可能だから」

 エルラはユンに降参しろと言外に言い放つ。

「不可能……?」

 彼女の言葉にピクッと反応するユン。

「オメエらは誰を相手にしたのか。相手の実力が分かってねぇみてぇだな」

「あ゛?」

「喧嘩を買って出たことにもっと覚悟をかけた方がいいぜぇ」

 彼は意味深な発言をする。

「どういうこと?」

 訝しげに聞き返すエルラ。

「俺はシノを泣かせた奴は許さねぇし。パーフィス公爵家をバカにする奴は許せねぇよ。だが、同時に俺は東部を何があっても守り通すし。オメエらに譲らねぇ。

 でも、誇りだから守るんじゃねぇし、譲らねぇんじゃねぇ。

 譲れねぇから()()なんだぁ」

 ユンはシノを傷つけた奴を許す気なんてさらさらない。理不尽な暴力には理不尽な暴力かつ力でねじ伏せ、押し切ると考えてる。

「待ってなよ。今すぐに全員、ぶっ飛ばしてやるからよぅ」

 無意識に“闘気”を滾らせるユンにタークは彼の言動を鼻で笑った。

「やれるものならやってみやがれ!!」

 彼の号令とともに“問題児”共が徒党を組んでユンへ襲いかかった。


 迫りかかる“問題児”を前にユンは肩を回し、首を鳴らす。

「さて、始めるか――」

 ニヤッと口角を上げた。

 ギュッと拳を強く握り、“動の闘気”を無意識に纏った。


「レイルズ様!」

「学園長!」

 レイルズのもとに集ってくる学園教師に、家臣たち。

「状況はどうなっている?」

 彼は城内広場へ行こうにも行く手の先に学園の生徒たちが集まっていた。

「生徒たちが集まっていて。先へ進めません!?」

「生徒たちの話によれば、広場の出入口を“問題児”で埋まってるそうです」

 皆から話を聞き、舌打ちしながらも“問題児”のリーダーが誰なのか訊ねる。

「聞くところ、鼬族(ヴィーゼル)ののタークがまとめ上げてるようで……」

「他にも雪女族(スノウーム)のユキネとエルラもいるようです」

「チッ。これでは先に進めれん!! すぐに生徒たちを広場に行かせないように誘導しろ!!」

「しかし、他の通路も生徒たちが集まっていて。誘導するにしてもかなりの時間が――」

「クソ……何一つ好転せんか!!」

(シノちゃんを傷つけただけで、ここまでの大騒ぎになるとは……)

 苛立ちを吐き散らすレイルズ。

 しかし、話が伝播したのか情報が彼の耳に入ってくる。

「ねぇ、聞いた?」

「うん。聞いた聞いた」

「何でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしいよ」

 その話を聞き、家臣の一人が

「金髪になった……?

 いったい、何を言ってるのだ?」

「ユン……」

(いったい、この先でなにが起きてるのだ)

 レイルズは視線の先の先でなにが起きてるのか皆目見当がつかなかった。


 “黄銀城(グリュンブルグ)”城内広場。

 広場は既に戦場ともいえる空気感を醸し出していた。

 縦横無尽に暴れ回るユン。

 彼の拳と蹴り、裏拳が炸裂し、“問題児”共を一撃で伸していく。

 宙に舞えば、いつの間にか右手に溜め込んでいた雷が放出され、一気に数十人の“問題児”が黒焦げにされ、口から煙を吐いていた。

 続けざまに指と指の間に持てるだけの雷の針を持ち、一斉に放ち、張りに刺さった“問題児”を痺れ上がらせ、意識をぶっ飛ばされる。

 あまりの戦いぶりにタークたちですら寒気を走らせる。

 その強さは鬼ともいえる強さ。

 加減してる素振りもなく、のびのびと戦っているとすら思わされてしまった。

 しかし、ユンの中でも男と女とで力の加減はされている。

 彼曰く、『女の美しさは煌めく宝石。女の笑顔は可憐に咲く花』と表現した。

 故に女性への配慮は多少なりとも考えてはいた。

 だが、気性が荒いユン・R・パーフィスの戦いぶりはまさに鬼神そのもの。


 長きに渡る歴史でユンのような戦い方ができる英雄は数えるほどしかおらず。

 しかも、東部のため、仲間のため、愛する者のためならば、単独での戦いを好んだ英雄は歴史上、一人しかいない。

 東部初代大将軍にして、パーフィス公爵家初代当主――“鬼神”ベルデ・I・グリューエン。

 つまり、ユンの戦い方は初代再来を思わせる戦いぶりであったのだ。


 背後から何人ものの“問題児”が強襲しようともユンは“静の闘気”を無意識に察知し、右手を払い、雷を放って彼らを痺れ上がらせた。

 次々に倒されていく“問題児”共にタークは痺れを切らした。

「怯むんじゃねぇ!!」

 吼え上がる彼に対し、ユンは残り人数を数えていた。

「もう頃合いかな……

 この人数なら」

 彼は身体全身に雷を溜め込む。

「ッ――!?」

 さすがのタークもまずいと判断したのか急かすかのように声を張りあげるも時は既に遅かった。

「“帝蛇天の大放電(インドラ・スパーク)”!!」

 指向性を持った雷が解き放たれ、雷が一部を残した“問題児”以外の身体を貫き、痺れ上がらせ、倒れ伏した。

 倒れていく彼らを目の当たりにしたタークたちは顔を青ざめる。

「ぜ……」

(全滅しやがった!!)

 三百人以上もいた“問題児”がたった一人に返り討ちにされた。

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