英雄。新世代と共に成長する。前編
悔し混じりに己の未熟さを呪う声をあげるシノ。
彼女は自分が出しうる渾身の一撃がアウラに掠めることもなく終わったことを悔いた。彼女は力を使い果たし、気を失うもアウラはハアハアと息を切らしながら額から垂れ落ちる汗を服の袖で拭う。
「……汗――」
じわりと流れ落ちる汗にアウラは恐怖を抱かずにはいられなかった。倒れ伏すシノに視線を向ける。“闘気”を使い果たし、気を失っているものの未だにアウラを睨み続けてるかのように目線を向けていた。
「…………」
アウラも気を失ってるシノが自分を睨み続けてることに気づいてる。
「気を失ってもなお、睨み続ける……」
白目を剝けるシノの目線が固唾を呑まずにアウラを睨み続けてる。『あなたは私が倒す』と言わんばかりに――。
「これはこれは手酷くやられましたね」
「手酷くない。薄皮一枚斬られただけ……」
「手酷いではないですか。アウラ殿ともあろう御方が新世代に傷を負わされるとは――」
「アルバス。それ以上のことを言うと分かってる?」
ゴゴゴゴッとただならぬ気配を放つアウラにアルバスも『これは失敬』と口を慎んだ。
「しかし、あなたの皮膚の皮一枚を掠めただけすさまじい成長だと自分は思うけど」
彼はタークたちの傷を癒して少しばかりの休息を与えた。
「……ライヒ皇家……千年経っても私の気が削がれることはない」
アウラは気絶してもなお睨み続けてるシノを見る。
(どこか…レイ様に似てる…)
倒れるシノにアウラは亡き友の姿を重ねる。
そして、彼女が浮かべる表情は先の戦闘では見せなかった優しげな笑みだった。
「さて――」
アルバスはシノに近寄り、治癒魔法で傷を癒したら、ジリッと起き上がるシノ。
これには、アルバスとアウラも驚愕の度を超えて戦慄が走る。
「驚きました」
「……もう回復したの?」
(人族でしょ? それにしては回復が早い――)
ハアハアと息を切らすシノ。傷は治癒しても体力や魔力は未だに回復しきれていない。それなのに起き上がるとは魔力親和性が高いと見える。
現に――
「この娘――」
「髪の色が――」
「シノ様?」
ユキネはシノの髪の色が水色から透き通る蒼になっていくのを見た。
「シノ様の髪の色が――」
「水色から蒼に変わった――」
「ユン様とは違う。いったい、なにが起きて……」
タークたちもシノの変化に違和感を覚え、同時に恐怖が走った。
ユンとシノ。自分らをまとめ上げる二人は未だ、底なしなんだと――。
アルバスとアウラはタークたちとは違った意味で恐怖が走った。
「今のは――」
「“無垢なる…蒼空”…」
アルバスはゴクッと生唾を呑む。
(体内の“魔力循環系”を効率よく扱いこなすとされる特異体質……)
(滞りなく内在魔力を流し通すことで宝石のような色合を見せる髪質へと変化する。でも、ビックリした……まさか――)
(レイ様が持っていたとされる異能の一つを発現するとは……)
アルバスとアウラは異能を発現したばかりのシノを見続けた。
逆にシノは今にでもアウラを仕留めようと矢を手にし、鏃に“動の闘気”を集中させる。
しかし――
「“闘気”が底をついています。今はおやめなさい」
アルバスがシノの肩をポンと手を置いた。
途端、クラッ……とよろめきだすシノ。そのまま倒れそうになる彼女をアウラが優しく抱きとめた。
彼女が気持ちよさそうに寝息を立てて眠りに入ると髪の色も透き通る蒼からもとの水色へと戻ってしまった。
同時刻、シノと同じ現象がティアとある彼女にも起きた。
「ハア…ハア…」
「ハアハア……キツイ……」
「冗談キツいぜぇ」
息を切らしてるティア、ユウト、シノアの三人。
彼らが相手をしているのはズィルバー。
しかも、“聖剣”を持たずに魔剣だけで相手をしている。
シューテルたちは偶然にも森に潜む魔物と遭遇し、相手にしているため、ズィルバーの相手をしていない。相手にしているのはティア、ユウト、シノアの三人のみである。
耳長族が住まう森は神代の空気をそのままに残している神聖なる森。故に、この森で鍛えれば、外界に出た際、変化があるとズィルバーは確信している。
確信しているのだが、慣れない環境に身体が追いつかず、息を切らし続けてるティアとシノアの二人。
ユウトは環境に適合しつつあるとはいえ、ズィルバーを相手にすると全力を出せずにいた。
「マジで身体が重いぜ……」
「当たり前だ。神代の空気が残り続けるこの森で“闘気”を解放すれば、消耗速度は格段に上がる。
森の外と同じように“闘気”を扱えば、消耗が一段と早くなる。“闘気”を効率よく扱いこなさなければ、俺に一生勝てないぞ」
「ちくしょー!!」
悔し混じりに苛立ちを吐き散らすユウト。ズィルバーは“静の闘気”で彼の体内――“魔力循環系”を見る。
(見たところ、ユウトは“魔力循環系”を扱いこなしていない。人族もそうだが、全種族は“魔力循環系”を保有している。
大英雄クラスともなれば、“闘気”を放出し、自在に操りこなすだけではなく、“魔力循環系”を自在に制御することができる。だが、現代においては“魔力循環系”を無意識に扱いこなしてる者が少ない。
逆に“魔力循環系”の扱い方を知らない者が多い)
ズィルバーはユウトを含め、ティアとシノアもシューテルたちも“闘気”の扱いが拙い印象を持っていた。
“闘気”。
それは魔力を置き換えても差し支えない別称。
“闘気”は“静”と“動”の二種類に分けられ、戦闘において重要なファクターになる。
“闘気”とは体外に放出し、纏わせるだけが全てではない。体内に溜め込んで瞬間的に威力を高めるのも“闘気”の使い方の一つだ。
現代において、“闘気”の運用を十全に扱いこなせるのはズィルバーのみ。残りの大半は体外に放出して纏わせることに意識を向けられる。
しかし、現代においてはズィルバーのみであるが、千年前となれば、大英雄クラスの実力者は“闘気”を自在に操りこなしていた。体外に放出するだけではなく、剣や槍などの別の形を成して扱いこなしたり、“魔力循環系”を巧みに扱い効率よく身体能力を強化させたりしていた。
ある異能を除いて、千年前においては“闘気”を自在に扱いこなす者を大英雄と呼んでいた。
また、闘気と異能は密接な関係にある。
“両性往来者”には男性体と女性体とで“魔力循環系”が異なっており、扱い方が異なっているからだ。
“人格変性”に至っては“闘気”の総量に増減があるのもそうだが、体内外の扱い方が大きく異なっている。“闘気”を貯蓄させる器官が大きくなり、瞬間的な強化が格段に向上するのが千年前の通説である。
現に――
「前から思ってたが、ユウト」
ズィルバーは神妙な面持ちでユウトを見つめる。
「なんだよ」
彼はズィルバーが仕掛けてくるのを警戒する。しかし、警戒とは裏腹にズィルバーの言葉が心に重く突き刺さった。
「はっきり言うと“闘気”の扱い方が拙い上に雑」
「ざ、雑?」
ユウトはキララの指導の下で“闘気”の扱い方と“竜言語”の扱い方も習っている。彼女の指導の下で習っていて、ズィルバーはまだ雑だと言い放った。
「キララの教えがへただって……言いたいのか?」
苛立ちを含ませて怒鳴ってくるユウトだが、ズィルバーは溜息交じりに返答する。
「別にキララさんの指導が悪いわけじゃない。俺が言いたいのはキミ自身が“闘気”を全然理解していない」
「俺が…“闘気”を………」
(全然、理解していない、だと?)
ユウトはズィルバーが言う言葉の意味が理解できず、困惑し始める。
困惑し始めるユウトにズィルバーが合いの手を入れる。
「その様子だとヘクトルでの経験がうろ覚えだな?」
「ッ――!?」
彼に指摘され、ユウトは言葉を詰まらせる。
「全く――」
ズィルバーは溜息交じりに説明し出す。
「いいか。“闘気”ってのは体外に放出したり、武器に纏わしたりするだけじゃなく、体内に流れる“魔力循環系”を調整する役割を持っている」
「体内を…調整する…?」
ユウトは聞き慣れない内容に頭を悩ませる。
ズィルバーは彼の反応を見ただけで廃れてしまった技術なのだと内心、溜息を漏らした。
「人族に限らず、この世界の全種族は種族特性を抜きにして、一番に優れているのが魔力……”闘気”。
“闘気”を極めれば、体外に放出した闘気を武器の形に模したり、体内で“闘気”を制御したりすれば、劣悪環境下においても戦闘することもできる」
ここでユウトは“魔王傭兵団”のアジトで対峙したヘクトルが“闘気”で槍を模したのを思いだす。
ズィルバーはユウトの思ってるのは裏腹に話を続ける。
「しかし、体内で“闘気”を制御するには人体の構造を理解しないといけない。体外に“闘気”を放出するだけでは“闘気”を極めたとは言えない。“闘気”を極めるというのなら、体内の制御しなければいけない」
彼は言い切れば、ユウトは臆面なく、いや、容赦なく食いかかった。
「じゃあ、ズィルバーは“闘気”を極めてるのか?」
(俺にそこまでのことを言えるんなら、証拠を見せてほしい)
口先だけではなく、実物を見せてみろと言外に言うユウトにズィルバーはフゥーッと深く息を吐いたら、“闘気”が急激に溢れ出るのをユウトは“静の闘気”で感じとった。
「ッ――!!」
(“闘気”が溢れ出ている。放出しているのとは全然違う……)
ユウトは実際に見ることでズィルバーが述べた言葉の意味を嫌でも分からされてしまう。
「言っておくけど、男だろうと女だろうと体内で“闘気”を制御する技術は習得できる。知りたければ、キララさんに聞いてみれば、彼女も“闘気”の扱いに関しては超一流。納得がいかなければ、彼女にずが非でも聞いてみればいい」
「…………分かった」
ユウトは不服なのか悔しげにギリッと歯を強く食いしばる。
自分が目指すべき相手との距離が縮まってかと思いきや、大きく突き放されてしまったショックに悔しさを滲ませていた。
ズィルバーは体内から溢れ出る“闘気”を制御させ、ティアとシノアに視線を転じる。だが、視線を転じたことで彼は驚きを隠せず絶句する。
ユウトはズィルバーがなにに驚いているのか分からず、視線を転じた。
「……」「……」
そして、二人は驚きを禁じ得なかった。
ティアとシノアの髪質が変化していることに――。
「なっ……シノアの髪の色が紫から藍色に変わってる……」
「これは――」
ズィルバーとユウトは目にする。ティアとシノア。彼女たちの髪の色が変化してることに――。
「さあ…ズィルバー…」
「まだ、終わっていませんわよ……」
ハアハアと息を切らしつつもズィルバーに立ち向かおうとするティアとシノア。彼女たちにズィルバーは息を吐いて、体内に流れる“闘気”の制御を解いて、溢れ出させる。
「いや、終わらせる」
(これ以上、戦わせるのは俺としても看過できない。ましてや――)
ズィルバーはティアを見つめる。
ティアは今、濡れ烏のような黒ではなく、水晶を思わせる純白の髪質へと変化している。
この現象にズィルバーは心当たりがあるどころか見知った異能であった。
(まさか――“無垢なる純白”が開花するとは――)
彼はティアを見て、僅かに悲しげな眼差しを浮かべる。
「?」
ティアはズィルバーの瞳に悲しさが宿ってることに目を細めるも彼は考えを霧散するかのように息を吐き、魔剣たる“閻魔”と“虹竜”を抜いた。
「大人げないけど――一回、完膚なきまでにへし折ってあげる」
体内から溢れ出る“闘気”を放出させ、二本の剣に纏わせていく。
「“我流”・“帝剣流”――」
纏った“闘気”が龍の形を成していく。
「「ッ――!?」」
「これが――」
(“闘気”を自在に扱いこなす、ということか)
ズィルバーが二本の剣を振るい、“闘気”で形を成した龍の幻影と共に斬撃を放つ。
「――“二刀流・竜王緋天死乱斬”!!」
二本の剣から放たれる斬撃は大地を穿ち、草花を斬り裂いていく。
「うそ!?」
「そんなのありですか!?」
大人げなさすぎ感を満載に出してるズィルバーの技に涙目になるティアとシノア。
彼女たちは呆気なく斬撃に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
叩きつけられてもなお、ティアとシノアは諦めていないとばかりに起き上がる。
「まだ勝負はついていないわ」
「甘く見ないで…ちょうだい………」
ハアハアと呼吸が荒いまま言ってくる彼女たちにズィルバーは神妙な顔で言い放った。
「いや、もう終わり」
彼は二本の剣を鞘に納め、体内から溢れ出る“闘気”を制御した。
「そんな身体で何を言ってる?」
「え?」
「私たちの身体で――」
ハアハアと荒い息を吐き続けているティアとシノア。
魔物の退治を終えたシューテルたちもティアとシノアの異変に気づく。
「なぁ……ティアって、髪が白かったか?」
「いや……副委員長は髪が黒いはず――」
「お、おい……ミバル――」
「ああ、髪の色が紫から藍色に変わってるぞ」
彼らもティアとシノアの異常性を口にする。
「おい、ティア!? なんで、髪が白いんだ!?」
「シノア!? お前、自分の髪を見ろ!!」
「自分の髪?」
シノアは外野にいるミバルから言い放たれた言葉に首を傾げる。しかし、彼女に言われたとおりに髪に触れて視界に収めれば、シノアは自分の身に起きた異変に気づく。
「ちょっ!? えっ!?」
「シノア!? 髪の色が変わってるわよ!?」
「そういうティアだって、髪の色が変わっています!?」
ティアとシノア。彼女たちはお互いに見合う形で言い合えば、急に力が抜けたかのようにヘナヘナとその場にしゃがみ込んでしまう。
「あれ――?」
「急に力が――」
しゃがみ込んでしまうティアとシノア。同時に彼女たちの髪も本来の髪質へと戻ってしまった。
「あっ……髪が……」
「戻った――」
ユウトたちは彼女たちの髪が戻っていくのを見て、不思議と彼女たちに意識が注がれる。
「な、なに……」
「そんなに見つめられると……」
急に見つめられ、抱き合い始めるティアとシノア。
互いに敵対同士なのに、シンパシーでもあるのか疑ってしょうがなかった。
だが、ズィルバーは剣を納めて、ティアに近寄る。
「なんで、急に力が出なくなったかわかる?」
彼女に問い質してくる。ティアはうーんと考えに頭を悩ますも原因が分からず、首を左右に振る。
シノアにも目線で同じ問いを投げかけるも彼女も分からず、首を左右に振る。
(原因わからずか…)
ズィルバーは内心、技術の衰退に嘆いた。
「ティア。キミが立てない理由は分かるか?」
「分からない」
「バカ正直に答えるなよ」
肩を落とすズィルバーだが、気を取り直して、彼は答えた。
「答えはズバリ。体内に貯蔵されてる“闘気”を無駄に余すことなく使い切ってしまったからだ。
まっ、初めての経験だから身体が順応できずにガス欠したということにしておく」
彼が言い含めた内容にムッとするティアとシノア。まるで、自分たちが未熟者扱いされて不服に思われてしまったからだ。
「なに? 私が未熟者だって言いたいわけ?」
「未熟者以外になんて言えばいい。ただでさえ無垢なるシリーズを発現させたんだ。使いこなせないと宝持ち腐れ。まっ、その異能は皇家ゆかりの者にしか発現しないと聞いてる」
「無垢なる――って、なに?」
「髪質が変化しただろ。魔力過多体質とはまた別。体内に流れる“闘気”を余すことなく使う異能。修行次第で異能を自分のものにすれば、瞬間的な威力に関していえば、鬼族にも引けを取らん」
「えっ……うそ!?」
「うそじゃない。その異能は俺の“両性往来者”やユンの“人格変性”と違って、この世でもっとも美しいとされる異能。誰にでも扱えるものじゃない」
(なにしろ、ライヒ皇家は耳長族の血が流れている。人族と耳長族の血が混ざり合ったことで生まれたとされる異能――レイが持っていた異能だ。キミが持ってもおかしくない異能なんだ、ティア)
ズィルバーは瞳の奥に哀しみを宿すも気を切り替えて、頭から邪念を振り払った。
「とにかく、今のティアにもっとも足りないのは“闘気”の扱い方だ。総量に関していえば、鍛錬と実戦を通していけば増えていくけど、技術面に関しては鍛錬しないと身につかない。俺と肩を並べたいんだろ。だったら、これぐらいはできるようにしろ。ハルナやシノに追い越されたら、恥ずかしいだろ」
「それはいや」
ムゥ~ッと頬を膨らますティア。異母娘同士で負けたくない気迫が肌から伝わってきた。
「だったら、特訓するしかない。“闘気”の体内コントロールは体外放出よりも制御の難易度が高い。
気を抜いてると“闘気”を無駄に消耗するだけだからな」
ズィルバーはそう言いつつ、ティアを抱き上げる。
「ちょっ――!? ちょっと――!?」
ティアはズィルバーに抱かれてしまったことに頬を紅潮させて慌てふためく。
「こら。暴れない。“闘気”が空っぽなんだ。体力を回復することだけに専念してくれ」
「で、でで、でも……」
ティアはカアッと顔を真っ赤に染め上げ、どう言い返せばいいのかしどろもどろになってしまった。
「?」
ズィルバーはティアが言葉を詰まらせたり、顔を真っ赤にしたりする理由が分からず、小首を傾げた。
彼の鈍感さにシューテルたち“白銀の黄昏”の面々とレイン、キララ、ノイらはハアと溜息を漏らした。
「シノア――立てるか?」
ユウトはシノアに手を差し伸べるも彼女は慌てふためいて「大丈夫です」と答える。しかし、ユウトはシノアがうそをついてるのを見抜き、ヒョイッと彼女を抱き上げてしまう。
「我が儘言わずに俺を頼れよ」
「あ、ああ、あうぅ~」
ユウトに抱かれてしまってるのが恥ずかしいのか。ボン、と顔を真っ赤にし、視線が彷徨った。
「?」
ユウトもユウトでシノアが気恥ずかしげに顔を赤くしてる理由が分からず、頭上に疑問符を浮かべてしまった。
シーホとミバルはユウトとシノアのいちゃつく姿にイライラを募らせていく。
「いちゃつくな――あのアホ!」
「っていうか、鍛錬するのかいちゃつくのか。どっちかにしろ!!」
盛大に呪詛を思わせるわめき声を吐き散らした。
ヨーイチとメリナは苦笑を浮かべざるを得なかった。
ズィルバーとティア。ユウトとシノア。付き合ってもいない二組のカップルにレインとキララ、ノイは苦笑を浮かべた。だけども、彼らはティアとシノアが見せた異能に顔色を変えざるを得なかった。
「まさか、ティアちゃんが“無垢なる純白”を発現させるなんて――」
「さすがはライヒ皇家の末裔と言えるが……問題はシノアだ」
キララはシノアが紫の髪から藍色の髪に変質するとは夢にも思わなかった。
「僕もそこに驚いている。まさか、ティアが“無垢なる藍染”を発現するとは思わなかった」
彼らが驚きの余り、顔色を変えざるを得なかったのはシノアにあった。
(うーん。シノアちゃんがまさか、ライヒ皇家の血を引いてるなんて言わないよ、ね?)
(なにぶん、千年の月日が経過してる。ライヒ皇家の中で何か問題があったのかもしれん。じゃなければ、シノアが“無垢なる藍染”を発現するとは到底思えん)
(調べる必要がある。ライヒ大帝国の歴史を――。ライヒ皇家の歴史を――)
彼らは“獅子盗賊団”を壊滅させた敵と敵対するのと同時に調べないといけない重要事項が見つかってしまった。
決戦まで、あと十日。
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