英雄。新世代とともに修行する。
アルバスの案内で修行場所へ向かってるユンたちと違い、ズィルバーはティアたちを連れて、耳長族の里の外れに来ていた。
「ズィルバー。なんで、俺たちは“豪雷なる蛇”とは別なんだ?」
シューテルが修行する場所が違うのか訊ねた。
「ユンたちと俺たちには違いがある。それはなんだ?」
ズィルバーは答えるどころか逆に問いかけてきた。
皆して、彼の問いを考える。
“白銀の黄昏”と“豪雷なる蛇”の違い。それは至って簡単だった。
「実戦経験と鍛錬度合い?」
ティアが曖昧に答えた。まるで、その答えが正しくないかのように――。
「正解」
彼女の曖昧な答えは間違っていないとズィルバーは頷く。
「俺らは学園で風紀を乱す生徒を取り締まるをする以外に北方で“魔王傭兵団”を防衛戦争に出陣した。そして、生き残った。実戦で培ったのは経験だけじゃない。実戦で鍛え上げられたからだ。しかし、ユンたちは実戦経験もなければ、基礎能力が低い。“闘気”よりも種族特性だけを活かしてる。ただ――」
「それだけでは格上には勝てない、だな」
ノウェムの言葉にズィルバーは頷く。
「常に日頃から鍛えなければ、守りきることができない。故に技術だけではなく、その土台を築かなければならない」
「だから、俺たちは基礎能力を向上すべきだと?」
シューテルは両腕を組んで聞いた。
「ああ。幸い、この森は大気中の外在魔力が濃い。基礎能力を鍛えるにはうってつけだ」
「それで歩くだけで疲れるのかよ」
シューテルは耳長族の里に来るまで気分が悪くなったり、疲弊しやすかったりする理由を知れた。
「全くです」
ライナも疲れやすい理由を聞いて納得した。
「さて、今からすることは里の外れの端から端まで往復ダッシュだ。外在魔力の濃度が高いからいつも以上に疲れるぞ」
ズィルバーが出された内容を聞き、ティアたちは顔を引き攣らせる。
「ここを往復ダッシュ……ですってェェええ!!」
「なんだ、不満か?」
「不満どころか殺す気かァ!? テメェ!?」
怒鳴りだすシューテル。
「いいか!? 俺の見るかぎり、ここいら一帯だけで百メルはあるぞ!! それを往復ダッシュするか普通!? 往復する前に全員、倒れるわぁ!!」
息絶え絶えに怒鳴り散らす彼にズィルバーは「確かに」と呟いて、顎に手を添える。
「委員長。私としては二十メルでの往復ダッシュを希望する」
カルネスが内容変更を要求する。
「うーん」
ズィルバーは頭を悩ませた末、カルネスの提案を受け入れた。
「じゃあ、二十メルでの往復ダッシュだ。ただし、時間感覚を徐々に縮めていく。体力に個人差がある以上、限界が来たらリタイアするように……いいな? それじゃあ、始めるぞ!!」
彼の掛け声で修行が開始された。
二十メルの往復ダッシュが始まって、十分が経過した。
十分が経過したのに――
(もうほとんどが脱落か――)
体力に自慢がある者たち以外は疲れ果て、息絶え絶えにへばっていた。
「驚いた……」
「ああ」
「時の流れを改めて実感する」
指導官役に回ったレイン、キララ、ノイの三人も驚きを隠せずにいる。
「残ってるのがズィルバー、ティアちゃん、シューテルくんに……」
「ユウトと――」
「シノアだけとはね――」
そう、残っているのはズィルバー、ティア、シューテル、ユウト、シノアの五人だけ。
残りは疲れ果てて、里の外れの端で休んでいた。
しかし、残っている者たちも中でもズィルバーとユウト以外は息を切らし、呼吸が均一ではなかった。
「ここでティアちゃんとシューテルくん、シノアちゃんはリタイアね」
「そうだな」
「前から思ってたけど、ズィルバーは彼だからともかく、ユウトくんはどんな鍛え方をしたの?」
半端な鍛え方ではないのは走り込みだけでも見てとれる。
ノイは鍛え上げた当人に話を振った。
「単純にユウトは“ドラグル島”の山で鍛え続けただけよ」
「それはそれでおかしいからね」
「はい…おかしいです…」
(さすが、鬼。鍛え方も半端じゃない)
レインはキララの指導が衰えていないことに気づかされる。
「“ドラグル島”……しかも、山育ち? ヘルトと同じやり方をしないでくれ」
頭を痛めるノイ。
彼の気持ちが理解できるレインも主が千年前に聞いたことを思いだす。
(そういえば、ヘルトも“剣峰山”で山籠もりして力を付けたってレイ様から聞いたことがある。今、思えば、私たちの時代って、ただひたすら、基礎能力と技術を磨き続ければ、戦場で輝けたからね)
レインは千年前の常識を思いだされていく。
そんな彼らの話とは関係なく、時間が進んでいく。
シューテルが体力切れでリタイアし、ティアとシノアも体力切れでリタイアした。
ズィルバーとユウトも彼らがリタイアしたのを見て、これ以上は無意味だと悟り、一区切りをつけた。
フゥ~ッと軽く息を吐いて、呼吸を整えた。
「さて、今ので自分たちに足りない物が分かったはずだ」
「必要なのは体力ってか?」
「いや、正確に言えば、“闘気”。魔力だ」
ズィルバーは今、必要なのが“闘気”だと言い放った。
「知っての通り、“闘気”は窮地にこそ、さらに進化する。ただ、常に日頃から鍛えなければ、窮地に至っても進化に差がある」
「つまり、基礎能力の向上が必須条件」
「ああ」
ズィルバーは肯定する。
「しかし、環境の違いで成長度合いが違う。劣悪環境で鍛えれば、成長度合いが違うんだ」
ズィルバーの言葉にティアはハルナが薄着でも極寒の北海でも平然としていたのを思いだす。
「この森は俺たちを鍛えるにうってつけの場所だ。ここで基礎能力を向上すれば、技術も向上する。とにかく、基礎能力の向上が俺たちに必要不可欠なのさ」
彼が端的に言えば、なるほどとユウトたちが納得する。
「時間は一週間ちょっと。それまでの間にここの環境に慣れれば、森を出たときに気づくはずだ。ここで鍛えた意味をな」
「とにかく――」
「私たちの…課題は…」
「この環境に慣れろってことだな?」
「ああ」
今、必要なことを優先することは分かった。
「ちょっと待って!? シノたちはどうするのよ!?」
ここでティアはシノたちが自分らの倍以上の鍛錬をしていることに気づく。
「そうだ。ユンたちは俺たちよりも弱い。だから、里の最奥で鍛えるんだろう。この森の最奥は里の外れの十倍。つまり、全身に重りを着続けて修行してるようなものだ」
ユンたちが自分たちよりもより過酷な環境下で修行してるのだ。こんなところでへこたれてたら、“豪雷なる蛇”から笑われてしまうのは明白だ。
故に――。
「ちんたらしてる暇じゃねぇな」
シューテルが立ち上がる。
「こんなところでつまずいていらねぇ……俺はもう二度と負けるわけにはいかねぇんだ」
「確かに…な…」
シーホも立ち上がる。
「俺も強くならねぇといけねぇ」
彼らにつられてティアたちも立ち上がり、続きをしようと促してくる。
ズィルバーはポケーッと呆気にとられるも彼らの気持ちに感化され、修行を再開することにした。
ズィルバー一行が里の外れで修行してる最中、ユン一行はアルバスの後ろをついて行った。
彼らが向かう先は耳長族の里の最奥にして、森の最奥でもある。
里の最奥に向かうにつれて、足取りが重くもつれ駆けそうになるユン一行。
「おい、アルバスさんよぅ…いったい、どこまで続いてるんだァ?」
呼吸が若干、荒れ始めてるユンがアルバスに訊ねた。しかも、喧嘩腰で――。
ユンの付き添い。いや、彼の契約精霊であるネルはアルバスに向かって、粗暴な態度を取った主に頬を引き攣らせる。
「…………」
アルバスも粗暴な態度を取る彼に驚いて目を見開くかと思いきや、どこか懐かしむ眼差しを向けた。
(ああ……その目…その瞳…粗暴な態度……どこからどう見ても……あなた様にそっくりです。ベルデ殿――)
彼の瞳にはかつての友――ベルデの姿がユンと重なった。
(今、こうして、あなたの子孫と巡り合うのは運命に思えます。全ては、あなたの思惑通りですかな)
アルバスはユンの視線を背中越しに浴びつつ、胸中では亡き友に言葉を飛ばした。
「おい、聞いてんのか?」
苛立ちを募らせていくユンの声音を受けつつも彼は気圧されることもなく答える。
「自分たちは今、里の最奥へ向かっております。もうじき辿り着きますのでご安心のほどを」
「そうは言ってもよぅ。シノたちはそろそろ限界だぞ!」
「それはあなたたちの力不足というもの。このような環境に適合できなければ、守れるものも守り通せんということ」
「……ッ……」
アルバスの言葉がユンの心に貫かれる。彼の言葉は間違っておらず、力がなければなにも守れないのは道理。口先だけの男は今まで見てきたアルバスだからこそ、言い放てる言葉でもあった。
彼の言葉が正しく、ユンはなにも言い返せず、口が閉じてしまう。
本来なら、言い返したいところだが、自分の弱さが皆につらい思いをしてることに変わりなかった。
ギュッと手を強く握るユン。
ネルは彼の心境を感じとったのと同時にユンがベルデの子孫だと確信する。
(そっか。ベルデは死んじゃったんだ。それも千年も前に――。レインの話じゃあレンも目を覚ましたようだけど……)
ネルは北の方で過ごしていると思われる友を思い浮かべる。
(ねぇ、レン。あなたはかつての主が死んだと聞いた時、どう思った? 悲しかった? 悔しかった? 理由が聞きたかった? 私は今でもベルデが私を眠らせたのか気になって仕方ない)
彼女は自分を封印させたベルデの真意を聞きたかった。
「つきました」
目的の場所へ到達したユン一行。
彼らが目にしたのは森の中とは思えない場所であった。
木々の隙間から洩れる陽光に照らされ、咲き誇る花々。
花園が一帯に広がっている広場。
「お、花畑、……」
森の中とは思えない光景に驚きを隠せず、目を見開いてしまう彼ら。
アルバスは彼らが驚いてる理由も分かる。故に言葉を紡ぎ始める。
「この花園こそ、この森の最奥にして、里の最奥でもある。自分にとって思い出深い場所でもあります」
花園を進んだ先に巨木が聳え立ち、根元には大人の人族が一人通れる扉があった。
扉の前に来たところでアルバスは扉に背を向け、ユンに話しかける。
「ユン殿。ネル。ここから先はあなたたちだけで入ってください」
「俺と……」
「私、だけ?」
目を細めるユンとネル。
「他の皆様はここから先は通せません」
彼はユンとシノたちは別々で鍛えさせるつもりでいた。
シノたちは不平不満を抱くも彼は一行の気持ちを汲んで、別の修行相手を呼んでおいた。
「他の皆様はあちらにおられる彼女と自分と修行してください」
アルバスは左手を差し伸べれば、行く手の先に一人の少女が剣を手に待ち構えていた。
蒼いボブカットに肌が白い美少女。彼女は剣を肩に乗せてシノたちを見つめていた。
「彼女はアウラ・N・グレイズ。見た目の通り、小人族。しかし、彼女は自ら精霊となることで千年以上も生き続けています。そして、彼女はヘルトの愛弟子です」
アルバスが紡がれていく話にユンたちは驚愕で言葉が失った。
種族が精霊になるとか、ヘルトの愛弟子とか、色々あるけども一番は千年以上も前の人が修行相手になることだ。
「言っておきますが、自分の戦闘能力は低い方です。しかし、それでもあなたたちの方が弱い。それを忘れないでほしい」
アルバスはそう言いきった。シノたちも重々承知してるのかゴクッと息を呑む。
シノたちの修行相手が決まったところでアルバスは扉を開け放つ。
「では、ユン殿。ネル。お入りください」
「一つ聞く。先に行けば、俺は誰よりも強くなれるのか?」
ユンが放つキツイ問答にアルバスは正直に答える。
「強くなりたい、なにかを守り通したいと思うのなら必ず――」
「そうか」
ユンは彼の言葉を聞き、フッと笑みを浮かべた後、ネルとともに扉の先へと進んでいく。
ユンとネルが扉の先へ進んだ途端、扉が閉まり、ガチャリと鍵をかかった。
これより先、いかなることがあったとしても、ユンは確実に強くなる。
それは先祖と同じように“鬼神”と言わしめるほどに――。
扉を潜り、部屋に入れば、雲の上にいた。
(えっ――?)
(はい?)
雲の上。正確に言えば、雲海に浮かぶ大陸の上にいるユンとネル。
ズボッと大陸に沈んでいくユン。
「あれ? うわぁアアアアアアーーーーーーーー!」
地に足を付けるどころかの如く、雲に足を付けることもできず、空を切って、重力に従って落ちていく。
「あぁあああああああーーーーーーーー!!」
バタバタとじたばたするユン。どうすればいいのか瞬時に考え込んでしまう。
しかし、誰かに腕を掴まれ、ネルがいる大陸に投げ飛ばされた。
「ブヘッ」
無様にも大陸に叩きつけられたユン。彼は投げ飛ばした人物にお礼やら文句やら言おうと起き上がった。
「落ち着かんか」
気持ちが休まるどころか清涼な声がユンの身体を突き抜ける。
「無様で見苦しいぜ、子孫。足が付けるはずだ」
「え?」
ユンは言ってくる声に従って、周囲を手探りに触れば、モフモフとした雲の大陸だが触れるし、立つことができる。
ユンが立ち上がるのを見てとれたら、声の主は不敵な笑みを浮かべたまま
「どうだ? 神秘的な体験だろ?」
言い放った。
その者は中性的な顔立ちに藍色の髪に濃紫の瞳をした青年。歴戦を経たのか右目に剣で斬られた傷跡があった。
ユンから見れば知らない人だが、どこか自分に似ていると違和感を覚える。
しかし、ネルはその人物に見覚えがあった。忘れもしない。かつて、自分が契約した主だったからだ。
「ベルデ――」
「え?」
「ベルデ――なの?」
ネルは青年に声をかける。
青年はネルの姿を視界に収めるとフッと優しげな笑みを浮かべる。
「久しぶり、ネル。こうして出会うのはいつぶりだ」
微笑んでくる青年に対し、ユンは横から割り込む。
「オメエは何者だ? アルバスに言われて、来てみれば、巨木の中に雲海なんざ聞いたことがねぇ」
荒い口調で訊ねてきた。
青年はユンの問答に聞きつつ、彼に視線を向けて深い笑みを浮かべた。
「雲で立てる方法を教えた恩人に対し、その態度、気概があると見る」
「あ?」
訝しむユンは青年が両手を振るえば、両手に装備された金色の爪に目を見開く。
「ん?」
(金色の爪――?)
バリバリと雷が迸る金色の爪。空気が震える。青年が放つ“闘気”が一帯を支配している。
「まず、初めましてだな、子孫。俺はベルデ。ベルデ・I・グリューエン。わかりやすく言えば、お前の先祖だ」
「ベルデ……俺の先祖、ね」
バリバリと拳に雷が迸りだすユン。
「ほぅ~」
青年――ベルデはユンが見せる雷に嬉々として目を細める。
「ネルを目覚めたばかりなのに、そこまでの力を引き出すか。並外れた才能を持ってるようだ。だが、ネルの力を全て引き出されていない」
「ッ……!」
ベルデに自分の状況を見抜かれて、歯を食いしばらせるユン。
(さすが、先祖ってところか。一目で見抜きやがった)
「口で言ってもこれ以上は身体で教えた方が早い。構えろ。“雷帝ネル”を扱えるか否か。俺が見定めてやる。一人で戦えるほど、世の中は甘くないぞ!!」
吼えたベルデは雲を蹴ってユンに肉薄してきた。
迫り来るベルデにユンは力のかぎりぶつかりにいった。
同時刻、花園ではアルバスと小人族の少女――アウラと対峙しているシノたち。
一人ずつ相手にするどころか総当たりで挑みかかっても返り討ちに遭っている始末。
しかも、アルバスとアウラはその場から一歩たりとも動かずにシノたちを叩きのめした。
地に倒れ伏すシノたちにアルバスは至極当然かつ当たり前なことを述べる。
「今、あなたたちに足りないのは基礎能力。体力、魔力、身体能力の全てが不足しています。この環境に身体が追いついていないのも否めませんが……それを抜きにしても、あなたたちの基礎能力が明らかに低すぎます」
アルバスは決定的に不足してる部分をはっきりと言い放つ。
「……加えて、異種族なのに、種族特性を使い方が雑。今のままじゃあなにも守り通せない。口先だけの子供としか言えない」
アウラは鋭い毒を言い放ち、シノたちの心に突き刺さっていく。
カハッと息を吐き出して、立ち上がるシノ。
「そんなの…百も承知よ…」
アルバスに受けた傷が相当に重く、立ち上がるのだけで精一杯であった。
「だからこそ…強くなりたくて…ここに、来た…」
ハアハアと息を切らして、矢を携えるシノ。
彼女の得意な武器は弓。
つまり、弓術を主体としている。
しかし、弓術というのは元来、中距離もしくは遠距離で用いる技術。泣き所である近距離戦闘を不得手な技術なのが有名だ。
アウラも弓対策を心得ているのか。剣を強く握り、“動の闘気”を纏わせた。
「疾ッ!」
シノもなけなしの“動の闘気”を纏わせて、一射を放った。
なけなしに放たれた一射だが、アウラは剣で軽々と叩き折って見せた。
しかも、彼女が反応する際、矢の軌道を読み切った上でへし折って見せた。
その際、シノはアウラが見せた行動に既視感を覚える。
(今の、動き……どこかで……)
「あぐっ!?」
カハッと土手っ腹にアルバスのアッパーが叩き込まれる。
ゲホゲホと口から血を吐き出すも倒れ伏すこともなく、立ち続けている。
「ほぅ~」
アルバスはシノがした行動に感心する。
「咄嗟に“動の闘気”を一点に集中させて耐えきりましたか」
(どうやら、どこかで“闘気”の扱い方を見ましたか)
「ですが、ここまでのようですね」
そう言い放てば、シノはドサッと地面に倒れ伏す。
「シノ――」
「シノ、さん……」
タークとユキネが朧気に声を発する。
「よく頑張った方です。ですが、これで分かりましたね。今のあなたたちでは戦場に出ても犬死になるだけというのを――。で、あれば、出血大サービスであなたたちを白銀の黄昏に負けず劣らずの力を身に付けさせてあげます」
アルバスはシノたちに治癒魔法を掛けつつ、今後の展望と目標を言い放った。
言い放った直後、アルバスとアウラの意識は地面に倒れ伏していたシノに向けられる。
「…………」
「…………今――」
(睨まれて、いた?)
アウラは訝しげにシノを見つめる。
「勝手に、終わったと…決めつけ、ない…で――」
「――ッ!?」
アウラはシノから放たれる“闘気”を“静の闘気”で掠め取った途端、全身に寒気が走った。
「ッ――!!」
「アウラ殿!?」
「今、ここで…完膚なきに…仕留める!!」
アウラは“動の闘気”を剣に大きく纏わせて、確実に敗北を味わわせる気でいた。
彼女が振るう剣。その剣は確実に心をへし折りに来ている。
剣の鋒がシノに仕留めにかかるのと同時に彼女も最後の力の限りを矢の鏃に込めた。
「アァアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!」
シノは矢を手に鏃を剣の鋒にぶつける。
無意識に“動の闘気”を大きく纏わせたシノ。アウラは彼女の急成長に言葉を詰まらせる。互いの“闘気”が衝突し、ビリビリと雷と火花を散らせた後、剣が砕かれた。
「ッ――!?」
「――――――――」
獣如き咆吼を上げるシノはアウラを仕留めにかかった。
「もう二度と――」
彼女の脳裏にはティアの姿が過ぎ去った。
「負けるわけにはいかないのよ!!」
アウラを仕留めようと矢を振るうシノ。しかし、矢が砕け散り、アウラを仕留めることができなかった。
「ちく、しょう…」
シノは悔しさのあまりに己の未熟さの声を漏らし、そのまま倒れ伏した。
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