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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
東方交流
164/296

聖帝と雷帝の痴話喧嘩。

 時は少し遡ることを十数分前――。

 ティアがシューテルたちに声をかけようと屋敷の大部屋に来てみれば、大部屋ではバチバチに睨み合っているレインとネルの姿と及び腰になってるシューテルたちの図があった。


「なに、これ――」


 タラリと汗を流すティア。


「あっ、副委員長!」


 カルネスが声をかける。


「何があったの?」


 小声で事情を尋ねれば、カルネスはガクガクと震えつつも教えてくれた。


「実はレイン様がネルという女性に文句を言えば、彼女がブチ切れて口論に発展した」

「仲裁に入る親衛隊はどうしたの?」

「連中は別室で疲れを取るために休息に入った」

「あの、役立たず共――」


 ワナワナと怒りを露わにするティアに「落ち着いてください」と宥めるカルネス。


「ひとまず、委員長の容体は?」


 ズィルバーの容体を尋ねれば、「今さっき、目を覚ましたわ」と答えた。


 彼女の言葉がレインの耳に入っていたのか目線をティアに向ける。


「どうやら、ズィルバーが目を覚ましたみたい」

「へぇ~。私よりも主の方を優先するんだぁ~。レインってば、いつの間にか保護になったのかしら?」

「ハッ? 誰が過保護になったって? どういう頭をしてるの? その頭は筋肉の塊なのかしら? ああ、血の気が多いから脳みそが筋肉だもね」

「あ゛? 誰が脳筋だ、ゴラ! 私はともかく、主を脳筋呼ばわりするのは許さんぞ」

「私は主のことなんて言ってないわ。そう聞こえるならあなたの主も脳筋なのね」

「うるせぇ! お前の主だって、生粋の戦闘狂じゃないか! あれを脳筋と言うんじゃないのか」

「ズィルバーは脳筋じゃあありません! 彼は()()()()()()()()()()()!() どこぞの()()()()()()()と一緒にしないで!!」

「言うじゃないか」


 バチバチと火花を散らすレインとネル。


「この天然アホレイン!!」

「黙りなさい! 傍迷惑ネル!!」


 額をこすりつけ、睨み合う二人。

 二人が放つ魔力にビクビクと震え上がるティアたち。


「とりあえず、委員長に報告を――」

「そ、そうね。とりあえず、ズィルバーに頼んでみるわ」


 ティアはそろりと忍び足で大部屋を退室して急ぎ足でズィルバーがいる部屋を向かった。




「――という次第よ」

「全く、レインは――」


 ハァ~ッと深い溜息を吐くズィルバー。

 うーんと頭を悩ますアルバス。


「ズィルバー殿。ティア殿。自分に考えがあります」


 ここで妙案を思いついたアルバス。


「「妙案?」」


 顔を見合わせる二人に彼は考えを提示する。

 彼の考えを聞いて二人は


「その考えならいいな」

「試してみる価値はあるわね」


 妙案を了承してくれた。


 妙案を実行する次第、迅速に行動を始めたズィルバーたち。だが、ズィルバーは病み上がりなので、ティアが看病し、アルバスが動いてくれた。

 向かった先はユウトとシノアが休んでいる部屋。

 アルバスはユウトとシノアではなく、彼らと契約してる()()()()に用があった。

 ある二人はレインとネルが口喧嘩してるのを聞き、ブチッと血管が切れる音がした。

 ものの数分後――。


「この大バカ者共!!」


 説教の雷が落ちた。

 同時に拳骨された音までも屋敷中に鳴り響いた。

 プスプスと湯気を上げ、大きなたんこぶを腫れあがったレインとネル。

 彼女たちを正座させ、ガミガミと説教をするキララ。

 言外に「全く困ったものだ」と言わんばかりに頭を抑えるノイ。

 レインとネルからすれば、鬼族(デモンズ)より怖いキララの説教を受けられてしまい、一瞬にしてなりを修めた。

 ネルに至っては気性の荒い人格から大人しい人格へと戻ってしまった。


「全く、お前たちはなんど言えば気が済むんだ!!」

「「ごめんなさい!!」」


 盛大に謝る二人に全くと言わんばかりにキララは大部屋の椅子に座った。


「これに懲りて口喧嘩をするな!! みっともないと思わんのか!!」

「すみばぜん」

「もうじばぜん」


 涙声になって謝り続けるレインとネル。


「やはり、これが一番です」


 アルバスはニコニコと満面な笑みを浮かべていた。


「いや、キミが言うことじゃないよ、アルバス」


 ノイが的確に突っ込んだ。


「はて、自分はなにかしましたか?」

「僕とキララを呼んだのはキミだろ」

「レインとネルに説教をし始めたのはキララですが?」


 ああ言えばこう言ってくるアルバスにノイは二の句を告げなかった。


「キミと言い争うだけムダムダ」


 首を左右に振るノイ。

 シューテルたちからすれば、困ったときはキララに任せればいいのでは思い込んでしまった。

 キララは椅子に座ったまま、指摘する。


「全く、北方では()()()()()()()()。レンにこんなのを見せられたら小馬鹿にされるとは思わんのか?」

「おや? レンが目覚めておりましたか。これは驚きです。冷静沈着が売りの彼女に見られるのは恥ずかしいですね」

「アルバス!!」

「一回。その舌をぶった切るわよ!!」


 キッと睨みつけてくるレインとネルの眼力。


「ハッハッハ。冗談ですよ。冗談」


 彼は笑って受け流した。

 アルバスの口達者ぶりを見て、キララは深い息を吐いて肩を落とす。


「全く、アルバスもアルバスだ。わざわざ呼ばれてみれば、口喧嘩してるレインとネルを止めさせるとは……相変わらず、人使いが荒い」

「それが自分の取り柄ですから」

「よくもぬけぬけと言える」

「千年経ってもキミは変わらないね」


 キララとノイは呆れて物も言えなかった。


「自分としてはキララとノイが人族(ヒューマン)に精霊契約を結ぶとは思いませんでした」


 アルバスからしたら、千年前(かつて)の旧友が現代人と契約を結んだことに驚いている。


「僕も当初は考えていなかったけど、自分のせいで若い彼らを死なせるのは面目ない。だから、彼らを守るためにもシノア()と契約したんだよ」

「私はユウトと出会った時から彼には不思議な力があるのを見抜いて面倒を見ることにした。契約込みでな」

「なるほど」


 キララとノイの言い分を聞き、納得するアルバス。

 レインとネルからしたら、意外そうな顔を浮かべる。


「キララさんがユウトくんを……」

「自分から面倒見ようと思ったなんて……」

「「意外――」」

「よし。レイン…ネル…久々に鍛えてやろう。主のためにも強くならんとな」


 ビキッと額に青筋を浮かべてるキララ。

 レインとネルは自ら禁句を言ってしまったことを今になって後悔し、ガタガタと生まれたての妖鹿族(ヒルシュ)のように震え上がっていた。


「怖がることもないぞ。久々の実戦訓練だ。私は剣も盾もない。思いっきり攻撃できるぞ?」

「うそつけ!?」

「いや~! 実戦訓練したくない~!」


 涙目になる彼女たち。どうやら、千年前に受けた地獄の訓練(トラウマ)を思いだし、キララから距離を取っていた。


「逃げることもないぞ」


 ガシッと襟首を掴んだキララはズルズルとレインとネルを引っ張り、大部屋を出て行く。


「ちょっ!? キララさん!!」

「謝りますから! 離して!」


 恐怖で彩られた声を吐いていたレインとネルであった。


 なお、屋敷の外から女性が出してはいけない悲鳴となにかが爆発する音を聞こえたのは気のせいだとシューテルたちは信じたかった。




 一方、ユンは()()()()()()()()()()()され、目を覚ました。


「ユン!!」


 心配そうに椅子に座っていたシノ。彼が目を覚ましたことにいち早く気づき、立ち上がってそうそう、目を覚ましたユンに抱きついた。


「バカ! ムチャばっかして……」


 涙ぐむシノだが、目を覚ましたばかりで状況を掴めずにいるユン。


「し、シノ…ここは、どこなんだ?」


 ギュッと抱き締められ、息苦しさを感じつつも空元気ながらも訊ねた。


「ッ――! ごめんなさい。息苦しかったよね?」

「ゲホ。大丈夫だ。それで、ここはどこなんだ?」

「アルバスっていう最長老さんの屋敷よ」

「ズィルバーはどうした? あいつも急に体調が悪くなったようだが――」

「彼も別の部屋で休んでるはずよ。ティアが看病してるから」

「そっか」


 ここで、ユンは自分の髪色が金髪から黒髪になってることに気づく。


「眠ってる間に人格が変わっちまったのか?」

「ええ。それはもう――部屋に来れば、あなたの髪が金から黒に戻っていくのをこの目ではっきりと見たから」


 シノはキッパリと言い放てば、ユンは「そうか」と納得する。しかし、彼はあることを思いだす。


「そうだ!? シノ!? 怪我は大丈夫か!?」


 彼はシノの顔をペタペタと触りだす。


「怪我とかは……ないよな……」


 ペタペタと触り続けるユンだが、煩わしく思えたのか彼の手を掴んだ。


「心配してくるのはありがたいけど、今は自分のことを気にして!」

「でも、シノだって怪我をしていたじゃないか!? 治ったのか心配で……」


 ユンは目の前でシノを傷つけられてショックを受けていた。

 故に彼女の怪我が本当に治ったのか気にかけていた。


「大丈夫よ」


 シノはユンの手を掴んで事情を話す。


「あなたが倒れた後、私はアルバスっていう耳長族(エルフィム)に治癒魔法をかけてくれて傷は塞がってるわ」


 彼女は自分の怪我は治ってると話してくれた。

 彼女の話を聞いて、ユンは起き上がってシノに抱きついた。


「よかった……俺…シノが、傷つかれたのを見たら…自分を抑えられなくなって……」

「ユン……」

「よかった――」


 涙声で抱き締めてくるユンにシノも抱き締めて慰め始める。


「あ、あぁ~」

(ユンってもしかして、メンヘラとかあるのかしら? っていうより、私が傷つくだけで感情の起伏の揺れ幅が激しいのかしら?)


 シノはユンが持つ異能“人格変性(ペルソナビオ)”の()()()()()()()()()()()()()()()()()ような気がした。

 この時、シノはユンの首にかけてるネックレスがなくなってることに気づく。


「ねえ、ユン。首飾りは?」

「え?」


 涙を流して目元が赤く腫れてるユン。

 彼はシノに言われて、首回りを触れば、ネックレスがなくなってることに気づく。


「あっ……そういえば――ハッ!?」


 続けざまに彼は自分の前に姿を見せた金髪の女性を思いだす。


「どうしたの?」


 シノは小首を傾げれば、ユンは訊ねた。


「なあ、シノ。金髪の女性を見なかったか?」

「金髪の女性?」


 ユンの質問にムッと小さく頬を膨らませるシノ。


「ああ。俺の前に現れて、力を貸してくれた女性なんだ」


 言い切れば、ムムッと頬を膨らませるシノ。


「知らないわよ」


 フンッとそっぽを向くように顔を横に向けて答えるシノ。


「な、なんだよ。なんで拗ねてんだよ」

「拗ねてない!」 


 ぷくーっと頬を膨らませるシノ。

 明らかに拗ねているのは明白。だが、なぜ、拗ねているのかユンには皆目見当がつかなかった。

 故に彼は困惑を極めた。

 と、そこに――。

 コンコンとドアを叩く音が木霊する。


「入らせてもらう」


 こちらの了解を得ずに部屋に入ってくる初老の男性。

 ユンとシノは警戒を露わにする。

 自分たちの了解を得ずに入ってくる男性に警戒心を抱く。

 男性は二人が警戒してるのを見抜き、深々と謝罪する。


「申し訳ない。あなたたちの了解を得ずに勝手に入ってきたことを許してほしい。自分はアルバス。耳長族(エルフィム)の最長老をしている」


 初老の男性――アルバスは自分の自己紹介をし始める。


「俺はユン・R・パーフィスと言います」

「私はシノ・B・ライヒと申します」


 二人はボケーッとしていたが気が荒立って自己紹介し返した。


「なにからどう話せばいいか困りましたねぇ」


 アルバスはうーんと顎に手を添えれば、彼は最初に友人のことを話してくれた。


「そういえば、あなた方のご友人は既に目を覚ましております」

「ズィルバーも気を失ってたのか?」

「はい。彼は“両性往来者(トラフィックダイト)”に身体が追いつかなかったために気を失いました。あなたの場合は“人格変性(ペルソナビオ)”に身体が慣れていない上に気を失ってしまった」


 アルバスはズィルバーが気を失った理由と同時にユンが気を失ってしまった理由を告げた。

 ユン自身もそれは分かっていて、自分が気を失った理由を分かりきっていた。


「ああ、それとネルのことですが、今、レインと一緒にキララにこってり絞られています」

「ネル?」


 彼はアルバスが口にした名前に首を傾げる。


「おや、()()()()()()()()()()()()()()()()のですか?」


 彼の言葉にユンは呆然とする。

 アルバスはユンの表情を見ただけで察した。


「なるほど。千年も経てば、精霊の名前を失われてしまいますか。いえ、ベルデ殿が書き残さなかったのも頷けます」


 後半はボソボソと言葉を漏らしていた。


「あの?」


 シノがおそるおそる声をかける。


「おや、申し訳ない」


 アルバスは謝罪をした。


「考えごとに耽ってしまった。いやはや、迷惑をかけて申し訳ない。それとネルとはあなたのご先祖――ベルデ殿が契約なさっていた精霊でございます。今や、雷帝と言わしめてる“五神帝”の一角を担っておられる大精霊でございます」

「俺の先祖が契約していた精霊? なら、契約してるのは俺の先祖なのか?」

「いえ、精霊は主がお亡くなりになると眠りにつくか主とともに死に果てるかのどちらかです。ネルはベルデ殿の約定のもと長き時を眠ることにしました」

「先祖の頼みとはいえ、千年も眠らされて可哀想だな」


 ユンは眠りから目覚めて心細さがあるのではないのかと思い込んでしまった。

 アルバスは彼の心情を汲み取り、こう述べる。


「ユン殿。それはお門違いかと思われます」

「え?」

「ネルは自ら眠りにつくことを決めました。その覚悟を侮辱するのはユン殿のお門違いだと思います」

「アルバスさん」


 ユンはアルバスに悟られてしまい、なにも言い返せずにいる。


「ですから、ユン殿は前を向いて歩き続ければいいのです。細かなことは勝手についてくる仲間たちに任せて、あなたは思うがままに突き進めばよろしいかと思います」


 彼からの助言を聞き、考え始めるユン。


「突き進む道がどのような道なのかは分かりません。ですが、あなたが思い描きたい世界を実現するために如何なる危険を厭わない覚悟をもたれることを願っております」


 千年という経験を積み重ねてきたアルバスの言葉。

 彼の言葉をしみじみと受け止め、深く考えるユン。


(仲間のためにどんな危険も厭わない覚悟、か……)


 彼は友人のズィルバーはどのような覚悟で委員会を立ち上げたのか想像に難くない。


(ズィルバーもズィルバーでそれ相応の覚悟を抱いたに違いない。大将として最前線で戦い続ける姿……今の俺には力が足りない。もっともっと強くならねぇと――!!)


 ギュッと拳を作れば、アルバスがユンにある提案をする。


「ユン殿よ。自分から提案があります」

「提案?」


 ユンとシノは顔を見合わせる。


「自分はあなたたちを強くさせたいのです。今、東部は千年前と同じ戦乱へと戻ろうとしてる。それだけは避けたい。しかし、自分は寄る年波を超えられない。戦場で戦えるだけの力は衰えています」

「だから、俺たちに戦わせようってか? お門違ぇじゃないか?」


 徐々に調子を取り戻してきたユンが強気な声音で言い返す。


「面目次第もございません。しかし、“獅子盗賊団”を壊滅させ、作り変えてる敵はかつて、ベルデ殿が退治なさった女傑。その女傑が千年の時を経て、復讐をしようとしております。ユン殿。あなたの大事な場所を守るためにも何とぞ、お力を貸していただきたい」


 アルバスは頭を下げて願い出る。

 彼にそこまで言われては子供といえど、責任を感じざるを得ない。


「こう申しましては驚かれると思われますが、あなたの先祖――ベルデ殿もあなたの年頃で戦場に出て、戦果を挙げました。彼もあなたと同じように大人しい御方でしたが、戦場を出たことをきっかけに“人格変性(ペルソナビオ)”を発現し、使いこなしたことで東部を平定してくれたのです。今、東部が危険に晒された。あなたは指をくわえて滅ぶのを見届けたいのですか?」

「そんなわけねぇだろ。東部はパーフィス公爵家の物だ!! 俺の物だ!! 何人たりとも奪われはしない!!」


 ユンは力強く言い放った。


「でしたら、強くなりましょう。強くなれば、守れるものが増えます」


 アルバスはユンを強くさせようと躍起になっていた。


「分かっておられますが、ユン殿は強引に才能を開きました。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。“人格変性(ペルソナビオ)”もその一つです。互いの人格同士では仲良くなってもあなた自身が強くなってるわけではありません」

「分かってる――」


 アルバスに言われなくてもユンは自分が弱いのを認めてる。

 ズィルバーに負けた理由も身を以て味わわされた。


「故に自分があなたたちを鍛えさせてあげます。幸い、耳長族(エルフィム)の里を含めたこの森は神代の空気を色濃く残っています。外在魔力(マナ)が色濃く残ってるため、あなた方の基礎能力を向上してくれることでしょう。つきましてはあなた方を鍛えてくれる方のもとへ連れて行きます」

「俺たちを鍛えてくれる人?」

「あなたじゃあ鍛えられないの?」


 シノは至極真っ当な質問を投げる。


「先も申しましたが、自分は戦場で戦えるだけの力はありません。寄る年波には超えられないのです。自分は戦術を考案する立場にいました。最前線で戦える力は苦手です。故にあなた方を鍛えることができないのです」


 アルバスは正直に答えてくれたことでユンとシノは納得してくれた。


「じゃあ、今すぐにでも俺たちを鍛えさせてくれ。時間を一秒も無駄にしたくねぇんだ」


 ユンはベッドから出て立ち上がる。

 彼が立ち上がったのを見計らってシノも立ち上がった。

 立ち上がって前を向く姿にアルバスは感服し、立ち上がって賞賛する。


「いやはや、今時の若者の成長は早い」

(いえ、人族(ヒューマン)の成長が早い、と言いましょうか)


 彼は大きく成長していく人族(ヒューマン)の姿に心を打たれてしまった。


「では、自分、アルバスめがご案内しましょう。時間を惜しんではいられませんので」


 アルバスが告げれば、ユンとシノも頷き合って、彼の後ろをついて行く。


 ユンたちが部屋を出たタイミングでズィルバーとティアを部屋から出てきた。


「ズィルバー……」

「ユン……」


 二人の視線が交差する。

 ティアとシノは心の内で多少、ビクついたけども二人はそれ以上のことはしなかった。

 ズィルバーはユンに背を向けて歩き始めた。


「急ぐぞ。時間がない。ヴァシキを倒した敵は相当な実力を持ってるはずだ。無策で突っ込むのは死に急ぐようなもの。俺たちがすべきことは――――」

「力を付けて迎え撃つしかねぇ」


 言い放てば、ズィルバーはその通りだと言わんばかりに頷いた。


「故に俺たちは力を付けるしかない。耳長族(エルフィム)の里は神代の空気が色濃く残ってる。基礎能力を鍛える分には申し分ない環境。俺は俺のやり方で鍛えさせてもらうよ」


 ズィルバーはティアを連れて、先へ進み出す。

 どんどん先へ進んでいくズィルバーを見て、不機嫌になっていくユン。


(どんどん先に行きやがって――いずれ、追い越してやる!!)


 燃え上がる炎を瞳のうちに宿していた。


 大部屋に来てみれば、タークやユキネたちがいて、ユンとシノが来るのを待ち続けていた。


「ユン!」

「ユン様!」


 彼が来たことに喜びの束の間、彼は声を張りあげる。


「時間を無駄にしている暇なんてない! 今すぐにでも力を付けるぞ! アルバスさん。早速、案内してくれ」


 急かすかのように言い放つ。


「俺たちを鍛えさせてくれる奴のもとへ――」

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