英雄。エルフィムの最長老に会う。前編
森の奥地へと来たズィルバー一行。
彼らの行く手を遮るのは木製の門と門番である。
門じたい、年月が経ってるのか所々に蔦が絡まっていたり、コケが付着していたりしていた。
門の向こうに何があるのか人族のズィルバーらも他の異種族らにも見えなかった。
彼らが門の向こうに何があるのかと勝手に想像していれば――
「止まれ。貴様らは何者だ!」
警戒心が高く、敵意を向けられる。
「待て。彼らは“黄銀城”から来られた者たちだ。丁重に扱え」
ズィルバーたちを案内してくれた耳長族の彼女が門番に説明を述べる。
「……“黄銀城”からだと? 信用できない!」
「この少年がパーフィス公爵家の次期跡取りだったとしてもか?」
「ハッ! その少年がパーフィス公爵家の次期当主だって言うんだったら、証拠を見せやがれ!」
ユンに敵意を見せつつ、挑発する門番。
ユンに敵意を向けられてはシノやタークたちが我慢なれず、門番に殺気を放つ。
「なんだ、貴様ら…俺は間違ったことを言ってないぞ。その少年がパーフィス公爵家の跡取りだって言うんだったら、証拠を見せろ、って言ってるんだ!」
門番はユンに証拠を見せるよう促す。
耳長族の彼女は聞き分けのない門番が言い分に頭を抑えてしまう。
「証拠ってなによ? はっきり言わないと分からないじゃない!」
シノが門番に剣幕を立てる。
「あッ? 小娘がしゃしゃり出てくるんじゃねぇ」
門番は槍の柄頭でシノをはたいた。
『ッ――!?』
いきなりのことにズィルバーたちは驚きを隠せず、はたかれたシノも右の頭部から血を流していた。
「痛っ…」
痛がるシノを見たユン。
「――――」
(シノ…シノが、傷ついた…)
ドクン、と身体の血が滾り始めるのを感じとった。
「シノ様!?」
「シノ!? 大丈夫!?」
ティアとユキネはシノのもとへ駆け寄り、傷の度合いを診始める。
耳長族の彼女も門番がした狼藉には看過できず、怒鳴り始める。
「なんてことをした! 彼女はライヒ皇家の者だぞ。そのような狼藉を働けば、最長老様からなんて言われるか分からないぞ!」
「あ? 今のがライヒ皇家の皇女? ハッ。皇女は皇女らしく屋敷に篭もってればいいんだよ。さっさと帰っておままごとでもしてるんだな」
明らかな皇家への批判、非難を言い放った。
ビキッ、とズィルバーも沸点が飛び越え、怒りを露わにする。
ズィルバーらに不穏な空気が漂い始めるのを耳長族の彼女はまずいと思い、門番に訂正し、謝罪するよう言い放つ。
「誰が訂正するか! ライヒ皇家もパーフィス公爵家も所詮、ガキなんだよ! ガキはガキらしく温々と暮らしてればいいんだよ!」
罵詈雑言を吐き散らす門番にユンは我慢ができなかった。
故に――。
ドクン、ドクンと脈を打ち、“人格変性”を発現させた。
髪の色が黒髪から金髪へと変わっていく。
人格も穏やかな人格から気性の荒い人格へと変貌していく。
バリバリ、とユンの身体から――いや、首にかけてる黄色いネックレスから雷が迸る。
「おい…」
「あ?」
ドスが利く冷たい声音を漏らすユンに門番は敵意を向ける。
髪で見えなかったユンの面を、彼が顔を上げれば、門番に寒気が走った。
「ッ――!」
言葉を詰まらせる。
ユンの瞳には情けの欠片もない。ただ冷たく、凍てつくかの如く敵意を剥き出しに見つめてくる。
シノに危害を加えられたことでユンの中にある感情が吹っ飛んだ。
感情が吹っ飛んだことで封印が解かれた。
「よくも…よくも…よくも、シノを傷つけたな……」
「わ、悪かった……!? さっきは、悪かった……!!?」
門番はユンから放たれる“闘気”に気圧されて腰が引いた。
賽が投げられていた。門番の運命はユンの手に握られていた。
「オメエだけは…たとえ、謝った、って……許しはしねぇ!!」
感情が爆発し、怒鳴るかの如く、“闘気”と稲妻を迸らせれば、黄色いネックレスが光りだした。
まるで、ユンが感情を爆発させたのがトリガーとなったかの如く、ネックレスから目映い光が辺りを包み込んだ。
「なっ――!?」
「いったい、なにが――」
初めて経験するユウトやシノアらシノア部隊の面々もシノやターク、ユキネら豪雷なる蛇の面々は驚き、腕で目を覆う。
「まっ――」
「これって――」
逆にズィルバーやティアら白銀の黄昏のメンバーは今、起きた現象に心当たりがあった。
(い、今の……)
(カズがレムア公爵家初代当主の墓に蒼玉を嵌めたときと同じ光……)
彼らも目を守るかのように腕で目を覆った。
光が徐々に強まっていき、ユンが上げた咆吼に呼応して、長きに渡る封印が解かれた精霊の気配が、空気がライヒ大帝国全土に震撼させた。
北方、“蒼銀城”では――。
「ッ――!」
委員長室兼当主部屋でカズの補佐をしていたレン。
羽ペンを走らせていたカズだが――途端、空気が変わったのを“闘気”を用いなくても肌で感じとった。
それは、レンも同じで巨大な力が目覚めたのを空気で感じとった。
「レン!」
「ええ」
カズは羽ペンをインクさしに入れて、力を感じ取った方に目を向ける。
「今、空気が…変わった…」
「共鳴してる。大気が…世界が…巨大な力に……」
「この方角は……」
カズは“静の闘気”で感じとる。
今のカズは成長中とはいえ、“静の闘気”による感知範囲は錬金術の錬成陣を併用して、北方全域に及ぶ。
錬成陣の外になると精度は落ちてしまうが、力の出所ぐらいは把握することができる。
「東……東部の方からすごい力が……」
「東ということはベルデの領地……」
(と、すれば……ネル? でも、これって――)
レンは巨大な力の正体がかつての友だと分かれば、友の状況の把握を試みる。
(これって、どう見ても……怒ってる?)
彼女は目覚めた友が怒りに抱いてるのを空気から感じとって理解する。
当然、カズも――
「この力……どこかで怒りを抱いてる反面、悲しんでいる?」
感じとるも違和感を覚え、首を傾げた。
同様に“獅子盗賊団”の根城でも空気が震撼してるのを感じとった者がいる。
「ん?」
フィスが淹れた紅茶を口に含ませようとする黒髪の女性。彼女が震撼する空気を感じとり、手を止める。
「どうしました?」
フィスが声をかければ、彼女はフィスにもの申した。
「フィス。今のを感じとれたか?」
「ん? なにを感じとれたのでしょうか?」
フィスは女性が口にする言葉の意味が分からず、そう答える。
「そうか」
彼女はフィスの答えに受け止めて、紅茶を啜る。
カップを口から離し、彼女は先ほどから感じる巨大な力が気になって仕方なかった。
(この力……どこか、見覚えがあるのじゃ)
眉を顰め、目を細める彼女。
「お姉様?」
フィスが声をかければ、女性は「何でもないのじゃ」と答え、紅茶を啜り始める。
強まっていく光も徐々に収まっていき、視界が鮮明になっていく。
腕を下ろし、目を開いたズィルバーたちが目にしたのは
「……は?」
一人の女性だった。
女性はユンの前に立ち、守るかのように立っていた。
稲妻を思わせる透き通った金髪。小麦が揺らめく薄い麦色の肌。黒いタイツに丈の短い着物を着た女性。
なにより、彼女から放たれる圧倒的な存在感と魔力。
ズィルバーとレインは放たれる魔力に覚えがあった。
(肌を刺すような存在感……雷を迸らせるほどの魔力……間違えない。彼女は……)
(レンと同じように目を覚ましたのね。私と同等の力を持つ精霊・ネル……)
二人はユンの目の前にいきなり、千年前の旧友が姿を現すとは思っておらず、内心、盛大に驚いていた。
「――“雷帝ネル”」
ズィルバーが彼女の正体を言えば、つられてユンも言葉を漏らす。
「雷帝ネル……」
どことなく、いきなり出てきた彼女に彼は呆気にとられるもシノを傷つけた耳長族の門番への怒りは消えていなかった。
ギロッと門番を睨みつけるも門番の彼は目の前にいきなり、現れた彼女が放つ魔力に腰が抜けそうになりかけた。
目の前に莫大な魔力を持つなにかが現れたのだ。
当然、魔力の扱いに長けてる耳長族の門番や彼女も息を呑まざるを得ない。
「…………」
長き眠りから覚めたネルなる女性は瞼を開く。
ズィルバーもそうだが、レインは開かれた瞳だけで彼女が精霊ネルだと証明した。
(轟く雷鳴と思わせる金の瞳。気が荒立ってるときに起きる現象――。間違えない。彼女は“雷帝ネル”よ)
レインは心の内ではレンと再会できた喜びがあったように、ネルと再会することができた喜びが芽生えた。
意識が活性し、視界が明瞭になっていくネルはキョロキョロと周囲を見渡し始める。
「ここはどこで? 私を呼んだのは誰?」
周囲を見渡せば、彼女の視界にズィルバーたちの姿が入り込む。
「ん?」
ここでネルは懐かしき人物の姿を視界に収める。
「あなた……もしかして――」
ネルは人物に声をかけようとした矢先に声がかかる。
「おい、退けよ」
声には怒りが乗っている。声の主はユンであった。
ネルも出だしを挫かれ、声をかけた少年――ユンに睨みつける。
「なに? 私に喧嘩を売ってるの?」
バリバリと雷を迸らせるネル。
「オメエに用はねぇんだよ。俺はそこの門番をぶっ飛ばしたいだけだ」
ユンは剣幕を立て、用件を告げる。だが、用件を告げただけなのに、ユンの身体に帯びる雷は『誰だろうとねじ伏せる』と主張していた。
ユンとネルで不穏な空気が漂い始めるかと思いきや、ネルはジーッとユンを見つめてくる。
「なんだ? 俺を見つめて……」
見つめられることに腹が立ったのか見つめ返すユン。
「うーん」
ネルは声に出して、ユンを見つめる。
「なんか、ベルデに似てる……気性の荒さが……」
「あ゛っ?」
ユンは耳長族の門番から視線を外し、ネルに目を向ける。
ネルは目を凝らして、ユンを観察する。
「まあ、あなたが誰なのかは後で聞くわ。ひとまず、生意気な耳長族にお痛をしないとね」
「奇遇だな。俺も同じだ」
ユンとネル。主と精霊。二人が同時に門番に睨みつける。
「ッ――!?」
門番は二人に睨みつけられるだけで怖気が奔り、震えが上がっている。
先ほどまでの態度が一変し、顔には恐怖が彩られていた。
状況が一変したことにズィルバーたちもはっきりとわかる。
ここでユンとネルを止めるのが得策だが、動ける気がしなかった。
「ッ――!」
(う、動けない――)
(ネルもそうだけど、ユンって子もたいがい、異常よ。この場を支配する圧倒的な存在感を放つなんて――)
そう。ズィルバーたちは動かないじゃない、動けないのだ。
ユンとネルが放つ存在感に――。
ネルはわかる。レインとレン。“五神帝”に数えられる精霊の一角として位置づけられている。問題はユンであった。
ユンから放たれる圧倒的な存在感。特に、気性の荒い人格が出た途端、存在感が打って変わる。
テンションのブレ幅が違いすぎるため、人格の急変に対応しきれないズィルバーたち。
ここ数日だけ見慣れてるズィルバーたちならともかく、初めて見たばかりの耳長族の彼女や門番には何がなんなのか判断つかねていた。
「…………」
門番はガタガタと生まれたての子鹿のよう震え上がる。
「お、おい!? 今、すぐにでも…あ、謝れ…」
彼女は門番に謝罪するよう促すも門番は彼女の言葉がきっかけになけなしの敵意を向ける。
「だ、誰が…あ、謝るか! 俺は自分が言ったことに訂正はしねぇ!」
なけなしの敵意に、なけなしの剣幕を咬ます門番。
そのなけなしがかえって仇になるとは門番も彼女も思いもしなかった。
「へぇ~」
「謝らねぇんだ。だったらよぉ。これからなにされても文句は言わねぇよな?」
ゴキゴキと拳を鳴らすユン。
バリバリと迸らせる雷が彼の気持ちを表していた。
「門番だけは許さねぇ。泣こうが喚こうが謝罪をしようが…俺はオメエをぶっ飛ばす!」
明らかに門番へ喧嘩を売ってるユン。
ユンが怒ってるのをタークとユキネが黙って見過ごすわけにはいかない。
「ユン様!!? 落ち着いてください!!?」
「おい、ユン! ここで喧嘩沙汰になると耳長族との関係が悪化するぞ!」
ようやく、硬直から解放され、宥めようと声を飛ばすも彼の耳には聞こえてる素振りがなく、門番を睨みつける。
彼の顔にはケジメを付けねば、腹の虫が治まらないと書いていた。
「まずい――」
「ええ、非常にまずい展開よ」
ズィルバーとティアはユンを止めねばまずいことになると直感してる。
危機的状況に瀕してる中、ズィルバーは耳長族の門番に投げやりだが、声を飛ばす。
「おい! 今すぐ、シノをぶったのを謝罪するんだ!」
「あ? 誰が、謝るか! 俺は謝らねぇ…事実を言ったまでだ!」
彼の声が聞こえてはいても、謝罪を口にする気すらなかった。
門番の返答にギリッと歯を食いしばるズィルバー。
「チッ――」
(変に余計なプライドを持ちやがって――)
苛立ちを募らせる。
「ほんと、腹が立つ…」
ティアも苛立ちを吐き出す。
二人して苛立ちを募らせれば、ゾクッと背筋が凍る。
目線を横に向ければ、ユンがジロリと睨みつけていた。
「ズィルバー…ティア…こんなバカに謝らせようとするな。こんなバカは性根へし折らねぇと分からねぇよ」
「待て、ユン! ここで喧嘩沙汰になれば、耳長族からなんて言われるか分からんぞ!」
「私だって怒りたいけど、ここは我慢して! シノの治療をさせないと――」
ティアはシノを治療したいと言い放ち、ユンを落ち着かせようと急かす。
「言いてぇことは分かった。とりあえず、シノの容体は?」
「少し強くはたかれたから血が滲み出てる!?」
容体を聞き、門番はさらに挑発する。
「ハッ…これだから、人族は身体が柔なんだよ!」
彼は挑発を咬ましたが故にユンの逆鱗に触れ、怒りで我を忘れるどころか真顔になってしまった。
この世に生きとし生けるもの。怒りで我を忘れるということもある。怒りを通り越して冷静になることもある。今回の場合は確実に後者であり、ユンは怒りを通り越して冷静になり、真顔になった。
彼の顔には『門番が泣こうが喚こうが聞く耳を持たない』と書かれていた。
怒りに感情が支配されるどころか逆に冷静になったユンをジーッと見つめるネル。
「なんだ? 俺を見やがって……そういや、オメエが誰かはこの際、どうでもいい。手ぇだすんじゃねぇぞ! こいつは俺の喧嘩だ! オメエにとやかく、出る義理はねぇんだよ!」
ユンはネルを横切り、前に出る。前に出れば、自ずと耳長族の門番を睨みつける。
(シノを傷つけた、男……)
と、彼の中で敵と認識し、ぶっ飛ばすことは確定した。
「そこ、動くんじゃねぇぞ」
拳を作り、バリバリと雷を迸っている。
門番はユンの瞳を見る。彼の瞳には一切の迷いがなく、冷徹さが湛えている。
「ぐっ……!?」
(まずい……このガキ。確実に俺をぶっ飛ばすことしか考えていねぇ……あの手この手を言おうにも聞く気がねぇと“闘気”で言っていやがる……)
ギリッと門番は歯を食いしばらせ、彼の目にはユンの右拳に全身から放たれる“動の闘気”を一点に凝縮されているをはっきり見てとれた。
「避けるんじゃねぇぞ」
ユンは門番を睨みつけたまま、右拳に“動の闘気”が込められていく。
ユンは“闘気”を大きく纏わせる技術をまだ習得していない。ズィルバーとティア、ユウトとシノアの顔を見れば、明白だ。
「なっ――なんだ、ありゃ……」
「右手に“闘気”が凝縮されている……」
「う、そ……」
(“動の闘気”を大きく纏わせるどころか……一点に凝縮されている!?)
ティアは土台がしっかりできていないユンが高度な技術をしていることに目を大きく見開き、動揺を隠せない。
「ま、マジ、か……」
ズィルバーですら、動揺を隠せなかった。
(ユンがしてることは“闘気”を大きく纏わせる技術の一線を越えている。大きく纏わせた“闘気”を一点に凝縮させた上で大きく纏わせた一撃は外部破壊どころか内部破壊なんて目じゃない!? もろに一撃を食らったりしたら……確実に――)
彼は最悪な事態を想像した。
同時にズィルバーは“静の闘気”でユンの力量を計り直す。
(カズの時もそうだった……ユンも、ネルが目覚めた途端、力が増していやがる!?)
“静の闘気”による計測でユンの実力が増してることに気づく。
ユンの右拳にバリバリと雷を迸る。
“闘気”と同時に雷も右拳へ一点に凝縮させてるため、雷が激しく迸る。
「――ッ。ヒィ――」
門番はようやく、自分のプライドのせいで最悪な事態に陥ってることに気づく。
彼の顔は死の恐怖で支配され、涙や鼻水で台無しだ。
「あ、ああ、あぁアアアアアーーーーーーーー」
「チィ――」
門番が死の恐怖にさらされ、足が竦んでしまった。
動けないでいる。
魂の随から固まっている。逃げなければ殺される。避けなければ殺される。何かをしなければ殺されるのは承知なのに門番は動けないでいる。
目の前に蛇がいて、蛇に睨まれた蛙。いや、龍に睨まれた兎に等しかった。
しかも、大の大人である耳長族が十歳そこそこの少年に気圧されてるのだ。
「逃げるな? シノを傷つけた罪を贖ってもらおうか?」
すると、ユンの右拳から雷が激しく迸り、光り輝いていた。
「この一撃は稲妻の如く鋭く、雷のように速い一撃……地獄で贖え!」
ユンは地を蹴って、泣き叫ぶ門番の懐めがけて拳を叩き込んだ。
「“壊せ、雷鳴爆拳”!!!」
門番の懐に叩き込まれた右拳。
バキボキと骨が砕ける音をズィルバーたちの耳に無理やり入ってくる。
(骨どころか内臓もやられた!?)
門番の身体がくの字に折れ曲がり、衝撃に身体が持ちこたえられず、門ごと吹き飛ばされた。
轟音とともに吹き飛んでいく城門。
木製でできた門だからか長い年月による劣化が拍車にかかり、門を破壊し、木片が崩れ落ちていく。
「…………」
誰もがこの現状をどう思えばいいのか困り果てていた。
誰が悪いのかはっきりしている。はっきりしているからこそ、この仕打ちを正当防衛と見做してよいのだろうかと疑問を抱かざるを得ない。
この現状を生み出すきっかけたる当人は門ごと吹き飛ばされてしまい、耳長族の里の中央広場まで吹き飛ばされ、大の字で伏していた。
門番をぶっ飛ばした当人。ユンは派手にぶっ飛んでいったのを見て鼻で笑った。
「妙なプライドは自分の寿命を縮めるんだぜぇ。これからは女を大事するんだな」
余裕を見せ、言い放った。
ユンが余裕をこいてるのはともかく、非常にまずい状況になったとズィルバーは確信した。
彼はユンが門番をぶっ飛ばした後、すぐに“静の闘気”で中の状況の把握に努める。
“静の闘気”で状況を知れば知るほど、かなりまずい状況に陥ってるのを肌で、空気で感じとる。
「まずい……非常にまずい――!!」
「うん――。ユンが我慢にできなかったから。門番を殴り飛ばしちゃったけど、耳長族全体が険悪ムードよ!?」
ティアも“静の闘気”で耳長族全体の心の内を聞き取る。
「明らかに迎え入れてくるとは思えない!?」
危険な状況に陥りそうになってることにユンは気づいてるとは到底思えなかったズィルバーとティアの二人。
「おい、ユン!」
「あんた、この後のこと、考えてるんでしょうね!」
苛立ちを込めて言い放つ二人にユンは「あ?」と反応する。
「最初は考えていたよ。門番が変なことを言わずに通してくれたら、なにもしなかった。あだが、あいつはシノを傷つけた……大事なもんを傷つけられて黙っていられるか。これで耳長族の仲が悪くなろうが関係ねぇ」
「「関係大ありだ!!」」
ユンたった一人のせいでライヒ大帝国と耳長族の関係が不仲になれば、それこそ危険だ。
国内で内乱でも発生すれば、闇社会に生きる者たちがこぞって国家転覆をしかねない。
それだけは未然に防がなければならないのにユンが取った行動で最悪な事態になりかねないとズィルバーとティアは危惧した。
二人と同じ考えに至った耳長族の彼女。彼女もこの状況による先の展開を危惧し、二の足を踏む前に里へ入ろうとするも現実は残酷だった。
「この状況はなんだ?」
門へと近寄っていく初老の男性。
男性が惨状を見回していた。彼女は一番見てはいけない人物に惨状を見られてしまったと後悔した。
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