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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
東方交流
160/296

英雄ら、東の森へと赴く。前編

「――という次第であります。ユン様。大至急、居城にお戻りください! 皆様もすぐに宿にお戻りください!」

 家臣から緊急事態を受けてしまったので中央と東方の交流会はこれにて閉幕となる。

「ひとまず、ユンとシノ。キミたちは居城に戻れ。一度、宿に戻るよ」

 家臣からの凶報を聞いて、ズィルバーはユンに自分らの行動を告げる。

「私たちも東方支部へ戻り、支部長から指示を仰ぎます」

 シノアも皇族親衛隊として立場と行動を告げた。

 両者から告げられてくれたことにユンは感謝の言葉を述べて、家臣について行き、“黄銀城(グリュンブルグ)”へと急いだ。

 シノを含めた豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテもユンとともに“黄銀城(グリュンブルグ)”へと向かった。


 取り残されたズィルバーらはと言えば――。

「じゃあ、俺たちも一度、宿に戻るぞ」

「ええ。そうしましょう」

 ティアも彼の提案に賛同する。

「俺も同感だ。あと、オメエらがいなかった間、勝負内容を話しておくぜ」

「それは歩きながら話してくれ」

「おう!」

 シューテルはズィルバーの頼みに元気よく答えた。


 宿までの道すがら、ズィルバーとティアはシューテルから先鋒戦と次鋒戦の内容を話した。

「戦法を買って出たヤマトが二人相手でも勝利、と――」

「ヤマト。相手がどのような武器を使ってたか覚えてる?」

「うーん、と――」

 ヤマトはティアの質問に頭を捻らせる。

 彼女は戦闘に滅法強いが記憶力に難があった。なので、ヒロが代わりに答えてくれた。

「二人とも強いのは確かだ。だが、“闘気”の熟練度はあまり鍛え込まれていない」

「そう…で、武器は?」

「一人は素手による体術。もう一人は錫杖による武器術を得意としてる」

「ありがとう、ヒロ」

 ティアはヒロにお礼を述べつつ、彼女の頭を撫でる。

 ヤマトはバツが悪そうにしょぼくれてるとズィルバーが優しく慰める。

「ヤマト。気に病まなくていい。何でもかんでも一人で解決しようとするな」

「…ズィルバー」

「仲間を頼ればいいし。少しずつ記憶力を磨いていけばいい」

「…うん」

 しょぼくれてたヤマトは元気を取り戻しはしたが、逆に頬を赤く染め、気恥ずかしそうに俯かせる。

「ん?」

 ズィルバーはなんでと小首を傾げるも、ジーッと彼を睨みつけるティア、ヒロ、ノウェムの鋭い視線が突き刺さる。

 シューテルらはやれやれと首を横に振った。

 次に次鋒戦の内容を聞くと、ズィルバーはノウェムが相手をした少女――ユキネの特徴から種族名を言い当てようとするも――。

「口から氷の息を吐く…ね」

(シノったら、優秀な部下を集めてるじゃない)

「でも、厄介ね。“闘気”でガードしていても凍傷を残すなんて――」

「うん。今はルアールのおかげで完治したが実際の戦闘を想定すると長丁場になればなるほど、こちらが不利になるかもしれん」

 ノウェムはユキネの危険性を示唆した。

 と、ズィルバーがユキネの種族を口にする。

「おそらく、ノウェムが相手にしたユキネって言う彼女は“雪女族(スノウーム)”だ」

「“雪女族(スノウーム)”…?」

「なに、それ~」

 間の抜けたコロネの口調にリズムを狂われそうになるズィルバーは気を正してから話し出す。

魔族(ゾロスタ)の一つで。氷の息を吐くのが特徴だ。あと、氷と水を魔法詠唱、精霊の力なしで行使できる異種族だ」

雪女族(スノウーム)…か」

 ノウェムは自分が戦ったユキネを思いだす。

「ただし、雪女族(スノウーム)自体は天使族(エンジェル)並に()()()()()()()()()()()()。この東方で生き残り続けたかもな。特徴がらか()()()()()()()に集落を作ってひっそり生活してる話だし」

「あんな寒い場所より北で暮らしてるの!?」

 ティアは想像しただけで寒気が走った。

 北海。北の海はティアを含めた白銀の黄昏シルバリック・リコフォスの皆は行ったことがある上に、その極寒さを身に染みている。

 それよりもさらに北に集落を作ってひっそり生活してる雪女族(スノウーム)という異種族に寒気を覚えた。

「無論、雪女族(スノウーム)自体も数が激減してる。天使族(エンジェル)同様、稀有な異種族だからな」

「稀有といってもそんなになのか?」

「過去の文献。特に千年前の文献にも雪女族(スノウーム)の名はあまり出てこない。東方や北方あたりだったら知ってるかもしれんが……本に書き残されてるかどうか……」

「うーん。情報が少なすぎるな」

 ノウェムは次、ユキネと戦うことを想定し、パターンを考えたかったが情報が少なすぎれば、対策のしようがない。

「だが、まあ、ノウェムの相手が稀有な異種族と知れただけマシじゃねぇか」

 シューテルが場を持たせる声を漏らす。

「そうだな。それとコロネが相手にしたリュカっていう女の子は()()竜人族(ドラグイッシュ)だな」

「東部、の…?」

 リュカが竜人族(ドラグイッシュ)なのは分かったが、『東部』という意味がティアたちの中で謎を生んだ。

「知らないか」

 ズィルバーはティアたちの反応を見て、竜人族(ドラグイッシュ)の生態系を知らないことを知る。

「じゃあ、教えるね」

 彼は歩きながら、皆に説明した。

竜人族(ドラグイッシュ)ってのは東と西の果てに暮らしてる異種族。でも、東と西で姿形が違うんだ」

「ハァ? どう違ぇんだ?」

「東部の竜人族(ドラグイッシュ)はもう見てると思うが、翼がなくても空に浮ける。逆に西部は翼がある竜。ライヒ大帝国では地方がらで竜人族(ドラグイッシュ)での印象がバラバラなんだ」

「バラバラなの?」

 ティアたちからしたら、種族一つで認識に齟齬があるとは知らなかった。

「東方に寄っていくとリュカさんのような姿を連想し、西方に寄っていく翼を生やした竜が一般的なんだ」

 ズィルバーはわかりやすく説明したつもりだが、余計にティアたちの中で謎が謎を生んでいる状況だった。

「じゃあ、どうして呼び方を変えなかったの? 呼び方を変えれば、間違えることもなかったと思う」

 ティアが浮かび上がった謎を彼にぶつけた。

 その謎に関して、ズィルバーは言いにくそうな顔で頭を掻いた。

「うーん。難しいところをついてくるな」

「なによ、悪い」

 ふて腐れるティアにズィルバーは頭を撫でつつ教える。

「単純に言えば、環境がそうさせた説が濃厚だ」

 彼は有力な説を話す。

「説? 自分で考えたの?」

「ああ。そうだよ」

(何しろ、竜人族(ドラグイッシュ)()西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな)

 内心、盛大に毒を吐いた。

「東の果てに暮らしてる竜人族(ドラグイッシュ)は山脈に囲まれてるのもあるが、古くから()()()()()()()という()()が残ってる」

「…変わった、風習ね」

「そのためか。東の果てに暮らしてる竜人族(ドラグイッシュ)は蛇のように長い胴体をした姿をしてるんだ」

「へぇ~、そうなんだぁ~」

 コロネの和ませる口調に調子を狂わされそうになるズィルバーだが、話を続ける。

「逆に西の果てに暮らしてる竜人族(ドラグイッシュ)は“ドラグル島”っていう孤島で生息してる。過酷な環境で暮らすために翼を生やした竜の姿になったって言う定説だ」

「“ドラグル島”…?」

「確か…ライヒ大帝国…西の果て…()()()()()()、よね…」

「うん。そうだよ」

(正確に言えば、()()()()なんだが、そこは伏せておくか)

 ズィルバーは重要な部分を口には出さなかった。

「同じ種族でも姿形が違うというわけだな」

「ああ。そう捉えていいよ」

 ノウェムの最終確認にズィルバーは間違っていないと告げる。

 最後の五将戦に関してはタマズサとダッキの能力が判明していないのでこれ以上は話すことがないと判断し、彼らは豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテ全体を話し始めた。

「うーん。見たところ、ユンを中心に動いてるようだけど、大将の強さがイマイチだから。統率が取れていない気がする」

(っていうか、東の場合、大将(リーダー)がしっかりしていないと組織…委員会としての力が発揮できない気がするんだが…)

 ズィルバーはユンに足りない要素を見抜いてしまった。

「それにシノもどこまで強くなってるのか分からないわね」

 ティアは親類のシノの実力が分からなくて頭を悩ませる。

「俺もタークとガチでやりたかったな」

 拳を掴むシューテル。

 その表情は戦えなくて不完全燃焼だ、と書かれていた。

「俺も今のユンの実力を知りたかったが…“人格変性(ペルソナビオ)”でもう一人の自分を自覚した程度じゃ。俺に勝てる理由にはならない。相手にもならないしな」

「はっきり言うのね」

「事実だ」

 ティアはズィルバーがユンと勝負をしてもズィルバーが勝つのは明白だったと言い切る。

「別に天狗になったとかじゃない。ユンはまだ精霊の力に翻弄されてる。あれじゃユウトにも勝てないよ」

「あら、親衛隊の彼を褒めるんだ」

 意外と言わんばかりの声音にズィルバーは不機嫌そうに目を細めて睨む。

「俺だって、ユウト(あいつ)()()()()()()()()。あいつの前で言ってないだけでな」

「ふーん」

 彼の言葉に妙な違和感を持つティア。

(全く、自分と対等に戦える相手を見つけたことが嬉しくて仕方ないって感じじゃない)

 彼の心が子供と言えるぐらいにわかりやすかった。




 一方、シノア部隊の面々はライヒ大帝国東方支部へ戻り、パーフィス公爵家がもたらされた情報の再確認をしていた。

「つまり、“獅子盗賊団”が壊滅したのは本当なんですね?」

 部隊長のシノアが支部長に問い詰める。

「如何にも支部内でも独自に調査した結果、パーフィス公爵家と同じ回答を得た」

 東方支部支部長――セロ准将。

 第二帝都支部支部長――シンと同じように若くして支部長についた猛者中の猛者である。

 皇族親衛隊本部中将――クレトと同じ同期でもある。

 いわば、次代の出世頭でもある。

 セロは眼鏡をかけた緑色の髪を胸元まで伸ばした女性だ。

 女傑として有名で、その実力は階級に見合わない実力者だと言われている。

 シノアの姉――マヒロ少将からも一目を置かれている。

 その彼女が中央に応援を要請した。

 つまり、シノアたちは皇家からの勅命だったとはいえ、セロの応援に招集されたと言っても過言じゃない。

「セロ准将。我々はどうすればよろしいでしょうか」

「そうだな」

 セロは椅子を深く座り、少し考え込む。

「…………」

 少しの間を置いて、セロは口を開いた。

「シノア中佐」

「はい!」

「あなたの部隊はパーフィス公爵家の若獅子並びにファーレン公爵家の若獅子と一緒に行動しなさい」

「拿捕ではなく、行動せよ…ですか?」

「ええ。東方支部としても当部隊を管理下に置く気はありません。当部隊は中央からの応援であり、“獅子盗賊団”の壊滅のために派遣されたにすぎません。応援を呼んだ身ではありますが、あなたたちが来られては大人としてのメンツがあります」

「分かりました。当員は部隊を連れて、白銀の黄昏シルバリック・リコフォス並びに豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテの監視に入ります」

 シノアが敬礼すれば、セロも敬礼をする。

「頼むぞ、若き期待の星よ」

 彼女は面白いことをぬかせば、シノアは支部長室を退室する。

 シノアが退室したところで、セロは背もたれに身体を預け、ハアと一息ついた。

「シノア中佐、か…知らない間に成長したわね…」

 セロは机の引き出しから一枚の写真を取り出し眺める。

「やはり、あなたが自慢げに言えるだけのことはあるね……マヒロ…」

 セロを眺める写真は一般兵時代に撮った写真。

 写真に映ってるのは一般兵時代のマヒロとセロ、アイオの三人が映っていた。

「今じゃ。マヒロとアイオは本部の隊員。私は東方支部、支部長。大きく離れたね」

 しょぼくれるセロだが、彼女も諦めてるわけじゃない。

「しかし、焦らずに行きましょう。焦ったら、大将に目指せないもの」

 彼女はそう言って、写真を引き出しにしまった。

 引き出しにしまった矢先に東方支部隊員が支部長室に入ってくる。

 しかも、緊急なのか大慌てだった。

「ほ、報告します!」

「どうした…そんなに大慌てで?」

 セロは姿勢を整え、隊員に話を促す。

「たった今、親衛隊本部より通達! なんと――」

 隊員からの報告に「ハッ?」と、セロは顔を引き攣らせる。

「今、なんて言ったの?」

「もう一度、言います。皇族親衛隊本部大将“蒼狐”さんが東部にいるとのこと。なお、“黄銀城(グリュンブルグ)”へ直行してるようです!」

 再度、報告を聞いて、セロは頭を抑える。

「全く…毎度毎度、面倒事を持ち込んできて…」

 愚痴を漏らす。

「セロ支部長。いかがなさいましょう!?」

 隊員がセロに指示を仰ぐ。

「ひとまず、この問題は私が受け持つ。支部内の誰にも話すな! シノア部隊にもだ!」

「それは…いったい…」

「バカね! 今の彼らに余計なことを考えさせないためよ。いい? 彼女のことは私が受け持ちます! 絶対に他の誰にも話さないこと!」

「はっ、はい!?」

 隊員はセロに敬礼し、すぐさま、支部長室を退室した。

「ハァ~」

 誰もいなくなった支部長室で彼女は深い溜息を吐いて椅子にもたれ掛かる。

「全く…どういう考えをしてるんですか!! “蒼狐”さんは!!」

 セロはこの場にいない大将なる人物に毒を吐いた。




 その頃、“黄銀城(グリュンブルグ)”にて――。

 学園長室並びに当主部屋に来てるユンとシノ。

 中にはユンの父親――レイルズ・R・パーフィスがおられた。

「家臣から聞いたぜ。ほんと、なんだな…父さん?」

「ああ。本当だ」

 ユンは穏やかな人格なのに、口調が荒々しく父親を前にして粗野を見せていた。

 レイルズもユンの粗野を気にせず、答える。

「当家と東方支部と合同で監視していたから間違えない」

 彼は正直に事実を述べた。

「だが、父さん。どうやって、盗賊団を壊滅に追いやった? 北の傭兵団か? あそこはカズが総督を殺したって話だぜ。残党がやったっていう線ならあり得なくもねぇが…」

「東方支部もそれを懸念してたが、残念ながら違う」

 レイルズの言い草からユンとシノはまさかとなる。

「まさか、だが――」

「――“血の師団ブラッディー・メイソン”が関わってると仰るんですか?」

 シノがおそるおそる言ってくる。

 彼女の問いが正解と言わんばかりにレイルズは沈黙した。

「チッ…」

「そんな、どうして…」

 ユンは舌打ちをし、シノは両手で口を覆った。

 レイルズも監視報告を聞いた際、なぜ、このタイミングで“血の師団ブラッディー・メイソン”が動いたのか気になった。

「だが、連中の目的など、この際、どうでもよい。今も監視部隊から逐一報告を受けてる状況。我々も手を拱いてる場合ではない」

「当たり前だ」

 レイルズの言い方にユンが真っ向から言い切る。

 真っ向から言い切るユンにレイルズはニッと笑みを浮かべるも、すぐに真剣な表情になって言い切った。

「なら、パーフィス公爵家現当主として命じる。ユン! シノちゃん! お前らは東方東部の森へ行け!」

「父さん。それはどういう意味だ!?」

 ユンが食ってかかるもレイルズは異を唱えることを許さなかった。

「黙れ! ファーレン公爵公子にボロ負けした奴が“獅子盗賊団”を壊滅させた奴に勝てるか!! ユン。お前が弱いと付いてくる部下に示しつかん!! 東部へ赴き、力を付けてこい!!」

 レイルズはユンを千尋の谷に突き落とす気満々だった。

 ユンはレイルズにいいように言われて、ギリッと苛立ちを募らせた。

「なお、彼らにも同行してもらう。彼らから盗めるもの盗んでこい。ユン――東部の掟はなんだ!?」

「“力こそ絶対”!!」

「そうだ。生き残るためには力を付けろ! 技術は盗めるだけ盗んでいけ! 大事なものを失いたくないなら、死に物狂いで力を手に入れろ!!」

 レイルズはユンとシノに発破を掛ける。

 二人も彼に発破を掛けられ、ずが非でも力を手にすると顔に書いてあった。

 二人の顔を読み取り、レイルズは急かす。

「おら、いつまで突っ立っていやがる!! さっさと鍛えにいかんか!!」

「言われなくても――」

「――分かってます!!」

 ユンとシノは剣幕を立てて当主部屋を退室した。

 二人が退室したところで、レイルズは深々と座り直す。

「全く、めそめそした面構えしやがって……」

 彼は話し合う際、不機嫌かつ悔しがる面を浮かべていたユンとシノを思いだす。

「思いだす度に苛立ちを募らせる。()()()()()()、全く――」

 盛大に愚痴を、呪詛を、暴言を吐き散らすレイルズ。

「悔しかったら、死ぬ気で強くならんか。東部は力で物事を決めねばならん。パーフィス公爵家に生まれた以上、それは絶対。そうでなければ、初代様の顔に泥を塗る行為……恥だと知れ!!」

 レイルズの実力は東部で随一と言っていいほどの実力者。

 しかし、若かりし頃はファーレン公爵家現当主、アーヴリルに歯が立たず、煮えたぎるほどの反骨精神を抱き始めた。

 故に地獄とも思える修行の末、アーヴリルに真っ向から食ってかかるぐらいに成長した。

 なお、アーヴリル曰く、レイルズのことを認めてはいるものの狂犬に思えて仕方なかったと弁をした。

 なので、自分と同じ境遇に陥ろうとするユンに発破を掛けて、死ぬ気で強くなってこいと言い放った。

「ふん。お前は代々、パーフィス公爵家を守られし()()()()()()()()()跡取りだ。男としてしゃんとしなければ、シノちゃん()に嫌われるぞ」

 レイルズはここにいないユンに向け、追い打ちをかけた。




「オメエら。出立の準備をしろ!」

 ユンは委員会本部に入ってそうそう、急ぎの準備をしろと言い放つ。

『え?』

 いきなりのことで呆気にとられるユキネたち。

「レイルズさんの指示よ。全員、今すぐ、出立の準備なさい! 場所は東部の森よ!」

『えぇえええええええーーーーーーーー!!?』

 驚きの声をあげるユキネたち。

「ちょっと待ってください!? どうして、いきなり、東部の森へ向かうことになるんですか!?」

 ユキネはわけを聞こうとする。

「よく聞け。“獅子盗賊団”の壊滅には“血の師団ブラッディー・メイソン”ってのが一枚絡んでる。父さんが監視部隊を派遣し、監視してる今のうちに俺たちは力を蓄える。俺たちの力を見せるせっかくのチャンスを不意にしたい奴は前に出ろ!」

 ユンはユキネらに声を轟かせる。

 彼の問答に彼らは前へ出ることはなかった。

 ユンは見渡して皆の顔を見る。

「いいか。よく聞け。ズィルバーの黄昏。シノア部隊に俺たちはなにもかも劣ってる。ユキネとリュカの勝利も先行きを考慮して勝利を得たにすぎず、実戦では俺たちが敗北してる事実を!!」

 彼の力強い言葉と内容に悔しそうな顔をするユキネら。

「ここで力を付けなければ、俺たちは一生、黄昏に劣るとレッテルを貼られる。それでお前らは納得できるのか?」

「できるわけありません!」

「ああ。シューテルの野郎に俺こそが強ぇと見せつけねぇと腹の虫が治まらねぇ!!」

「私もです、ユン様!!」

「俺もだ!!」

「女に舐められちゃ。男に生まれた意味がねぇ」

「負けっ放しは癪だね」

 皆して、気合いを滲ませ、委員会全体…組織全体で志気が高まりだした。

「東部の掟はなんだ!?」

『“力こそ絶対”!!』

「そうだ。俺たちは誰にも負けていないことを見せつけなければならない!!」

 感情が乗るユンの声音がユキネらに浸透していく。

「俺たち豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテは中央にも負けていないことを知らしめるぞ!!」

『オォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーー!!!!!!』

 皆が号令をあげた。

 ユンとユキネたちで心が通じ合った豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテ

 ここからが彼らの躍進劇の始まりだった。




「よーし。東部の森へ行くぞ!」

『オォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーー!!!!!!』

 ユンの号令で声を張りあげるシノたち。

『…………』

 彼らの変化にはズィルバーらもユウトらも目を見張るものがあった。

「一気にチームの結束力が良くなってない?」

「…うん」

 ボソボソと話し合うズィルバーとティア。

「なあ、シノア…」

「はい。ユン・R・パーフィス。リーダーとしての才覚が開花し始めてます」

 ユウトとシノアもヒソヒソと話し合っていた。

「それで、ユン。どこへ向かうのかは聞いてるのか?」

 ズィルバーはユンに行き先を訊ねる。

「ああ。初代様が残した石文に記されていた」

 ユンはパーフィス公爵家初代当主――ベルデ・I・グリューエンが書き記した石文を話す。

『我が子孫よ。もし、困りしことがあれば、東部の森に棲まう耳長族(エルフィム)に会え。擦れば、力を貸してくれるだろう』

 と、話したユン。

「ッ!!」

「「ッ!?」」

 石文の内容にズィルバーとノウェム、ヒロの三人が反応する。

 ズィルバーは()()()に向かうのかと内心、動揺する。

 逆にノウェムとヒロは嫌な顔を浮かべる。

 そう。東部の森。耳長族(エルフィム)が棲まう森こそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

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