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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
東方交流
158/296

中央と東方の交流会。③

 先鋒戦、ヤマトvsアオとクロ。

 勝者、ヤマト。

 次鋒戦、ノウェムとコロネvsユキネとリュカ。

 勝者、ユキネとリュカ。

 勝敗では一勝一敗の引き分け。

 次は五将戦。

 ここで勝敗を大きく分ける大事な一戦であった。

 五将戦に誰を出そうかと迷っている白銀の黄昏シルバリック・リコフォス豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテシューテルとターク(取り仕切り役)

「うーん。ヤマトが勝って、ノウェムとコロネが負けた。ここで“九傑”のヒロを出すのもいいが。残りの連中にも機会を与えないとな」

「シューテル様。ここはあえて、“九傑”だけにして。“八王”と“虹の乙女(レーゲンボーゲン)”の手の内を隠すというのはどうでしょうか?」

 ライナがシューテルに具申する。

「それもいいが経験を積ませるいい機会なんだ。他の幹部層を鍛えさせるのも上に立つ者の務めだ」

 シューテルは言い切る。

「しかし――」

 ライナは彼の言葉に食ってかかった。

「“八王”と“虹の乙女(レーゲンボーゲン)”は密偵と追跡の役割を与えられた組織です。個人能力は“九傑”や“豪蓮”に劣ります」

 ライナの打診にシューテルは余計に頭を悩ませた。

 ――と、そこに……

「何をしてるの?」

 ゲッソリと窶れてるズィルバーと説教を終えてお肌がつやつやなティアがやってくる。

「ズィルバー!? ティア!?」

「委員長! 副委員長!」

 白銀の黄昏シルバリック・リコフォスの誰もがズィルバーとティアの帰還に驚きを隠せずにいる。

 豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテも皇族親衛隊・シノア部隊もコンビが戻ってきた。

「戦況を聞かせてくれ」

 ズィルバーはシューテルに変わり、椅子に座ってシューテルたち(部下)から状況を尋ねる。

「はい。実は――」

 アルスがズィルバーとティアに戦況を報告し、二人はうんうんと頷きながら、次の選出相手を考える。

 考えてる合間に親衛隊・シノア部隊に動きがあった。

「では、せっかくですので、ミバル、メリナ。あなたたちが行きなさい!」

「――ったく、なんで私とメリナなんだ」

「私も同じです。隊長が戻ってきたら、すぐさま、模擬戦に出るようこき使いますか」

 ミバルとメリナが五将戦に出てきたからだ。

 これには、ズィルバーとユン。両陣営も頭を悩ませる。

「シノアの奴……ここいらで親衛隊の実力を見せにきたか」

「しかも、ミバルか。接近戦は厄介な女だぜ。鈍重かと思えば、俊敏な動きができるからな」

 シューテルは“鎧王”セルケトとの死闘でミバルの進化を目の当たりにしている。

「今まで出てきてこなかったのに、ここで出てくるか」

 してやられた感を味わわされるズィルバーにティアはシノアに声を飛ばす。

「シノア。勝手に出番を取らないで!!」

「そっちこそ、先鋒戦、次鋒戦に出たんですからお互い様です!」

 シノアもシノアで声を飛ばして言い返してきた。

「やれやれ」

 肩を竦めるズィルバー。

「どうする?」

 ティアは彼に意見を求める。

「向こうがそうくるなら、こっちもこう出よう。ハクリュウ、シュウ。黄昏からはキミたちが行け」

「は、はい!」

「おう!」

 指名されたハクリュウとシュウは腰に武器を携えて、前に踏み出る。


 白銀の黄昏シルバリック・リコフォスからは“豪蓮”、ハクリュウとシュウ。

 親衛隊・シノア部隊からはミバルとメリナ。

 四人が選出されて、ユンは溜息を吐く。

「一気に四人も選出かぁ~」

「層も余力もありますからね」

「だが、一勝一敗はいいぞ。よくやった、ユキネ。さすが、俺の左腕だ」

 ユンはユキネを褒めれば――

「め、滅相もございません」

 ユキネは照れくさそうにモジモジしながら顔を赤らめる。

「アオとクロは見た目だけで判断しないようにな。ズィルバーの部下は()()()()()()()()()()()ばかりだ」

「はい」

「すまねぇ」

 頭を下げるアオとクロ。

「んじゃ。向こうが四人なら、こっちは二人だ」

「二人?」

「いったい、誰を選出するんですか? ユン様?」

 ユキネはユンが誰を選ぶのか訊ねる。

「タマズサ。ダッキ。オメエらが行け」

 ユンは本日、来てくれた組頭に声をかける。


 組頭とは豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテの幹部であるのと同時に傘下の組織でもある。

 東部では人族(ヒューマン)と異種族との比率が五分五分であるが故、対立もあれば、治安維持も大変なのだ。

 東方貴族の頂点に立つパーフィス公爵家も異種族との対立に頭を抱えている。現にユンの父親――レイルズ・R・パーフィスも愚痴をこぼしたくなるほどの事案でもあった。

 しかし、それも公爵公子たるユン・R・パーフィスの手によって終止符を打たれた。

 裏のユン()の圧倒的なまでの力強さに異種族の誰もが圧倒され、瞬く間に彼の手中に収まった。

 『口だけ野郎かと思えば、夢を叶えるに至るだけの力を兼ね備えていた』と、言い放った組頭もいた。


 タマズサとダッキもその一人であるが、ユンの声かけに真っ向から

「断るよ」

「ごめんだぜ」

 ――刃向かった。

「あんたたちね」

 シノが二人に剣幕を立てれば、ユンは笑い声を上げた。

「ハハハハハハハハーーーー!!」

「ユン?」

 シノは怪訝そうに彼を見つめる。

「俺に刃向かうのは許そう。だが、それはまたの機会にしなよ。今は黄昏と親衛隊の相手にしてくれるか。あいつらに勝てないようじゃ、()()()()()()()()()()()()()()

「「ッ――!!」」

 ユンはタマズサとダッキにやる気を入れるスイッチの押し方を知ってる。

 自分を出しにつるし上げたのだ。

「それは嫌だね」

「ああ。ユンをぶっ倒すには、あいつらを倒さねぇといけないんじゃ。やるしかねぇだろ」

 おだてられたタマズサとダッキにシノは思わず、

「アホ」

 呆れた言葉を投げた。

 フッと口角を上げ、深い笑みを浮かべるユン。その笑みはまさに、『してやったり』と満載の笑みだった。

「見事に手玉に取られて……」

(それじゃ。ユンに一生勝てないわよ)

 シノは二人に対し、ユンに勝てないと内外問わずに言い放った。


 でも、豪蛇からもタマズサとダッキの二人が出たことで、五将戦で模擬戦をする相手が決まった。

「うわー。見た目からして将来、色男になりそうな人相をしてるわね」

「見てそうそうに言うことですか。あなたは……」

 ミバルの言動にあきれ果てるメリナ。

「見た感じ、異種族だよ。ハクリュウ」

「そのようだな。シュウ」

「さて、どう戦おうか」

 ハクリュウとシュウ。二人はタマズサとダッキが異種族だと憶測で判断し、どう戦おうか

作戦を組み立てている。

「さて、見たところ三つ巴だけど……」

「実質のところ、二対一だ」

「どっちをやる?」

「そうだな」

 ダッキはミバルとメリナ、ハクリュウとシュウを見て決断する。

「じゃあ、黄昏の方をやるわ」

「僕は親衛隊の方ね」

 意見が決まったのかタマズサとダッキは離れていき、自分らが戦う相手の正面に立った。

「じゃあ、始めようぜ」

「五将戦とやらを――」

 その声が開始の合図となり、彼らは動きだした。




 場面を変えて、中央。

 大帝都ヴィネザリア、皇宮クラディウスにて。

 帝の間では如何様な情報が皇帝とガイルズ宰相の耳に入った。

「なに、本当か?」

「はい。()()()()が部屋におられませんでした!」

 重臣からの報告に頭を抱えるガイルズ宰相。

「もうよい。下がれ。()()()()()()()()()()のだ」

「ハッ!」

 重臣は帝の間から退席し、ガイルズ宰相の命令を忠実に全うすることにした。

「全く、()()はなにを考えている。自分のお立場を理解しておられるのか」

「困る。余に何かがあったとき、誰が守ればいいのだ」

「陛下。如何様なお考えで……」

 ガイルズ宰相は皇帝に意見を求める。

「すぐに探し出して戻ってくるように言伝を送り込め!」

「では、聖霊機関(デ・セカンム)に指示を送りま――」

 ガイルズ宰相はすぐにでも諜報機関に指示を出そうと動こうとしたタイミングで別の重臣が入ってきた。

 なんとも、間の悪いタイミングであった。

「失礼します! かの御仁が向かった先が判明いたしました!」

「「ッ!!」」

 重臣の報告に皇帝とガイルズ宰相は半ば立ち上がろうとしたが、すぐに思い至って席に座り直した。

「――で、どこへ向かった」

「東部。パーフィス公爵領にございます」

「東部か」

「あちらは()()()()()()()()()()()()()。彼女にとっては()()()ようなものかと――」

 ガイルズ宰相が具申すれば、皇帝は顔を覆い、指示を送る。

「東部にはシノア部隊とファーレン公爵公子とティアが向かっていたな」

「はい。ならば、親衛隊・シノア部隊の方に伝書鷹で一報を入れましょう」

「すまぬがそうしてくれ」

 皇帝はガイルズ宰相の考えに賛同し、ガイルズ宰相は重臣に伝書鷹の手配を頼み込んだ。


 手配を済ませたところで、二人は椅子に深々と座り込んだ。

「全く、彼女はご自分の立場を理解してほしいもの」

「だが、実力は確かだ。あの女が東部に行けば、“獅子盗賊団”だろうと片付けてくれるだろう」

「しかし、陛下。その後の始末にパーフィス公爵家に押しつけては後々、痼りを残してしまいかねません。東部はパーフィス公爵家のもの。彼らに任せるのが得策かと」

「うーん」

 ガイルズ宰相の話を交え、皇帝は頭を悩ませる。

「貴殿の言うこともわかるが、公爵公子のユンは未だ、子供。娘のシノもまだ子供。ここは大人に任せるべきだと思うが――」

「陛下。次世代の育成並びに成長は既に始まっています。北部は既に若き狼によって統治されつつあるとか。ならば、東部も若き力を信じるべきかと思います」

「うーん。そうだな。だが、彼女が割り込んで邪魔をされてはことだ」

 皇帝は話題に上る彼女――女性を取り上げる。

「確かに、彼女は()()()()()()()“蒼狐”。彼女が動いたとなれば、彼らはなんと思うのか?」

 ガイルズ宰相は話題の彼女が東部の問題を解決してしまう可能性を示唆した。

「全く、忙しい時期に面倒なことを引き起こす女だ、ことよ」

 皇帝ですら、話題の彼女に対し、愚痴をこぼすのであった。


 ライヒ大帝国・東部、山間にて。

 一人の女性が山道を悠々と歩いていた。

 彼女は報告書に出ていた少年らの顔写真を見る。

「全く、ファーレン公爵公子は父親ゆずりの破天荒のようだな」

 彼女はズィルバーの顔写真を見て思わず、悪態を吐き散らした。

「それと、パーフィス公爵公子も血筋が血筋。傍迷惑な坊ちゃんに変わりないか」

 ユンの顔写真を見て辛口発言をしていた。




 同時刻、東部、北東の山間にある大屋敷。

 そこは数多の盗賊団の総元締め――“獅子盗賊団”が根城にしてる。

「おい、その話は本当か?」

「へい。提督。中央の黄昏が東部に来てるそうで」

「ほぅ~、そうか」

「しかし、全員というわけではなく、少数精鋭で来たようで」

「まあいい。奴らが来たとなれば、一気に中央へ攻め込めるチャンスってわけだ」

「しかし、提督。東には豪蛇がおりやす。連中をなんとかしねぇと中央への進行は難しいですよ」

 下っ端の意見に“獅子盗賊団”提督――ヴァシキはフゥ~ッと葉巻を吹かし、煙を吐いた。

「確かにな。蛇共も最近になってウザってぇっと思ってたところだ。ここいらで間引かねぇと後々、ヤベぇことになるかもしれねぇな」

 彼はユンら率いる豪雷なる蛇ケラヴノス・セルペンテへの対応策を検討していた。

 と、そこに――

「提督!? “血の師団ブラッディー・メイソン”からの使者が来ました」

「あ゛? なんで今、この時に――」

「分かりません。ですが、お目通りを――」

「チッ。しゃーねぇな」

 悪態を吐きつつもヴァシキは下っ端に連れられ、“血の師団ブラッディー・メイソン”の使者と面会をするのだった。




 場面を変えて、篝火が灯る漆黒の空間。

 篝火に集うは六人の神々。

「あの小僧が東部にいるそうよ」

「東部か。忘れもせぬ場所」

「同時に忌々しい場所。あの男の戦友――ベルデ・I・グリューエンが治めた領地」

「さらに言えば、異種族の宝庫にして、聖地ともいえる場所。厄介なことになったもの」

 様々な意見を、愚痴を言い合う彼ら。

「しかし、朗報がある。千年前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とのこと」

 フフッと不敵な笑みを浮かべる女性が口を零す。

「なんと、あの女が目覚めたのか」

「ならば、彼女に任せるのが得策かと」

「ですが、別の問題があります」

「問題?」

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)です。水面下に動いていた奴らが浮上してきました。狙いはライヒ大帝国への復讐と我らの抹殺が目的かと思われます」

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)……千年以上も生きる不浄な獣共が――」

 憎らしげに毒を吐く女神(ヘラ)

女神(ヘラ)。口を慎め」

 リーダーと思わしき男が圧のある言葉で彼女を黙らせる。

「申し訳ございません」

 彼女は頭を下げて男に謝罪する。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)のことは気にするな。奴らは“獅子盗賊団”を()()()()ために動いてるにすぎん」

「もはや、彼らは不要と判断したのでしょうか」

「北部で“魔王傭兵団”が壊滅したのだ。そうなれば、他の組織も不要と考える」

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の首魁ならそう考えることでしょう。大神。お考えは?」

 女性が大神に意見を求める。

「静観する。あの女狐なら小僧共の首など獲ってくれよう」

「ついでに極悪人共を利用させるのはどうでしょうか?」

「つぶし合わせるのが得策かと」

 具申する彼らに大神は「よかろう」と頷いたのだった。




 さらにさらに場面を変えて、秘密の花園にて。

「北方の一件も終わり。メランの子孫が統治し、平定した」

 守護神(アテナ)がテーブルに集う彼らに零した。

「北も北で安定した中で今度は東ですか」

「厄介なことです。東は異種族が混在してる。しかも、あそこには耳長族(エルフィム)の最長老と()()()()()()()()がいる」

「あの小娘か。小人族(ドワーフ)でありながら、最古参の鍛冶師」

「しからば、あの男の軍略をよく知ってる小娘よ」

 彼らは伝説の男の一番弟子にたいする辛口発言を述べる。

 それらの発言に軍神(アレス)が一喝する。

「静まれ! これ以上、発言すれば、守護神(アテナ)の機嫌を損ねる」

「いいわ。軍神(アレス)

 守護神(アテナ)軍神(アレス)を黙らせる。

「皆の言い分も正しい。彼女はヘルトをこよなく尊敬していた。しかし、彼女は自分が執拗に教えを請いすぎて死なせてしまった負い目を今でも感じてる。故にこれ以上の発言は控えなさい」

 守護神(アテナ)からそう言われてしまい、彼らは口を慎み、謝罪するように会釈した。

「しかし、彼が出たのと同時に、あの()()が動きだしたとのこと」

 彼女が述べた言葉『女狐』に一同は絶句する。

「なぜ、今になって……」

 一人が口にすれば、言霊が拡散する。

「どうやら、“血の師団ブラッディー・メイソン”が一枚噛んでるっていう筋よ」

「彼奴らか――」

「不浄な獣共――」

 彼らの中で吸血鬼族(ヴァンパイヤ)とは世界における不浄な獣という認識でしかなかった。

 ここで、守護神(アテナ)が皆を諫めて、忠告する。

「不浄なのは確かだけど、獣かどうかは些か、不明確ね」

「どういうことだ。守護神(アテナ)

 軍神(アレス)が怪訝そうに訊ねる。

「使い魔越しに見ただけだけど、第三始祖クラスになれば、作戦を綿密に立ててる節がある。まるで、人族(ヒューマン)を真似てるみたいに、ね…」

 目を細めつつ供述する彼女の弁に軍神(アレス)らは警戒心を露わにする。

「と、すれば……」

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の首魁が女狐を呼び起こしたのも頷けるな」

「いかがなさいます」

「東と言えば、ベルデの領地。今や、ベルデの子孫が統治してる。下手な介入は()()()()()()()()()()があります」

「ええ。故にここは静観しましょう。リヒトらが()()()()()()()()()()()があります。あれが起動すれば、我々の干渉なくとも、力を発揮されてしまいます」

「錬成陣――」

「あの方陣は崩すことは不可能。術者が存在するかぎり壊れることがない不滅の方陣……」

「あれを考えたリヒトはとんでもなく化物よぅ」

 彼らが口にする錬成陣とは何か――。

 遠くない未来に、その力が発揮され、ライヒ大帝国が未来永劫途絶えることのない国へとなるのだった。




 場面を戻し、“黄銀城(グリュンブルグ)”東側にて。

 ミバルとメリナ。ハクリュウとシュウを相手にするタマズサとダッキ。

 ミバルとメリナの相手はダッキが――。

 ハクリュウとシュウの相手はタマズサが――。

 二対一で戦っている。

「しっかし、俺の相手は女か」

 ダッキは自分の相手が女であることに不満な口を漏らしている。

「あん? 私が相手じゃ。不服だって言いたいの?」

 ミバルが不機嫌です、と言いたげな雰囲気で剣幕を立てる。

「そうじゃねぇ」

「だったら、なによ!?」

 声を荒立てるミバルにメリナが肩を掴んで止める。

「落ち着きなさい」

「なんで――!?」

「見たところ……」

 メリナは自分らの相手――ダッキ。と、ハクリュウとシュウの相手――タマズサを注意深く観察する。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ!?」

「そんな連中がパーフィス公爵公子の下にいることがおかしい」

 メリナに言われて、ミバルも沸騰しかけた頭が落ち着きを取り戻す。

「確かに――」

(言われてみればそうだ。“静の闘気”で見るかぎり。実力は“九傑”と遜色のない実力……いったい、どんな異種族なんだ)

 ミバルは冷静さを取り戻せば、同時に警戒心を強めた。

 戦斧を肩に担いで、ダッキの出方を見る。

 メリナはハアと溜息を吐きつつ、銃器を手に出方を見る。


「…………」

 一方、ハクリュウとシュウの相手をするタマズサはメリナが手にしてる銃器に興味が引かれていた。

「向こうの勝負が気になるの?」

 シュウが問いかける。

「だったら、俺たちを倒してからにしてくれねぇか。その方が楽だろ?」

 ハクリュウは隣の勝負が見たければ、自分らを倒せと言い切る。

「それも…そう、だね…」

 タマズサは言葉に則り、先制する。

 地に生える草が一斉に舞い上がる。

「!?」

「これは…!?」

 魔法とも思える先制攻撃に動揺するハクリュウとシュウ。

「キミらはこれからなにも見えない。この葉に囚われ、夢に誘われるがいい…」

 視界が閉ざされる葉を前にハクリュウとシュウの二人は互いに背中合わせになって周囲に目を配る。

「目眩まし、に思える?」

「俺には、そう思えない」

 二人は同様こそしたけれど、冷静に立ち返り、取り囲む草の葉の嵐に目を向けつつも“静の闘気”でタマズサの位置を正確に把握する。

「ふーん。触れずに“闘気”だけで僕の位置を探りにくるか」

(僕が操る()()()()を直感して触れようとしない……)

「さすが、黄昏…“四剣将”や“九傑”以外の幹部はそれなり、って思っていたけど、僕の思い違いだった…」

 彼はクスッと深い笑みを浮かべ、葉の嵐に囚われているハクリュウとシュウを眺めていた。


 一方、ダッキはといえば――。

「おいおい!? そんなのありか!?」

 飛び交う弾幕にダッキは泣き言を叫びながら、躱していた。

「ありかなしかって言われれば、ありに決まってるでしょう。勝負に武器の制限なんてありましたか?」

 目を細めて言い放つメリナ。

「おぉ~、怖っ」

(マジで相手にしたくないなぁ~。っていうか、あの弾幕を弾いてみせたよな、シノア!? よくよく考えてみれば、絶対におかしいぞ!?)

 ミバルはメリナが手にする銃から吹き続ける弾幕を鎌で弾いてみせたシノアが化物じみてるとしか思えなかった。

 散乱する薬莢に足元を掬われ、体勢を崩してしまったダッキ。

(チャンス!)

 隙を見せたと確信し、ミバルはその場で跳躍し、戦斧を振りかざした。

「光の斧を見たことがある?」

「あん?」

 ニッと笑みを浮かべるミバルにダッキは知るかよ、と顔を書いて言い返した。

「じゃあ、見せてあげる。“剣蓮流”――“神大太刀(かみのおおたち)”!!」

 光の速度で振るわれる斧の一撃。

「おい、マジか!?」

 ダッキは慌てふためき、躱そうと血に手を付けて立ち上がろうとする。だが、触れたのが草原に散らばる薬莢。薬莢に手を滑らせて、またもや体勢を崩したダッキ。

「あっ、ヤベぇ!?」

 本気で慌てだす彼に迫る戦斧の刃。

「おわあああ。やめて。痛いって。そんなの……」

「ふん。泣き言なんて聞きたくないね!」

 ミバルが戦斧を振り下ろし、ダッキ諸共草原に叩き込んだ。土煙が舞い、弾幕も一時、手を止めた。

 視界が遮られれば、味方を巻き込めかねないとメリナは判断した。

 土煙が徐々に晴れていいくとミバルは顔つきが余裕の顔つきから驚いた顔つきへと変わっていく。

「ば…バカな…」

 彼女から洩れる言葉がとても信じられないと言いたげだった。

 土煙が風に流れて、視界が鮮明になればメリナの目にもあり得ない光景が入り込んでくる。

「なっ――」

(う…うそでしょ……)

 彼女ですら信じることができなかったからだ。

 それは――

「いや~、びっくりした。びっくりした。マジで斧を振ってくるから怖ぇなぁ~。親衛隊ってのは――」

 草原に寝っ転がるダッキ。

 彼の隣に戦斧の刃が突き刺さっていた。

 ミバルはあまりの現実にゾワッと背筋が伸びる。

「これを…躱した…」

 信じられない現実を前に汗で手元がヌルヌルと気味悪い感触が肌から伝わってくる。

「ひゃあ~。人族(ヒューマン)とは思えねぇ馬鹿力だな。さすが、“鎧王”を力でねじ伏せただけのことはあるなぁ~」

 ピョンと軽く跳んで距離を取ったダッキ。

 彼はその場でピョンピョンと跳ね続ける。

「こりゃ、楽しめそうだ」

 大きな甕を肩に担ぎ、ミバルをジーッと見つめる。

「ふーん。そっか。だったら、こっちも――」

 ミバルは“闘気”を爆発したかのように解き放った。

()()()()()()()()()()

「ハッ?」

 “闘気”を解放し、巨大な岩と思わせる“闘気”にダッキはピョンピョンと跳ねながら、ゴクッと息を呑む。

「おいおい…」

(マジかよ)

 タラリと汗を流す。


 同様にタマズサもミバルから放たれる“闘気”の大きさに気圧される。

「あれが…“闘気”…?」

(“闘気”…というわりには大きすぎる。まるで…()()()()()()()みたい………まさか!?)

 タマズサはハッとなり、一つの考えに至る。


「ほぅ~。ミバルの奴……“闘気”の解放に至ったか」

「私たちの喧嘩を通じて、土台がしっかりできてたのね」

 ズィルバーとティア。二人はミバルの“闘気”を観察して成長度合いと経緯を把握した。

「だが、扱いきれていない。“闘気”の発動に関しては修得してるが、解放に関しては半年ってところだろ」

 ズィルバーはミバルの“闘気”を見ただけで彼女の習熟度合いを理解し、言い放った。

 その言葉が耳に聞こえていたのかミバルはチッと舌打ちをしてズィルバーに目線を向ける。

「さすが、黄昏の首魁。“闘気”を肌で感じとっただけでそこまで理解できるか。ほんとに化物としか思えないな」

 彼女はズィルバーに対して、毒を吐いた。

 メリナはミバルの変化に一番驚いていた。

「う、うそ、でしょう…」

(“闘気”の解放なんて、熟練の冒険者やそこそこ経験を積んだ隊員にしか習得できない高等技術。それをまだ、十代の女の子が使えるなんておかしい!?)

 明らかにズルかインチキをしているとしか思えないメリナ。

 だが、現実――。

 ミバルは“闘気”の解放をしている。あり得ない、と豪語したくなるメリナ。

 彼女はフルフルと手を震えだし、恐怖を抱いた。


「うーん」

 と、ユンは目を細め、ミバルを鋭意観察する。

「まさか、親衛隊があそこまでの実力だったなんて……」

 動揺を隠しきれずにいるシノ。対して、ユンは観察をし続けたまま、自身の“静の闘気”で展開する不自然な反応を感じとる。

「ん?」

「どうしたの?」

 僅かな変化に気づき、訝しむシノ。

「ああ。誰か来たのかな、って思って――」

「ん?」

 彼の呟きに今度はシノが小首を傾げる。


 五将戦では今にでも、ミバルがダッキに迫ろうと戦斧を肩に担ぐ。

「さあ、続きをしようか」

 紡げば、ダッキはゴクリと生唾を呑む。

 ジリッと空気が軋んでいき、今にでも足を蹴ろうとした。

 その時――

「ユン様ー!?」

 街の方から足早に走り込んでくるパーフィス公爵家の家臣の一人。

 急に水を差されたことで興が削がれてしまい、巨大な“闘気”が維持できなくなり、霧散してしまったミバル。

 息を切らして、ユンのもとに近寄ってくる家臣。その顔色は焦りに焦っており、緊急事態が起きてると誰もが理解できる。

 そして、その者が告げられた言葉が事態を大きくひっくり返した。

「先ほど、“獅子盗賊団”を監視してた部隊から凶報! 盗賊団が何者かの襲撃を受け、壊滅にあったとのこと!!?」

 その凶報が東方の命運を懸けた小さなうねりにすぎなかった。

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