英雄。東方の首都に到着する。
ズィルバーが仲裁に入ってくれたおかげでことをなきにしもあらず、という状況に持ち込ませたが、ユンとユウトの間でバチバチ、と対抗心剥き出しに睨み合っていた。
しかし、ズィルバーが仲裁に入ったことでユンの人格も変化が起きた。
髪の色が金髪から黒髪に戻り、圧倒的な存在感も収まった。
ただし、心優しき人格に戻ったとしても、迷いが振り切れたのか。清々しいまでの生気に満ち溢れる顔つき。大将としての風格が出始めていた。
(風格はいっぱしの大将。他の連中もユンに釣られて生気に満ち溢れる顔つきになり始めている。周りへの影響力だけは俺やカズ、ユウトと同じだな)
ズィルバーはユンの顔から読み取れる情報を読み取れるだけ読み取って把握する。
読み取れるだけ読み取ったズィルバーは未だにユンの存在感に圧倒されているティアたちに発破を掛ける。
「臆するな! ユンは未だにいっぱしの大将だ。キミらが気圧される理由にはならん!」
「ズィルバー……」
「思いだせ! 俺たちは“魔王傭兵団”を叩き潰したことを!!」
彼の発破に目を覚ましたティアたち。
途端、寒気が消え、逆にやる気に満ち溢れる顔つきになった。
「そうだ! 俺たちは白銀の黄昏。東の連中なんかに負けるわけねぇだろが!!」
シューテルの血気盛んな発言にティアら選抜隊は“闘気”を滾らせ、ユンたちに目を向ける。
ズィルバーらから視線を集められてるユンたち。
ユンはズィルバーと目が合い、一瞬、睨み合うも前回の敗戦があるのか。大人しく、ユンから矛を収めた。
ズィルバーから視線を切るユン。
「朝ご飯、食べて。さっさと“黄銀城”に帰るぞ」
号令をあげて、シノらも視線を切ってユンについて行った。
ズィルバーとティアはユンの後を追うシノを見た後、顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「シノの奴。嬉しそうな顔をしやがって」
「お礼される義理はないのに、ね」
「全くだ」
二人は軽口を叩き合った後、シューテルたちに声を張りあげる。
「さあ、早めのうちに出発の準備をするよ!」
「東部の首都――“黄銀城”に着いたら、やることは一つ。皇家からの勅命を成し遂げることに専念しなさい!」
二人の号令のもと、シューテルたちは返事をしてすぐさま片付けに動きだした。
一方で東方風紀委員と一緒に同行していた東方貴族――パーフィス公爵家の家臣団。
彼らはユンの成長ぶりを目の当たりにし、涙を流す者もおれば、心配の顔を向ける者もいた。
四日後。
山道を歩くこと四日。
予定よりだいぶ遅れてしまったが、ズィルバーらは東方の首都“黄銀城”を取り囲む山の西側。
つまり、宿場町に到着した。
現在、宿場町に通じる関所に留まっている。
「関所から見えるだろう。城が」
「ああ。異国情緒溢れる城がな」
『……………………』
誰もが東方の首都――“黄銀城”を目にすれば、ポカーンと唖然するほかなかった。
唖然とするティアたちを無視して、ユンは口にする。
「ようこそ、ライヒ大帝国の中でも異質ともいえる東方の首都、“黄銀城”へ――」
「すごいなぁ……」
ズィルバーはティアたちと別の意味で唖然としていた。
そう。ズィルバーたちは今、“黄銀城”を関所から見下ろす形でも大きかった。
“黄銀城”。
東方最大規模の首都。
ライヒ大帝国、創立期。
東方初代大将軍、ベルデ・I・グリューエンが血の気が入り混じる町を立て直した街。
千年前、東方は異種族が乱立し、血気盛んな地方とも謂われ。
歴史上、唯一、人族が最低な扱いを受け、貧困な暮らしをさせられていた。
力こそ絶対。
全ての物事は力で決めるという常識が古くから東方に受け継がれ続けてきた。
故に、東方は異種族同士が主権を巡って血みどろな殺し合いを続けてきた歴史がある。
しかし、それを打破したのがベルデ。
彼は並み居る異種族をなぎ倒し、力を見せつけ、東方の主権を手にした。
主権を手にしたベルデは力による統制ではなく、強きリーダーによる統治がなされた。
誰もが反発するかと思いきや、大いに喜び合った。
種族的価値観。種族間による諍い、争いが多すぎにより、心身共にすり減っていた。
戦いから解放されたという想いが強くなったことでベルデに民衆の意志が集まった。
民衆の祈りを聞き入れたベルデは町の復興に着手し、町を取り囲む山を利用して、異種族同士の区画分けといった規模を拡大させていった。
今もなお、首都の発展に着手している。
首都並びに山間の造り方が異国情緒を思わせる建物が乱立していたが、全ての建物が木とレンガを組み合わせた造りをしていた。
自然の恵みを受けやすくするため、木造の階段が整備されている。
“黄銀城”とは取り囲まれた街のことを指すのではなく、取り囲んでいる山を含めて首都である。
首都の中央に聳え立つ居城こそ、東方随一の学園、“ティーターン学園東部校”でもあり、パーフィス公爵家でもある。
そして、居城の周りを取り囲み立ち並んでいる屋敷が東方貴族の屋敷である。
「中央に聳え立ってるのが、俺たちが通っている学園かつ俺の家だ」
「学園に関しては“蒼銀城”と同じだが。首都の造りに関しては異質といえる」
(さすが、異種族同士の文化がごっちゃまぜになってるだけはある)
ズィルバーが漏らした言葉にティアたちは首を小さく傾げ、レインやキララ、ノイらは“黄銀城”の街並を見て感傷に浸る。
「あの城を見ると異種族を束ねた歴史の象徴ね」
「異種族を束ねた? レイン様。それはいったい――」
「東部には“絶対的な掟”があるんだ」
ティアはレインに言葉の意味を尋ねようとすれば、ズィルバーが説明した。
「“絶対的な掟”?」
「力こそ絶対。全ての物事は力で決めるのが大原則。っていう歴史がある」
「力で物事を決めてたの!?」
ティアからすれば、東部に伝わる掟があるとは知らなかった。
「確か、東部はかつて、血気盛んな地方と言われたよな?」
ズィルバーはユンに話を振る。
「ああ。俺の先祖が血みどろな東を統治したっていう伝説があるからな」
口調が荒くなっているとはいえ、ユンの中に芯があるためか。その発言に迷いがないようにズィルバーは感じた。
「血みどろ?」
「“黄銀城”には異種族が暮らしている。俺の委員会。いや、豪雷なる蛇のメンバー大半が異種族で構成されている」
「もともと、中央や他の地方と違い、東方は人族と異種族を対等として扱う制度が制定されてる。だから、国全土でもっとも、異種族との交流が盛んな地方って言われてるわ」
シノがユンの説明を補足してくれた。
彼女の補足を聞き、ふーん、と納得するティア。
「だから、建物の造りが奇想天外というかバラバラなのね」
「ええ。おかげで種族間の諍いは未だに絶えないのよ」
「それはそちらの問題でしょう。私たちに持ち込まないで」
「あら、手厳しい」
皇女同士の会話を横耳にズィルバーは一人。
聳え立つ居城――“黄銀城”と周りの街の景色を眺めていた。
(北方でも同じ気持ちを抱いた。千年前の面影こそはなくなったけど、ここは友の故郷であることに変わりない)
感慨深く思っていた。
「ズィルバー……どうかしたのか?」
ユンが思わず、声をかけてきたのでズィルバーは
「何でもない。気になったことがあっただけ」
物思いに拭けたことを悟らせないよう言い回して、ユンに言い含めさせた。
「ならいいけど」
彼の言葉にユンは渋々納得する。だが、レイン、キララ、ノイの三人の目にはズィルバーが物思いに耽っていたのが見てとれた。
(無理も、ないか)
(千年の月日を経て、友が残した街を見て、なぜ、自分だけが生き長らえたのか)
(僕とキララも千年も生き続けなければいけないのか。なんども考えてきた。でも、彼らとともに在り続けた思い出は忘れていけない。同時に彼らと誓い合った約束を果たさなければならない)
(でも――)
キララとノイはユウトとシノアらを見て、責任を感じていた。
(私たちの問題にユウトたちを巻き込ませたことには――)
(責任を感じてしまう。だからこそ、僕らはシノアたちを生かさなければならない)
(それがあの時代の誓いを守ることに繋がる)
キララとノイ。
彼らはズィルバーとは違うが、ティアたちを守る理由があった。
“黄銀城”の関所で留まり続けていると――予想外な人物がお出迎えに来た。
「ようこそ、おいでになってくれた。ズィルバー殿。ティア殿下。ここからは私も案内に努めよう」
偉丈夫の出で立ち。その実、身体から滲み出る“闘気”が歴戦の猛者だと告げている。
「父さん」
「レイルズ殿」
目の前の人物こそ、ユンの父親。
「私はレイルズ・R・パーフィス。パーフィス公爵家現当主だ」
レイルズ・R・パーフィス。
この名を聞けば、ライヒ大帝国の民なら誰だって知っている。
今もなお、血気盛んな東方を統括し続けているパーフィス公爵家の現当主を務めている。
「ズィルバー・R・ファーレンです」
「ティア・B・ライヒです」
「東方からの勅命は皇家を通じて聞いております」
「東方貴族が“獅子盗賊団”と内通している話。“獅子盗賊団”とは一度、やり合っている身の上。彼らとの抗戦をする際、微力ながら力を尽くしましょう」
ズィルバーとティアは前に出て、“獅子盗賊団”と一戦を交えるなら力を貸す姿勢を示した。
彼らの姿勢にレイルズは注意深く観察する。
「あの、何か……」
「いや、まだ子供ながらにして、戦士の顔をするとは思わなかった。さすが、防衛戦争にて。“魔王傭兵団”を返り討ちにしただけのことはある」
「恐縮です」
「それに息子のユンを男らしくしてくれたのもズィルバーだろう」
「ま、まあ……」
グイグイ、と近寄ってくるレイルズに及び腰になりかけるズィルバー。
「息子のことはこれからも頼むよ。血気盛んな東方の中で人一倍血の気が多いからな」
「ちょっ!? 父さん!?」
レイルズに茶化されて、テンパってしまうユン。
ユンの焦りにズィルバーは今更感を覚えた。
「父さん。そろそろ」
「おおっ。そうでした。急かすようで申し訳ない。そろそろ、出発しないとな。後がつっかえていた」
「しっかりしてよ。父さん」
ユンとレイルズの話から総合するにレイルズはしばしば、周りが見えなくなっているのか、と思い込んでしまった。
「いえ、それほど急いでいませんので、どうか焦らずに」
「はい。レイルズ卿。焦ってしまうと周りが見えなくなってしまいます」
ズィルバーとティアはレイルズへの気遣いを考慮しつつ、頭を下げる。
「ほぅ~。礼儀正しくなったね。良いことだ」
レイルズはズィルバーとティアの成長を目の当たりにし、自分が年老いたのを実感する。
「レイルズ卿。よろしいでしょうか」
「ん?」
今度はシノアがレイルズに声をかける。
「皇族親衛隊第二帝都支部。シノア中佐です」
シノアは敬礼したまま自己紹介する。
レイルズは敬礼をするシノアと続けざまに敬礼するユウトたち四人に目を向ける。
「おおっ。皇家に勅命を送った際、皇家から親衛隊も選抜隊として派遣されると聞いていたが、かの名高いシノア部隊とは驚いた」
「我が隊のことを存じていただき、誠に光栄です。私たちとしては東方支部に顔を出しに行きたいのですが?」
シノアはレイルズに嘆願する。
「うーむ」
レイルズはシノアの嘆願を聞き、顎に手を添え、蓄える髭を撫でながら考える。
少し熟考した後、答えた。
「東方支部への顔出しはあとにしていただけるか。シノア中佐」
「理由をお聞かせできますか」
「聞くところによれば、東方支部にも“獅子盗賊団”と内通している団員がいるそうだと聞く。今、顔を出すのはかえって危険であると私が判断した。若い命を散らすわけにはいかんからな」
レイルズの判断、理由を聞き、致し方ないと納得し、感謝の言葉を述べる。
その際、レイルズは親衛隊員服を着ているメリナに目を向ける。
シノアも彼がメリナを見ていることに気づき、話を伺う。
「メリナがいかがいたしましたか?」
「いや、情報ではシノア部隊は五名だったと聞いてるが」
「メリナは半年ほど前に親衛隊に異動されました」
「そうであったか。いや、若さで盛り上げてくれることを切に願うよ」
「父さん。後ろがつっかえてるし。一度、城に帰ってズィルバーたちの滞在する部屋に案内するのが先決だろ!」
ユンが強気な口調で父・レイルズに言い放つ。
レイルズは息子・ユンが強気な口調で言い放ってきたことに驚くのと同時に些細な変化を見逃さなかった。
(一皮むけたのか?)
疑心であったが、ユンが成長したことを実感する。
だが、ユンの言い分も正しいので――。
「うむ。息子にそこまで言われたら、父親として立つ瀬がないので行くとしよう」
彼が鶴の一声を放てば、一行は“黄銀城”中心部に聳え立つ居城へ向けて歩きだした。
「下山するとはいえ、なだらかな山道だから一時間近くはかかる」
「しかも、俺たちは荷物を抱えてるからな。体力アップができるという意味なら嬉しいが、靴を新調いや履き替えた方がいいな」
「確かに、学園用の靴じゃ。山道には不向き」
ユンの的確な指摘にズィルバーはぐうの音も出なかった。
「居城――“黄銀城”に到着したら、滞在先を提供する」
「提供って、用意していないのか?」
ズィルバーは思わず、聞き返してしまう。
「父さんが用意する気配がなかったから俺が用意した。城の部屋でもよかったんだが。城内はわりと複雑だから部屋を提供できない」
「複雑? 城内ってそんなに入りくんでいたかしら?」
ティアと一緒に追随するシノがユンの話に割り込む。
「実は“黄銀城”って。初代様の敷設した魔法陣があって、中心に位置する居城も造りが複雑でな。学園エリア以外はパーフィス公爵家の管轄。学園講師陣も入らせないようにしてる」
「そうだったの」
「シノは知らなかったの?」
シノが納得すれば、ティアが思わず訊ねてしまった。
「ええ。知らないわ。私も“黄銀城”を回る際、部下と一緒にいることが多いから」
「へぇ、つまり、彼氏のことなんか意識していないんだ」
「何を言ってるの? 私がユンのことを意識していないといつ、言ったのかしら?」
「ブーメランって言葉を知ってる。自分で言った言葉がはね返っているわよ」
「その言葉をそっくりそのまま言い返すよ」
バチバチ、と火花を散らすティアとシノ。
同じ皇女なのに仲が悪いそうに見える。
後ろからついてきている黄昏と豪雷が慌て出す。
「おい、ティア。喧嘩はよせ」
「シノもだ」
彼女たちの間に割り込もうとするシューテルとターク。
「「…………」」
睨み合うティアとシノを割り込んだシューテルとターク。
彼らに割り込まれて、目線が削がれるも不機嫌になったのは変わりなかった。
ティアとシノの睨み合いを振り返って見ていたズィルバーとユン。
「人の振り見て我が振り直せというのは――」
「このことかもな」
ズィルバーとユンは互いに息を吐いて喧嘩しないように心がけることにした。
道中、雑談をしながら“黄銀城”に向かっている。ふと、ズィルバーがユンに聞きたいことを思いつき訊ねた。
「ユン。一つ聞くが」
「なんだ」
ズィルバーは後ろに目を向け、タークたちを見る。
「俺たちを出迎えに連れてきた部下は彼らだけか?」
「うん。タークやユキネらだけで。残りは城に残って巡回と警備を頼んでいる」
「なるほど」
ユンとタークたちを交互に見て、ズィルバーは思い至った。
(あの夜以降、彼らの絆が増しているように感じる)
「いい仲間に巡り会えたな」
ズィルバーはタークたちを見て吐露する。
「そちらこそ」
ユンは選抜されたシューテルたちを見て吐露する。
「優秀すぎる仲間が集まってるじゃないか」
互いに友を得た充実感に満たされ、彼らに顔を見せてはいけないと思い至り、前を向いた。
だが、顔を前に向いた際、ズィルバーとユンは嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
歩くとこ一時間そこら。
目線が徐々に上になり、ズィルバーらは一同、上を見上げて“黄銀城”を眺める。
城の外壁は千年前のまま。つまり、当時のまま、歴史を誇るかの如く、レンガが風化していなかった。
「移築とか、修繕とかしたの?」
ティアが思わず口に出してしまった。
「いや、修繕とかしていない。初代様が施した術が今も効いていて城の風化を抑えてるんだ」
「それはどうして?」
「さあ、知らない」
ティアの問い返しにユンは知らないと答えるしかなかった。
シノに振れば、彼女も知らないの一点張り。
「まあ、その話は荷物を置いてからにしよう。ユン。案内を頼むよ」
「ああ。任せてくれ」
ズィルバーの頼みで一行はユンの案内でズィルバーたちの滞在先へ案内し始めた。
ライヒ大帝国東部の最大の天然要塞都市“黄銀城”は周囲の山に囲まれた天然要塞に加え、深い堀と城壁を巡らせた中心の居城に侵入させない造りになっている。
また、異種族の文化が混ざりきっているためか。家屋の屋根造りに統一性が見られない。独特故に歪。されど、独特だからこそ、異種族を対等に扱うという意識が根付いていた。
居城を守る壁などなく、城の壁そのものが“蒼銀城”同様に特殊な加護が働いている。
滞在先の宿屋に荷物を置き、学園に到着したズィルバーたちはユンとシノが連れてきた仲間たちとご対面する。
「これが、俺の委員会。俺の組織――豪雷なる蛇」
「セルペンテ……ね」
(蛇、か)
ズィルバーはセルペンテの意味が“蛇”であることを見抜いたのと同時にパーフィス公爵家の家紋を思いだす。
「そういや、パーフィス公爵家の家紋は蛇の紋章だったな」
「ああ。組織名は家紋から着想を得た」
(カズはヴォルフ……狼のことを指し示し、ユンはセルペンテ……)
「カズもそうだったけど、家紋から着想を得るとは考えるじゃないか」
「そういう白銀の黄昏は“影から支えていく”意味合いが強くないか?」
ユンはズィルバーに真意を探るかのように言い放つ。
「そうだよ。白銀の黄昏は影から支えていく。国を守護する。民を守護する。皇家を守護することは人として当たり前じゃないのか」
(なにより、俺たちが守り続けてきた国を滅ぼしたくないからな)
本音を打ち明けず、国の守護。民の守護。皇家の守護は貴族としてではなく、人族として至極当然だと言い返す。
「なるほど。これは一本取られた」
ユンも言い負かされたことを判断し、大人しく手を引いた。
しかし、彼は提案を申し立てる。
「せっかくだ。皇家からの勅命で“獅子盗賊団”への協力を得られたとしても互いに実力が把握できていなければ、作戦を立てられないだろう。そこで提案だが、豪雷なる蛇と白銀の黄昏で模擬戦をしない」
「模擬戦……つまり、もう一度、俺らと勝負がしたいと?」
「ああ。先日と同じになるとは思わないことだ」
ニッと不敵な笑みを浮かべるユンにズィルバーは目を細める。
「いいよ。その提案、受けてあげる」
ズィルバーはティアに目を向ければ、彼女も頷いて了承してくれた。
「じゃあ、せっかくだし。親衛隊も混ぜないか」
「おおっ。いい考えだ。期待の星がどこまで強いのか気になっていたからな」
ユンはユウトに値踏みの視線を向ければ、ユウトも負けじとユンに睨みつける。
シノアはハアと息を吐いた後、一声あげる。
「では、公平に期して、東の山はどうでしょうか」
彼女からの提案にユンは一計を案じ、言い返した。
「未踏地は原則、学園の生徒は立ち入り禁止されている。あそこは耳長族の森がある。おいそれと入れない」
「だったら、“黄銀城”の敷地はどうだ? 確か、東側に広い草原があると聞いてるが」
ズィルバーの提案にユンは息を吐いて、渋々言い返す。
「それだったらいいだろう。東の山を越えることはパーフィス公爵家の許可なしに禁止されてる。その前だったら問題ない」
彼が了承してくれた。
「じゃあ、すぐに移動して始めようじゃないか。交流会って奴を――」
ズィルバーは好戦的な笑みを浮かべ、血を滾らせていた。