英雄。メンバーを公表する。
翌日。
皇家からの勅命で、白銀の黄昏いや、風紀委員は東に行くことになった。
今日は、そのメンバーを発表する日でもあった。
委員会の誰もが、誰が選出されるのか気になって、気持ちが上づいていた。
そして、委員会本部の掲示板に選出メンバーが書かれた紙が掲示された。
メンバーも誰もが選出メンバーが誰なのか掲示物を見る。
『…………』
誰もが選出されたメンバーにざわめいた。
ざわめきは大きく分けて、二つ。
選出されたメンバーと選出されなかったメンバー。
東方との交流会に参加するメンバー。
ズィルバー、ティア。
四剣将はシューテル。
九傑からはノウェム、コロネ、ヒロ、ヤマトの四名。
八王からはアルス、ライナ、ヒガヤの三名。
虹の乙女からはルラキ、セフィラ、ウィリデの三名。
ビャク、ルア、カキュウ、ショウキュウ、カルネス、ハクリュウ、シュウ、リィエル、ルアール、ティナと部下数名のみとする。
残りのメンバーは留守番と書かれていた。
この決定に四剣将のニナ、ジノ、ナルスリーは当然の判断だった。
シューテルは選ばれたことに文句は言わないが、留守の間の決定権を誰にするのかが気になった。
なお、掲示には追記があった。
ズィルバーとティアがいない間は四剣将に全権を委ねる。
と書かれていた。
この決定に四人はほっと胸を撫で下ろす。
「当然の決定よね」
「昨年の二の舞にはなりたくない」
「シューテル。ズィルバーとティアの警護は頼んだよ」
ニナ、ジノ、ナルスリーの頼みにシューテルはと言えば、
「それは構わないが、大半を中央に残して、少数で行くのか。東の連中がどれくらいの実力を分からんのに」
東方の風紀委員の実力を知らない上の弁だった。
「そうね。東方はパーフィス公爵家が治める領地。前に調べたけど、独特の文化があるそうよ」
「独特の文化、か。気になるな。まあ、手土産は買ってきておくよ」
シューテルは話を聞きつつ、お土産を買ってきておくと告げた。
「お願いね」
ナルスリーらも土産話込みで頼んでおいた。
一方、その頃、第二帝都支部ではというと――。
「東方支部からの要請、ですか」
「ああ。親衛隊東方支部からの要請だ」
シンの口から増援要請を受けられた。
「皇家を通じての要請だ。親衛隊本部からではないのを理解してくれ」
執務室に呼ばれたシノアはシンが告げた言葉の真意を理解する。
「親衛隊本部を信用していない?」
「現時点で、皇家はそう判断している。直近にクレトとマヒロが選出されたぐらいだ。まず、間違えない」
「と、すれば、アイオ准将も選出されたのですか?」
「彼女も選出されたよ。さて、内容なんだけど――」
シンの口から明かされる内容は――。
“黄銀城”いや、東方貴族が裏で“獅子盗賊団”と密約しているという情報を入手した。
これをパーフィス公爵家は親衛隊東方支部に連絡し、皇家にも書状を送ったそうだ。
それを受けて、皇家が第二帝都支部と白銀の黄昏に勅命を送った。
メンバーも少数精鋭と書き記されていたので、シンはシノア部隊に経験を積ませようと判断し指名した、というわけだ。
「だから、シノア部隊には夏頃には東部に向かってほしい。馬車はこちらが手配しておく」
「了解しました」
シノアは皇家からの勅命となれば、断ることができないので敬礼をして仕事を全うすることを言い放った。
皇家からの勅命を受けたとシノアは部隊の皆に告げた。
「次は東かよ。なんか、最近、いろんな所に行かされていねぇか」
ユウトはいろんな所に行かされて、休みが取れていないのを感じている。
「言いたいことは分かる。なんで、俺らなんだ? 他にもグレン大佐の部隊とかもあるだろう」
シーホが指名されたわけを聞く。
「皇家からの勅命です。何でも、白銀の黄昏もこの勅命を送られたとか」
シノアは皇家からの勅命が自分たちだけではなく、黄昏にも送られたと話せば、ユウトは瓦全とやる気を見せた。
「おーし。ズィルバーと張り合えるなら、願ったり叶ったりだ。その勅命を引き受けてやる!」
「チッ。バカユウトがまたやる気を見せやがった」
シーホがユウトのバカさ加減に盛大に悪態を吐いた。
「なんだ、シーホ。怖いのか?」
明らかな挑発にシーホは『あ゛っ』、と冷たい声を漏らす。
明らかに喧嘩腰だ。
「誰が怖ぇんだよ。怖ぇのはお前じゃないのか、ユウト!!」
「俺が怖ぇだと? アホか、怖かったら、とっくの昔に死んでらぁな。そんなことも分からないのか、シーホさんよ」
明らかに子供じみた口喧嘩にシノア、ミバル、ヨーイチは無視することにした。
「い……いいの!?」
メリナは止めないのか、と打診するもシノアたちは止める気すらなかった。
「いいんですよ。いつものことですから」
「あれが、あいつらもコミュニケーションの一つだ。一々、気にしてるとストレスが溜まるだけだ」
シノアとミバルは、あれが自分らの部隊の日常、だと答えた。
「ヨーイチさん。止めないんですか!?」
「僕が言って、止まったことがないし。好きなだけ言い合っておいた方がいいと思う。それより、僕たちも“闘気”の修練をしないといけないよ。このまま、シノアにバカにされるよ」
彼のだめ出しならぬ禁句にメリナはメラメラと闘志を燃やす。
「はい。そうです。では、ヨーイチさん。ハリー・アップ! 早くしないと気持ちがシノアに向きそうなぐらいです!」
「気合い入れすぎだよ!?」
ヨーイチはメリナのご機嫌取りから始まった。
「なぁ、あいつら仲良くなっていないか?」
「そういえば、そうですね。おや、ミバル。もしかして、嫉妬してるんですか?」
「誰が嫉妬してるんだ。そういうシノアはユウトとうまくいっているのか?」
シノアはミバルをからかうも彼女からの仕返しに顔を赤らめ、口が詰まる。
「……い、いえ、そんなことを、気に、することでは……」
チラ、チラッとシノアは口喧嘩しているユウトを見る。
ミバルから見れば、
「気にしすぎだ! それでどうなんだよ?」
「いえ、最近、ユウトさんと出かけることが多いんです。しかも、ユウトさんから……」
「ふーん」
(脈ありじゃないか。ユウトの奴。自分から誘うぐらいの男前になってたのか)
「キララさんやノイさんの教えのおかげかもしれませんが、服へのこだわりを持ち始めていますし。あと、料理とかも教えてもらっています」
シノアはここ最近のことを思いだし、顔を赤らめ、幸せそうな顔を浮かべる。
ミバルも思わず、ケッ、と盛大に舌打ちをした後
(見せつけるんじゃないよ、リア充が!!)
内心、盛大に荒立っていた。
皇家からの勅命を受けたのを話してから、カオスな空間になったのをキララとノイは眺め、あきれ果てていた。
「全く、誰も仲裁しないのね」
「僕からしたら、これが彼らの日常に思えてきた」
年長者にして、大精霊の彼らもこのカオスな空間を止める気すら起きなかった。
「それにしても、東か」
「耳長族が住まう森があるのもそうだが、東と言えば、ベルデの子孫が治めている領地」
「確か、パーフィス公爵家だった、よね?」
「うん。東は独特な文化圏。まあ、それもベルデによる影響だけどね」
「彼も彼でけっこう、独特だったよね。ネルはベルデのどこに惹かれたのかしら」
キララはかつての弟子のことを思い馳せた。
「さあ、僕も知らない。でも、東には行ってみたいとは思っていたからいいんじゃないか。僕も久しく行っていないからさ」
「あら、そうなの。じゃあ、せっかくだし。仕事をしつつ楽しんじゃいましょうか」
彼らも彼らで方針を立て始めたのだった。
皇家からの勅命を受けて、月日が経過した。
その間、中央では新たに“問題児”が白銀の黄昏に入ってきた。
しかも、六人。
アルスたち暗殺者とは打って変わって、貴族でもお抱えの問題児ばかりだった。
新しい“問題児”に関してはノウェムやアルス、ハクリュウたち。裏側の者たちとは違い、ノーラやルミといった貴族側が一番詳しかった。
「今年度の追加人員も“問題児”ばかりだな」
「そうね。どの子も貴族出身。地方寄りの中央貴族ね」
「確か、それなりの領地を治めていていたよな」
(ルキウスに頼んで、“問題児”出身の領地を調べてもらおう)
「しかし、思想というか性格というか。貴族にしては珍しい奴らだな」
ズィルバーは今年度の“問題児”に対し、かなりの告げ口だった。
「それ……ズィルバーが言うこと。ズィルバーもズィルバーで変わり者だと思うけど?」
ティア殿下の指摘に彼はつまらなさそうに鼻で笑いながら言い返す。
「俺が変わってるのは今更だろう。問題は思想だ」
ズィルバーは一人の男子生徒を見る。
名前はルークス・L・オンブル。
侯爵家の子息。だが、思想が危うさを感じた。
「そうね。この思想は一番危険ね」
ティア殿下もルークスの思想に関しては危険視してる。
ルークス・L・オンブル。
彼は性善説の塊。正義感の塊に思えた。
人を引き寄せるカリスマがあるけど、薄っぺらい言葉しか吐けず、青臭い理想論しか言えない子供であった。
いや、子供以前の問題であった。
「こいつは“ひよっこ”というより、熟し切れていない生卵だな」
「その例えはどうかと思うけど、私も概ね、同じね」
ティア殿下もルークスに関して、ズィルバーの弁を否定する気がなかった。
「それで、彼をどうするの? ルミたちと同じように事務系の仕事をさせる」
「それもいいんだが、駄々をごねるだろうから。現実を突きつけてやろう。実力差や裏側の生き方、恐ろしさを、な」
ズィルバーの考えに『それしかないわね』と納得するほかなかった。
「でも、他の五人に関してはどうする?」
「基礎体力を向上させつつ、適性や得意分野を見つけさせて、知識や技術を身に付けさせよう。後方支援も今後の委員会に必要なことだ。クルーウやルアールたちでは手が回らないからな」
「わかったわ。じゃあ、東に行っている間は“四剣将”に追加人員の面倒を見させるで、いいかしら?」
「ああ。それで構わない。“問題児”に関しては“九傑”や“八王”、“虹の乙女”にも回しておけ。指導する経験も積ませておいた方がいいだろう」
「じゃあ、私からそう伝えておくわね」
といったのが、その期間にあった出来事。
で、今、ズィルバーとティア殿下は今年で十二歳になる。
誕生日を迎えた。パーティーも白銀の黄昏内部で盛大に祝われた。
ズィルバーも照れ隠ししつつも皆からのプレゼントをもらった。
彼の照れ隠しに皆はププッ、と笑うのを堪えていたのが一番近い記憶であった。
月日が経過し、白銀の黄昏から選出されたメンバーと第二帝都支部の選出されたメンバー同士で、皇家からの勅命である東部へ赴くことになった。
「おや、親衛隊も東に行くのですか? 随分と身分が偉くなったのではありませんか? ああ、階級が昇進したから遠征する回数が増えたのか? それとも左遷ですか。可哀想ですね」
「そっちこそ、北や東へと交流が多いじゃないか。親衛隊以上の皇家の犬っぷりだな」
「「…………」」
一瞬の間を置いて、ズィルバーとユウトの額が頭突きしあう。
「「あ゛!!」」
おまけに喧嘩腰で、だ。
周りにいるティア殿下たちもシノアたちもハアと溜息をついてしまう。
「ズィルバー。喧嘩はまたの機会にしなさい」
「ユウトさんも東に行けば、いくらでも喧嘩できますよ」
ティア殿下とシノアが仲裁に入って、ズィルバーとユウトも仲裁されたことに気を悪くし、気分が悪いまま、馬車に乗り込んだ。
「やれやれ」
「全く……」
((困った彼氏だ、こと))
つい、頭を抑えたくなる彼女たち。
「お互い、皇家からの勅命を全うしましょう」
「そうですね。私も今回の勅命にはなにか理由がありそうですから」
十二歳にして、その考えを持っていることに、一介の大人から見れば、予想以上の成長に思えて仕方なかった。
彼らは馬車に乗って、ライヒ大帝国東部、パーフィス公爵領に向けて、出発した。
馬車が東に向かっていく最中、荷物車に乗っているズィルバーたちとユウトたちはリズミカルに揺られる車輪に徐々に眠気が入り始めた。
現に――
「スゥ~」
「んぅ~」
コテンと眠ってしまったズィルバーとユウト。
ここ最近、ズィルバーは日常業務と自己鍛錬。ユウトは勉学と日常業務、自己鍛錬に明け暮れていたので、疲れが身体中に溜まっていたのか。馬車の揺れで眠気に誘われ、そのまま眠りについてしまった。
だが、眠った位置が悪かった。
ズィルバーとユウトも枕みたいな柔らかな部位を枕にして眠ってしまった。
しかも、その柔らかな部位が膝で。恋している女の子の膝だったら、話の内容が大きく変わる。
膝を枕にされたティア殿下とシノア。
眠っているズィルバーとユウトを起こそうにも日頃、頑張っている彼らにささやかな休息あるいは褒美を与えないと過労で倒れてしまいそうだと思い、甘んじて膝の上で寝かせてあげることにした。
なお、双方の馬車で同じようなことが起きている。
親衛隊が手配した馬車は二台。
白銀の黄昏が手配した馬車は四台。
うち一台はズィルバーとティア殿下が乗っている。
残りの三台にシューテルたち選出されたメンバーが乗っている。
親衛隊の方は一台にユウトとシノアが乗り、もう一台にメリナ、ミバル、ヨーイチ、シーホが乗っている。
ユウトとシノアが二人なのはキララとノイが人の姿になるかもしれないと思って、二人にしたのだ。というのが建前で本音はユウトとシノアがいちゃつくのを見たくなかったというのが本音である。
白銀の黄昏でも同じでズィルバーとティア殿下が婚約者云々関係なく、仲睦まじい空気に当てられたくなかったからだ。
気持ちよさそうに寝息を立てているユウト。
しかも、シノアの膝の上で寝息を立てていた。
「全く、ユウトさんったら」
呆れた声を漏らすも本心では膝の上で寝られたことに喜んでいた。
「可愛らしい寝顔ですね」
微笑むシノアだが、ユウトの耳穴を覗く。
耳穴を覗けば、汚れが溜まっていることに気づく。
「耳が汚れていますね」
(髪を梳かしたりしてもいいんですが、へたに時間を潰すよりはお手入れをした方がいいですね)
にへらぁ~、とシノアは口角を上げた後、隊服の内ポケットに忍ばせておいた耳かき棒を取り出す。
なぜ、耳かき棒があるのかは御法度としておこう。
へたに知ろうとすれば、彼女の鎌に追いかけられるのが目に見えている。
実のところ、シノアがユウトの耳を掃除しようとしたとき、シーホとミバルから
『シノア。ユウトの奥さんだな』
『お似合いじゃん』
笑いながら、からかった。
それが付箋に触れたのかシノアは鎌を手に笑顔を向けたまま、シーホとミバルを追いかけ回した。
『逃げないでくださいよ。軌道が逸れるじゃないですか』
『笑顔を浮かべながら言うな!』
『アハハハッ。笑顔を浮かべてるなんて、シーホさん。面白い冗談を言うんですね』
『その笑い、不気味だぞ!?』
危機に瀕しているシーホとミバルは全速力でシノアから逃げおおせる鬼ごっこがあったとか、なかったとか。
「では、耳を触らせてもらいますねぇ~」
寝息を立てるユウトの耳を触り始める。
普段、他人に触らせる場所じゃないのに、ユウトはシノアに耳を触られても、身体に力を入れず、シノアに身を預けていた。
一見して、バカだから気がついていない場合もある。だが、ユウトは眠っていても敵意を向けられたら、飛び起きれるほどの危機感を持ち合わせている。
そんな彼がシノアに身を預けられるということは心から信頼し合っていることになる。
「じゃあ、始めますね」
入り口の浅いところに耳かき棒を入れる。最小限の力でカリカリと耳壁を掻かれると思わず、むずがゆくなる。
「気持ちよさそうですね」
シノアは笑顔を浮かべながら、カリカリ、ガサガサ……、と的確な力加減で耳かき棒を操っていく。
片方の耳が終われば、ユウトはゴロン、と寝相を変える。
上半身だけ寝相を変えているのだが、シノアが片耳の掃除を終えたのが分かっているのか分かってないのかは分からないが、心が通じ合っているのは確かに思えた。
ユウトはシノアだからこそ、安眠できると思いつつ、シノアからの耳かきを受けていた。
「痛くない、ですね」
(こんなに気持ちよさそうに寝ちゃって可愛いけど、かっこよく思えちゃいます)
耳掃除を終えたところで、ユウトは寝相を変えて、シノアに顔を見える体勢で寝息を立てている。
シノアは耳かき棒を隊服の内ポケットに忍ばせて、ユウトの髪を梳いた。
「いつも誘ってくれてありがとうございます、ユウトさん」
若き親衛隊隊員の睦み事の幕が閉じた。
ユウトとシノアの契約精霊であるキララとノイからしたら、
『『仲良すぎない/か?』』
思わず、疑ってしまうレベルだった。
同様にズィルバーも同じようにティア殿下の膝の上でスゥ~スゥ~、と規則正しい寝息を立てていた。
白銀の黄昏の女子制服はスカートとショートパンツの二種類がある。
基本、動きやすさを選ぶならショートパンツを、見た目を選ぶならスカートをという独自の判断で決めている。
ティア殿下は動きやすさを中心に考えているため、ショートパンツを穿いている。
そのため、素肌が比較的に多い。
ショートパンツを穿いているので、必然的にズィルバーはティア殿下の地肌に頭を乗せることになる。
(ティアの肌はすべすべで柔らかいな)
下心丸出しの言葉を胸中で吐いてるが、それは思っていることであって、下心など微塵もなかった。
むしろ、安心しきっていると考えた方が自然だ。
白銀の黄昏の総帥であるズィルバーにとって、外での休息では周りを警戒しながらの休息となるため、十分に休まらないことが比較的多い。
なにより、ヘルトは千年前からずっと、戦い続けているため、充実な安息などほとんどなかった。
故に、ティア殿下の膝の上で眠ることが充分な安息であることを理性より本能が理解していた。
規則正しい寝息を立てるズィルバーを見て、ティア殿下は思わず、髪を梳いた。
その際、耳穴が汚れていることに気づき、前もって用意しておいたタオルを水と火属性の魔法で温め、制服の内ポケットに忍ばせておいた耳かき棒を取り出す。
「まずは――」
温めたタオルでズィルバーの耳を按摩し始める。ズィルバーは気持ちよさそうに身動ぐ。
(外側の汚れは取れたわね。じゃあ、次は)
彼女は耳かき棒をズィルバーの耳に入れる。
とはいっても、最初は浅いところから。
(浅いところはあまり汚れていないね。少し奥の方に)
カリカリと、耳かき棒で中の耳垢が取れていく。
ズィルバーは気持ちがいいのか、頬がほんのり赤くしていた。
ティア殿下は少しずつ、耳の奥の方に耳かき棒を入れていき、耳垢を取っていく。
(最近、デートしてくれることが多かったけど、身近なことはしていなかったわね。基本、ズィルバー一人で解決してるから)
ズィルバーは必要最低限だが、炊事洗濯という家事能力がある。
これは、千年前で培った経験と癖によるものである。
しかし、ティア殿下にはかんけいないことである。
(最近、耳掃除をしていないから。けっこう、とれた)
ティア殿下は胸中で呟きながら、掃除をしていく。
(大きいのがとれたし。梵天で……)
モフモフ、と細かい耳垢を取っていく。
ズィルバーは起きているのか、いないのか分からないが、ゴロン、と寝相を変える。
上半身を変えているだけだが、ズィルバーとティア殿下の間で心が通じ合っているのは確かに思えた。
反対の耳も、按摩をしてから掃除をし始める。
(こっちは奥の方に溜まっているわね)
カリカリ、と耳垢を取っていけば、ガサガサ、と心地よい音が響いていく。
そんな中でも、ズィルバーはほんのり顔を赤くしたままだった。
ティア殿下は彼を気にせず進めていく。
(頑固な垢がありますね)
ティア殿下は少しずつ前屈みになっていく。
(もう取れないわね)
どんどん前屈みになっていく。そうするとズィルバーの顔にふに、とティア殿下の胸が当たった。
ティア殿下は十二歳の成長盛りだ。
だが、胸部の成長に関しては同学年では早い部類だと思われる。現に、時折、ズィルバーが彼女の胸部に視線を向けてしまうことがあった。
ティア殿下も彼の視線に気づいていて、心の中で喜んでいた。
(ズィルバーも男なのね)
と――。
故に柔らかな感触がズィルバーに押し寄せてくる。
(あっ、剥がれた)
ふにふに、と、さらに強く押しつけられている。
ガサ、という音とともに大きめな耳垢がとれた。
(やっと取れた。これで大丈夫ね)
胸中で漏らして、ティア殿下は起き上がる。それと同時に柔らかな感触も離れる。
(後は……)
仕上げの掃除を済ませたら、ティア殿下は耳かき棒を制服の内ポケットに仕舞い込み、タオルを窓の縁に置いた。
ティア殿下はズィルバーの銀髪を梳かしながら
「気持ちよかったかな」
(私の想いを理解してくれると嬉しいんだけどなぁ~)
痴女まがいなことをしたが、ティア殿下はズィルバーに恋してることに変わりなかった。
耳掃除を終えたところで、ズィルバーは寝相を戻して、そのまま寝息を立てる。
ティア殿下はズィルバーの銀髪を梳かしながら、タオルで寝汗とか拭ってあげていた。
白銀の黄昏内での睦み事の幕がこうして閉じた。
ズィルバーに契約しているレインは小鳥の姿でズィルバーとティア殿下の睦み合いを見ていた。
『ヘルトとレイを見ている気分ね』
千年前の一幕と重ねてしまった。
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