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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
幕間1~謁見と吸血鬼族と調査~
148/296

英雄らを調査する者たち。

今回のでこの章は終わりです。

来週から次章です。

 第二帝都、皇宮内裏にて。

 藍色の髪をした少女は皇帝と謁見をしていた。

「此度は正門を守護し、時間を稼いだと聞く。見事だった」

「ありがたいお言葉です。皇帝陛下」

「だが、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は貴殿のことを知られてしまったそうだな」

「申し訳ございません。陛下が内密に“聖霊機関(デ・セカンム)”に入れさせていただいたのに」

 悲痛な面持ちをする彼女。

「構わぬ。いずれ、知られてしまうことだ。さて、話を戻すが、貴殿には次の任務を与える」

「次の任務、ですか?」

 彼女は皇帝の言葉に呆気ない態度を取ってしまう。

 ハッ、となって、姿勢を正す彼女。

「よい。無理に姿勢を正すな。こっちに非があると思われてしまう。気を楽にしろ」

「は、はい……!」

「とは言っても、貴殿はまだ幼い。十一歳になったばかりだ。気を楽にしろとは言えぬな。さて、次なる任務は第二帝都支部への潜入だ」

「誰かを監視するのですか?」

 彼女は皇帝の意図を汲み取り、話のおおよそを理解する。

「理解が早くて助かる。正直なところ、第二帝都支部には若き出世頭がいるのは存じているな」

「はい。ユウト大佐とシノア中佐ですね」

「正確に言えば、シノア部隊だが、概ね、その通りだ。貴殿にはシノア部隊の監視を任命する」

「それはなぜでしょうか」

 彼女は不躾ながらに、監視する理由を尋ねる。

「それは話せぬ。だが、貴殿には聖霊機関(デ・セカンム)では得られるものを見てきてほしい」

「今の組織では見られないものを、ですか?」

「うむ。シノア部隊はティアのところと真っ向から相手取っても生還するほどタフな若造だ。貴殿にとっても白銀の黄昏シルバリック・リコフォスから学べるところがある。大いに学べると余はそう思っている」

「は、はぁ~、分かりました」

 素っ気ないどころか皇帝の言い分を噛み砕くのに時間をかけてしまい、今度こそ、呆気にとられてしまった少女。

「ガイルズに通して、準備を整え、向かうがいい。メリナ」

「……はッ、!? 謹んで承ります!!」

 藍色の髪をした少女――メリナは気を立て直して、皇帝に感謝の言葉を述べて、礼を尽くした。


 という記憶が新しい。

 メリナは転属という名目で第二帝都支部の親衛隊に異動となった。

 支部長に挨拶に来た際もシンからは事情を聞いていないのに、目的を言い当てられたときは驚きこそしたけど、彼も彼でシノア部隊の成長ぶりには理由があると踏んで、彼からの調査するように頼まれてしまった。

 シンの弁では――

「今や、親衛隊でも、シノア部隊は注目の的なのさ。何しろ、“魔王傭兵団”の“三災厄王”を討ち取り、ユウトくんに限っては“魔王”カイに消えることのない傷を与えた。しかも、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と一戦交えて、生還したとなれば、いよいよ、秘密があってもおかしくない。だから、キミには、監視をしてもらいたい。大丈夫。ここにいる大人たちは大体、事情を察しているから」

 述べた。

 メリナとしては――。

(周りから気づかれている時点でどうかと思います)

 内心、ゲンナリしていた。


「――と言うわけで、こいつがお前たちの部隊に配属されるメリナだ。一度、面識があるよな、お前ら?」

「なにが、と言うわけだ! 説明しろ、グレン!」

「はっ、ガキのテメェに話す義理なんざねぇんだよ」

「なんだと!!」

 グルルと吼え上がるユウト。

 グレンはユウトを窘めつつ、メリナをシノア部隊に迎え入れるよう促した。

「大佐の指示なら仕方ありません。目的は()()()()()()()ですよね?」

 シノアは的確にメリナが配属される理由を言い当てる。

「――ッ!」

 これには、グレンも配属されるメリナも動揺を禁じ得ない。

「だって、簡単じゃないですか。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と渡り合えたと私とユウトさん。大精霊ともいえるキララさんとノイさんを契約している私とユウトさんを皇宮が黙って見過ごすなんてあり得ません。スパイを送るのが常識です。まあ、でも、白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフには無意味だと思いますよ。リーダーもそうですが、ティアとハルナは意外と鋭い感性を持っていますから」

「ああ、それは俺も言えるぞ。ズィルバーとカズの感覚は鋭いし。“闘気”の練度も高い。スパイが誰か見抜いて、()()()()()()()()()可能性だってあるぞ」

「…………」

 メリナは“聖霊機関(デ・セカンム)”が調査する対象が予想以上に強敵だったのを再認識する。

「っていうか、あの吸血鬼族(ヴァンパイヤ)をどうする気だ? あのままにしておくと、仲間に奪い返されるぞ」

 ユウトの詰問にグレンは頭を掻きながら事情を話す。

「本部から護送隊を派遣される。聖霊機関(デ・セカンム)も護衛につく」

「大丈夫なのか? あいつらの実力は相手にした俺から言わせると、あの二人は少数精鋭でいかないと仲間に奪われるぞ。ありゃ、マジモンの怪物だ」

 ユウトが惜しげもなく、アシュラとクルルを賞賛する。

 ヨーイチとシーホが思わず、唖然としてしまうほどに――。

「悪いか。あれは俺も相当な時間をかけて鍛えないと辿り着けない領域にいる」

「そうですね。ユウトさんの言うとおり、あの相手は私たちでは相手にならないでしょう」

 シノアも同意する声をあげる。

「ですが、ここで話していても、納得しませんし。せっかくですから、新メンバーに入るなら、お互いに実力を把握しましょう」

 シノアの提案にメリナは呆気にとられるもニヤッ、と口角を上げる。

「力で物事を測った方がいいってわけね」

「口で納得するより、ぶつかり合った方が納得のしがいがあるでしょう?」

 ニコッと微笑むシノア。

 だが、目が笑っておらず、本気で叩き潰すつもりでいた。

「奇遇ですね。私も口だけの人族(ヒューマン)は嫌いなんです」

 メリナも目が笑っていない笑顔を浮かべる。

 バチバチ、と火花を散らしている彼女たちに、ミバルは宥めつかせようとするも、グレンも

「おーおー、やりたければやれやれ。口だけ達者なガキは俺も嫌いなんでな。だが、シノア。メリナは知っての通り、天使族(エンジェル)だぞ。舐めてかかれば、お前が返り討ちに遭うだけだ」

「大丈夫ですよ。天使族(エンジェル)ことは知っていますし。堕天使族(ダークエンジェル)とは既に戦っていますから」

(どのような種族なのかも。ティアから聞きましたし)

 シノアはメリナが天使族(エンジェル)なのも、強敵なのも知っている。

 故に、勝つ気でいる姿勢が、メリナにとって、憎らしくも思えた。

「その吠え面……二度と言えなくしてあげる」

「上官への態度を教えてあげます」

 フフッと、不敵な笑みを浮かべるシノアとメリナ。

 剣呑な空気を前にガタガタ、と震え上がっているミバル、ヨーイチ、シーホ。

 ユウトだけは

「いいなー」

 と、戦いたかったとふて腐れた。

(ったく、ユウトの奴。どっかの誰からに似て。生粋の戦闘狂(バトルジャンキー)だな)

 グレンは、ここにはいないズィルバーとカズに似てきたと胸中で告げた。


 親衛隊支部の広場。いや、そこは訓練場といったほうが正しい。

 ここでは、多くの隊員が腕を上げるために日々、鍛錬している。

 今回はシノアとメリナの真剣勝負のために他の隊員はおらず、代わりに第二帝都支部でも実力のある者たちが観戦に来ていた。

「アハハハッ、皆さん、暇なんですね」

「死ね」

 シノアの皮肉もグレンの暴言とも取れる言葉に一蹴される。しかし、その一蹴も彼女は笑うだけだった。

 メリナからすれば、

(なに、ここの連中……もしかして、親衛隊って、こんだけおちゃらけているの)

 疑心を持ち始める。

「さて、そろそろ始めるぞ」

 グレンは頭を掻きながら、試合開始の号令を上げる。

 シノアとメリナが対峙する。

 シノアは鎌一本だが、メリナは銃器ならぬ一メル越えの鉄塊だ。

 メリナは鉄塊から銃器だけを取りだして、残りは虚空へと消えてしまう。

 シノアはそれを注意深く観察していた。

(魔法による隠蔽。いえ、転送に近いですね。天使族(エンジェル)特有、といった方がよさそうですね)

 シノアは観察の後、分析をして判断した。

(最初から全力でいった方がよさそうですね。まあ、最初から全力ですけど)

 両者が構えたのと同時にグレンは壁の端まで移動したところで、

「じゃあ、試合開始!」

 合図をあげた。


 試合開始の合図が出たところで、メリナは銃器を片手にシノアへ弾幕を撃つつもりでいたが――。

 突如、シノアの姿が消えた。

 一見、消えたように見えるが、メリナの目には見えているのか後ろに跳んで、回避した。

 すると、メリナがいた場所に鎌が一閃されていた。

(速い……)

(今の、見えてましたね)

 メリナは驚く中、シノアはメリナの知覚能力の高さを収集する。

 シノアの左眼には竜胆色の魔力が洩れており、鎌の刃にも竜胆色の雷が帯びていた。

「…………」

 距離を取ったメリナはシノアの左眼と鎌を見る。

(あれが、噂で聞いた。摩訶不思議な力……どうやら、彼女の意志の力で自在に扱っている感じですね)

 メリナもメリナで分析をしていたが、初手を取るつもりでいたのが、とられてしまい、内心、焦っている。

 故に――

(まずは、動きを封じる)

 彼女が持つ銃器が火を吹く。

 轟かせる銃声。

 地面に散乱し始める薬莢。

 そして、数の暴力、力の暴力ともとれる弾幕がシノアに迫り来る。

 通常なら、挽肉にされてもおかしくない。

 武器の特徴をよく理解しているといえる。

 距離も十分にあるので、メリナの優位は揺るがない。

 ただし、シノアがただの女の子でなければの話だが。

 シノアは一瞬にして、弾幕を一掃し、駆けていく。

「……!」

(あれだけの弾幕を一掃しますか!? このままでは間合いを詰められてしまう)

 危機感を募らせて、メリナは銃器をさらに火を吹かせる。

 火を吹かせ続けなければ、シノアに懐に入り込まれて、やられてしまうのを彼女の本能が分かっていた。

 駆けていくシノア。

 弾幕がなにでできているのか分析して驚愕した。

「すごいですね。“闘気”だけでできた弾丸ですか。“闘気”を別のなにかに換算させる技術。さすが、帝国技術局の技術ですね」

(しかも、天使族(エンジェル)だからこその総量とも言えます。通常、あれだけの弾幕を撃ち続ければ、とっくにガス欠になってもおかしくありません。それなのに、撃ち続けられるのは、ひとえに天使族(エンジェル)だからではありません。死してもなお、守り通すという意志と心がある。美しいと思ってしまいます)

「負けられませんね」

 シノアは足に力を入れて、駆ける速さをあげた。

「……!」

 メリナの懐に入ったところで、彼女は鎌を振るおうとした。


 鎌を振るおうとしたシノアだが、“静の闘気”による先読みで胴体に強烈な一撃が叩き込まれ、薙ぎ払われるのが見えたので、フゥ~ッと息を吐き、全身の力を抜いて、仰向けになるかのように倒れ込む。

 すると、倒れ込む彼女の鼻先になにかが素通りした。

 視線を転じてみれば、メリナの手には剣が握られていた。

 メリナの身長にそぐわない長大な剣。

 無骨であり、裁断する気まんまん。癖のある剣であった。

 しかし、メリナの顔つきは驚きを隠せていない。

 アシュラとクルルの敗戦をきっかけに敵が近づいてきた際の対処法も編み出していた。

 その対処法ですら、シノアはあっさりと躱されてしまって、自信を失いかける。

「ほっ、と」

 シノアは体勢を立て直すかのように宙返りをするように起き上がり、距離を取った。

「いやいや、今のはまずいと思いましたよ。学習能力の高さに感服いたします」

「私としては初めての対処法を見破られて、ショックなんですけど」

 ムッと嫉妬するメリナ。

「そこは“闘気”の熟練度と言っておきましょう。“静の闘気”も“動の闘気”も()()()()()()()()()()()ので」

「それなり、ね――」

 メリナはジーッと睨みつけてくる。

(よく言いますね。それなりどころか本部の将官クラス並じゃない。戦闘経験が私より上。“炎王”センを倒したというのはうそではなさそうですね)

 睨みつけながらも、シノアのことを認めていた。

(こうなったら、出し惜しみしない方がよろしいですね)

 メリナは剣を構えて、全身から“闘気”を放出させる。

 シノアもメリナが白兵戦での勝負になるのを判断して、“動の闘気”を放出させた。


 長大な剣を振るうメリナと鎌を振るうシノア。

 一撃、二撃、三撃が交じり合う。

 両者の剣圧が壁際まで届いている。

 ビリビリ、と剣圧を感じているユウトたち。

 そんな中、ユウトはシノアの動きを見ていた。

(やけにシノア。本気じゃないか。それほどの強敵なのか?)

 彼はメリナがそこまでの実力者にも思えなかった。

 そんな彼にキララが指摘する。

天使族(エンジェル)は良くも悪くも力を隠す習性がある」

「身を守るため?」

 ユウトが理由を言いつつ訊ねる。

「その通り。天使族(エンジェル)は良くも悪くも力がわかりやすく、目立つ。故に翼を隠して戦う傾向があるため、本気で戦えないの」

「なんとも不憫というか可哀想な種族だな」

「こればっかりはなんとも言えないわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。天使族(エンジェル)の間でも他種族を認めたくないという傾向がある。常に独りぼっちっていうのが特徴よ」

「身の内に秘める怒りや哀しみを打ち明かせれないってわけか。やるせないが、こればっかりは俺たちでどうこうできる問題じゃないな」

 ユウトは悲観的になる。

「何を言うの? バカのユウトが難しいことを考えるじゃない。余計なお節介だと思って、あんたの精神を彼女にぶつけてみなさい。下手したら、コロ、と折れるかもよ」

「いくら、何でも、そうなるとは思えないけどな」

 ユウトはタラリ、と汗を流しつつ、苦笑いを浮かべていた。


 両者の凶器は少々規格外であった。

 かたや、二.五メル超える長大な剣。

 かたや、二メルを超える鎌。

 持ち上げて突き出す。

 人の筋力では、それを可能であろう重量を、両者は自在に操っている。

 だが、それでも、実戦経験においての差が出始めていた。

「ッ……!」

「やぁッ――!」

 鮮血が舞い始めるメリナ。

 しかし、血を流したとしても、シュウ~、と傷が治癒されていく。

 シノアは傷が治癒されていくのを見て、目を細める。

天使族(エンジェル)特有でしょうか。後で、ノイさんに聞いた方がいいですね)

 彼女の中でエンジェルの特徴を再確認する必要があった。

天使族(エンジェル)は基本、力を隠す習性だ。傷が勝手に治癒されるのもエンジェルの特徴だが、一部だ。というより、その人の個性によって特異体質になる』

(異能、ということでしょうか。白銀の黄昏シルバリック・リコフォスの総帥と同じで――)

 シノアは脳内でノイと会話する。

『能力が違うけど、同じ性質だと思ってくれ。あと、治癒と言えば、最近、キミも見ているだろう』

 ノイに言われて、勝手に治癒される種族を思いだそうとするシノア。

 その間にメリナが斬りかかるも彼女は“静の闘気”の先読みで回避と鎌でさばいていた。

 剣戟を鎌でさばきつつ、シノアはノイの言葉に関連する種族を思いだそうとする。

(治癒で、私が最近、見ている種族――)

 彼女は巧みに鎌を操って、縦横無尽ともいえるメリナの剣戟をさばき続ける。

「ッ――!」

 ここで、シノアはメリナの特徴にいた種族を思いだす。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)――!?)

『そう。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)だ。彼らは特殊な人族(ヒューマン)。つまり、紋章を持つ人族(ヒューマン)のみに強く警戒する。それは傷の回復が遅くなるからだ。ただ、紋章の力に頼りすぎるな。必要なのは――』

「己の力です、ね!」

 と、シノアはメリナの剣筋を弾き返した。

「――!」

 これには、メリナも驚愕する。

(今まで、さばき続けていただけなのに、弾き返すなんて――。それに、急に動きと雰囲気が変わった)

 メリナはこれ以上に集中力を高めようとしたところで――

「え――」

 突如、なにかを受けて、吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされる衝撃にメリナは訓練場の壁に叩きつけられた。

「か、ハッ――」

 壁に叩きつけられて、肺に溜まっていた空気が吐き出された。

 ゲホゲホ、と激しく咳き込みながら、メリナはシノアを見る。

 バリバリ、とシノアの左脚には雷が帯びていた。

 おそらく、蹴ったのだろうというのが誰もが見てわかる。

 ただ、唯一の違いがあるとすれば、()()()()()()()()()()()()とは思っていなかったことだ。

「うーん。今のは“動の闘気”との併用だな」

(“動の闘気”をより大きく纏わせ、竜胆色の雷を用いて、蹴りの衝撃を飛ばしたってところか)

「――にしても、彼女は頑丈だな」

 ユウトは咳き込んでいたメリナが立ち上がった。

「当然よ。天使族(エンジェル)はあらゆる環境に適応するだけの力を持つ種族。精霊に近しい力を持っているわ」

「っていうことは、あの治癒も精霊に近しい力ってわけか」

(そういや、シノアが傭兵団の“炎王”センも精霊に近しい力を持っていたって言っていたな。彼女の場合は治癒に特化しているという感じか)

「でも、回復が遅いな」

「あの雷の影響よ。あの雷が他の力を阻害してるのよ。アシュラとクルルの回復が遅かったでしょう」

「そういや、ズィルバーから受けた傷がやけに生々しかったな」

 ユウトはズィルバーにやられたアシュラとクルルを思いだす。彼らの傷は生々しく、ズィルバーの攻撃が予想以上に鋭かったのだと推測する。

「紋章の力を持つ人族(ヒューマン)の攻撃は吸血鬼族(ヴァンパイヤ)にとって毒でしかない。それを努々忘れるなよ」

「おう」

 ユウトはキララの教えを肝に銘じた。

 そして、シノアとメリナの攻防も過激化していく。

 剣戟がぶつかり合う中で、シノアとメリナ。

 両者は武器術での技量は互角と見てとれた。

 ただし、唯一の欠点があるとすれば、メリナは未だに“闘気”の扱い方を知らない。

 名前は知っていても、扱い方の心得を知らないのだ。

 今まで、自前の回復力と頑丈な身体で耐えきることでタフさを見せていた。

 なので、最初からメリナにとって、この勝負は圧倒的に不利だった。

 シノアの鎌が唸りを上げる。

 メリナの剣はこれを弾き返す。

 限界を超えた斬り合いは、いつ果てるともなく続いていく。

 だが、決着の瞬間はすぐそこまで迫っている。

 メリナの四肢が僅かでも、その性能を落としたとき――

 シノアの蹴りは、全霊をもって、敵の真芯を撃ち抜くだろう。


 限界を超えた斬り合い。

 果てるともなく続く剣戟の応酬も終幕を迎える。

「ぐっ――!?」

 メリナの顔つきに苦痛を歪ませる。

(どうして――)

 彼女は自分の剣戟がシノアに対応され、あわよくば、反撃まで仕掛けてくる。

(私には、いったい、なにが足りないの――!?)

 彼女は今、長大な剣を振るっていても、心に焦りが生まれていた。

 メリナは今、武器の力と種族としての力のみで戦っている。

 対して、シノアは人族(ヒューマン)だ。

 全種族の中で数が多く、力が弱い生き物だ。

 だけど、技術的な進歩が早いとされているのと同時に未知数な可能性を秘めた種族でもあった。

 故に、メリナは心に焦りが生まれてしまったのだ。

「ん?」

 シノアも鎌を通じて、メリナの焦りを感じとり、“静の闘気”で彼女の心を読む。

(焦っていますね。ここまで相手ができ、追い込まれてしまう理由。そして、自分がどうして、()()()()()()()()()()()()()も――)

「はあ、全く……私の部隊は問題児ばかりが集まりますね」

『自分も十分、問題児なのを理解しているか?』

(ノイさんは黙ってください)

 頭の中に語りかけてくるノイに対して、毒を吐いたシノア。

『まあ、いい。助けてやれ。()()()()()()()()って奴をな』

(ええ。隊員の一人。悩みを聞けなくて、誰がリーダーですか!)

 動きが鈍くなったメリナにシノアの強烈な蹴りが炸裂する。

 強烈な蹴りがメリナに直撃する。

 まるで、磔になった罪人のように――。

 訓練場の壁に叩きつけられたところで、彼女の口から息が吐き出されて、ドサッ、と地面に倒れ伏した。

 審判していたグレンも勝負が終わったと判断し――

「この勝負はシノア大佐の勝利とする」

 勝負を終える合図を言ったところで、シノアは鎌を手にしたまま、倒れ込んだメリナに近づいた。

 ゲホゲホ、と咳き込んでいるメリナ。

 先の一撃を受けてもまだ気を失っていなかった。

「呆れました。頑丈なのですね。でも、見直しました」

 呆れ半分、賞賛半分の声を放つ。

 その場にしゃがみ込んだシノアは腕を立てて、起き上がろうとするメリナの言葉を投げる。

「自分が弱いと思っているうちは、あなたは私には勝てません」

「なっ――」

「というより、自分を疑り、闇に囚われているうちは前に進めませんよ」

「あなたに私のなにが分かるんですか!?」

 メリナはシノアに心を見透かされて、声を荒立てる。

「分かりません。知る気もありませんし。ですが、弱音を吐けるだけの友人を持った方がいいですよ。もう、あなたは私の部下ですから」

 シノアはそれだけ言って、訓練場をあとにした。

 ギリッ、と歯を食いしばらせるメリナ。

 そんな彼女に手を差し伸べるヨーイチ。

「立てる?」

「…………」

 メリナは無言でヨーイチの手を取り、立ち上がる。

「ごめんね、シノアには僕から言っておくから」

「けっこうです。負けた理由ぐらい()()()()()()()()()()()()()()から」

 涙ぐみながら、彼女は訓練場をあとにした。


 残されたメンバー全員、集まってメリナを見る。

「何やら、訳ありのようだな」

「心になにか掬っているよな」

「シノアも見抜いていたようだが、あの言い方じゃあ、ちょっとな」

「まあ、自分から貧乏くじを引いたようなものだ。明日から一緒に行動するメンバー。時間をかけて仲良くしていけばいい」

 と、ユウトたちの間で方針を決めた。




 その日の夜。

 メリナは一人。

 第二帝都支部でもっとも人気が来ない場所にいた。

「手酷くやられたようだな」

「なによ、私に文句を言いにきたわけ?」

 彼女は暗闇へ向けて、棘のある嫌みを吐いた。

「いや、文句など言うつもりはない。親衛隊にも強者がいると実感した。それと、これは指示だ。ユウト大佐とシノア中佐の接触は」

「分かっています」

 メリナはシノアに言われた言葉が頭の中から消えずに残っている。

(私のなにが足りないの――)

 焦りと憤りを走っていた。

 暗闇にいる誰かもメリナが取り乱していることが肌で、“静の闘気”で感じとった。

「対象からなんて言われたかは知らないが、随分と取り乱しているな」

「ッ――!? なんで分かったの?」

「あ? “闘気”を知らないのか。ああ、聖霊機関(デ・セカンム)に入ってすぐに実戦投入されたから知らなくて当然か。だったら、手酷くやられた理由なんざ簡単じゃないか。“闘気”を習得しておけ。これから先は種族の力だけで勝てん。“闘気”を習得すれば、()()()()()()かもな」

「え――?」

 メリナはシノアに勝てる手段があると聞き、呆気にとられてしまう。

「まあ、でも、自分の力を疑っているようじゃあ、一生身につかない。精々、自分の力ぐらいは認めろ。もしくは蟠りを吐き出してしまいな。その方が楽になる」

「説教ですか、それ?」

 ギロッと睨みつけてくるメリナ。

「いや、先輩としてのアドバイスだ。とにかく、自分のすべきことと平行して強くなれ、嬢ちゃん。そうじゃなきゃ、白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフにも相手にならないぞ」

 警告を入れて、相手は暗闇の中に消え失せた。

 残ったメリナは壁に身体を預けて、言葉を吐露した。

「蟠りを吐き出す……そんなのできたら、苦労できません。私は吸血鬼族(ヴァンパイヤ)を許せない。この手で吸血鬼族(ヴァンパイヤ)を根絶やしにする! じゃなきゃ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 メリナに渦巻くのは怒りと憎しみ、そして、恐怖であった。

 目の前で大事なものを失いたくない恐怖が渦巻いていた。

 だから、自分の力しか信用できず、他人の力を信用していなかった。

 故に、シノアに負けてしまったのが悔しかった。自分が持ってないのを持っている彼女が許せなかった。

「見ていなさい。いつか、絶対に泣かしてやる! あの吠え面を言えなくしてやる!」

 怒りを闘争心に変えて、メリナは己を強くすることを誓った。

 ただ、その()()()()()()()()()()()()()()()()に――。

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