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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
幕間1~謁見と吸血鬼族と調査~
145/296

英雄。かつての旧友と刃を交える。

この章もあと4話で終わり。

次章は東部に物語が進みます。

 藍色の髪をした少女を連れて行ったのを見届けたズィルバーたち。

「さて、相手はたった二人のようだが……」

 ユウトは顔を知っているが上に甘く見ている。

「油断するな。見た目は俺たち同い年に見えても、第三始祖だ。舐めてかかると、こっちが全滅しかねない」

「見た目は僕たちと同い年なのにな」

 カズは見た目こそ、自分らと同年代と思っているような口ぶりだ。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は基本、そんなものだ。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)になってしまった者は()()()()()()()()()()()()()()からな」

「不老、不死……」

「なった時から永遠そのままって……」

 信じられないとティア殿下とハルナ殿下は動揺を隠せずにいる。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は死ねない種族。魔族(ゾロスタ)の一つ。首を飛ばされようが、胴体が両断されようが、少し時間が経てば、元に戻ってしまう。だが、特殊な人族(ヒューマン)だけが唯一、対抗できる」

「特殊な人族(ヒューマン)?」

 シノアの聞き返しにズィルバーは右手の甲に輝く紋章を見せる。

「キミたちの左手にある紋章。それが、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)に対して、唯一無二の対抗手段。見ろ。俺が殺した吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は元に戻らないどころか、絶命しているだろう。カズが氷の弾幕で穿たれた奴らも傷の回復が遅くなっているのがわかるだろう」

 ズィルバーに促されて、カズたちも足元に倒れている吸血鬼族(ヴァンパイヤ)を見る。

 胴体を両断され、首が切り裂かされた吸血鬼族(ヴァンパイヤ)から生命の鼓動が感じられない。

 “静の闘気”を使わなくても、この目ではっきりとわかる。

 続いて、カズが放った氷の弾幕で穿たれた吸血鬼族(ヴァンパイヤ)を見る。

 頭や心臓を穿たれていないが、身体の復元があまり進んでいない。

 数ミリメル程度か復元していなかった。

「言われてみれば、カズにやられた連中に動揺してるわね」

「うん。確かに」

「しかも、今、倒れてる奴らと逃げ出した奴らは、あの二人が()()()()()()()()()()()()()()()吸血鬼族(ヴァンパイヤ)だな」

「血を与えられた? どういうこと、ズィルバー」

 カズの問いにズィルバーは顔を向けずに答えた。

「これは、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の強さの序列に関係する。第二始祖と第三始祖、第四始祖、第五始祖あたりは親が第一始祖にあたる。第六から第九始祖ぐらいが、第一始祖の孫。第十始祖からは曾孫と。第一始祖の血が濃い吸血鬼族(ヴァンパイヤ)ほど強く、逆に薄くなっていくと弱くなっていく。その証拠にカズが放った氷の弾幕を、あの二人は払った程度で粉砕しただろう。つまり、あの二人の実力は只者じゃないということだ」

(まあ、それでも、あいつらの服装と、倒れている奴らの服装や装備は違うがな)

「それと、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)も戦い方がバラバラだ。特に第三始祖あたりは使う武器がバラバラだ。剣やら弓やら鞭やら、素手で戦う奴もいる。ただし、共通なのが、カイより強いってことだ。舐めてかかるなってのは、そういうこと。最初から全力でいけ」

 ズィルバーが最終忠告をしたら、彼は持つ剣――聖剣(クラウ・ソラス)に空色の雷が纏っていく。

「なるほど」

 カズはズィルバーの話を聞き、フゥ~ッと息を吐いた。

 すると、左目から紺碧の魔力が洩れだし、左手にある紋章が紺碧に輝きだし、神槍(ブリューナク)に紺碧の雷が纏われていく。

「ふーん。だから、“ドラグル島”で出会ったときから警戒していたのか」

 ユウトは二本の魔剣を抜き、左目から若紫色の魔力が洩れだし、左手にある紋章が若紫色に輝きだし、二本の魔剣――“布都御魂”と“蓮華雹泉”に雷が帯びていく。

 ティア殿下、ハルナ殿下、シノアも左目と左手にある紋章からそれぞれの色の魔力と雷が洩れだす。

 洩れだす魔力光にアシュラとクルルは誰が、どの魔力光なのか理解する。

「思った通り、僕と剣を交えた彼が守護神(アテナ)……」

「あの氷の弾幕を放った小僧が海洋神(ポセイドン)……だが、問題はそこじゃない」

「ああ」

 アシュラとクルルはティア殿下とハルナ殿下を見る。

「黒髪の女が女神(ヘラ)で――」

「栗色の女が祭祀神(ヘスティア)、か」

 クルルの声音が少しずつであるが、低く、冷たくなっていく。

 同時に全身から“闘気”が放出し、漲っていく。

「忌々しい……()()()()()()か」

 クルルから発せられる言葉。

 それは重く、深く、暗く、恐ろしく冷たい。

 まるで、深海にいるような感覚に陥る。

『……――』

 ズィルバーたちもクルルが発せられる言葉を聞いた途端、深海にいる感覚に陥る。

 特に、ティア殿下とハルナ殿下の場合は――

「な、に……」

「心臓を、掴まれた、感覚……」

 真なる神の加護を解放しているのに、ガタガタと全身が震え上がっていた。

(特定の人物に向けて、放たれる殺気……その場合、基本、その力と同時に過去の因縁が付きまとう)

 ズィルバーは恐怖しているであろうティア殿下とハルナ殿下を見つつ、カズと共に彼女たちを守護するかの如く、前に出る。

 それすらも、クルルの怒りの炎に油を注ぐ行為であった。

「ふざ、けん、な……」

 空気が変わっていく。

 今まではピリピリこそすれど、人間離れした戦士なら耐えきってしまえるほどだったのが、今や、大気すらも恐怖するほどの圧力が押し寄せてきた。

「「「ッ……――!?」」」

(この圧力……)

(ここまで距離が離れているのに……)

(途轍もない集中力に、冷徹ともいえる殺気……)

 クルルが発せられる冷徹なまでも殺気が第二帝都を囲む城壁に亀裂を入れさせる。

 この殺気にはカズもユウトもシノアですら、身体を強張らせてしまう。

 だが、ズィルバーだけはクルルに向けて、同質同等の殺気を叩きつける。

「ぐっ……!?」

 この場一帯に二つの殺気がぶつかり合っている。

 ビリビリと空気が震動し、ズィルバーとクルルが睨み合っているのがわかる。

 ズィルバーがクルルと同様な殺気を出す理由は理解できる。

 ティア殿下を傷つけたからだ。

 たったそれだけの理由。されど、その理由は大きく、重要な理由だった。

 アシュラも、ズィルバーが放つ殺気を肌で感じとった。

 感じとったことで、もはや、彼の中ではズィルバーは()であることを認めざるを得なかった。

(もう、あいつが彼だってことは間違えない。判断材料があるとかないとか関係ない。クルルに対して、あんな殺気を放てるのは……奴しかいない――)

 アシュラの中で、ズィルバーが()()()であることに変わりなかった。

 フゥ~ッと息を吐き、クルルの前に出る形でズィルバーが放つ圧力ともいえる殺気を一身に受ける。

 剣の鋒を彼に向けた。

「クルルに殺気を向ける奴は僕が許さない」

「兄さん……」

「だったら、ティアに殺気を向ける奴は俺も許せないな」

 クルルに向けていた殺気がアシュラへと放ち、アシュラもズィルバーへ殺気を放った。

 殺気がぶつかり合う度に、空気が震動し、ビリビリと肌に張り付いてくる。

「くっ……」

「マジか……」

(ズィルバー……なんて、殺気を放っていやがる)

(近づいたと思っていたが、甘かった。ズィルバーは未だに俺らよりも数段上だ)

 カズとユウトはズィルバーを目標に鍛え、戦い続けてきたが、未だに、その差は埋まらない。

 だが、差を埋めていく要因が分かっているだけでも、収穫だと思っているカズとユウト。

(いずれ、追い抜いてやる)

(最強は――)

((俺/僕だ――!!))

 意気込んでいる二人の想いが“闘気”となってビンビンに感じとっていたズィルバー。

(負けず嫌いだな。だが、嫌いじゃない)

 自分を乗り越えようとしていく二人の意気込みを感じ取って、フッと思わず、笑みを零してしまった。

(だが……)

 ズィルバーは聖剣(クラウ・ソラス)の鋒をアシュラに向ける。

 剣を突きつけただけで、殺気に指向性がもち、ズィルバーとアシュラのみに向けられていた。

(かつては、互いに言葉を話し合えば、分かり合えると思っていたが――)

(今や、それは夢のまた夢。互いに守るべき者がある以上……)

((負けるわけにはいかない!!))

 足に力を入れて、地を蹴ったズィルバーとアシュラ。

 千年前は言葉を交え、話し合い、心が通じ合えば、気持ちが通じ合えると願っていた。

 しかし、それも遙か彼方の記憶。

 種族的な理念、互いの信念、がぶつかり合い、刃を交えなければ、分かり合えないと悟ったときから、彼らは戦う道を選んだ。

 人智を超える二つの剣閃が衝突した途端、この一帯に充満していた濃密な殺気が一斉に吹き飛んだ。


 ズィルバーとアシュラ。

 二人がぶつかり合えば、必然的にクルルとティア殿下たちの意識も別の敵に向けられる。

 交錯するクルルとティア殿下たちの視線。

 否、クルルは最初からティア殿下のみに視線を向けていた。

 彼女の狙いは最初からティア殿下のみであり、残りは眼中になかった。

 ティア殿下もクルルの意識が自分に向けられていると悟った瞬間、地を蹴って、カズたちから離れるように移動し始めた。

 ティア殿下が正門からカズたちから離れるように地を駆けていくのをクルルが見逃すはずがない。

 彼女の意識はティア殿下のみに向けられていた。

 ティア殿下とクルルに因縁はない。

 だが、ティア殿下が持つ真なる神の加護――女神(ヘラ)の加護だけはクルルの中では許せないものだった。

(あの女と同じ力を持つ人族(ヒューマン)……確実に殺す……)

「同じ轍は踏みたくない!」

 クルルの姿が消え失せた。

 いや、消え失せたのではない。

「ッ――!!」

 ティア殿下の頭の中に映像が流れ込んでくる。

(まずい――!)

 “静の闘気”を用いても躱しきれないと判断した彼女はすぐさま、二本の魔剣を抜き、刀身に“動の闘気”を纏わせて、クルルの爪を受け止めにかかった。

 クルルが振るう爪。

 いや、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)が振るう爪は敵を軽々と寸断できるほどの威力を秘めている。

 吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は力も速さも全種族の中で最高クラスと言ってもいい。

 ただし、神の名を冠するキララやノイのような神級クラスの精霊とは手を出さない。

 それを抜きにしても、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は個としての性能が非常に高い

。要するに、単純明快ということだ。

 その中でクルルが振るう爪は大気すらも引き裂き、余波で衝撃波を発生し、どれだけ修練をした戦士でも耐えきることができない。

 ただし、真なる神の加護を持つ人族(ヒューマン)のみを例外とする。

 彼女が振るった爪をティア殿下は二本の魔剣で受け止めた。

 だが、前述通りに余波で衝撃波が発生し、ビリビリと大気が震動し、全身の骨が軋ませるほどの威力を秘めていた。

「くっ……!?」

 さすがのティア殿下も、あまりの威力に顔を歪ませる。

(なんて、力しているのよ!?)

 胸中で盛大に悪態をついた。

 だが、同時にクルルも驚きを隠せずにいる。

「なぜ、反応できた」

(今の一撃は修練を積んだ戦士でも視認できないほどの速度だったんだぞ)

 ギリッと歯を食いしばる。

 だが、ティア殿下の左眼から洩れる白百合色の魔力を見て、悟った。

「そうか、()()()のか。()()()()()()()()()のかを――」

「ええ、不意に脳裏に流れ込んできたのよ。私の頭を潰そうとする凶爪が、ね!」

 ティア殿下は力を込めて、魔剣を振るい、クルルを弾き飛ばした。

 クルルも弾き飛ばされた勢いを利用し、距離を取れば、すぐさま、追撃をかける。

「ッ――!!」

 ティア殿下は両の瞳を通して、映像が流れ込んでくる。

(見える)

 流れ込んだ映像と同時に“静の闘気”を使用し、必要最小限の動きで躱していく。

 クルルが振るう爪の応酬。

 彼女は攻撃こそ最大の防御でも言うかのように――。いや、攻めあるのみと考えていた。

 故にティア殿下を殺そうと爪を振るい続けている。

 クルルの戦闘スタイルは徒手格闘。つまり、体術というシンプルな戦法だった。

 吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の膂力を合わさり、その威力は化物中の化物であった。

 そんな攻撃の応酬をティア殿下は回避に専念していた。

 いや、回避に専念せざるを得なかった。

(すごい)

 彼女は苦悶な表情を浮かべている中、胸中では感心していた。

(洗練された動きなのに、絡め手を交えて、私を誘導している。これが経験値の差……だからこそ、楽しくなってくる)

 ティア殿下の顔が苦悶から強敵との戦える闘争本能が滲み出る笑みを浮かべた。

「ッ!」

(こいつ、笑っている。この状況で笑っているだと……似てる……()()()と同じ――)

 クルルはティア殿下を、とある女を重ねた。

(油断できない)

 と、悟った瞬間、手を強く握り、血を滲ませる。

「――、――!」

 ティア殿下の脳裏に映像が過ぎった。

 大地を、岩盤すらも引き裂く一撃を――。

(範囲が広い……なら――)

 彼女は刀身に“動の闘気”と白百合色の雷を纏わせる。

「喰らえ!!」

 血が走る凶爪。

 クルルが振るう爪に合わせて、彼女はフゥ~ッと息を吐く。

「“水蓮流”・“闘気返し”」

 魔剣を走らせ、凶爪から放たれる一撃を、そのまま、クルルに叩き込ませる。

「ぐっ!?」

 クルルはティア殿下のカウンターをもろに受けるも数メル弾き飛ばされるだけで済んだ。

「ぐっ……ぅ……」

 逆にカウンターをしたティア殿下が痛みに顔を顰めた。

 ハアハアと多少ではあるものの荒い息を吐くクルル。

 彼女は自信のお腹を触り、痛みの度合いを感じる。

「自分の血に塗れた爪の威力がこれほどとは、な。だが――」

「ハア…ハア…」

(き、つぅ……血がついただけで、この威力……威力がありすぎて、全てをカウンターに流しきれなかった)

 ティア殿下はクルルが振るった凶爪の威力に計算がズレてしまい、カウンターに注ぎ込んだ力では受け流すことができなかった。

「しかし、驚いた」

 パッパッと土埃をはたくように姿勢を整えるクルルがぼやく。

「その()の力と“闘気”を併用してるとは――なるほど。()()()とは使い方が少し違うな」

「あの女?」

 ティア殿下はクルルの言葉に反応し、思わず聞き返してしまう。

「私は、その昔、その眼を扱う者と戦ったことがある。貴様の面を見ると、あの女の血筋だというのが嫌でもわかる」

(千年経っても、その面、その瞳……忘れることができない。血は受け継がれるとでも言うのか!  ()()!)

「貴様を殺さなければ、()()()()()を邪魔だてされることもないだろう」

 血が走る爪を立たせて、引き裂こうとしているのが見てとれる。

 ティア殿下はクルルの口々に言う『あの女』と『血筋』そして、『我らの計画』に訝しむ。

(私の力を、知っている……)

 彼女は意識こそ向けていないが、左手の甲に浮かび上がる紋章を気にしていた。

 得体の知れない力なのは理解している。だが、命を救われたのもまた事実。

(ズィルバーは知っているようだし。目の前の彼女も、この力の正体を知っている。そして、血筋と言った。少なくとも、ライヒ皇家が関わっていることは間違えない)

 数本垂れ落ちる黒髪を気にすることもなく、クルルを見続けた。


 一方、ズィルバーはアシュラと剣を交えていた。

「破ッ!」

「フッ!」

 二つの剣閃がぶつかり合い、衝撃波が生まれる。

 剣を交える度に、ズィルバーはアシュラの力量を()()()()

「へぇ~。()()()()()()()()()()()()()ものだな」

「キミこそ、あの時よりも()()()()()()()()()()()、ね!!」

 アシュラは力一杯に剣を振るって弾き飛ばした。

 ズィルバーは弾き飛ばされた反動を利用して、距離を取る。

「別人、か。それはつまり、弱くなったというわけかい?」

 皮肉じみた言い回しで問いかければ、

「誰が弱くなったって……逆だよ。あの時のキミとは思えないほど、強くなっている」

 皮肉には皮肉で答えてみせたアシュラ。

「ふーん。あっそ」

 ズィルバーは聖剣(クラウ・ソラス)に空色の雷と“動の闘気”を込め、纏わせる。

「素っ気ないな」

 アシュラは手を強く握り、血を滲ませ、刀身に血を垂らす。

 二人が同時に剣を振り上げる。

 距離が開いているのに、だ。

「ハッ!!」

「フッ!!」

 振り下ろした剣から圧が放たれる。

 放たれた圧が衝突し、数合の剣戟を見合い、衝撃波となって爆散した。

 吹き荒ぶ衝撃波を一身に浴びるズィルバーとアシュラ。

 ティア殿下とクルルとは違った戦いを繰り広げている。


 正門付近で立ち往生しているカズ、ハルナ殿下、ユウト、シノアの四人。

 彼らは完全に出遅れた。

 ズィルバーとティア殿下は完全に自分の相手を見定め、殺し合いを始めてしまった。

「あちゃー」

 カズは頭を掻きながら、神槍(ブリューナク)を肩に乗せる。

「完全に出遅れた」

「それもそうだが、ズィルバーの奴。自分から斬り合いに出やがったぞ」

「ティアも、狙いが自分だと分かった途端、私たちから離れちゃったし」

 不貞腐れるユウトとシノア。

 そんな彼らに、意外な人物が慰める。

「仕方ないでしょう。今のユウトじゃあ、アシュラとクルルにならない」

「シノアも同様だ。ここは、あの二人に任せよう」

 人型になったキララとノイが二人を慰める。

 カズとハルナ殿下からしたら、いきなりの登場に驚き、『だれ?』という心境だ。

 だが、声を発することもなく、別人が声を発した。

「ノイさん。まさか、あなたに会えるなんて!?」

 人型になったレンがノイに挨拶をする。

「僕だって、驚いてるよ。久しぶり、レン」

「お久しぶりです」

 再会の挨拶に喜び合っているレン。だが、イラッときたのか。額に筋を浮かべるキララ。

「あら、レン。私に挨拶はないの? 久しぶりの師匠よ」

「お久しぶりです。鬼騎士長(キララさん)

 レンは棒読みで言いつつ、嫌みを建前で隠した。

「嫌みを隠すとは、いい度胸ね、レン!!」

「言いたくもなりますよ。あの時代、あなたにどれほど、()()()()()()()()()()()()ことか!!」

 声を荒げるレン。

 今、ズィルバーの手元にいるレインもレンと同じことを言い放つだろう。

 レンの言い分にブチッと血管が切れた音がした。

「あら、私に文句を言いたいの? また、教育されたいのかしら?」

「いつまでもあの時と同じだと思わないでください!!」

 グルルルと唸り声を上げるレンに、目が笑っていない笑顔を向けるキララ。

 剣呑な空気になっているのをカズたちは肌で感じとる。

「ほらほら、茶番はそこまでにして。今は、戦いを見届けないと」

「「…………」」

 ノイが仲裁に入ったことで気分が霧散するレンとキララ。

「そうですね」

「教育はいつでもできるからね」

 納得し合い、気持ちを切り替えて、二つの戦いを見届ける。

 ズィルバーとアシュラ。ティア殿下とクルル。

 両者ともに、真なる神の加護と血を纏わせた死闘を繰り広げている。

 ノイはアシュラとクルルを観察して、クッと苦悶する。

「血を使っているね」

「血、ですか?」

 ノイの言葉に主のシノアが訊ねた。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は血を滲ませ、手や武器に垂らせば、攻撃の威力が増すんだ。その威力は城壁を軽々と壊せるほどに」

「城壁を!?」

 シノアは吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の情報を知らずに戦いに挑もうとしていた。

「しかも、基礎能力が比較的に高いから。修練した達人でも躱すのは難しい」

「ですが、ティアは躱していますよ」

 シノアの聞き返しにノイは理由を答える。

「彼女は目覚めた力のおかげだ」

(僕の予想が正しければ、ティア殿下(あの娘)が目覚めた真なる神の加護は女神(ヘラ)。そうじゃなければ、クルルが、あそこまで攻撃あるのみの戦い方はしない)

「あの力、ですか」

 シノアはふーんと言いながら、ティア殿下を見る。

 シノアも北での時は気にしなかったが、自分やティア殿下らが持ち始めた摩訶不思議な力。

 キララやノイといった一部の、人物しか知らない力。

 だが、それを抜きにしても、ティア殿下とクルルとでは、雲泥の差があると思われる力の差。

 それを前にして、ティア殿下はカウンター戦法をとっている。

 敵の力を最大限に利用する。自分の勝率を上げる方法を編み出している最中だ。

 しかし、ティア殿下の顔を見るに、カウンターの一手を叩き込ませる隙が得られていない。

「ティアが、防戦一方になってる」

「当然と言えば、当然だな。俺たち人族(ヒューマン)吸血鬼族(ヴァンパイヤ)との身体能力の差は歴然。経験値の差でも歴然のはず……よく躱してると思うぞ」

 カズも力の差は歴然なのは百も承知。

 彼女も分かりきっていた上でクルルの意識を自分に集中させたのだと理解させられる。

「なにもできない自分が不甲斐ない」

 悔しがるカズにハルナ殿下もギュッと拳を強く握った。

「悔しいなら、強くなればいいじゃない」

 レンがカズを慰める。

「レン」

「確かに、カズはカイよりも強い。確実にメランがいた道を踏み入った」

「初代様の道……」

「それは、ユウトも同じよ」

 キララもユウトの頭を撫でながら話し出す。

「今のユウトも英傑の道を歩み出した」

「英傑の、道……」

「今のあなたたちは英傑という殻を破った段階。ティアって娘も同じよ。だけど、ズィルバーって子は既に、英傑の道の深奥にいるわ」

「「…………」」

 キララが漏らした言葉にカズとユウトは顔を顰める。

(やはり――)

(ズィルバーは僕らよりも遙か先にいるのか)

 二人はズィルバーとの差を改めて、認識する。

「だが、それでも――」

「いつかは追い抜いてやる」

 俄然、やる気を見せるカズとユウト。

 主の心の持ち方にレンとキララもビックリする。

「めげないね」

「それでこそ、ユウトだ」

 褒めてくる。

 ハルナ殿下とシノアもカズとユウトが前向きじゃないと心配で堪らなかった。


 何合も交わる剣閃。

 互いに距離を取ったズィルバーとアシュラ。

 ズィルバーは“静の闘気”でティア殿下の様子を確認する。

(だいぶ、苦戦しているな)

 意識をティア殿下に向けているが、アシュラは隙を突くような真似をしなかった。

(この状況、あの時と似ているな)

 彼は、今の状況を、千年前の記憶と重ねた。

(あの時、彼は彼女のことを気にかけて、戦いに集中できていなかった。今回も同じようなことをしたら、僕は許さないぞ!!)

 アシュラは怒気が混じった“闘気”を垂れ流した。

 ズィルバーも、この状況が、かつての自分と同じなのを気づいていた。

(あの時と同じだな。全く、未だに引き摺るとは未練がましいな)

『何かあったかは知らないけど、未練がましくていいんじゃない』

 レインが指摘してくる。

 彼女の指摘に彼は反論すらしなかった。

 むしろ、未練がましい自分を恥じるどころか嬉しそうに笑みを浮かべた。

「後悔するよりマシか」

 ズィルバーは聖剣(クラウ・ソラス)を放り捨てる。

 捨てた剣は光りだし、人の姿になった。

 人型になったレインにズィルバーは頼みごとをする。

「レイン。ティアのサポートに入れ。今の彼女じゃあ、分が悪いからな」

「いいけど、ズィルバーはどうするのよ」

「俺のことは気にするな。それに――」

 ズィルバーは詠唱を紡ぎ、三本の魔剣を腰に納める。

「こいつで応戦する。キミの加護が働いているからな。多少の怪我は問題ない」

「そう。じゃあ、私から言えることは一つ。死なないでよ」

「もちろん」

 元気よく微笑むズィルバーを見て、レインは翼をはためかせて、ティア殿下のもとへと急いだ。

 彼女の許へ急ぐレインから視界を外したズィルバー。

 彼は腰に収める魔剣――“虹竜”と“閻魔”を抜き放つ。

 抜き放った剣に“動の闘気”と空色の雷を纏わせる。

「待たせたな」

「得物を変えたところで、僕に勝てると思っているのか?」

「思っているよ。キミ如きにレインの力を借りるまでもない。力と技量でねじ伏せてみせよう」

「この野郎――泣かせてやる!!」

 その言葉を皮切りに、ズィルバーとアシュラは姿を消した。

 否、姿を消したからではない。前方に移動していただけだ。

 だが、あまりの速さと爆発的な膂力と“闘気”を使用したことので消えたと錯覚してしまった。


 木霊する剣戟音。


 カズたちの目でもズィルバーとアシュラの動きを捉えきれていない。

「は、速い――」

「目で追いきれねぇ」

「“静の闘気”を使用しているのに……」

「――補足しきれません」

 彼らはズィルバーとアシュラの動きに目と“闘気”が追いついていなかった。

 対して、キララとノイはズィルバーの技量の高さに目を見張った。

「これは驚いた。アシュラと渡り合うとは……」

「しかも、あの剣の運び方に、体裁き……」

(やはり、あなたなのね……)

「あの剣筋……」

(キミなんだね……)

((ヘルト!))

 キララとノイはアシュラと対峙している少年、ズィルバーこそが、ライヒ大帝国の伝説となったヘルトそのものだと。


 数合も交える剣戟。

「くっ……!」

「ハァ――!!」

 膂力は互角に等しい。

 だが、優劣があった。それは技量だ。

 二撃、四撃、六撃と、二本の魔剣が振るわれる剣戟。

 響き渡る斬鉄同士がぶつかり合う。

 血が舞う。

 身体を抉るほどの傷じゃなくても、血が舞った。

 だが、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)とは良くも悪くも不死身の怪物。

 ()()()()()()()()()だけの損傷では瞬く間に復元する。

 アシュラにとって、鋭いだけの剣戟は取るに足らない涼風だ。

 しかし、ズィルバーが振るう剣戟だけは違う。

 掠り傷程度の裂傷が未だに留まり続けている。

 つぅ~ッと垂れ落ちる血を舐めながら、アシュラは目を覚ました。

「相変わらず、攻めきれない」

 怒りや憎しみなどではなく、再び、剣を交える喜びによる目覚めだ。

「俺の剣筋をそこまで凌ぐとは、アシュラも腕を上げたと思うよ」

「何から何まで上から目線。僕は未だにキミより下だと思っているのか?」

(舐めてるなら、その首を斬り飛ばしてやる!)

 言外に舐め腐ってるのかと言い放つ。

「昔だったらともかく、今の俺は成長中だからね。()()()()()()()()()()()()と思うけど?」

「それが、舐め腐っているんだよ!!」

 アシュラは声を荒げ、ズィルバーに接近する。

 だが――

「ッ――!!!?」

 接近する段階で、悪寒が走り、急停止した後、すぐさま、後ろに跳んだ。

「ほぅー」

 ズィルバーは感心の声をあげる。

 ハアハアと息を吐くアシュラ。

 頭に血が上っていたと己を恥じていた。

(危なかった……完全に()()()()()()()()()()()

 アシュラはあと、数歩間合いに入っていたら、八つ裂きに遭っていたと想像した。

 たらりと汗を流す。

「化物めぇ……」

 思わず、悪態を吐き散らした。

 ズィルバーはアシュラが後ろに跳んで回避したのを呆気にとられていた。いや、感心していた。

(あのアシュラが冷静に立ち返ったか。俺の“制空剣界(せいくうけんかい)”をギリギリで回避した。悪寒が走ったのかな。どうやら、あの時とは同じ手は通じないと考えた方がいいな)

 ズィルバーはアシュラの成長と力量を再認識し、心を静めて、“静の闘気”を深く、重く入る。


「ッ……!?」

(空気が変わった。――だが、見えるよ。キミの“制空剣界(せいくうけんかい)”が……)

「僕に同じ手が通じると思うな」

 アシュラも心を静め、“静の闘気”を使用する。ズィルバーほどではなくても、深く重く入っていた。

「へぇ~」

 制空剣界(せいくうけんかい)。つまり、間合いを形成されていて、大きさを見てとれたズィルバーは思わず、歓喜の声を零す。

制空剣界(せいくうけんかい)を身に付けたのか。人族(ヒューマン)の技術は嫌いじゃなかったのかい」

「この千年。僕はキミを殺すために技術を磨いてきた。時には、人族(ヒューマン)が編み出した剣術を身に付けるのも厭わない。キミを殺すためなら!!」

 アシュラの覚悟の叫びにを聞き、ズィルバーは好戦的な笑みを浮かべる。

「いいね。あの時には感じられなかった鋭さが見えるよ」

(千年前とは同じ結果にはならなさそうだ)

「アシュラ――」

 ズィルバーは全身から空色の雷を迸らせる。

「俺を失望させるなよ」

 バリバリと空気が震動し、肌を張り付かせた。

 空気が張り付くのをアシュラは感じとる。

(空気が変わった。あの時には感じとれなかった空気だ)

 アシュラの記憶から呼び起こされるのは、千年前、死闘したときの記憶だ。

 あの時はクルルが()()の相手をしていて、アシュラがズィルバー(ヘルト)の相手をしていた。

 結果を言えば、痛み分けだが、アシュラは今でも覚えていた。

(奴は本気でやっていなかった)

 ということを――。

 屈辱的だったのは事実だけど、同時に自分の実力不足も否めなかった。

 人族(ヒューマン)なんて、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の膂力だけで殺せると高をくくっていたのを忘れずにいる。

 その結果が本気で相手にされずに痛み分けとなった。

 人族(ヒューマン)は力で劣っていようが、技術と数の暴力で圧倒する。それが、人族(ヒューマン)の戦い方だとアシュラは知っていた。

 だが、人族(ヒューマン)の中でも、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)に渡り合える膂力を持つ者がいるのを知った。

 痛み分けとは言え、アシュラにとってみれば、屈辱的な敗北であることに変わりない。

 なので、彼は“打倒ヘルト”を掲げて、己を強くすることを誓った。

 吸血鬼族(ヴァンパイヤ)たる膂力を扱いこなすだけの身体能力と技術を身に付けるために――。

 その結果が、これだ。

 ズィルバーが纏う空気が変わって、アシュラは今まで以上に集中力を高めた。

(すごい“闘気”……下手に突っ込むと返り討ちに遭う。だけど、“水蓮流”の一つ、“制空剣界(せいくうけんかい)”は近づけば近づくほど、自分の安全地帯が広がる)

 アシュラはこれまでに身に付けた技術を生かすための戦闘方法を編み出す。

 対して、ズィルバーは“静の闘気”でアシュラの考えることを読み切る。

(“制空剣界(せいくうけんかい)”の性質を利用するか。どうやら、技の本質を十全に理解している。だが――)

「だが、甘い考えだと言うのを教えてやろう」

 彼は魔剣を強く握り、地を蹴って駆けていく。

「ッ――!?」

 近づいてくる彼にアシュラは“制空剣界(せいくうけんかい)”を維持しながら、応戦する。

 互いの“制空剣界(せいくうけんかい)”の領域が触れると剣戟が木霊する。

 ガキンッ、ガキンッ

 永劫にも思えるほどの剣戟音が木霊する。

「フッ…! ハッ…!」

「ぐぅ……!?」

 何十、何百と打ち合いながら、ズィルバーはアシュラの間合いに入り込んでくる。

(臆さず入り込んできている……なぜ――)

 疑り、警戒心を高めているアシュラ。

「まさか……」

 ここで、彼はズィルバーの狙いに気づいた。

 ズィルバーはフッと口角を上げた。

「今更、気づいたところで遅い!」

 魔剣――“虹竜”に“動の闘気”と空色の雷を大きく纏わせる。

「ハッ!!」

 斬撃を飛ばすかの如く、剣を振るう。

「ッ――!?」

 身の危険を感じたアシュラは体勢を大きく崩す形で強烈な一撃を躱した。いや、回避せざるを得なかった。

 なぜなら、強烈な一撃はアシュラの間合いである“制空剣界(せいくうけんかい)”を易々と貫き、乱してしまったからだ。

「なっ――!?」

(“制空剣界(せいくうけんかい)”が崩された……!?)

 アシュラは自身が築いた“制空剣界(せいくうけんかい)”を崩されるとは思っておらず、動揺している。

 フゥ~ッと息を吐いて、ズィルバーは説明する。

「“制空剣界(せいくうけんかい)”同士がぶつかり合えば、比較的安全地帯となる。だが、“制空剣界(せいくうけんかい)”とて、技にすぎない。技は使()()()()()だと思うが」

 彼の言い分でアシュラは理解した。

「そういうことか」

(大きくするじゃなく、小さくしてリーチを短くした。しかも、強固にしたから。僕の“制空剣界(せいくうけんかい)”を打ち破ったのか!!)

 理由が分かれば、対応が取れるも同時にズィルバーの技量に恐れ入った。

(それを勘と才能だけじゃなく、理屈で完成させたとしたら、やはり、奴は……)

「化物め」

 呟いた。


 ズィルバーとアシュラの戦いを横目に見ていたティア殿下。

 今、彼女はクルルと戦っているのだが、途中でレインが乱入してくれたことで、幾ばくかの余裕が出てきた。

 なので、ズィルバーとアシュラの戦いを横目で見ることができた。

「ふーん」

 彼女はズィルバーの技量の高さに驚くよりも感心していた。

(ズィルバーって、まだ手の内を隠していたんだ。――にしても、“静の闘気”いえ水蓮流の一つ“制空剣界(せいくうけんかい)”はそんな風に使えるのね)

「こんな風かしら」

 ティア殿下はフゥ~ッと息を吐いて、心を落ち着かせる。

 凪のように。さざ波のように。

 レインがはためかせた旋風に足を止められるクルル。

「チッ……」

(さすがに神級クラスの精霊相手だと、キツイ……だが、あの小娘を殺すには、爪だけで――)

 ここで、クルルはティア殿下の変化を肌で感じとる。

「これは……」

 同時に、レインも彼女の変化に気づいた。

「ティアちゃん……」

 レインは心配そうに見ていた。

(今のティアちゃん。レイ様にそっくり……)

 ティア殿下を[女神レイ]と重ねてしまった。

 リーンと魔剣が凪いでる。

 ティア殿下は“天羽々斬”を鞘に納めて、“蛮竜”一本で構えている。

「こんな感じかな」

 彼女は一息はいたところで、彼女を包み込む間合いが形成された。

 その間合いは一定の実力者なら見えてしまうけども、間合いを知るのと同時に相手の力量を大体把握することができる。

(剣先から拳一個分広い間合いだが……しっかり、“制空剣界(せいくうけんかい)”を築かれている。広くすることよりも、狭くて強固な間合いにした)

 クルルは目線を横に向ける。

 向けた先はズィルバーだ。

 ズィルバーの“制空剣界(せいくうけんかい)”の使い方を見ていた。

(見て、覚えたのか。だが――)

「見様見真似で覚えた技ほど、崩れやすいものはないぞ!」

 クルルは地を蹴って、ティア殿下に接近した。

 彼女に迫ってくるクルルを見たレインは声を飛ばす。

「ティアちゃん! そっちに向かったわよ!」

「はい!」

 ティア殿下は迫り来るクルルに剣一本で立ち向かった。

 もう一度、言うがクルルの凶爪は大気を引き裂くほどの威力を秘めている。

 その凶爪を前にティア殿下は臆すことなく、剣一本で弾いて見せた。

 バチン。

 自慢の爪を弾かれたくルルは目を大きく見開かせる。

(弾いた!? 私の爪を――)

 クルルはすぐさま、後ろに退き、手を開いたり閉じたりを繰り返して、感触を確認する。

 異常がないのを確認したら、彼女は相手の評価を変えた。

(あの女と同じで、見たものを正直に受け止める素直さ。そして、それを裏付ける膨大な経験と技量が、今の彼女を作り上げているってわけ)

 フッと、クルルは思わず、笑ってしまった。

(どうやら、あの女と重ねすぎたようだ)

「頭に血が上りすぎていたようだ」

 自分の恥辱を受け止め、冷静さを取り戻してしまった。

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