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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
幕間1~謁見と吸血鬼族と調査~
143/296

英雄。皇帝と二度目の謁見をする。

 デートから数日の時が経過した。

 この数日の間に、カズとハルナ殿下が第二帝都に到着した。

 本来なら、貴族街にある屋敷に寝泊まりするところだが、第二帝都の貴族街は、もはや、形骸化されたと言われてもおかしくない無人街。

 理由を述べるとしたら、白銀の黄昏シルバリック・リコフォスと“獅子盗賊団”との抗争で崩落した無人の屋敷が増えたからだ。

 皇帝も無人の屋敷を取り残しておくのも忍びないので、中央を任せているファーレン公爵家に一任させ、取り壊され、更地になった屋敷が多くなった。

 なんか、更地になった土地をファーレン公爵家の持ち物にするという話でズィルバーの父――アーヴリルも快く引き受けてくれた。

 彼からすれば、跡取りのズィルバーがヤンチャすぎるのも困り者と考え得ると思っていたが、エルダとヒルデが手紙とのやり取りで、彼なりに頑張っていると知り、手出ししないことにしたのだ。


 よって、カズとハルナ殿下の寝泊まりする場所が“ティーターン学園”、白銀の黄昏シルバリック・リコフォス本部となった。

 二人が到着した日。

 ズィルバーとティア殿下が部屋まで案内することになったのだが、廊下を歩き回る事務担当のメンバーから巡回するメンバー同士で鍛錬しているのを見る二人。

「さすが、風紀を守る委員会だけあって、腕っ節ばかりのメンバーばかりを集めていないんだな」

 カズは事務を請け負ってるメンバーを見て、感心の声が上がる。

「そりゃ。うちもそれなりにデカくなった。デカくなれば、その分、事務処理も大変だよ。事務のことをしたいっていう理由で委員会を志願する生徒も多い。最終的には俺とティアが目を通すことになっているが、大抵は事務の子たちだけで済ませる仕事を回している。彼女の頑張り次第で、少しずつできる幅を増やしていく方針にしてあるけどな」

「へぇ~」

 カズはズィルバーの口から委員会の方針を聞き、ハルナ殿下もメンバー募集の際、選考基準や教育方針を考える指標となった。

「それにしても、鍛錬所が広めに取ってあるのね」

「風紀委員は基本、腕っ節が必要でしょう。常に自分を鍛えるためにも、鍛錬所は広めに作ってある。もちろん、保健室も多めに作ってあるし。風呂場も完備してある。資金の出所は宝物庫にある財宝からやりくりしているけど」

「学園を通じて、やってる部分もあるが、北の一件を踏まえて、金の流れを見る人も必要だなと感じた」

「それって……委員会の枠から外れていない」

「もちろん。外れてはいる。これは風紀委員としてではなく、白銀の黄昏シルバリック・リコフォスとして金の流れを把握する必要があると感じただけだ。幸い、金にケチくさいメンバーもいるから。そのメンバーを中心に任せてみようと思っている」

 組織基盤と方針がガッチリしている白銀の黄昏シルバリック・リコフォスを見習い、カズの漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフも今後の発展のために学べるところから学んでいこうという考えを持ち始めた。

「なるほど、なるほど。こんな風に組織基盤と方針を決めているのか」

 と、カズはブツブツと考えごとをしながら、部屋に案内されていた。

「ねえ、カズ。何やら、ブツブツ言い始めたけど……」

「実は、漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフは今、今後のことを踏まえて、組織強化に動こうって考えになって……今、メンバー補充から各々の質の向上、委員会としての指針、漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフとしての方針がまだ決まっていないのよ。あと、誰かさんのお人好しさで、諸侯への謝礼金を送ってるから。その他諸々、急務なのよ」

「組織強化は長い目で見れば、問題ないし。メンバー補充も私的な理由以外かつ意欲的な生徒や不良児の力を生かせる場所にするのもいいと思う」

白銀の黄昏シルバリック・リコフォスもそうなの?」

「もちろん。第二帝都もバカみたいに広いし。町中に詳しいメンバーを迎え入れているわ。あと、謝礼金は送っといた方がいいわ。レムア家に対する信頼関係を築けるし。カズへの株価が上がるから」

「ティア……言ってることが大人じみてるよ」

 ハルナ殿下からすれば、ティア殿下の方が大人じみていた。

 二人とも、同じ皇女なのに、どこで差がついたという印象である。

「今はレムア公爵家も急務だし。漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフとしても、“蒼銀城(ブラオブルグ)”だけじゃなく、北方全体の治安改善も必要でしょう。でも、そういうのは時間が解決してくれるから。焦らずに自分のペースで進めればいいんじゃない。今の北方における裏情勢は漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフによる一強だと思うから」

「言われてみると、そうね」

 ティア殿下の言葉にハルナ殿下も納得しようがある。

「ハルナに言っておくけど、メンバーの増強は学園側からも押しつけてくるときがあるから、気をつけて」

「どうして?」

「どこにでもいるでしょう。“問題児”や“不良児”って。大抵、風紀委員会に押しつけられるのよ。学園からの頼みで」

「えぇー。それはいやなんだけど……」

「こっちもいやよ。ただでさえ、ズィルバーは()()されかけたんだから」

「穏やかじゃないね」

「本当よ。学園にも事情を尋ねたけど、答えてくれなかったから。姉様に頼んで、解決した次第、今は白銀の黄昏シルバリック・リコフォスのメンバーとして動いてくれるけど、私たちが卒業したら、どうなるのかしら?」

 ティア殿下はいろんな意味で悩みの種は尽きなかった。

「それは、その時に考えればいいじゃない。今回のことで、そっちでも学べることがあったんだと思えば――」

「それもそうね」

 肩を竦めるティア殿下。そんな彼女を思わず、同情してしまうハルナ殿下。

「お互いに気苦労に尽きないね」

「惚れた男が、そういう人だからね」

 と、笑い合った。


 翌日。

 朝食を済ませて、制服に着替えたズィルバー、ティア殿下、カズ、ハルナ殿下の四人。

 学園の正門を出たところで、迎えの馬車が到着した。

 そして、彼らの護衛に馳せ参じたのが――。

「俺らの護衛とは、キミらも出世したものだね」

「僕らの護衛に一部隊だけとは舐められたものかな」

 皮肉じみた言葉を漏らすズィルバーとカズの二人。

「うるせぇな。護衛してもらえるだけのありがたみを感じたら、どうなんだ。おい?」

 二人の皮肉を、ユウトが挑発で言い返してくる。

「そうさせてもらうとするよ。護衛任務。よろしく頼む」

「超出世頭が護衛なら、僕も願ったり叶ったりだ」

 ズィルバーとカズは馬車に乗り込み、椅子に座り込む。

 彼ら三人の仲の悪さにティア殿下とハルナ殿下は肩を落とし、追随する形で馬車に乗り込んだ。

「ケッ。馬車に乗り込む様も優雅なものだ。さすが、公爵公子だな」

 ユウトは最後の最後で皮肉な言葉を言い放ち、一行は皇宮内裏へと進み始めた。




 ズィルバーたちが皇宮内裏へ向かっている最中、ライヒ大帝国全体。

 特に、裏社会における勢力図が大きくというほどではないが、変化が起こり始めていた。

 要因としてはいくつかある。

 一つは“獅子盗賊団”の撤退。

 一つは“魔王傭兵団”と“大食らいの悪魔団”による混成部隊の撤退。

 そして、最たる要因は“魔王傭兵団”の完全崩壊。

 これらの要因が国中で広がり、勢力図に変化を与えた。

 特に、北方に関していえば、“魔王傭兵団”が陥落したことで、漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフという新参者が一歩リードという状況だ。

 中央に関していえば、既に白銀の黄昏シルバリック・リコフォスの名が通り始めたので、第二帝都においてはそれなりに有名になった。


 “魔王傭兵団”の陥落という情報は一ヶ月前とはいえ、国の端まで浸透するのは、それなりに時間を要する。

 故に、各地方における裏社会のトップの耳に入るのも時間がかかったと言えよう。

 東部では――。

「あ゛ぁ゛!! カイが死んだァア!!」

「確かな情報で……」

「どこの何奴に殺されたんだ……!!」

 声を荒げる“獅子盗賊団”提督――ヴァシキ・P・クシャトリヤ。


 西部では――。

「どこの馬の骨に殺されたんだい!!? カイの奴を殺したのは!!!」

「あいつらだぜ、母さん。あの怪物を殺したのは!!!」

「ああ、覚えていろ公爵家のガキ風情が……いや、覚えていろ“黄昏”――!!!」

 怒りを爆発させ、怒鳴り散らす“大食らいの悪魔団”女王――リンネン・F・メリオダス。


 南部では――。

「えれぇことになったものだぜ」

「どうする、親分?」

「ハッ。鼻っ柱は一人前な小僧共だ。こっちもこっちで鼻ったれ小僧と面倒なことになってるからな。しばらく、見ていようぜ」

 静観する気構えを見せる“ホワイトホエールファミリー”大親分――エドワード・T・ウェールズ。


 そして、とある地下では――。

「そう。“魔王傭兵団”が陥落したの」

「はい。アシュラとクルルが実際、現地に赴き、判明しました」

「あそこは、いい取引相手だったのに。でもいいわ。他と取引をすれば、穴埋めはできるんでしょう」

「北は無理でも、他の地方なら可能かと」

「そう――にしても、“地獄の門”が復活しましたか」

「アシュラとクルルの報告によれば、海洋神(ポセイドン)()()()()()()()()()()()()が目覚めたとのこと」

「そう。しかも、報告によれば、ヘルトの魂が転生されたとか」

「確かな情報ではありませんが、軍神(アレス)守護神(アテナ)の加護の残滓があったのなら、おそらく……ついでとなりますが、“ドラグル島”にて。ノイとキララと接触、発見しました。その際、契約者であろう少年少女と交戦。その中に冥府神(ハデス)乙女神(アフロディーテ)の真なる加護を持つ者を判明しました」

「あら、あの2人が人族(ヒューマン)に契約を……せんねんもたてば、いろいろと変わりますか」

「いかがなさいますか?」

「しばらくは放っておきましょう。ここ数年、この国は変化が起き続けています。我々の相手はライヒ皇家と五大公爵家のみ。ああ、皇族親衛隊にいる加護持ちも対象でした。休息を兼ねて、アシュラとクルルに中央に回ってもらいましょう」

「御意」

 ある吸血鬼族(ヴァンパイヤ)が椅子に座る吸血鬼族(ヴァンパイヤ)から命令をいただいた。

 後にそれが、聖霊機関(デ・セカンム)を動かせる事態になることも知らずに――。




 一行を乗せた馬車が皇宮内裏に到着したところで、四人は“静の闘気”を使わなくても、気がついてしまった。

「毎度、毎度のことだが、警備が厳重すぎませんか」

 外壁を警備している親衛隊員。

「ほんとに、父様は警戒心が高いというか。用心深いというか」

「ここまで親衛隊を動かされるとかえって、緊張しちゃいそう」

「親衛隊だけじゃないな。裏でコソコソと見ている連中がいる」

 カズは外壁を警備している親衛隊とは裏腹に物陰に潜んで、コソコソと監視している連中がいることに気づいていた。

「もしかして、皇帝とお抱え諜報機関――“聖霊機関(デ・セカンム)”か」

 カズが口にした組織機関――“聖霊機関(デ・セカンム)”。

 皇族親衛隊とは別に、皇家を守り通す組織機関。

 裏で暗躍する貴族の情報を集めたり、危険な組織への諜報活動したり、裏で生きる組織なのだが、皇家のため、国のためなら、多少の犠牲も厭わないというスタンスを持っている機関。

 なので、皇族親衛隊とは、組織ぐるみで仲が悪い。

 個人ならば問題なくても、組織としてみれば、犬猿の仲に等しい、と。

 ズィルバーもルキウスから聞いたことがある。

 身体検査を受けた後、護衛としてついてきているユウトたちに案内された場所は前回と同様に会議室であった。

 会議室は前回の謁見時とあまり変わっていない。

 天井は相も変わらず、吹き抜けており、大理石の床の中央に円卓がある。

 広大な空間を思わせる様式――部屋全体を支えるかの如く、列柱が囲むように並んでいた。

 列柱に身を隠すように立っている聖霊機関(デ・セカンム)の諜報員。

 そんな彼らの視線に晒されながら――中央に辿り着けば、上座に座る皇帝と謁見することができる。

 皇帝と対面するように座らず、ズィルバーとティア殿下。カズとハルナ殿下の二組に分かれて、椅子に座った。

 その背後でユウトたち――シノア部隊の彼らは片膝をついて頭を下げた。

 皇帝は黙したまま、組んでいた手を離し、テーブルの上に置いた。

 すると、隣に座っていたガイルズが声をあげる。

「これより、論功行賞を始める」

 沈黙が流れる会議室に、堂々とした声が隅々にまで広がった。

 椅子に座るズィルバーたち、頭を下げたユウトたちが一斉に畏まった。

「皇族親衛隊、シノア部隊。部隊長シノア、ユウト、ヨーイチ、シーホ、ミバル・サーグル、面を上げよ」

 ユウトたち五人が揃って顔を上げる。

 視線の先には、金糸銀糸をふんだんに使った貴族服を身に纏うガイルズがいた。

 その手には一枚の羊皮紙――椅子に座っているとはいえ、胸の前まであげた彼は朗々と言葉を紡ぎ始める。

「まず、其方らの階級昇進。“魔王傭兵団”との戦いにおいて、“三災厄王”を打ち倒してみせた。その功績を称え、以前、渡された内容通りに昇進させることとする」

「謹んでお受け致します」

 五人が頭を下げる。

 傍らで聞いていたズィルバーとティア殿下は胸中で息を呑む。

(ここに来て、昇進か)

(道理で隊服に変わってたわけね)

 二人もユウトたちの隊服が変わっていたことには気づいていたが、理由までは知らなかった。

「続いて、カズ・R・レムア、ハルナ・B・ライヒ、ズィルバー・R・ファーレン、ティア・B・ライヒ。“魔王傭兵団”との戦いに勝利に導いた其方らの活躍は聞き及んでいる。その功績は多大なものであり、本来なら領土を分け与えるものであるが、なにぶん、まだ幼いであるが故、傭兵団が持つ戦利品を貴殿らのものとする」

 まず、ガイルズは褒賞を口にした。

「次に、学園北方支部における全権をレムア公爵家に一任し、将来的にはカズ・R・レムアに全権を預けることとする」

「ありがたくちょうだい致します」

 カズは感謝の言葉こそすれど、内心では驚きを隠せなかった。

(僕に学園の全てを、預ける……)

「次に、ズィルバー・R・ファーレン。貴殿らは昨年、第二帝都を守った功績がある。よって、第二帝都貴族街、取り壊された土地の所有権をファーレン公爵家に一任するものとする」

「ありがたくちょうだい致します」

 ズィルバーは快く感謝の言葉を告げた。

(こうなることは予感していた。昨年、起きた事件とはいえ、仮にも第二帝都を守った身。いつかは召喚されるかと思っていたが、このタイミングで褒賞として与えたということは――)

 ズィルバーは皇帝の考えを読み切る。

(金を使わせて、経済の流れを良くすること、か。全く、強かな皇帝だ、こと……)

 内心、溜息を吐きつつも、彼は流れが来るのを待つ。

 皇帝はガイルズに目配せした。

 彼も皇帝の意図を汲み、新たな羊皮紙を取り出す。

「続いて評定を始める。議題は吸血鬼族(ヴァンパイヤ)についてだ」

 その声を皮切りに、ズィルバーとティア殿下、カズとハルナ殿下は空気を変えた。

「貴殿らは既に召喚状で知っておられると思うが、先月、我が国最西端、“ドラグル島”にて。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と遭遇し、刃を交えた。よって、我が国は吸血鬼族(ヴァンパイヤ)への対策を講じようかと思う」

 ガイルズの言葉にユウトたちも僅かばかり顔を上げる。

「親衛隊も席に座れ。此度、貴殿らを呼んだのは、この議題に対して、意見がほしいと思った次第。とりあえず、席に座れ」

 皇帝の声にユウトたちは立ち上がり、席に座る。

 全員が座ったところで皇帝は再度、声をあげる。

「意見を聞きたい。なにか申したいことがある者は前に出よ」

 皇帝の声に違和感を覚えるほど、会議室に反響する。

 誰もが強制的に耳を傾けさせられた。

(あと、一押しというところか)

 ここは、皇帝の背中を押すような――強気な人物の意見が出てきてほしい。

 そのい乗りが通じたのか定かではないが、カズが具申してきた。

「僕の意見を聞きたい」

 “魔王傭兵団”との戦いを経て、自信を持ち始めた彼が自ら声をあげた。

 それは、レムア公爵家跡取りとしてではなく、カズ自身にとって大きなへんかと言えよう。

「……ふむ。申せ」

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)だけで構成されている“血の師団ブラッディー・メイソン”。彼らは既に、“魔王傭兵団”と手引きをしていた。既に我が国の地下に潜んでいる可能性が高い。ならば、他の地方に巣くう裏社会も奴らに染まっている可能性が高いと思います」

 カズが席に座ったところで、皇帝は考え込むように目を閉じて椅子に背を預けた。

「他に意見がある者はおらぬか?」

「では、陛下。俺からも意見がございます」

 張り詰めていく空気の中、ズィルバーが立ち上がった。

「許す。申せ」

「俺もカズと同意見です。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)を相手取る場合、最低でも一個大隊並の人員で動かないといけません。下手に対策を取るより、“血の師団ブラッディー・メイソン”と関係を持っている裏組織を潰していく方が得策だと思います」

 皇帝が頷いた。

 続きを促しているのだろう。ズィルバーは言葉を紡いだ。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)が表に出てきたのは、ひとえに“魔王傭兵団”が潰されたことにある。ならば、各地方にいる膿を掃除させてからの方が良いかと思います。自ずと向こうから動きだすと思いますので」

「ふむ……静観すべきと。仮に、地方に巣くう裏組織を潰したとして。頂点を巡ってつぶし合うことは明白だと思うが」

「そこは地方の問題と言えましょう。下手に皇家が関わると他の貴族が企てる可能性だってあります。なので、地方の問題は地方で片付ければいいんです。現に北方は“魔王傭兵団”を潰した漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフの知名度は上がっています。他の組織も傭兵団を相手取って、勝利した組織に挑めるほどバカじゃあありません」

 ズィルバーはカズに目を向ければ、カズは当然だと言わんばかりの自信に満ち溢れていた。

「なので、地方の問題は地方に任せる。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の問題も静観でいいと思います。ただし、向こうから仕掛けてきた場合は別です。その場合は正当防衛という理由で退治できますから」

 理由なんて、後から考えればいい理論にティア殿下は呆れてしまった。

「理由は後付けか。まあ、言いたいことも分かる。では、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と対峙したシノア部隊の意見を聞こう」

 皇帝へ椅子に座るシノアたちに話を振る。

「私たちとしましても静観すべきだと思います。相手にしたからわかったのですが……」

「今、俺たちじゃあ、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)を倒せるかと言われたら、無理です。“魔王傭兵団”をぶっ潰して、傲りを生んでしまったと言われれば、言い返せない。だが、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の中には()()()()()()()()()()()()()()()()のも事実です」

 ユウトは正直に皇帝に伝えた。

「カイよりも強いか。と、すれば、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は基本、裏組織の奴らよりも実力が上、と言うことか」

 ユウトの言葉からカズは吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の強さを想像させる。

 皇帝も吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の脅威度とライヒ大帝国に抱える問題を天秤にかけて吟味する。

 皇帝はしばし沈黙を保ち、やがて、口を開いた。

「…………よく分かった。余はズィルバー・R・ファーレンの意見に従い、採用しよう。もちろん、カズとユウト大佐の意見を不採用しなかったわけではない。各々の意見を聞き、余が、その答えを導こう」

 方針が決まった。もはや、異論を挟むことはできない。

 皇帝が決まったことを曲げようとするならば、それ相応の覚悟というものが必要になってくる。説得に失敗したときは末代まで恥をさらすことになるだろう。

(さて、方針が決まったら、後は各々の問題を解決するだけだ)

 次の準備に取りかかろうと考えるズィルバー。

 ガイルズが視線を巡らせて口を動かした。

「それでは評定はここまでとし、論功行賞をおえ――」

 その時――会議室の扉が開かれた。

 入ってきたのは一人の文官。彼は柱の陰に隠れている者たちからの不躾な視線を足早に横切り、ガイルズの下に向かうと、その耳元に口を寄せて何やら囁いた。

「……分かった。下がれ」

 ガイルズが神妙な顔つきで言えば、文官は一礼してから下がっていく。

 それを待って身を翻したガイルズが、皇帝が近寄り二言三言を交わした。

 皇帝の表情が険しくなる。

 怒気が膨れたように見えたのは錯覚だと思いたかった。

 皇帝の言葉を受けとったガイルズは小さく頷いて、改めてズィルバーたちに身体を向けてくるも、その顔には苦悩が見受けられた。

「たった今、第二帝都正門にて。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)が暴れているという情報が入った」

『ッ!?』

 その言葉を皮切りにズィルバーたちの顔に驚愕が生まれた。

「このタイミングで、襲撃!?」

「なんで、襲撃を……」

 カズとハルナ殿下は動揺している中、ズィルバーはガイルズに視線を転じた。

「ガイルズ宰相。今、誰かと相手をしていますか」

「話が早いな。ズィルバー殿。今、聖霊機関(デ・セカンム)が相手をしてもらっている」

聖霊機関(デ・セカンム)……」

(皇家直属の諜報機関。実力は未知数だが、足止めになれるだけの実力は備わっているのだろう)

「分かりました。論功行賞も終わり、話し合いたいことも終えたのなら、俺とティア殿下はすぐにでも、始末に動きたいのですが」

「いいだろう。第二帝都支部。今から動けるか」

「当然だ。街の平穏を守るのが親衛隊の役目だ」

「良い心がけ。カズ殿。論功行賞のために来たのが、このような形になってしまったことを謝罪しよう」

「僕はいいよ。僕個人で吸血鬼族(ヴァンパイヤ)がどのような種族なのか。この目ではっきりと見ておきたいと思っていた」

「そうか。陛下」

「うむ」

 皇帝はガイルズの意図を理解し、頷く。

「では、貴殿らには、この事件の解決に尽力してもらうとしよう。褒賞を与えることはできないが、被害で出た損害は皇家が受け持とう」

『かしこまりました』

 ズィルバーたちの返事を聞いて、皇帝は満足そうに頷いた。

「では、これで評定を終わる」

 皇帝が告げれば、ガイルズが後を引き継いだ。

「それでは、ズィルバー殿、カズ殿、皇族親衛隊らは正式に吸血鬼族(ヴァンパイヤ)から第二帝都を守ってほしい」

 ガイルズが告げたことで、論功に続いて評定も終わりを迎えた。

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