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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
幕間1~各々の休日~
142/296

英雄。ティア殿下とデートをする。②

 再会とは、長く別れていた者同士が再び、巡り合うということ。

 ズィルバーとレイン。キララとノイ。

 彼らの再会は実に千年ぶりとなる。

 もっとも、ズィルバーだけは転生しての再会になるのだが――。


 愛嬌のある光景に包まれる中、小竜姿のキララは小鳥姿のレインに話しかける。

『久しぶりじゃない、レイン』

『お、おお、お久しぶりです、キララさん』

 レインは声だけでもガクガクと震え上がっている。

 実際に身体も震え上がっている。

 レインにとって、キララとの関係は師弟関係。

 千年前に指導してもらった記憶が失っていない。

 むしろ、トラウマとして記憶に残っている。

『あら、どうしたの? 声が震えているわよ?』

『い、いえ、声が震え上がっていませんよ? 久しぶりの再会に歓喜しているだけです』

 レインは即興の嘘を吐いて、恐怖で震え上がっているのを隠す。

()()()()のことは一度たりとも忘れていませんから)

 ガクガク、ブルブル、と震え上がるも、なんとか踏みとどまって、話に応じている。

 端から見れば、キララ(小竜)レイン(小鳥)を虐めてるようにしか見えなかった。そこを見かねて、ノイ(子リス)がポフッと可愛らしげな尾で小竜の頭を叩く。

『止めないか、キララ。レインはキミとの師弟関係の頃を思いだして、震えている。そこまでにしないと、今度は五人でキミに牙を向けてくるよ。千年前(むかし)ならともかく、今はキミでも苦戦を強いる』

『うぐっ!? た、確かに……』

『昔話はあとにして、今は千年ぶりの再会を喜び合おうじゃないか』

 ノイの仲裁でキララは納得し、大人しく引き下がった。

『ノイさん。ありがとう』

 レイン(小鳥)ノイ(子リス)に対して、深々と感謝の言葉を述べる。

 キララとノイに対する態度が雲泥の差だ。

 これは、千年前の関係に起因してもおかしくないだろう。

 あと、端から見れば、ノイ(子リス)が仲裁に入り、レイン(小鳥)が深くお礼を言っているようにしか見えなかった。

 言っておくが、これを愛嬌のある光景と言えるのかは、人それぞれであろう。


「なあ、シノア。どうなっていると思う?」

「えぇ~ッと、ノイさんがキララさんを止めてるようにしか見えませんね」

 ユウトとシノアは小声でボソボソと会話するように、ズィルバーとティア殿下も

「ズィルバー。どういうこと、これって……」

「レインはキララ(小竜)の弟子なんだよ」

(俺も一時期は彼女の許で教えを受けていたがな)

「えっ!? レイン様って、あの小竜の弟子だったの!?」

「レインだけじゃない。カズに契約してるレンも同じだ」

(もっとも、レインとレン。いや、()()()()はキララさんのことを鬼としか認識していないだろうけど……)

「知らなかった」

 二人も二人でボソボソと小声で会話していた。

「知らなくて当然だよ。当時のことを思いだしたくもないんだろう」

「思いだしたくもない?」

 首を傾げ、不思議がるティア殿下。

「実は、レインはキララのことを鬼としか思っていないはずだ」

「鬼って……」

「鍛えられる際、涙目になりながらも、鍛えられていたそうだよ」

(実際、俺は、この目で見ていたから、間違えないけど……)

 ズィルバーは千年前の記憶をティア殿下に教えた。

「うっそー」

 ティア殿下としては信じられないと顔に出ていた。


『ノイさん。ありがとうございます。って、あれ? ノイさんも生きていたんですか?』

『今になって気づくのかい?』

 ノイ(子リス)レイン(小鳥)が今になって気づいたと知り、呆れるように溜息をついた。

『僕が生きていて、不思議なのかい?』

 不貞腐れる彼に、レインは弁明する。

『い、いえ、天使族(エンジェル)のあなたが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っていたので――』

 レインの言葉は正しく、千年前の王国時代を知る者はもういないと踏んでいた。

『そうでもない。僕やキララが生き続けているのと同じように、あの時代を知る何人かは未だ、現世に生き続けている。どこで何をしているのかは大体の見当がついている』

 ノイ(子リス)の言葉にズィルバーは目を細める。

(ノイさんが生きていたのは驚いたが……そっか――()()()()()()()()のか)

 彼は昔を思いだす。かつて、この国をともに支え合った同志たちを――。

 ほんの僅かだが、ズィルバーは口角を上げて、笑みを零していた。

『――にしても、僕は驚いた』

『なにをですか?』

 ノイの目線が、ズィルバーとティア殿下に向く。

『僕が仕立てた服を、彼らが着てるとは……』

 二人が着ている服は、その昔、ノイがヘルトとレイのために仕立てた服だ。

 ヘルトが死んだことで渡せる機会を失い、ずっと、お蔵入りしていた服が、現代となって巡り合うとは彼自身も思ってもいなかった。

『ズィルバーとティアちゃんのこと? あの二人、お似合いよね。()()()()()()()()()()()――』

 レインは二人が想い合っているのを知っている。

 それはまるで、ヘルトとレイと同じに見えるくらいに――。

 これに関して、キララもノイと同意見だった。

『ふむ。確かに、あのズィルバーっていう少年が彼なら、ティア殿下(かのじょ)はまさに、レイ様の生き写し、と言われても過言じゃない』

『そうでしょう。ティアちゃんって、意外と乙女なところがあるんだよ』

『それは、僕の主とて同じだ。女の子は男を惚れ落とす可愛さがないと生物として生き残れないよ』

『生物学的に、哲学を言われても困ります、ノイさん』

『ごめん。つい口に出してしまった』

 ノイは謝罪する。

 キララも“全く……”と溜息をつかれる始末だった。


 彼らの話にズィルバーたちはついて来れず、さっさとお昼を食べ終わらせようと思い、自分のペースで再開し始めた。

 パクパクと食べている中、ふと、ユウトがシノアの顔を見て、思わず、声をかけた。

「おい、口にクリームついとるぞ」

「え? 本当ですか?」

 彼女は布巾で軽く拭うも、まだ取れていないのか。結局、ユウトに指で拭き取られ、ペロリと舐め取られてしまった。

「おい、取れたぞ」

「は、はは、はい。あ、ああ、ありがとう……ございます」

 シノアは照れるように顔を真っ赤に染めあげる。

「ん? どうした、顔が赤いぞ」

「い、い、い、いえ、何でもありません」

(言えない。ユウトさんに()()()()()ところを見せられ、しかも、間接キスまでされたら……もう……)

 彼女は恥ずかしげに、残りをパクパクと一気に駆け込むように食べ終わらせてしまう。

 よっぽど、恥ずかしかったのか。耳の縁まで赤くするほど、赤く染め上げ、顔を俯かせてしまった。

 ユウトはシノアの心の内が分からず、首を傾げる。

「フフッ、シノアったら」

 ニマニマと含み笑いをしているティア殿下。

「そういうティアも頬に食べかすがついてるぞ」

「え? 本当に?」

「だから、取るぞ」

 ズィルバーはティア殿下の頬についてる食べかすを自分の舌で舐め取ってしまった。

「取れたぞ」

「え、ええ……ありがとう……」

 ティア殿下もカアッと顔を一気に赤面させ、恥ずかしかったのか。顔を俯かせてしまった。

(ず、ズィルバーに……な、なな、舐め取られた……か、かか、か、間接キスじゃない!?)

 十代の女の子には、予想以上の破壊力であり、一気に頭がショートするほどの威力を秘めていた。

 ズィルバーもユウトと同様に、なぜ、ティア殿下が顔を赤くし、俯かせるのかが分からず、疑問符を浮かべる。

 それらを見ていたレイン(小鳥)キララ(小竜)ノイ(子リス)の三匹が

『全く、ズィルバーも鈍感すぎるわよ』

『ユウトもユウトね……全く……』

『初々しいのもいいが、ここまでだと、初々しさよりも、付き合って欲しいレベルぐらいのいちゃつきぶりだね』

 あきれ果ててしまった。


 ティア殿下とシノアが落ち着きを取り戻したところで、ズィルバーが話の話題を変えた。

「そういえば、疑問に思ったんだが……ユウトはどうして、“アルビオン”と契約しているんだい?」

「え?」

(“アルビオン”?)

 ティア殿下とシノアはズィルバーが言ってる意味が分からず、首を傾げる。

 ユウトだけは言いにくそうな顔を浮かべていた。

「“アルビオン”とは、竜人族(ドラグイッシュ)の神。千年以上の時を生き続けるとされる竜種。伝承によれば、竜人族(ドラグイッシュ)の始祖にあたるとも言われている」

竜人族(ドラグイッシュ)の神……千年以上も生きている竜種……」

「そんなの。[戦神ヘルト]の伝記物にも記されていない。でも、[女神レイ]を守護する巫女騎士には、いろんな噂があった。曰く、竜の姿をしていたとか。曰く、竜人族(ドラグイッシュ)だったとか。曰く、その実力は初代皇帝、[戦神ヘルト]に渡りうる力を秘めていたとか。とにかく、いろんな噂があった」

 ティア殿下が口にする噂はライヒ大帝国の建国時代に記された内容だ。

 しかし、その内容はとうの昔に廃れており、数多くの伝承は消え去られていると思っていた。

(ほんとに、ティアは生粋のヘルト(おれ)ファンだな。キララさんの伝説はとっくに消えてると思ってた。むしろ、レイの方で記されていたとはな)

 ズィルバーもズィルバーでレイに関する書物にキララの存在が知られているとは思いもよらなかった。

「だからこそ、俺はユウトが“アルビオン”と契約していたのが驚きなんだ。何しろ、カイの身体に消えない傷をつけたのは、“アルビオン”の加護があったおかげ。むしろ、俺としては、キミが“アルビオン”に選ばれたことがビックリだよ」

(どういう風の吹き回しだ)

 と、疑ってしまいたいぐらいに――。


 ズィルバーの言動に、レイン(小鳥)ノイ(子リス)も同じであった。

『そういえば、そうですね』

(あの鬼騎士長が、彼と契約するなんて思いもしなかった……ズィルバーが疑問を抱いてもおかしくない)

『うーん。気になる』

(僕としても気になっていたところだ。キララは人族(ヒューマン)を嫌っている印象があった。今は分からないが、千年前は特にそうだった。彼女を信頼しきっていたリヒトたちが不思議なぐらいに仲が良かった)

 レインとノイもキララがなぜ、ユウトを選び、契約を結ぶに至ったのかが気になってしょうがなかった。


「だって、“アルビオン”は人族(ヒューマン)に距離を取っていた。信頼しきってた人族(ヒューマン)は初代皇帝、初代媛巫女、初代五大将軍ぐらいものだ。なので、キミに加護を与えるほど、精霊契約を結んだのかが気になる」

 ズィルバーは正直に疑問を口にした。

 彼の疑問に、レインとノイの視線がキララに注がれる。

 だが、ユウトは答えづらそうだった。

 なぜなら、ユウト自身も“魔王傭兵団”との戦争を終えたとき、キララに訊ねた。

『なぜ、俺と契約しようと思ったんだ』

 と――。

 キララはそれに答えず、無言を呈していた。

 なので、ユウトは答えれなかった。

 ズィルバーはユウトの顔色を見て、事情を察した。

「なるほど。つまり、知らないというわけか」

(まあいい。別に知りたいと思ったわけじゃないから。知ったら知ったで、キララさんに殺されそうだしね)

 ヘルト(ズィルバー)もキララに対して、トラウマを持っていた。


 千年前、初代五大将軍はキララの弱みを知ろうと画策したも、彼女の逆鱗に触れてしまい、一日近く追いかけ回されたという恐怖の思い出がある。


 その所為か、ズィルバーの中で怒れるキララには恐怖心を覚えている。しかも、千年前に抱いた恐怖心が――。

 しかし、ティア殿下とシノアもズィルバーがなぜ、そのような疑問を口にした理由が疑問符を浮かべ続ける始末。

「気にしないでくれ。個人的な興味だから」

 忘れるように言い放った。

 だが、ティア殿下とシノアは忘れるよりも、気になって、逆に覚え込んでしまった。


「そういや、俺ら……皇帝陛下に召喚されるんじゃあなかったのか」

「ああ、そうだが……どうして、キミらが知っている」

 ズィルバーとティア殿下はなぜ、ユウトが皇帝に召喚されるのか些か気になる。

「実は――」

 シノアがなぜ、自分らが知っているのか。詳細を踏まえて、教えてくれた。

 彼女の話を聞いて、ズィルバーとティア殿下はなんとなく察した。

「大人だと心持たないのと、私たちが逆に日和ってしまわないかと父様が心配してくれたのね」

「いや、どう考えても……俺らを抑えるためにこいつらを差し向けたとしか思えない」

 ズィルバーからすれば、皇帝の目論見が見え隠れしているとしか思えなかった。

(なんというか、皇帝の皮肉が効いた苦すぎる護衛を人選しやがった。話を聞くだけでも、含み笑いが聞こえてくる)

「でも、私たちだけで護衛をするのはいやなんですよね。ただでさえ、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と交えたところですのに――」

「あっ、そうそう。召喚状に書かれていたよね。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と戦ったって……あれ、あなたたちだったの!?」

「ああ、そうだ。今、思いだすだけでも腹の虫が治まらない」

 ユウトはフツフツと当時のことを思いだし、殺意を滾らせていた。

「それは……まあ……」

(生きてれば、儲けものだろう)

 ズィルバーからしたら、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と出会って、生き延びれただけでも、すごいことだと認識している。

(やはり、ユウトは強くなった。俺も、うかうかしてられないな)

 彼も()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと認識せざるを得なかった。

「詳しい内容は召喚状に書かれていなかったけど……その、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は……一人だったの?」

「いや、四人だ。俺とシノアが相手をしたんだが、最初は三人の子供。見た目は俺らと同じぐらいの背丈」

「特徴は覚えているか?」

 ズィルバーはユウトに戦った敵の特徴を訊ねる。

「俺が相手をしたのは、藍色の髪をした少年と薄ピンクの髪をした少女。シノアがシルクハットを被った少年だったな……確か、名前は……」

「え~と、私が相手をした吸血鬼族(ヴァンパイヤ)がレスカー。ユウトさんが相手にした吸血鬼族(ヴァンパイヤ)はアシュラとクルルと言っていましたね」

 シノアは戦った敵の名前を正確に覚えていた。

「強かったの?」

 ティア殿下は率直な疑問を聞く。

「強いのなんの。どこか手加減されていたようで、嫌な気分でした」

「手傷を負わせたけど、途中で褐色肌の吸血鬼族(ヴァンパイヤ)に邪魔されちまって……」

「褐色肌の吸血鬼族(ヴァンパイヤ)……」

 ズィルバーは、これまで聞いた吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の特徴だけで、誰と相手をしていたのかがはっきりわかる。

 しかも、最後に出た吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の特徴は彼にとって、忘れもしない相手でもある。

「ユウト……褐色肌の吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の名前はウルドじゃない、か」

「あ、ああ、そうだが……ズィルバー、知っているのか!?」

 ズィルバーの問いかけにユウトは肯定するも逆に彼がウルドのことを知ってることに驚く。

「あの伝説の戦神と一日近く切り結んだ相手だ。キミらが生きていただけ、儲けものといえる。だって、あいつ……()()()()()()()、だろう」

 ズィルバーの言葉が的を射ていていたのか。ユウトとシノアの顔色が鈍くなる。

「ああ、悔しいことに手加減されていた」

「私に関しては右腕をへし折った男です。今度、会ったら、一発、ぶん殴りたい気分です」

 リベンジを意気込む二人にズィルバーが真っ向から否定した。

「バカか。キミらはどこで戦ったかは知らないけど、その気になれば、ウルドは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「街を一つ……」

「……消し飛ばす」

「規格外にも、程があるでしょう」

 ズィルバーが告げられた言葉にユウト、シノア、ティア殿下の三人は驚愕が走る。

 同様にウルドのことを知っているキララ(小竜)ノイ(子リス)も可愛らしげに頷いた。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は種族上、少数精鋭が基本。しかも、ウルドは第二始祖。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の中で上から三番目に強い奴だ。どう足掻いても、今のキミらじゃあ、絶対に勝てない」

 ズィルバーは勝てない宣言を言い放った。

「第二、始祖……?」

 吸血鬼族(ヴァンパイヤ)のことをあまり知らないユウト、シノア、ティア殿下の三人からしたら、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は同じに思っていた。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)における年功序列。数字が低いほど、生きた年数と実力が高くなり、逆に数字が大きくなればなるほど、生きた年数が短く、実力も低くなっていく。とは言っても、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)全体で身体能力が高い。だから、実力が低いからといって、舐めてかかると、こっちが死ぬことだってある」

「そっか? 俺から見れば、あのウルドって奴、強そうには見えなかったけど……まあ、カイよりは強いのは分かったけど」

「だったら、それはユウトが天狗だったというだけの話だ。キララと契約を結んで、ヘクトルを倒したことで()()()()()()()()()()()()()()()()んだろう。それが、()()()()()()()()()()()()()()()

 ズィルバーの最後の指摘は的を射ていた。

 “ドラグル島”でシノアがウルドに右腕をへし折られた際、ユウトはひどく悲しんだ。

 自分がしっかりすれば、シノア(彼女)を傷つけずに済んだのではないか、と。

「憶測論だけど、キミの顔を見れば、そういうことがあったのが見てとれる。キミ……俺を超えたいんだろう。だったら、こんなところで足踏みをしてはいけないよ。見たところ、キララと契約してるとはいえ、精霊の力を完全に引き出されていない。“闘気”も前に比べれば、飛躍的に向上しているが、それを扱えるだけの技術が追いついていない部分がある」

 グサッ、グサッ、とユウトの心にズィルバーの言葉の刃が突き刺さる。

 予想以上に効果覿面だったらしく、項垂れているユウト。

「あと、左手に()()()()()()()()()を使いすぎ、かな」

「左手の……」

 ユウトとシノアは自身の左手に目線がいく。

 今は手袋をしていないが、普段からは手袋をしている。左手にある紋章がなんなのか分からないので、あまり、人目につかないよう、心がけている。

「俺とティア……後は、カズとハルナ殿下もそうだが、左手に浮かび上がった紋章は確かに絶大な力がもたらされるけど、周囲との軋轢が起きる」

 ズィルバーが言っていることが的を射たのかユウトとシノアの顔色が少し悪くなる。

「おそらく、親衛隊上層部の方にも、キミらのその力は知られている。下手したら、面倒な案件を押しつけられる可能性だってある」

「つまり、上層部の無能さで人生を棒に振られたくないってわけ?」

「そう。そうなるぐらいなら、組織を抜けて、自由気儘に生きればいいってなっちゃうだろう。そういうわけで、左手の力だけは極力使用しない方がいい。ここぞって時や使わなきゃまずいと思ったときに使えばいい。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)を相手にしたときとか、ね」

 具体例を出して、左手の力を使わせないようにする。

(特に、現代においては真なる神の加護のことを知らない。だったら、極力使わせないよう言い含めればいい。使わないことが一番いいけど、ユウトの性格上、無理だから、使う場面を判断させるように言い含めればいいだろう)

 ズィルバーはユウトの特徴を考慮した上で、注意喚起をした。

 ここで、ユウトはズィルバーに問いを投げた。

「なあ、ズィルバー。俺とシノアは“ドラグル島”で吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と出会った」

「“ドラグル島”……西の果て、巨大湖の中心に位置する島だったな」

「巨大湖!? あの島って、湖の上にあるのですか!?」

「まだ、俺が五歳頃、潜ったことがあったが、水、しょっぱかったぞ」

「“ドラグル島”の中心部って、死火山だろう」

 ズィルバーはユウトに“ドラグル島”の特徴を訊ねる。

「ああ、そうだが……でも、波が荒れるときがあるぞ」

「確か、巨大湖は海水が流れ込んでいて、湖の水と混ざり合う際、潮流が発生するって聞いたことがあったような、なかったような……」

 ズィルバーは千年前の記憶を引っ張り出していた。

 うーんと頭を捻るけども、

「まあ、この際、その話を置いておこう。それで、“ドラグル島”で吸血鬼族(ヴァンパイヤ)と出会ったと」

「あ、ああ……奴らは俺とシノアが持つ、左手の紋章(こいつ)を見て、すっごく警戒していた」

「そうなの、シノア?」

 話を聞いてたティア殿下がシノアに確認を取れば、彼女もその通りだと頷いた。

「キララが言うには死ねない種族で、何百年も生きているって、アシュラって奴も千年前に会ったことがある、って言ってた」

「アシュラ、か」

(懐かしい名前だな)

 ズィルバーはアシュラという名前を聞いて、不思議と心が穏やかになった。

(なんでか、アシュラだけは不思議と気があったんだよな)

 今でも思いだされる記憶。

 陽光に照らされるポツンと立つ木の陰で話し込んでいた()()()()()()()()の姿が――。

「知ってるのか?」

 ユウトの問いかけにズィルバーは意識を取り戻す。

「名前程度しか知らないよ」

 曖昧に答える。

「そっか」

 ユウトは納得するも、ティア殿下からすれば、ズィルバーが何かを隠しているようにしか見えなかった。

「それで、さっきの質問だっけ。理由は分からないが、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)人族(ヒューマン)を天敵と認識している」

「天敵? 俺らが天敵になる要素があるのか?」

「あるじゃん」

 彼はユウトの左手を指さす。

 ユウトは左手を見る。正確に言えば、左手に刻まれた紋章だ。

「もしかして……どういう理屈か知らないよ。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は精霊刻印とは違った紋章を持つ人族(ヒューマン)を警戒している。さっき、キミは言ったな。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は死ねないって……それは正しい。でも、この紋章を持つ人間の攻撃を受けると吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は死ぬ、っていう伝承を聞いたことがある」

(正確に言うと、千年前、偶然にも吸血鬼族(ヴァンパイヤ)を退かせた時に判明したことだけど……)

 ズィルバーはうそを交えて、自分が知っている情報を話す。

「だから、ウルドって奴に俺らの部隊は()()()()()()()()からな」

 その言葉にズィルバーの異彩眼なる目を細める。

(あのウルドに、そこまで言わせるとは……どうやら、強くなっているのは確かだ)

 うかうかしていられないと、再度、気持ちを改めた。


 お昼を食べ終えたズィルバーとティア殿下。ユウトとシノア。両ペアは話せるだけ話したら、別れて、再び、デートを再開した。

 街中を歩いてるなか、ティア殿下はある質問をした。

「ズィルバー」

「なんだ?」

「失礼だと思うけど、ズィルバーはユウトくんのことをどう思っているの?」

 素朴な質問に、なぜ、失礼なのか疑問符を浮かべるズィルバーだが、彼は率直に答えた。

好敵手(ライバル)……かな」

「ライ、バル?」

「ああ、俺を本気でぶっ倒そうとしている強者……ティアはシノアのことをどう思っているんだ」

「喧嘩相手」

 ティア殿下はシノアのことを喧嘩相手としか認識していない。

 つまり――

(それって、好敵手(ライバル)じゃないのか?)

 口には出さず、心の内に吐露するズィルバー。

 下手に言えば、彼女からのビンタが来そうなので言わなかった。

「ズィルバー。なにか、変なことを考えなかった?」

 ジト眼を向けるティア殿下。

「い、いや、なにも……」

(俺の心の内を読めるのか)

 ズィルバーは焦りながらも、なにも考えていないと懸命に答えた。

「ふーん。あっそ」

 彼女は彼の手を繋ぎ、再び、デートを再開した。

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