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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
幕間1~各々の休日~
141/296

英雄。ティア殿下とデートをする。

 北方において、カズとハルナ殿下が中央へ出発した最中、皇帝からの召喚状がズィルバーとティア殿下にも届けられた。

「皇帝陛下から召喚か」

「もしかして、北方の一件で?」

「それしかないだろう」

(むしろ、それ以外の理由がない)

 ズィルバーからしたら、それしか理由が思いつかなかった。

 だが、召喚状の内容を見て、思わず、首を傾げる。

「――にしても、召喚されるのが私とズィルバーだけってのが、驚きね」

「ああ、大勢で来られるのを困るという文言だ。まあ、こちらとしても、全員で行くより、幾分マシだ」

「そうね。学園警備を疎かにできないし。なにより、この召喚状の内容もそうだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ティア殿下が口にした噂。

 シノア部隊が遭遇したとされる吸血鬼族(ヴァンパイヤ)

 彼らがライヒ大帝国、中央に来ていてもおかしくないという判断で、本来、帝城で行う謁見も第二帝都で行われることになった。

 状況が状況なので、ズィルバーとティア殿下も文句はない。

 ただ、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)が実在したことに驚いていた。

 いや、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の実在に驚いたのがティア殿下で、ズィルバーは別の意味で驚いていた。

(まさか、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)が、まだ生きていたとはな)

 そう、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)が生きていたことに驚いていた。

 実のところ、ズィルバーいや、ヘルトは吸血鬼族(ヴァンパイヤ)のことを知っているし。一度、戦った経験を持っている。

 それは、千年前の話。


 千年前、ヘルトはリヒトに頼まれて、辺境の村に調査へ向かった。

 その村は邪悪な外在魔力(マナ)で包まれていた。

 一緒に、いや、勝手についてきた部下たちも、この異様な外在魔力(マナ)に驚きを隠せなかった。

 村に赴き、調査をするも、村人は死に絶えていて、村としての機能が成り立っていなかった。

 村人の死体を見るも、首元に、なにかで咬まれた跡があった。

 そして、全員に共通していたのが、()()()()()()()()こと。

 ヘルトも、この異様な状況、邪悪な外在魔力(マナ)からただならぬことが起きてるのを察知し、すぐに王都に戻って、調査隊を派遣しようと判断された。

 だが、しかし――

 運悪く、遭遇してしまった。

 この現況を生み出した元凶と――。

 そう。吸血鬼族(ヴァンパイヤ)である。

 いたのは、たった一人の吸血鬼族(ヴァンパイヤ)

 しかし、実力は途轍もなく、ヘルトが対応しなければならないほどだった。

 ヘルトも最初から全力で応戦し、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)もヘルトの実力が人外であることを理解し、全力で殺しにかかった。

 ヘルトと吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の死闘は一日近く続き、終幕を見た。

 部下たちが王都に一報を入れ、増援を派遣してくれたことで、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)も危険だと判断し、退散した。

 だが、ヘルトは吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の存在を高く評価し、国に仇なす危険性を秘めていると認識せざるを得なかったと記載しておこう。

 逆に吸血鬼族(ヴァンパイヤ)もヘルトのことを高く評価し、ライヒ王国への汚染は断念せざるを得なかったと記載しておこう。


 千年前のことを思いだすズィルバー。

吸血鬼族(ヴァンパイヤ)の特徴は俺が一番知っている。何しろ、何度か殺し合ったことがある。奴らの実力は千年前(当時)こそ、まばらだったが、千年も生きてるとなれば、強くなってることは間違えない。不死身という一点において、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)は化物じみていた。歳も取らないのも、あいつらを見分ける唯一の弱点だしな)

 吸血鬼族(ヴァンパイヤ)における弱点を胸中で漏らす。

「しかし、吸血鬼族(ヴァンパイヤ)が存在している時点で、皇家が最高レベルに警戒するのも頷ける。召喚に応じる人数も限定的にし、手短に終わらせようというのが魂胆だろうな」

「それしか見えないけど……ねえ、ズィルバー。私たちもそろそろ、準備した方がいいんじゃない」

 ティア殿下は謁見に際しての準備に入る。

「そうだな。だが、服装に関しては些か、腑に落ちない。俺は貴族。ティアは皇家出身だぞ。服装だって、それなりの準備ができるはずだ。なのに、服装を学園の制服にさせたのか。俺にはなにか裏があるとしか思えないね」

 ズィルバーは目を細め、違和感ありまくりの召喚状を見る。

「仮に、裏があるとして……ズィルバーはどうする?」

「どうもしない。レインを懐に隠すとしても、武器の持ち込みは厳禁だ。皇帝が込み入った話をしたいというのなら、第二帝都に来るのも頷ける。護衛にクレト中将とマヒロ准将を選んだのにも納得がいく」

「納得?」

「ヤマトから聞いているだろう。親衛隊上層部が一枚岩じゃないってこと……いや、一枚岩にすることは難しいことだが、親衛隊そのものに疑心を抱いている可能性がある」

「父様が親衛隊を疑ってるということ」

「親衛隊は皇室を、国を守護する騎士団みたいなものだ。本部内で派閥争いをして、国の守護を疎かにした連中を信用できるかと言われたら、信用できないのが普通だ。それでも信用できるのは、ただのお人好しかバカでしかない。俺も皇帝とは“地下迷宮(ダンジョン)”を攻略した一度きりだが、お人好しっていうより、腹に一物抱えている人にしか見えなかったぞ」

「父様は悪巧みをする人だし。皇宮内での派閥もリズ姉様一強になってるから」

「俺自身、次期皇帝がエリザベス殿下でも構わない。皇帝を支えていくのが、俺の務めであり、貴族として当たり前なこと」

 ズィルバー自身。エリザベス殿下が皇帝になっても構わないというスタンス。

 貴族として当然のことをすべきという理由ではなく、自分個人で誰かを守り通したいという意志が働いているからに過ぎないのだ、と言い切る。

 ズィルバーのスタンスはティア殿下も理解している。

 なので、下手な追求はせず、自分がやりたいことをすればいいと思っている。

 実際、エリザベス殿下なら、そう言うだろうと分かりきっていたから。

「ズィルバーのスタンスやリズ姉様の次期皇帝とかの話は置いておいて。謁見はカズくんとハルナが来てからにするらしい」

「と、すれば、カズが来るまでに一週間はかかるな。“蒼銀城(ブラオブルグ)”から第二帝都まで一週間はかかる計算だからな。その間に俺たちも準備をして、余った時間を業務に回そう。夏期休暇後、しておかないといけない仕事なんかを済ませないとな」

「そ、そうね。私たちが目を通さないといけない書類とかもあるし」

(そういうのはほとんどないんだけど……せっかくなんだし。ズィルバーと一緒に出かけたかったな)

 本音を言えば、ズィルバーと一緒に第二帝都へ遊びに行きたかったという気持ちで揺らいでいた。

「まあ、目に通す書類なんてないけど……」

「え?」

「せっかく、余った時間なんだ。外に出かけないか」

「……え?」

 あまりのことに呆けてしまうティア殿下。

 ズィルバーに視線を振り向けば、彼はティア殿下に手を差し伸べるだけで、顔を横に逸らしていた。

 だが、恥ずかしいのか、照れくさいのかは知らないが、耳まで赤くしていた。

(素直じゃないね。ズィルバーは――)

 自分が抱いてる気持ちを察した彼女。

 いや、正確に言えば……

(ズィルバーも私と出かけたかったのね)

 フフッと、嬉しそうに微笑むティア殿下。

 彼女は彼の手を手にとった。

「それじゃあ、お願いしてくれるかしら? 騎士様(ナイトさん)

 デートのお誘いを快く引き受けてくれた。

 ズィルバーもフッと笑みを零して、彼女の手を重ねる。

「お任せください。ティアお嬢様」

 彼女の心を揺さぶらせるように形式のある振る舞いをしてみせる。

「……――……!」

 ズィルバーの格式ある振る舞いに身も心も悶えてしまった。

「もう、ズィルバーったら――」

(恥ずかしくさせることを、よく、臆面もなく、できるわね……)

 心を弄くり回されて、狂喜乱舞に陥っていた。

「じゃあ、明日にでも、一緒に出かけない」

「精一杯。エスコートしてあげます、ティアお嬢様」

「お嬢様なんて、呼ばないで……」

(名前で呼んでよ~)

 弄ってくるズィルバーにティア殿下はカァッと耳の縁まで顔を真っ赤にする。

 もう、それは林檎かと思えるほどに赤面していた。


 ズィルバーとティア殿下がイチャイチャすることで、執務室は入りづらくなってしまった。

 現に、ナルスリーたちが

(いちゃつくなら、余所でやれ! あんの、バカップル!!!)

 胸中でボロクソ暴言を吐いた。

 一緒にいるニナ、ジノ、シューテルすらも内心、おもクソ暴言を吐いた。


 だが、ズィルバーとティア殿下は知らなかった。明日、()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()のを見かけることになるとは、この時は知らなかった。


 次の日。

 ズィルバーとティア殿下は私服に着替えて、第二帝都の街に出かけていた。

「おや、ティア。今日の私服は北方で買った服だよな」

 ティア殿下が着ている服は北方で買った服だ。

 薔薇柄の薄い桃色の服を身に包んでいた。

「ズィルバーだって、同じじゃない」

 ズィルバーもズィルバーで薔薇柄の水色の服を着ていた。

 有り体に見れば、お揃いの服を着ている。

 要するにペアルックだ。

 若干、服が大きいもズィルバーは自分の体質のことがあるので、着ぶくれた方がマシであった。


 二人は第二帝都の街並を見ながら、自分らの頑張りが、こうして、反映されていると思うと背中がかゆくなった。

「俺たちが街を、学園を守ってるから。街全体が活気づいてるな」

「そうね。私たちの頑張りが無駄じゃなかったと証明できる」

「街ばかりを見ていても面白みもないし。なにか食べないか」

 ズィルバーはティア殿下に奢るつもりでなにか食べないかと誘う。

「いいの?」

「いいも悪いもない。俺が奢りたいから奢るのさ」

(たまには、男らしいところを見せてあげたい、しな)

 と、彼は若干、自分の男らしさをアピールしたかったのもある。

 だが、ティア殿下からすれば、

「そ、そう」

 答えはしつつも

(ズィルバーが男らしくアピールしなくても、出会ったときから男らしくかっこいいわよ)

 モジモジと悶えていた。


 しかし、懐に忍ばせていたレインと周り人から見れば、

(若いわね……)

(若々しいな)

(見てるこっちが恥ずかしくなってきちゃう)

 仲睦まじく、十歳を過ぎたばかりなのに、互いに想い合っているのが嫌でも分からされてしまう。

 そんな二人が思わず、視界に捉えてしまった。

 普通に考えれば、わかるし、納得もする。

 だが、納得しても、あの()()()()()は本気かと疑ってしまう。

「なあ、ティア……」

「ん? どうしたの、ズィルバー」

「あの二人、どう思う……」

「え?」

 ズィルバーが指さす先に振り向けば、彼女も信じられないものを目撃する。


 それは――。

「ユウトさん。無駄遣いだけはしないでください」

「ムゥ~、シノアは俺の母さんか」

「誰がお母さんですか。シノアはユウトさんのお目付役です」

(本当はユウトさんと一緒にいられる口実のために、そう言ってるだけのなのですが……)

 シノアはユウトを叱りつつも、彼と一緒にいられることに内心、狂喜乱舞していた。


 そう。ユウトとシノアだ。

 親衛隊の仕事で巡回しているのなら、問題ないのだが、休日じゃないのかと疑ってるズィルバーとティア殿下。

 なにより、ユウトとシノアが着ている服がデートじゃないのかと疑っている。

 ユウトとシノアが着ている服は花柄の空色の服。

 ユウトが菊の花。シノアが馬酔木。

 花柄の色合は花の主張を強くさせるために、二人が持つ真なる神の加護の色合に合わせた。

 ユウトが若紫色。シノアが竜胆色。

 服の大きさからして、誰かが仕立ててくれたのがわかる。

 わかるのだが――。

「あいつらもデートとかしてるじゃないか」

「で、デート!? そ、そうね」

「ティア?」

 ティア殿下はズィルバーの言葉に顔を紅潮し、キョドらせつつ、答えた。

(そ、そうよね。見方によれば、私たちだって、で、デートをしている、よね……)

 今更ながらだが、ティア殿下が乙女チックな反応をしてしまっている。

 ズィルバーは鈍感と言われても、ティア殿下に向ける愛は濃いに等しいと自覚している。いや、彼自身、彼女に恋をしているの確かだ。

 なので、ティア殿下が乙女チックな反応されると

(こっちもこっちで対応が困る)

 内心、ハラハラしていた。

 そして、ユウトとシノアもズィルバーとティア殿下の視線に気づき、出会ってしまう。

「おい……」

「はい……?」

 ユウトが指させば、シノアも視線を転じれば、ズィルバーとティア殿下が露店で食べ物を買おうとしているのを目撃する。

 しかも、デートを思わせる格好をしていた。

 さらに言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()

「「…………」」

「「…………」」

 両ペアともに、どう挨拶していいのか迷ってしまう状況。

 このまま、無視することもできるのだが、出くわした以上、無視することもできない。

 と、とりあえず――

「よぅ。ユウトに、シノア。随分、仲のよろしいことで……」

 ズィルバーが軽くちょっかいをかける。

「ば、バカを言うんじゃねぇ。そういうお前らも仲がいいじゃねぇか!!?」

 ユウトもユウトでなけなしにちょっかいをかけてくる。

 ほんのりと顔を紅潮させて――。

「俺とティアが、仲がいいのは悪いことなのか、ユウト」

「うぐっ!?」

 なぜか、この状況において、ユウトよりズィルバーの方が有利にしか思えない。

 もちろん、言葉による、ちょっかいのことだ。

(ああ言えば、こう言うのか。ズィルバーは……)

 グヌヌヌッと歯に着せぬ苛立ちを覚えるも、両者ともに同時に息をついた。

「なに、バカなことで張り合ってるんだろうな」

「そうだな。お互い、見なかったことにもできないし。どうしよう」

「どうしましょう」

 頭を悩ませるズィルバーとユウト。

 ティア殿下とシノアはというと――。

(正直……)

(見なかったことにしたい……)

 恥ずかしげにギュッと握る手が強くなる。

 彼女たちが強く握ってくるのをズィルバーとユウトも気づき、決断した。

「正直に言って、見なかったことにしたい」

「俺も同じだ」

「じゃあ、そうしようか」

「おう」

 ズィルバーとティア殿下。ユウトとシノア。両ペアは、お互い見なかったことにして、デートを楽しもうという結論に至った。

 だが、その結論すら、無意味になっていく。

 何しろ、第二帝都は白銀の黄昏シルバリック・リコフォスにとっても庭だし。

 第二帝都支部にとっても、庭みたいなものだ。

 なので――

「「…………」」

「「…………」」

 なんども、なんども、出くわしてしまった。

 よって――

「仕方ない。ちょっと話そうじゃないか。少し、気になったことがあったし」

「こう、なんども出くわすと嫌になるし。お互いに話せることを話して、スッキリさせた方がいいだろう」

「ティアもそれでいいか」

「……そうね」

(こうも出会うとさすがに……それに、ちょっと、シノアに興味を持ち始めた)

「シノアは……」

「そうですね。このまま、ずるずる、引き摺るのも嫌ですし。ユウトさんの提案に賛成しちゃいましょう」

(ちょっと、彼女に聞きたいことができましたし)

 建前とは裏腹に本音を漏らすティア殿下とシノア。

 彼女たちも彼女たちで聞きたいことができてしまったようだ。


 なんども出くわしてはズィルバーとティア殿下、ユウトとシノア。両ペアも気が引けるので、お互い、納得がいくまで、どこかの店でお昼をとることにした。

 とは言っても、第二帝都は“ティーターン学園”を囲むように作られた大都市だ。

 学園生徒の手持ちでも買える店や露店が多い。

 故に貴族だけに賄っている店自体が極力少ない。

 しかし、ズィルバーとティア殿下も、あまり高級料理を口にしたいと思っていないので、ユウトとシノアも手持ちに合わせた店を選んだ。


 店に入り、四人用テーブルに座り、注文を終えたところで、ズィルバーがいきなり、話をぶっ込んできた。

「しかし、あんなところでキミらに会うとは思わなかった」

「おまけに、()()()()のなにかでしょう」

 ティア殿下も話を吹っ掛けてきた。

 ()()()()()()()()()とは言わずに、お似合いのなにかと言わせる辺り、彼女なりのいじりであることは確かだ。

 ユウトとシノアもティア殿下の弄りに“うぐっ!?”と言葉を詰まらせ、項垂れてしまった。シノアに至っては顔をほんのり赤くしていた。

「なるほどなるほど。お二人は、そういったご関係でしたか」

 ズィルバーは顔をにやつかせ、彼なりの弄りに入った。

「花柄が違うだけで、ほとんどの生地の色は一緒。()()()()()じゃないと言われたら、なんて言えばいいのかしら?」

 ティア殿下もさらに弄りに来た。

「ッ……そ、そういう、ズィルバーとティアも色が違うだけで花柄は同じじゃないか! 俺らがペアルックって言うんなら、そっちだって同じじゃないのか!」

 ユウトは反撃に転じた。

「それもそうだけど、なにか?」

 ズィルバーは事実を肯定した。

 しかも、澄まし顔で、だ。

 ティア殿下は恥ずかしげだったけども、余裕を持って対応してみせる。

「私とズィルバーは婚約者同士なのよ。同じ柄の服を着ても、不思議じゃないでしょう」

 ティア殿下も肯定してきた。

「うぐっ……」

 事実を肯定させられて、ユウトは反撃に失敗する。

 シノアは顔を赤らめたまま

(やっぱり、世間から見れば、私とユウトさんの格好って、ぺ、ぺぺ、ペアルックなんだ……)

 十全たる事実に悶えていた。

「シノアが固まっちゃったわよ」

「逃れようのない事実に、頭がパンクしたのか」

 ズィルバーとティア殿下の吐露したのが起因なのか。プシュ~ッと頭から湯気を出していた。

「し、しし、シノア!?」

 ユウトが彼女を宥めつかせることに頭が回らなかった。

 このことから、ズィルバーとティア殿下の間では、

((この二人……絶対、付き合ってるだろう/でしょう))

 確定的だと認識した。


 若干、カオスな空気になっているタイミングで店員が料理を運んできてくれた。

「お待たせしました。____と____です!」

 配膳されていく料理を前にユウトとシノアはようやく、お昼にありつける。

 お昼を食べている間だったら、ズィルバーとティア殿下から言われることはないと高をくくっていた。

「まあ、気になることがあったら、その都度、聞けばいいか」

「そうね。今はお昼を食べましょう」

 そう。その気になれば、二人はユウトとシノアを弄る気満々だった。

 婚約者なのか。元々、そんな風に仲がいいのか。

 彼らには分からなかった。


 お昼が始まるのだが、ユウトが意外と上品に食べていたことにズィルバーは多少なりとも驚いた。

「キミって、上品に食べるんだな」

「おい。まるで、俺が粗暴に食すと思っていたのか」

「だって、野生児じみてるし。野生児に上品さがあることにビックリだ」

「あっ、それは言えてる」

 ズィルバーとティア殿下の偏見とはいえ、ユウトと言えば、バカで野生児だ。

 それは、喧嘩ばかりし続けてた二人だからこそ、わかる。

「悪かったな、俺が野生児じみてて――」

 不貞腐れるユウト。

「いえ、ユウトさんはバカで野生児じみてますが、頼れるときは頼れる人です。シノアはそう思います」

「シノア……」

 シノアのフォローっぷりがティア殿下の目が皿になる。

「夢でも見ているのかしら。シノアが毒を吐かずに、献身的なフォローをしている」

「なんか、ヤバメなものでも食べたのか」

 ズィルバーでさえ、疑ってしまうレベルでシノアのフォローに驚いている。

「失礼ですね。私はいつも、ユウトさんに優しいですけど?」

 ビキッと額に青筋を浮かべ、ニコッと微笑んでいるシノア。

 言動と表情が釣り合っていなかったことにズィルバーとティア殿下は追求しない。

 二人のイメージでは、シノアはユウトに毒を吐きつつ、ティア殿下と喧嘩腰になり、部隊の隊長を担う女の子。

(まあ、ティアとシノアが喧嘩腰なのは、たんに、同族嫌悪によるものだろう、と、俺は思っている)

 チラリと、ティア殿下を見るズィルバー。

「どうしたの?」

 ニコッと微笑むティア殿下にズィルバーは視線を明後日に向ける。

「何でもない」

 ズィルバーは言わなかった。

(ティアが、怖い……)

 ゾクッと背筋が凍りつき、お昼が喉に通れなくなりそうだった。

(話を戻そう……)

「正直に言って、前のキミだったら、ユウトに対し、毒々しいフォローだったと思うけど、何かあった。たとえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とか?」

「ふぇッ――!?」

「なっ――!?」

 予想外な言葉に呆けた声を出すユウトとシノア。

「そ、そそそんな、わけ、なななないじゃないですか――ッ!?」

「そのわりには、声がどもってるし、テンパってるわよ」

「ッ――――!?」

 ティア殿下の追撃に、ボフンとシノアはまたもや、頭から湯気が出た。

「シノア!? おい、大丈夫か!?」

 ユウトが心配そうに声をかける。

 ズィルバーとティア殿下は互いの目線が重なり、納得する。

(やっぱり、この二人……)

(……付き合ってるでしょう)

 二人して、同じ考えに辿り着いた。

 もしも、ユウトとシノアが付き合っていなかったら、それはそれで、奥手にも程があった。

(俺は鈍感でも、これだけは言えるぞ。ユウトだって、俺並の鈍感だ)

 と、業腹じゃないが、ユウトもズィルバー並の恋愛の鈍感さがあった。

「まあ、ユウトとシノアが付き合ってるのかはこの際、置いておくとして」

「置いておくな。あと、まだ付き合っていない」

「あら、まだ、と言うことは、付き合うこと前提ですか。仲がよろしいことですね」

「ッ……!」

 ユウトはここで、自分から墓穴を掘ってしまったと気づく。

「ティア。それ以上、煽るな。シノアが、ユウトの言葉を聞いて、心ここにあらずって感じだ」

 ズィルバーの言うとおり、シノアは今、ユウトの先の言葉を聞いて、林檎以上に顔を赤くし、これでもかというぐらいに湯気を出し、熱を発していた。

(ゆ、ゆゆユウト、さんとは……ま、ままだ、付き合っていない。で、でででも、今、ユウトさんは、()()、って……そ、それって、つまり……ゆ、ゆゆユウトさんが、私のことを……)

 予想外の攻撃に、シノアの頭がキャパシティーを軽々超えて、壊れてしまった。

 ユウトが宥めようとしているも、逆効果であり、ユウト()に介抱してくれる事実に、ますます、壊れていく一方だった。

 ズィルバーとティア殿下も、気を紛らせようとするユウトと、さらに妄想に耽っている

シノアを見る。

 予想以上のイチャつきぶりを見て、タラリと汗を流す。

「あれ、なんだろう……」

「俺ら以上に仲良くない……」

「……っていうか、この二人……ほんとに付き合っていないの? 付き合ってるとしか思えない」

「鈍い俺でも、付き合ってるとしか思えない行動だ」

「あら、自分が鈍いのを、ようやく、理解できたの?」

「まあな。ようやく、ティアに向けたい気持ちができたんだからな」

「ふぇっ!? あ、そ、そそ、そうなの……」

 今度はズィルバーとティア殿下で顔を赤くする始末。

 ズィルバーとティア殿下。ユウトとシノア。

 初々しさと同時に深みのある睦まじい空気に、周りの席に座ってる大人たちや学園の生徒たちは

(((……初々しいな。バカップル共)))

(((自分らも、あのような時期があったものだ)))

 生徒たちは、“さっさと付き合ってください”というオーラを――。

 大人たちは、“昔の自分らを思いだす”という空気を出していた。

 桃色の空気に、少々黒い空気に、優しげな空気。

 ありとあらゆる空気がごっちゃまぜになっていて、謎の空間が形成されつつあった。


 と、これ以上、じゃれ込むと話が進まないので、ズィルバーは一度、咳払いをしてから、ユウトとシノアに話を切り込んだ。

「一つだけ聞きたい」

「なんだ」

 ズィルバーが真面目な顔つきにユウトは目を細める。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

「「――ッ!?」」

 ユウトとシノア。

 服の下に忍ばせている二人いや二匹の気配をズィルバーに気づかれた。

「いくら、服の下に隠しても、それだけ力が大きければ、見抜けるものは見抜ける」

(もっとも、一際強い気配を感じとれるのは、歴戦の強者だけだけどな)

 ズィルバーは胸中で自嘲していた。

 ティア殿下は気がつかなかった。

 つまり、まだまだ、経験と力が足りていない証拠だ。だが、裏を返せば、まだ発展の余地が残っているということにもなる。

 ユウトとシノアは二人の存在を隠しておきたいという事実もあった。

「まあ、隠したいのはわかるよ。高レベルの精霊と契約しているのを隠すのもわかるが、もう、とっくにバレてると思って、さっさと見せろ」

(まあ、この気配で誰かぐらいは見当がついてるけどな)

 気配から誰なのか、ズィルバーは既に気づいていた。


 ユウトとシノアは観念するように、服の下に忍ばせている小竜と子リスをテーブルに置かせる。

 一見、ただの小竜と子リスにしか見えないが、ズィルバーの目には誤魔化せない。

 むしろ、この気配を感じては懐かしい気持ちを抱かずにはいられなかった。

 ズィルバーもズィルバーで服の下に忍ばせている小鳥姿のレインをテーブルに置かせる。

 ティア殿下の目から見れば、愛嬌のある光景にしか思えないが、ズィルバーからしたら、懐かしき再会という気持ちが強かった。

(こうしてだけど……このような形で再会するとは思わなかったな。キララさん、ノイさん……)

 忘れもしない旧友が千年の時を経て、再会した。

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