黄昏の女子会。
北方の防衛戦争から半月ほど経過した。
ズィルバーたち白銀の黄昏は学園側に報告書を提出し、戦争で消えた日数分、夏期休暇が延長した。
いや、延長せざるを得なかった。
なにしろ、北方支部とはいえ、学園長と副学園長が“魔王傭兵団”と手引きをしていたのだ。
しかも、私腹を肥やしていたのなら、一家諸共懲罰されてもおかしくない。
いや、されている。表沙汰にならないだけで一家諸共懲罰に遭って、処断されたというのを皇宮から一報をくれたのが最近だ。
そのため、中央、地方の学園にも査問官が送られ、調査が行われている最中だ。
調査には皇家お抱えの諜報機関――聖霊機関が受け持っている。
ズィルバーたち白銀の黄昏は報告書を出し終えたことで、本当の意味で夏期休暇が到来した。
「はぁ~、疲れた」
「本当よ。あそこまでの激戦は今は懲り懲りよ」
「あぁ~、それは言えてる」
ぐでぇ~ッと机に突っ伏しているズィルバー。
レインもソファーに腰を下ろして、心の休まりをしていた。
「――にしても、帰り際にキララに会うとは思わなかった」
(あの鬼が帰ってきた)
「私だってびっくりよ。あの人が未だに生きてたなんて……」
「話によれば、自分から精霊になったらしい。そんなことができるのはリヒトぐらいだ」
(どこまで用意周到なんだか)
ズィルバーは亡き義兄リヒトの顔を思い浮かべる。
しかも、してやった感のある顔を、だ。
(なんか、余計にムカつく)
怒気を孕もうとしたが、首を横に振って霧散させる。
「聞いた話だと、ノイたちも自分から精霊になることを決めたそうだ」
「ノイさんか。懐かしいな。また、服を見繕ってくれるかな」
「俺としては彼に謝らないといけないけどな」
ズィルバーはノイへの謝罪があった。
(千年前、俺とレイのためにお揃いの服を見繕ってくれたのに……今でも悔やみきれないな)
「ノイは生きてるさ。あのしぶとさは俺たちの中で一番だ」
「そのしぶとさを学んだものね、あなたは」
「それは言えてる」
今更ながら、千年前の友たちからいろいろと学ばされたと実感するズィルバー。
「だが、驚いたとすれば、キララさんがユウトの契約精霊になったことだ」
(俺もうかうかしていられないな)
ユウトの強さも日に日に増している。カズとて、同じだ。
力の使い方を習得した今、北方最強といっても過言じゃない。
この間にも鍛えてるかもしれない。
「だが、今は休暇を満喫しよう。少しぐらい休日を満喫しても罰は当たらない」
「そうよ。あれだけのことをしたんだもん。誰も文句は言わない」
レインも少しぐらいバカンスをしていても罰にならない。
「そういや、ティアたち女子たちがお茶会をしてるそうだ。行けばいいんだぞ」
ティア殿下たちが女子会を開いてるのを告げるズィルバー。
「いいわ。ティアちゃんたちだけで、私はレンやキララさんたちと再会の挨拶をしたいから」
「じゃあ、同窓会まで我慢だな」
「そうね」
ズィルバーとレインは心身を休ませることに専念した。
時を同じくして、ティア殿下はナルスリーやニナ、白銀の黄昏の女子陣を集めて、“ティーターン学園”の学食でお茶会を開いていた。
なぜ、委員会本部で開かなかったのかは理由がある。
これから話す内容にズィルバーら男子陣に聞かれたくなかった。
「こうして、羽を伸ばすようにお茶会ができるのもいいわね」
優雅に紅茶を飲むティア殿下。
皇家出身であるからか上品さと華麗さがあった。
『は、はぁ~』
ナルスリーたちは思わず、呆けてしまう。
ティア殿下が、そのように振る舞ったことに――。
対する彼女もこのように振る舞ってるのが不服だった。
「私だって、ガラじゃないのは分かってるから」
頬を膨らませ、不貞腐れる。
「い、いいや、ティアがそう振る舞ってもいいよ」
「滅多に見たことがないから驚いただけ」
ナルスリーとニナがしっかり弁明する。
カナメやノウェムも間違っていないと目一杯頷く。
彼女のフォローにティア殿下も溜息をつく。
「わかったわ。できるかぎりの努力をする」
懸命さを見せることを決意した。
上品な振る舞いに見せる、と言った彼女にライナがつい口に漏らした。
「委員長から言われていないんですか?」
言外にズィルバーから“上品に振るまえ”と言われているのかと訊ねた。
ティア殿下も質問の意味を理解し、首を横に振る。
「言われていないわ。私がどのように振る舞っても、嫌いにならないし。ますます好きになりそうって言っていたから」
彼女は嬉しそうに答えてくれた。
それだけでティア殿下がズィルバーのことをこの上なく愛してるのが分かってしまう
。
彼女を見て、ノウェムとヤマトは“とんでもない強敵だ”と再認識した。
対して、ナルスリーとニナだけは“そんなところだろう”と分かりきっていた。
なぜなら、
「ズィルバーはあなたに背中を任せようとしてるからね」
「お互いに両想いかつ信頼しきってるなら問題ないんじゃない」
皮肉じみたことを口にする。
「だって、ズィルバーとティアって……」
「血の気が多いから」
二人揃って揶揄してきた。
「ちょっと待って。それって、私とズィルバーが戦闘狂だって言いたいわけ?」
「そうだけど」
「なに当たり前なことを聞いてるのよ」
当然でしょう、と言外に言われて、悄げてしまったティア殿下。
ノウェムたちもそれだけは間違っていないと否定しきれない顔をする。
味方がいないことにティア殿下はますます悄げてしまった。
「まあいいわ。夏期休暇が伸びちゃったし。学園側も対応が大変じゃない」
「僕らが北方を平定させたから」
「ええ、姉様から聞いた話だとそうらしいわ。これを機に帝国中の組織機関に調査官が派遣されたそうよ。お父様は国家の停滞を嫌ってるから」
「ん? なんで、今まで、そんなことをしなかったんだ?」
「“教団”の一件で不必要な人材を戦場に送り出したから。一時期はスッキリしたけど、時間が経てば、浮き彫りになってくる問題が出てくるわ」
「さすが、千年の歴史だけはあって、やるときはとことんやるんだな」
「当然よ。若い人たちを上に立たせないと国に未来がないんだから」
ティア殿下は皇家出身なので、その手の政治に関しては詳しいところがあった。
「それにズィルバーは諜報員の存在に気づいていたし。泳がせておきましょうって方針だったから」
「ここに来て、ズィルバーの手腕が如実に出ているな」
菓子を食べながら、ニナはズィルバーの運営方針に頭を悩ませた。
「彼に任せておきなさい。彼だったら、しっかりと対応してくれるわ」
ティア殿下は紅茶を飲んだ。
それを聞いて、ノウェムたちは自分らのリーダーがやるときはきっちりやる人だと認識した。
「さて、ここにはズィルバーやジノやシューテルは来ないから。せっかくだし。愚痴をこぼしちゃいましょう」
「愚痴って……」
「まあ、ジノに対して、言いたいことがあるのは確かね」
「それを言うなら、シューテルも同じかな。言いたいことが山ほどある」
ナルスリーとニナはジノとシューテルの愚痴をこぼす気満々だった。
ノウェムたちは男子陣への愚痴とかはなかったので聞き耳を立てることにした。
「――全く、ジノは自主性がなかったのに、ズィルバーに出会ってからは自主的に鍛錬し始めるから。実力に差が生まれるのが、この上なく悔しい」
「確かにな。シューテルも私より強いのがこの上なく悔しい。実のところ、“鎧王”セルケトは私とミバルだけで倒したんだぞ」
「それはウザったいわね」
イラッときたニナ。
ナルスリーもこういったところでしか愚痴を言えなかった。
ノウェムたちからすれば、ナルスリーとニナいや“四剣将”にも実力の上下があるとは思わなかった。
「ナルスリーとニナの言いたいことが分かる。ズィルバーもズィルバーで距離が近づいたと思ったら、とんでもなく距離があったという事実。けっこう、ムカつくのよね」
『あぁ~』
ティア殿下の愚痴。ズィルバーに対する愚痴にノウェムたちも納得せざるを得ない。
「おまけに私たちに指示を送るとか、いかれてるとしか思えない」
「確かに……」
ティア殿下の言葉にカルネスも賛同する。
「ズィルバーは耳長族の特徴を理解している」
「ああ、確かに」
「うんうん」
ノウェムとヒロも頷いた。
「っていうか、ズィルバーは異種族の特徴を知りすぎている。逆に知らないことがなさそうって感じだ」
「あいつ、確か……考古学科だったよね」
「そうよ。ズィルバーは天使族についてまで知ってたからね。誰も詳しく知らないのに、特徴から絶滅まで追い込まれた経緯まで……」
「詳しすぎるのよ」
ティア殿下たちはズィルバーの造詣の深さに恐怖を抱かせてしまった。
「でも、ズィルバーって、意外と女物の服も着こなせるんだよ」
ここで、ティア殿下は彼の知られざる秘密を暴露する。
「え、そうなの」
「そうよ。二学年に入る前、大帝都で服を買いに行ったの。ちょうど、女の子の周期を見計らってね」
「ちょっと待って。ズィルバーの異能は全員知っているけど、簡単に見分けがつくの」
「つくでしょう。声質や身体のラインで――」
「それがわかるのはティアだけだ」
ズィルバーの“両性往来者”で性別の見分けができるのはティア殿下だけだとナルスリーは言い放つ。
ノウェムたちも見分けがつけれない。
「そうかもね」
ティア殿下もあっさりと納得した。
「控えめに言って、ズィルバーは女の子に見える男の子だから。体質で女の子になった時のことを想像すると胸がキュンキュンしちゃうの」
「言っておくけど、病気だぞ。副委員長」
「何を言うのよ。女の子の時、控えめな胸をしつつ、男らしい口調のギャップが可愛いじゃない!!!」
「だから、それが、病気なんだ。聞いてるこっちがおぞましく思える」
「ズィルバーはとんでもないティアに惚れ込んだものね」
ナルスリーたちは怖気が奔った。
紅茶を飲み、お菓子を口にしながら、お茶会ならぬ女子会をしている。
女子会と言えば、定番の恋愛事だ。
「そういえば、一年のアルスくん。ナルスリーとけっこう、仲がいいじゃない」
「確かに、教育期間は終わったはずなのに、ナルスリー。あなた、アルスと一緒にいることが多くない。委員会活動以外の時も一緒にいるのをよく見かけるんだけど……」
ティア殿下とニナの詰問にナルスリーは“えっ!?”と動揺を禁じ得ない。
「あっ、僕もそれは気になる。ナルスリー。教育期間以外でアルスくんと一緒に見かけるのが多いな」
「もしかして、アルスくんのような男が好みとか?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべるノウェムたち。
「べ、べべ、別に、アルスくんをそんな風に見ていないってば!? 一年生だから心配しているだけよ」
ナルスリーは慌て、言葉を詰まらせながらも弁明をする。
しかし、顔を赤くしている時点で、うそをついてるのは明確な事実なほかなかった。
「どうして、うそをついてるのかしら?」
「顔も赤いし」
「え!? そ、そそそ、それは、その……」
しどろもどろになるナルスリーにティア殿下が良くも悪くも追い打ちをかける。
「恋愛云々はさておき、ライヒ大帝国は“教団”の一件以降、人口が減ったから。恋愛とか結婚とかの補助できる法ができたそうよ」
(姉様の受け売りだけど……)
「どういうこと、ティア?」
「帝国法で結婚した人たちへの助成金を支給する。民なくして国は成り立たない。だから、成人してすぐに結婚したっていう民が多くなったのよ。親衛隊にも、これが反映されているわ」
「へぇ~」
「なので、委員会内でも恋愛していいけど、羽目を外しすぎないようにね。羽目を外しすぎたら、今までの倍の仕事をしてもらうから」
ニコッと迫力のある笑みを浮かべるティア殿下にナルスリーたちはサァ~ッと顔を青くして大きく頷いた。
ティア殿下の忠告はさておき、彼女はズィルバーと大帝都で買い物に行ったときの話をし始める。
「ズィルバーって、着せ替え人形させられるとぐれちゃうのよ」
「ぐれる? あいつが」
「想像できない」
ナルスリーたちはズィルバーがぐれる姿が想像できなかった。
「だって、ズィルバーって、女の子の服が似合うんだよ」
「確かに、委員長は見た目が女の子だから。男の子と言われても男とは思えない」
「しかも、いくら鍛えたとしても、筋肉がつきづらい身体をしている。まあ、見た目の問題で内側から鍛えているのなら話は別だけど……」
「ズィルバーは男の服は似合わない。いや、似合うと思うけど、似合うかと言われれば、微妙と言ってしまうかもしれない」
「っていうか、委員長は華奢すぎる。女の私たちより、女の子っぽい体型ってどういうわけ!?」
「肌が綺麗だし。髪の毛もさらさらだし」
ノウェムたちからも右往左往とズィルバーに抱く疑問や想いを吐露していく。
「ちなみに、エルダさんとヒルデさんがズィルバーに化粧をさせたら、学園中の生徒たちがこぞって、ズィルバーの虜になるかもって言ってたわね」
「ズィルバーの化粧」
「あの綺麗さだと、厚化粧より薄化粧の方がいいから……」
ナルスリーとニナはズィルバーが薄化粧をして、女子用の制服を着たのを想像する。
「「…………ッ!?」」
途端、彼女たちの顔がほんのり赤くし、煩悩に支配されかかってしまった。
「まずい。その気になれば、ズィルバーは学園を支配してしまう」
「もしかして、真の強敵ってズィルバーだったりして……」
今になって、ナルスリーとニナは身の毛がよだつかのような、鳥肌を立たせてしまった。
「副委員長。委員長は着せ替え人形され続けるとどうなるの?」
「食費とか気にせずに、何でも食べるわね。おまけに――」
「おまけに……?」
「異能体質で男になった時は豪快に、女になった時は上品に食べるのよ」
(なんで、そう忠実なんだ)
性別の枠すら超越するズィルバーが、なっている性別に合わせて、食べる姿勢を見せる忠実さを持ち合わせていた。
「しかも、あの身体のどこに消えるっていう食べっぷりを見せる」
「ざっと、どのくらい?」
具体的な量を尋ねる。
「大体、学園食堂の八分の一か四分の一ぐらい」
具体的な目算を示すティア殿下。
ナルスリーたちも、それほどの量をどこに消費しているのかが気になってしょうがなかった。
「前にズィルバーが拗ねちゃって、焼きが回ったとき、銀貨十枚ぐらいは消費されたから」
『銀貨十枚!?』
とんでもない食費にナルスリーたちはゾッとする。
「あと、ズィルバーが拗ねてるときは誰だろうと手玉に取れると思って。前にレイン様が泣いちゃって、謝罪するほどだからだ」
「ズィルバーはなんて言ったの?」
「これ以上、弄るのなら、しばらく言うことを聞かないとか、大っ嫌いって言われたいとか言っていたわね」
ナルスリーたちもズィルバーから、そのような言葉を言われたら、たまったものじゃないと認識した。
「あの時の教訓として、ズィルバーを弄るときはほどほどにしようって思った。彼の機嫌を伺わずに弄ると聞く耳を持たないから」
彼女はナルスリーたちに、この教訓だけはしかと忘れないように、と念押しした。
彼女たちもズィルバーにどんなことをされるのか分からないから、という理由でもあった。
「そういえば、ジノとシューテルって弄ったら、どうなるのかしら?」
率直な疑問を口にするティア殿下。
彼女も意外と友人たちのことを知っているようで知らない。
なので、二人のことをよく知っているナルスリーとニナに聞くしかなかった。
「それで、どうなの? ジノとシューテルって弱みとか嫌なこととかない」
訊ねれば、ナルスリーとニナは顔を揃えて、見合わせた。
「実のところ……」
「私たちもそれほど知らないのよ」
彼女たちは本心から知らないと言い張る。
“静の闘気”すらも使用せずに知らないと言い張るのなら、知らないのだろうとティア殿下は考える。
「でも、私やズィルバーと出会う前から仲が良かったじゃない」
「仲がいいのは親同士で知り合っただけ」
「他の流派も学んでこいという方針で知り合って仲良くなっただけだから。それほど、詳しく知らないんだ」
「それにジノはズィルバーと出会う前までは言われたことをそつなくこなす案山子みたいなもの。ズィルバーのために力を尽くし、忠義するようになったのは彼と出会ったときぐらいよ」
「ふぅ~ん。そうだったんだ」
(確かに、出会った頃のジノはニナについて行くだけの従者的な立ち位置だったわね。変わったのはズィルバーに出会ったというわけ、ね)
彼女も彼女で出会ったときの印象を思いだした。
「じゃあ、ジノとシューテルの弱みが知らないというわけね」
残念、とガッカリするティア殿下。
だが、時間の問題。ゆっくり時間をかけて生活していれば、自ずと分かってくるものだろうと彼女は判断した。
「それにしても……」
「どうしたの?」
「いやね。北方との交流で知り合った漆黒なる狼。人数では私たちの方が上だけど、質に関していえば、私たちに負けていなかったわね」
ニナは漆黒なる狼の幹部陣営の実力を思いだす。
「そういえば、そうね。特にカインズはすごかった。リーダーであるカズにあそこまでの忠義を示すとはね」
「そういう点で見れば、ジノに似てるところがあるわね」
「確かに、自分はリーダーを裏切らないっていう熱い正義を持ってるって感じがしてさ。部下からも信頼されてるよね」
ジノとカインズに似てるところがあると呟くナルスリーとニナ。
リーダーを必ず守り通す。いや、リーダーの進むべき道を邪魔する相手は蹴散らしていく姿勢。
穢れなき忠誠が見え隠れしている。
「ズィルバーもズィルバーで私たちのことを信頼しているし。なにより、一度、口にしたことは死んでも張り通すっていう気概があるじゃん」
なにごともやり通す。
それが男の心情なのかもしれない、と彼女たちは思った。
「そうだ。北方のことで思いだした。夏期休暇が過ぎれば、大帝都に召喚されるわ」
「北方を防衛した功績として?」
「それもあるけど、“魔王傭兵団”を壊滅させた事実を確認するためでもあるわ。確認を終え次第、委員会に褒賞を与えるという考えよ」
「事実確認を兼ねているわけ。子供の私たちが傭兵団を壊滅させた事実に半信半疑になってる、か」
「言いたいことも分かる。お互い、総力戦だったとはいえ、本当に壊滅させたのかと言われれば、疑ってもしょうがない」
ヤマトとノウェムが皇宮側の心境を察する。
「そう。父様も傭兵団が北方の副学園長と手を組んでまで目論んだのか。その真意を聞いてみたいという腹もある。囚われていた子供たちの処遇も同じよ。皇家に預けるかレムア公爵家に一任させるか。私としてはレムア公爵家に一任させた方がいいと思う。なにげにカズとハルナに好かれてるようだし。父様も、その考えで一任するでしょう。移動するだけでも時間と費用がかかる」
「確かに、北方に向かうだけでも日数がかかったし。なにより、外が寒くて行くのも苦労した」
「北の寒さを舐めてたぁ~」
「コロネ。気が抜けるから止めて」
やんわりとコロネを指摘するノウェム。
「でも、北の寒さを舐めていたのは事実。特に北海の寒さは異常だった。あの極寒の中、なにごともなく動けていたコートには感謝のほかない」
「ズィルバーとキャサリンさんのおかげね」
「もう二度と筋肉達磨に会いたくない」
ティア殿下たちはキャサリンのことを思いだし、ゾクッと寒気を催した。
思いだす度に鳥肌が立たせてしまっている。
あの筋肉鎧のキャサリンの姿が出る度に頭を横に振って霧散させる。
「とりあえず、忘れましょう。キャサリンさんなんて見たことがないし、聞いたことがないってことで」
「そ、そうね」
「う、うん」
ティア殿下の意見に賛同し、皆が皆、キャサリンのことを思いださないよう懸命に努力することを決めた。
「僕個人で気になったことだけど、今回、第二帝都支部の親衛隊は独断専行で北方の防衛に向かったじゃないか。彼らへの対応いや処遇はどうなるんだ」
「事実上、放任よ」
ヤマトの疑問にティア殿下が答える。
「放任なのか」
「ええ、“魔王傭兵団”を壊滅させた一端もあるから。父様も放任するけど、親衛隊内部の組織改革を行うとは聞いているわ。親衛隊本部でなにかと派閥争いをしている中で、あのような出来事が起きた。本部も無視して派閥争いをしていたから。父様も怒って、親衛隊上層部に解雇通知を叩きつけたそうよ」
ティア殿下が告げた内容にヤマトだけ、やはりという顔になる。
「ヤマトは知っていたの?」
「うん。親衛隊のヨーイチから内情を聞いていたんだ」
「なるほど。末端の方にも上層部の内情が知られているか。親衛隊も堕ちたものだ」
カナメは親衛隊の信用も地に堕ちたとあきれ果てる。
「だからこそ、父様が親衛隊上層部を軒並み一掃したんでしょう。有事の際に役に立ち、国を守り通せる優秀な人材を配置できる。姉様の話によると、元帥以外の上層部は元帥の座を狙っていた老年ばかりだったそうよ。それを父様が一掃したわけ。でも、元帥であるセンガイも自分の非を認めて、職を降りたらしい」
「と、すれば、親衛隊もしばらくは荒れるな」
ヒロはお菓子を口にしながら、今後の未来を口にする。
「そうみたい。だから、しばらくは学園の風紀を守る。それが私たちのすべきこと。学園生徒たちに当たり前な生活を守ってあげないとね」
ティア殿下はクスッと優しげな笑顔を浮かべれば、ナルスリーたちも笑顔を浮かべて頷き合った。
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