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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流~決戦~
130/296

英雄の好敵手。伝説を乗り越える。②

 グレンがそこまで言わせるユウトの潜在能力の底知れなさ。

 シンたちは息を呑まざるを得なかった。

「だから、グレンはシノア部隊を行かせたというのか」

「まあな。実際、ガキ共は“三災厄王”を倒しやがった。既に佐官クラスの実力は持ってる。ただ、それに付随するだけの学力が足りねぇだけだ」

『あぁ~』

 グレンが口にした欠点にシンたちも納得する。

「確かに、あの部隊はシノアとミバル以外は学がない」

「ユウトくんは特に本能で戦いますから」

「ユウトは戦いでこそ、真価を発揮するバカだ。普段はバカだが、戦いにおいては頭が回る上に学習能力が高い」

「まあ、確かに、彼って、シグミやゴシシの絡め手にも数回で対応してたし」

「明らかに異常だったな。あのシノアですら、唖然してたし」

 シンたちからもユウトの順応性に飛び抜けていた。

「後は、ユウトのガキが、根幹を理解したら、誰も止められねぇぜ」




 一方、件の少年ことユウトはといえば――。

「はぁ~」

 溜息を吐き、悪態をつく。

「ったく、キララって言葉を聞いたせいで、グレンに会ったときのことを思いだした」

(ついでに……あの時の記憶も……)




 ユウトが思いだした記憶。

 それは、グレンとマヒロが出会ったときの記憶だけじゃない。

 あの人物との記憶であった。


『少年。どうかしたの?』

『あ、あぁ……』

『可哀想に傷だらけじゃない。全く、人族(ヒューマン)の子供相手に、ここまでするとは、竜人族(ドラグイッシュ)も落ちぶれたもの』

 霞む瞳で見たのは、薄水色の長髪の女性だった。


 パチパチと火花が散る音が耳垢をくすぐる。

『う、うーん……』

 目を覚ました少年は起き上がって、すぐに気づいたのは、手当てされていたことだ。

『起きた?』

 声がした方に振り向けば、見目麗しい女性がいた。

 そう、薄水色の長髪の女性だった。

 少年はあまりの綺麗さに思わず、見惚れてしまった。

『怪我は治しておいたわ。でも、しばらくは安静していなさい』

『い、やだ。俺、にはやることが……』

 少年は身体に鞭を打って、身体を動かそうとするけども、傷に障ったのか激痛が走り、顔を苦悶する。

『頼もしいけど、今のまま、外に出れば、死ぬだけよ。あなたには生きたい理由があるんでしょう』

『いきたい、りゆう……』

 少年は生きたい理由を思いだしたのかコクッと頷いた。

 女性は頷き、椅子に座る。

『今は傷を癒して、養生しなさい』

 少年は女性に言われて、横になって、眠りについた。

 女性は少年の髪を撫でながら、優しく微笑む。

()()()()()()()()()()()()()()()()なんて……』

(施しの精神。大人でもできないことを、この子はか弱い子のために身を削るなんて)

『死なせるのは惜しいわね。あなたなら、手を差し伸べる? リヒト……』


 傷が治るまで、少年は女性から語学や力の扱い方を教えてもらい、傷が癒えても、力の扱い方の手解きを受けてもらった。

『いい。いかなる種族には秘めた力を持っている。どんなことがあろうと、自分の力を疑ってはいけない。大事なのは心の強さ。心の持ち方よ』

『こころ、のもち、かた』

『揺るぎない強い意志は力となって、あなたを強くする』

『ゆるぎ、ない、いし……』

『あと、あなたが本当に守りたい人が見つかったとき、その力を使いなさい』

『ほん、とうに、まもりたい、もの……』

『そのためにも私が力の使い方を教えてあげる。言っておくけど、泣き言なんて言わせないから』

『うん』

 少年は傷が完治するまで、鬼ともいえる女性の指導を受け続けた。

 それは大人の竜人族(ドラグイッシュ)を倒せるほどに――。


 だが、女性との別れは唐突に訪れた。

『これで、今、私が教えることは今日が最後よ』

『……え?』

 唐突に告げられ、少年は呆然と立ち尽くす。

『どうして……どうして! 俺は――まだ全部教わっていない!』

『あなたは強くなったわ。でも、それは、ここでの話。あなたは外に出て、世界と触れあいなさい』

 薄水色の長髪の女性は穏やかに微笑む。蒼き瞳に哀しみを湛えて。

『……いやだ』

『え?』

『いやだ! お前は傍にいろ! ずっと俺の傍に――』

 言葉の途中で、少年はハッと口を噤んだ。

『だ、だから、その、俺は……』

 しどろもどろに顔を赤らめる。

『そんな表情をするようになったのね。出会った頃はずっと生気がなかったのに』

 薄水色の長髪の女性は少年の頭を優しく撫でた。

『背も少しは伸びた。成長期なんだ。もっといろんなものを食べて身体を強くさせなさい』

『……か、からかうな!』

 少年は怒鳴ったように首を振る。

 彼女と出会う前の少年は、こんな風に感情の起伏が少なかった。

『俺は――』

『……?』

『俺は、まだ強くなりたい』

 少年が抱いた気持ちが強くなりたいという想いだった。

『そう……ごめんなさい』

『どうしてっ、どうして謝るんだよ――』

 女性は少年の言葉を塞ぐように口づけをした。

『……!』

 驚きに目を見開く少年。

 女性は唇をそっと離すと、恥じらうように微笑んだ。

『キスは初めて?』

『…………』

 少年は呆けた表情で頷く……頭が真っ白でなにも考えられない。

 少年の右手の甲に純白の輝きを放つ紋章が刻まれた。

『――覚えておいて、これはあなたと()()()()()()との契約の口づけ』

 頬を撫でる女性の指先は、光の粒子となって虚空に消え始める。

『最後に名前を聞かせて』

『俺は、()()()

『私はキララ――ユウト、覚えておいて。()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()

『うん』

『忘れないで、私は――』

 ――()()()()()()()()()()()()()()




「はっ!!?」

 思いだされた記憶の中に、ある大事なこと思いだす。

『本当に困ったときがあったら、私の力を使いなさい』

『私はあなたの中で見守っているから』

 この二つを思いだし、ユウトは前に喧嘩したとき、ズィルバーから言われたことがあった。


『ユウト。キミは精霊に愛されている。どのような精霊かは知らないが、キミの中で見守り続けている。キミは一人じゃない』

『何を言ってる!!?』

『精霊は使い手の実力が伴わないとき、使い手の中でずっと待ち続けている。()()()使()()()()()()()()()()()()


「精霊は使い手とともに在り続ける」

 ユウトは再度、右手の甲を見る。

 未だに純白の輝きを放ち続ける紋章。

 ユウトはフッと笑いを飛ばし、ようやく、理解した。

「全く、俺はバカだぜ。グレンから学をつけろと言われたけど、ここまでバカだと、笑えねぇな」

(こんなバカでも、力を貸し、待ち続けてくれるなんて……俺はもう、孤独じゃない。皆がいる。守りたい者がある。だから――)

「力を貸してくれ――()()()!!!」

 ユウトは叫んだ。

 かつて、自分を育ててくれた親に、最愛の精霊の名を。

『全く、遅すぎるのよ。ユウト!!!』

「ッ!!!」


 途端、ユウトの右手の甲から目映い光が辺りを照らした。

 ユウトに近づいてきていたヘクトルもあまりの目映さに腕で目を覆ってしまう。


 傭兵団のアジトで死闘を繰り広げているズィルバーとアキレス。

 かの大英雄の二人ですら、階下から放たれる巨大な力に動きを止めてしまう。

「なんだ、この力は!!?」

「この力、もしかして……キララさん?」

『うそでしょう!!? 鬼騎士長!!? 目を覚ましたの!!?』

 力の波動に覚えがあるズィルバーとレインは冷や汗を流す。

(いかん。昔のトラウマを思いだしかけた)

『私もよ。思いだしたくない』

 二人して、千年前の記憶を思いだし、顔を青ざめた。

 だが、気を取り直すようにフゥ~ッと息を吐いた。

「さて、戦いに集中するとしようか、アキレス」

「ああ、そうだな。ますます、戦場は面白くなった」


 屋上でも、階下から放たれる巨大な力を感じとる。

「なんだ、この力……」

「こいつは……“()()()()()”、か」

「“アルビオン”?」

 カズが首を傾げる中、脳内でレンが鳥肌を立つ叫びを上げる。

『うそでしょう。あの鬼騎士長。誰かと契約していたの!!?』

(レン。どうした、妙に怯えてるけど……)

 カズはレンが怯えてることに眉を顰める。

『この力は知ってる。キララさんよ』

(キララさん?)

『私が子供の頃、鍛えてくれた竜人族(ドラグイッシュ)よ』

(少なくとも、千年前の人物か。でも、レン)

 カズは気を切り替えるように言い出す。

「今は眼の前の敵に集中しろ。話は後でいくらでもできる!」

『その通りね。ありがとう、カズ』

 神槍(ブリューナク)を強く握るカズ。

 吹雪を従え、屈強なる力を見せ始めた。


「グレン!!? この力って……」

「おいおい、マジか……こいつがユウトの秘めた力なのか……」

「なに、この冷たさ……外の冷気が入り込んできたの?」

 震えだすサユユにミートが正確な答えを言う。

「これは、中が寒くなったんじゃない。これは寒気(さむけ)だ。鳥肌が立っている」

 彼女は自身の肌が逆立ってることに気づく。

「凄まじい力……人間が放つ力じゃない……これは、精霊?」

「精霊でも、こんな力を放つのか?」

 顔を青ざめるゴシシ。

「とにかく、急ぎましょう!」

 ルラキの叫びにグレンらは走りだす。

 彼らはルラキに対し、“肝が据わってるな”と賞賛した。


 目映い光が収まると、ヘクトルの目に入るのは顔なじみの顔だった。

 薄水色の長髪の女性。大空のように透き通る蒼き瞳。

 女性から放つ圧倒的な力。

 竜の頂点に立つに相応しい王者の気品を見せていた。

「ようやく、私を呼んだのね。ユウト」

 クスッと微笑む女性。

「ああ、バカな俺を許してくれ。()()()

「いいのよ。あなたの成長を。私はずっと見てきたから」

 赦しを乞うユウトに、笑い飛ばすキララ。

 仲睦まじい関係を見せる二人。

 ヘクトルは槍を握り、言葉を紡ぐ。

「せっかくのムードのところ悪いけど、そろそろ、ケリを付けようぜ、少年」

 ユウトとキララ。二人は同時に敵であるヘクトルを見る。

「そうだった。あいつのことを忘れていた」

「あら、誰かと思えば、ヘクトルじゃない。()()()()()()()()()()()のかしら?」

「チッ。相変わらず、傷を抉ることを言うな。キララ」

「知ってるのか?」

「その昔、ヘルトにコテンパンにされた大英雄よ」

「[戦神ヘルト]がコテンパン!!?」

「私もコテンパンにしたわ。ヘクトルは力こそあれど、頭が良くて、ずる賢い」

「ふーん。じゃあ、俺が倒したら、[戦神ヘルト]に並ぶかな?」

「まだまだよ。でも、あなたは大英雄の素質がある。それは私が保証するわ」

 キララから褒められて、ユウトは瓦全、やる気が出てきた。

「それじゃあ――」

「ええ」

 キララは光りだし、小竜になって、ユウトの懐に隠れ潜む。

『今の私を解放したのなら、あなたは既にヘクトルに渡り合えるわ』

(おう)

 ユウトはすぐさま、脳内会話に切り替え、両の手に握る魔剣に“動の闘気”と同時に若紫色の雷を纏わせ、左目から若紫色の魔力が洩れだした。

 ヘクトルは些細な変化だけど、何か変わったのを肌で感じとった。

(少年の雰囲気が変わった。“アルビオン”いや、キララと絆を深めたことで、冥府神(ハデス)の加護が表出しやがった)

「なるほど。さっきまでのお前はせめぎ合っていたわけね」

「あっ? なんのことだ?」

「いや、気にするな。独り言だ」

 槍を構えるヘクトル。

「だが、一つだけ言わせてくれ。形は違えど、オメエはキララの主。ならば、俺と戦う意味がある」

「俺はバカだがら分からないけど、俺の相棒にひどいことをするっていうなら……斬り捨てるまでだ!!!」

 ユウトの身体から洩れ出す“闘気”が意志を従え、滾らせていた。

「いい目だ。俺と戦うに相応しい目だ。今までのオメエは“アルビオン”の契約を持つ英雄の卵として興味を抱いていた。だが、今は違う。オメエは既に英雄として戦ってやる」

「俺は俺の守る者のために戦うだけだ。お前が倒し、俺が勝つ!!!」

 滾らせる両者の“闘気”。

「いくぞ」

「来い!!」




 ガキンッ、ガキンッとぶつかり合う金属音。

 最速と最速。最硬と最硬。大英雄と大英雄。

 剣と槍が衝突しあい、火花を散らす。

「はっ、ハアー! 楽しいぜ!!」

「俺もだ。ここまで昂揚するのは、あの時では実感できなかった」

 ズィルバーが言う、“あの時”とは千年前の死闘だ。

 あの時は国家の威信を懸けてぶつかり合った。

 今回は違う。互いに貫き通したい信念のもと、死力を尽くしている。

 そこに、国も組織も関係ない。

 ただ、戦士として戦い続けるのみ。

「さて、そろそろ、行くぜ」

 アキレスが構えだす。

 彼の構えにズィルバーは脳裏に過ぎらせた。

(あの構えは――)

 ズィルバーはすぐに聖剣(クラウ・ソラス)に空色の雷と“動の闘気”を纏わせる。

「“疾風なる槍シュネリヒカイト・シュペーア”!!!」

 烈風を伴わせた刺突がズィルバーに襲いかかる。

「ぐっ!!?」

 ズィルバーは避けるどころか、真っ正面から受け止めにかかった。

(耐えろ、レイン。キミは最強の精霊だ!!!)

『任せなさい! あんな死人の槍なんざ耐えきってみせるわよ!!』

 足に力を入れて、踏ん張りをつけてはいるも、初速から終速まで最速を誇るアキレスの刺突は躱すことなど不可避。

 なので、ズィルバーは躱すのではなく、受け止めにかかった。

「俺の刺突に受け止めるなんざ。たいした剣だな」

「当たり前だ。レインは俺の相棒にして、史上最高の精霊だ!!!」

「面白ぇ! ならば、その剣、へし折ってやる!!」

「その槍、叩き折ってやる!!!」

 ズィルバーは腕に力を入れ、弾き飛ばす。

 弾かれたアキレスは距離を取って、再び、刺突の構えに入る。

「相変わらずの怪力だな」

「キミに言われたくないね」

 ズィルバーも聖剣(クラウ・ソラス)で刺突の構えをする。

 彼がとった構えにアキレスは記憶に覚えがなかった。

「お前が刺突の構えだぁ!!?」

「見せてやる。この技は、あの時、使用しなかった技だ」

 剣に纏いし、“動の闘気”と空色の雷。

 互いに構えた後、ぶつかり合った。

「“疾風なる槍シュネリヒカイト・シュペーア”!!!」

「我が剣は守護神(アテナ)の槍なり――“不滅なる護神の槍(アイギス・シュペーア)”!!!」

 剣の鋒と槍の穂先が衝突する。

 バチバチと雷が迸り、凄まじき衝撃波が壁や天井に亀裂が入っていく。

「オォォォォォォォーーーーーーーー!!!!!!」

「アァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!!」

 互いに雄叫びを上げ、力と“闘気”が増していく。


「委員長……」

「委員長、かっこいいな」

 ムサシとコジロウが遠くから戦いを眺めていた。

 ズィルバーの勇ましさに再度、惚れ込み、二人は頷き合って、互いに声を揃えて叫んだ。

「「勝てぇええええ、委員長!!!」」




 滾らせる“闘気”がぶつかり合う。

 魔剣と槍がぶつかり合い、“闘気”の残滓だけが残る。

「あぁ!!」

 両の剣の刺突を叩き込むユウト。ヘクトルは手をかざし、大きく纏わせた“動の闘気”を盾にして、防ぎにかかる。

 防いだ際、波紋が生まれ、周囲の景色を呑み込んでいく、

 ユウトが若紫色の雷を纏わせた剣を振るい、斬り裂いた。

「やるじゃねぇか、少年」

 ヘクトルは“動の闘気”を巧みに扱い、槍の形を形成する。

 形成された槍は数本。全て、ユウトの上に滞空する。

「なっ!!? “闘気”って、そんなことができるのか!!?」

「大英雄となれば、これぐらいは出来るぜ」

 ユウトが驚く中、ヘクトルは先人の知恵としてわざわざ、説明してくれた。

「そら、いくぞ」

 数本の槍は一斉にユウトめがけて降り落ちた。

 降り落ちた槍が床に着弾すれば、爆発したかのような衝撃波が飛ばした。

 その爆発は火山が噴火したかのような規模で、辺り一帯を土煙に覆わせる。

 ガラガラと崩れ落ちる瓦礫。

 ユウトは一階にまで叩き落とされ、上に視線を転じる。

「痛ぇな」

『頑丈になったね』

(まあな。さて、“闘気”の扱い方に関してはびっくりした。そういや、ズィルバーも剣を弾かれたとき、“闘気”を大きく纏わせて腕自体を剣にしていたな)

 思いだすのはズィルバーが臨機応変に“闘気”を扱ってたときのことだ。

『“闘気”を表出させ、纏わせるだけでも、相当な技術だけど、表出させれば、纏わせるのは錬磨次第よ』

(なるほどな。さて、その話よりも……)

『ええ』

 ユウトは跳躍し、土煙の中に突入する。

 剣を振るって土煙を斬り払った。

 斬り払った先にヘクトルがいて、彼もユウトが無傷だったことに最初から分かっていた。

「やっぱ、下に逃れたか。咄嗟の状況判断力が高いな。警戒に値するぜ」

「御託を言うために待っていたのか? なら、随分と余裕だな」

「そりゃ、どうも」

 ユウトは地を蹴ったのと同時に魔剣――“布都御魂”と“蓮華雹泉”に“動の闘気”と若紫色の雷を纏わせ

「“北蓮流”・“剣舞(つるぎのまい)”!!!」

 無数に飛び交う斬撃を放った。

 迫り来る斬撃を前にヘクトルは槍をクルクルと回す。

「“大車輪”!!!」

 襲いかかる全ての斬撃を払い落とした。

 払い落とした斬撃が床や壁、天井を斬り裂き、亀裂がさらに広がる。

 ヘクトルは左目を瞑り、“闘気”を集中させる。

「ッ!!?」

 ユウトは“静の闘気”による先読みで次にヘクトルが攻撃手段に驚く。

「マジで、何でもありだな!!?」

「“射貫かれる眼光(アイン・サハム)”!!!」

 閉じた左目から洩れる“闘気”。目が開かれた際、光線が放たれた。

 ユウトは首を反らす形で光線を躱した。

 目から光線を放った事実に驚愕して目を見開いた。

「千年前は何でもありだったのか!!?」

『当時と現代のレベルに差があったからね』

「ふざけんな!!」

「オラ、少年。いくぞ――“射貫かれる眼光(アイン・サハム)”!!!」

 ヘクトルは左目から光線を連続で放ち続ける。

 ユウトは身体を捻らせ、紙一重で光線を躱す。

 ユウトは目を凝らし、光線の出所であるヘクトルの左目を見る。

(すごすぎて、びっくりしたが、よく見れば、目を向けた方に光線を放ってる)

「だったら――」

 ユウトは着地してすぐさま、地を蹴り、距離を詰める。

 ヘクトルは近づけないように光線を放つも、ユウトは“静の闘気”を用い、光線の軌道を読み切り、すれすれの所で躱す。

「たった数回で癖を見抜いたか」

 光線を躱していくユウトを見て、ヘクトルは順応力と観察力に目を見張った。

(さすが、キララが認めるだけのことはある)

「仕方ねぇ」

 “闘気”で再び、槍を作り上げる。

 ユウトは“静の闘気”で先を読む。

(投擲…)

「こいつを躱してみろ!! “気の槍(アウラ・シュペーア)”!!!」

 ヘクトルは“静の闘気”でユウトが躱す先に投擲しようとする。

 しかし、“静の闘気”で先を読んだとき、ユウトは()()()()()()()()()()のが見えた。

「ッ!!?」

(こいつ、()()()()()()()()()か!!?)

 思い切った行動に僅かだが、目を見開く。


 ヘクトルの投擲に際し、ユウトは躱そうかと考えた。だが、躱そうとしても、ヘクトルの前では下手な回避は無意味なのを、戦いの中で理解し、学んだ。

(躱されたところに投擲するなら、正面から迎え撃つしかねぇ。この場面だったら、ズィルバーだってそうするはずだ)

 ユウトはライバルのズィルバーならしそうな行動を想像し、負けじと二本の魔剣に“動の闘気”と純白の雷を纏わせる。

 ここぞという勝負所の嗅覚がズィルバーに引けを取らなかった。

「来てみやがれ! このまま、ぶった斬ってやる!!」

 ユウトは挑発する。

 躱しはしないと――。

「いいだろう。喰らいやがれ!!!」

 ついに、投擲した。

 “闘気”で練り上げられた槍が――。

 ユウトは走りながら、迫り来る槍を見る。

 彼の頭の中には躱すことなんぞない。敵を斬ることしか考えていなかった。

(限界を超えろ!!)

 腕を交差し、構える。

「“轟け、竜の十字架(ドラゴラム・クロス)”!!!」

 槍の穂先から斬り裂き、飛んでいく斬撃。

 飛んでいく斬撃はヘクトルの胴体に直撃し、血肉を斬り裂いた。

「ゲホッ!!?」

 血を吐き、激痛に伴い、声にもならない呻き声を上げる。

 クロスに斬り裂かれた傷口。傷口からはとめどなく血が流れ落ちる。

 咳き込んでは血を盛大に吐き散らす。

「やるじゃないか、少年……」

 ハアハアと肩から息を吐き、脂汗を流していた。

 だけど、漲る“闘気”に弱まるどころか強まっていた。

「まだ、戦えるぞ」

「ッ!!?」

 ゾクッと背筋を強張る寒気に襲われるユウト。

(なんだ、これは……)

『これは、決死よ』

(決死?)

『命を賭してまで、この敵は確実に殺すという覚悟みたいなものよ。初めての経験だから仕方ないわ。とりあえず、向こうは全身全霊の一撃をたたき込みに来る。ユウト。ここがあなたの見せ所よ』

「ああ、分かった」

 キララからヘクトルの覚悟を知り、自分も全身全霊でぶつからないといけないことを知った。

 大きく息を吸った後、“闘気”と純白の雷を放出する。

「ほぅ。ここに来て、さらに“闘気”が増すか。男気があるな」

「ここで逃げるのは男じゃない。俺が倒すべき男はこんな障害を乗り越えなければならないんだ」

「倒すべき男、か」

 脳裏に出てくるズィルバーという少年。いや、かつての戦友、ヘルト。

「俺は遠かったけど、お前には届きそうだな。だが、その野望を俺が打ち砕いてやろう」

 ヘクトルは自らの装備を剥ぎ取り、“闘気”に変換させ、槍に収束させていく。

 ユウトは“静の闘気”でヘクトルの“闘気”を感じとる。

(己の命すらも燃やし、全身全霊の一撃に変える。まさに、決死。キララの言うとおりだ)

 目を閉じ、“静の闘気”で気配を探り、皆の状況を把握する。

(シーホ、ミバル。ボロボロだが、無事だ。ヨーイチも誰かを助けてるし。グレンが来てる。シノアは……)

 ユウトは気配を探るのを強め、シノアの容体を確認する。

(シノアも無事か。よかった……でも、せっかく、()()()()()()()……)

 この時、ユウトは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

(なんか、シノアの前では、かっこわるいところを見せたくないな)

「よし」

 ユウトはさらに“闘気”と純白の雷を放出し、二本の魔剣に流し込む。

「俺の野望を打ち砕くなら、打ち砕いてみろ。逆にお前の意志を噛み砕いてやる!!!」

 強き目で睨みつけるユウトにヘクトルはニヤリと口角を上げる。

「いい目だ。その目をする奴はお前が二人目だ」

「二人目? 一人目は?」

「ヘルトさ」

「[戦神ヘルト]……」

「お喋りはここまでだ。いくぜ」

 ヘクトルが持つ槍に熱が迸る。熱気で大気が歪んでいく。

 熱が迸る槍を手に刺突の構えをする。

 ユウトも魔剣を力強く握り、腕を交差させる。

「人が神に至れる一撃――“絶対なる気の槍フォルコメン・アウラ・シュペーア”!!!」

 地を蹴って、ユウトを貫こうとする槍。

 その一撃は、神をも貫く限界を超えた究極の一撃を秘めていた。

 対して、ユウトも地を蹴って、腕を交差させる。

「噛み砕け。“()()()”――“全てを斬り裂く竜の爪ドラゴラム・オニュクス・クロス”!!!」

 その一撃は、なにかも砕き、斬り裂く究極の一撃を秘めていた。


 二本の魔剣と槍が衝突するかと思いきや――


 ガキンッ!!!


 槍の柄が砕かれ、ヘクトルの胴体から夥しい量の血が盛大に撒き散らした。

 ユウトが放った一撃は肉を裂き、骨を断った。いや、より正確に言うなら、肉を裂き、骨を砕いたが、正しいだろう。

 口から盛大に血を吐き散らし、ドサッとうつ伏せに倒れ伏したヘクトル。

 ぴゅるるる、ズサッと床に突き刺さる槍の穂先。

 ヘクトルを斬り裂いたユウト。

 ハアハアと荒い息を吐いてるが、突如として、ゲホッと盛大に血を吐いた。

 左脇腹に目線を下げれば、僅かだが、抉れていた。

 ゲホゲホと咳き込み、口の中が鉄の味で支配されていた。

 グラッと倒れそうになるも、足を前に出して、なんとか踏みとどまった。

「倒れねぇ……」

 意地を張り通し、自分が勝者だと分からせるために。

 意地を張り通すユウトを見ずにヘクトルは笑いを飛ばす。

「根性あるな……少年」

 声が掠れていた。

 おそらく、砕かれた骨が肺に突き刺さったのだろう。

 コヒュー、コヒューッと風前の灯火かのような呼吸をしている。

 最後の力を振り絞って、うつ伏せから仰向けに倒れたヘクトル。

「実に……いい、戦いだっ、た……」

 たどたどしい息を吐きつつ、先の戦いの感想を口にする。

「復活……させ、られ、たが……悔いの、残らな、い……戦いをした……」

 途切れ途切れだが、ユウトはヘクトルが口にした話に違和感を覚える。

(復活させられた? いったい、誰が……)

「少年……年寄りの、冷や水だ、と思って、聞け……人生は山あり谷あり、みたいなものだ。思い通、りにいか、ないだろ、う……それでも、自分が、貫く……信念だけ、は……忘れ、るな……」

「ああ、肝に銘じておく」

 ユウトの返答にヘクトルはニッと口角を上げる。

 虚ろな瞳で槍に見つめる。

「あの、槍……持っていけ……あのま、ま、寝かせ、るのは……可哀想だ、からな」

「ああ、もらっていく」

 ユウトは穂先がある槍を握り、回収する。

「最期、だ……少年、名を、教え、ろ……」

「ユウト。俺はユウトだ!!!」

「ユウト、か……いい、名じゃ――」

 瞼が閉ざされ、呼吸が止まる。

 絶命したのが、この目ではっきりわかる。

 サラサラと土塊のように消えていくヘクトル。

 この事実だけでも、彼が、この世の人間、この時代の人間じゃないのがはっきりと分からされた。

 しかし――

「礼を言う。俺はまだまだ強くなれる」

 戦った相手に賛辞を送り、ユウトは魔剣を鞘に納めて、左脇腹を押さえながら、歩きだした。

 だが、踏み込んだが運悪く、戦いによって脆くなった床だった。

「うわっ!!?」

 崩れゆく床に足元を掬われ、一階に落ちていく。


 ヤマトとヨーイチがいる場所へと走っていたグレンら一行。

 だが、突如、頭上から瓦礫が崩れ落ちてきて、一時的に動きを止めてしまう。

「な、なんだ……」

 辺り一帯を呑み込む土煙。

 ゴホゴホと咳き込むグレンたち。

 サユユが土煙から見える黒影を視認する。

「グレン様。土煙の中に誰かいます」

『!!?』

 サユユの叫びに警戒心を露わにするグレンたち。

 徐々に土煙が晴れ、彼らの視界に入ったのはゲホゲホと咳き込んでいる少年――ユウトであった。

「ユウト!!?」

「あっ、グレン」

 グレンの叫びに、ユウトの呆気ない声が重なった。

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