“炎王”セン、“鎧王”セルケト陥落。②
不吉な予感がするヤマト。
ヨーイチは、このような不気味な部屋にいること自体に不吉さを感じていた。
「ねえ、早く、ここにいる彼らを連れて行かないと……」
「そうだな」
ヨーイチの意見を聞き入れ、鉄檻を壊すことに決めたヤマト。
棘突き金棒で鉄檻を壊し、少女を助ける。
「大丈夫?」
優しげに声をかければ、少女はコクッと頷いた。
「よし。他の者たちも助けるぞ」
「それはいいけど、何人いるの?」
ヨーイチは暗闇の中に何人囚われているのか分からず、思わず、訊ねてしまう。
ヤマトは周囲を見渡し、“静の闘気”で人数を把握する。
「ざっと見積もって、二十人以上はいると思うよ」
「二十!!?」
「ここには人族じゃなく、異種族の子供が収監されている。耳長族、巨人族、小人族、獣族など、いろんな種族がね」
「そんなにいるの!!?」
ヨーイチは暗闇を見渡し、自分らがいる部屋はそれほどまでに広い部屋だとは思わなかった。
しかし、徐々に暗闇にも目が慣れてきたようで、部屋の内装が隅々まで見えてきた。
「部屋の全容が見えてきた」
「改めてみると、よくこれだけの異種族を集められたね」
暗闇に目が慣れ、ヤマトとヨーイチは部屋の全容を知れたことで、どれほどの異種族がいるのか。そして、なぜ、カイが隠そうとした意味を知れた。
二人が目にしたのは予想外の異種族の数だ。
耳長族、獣族、小人族、妖狐族、妖鳥族など数多くの異種族の子供が鉄檻に収監されていた。
中には、このような種族までも収監されていた。
「これは……ねえ、この種族……」
「うん。僕も初めて見た。まさか……こんな種族がまだ、生き残っていたなんて……」
ヤマトとヨーイチ。
二人が思わず、目にしたのは背中に白い翼を生やした二人の少年少女。
ヤマトもヨーイチもかの種族に関しては過去の文献、家族から教えてもらうまで知らなかった上に目にする機会は少なかった。
背中に白い翼を生やす種族は歴史上においても一つしかない天使族。
精霊とは違い、絶滅したとされる種族。しかも、千年以上前に――。
ヤマトとヨーイチは、絶滅した理由を知らない。
知っているのは千年前に生きていた大英雄と精霊のみ。
だが、今の二人には目の前のことが最優先事項だった。
ギロリと睨みつけている少年。少年は少女を守るかのように前に出る。
しかし、食事も碌に与えられていないからか。ガリガリに痩せ細っていた。
でも、少女を守り通そうっていう強い意志で動いており、例え、ガリガリに痩せ細っていたとしても、ヤマトとヨーイチを道連れにするだけの“闘気”を放っていた。
少年の殺気にヤマトとヨーイチは少なからずの驚きを露わにする。
「驚いた。まだ、生きた目をしてる子供がいるなんて」
「子供って言ってるけど、多分、僕らと同い年だよ」
ヤマトはビックリするも、ヨーイチはヤマトの言葉に擁護しつつも若干、否定気味に言い返す。
「でも、驚いてるのは確かだよ。通常、ここにいる彼らの目は死んでいた。売り買いされて、自分は一種族ではなく、家畜として扱われる奴隷の扱いを受けていたのを僕は、この部屋に逃げ込んだとき、初めて知った」
「逃げ込んだ?」
「僕はクソ親父に“魔王傭兵団”の次期頭目として育てられてきたんだけど、それが嫌で、いつも、逃げては捕まえられ、逃げては捕まえられの繰り返しだった。でも、ここに逃げ込んだときは不思議とクソ親父たちも見つからなかった」
「そして、彼らの存在を知ったわけか」
「うん」
ヨーイチの言い返しにヤマトは頷いた。
「でも、彼らの存在が僕はここを出ようと思ったきっかけなのは確かだ」
「だけど、今度は自分が不当な扱いを受けることになった。大人って、度を超えたことをするんだね」
ヨーイチはヤマトの話を聞いたことで分かったことがあった。
(“ティーターン学園”のモンドス講師は異種族への差別的な思想を持ってるかもしれない)
危険な人だというのを認識した。
異種族への差別的な思想。
この思想は千年以上前からずっと続いてる思想。
あるきっかけで、人族は異種族より優れてるという間違った理屈が広まってしまった。
さらに、追い打ちをかけたのが異種族の復讐。
人族に殺された異種族が団結し、人族の国々に侵攻した。
侵攻はするも、ヒューマンの手によって返り討ちに遭い、絶滅の一途を辿ったという歴史がある。
生き残った異種族は、ある国の領内でヒソヒソと暮らし始めた。
その国こそが、ライヒ王国(後にライヒ大帝国となる)。
初代皇帝――レオス・B・リヒト・ライヒ。
初代媛巫女――セリア・B・レイ・ライヒ。
この二人が異種族を迎え入れ、居住区と自治権を与えた。
東西南北そして中央の五大将軍(後に五大公爵家となる)の彼らとの交友を深める権利を与えた。
“困ったときがあれば、彼らの助けを受けよ”と彼が言い残したことで、安寧を手にした異種族がいる。
しかし、安寧を手にした異種族もいれば、安寧を手にすることができなかった異種族もいる。
ヤマトとヨーイチから少女を守るように痩せ細った身体で前に出る少年。
彼ら二人も安寧を手にすることができなかった異種族の一つ、白き翼を生やす種族――“天使族”である。
場面が変わり、“鎧王”セルケトと死闘を繰り広げてるミバル。
ハアハアと肩から息を吐いてる両者。だが、ここで、セルケトが、あることを告げた。
「聞くが、あなたたちの仲間はどうなってる? とくにセンと戦ってる彼女たち。生きてると思えないがな」
「どういうことだ?」
セルケトが言ってる意味が分からず、聞き返すミバル。
「私たち傭兵団は“血の師団”との兼ね合いで子供を買い取っている。その中に珍しい種族がいてね」
「“血の師団”だと!?」
ミバルはセルケトが口にした“血の師団”なる単語を聞き、動揺する。
シューテルは、その単語を聞いても、訝しむだけだった。
「私も“血の師団”なる組織は胡散臭いが異種族の子供を見繕ってくれる。買う側からしたら、この上ないクライアントだ」
「私からすれば、外道に加担する時点で、貴様らも外道であることに変わりない」
ミバル個人、理由もなく、快楽のために殺す外道な者たちを許さないという正義がある。
セルケトの言動がミバルの正義の付箋に触れ、激情に駆られそうになる。
激情に駆られ、我を忘れそうになるも、“静の闘気”で激情を深く呑み込んだ。
「ほぅ~」
セルケトは激情を深く呑み込んだミバルの器用さに感心した。
(怒りすらも深く呑み込んだ。見事に“静の闘気”が発動している)
「見事なものだが、今の話なら、激情に駆られるだろうに、怒りを深く呑み込み、冷静に立ち返れたことは認めよう。だが、それを抜きにしても、センを相手にしてる彼女たちが負けるとしか私には見えない」
「どういうことだ?」
ミバルは再度、セルケトに聞き返す。
「センもそうだが、今回、買い取った子供の中に、珍しい種族がいてな。センは闇堕ちした天使族の生き残りだ」
「天使族だと!?」
セルケトから明かされる種族にシューテルとミバルは驚きを隠すどころか。むしろ、露わにした。
「センは堕転した天使族――“堕天使族”にして、千年以上前に絶滅したはずの天使族の生き残り。精霊に近しい力を扱え、いかなる環境にも生存できる種族」
「「…………」」
「千年以上前には、神とも呼ぶ者たちがいたようだ」
「じゃあ、なぜ、そんな種族が絶滅することになった」
ミバルが不意に抱いた疑問を尋ねた
「そんなもの……歴史に聞きなさい!!!」
九つの尾が一斉にミバルへ襲いかかった。
場面をさらに変えて、防衛軍主戦場にて。
主戦場ではティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人が“炎王”センと死闘を繰り広げていた。
「“炎王乱打”!!!」
炎を纏いし拳と蹴りが乱れたように舞う。
ティア殿下たち三人は“静の闘気”で先読みし、紙一重で躱しているも、炎の熱までは回避できず、汗を流す。
流した汗が極寒の外気に触れ、冷えていき、体力の消耗が早かった。
雪原で後退るティア殿下たち三人。
ティア殿下は剣を鞘に納め、居合の構えをする。
「“剣蓮流”・“居合”――“神朧太刀”!!!」
下から斬り上げる斬撃。居合として放たれた斬撃はセンの身体を真っ二つに斬り裂く。
斬り裂こうとした斬撃すら、センは堪えきり、炎で傷口を焼いた。
「ッ!!?」
(全く、効いていない!!?)
センは頭を後ろに引き、炎を纏わせる。
「“炎王――」
プルプルと震えてる頭。
ティア殿下は剣――“蛮竜”を抜いた。剣を抜いて、構えようとしたとき、ドクンと“蛮竜”が脈動し、“動の闘気”を吸い始め、力を解放し始める。
「なにッ!!? どうしたのよ、“蛮竜”!!!」
「――頭突き”!!!」
「こんな時に!!!」
引っ張られた頭がゴムのように伸び、頭突きとして放たれた。
かろうじて、回避するも右脇腹を掠り、頭突きは雪原の雪すら溶かし、
ボゴォン!!!
大地に亀裂が入った。ガフッと吐血するティア殿下。
「ゲホッ、ゴホッ……」
雪原にしゃがみ込み、咳き込む。
掠っただけでも相当なダメージを負い、咳き込んでしまう。
「ティア! だい、じょう、ぶ……」
「急に、どうしたの……です、か……」
ハルナ殿下とシノアは近寄り、容体を確認するも二人はティア殿下の右腕に異常なことが起きていた。
右腕から“動の闘気”が漏れ出し、“闘気”がハルナ殿下とシノアの目ですら可視化するほどに引き出されていた。
腕に至ってはガリガリに痩せ細っていた。
「はぁ……はぁ……」
肩から息を吐いてるティア殿下。
「ふん! 剣に足を引っ張られる剣士! 初めて見たぞ!!」
センは今までの人生で剣に振り回される剣士など見たことがなかった。
ティア殿下に起きた異常事態は狂巨人と戦っていたグレンたちも目に入った。
「ねえ、あのティアって娘の腕を見てよ」
「ああ、妙に痩せこけてるな」
「シン。あの剣……見たことがあるか?」
「何度かある。ティア殿下が、あの剣を構えただけで寒気を覚えたほどだから」
クレトの問いかけにシンは正直に答えた。シンはグレンに話を振る。
「ああ、俺ですら、本気で警戒するほどの迫力を覚えた。むしろ、驚くのはシノアだ」
「シノアが?」
マヒロは実妹のシノアがなぜ、凄いのか疑問符を浮かべる。
「シノアも、あの剣の迫力を受けてる。受けてるにも関わらず、ティア殿下を倒そうと相手取る」
「シノアが……」
「あいつには死を恐れない。いや、死んだ方がマシな考えをしている」
「“死んだ方がマシ”って、どういうこと!!?」
マヒロが焦って問い詰めてくる。
「あのシノア。前に聞いたんだよ。“ティア殿下だけは私の手で倒す”ってな。あと、“倒すまでは死ぬつもりもない”って、口にしやがった。いや、正確に言えば、シノアところの部隊は訓練校のガキに比べると異質だな」
「あははっ、確かに異質だ。毎度のように白銀の黄昏の総帥らと喧嘩して生還してくること自体が異常だ」
グレンとシンの話を聞いて、クレトとマヒロは思わず、唖然とする。
「……で、今は“魔王傭兵団”の“三災厄王”の一人。“炎王”センと相手取ってる時点で階級に合わない実力を得ちゃってるんだよね」
「……ったく、可愛げねぇんだよな」
グレンとシン。二人はシノアに対する評価が辛辣だった。
「ただ、強くなってるのは事実だ」
「戦場で生き残れる才能がある。ユウトも同じだ。何しろ、ズィルバーのガキを相手に生還して帰ってくるぐらいだからな」
「いや、シノア部隊は人知れず、すごいからな。白銀の黄昏の総帥と副総帥、“四剣将”らは僕とグレンでも手を拱くほどの実力者だよ。毎回、喧嘩をして、傷度合いが減ってきてるのはおかしいよ」
「どのくらい?」
「最初はボロボロの重体から始まって、次は腕と肋の骨を折り、その次は腕と脚の骨に罅――」
「次第には殴られた跡が残るほどになり、最近じゃあ、打ち身程度の傷を帰還した頃にはケロッと回復していやがった」
「「えっ……」」
これには、呆気にとられてしまうクレトとマヒロ。
クレトの傍にいるアイオですら、ミバルの成長ぶりに寒気を覚えてしまう。
「はっきり言う。本部の連中は楽観視しているが、“魔王傭兵団”が堕ちれば、東部、南部、西部が活発化するのは間違えねぇ」
グレンは危険視している。
「帝城ですら、親衛隊本部よりも危険視している。結果次第で親衛隊の内部にも変化が生じるはず……って、そんなことを言ってる場合じゃないか」
「そうだな。今は、あのデカ物を倒すことに専念するか」
グレンはシンに言われて、剣を狂巨人の一人に向け、戦いに集中することにした。
右腕が痩せこけてるティア殿下。
ハルナ殿下とシノアは肩から息を吐いてるティア殿下よりも、彼女が持つ剣に注目した。
「持ち主の“闘気”を吸い上げて、力を発揮する……」
「古き文献に書かれていた。それが“魔剣”なのですね」
“魔剣”についてと特性を訊ねる二人にティア殿下は“その通り”だと頷いた。
「……もう、こんなタイミングで力を解放しないでよ」
悪態混じりに怒りを吐く彼女。
(ここで、己を超えろって言うの?)
だが、胸中では自身の成長を促そうと剣が意志を持って持ち主に言ってきた。
ティア殿下のこととは裏腹にハルナ殿下とシノアは自身の武器を見る。
彼女たちが持つ武器は業腹にも“魔剣”と扱われてる。
ハルナ殿下とシノアの精神力の高い上に影響を受けていない。いや、堪えきっているが、憑依揃った独特の波紋と禍々しい力を放つ。
ズィルバーが目にすれば、“魔剣”と口にするだろう。
経緯はどうであれ、ハルナ殿下とシノアも“魔剣”を手にすることになった。
息を切らすティア殿下は“蛮竜”を手にしたまま、もう一本の剣――“天羽々斬”を抜き、構える。
彼女の脳裏に過ぎるのは“天羽々斬”と“蛮竜”を手にした記憶。
二本の剣も去年、宝物殿にあった“魔剣”をなんとなくで選んだ。
脳裏に過ぎった記憶を思いだしてる中、センが炎を纏った脚で蹴ってくる。
「剣に愛着を持って死ぬ気か!!?」
脚に纏った炎を伸ばし、鞭のように薙ぎ払った。
ティア殿下たち三人は武器に“動の闘気”を纏わせ、防御するも、予想以上の攻撃力だったのか蹴り飛ばされてしまう。
蹴り飛ばされた三人はゲルトたち防衛軍が相手にしてる狂巨人へと向かう。
狂巨人も飛ばされてくるティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人を喰おうと口を開かせる。
「ぐっ!!?」
「風圧で体勢が立て直せない」
「…………」
蹴り飛ばされる風圧で体勢を立て直せずにいる三人。
ただ、ティア殿下だけはなにもせず、ただ、脳裏に過ぎった記憶を思いだしてた。
(そういえば、ズィルバーが前に、“聖剣”や“魔剣”を含めた“名剣”について……教えてくれたわね)
ティア殿下は“魔剣”を手にしたとき、剣を扱う際、重要なことを教えてくれたのを思いだす。
『いいか。剣は“人斬り包丁”。人を殺すために生まれる!! “聖剣”や“魔剣”と言われる“名剣”の全ては二人の人物によって生まれた。そいつらはより多くの命を奪えるように作る』
(まあ、できた理由はふざけ半分で誕生したんだけどよ)
『剣は性格があり、個性があり、意志がある!!! それらを服従させるのが剣士だ!!!』
『おいおい、それじゃあ、まさに“魔剣”に聞こえるぞ!!?』
シューテルが驚きながらも叫ぶように言い返す。
『アホか。“魔剣”も“名剣”だ。弱者が恐れ、“魔剣”と呼ばれるなら、その剣にとってみれば、使われて本望という奴だ。“名剣”というのを動物でたとえば、馬だ。馬も乗り手の気持ちを汲んで、懐いてくる。乗り手が馬を選ぶんじゃない。馬が乗り手を選ぶ。ならば、“名剣”も馬と同じように相手を見ている。自分に見合った相手を選ぶ』
思いだしたところで、ティア殿下はハッとなる。
「剣は相手を選ぶ」
(私を選んでくれたのね。なんとなく選んだ。だけど、あなたは私を試すかのように――)
「なるほどね」
フッと笑みを浮かべ、ギュッと“蛮竜”を握ると、痩せこけてた右腕が元に戻っていく。
(ズィルバーは剣を手懐けた。ズィルバーは強いというのを剣が理解しているから。自分を持つに相応しいと剣が選んだということ)
「まだまだ敵わないわね、彼は……」
自嘲気味に言葉を漏らせば、ハルナ殿下とシノアがティア殿下に声をかけてくる。
「ティア!!? 後ろを見て!!?」
「巨人族が私たちを食べようと口を開いてる!!?」
慌て気味に叫ぶ二人にティア殿下は後ろを見れば、狂巨人の一体がティア殿下を喰おうとしていた。
彼女は自分が危機的な状況なのに平然としていた。
「ティア、どうしたの!!?」
「アハハハッ、もう諦めたのですか?」
ハルナ殿下は驚き、シノアは揶揄してくる。
「諦めたわけじゃないわ。ただ、慌てることじゃないからよ」
「はっ?」
「えっ?」
ティア殿下の言葉に呆けてるハルナ殿下とシノア。
その際、ティア殿下は二人になにかを話し、二人は“えっ……”と呆けた後、自身の武器を見始めた。
ついに、バクンと三体の狂巨人がティア殿下たち三人を食べてしまった。
「シノア!!?」
「ハルナ殿下!!? ティア殿下!!?」
狂巨人に食べられてしまった三人を見て、ゲルトとマヒロが目を見開き、意気消沈する。
「ふん。呆気なかったな」
バサッと黒翼をはためかせ、宙を舞うセンはティア殿下とハルナ殿下、シノアの最期を嘲笑した。
だけど、セン自身、違和感がないと言えば、うそになる。
彼は見ていた。ティア殿下がハルナ殿下とシノアになにかを告げていた。
(なにを話していた。呆気ない最期だった……だが、全身の毛が逆立つような感覚は……)
センは眉を顰め、目を細めた。
狂巨人の口の中でギュッと武器を握ってるティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人。
刀身から“闘気”が溢れ出し、バリッと雷が迸り始める。
そして――。
「――ッ!!?」
センは“静の闘気”による先読みで狂巨人の口から斬撃が放たれ、三体の狂巨人が絶命するのを視た。
「狂巨人共!! 今すぐ、小娘共を呑み込め!!」
叫ぶも狂巨人は首を傾げるだけで、センの言葉の意味が理解できなかった。
その時――
「“剣蓮流”・“神龍斬”!!!」
「“破壊せよ隕石”!!!」
「“飛雪千里鎌”!!!」
ズバンッと両断される剣閃。
頭から胴体にかけて斬り裂いた剣閃。
誰が斬り裂いたなど、言わなくても分かっていた。斬り裂かれ、肉片となった三体の狂巨人から舞い落ちてくる三人。
ティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人。
彼女たちが持つ武器の刀身からはバリバリと雷が迸っていた。
雪原に降り立った三人。
センは懲りない三人を見て、ゆっくりと雪原に降り立つ。
「剣は実直。悪意はない。単純に足りないのは私たち個人の力。ズィルバーも……」
「カズも……」
「ユウトさんも……」
「“魔剣”を手にしたとしても、楽々と戦っていたとでしょうね……」
(どうやったらいい? “闘気”を安定させるには……これほどの量を放出するなんて命取り。いや……むしろ、それでいい!!)
バリバリと迸る雷に色合いがつき始めた。
ティア殿下は白百合色。
ハルナ殿下は濡れ羽色。
シノアは竜胆色。
三人の異なる色が迸ってるのを見たセンは驚くことはせず、淡々とティア殿下たち三人に問いかけた。
「なるほど……“英傑”になる気か?」
「はい?」
「英傑?」
「私たちには目指す場所があるだけよ!!!」
各々が背中を預ける者たちの約束があるのを思いだし、覚悟を決めた。
“闘気”を吸い取り、出し続けることによって、身の内に眠っていた選ばれし力が発現した。
彼女たちの変化にセンは態度を改めた。
「いいだろう」
バリバリと“動の闘気”を拳に纏わせ、さらに炎を纏わせることで破壊力が増してるのが“静の闘気”を使用しなくても肌で、本能で感じとれてしまう。
なのに、彼女たちの顔には恐怖がなかった。
むしろ、笑みを浮かべていた。
このような状況で笑ってるのはバカ者と捉えてもおかしくない。
「なるほど」
だが、センだけは違っていた。
「来い!!」
と、挑みかかるように仕向けてきた。
ティア殿下たち三人も誘いに乗って、仕掛けてきた。
場面を変えて、“魔王傭兵団”アジトの屋上。
悪化の一途を辿っている雪雲。
吹き荒れる吹雪。
吹雪に当てられ、急激に体温を奪われ、体温を保持しようと無駄に体力が消耗してしまう。
特にまだ子供のカズに極寒の環境で戦えば、死への片道でしかない。常識に捉えて、考えれば――。
だが、常識の埒外にあるのが左手の甲に刻まれし、紋章の力。左目からは紺碧の魔力が洩れ、神槍の穂先と両脚には紺碧の雷が迸っていた。
紋章の力がカズを守り、極寒の環境下においても力を与えている。
長時間による戦いでカイの体力は著しく消耗していた。
さらに、極寒の環境下で体温を維持しようと体力が消費され、疲弊を早めていた。
「クソ……」
(さらに吹雪いてるせいで体力の消耗が著しい。だが、それは……あのカズとて同じだ)
カイはカズも極寒の中、体力は消耗しているはずだと認識し、ニヤリと笑みを浮かべる。
だが――
「おいおい、余所見とは随分と余裕だね」
紺碧の雷を纏った左脚がカイの頬を突き刺さり、蹴り飛ばす。
ブッと鼻と口から血を出し、数歩蹈鞴を踏むように引き下がる。
ハアハアとカイは白い息を吐きながら、猛吹雪の中、カズは息一つ乱さず、力が増大していく。
カイの頬に突き刺さった蹴りがそうだ。
普通であれば、渾身の一撃とも取れる蹴りをカズは軽々と放っていた。
口から出る血を拭い、カイはジロッとカズを睨む。
「だいぶ、息が上がってきたね」
フッと口角を上げるカズにカイは叫ぶ。
「なぜだ……なぜ、息が上がっていねぇ…………この極寒の猛吹雪じゃあ、体力の消耗が著しいはずだ。なぜ、息が乱れねぇ……なぜ、こんだけ、力が有り余っている」
彼の叫びにカズは顎に手を添えて、うーんと頭を捻らせる。
「しいて言うなら、こいつの力かな」
カズは自身の左手の甲に刻まれし紋章を見せる。
「この紋章の力……お前からすれば、摩訶不思議な力だが。僕は極寒と海中、海上において無敵の力を発揮することができる」
「な、なに……」
カイは信じられない事実を目の当たりにし、目を見開く。
「無敵、だと……」
(あり得ねぇ……人族が持つべき力じゃねぇ……それは……)
「ああ、お察しの通り。この力は魚人族と人魚族に似通った力だ。とても人間が持ってはいけない許されざる力なのは確かだ。だけど、それがどうした?」
カズも紋章の力が人族において、許されざる力なのは百も承知だ。
だが、それとこれとは話は別だとカズは認識している。
「僕は、仲間を、友を守るために、この力を使うと決めている。邪魔するというのなら、蹴散らすまでだ!!」
命を賭してまで仲間を守り通すという強固な意志が“闘気”となって滲み出る。
猛吹雪も答えるかのようにカズの身体に纏わり付いた。
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