“惨王”ザルク陥落。
海水による水龍で屋上へ向かうカズ。
カズの突拍子のない行動に、いつも驚かされる漆黒なる狼の皆であったが、今回のは、驚きを通り越して、度肝抜かれてしまった。
「あんなことまでできるようになったの」
「今まで、私たちを驚かせるばっかりしていたけど、今回のは度を超えてるわよ」
「っていうか、さっきの大穴ですら、カズがしたことにビックリしてるのに……」
「なぜ、平然とやってるのかがわからん」
カルラとヘレナ、シズカとベラの四人。カズの突拍子のない行動に頭を悩ませるも、今回のは頭を悩ませるのを通り越して、諦めの境地に突入した。
「ねえ……」
「うん」
「カズをただの人族とは見ないことにする」
「カズのせいで眉間に皺を寄せたくない」
「「「激しく同意」」」
カルラたち四人はカズを人間離れしたと認識し、ハルナ殿下は“アハハハッ”と苦笑した後、ハアと嘆息した。
彼女も今回のは度を超えてると自覚していた。
ザッパァーンと海水から出てくる薄い青色の肌に、魚のヒレのような耳をした少年――ヒューガが出てくる。
「おぉー。大乱戦だな」
首を鳴らし、ポキポキと拳を鳴らす。
ヒューガの登場にカルラたちは警戒するように身構える。
「何者?」
「安心しろって言いたいが、信用できないよな。俺はヒューガ。魚人族だ。縁があって、カズについてきた。っていうより、バカなカズに仲間として連れて来られた」
「また、あいつは……」
「全く、私たちに話しなさいよ」
不機嫌になるカルラたち四人。カズの仲間集めも頭を悩ませる要因の一つであった。
「シズカ。今は信用して。カズから仲間に迎え入れるって言ったから。今は信用して」
ハルナ殿下からも信用するように言われたので、カルラたちも渋々、納得する。
「信用しろとは言わねぇよ。俺も傭兵団には恨みがある。敵の敵は味方。共闘の理由はそれで十分だろう」
「確かに」
「一理ある」
ヒューガの言い分に納得するカルラたち。
だが、割り込むかのようにセンが拳に炎を纏わせ、乱入してきたヒューガに殴りかかる。
ヒューガは視線を後ろに転じ、ティア殿下とハルナ殿下、シノアを見る。
(どうやら、彼女たちの敵だな。相手は“炎王”セン。見た目が頑丈なだけで中身はボロボロになっている。一発、二発叩き込ませるか)
「“炎王拳”!!!」
迫り来る炎の拳を前にヒューガは息を吐く。
「“魚人武芸”――」
“動の闘気”を纏わせた両拳で構える。
「――“鮫肌猛威”!!!」
左手の掌だけでセンの拳を弾き、強く踏み込んで、センの懐に入り込み、右拳がセンの土手っ腹に吸い込まれるように叩き込まれる。
「“鮫肌拳”!!!」
叩き込まれた拳から衝撃波が生まれ、体内にダメージが叩き込まれ、血を吐くセン。続けざまにヒューガは追撃を行う。
「“渦回し蹴り”!!!」
右足を軸にして、左脚を横から回して、センの左脇腹に蹴りを叩き込む。
グラッと体勢を崩すセン。たった二発の拳と蹴りとはいえ、センにとってみれば、尋常ならざるダメージを負った。
脂汗を流すセンにカルラたちはゴクッと息を呑み、センはギロリとヒューガを睨みつける。
「貴様……」
「おいおい、傭兵団の“三災厄王”ならば、魚人族のことは知ってるだろう?」
「魚人族……」
ヒューガの種族は魚人族。
魚人族は人族の十倍の身体能力を持っていて、海中戦、肉弾戦を得意とする種族。
カルラたちも魚人族の凄さを改めて、実感した。
ヒューガはティア殿下たち三人に声をかける。
「おい、身体は動けるか?」
「ええ、動けるわ」
「時間稼ぎありがとう」
「持つべき者は友ですね」
体力と“闘気”を回復させたティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人。
彼女たちは立ち上がり、武器を手に自然体に構える。
「ん?」
ヒューガは彼女たちを見て、違和感を覚える。
(どういうことだ? いくら、未発展途上とはいえ、成長期とはいえ、“闘気”が異様に増大しているのはおかしい。大人の魚人族と同じくらいの“闘気”だぞ)
ティア殿下たち三人の成長に不思議がるヒューガ。
(だが、今は気にしてる場合じゃないな)
優先すべきことは弁えているので、気になることは頭の片隅に追いやり、目の前のことに集中する。
「このガキ」
ズシンと体重を乗せた歩き方をするセン。
「ぶち殺す!!!」
ヒューガを睨み殺すかのように睨みつける。
ヒューガはフゥ~ッと息を吐き、後ろにいるティア殿下たち三人に目配せする。
目配せの意図を見抜き、頷く彼女たち。
「余所見とはいい度胸だな!!!」
センは剣を抜き、一刀両断の如く、振り落とす。
ヒューガは剣閃を躱し、センの腕を掴み、肩に背負った。
「“渦回し一本背負い”!!!」
上体を前に倒し、投げ飛ばす。
投げ飛ばされるセン。
体勢の取れないセンに追撃するようにティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人が地を蹴った。
「“剣蓮流”・“神朧太刀”!!!」
「“射貫く彗星”!!!」
「“残雪鎌”!!!」
三つの剣閃がセンの身体を斬り閃いた。
「ゴフッ」
血反吐を吐くセン。
しかも、斬り裂いたのは胴体だけじゃなく、顔の一部を斬り伏せた。
ドスンと俯せに倒れ伏せたセン。
ふわりと蝶が舞うように降り立つティア殿下たち。
構えを解かずに倒れ伏すセンを見続けた。
倒れ伏すセン。
ティア殿下たち三人は、センの意識がまだあると分かってるので、未だに構えを解かずにいる。
だが、同時に空気が変わったのを肌で感じとった。
「空気が……」
「……変わった」
「…………」
ピリピリと首の裏を舐める。身の毛のよだつ感覚が全身に突き刺さった。
途端、炎がセンの身体を包み込み、ジュゥッと肉を焼く音と焼ける臭いが耳と鼻を刺激する。
不快な音と生臭さがティア殿下とハルナ殿下、シノアに不快な想いを抱かせる。
炎が消えれば、センはよろめきながら立ち上がる。
立ち上がったセンはティア殿下たち三人を睨みつけ、何も言わずに全身に炎を纏わせ、黒翼をはためかせ、宙に舞い上がる。
舞い上がれば、やることは一つ。
翼をはためかせ、スピードを付け、低空飛行で滑空し始める。
狙うは一つ。
憎き相手――ティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人のみ。
炎の動きに変化があった。今までは回転がなく、炎を放出していたのが、螺旋のように回転していた。
ティア殿下は“静の闘気”を使用して、先読みをし、このまま壁に叩きつけられる未来が見えた。
(このまま受けると壁に叩きつけられる。この壁の向こうは出入口に加えて、あの勢いとスピードなら、軽々と防衛軍のところまで飛ばされるわね)
「ヒロ! カナメ!」
ティア殿下はノウェムとカナメを呼んだ。
「後ろの壁を貫通させるほどの大穴を頼む」
「大穴……なるほど」
「心得た」
ヒロとカナメはティア殿下の意図を読み取り、剣と鎌を構える。
「ティア! 必ず、勝ってこい!」
「もちろんよ」
カナメはティア殿下に鼓舞し、彼女も勝利宣言で答えた。
「ヒロ。行くぞ」
「うん」
ヒロとカナメは同時に武器を振るい、巨大な斬撃もしくは衝撃波を放つ。
「「“古王”!!!」」
放たれた巨大な斬撃は壁を抉り、貫通させ、“魔王傭兵団”アジトの出入口まで届いた。
ハアハアと肩から息を吐き、その場にへたり込むヒロとカナメにティア殿下は“ありがとう”とお礼を言った後、螺旋のように回転しながら突っ込んでくるセンに迎え撃つ。
「“十字架斬り”!!!」
「“射貫く彗星”!!!」
「“残雪大鎌”!!!」
三位一体なる同時攻撃を繰り出す。
「“炎王螺旋突撃”!!!」
螺旋回転した炎の塊が衝突した。
だが、螺旋回転した炎の塊が強く、三位一体なる同時攻撃では受け止めきれていない。
しかし、それが狙いであり、ティア殿下とハルナ殿下、シノア。三人は足の力を抜き、センの勢いを利用して、押し飛ばされる。
ヒロとカナメが開けた大穴へ。
彼女たちが大穴に突っ込んだのを確認したヒロとカナメ。いや、ノウェムとコロネ。カルラたち。
「勝ちなさいよ」
「ここで負けたら、承知しない」
勝つことを前提にお膳立てをした彼女たち。
ヒューガは彼女らの絆の深さを見て、つい――。
「いいチームワークだ」
褒め称えた。
防衛前線で狂巨人と戦い続けてるゲルトら防衛軍。
十体の巨人族のうち、四体倒した。だが、残り六体。
しかも、巨人族を倒すのに、体力をかなり消耗している。凶暴化した巨人族であったため、再起不能にさせる必要があった。
疲弊しきったのはゲルトら北方諸侯軍と北方支部の親衛隊のみで、中央の親衛隊は息を切らしてるも、疲弊しきっていなかった。
ただし――
「決死隊は全滅しても、巨人族の相手がキツイ」
「文句を言うな! 僕らよりもシノアたちの方が大変なんだぞ」
愚痴を漏らすマヒロにシンが窘める。
「だが、キツいことに変わりない。だろ、クレト」
「ああ、正直なところ……あと、一体が限度だ」
体力切れになるのも時間の問題と口にするグレン。クレトも自分らの力だと巨人族一体が限界だと口にする。
「ゲルト卿。あなたはお逃げください。ここは我々が……」
「バカを言うな。カズたちを見捨てて逃げるくらいなら、とっくに自決する」
シンの言葉にゲルトは断固拒否を示す。
「全く、アホだな」
グレンは鼻で笑い、剣を構える。
「それはお互い様だろう。若造」
ゲルトも剣を杖にして立ち上がり、剣を掲げる。
「さあ、諸君。血肉の一片たりとも、奴らに北方の大地に踏み入れらせるな!!!」
ゲルトの力ある叫びに防衛軍の皆、揃って声を張りあげた。
ゴォーッとなにかが防衛軍の方に近づいてくるのが聞こえてくる。
なにかは境界線を突破し、防衛軍と狂巨人の間まで近づいてくる。
ゲルトたちは、それを目撃する。
『炎!!?』
炎の塊は防衛軍と狂巨人の間まで来たところで、霧散する。
雪原の上に降り立つはセン。
「うまくやったな」
センは次に降り立つ彼女たちを睨みつけながら吐き捨てる。
ふわりと宙を舞い、雪原に降り立つティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人。
「シノア!」
「随分とボロボロじゃねぇか」
「相手は“三災厄王”の“炎王”か」
「どうする、手助けする?」
シンは念のため、クレトに手を貸すか訊ねる。
「手助け? バカ言え。あの面が“助けてほしい”という面構えに見えんな」
クレトはティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人の面。勝つ気満々の面構えを見て、助ける気すら湧かなかった。
「とりあえず、俺たちは、あの戦いの邪魔をするな!!!」
『オォ!!!』
クレトと号令とともに防衛軍は二手に分かれて、狂巨人を倒しに向かった。
場所を変えて、“惨王”ザルクと死闘を繰り広げているカインズとダンストン、シーホの三人。
瞳が赤くなり、心を怒りに染め上げたザルクの猛攻。
カインズとシーホは“静の闘気”に全てを割き、冷静に集中力を高め、回避に専念していた。
「“獣王猛烈衝”!!!」
貫手、拳、蹴りと、ありとあらゆる攻撃手段が嵐かの如く襲いかかる。
ザルクの猛攻。
まるで、退路を断つかの如く、敵の猛攻にカインズたちは悪戦苦闘していた。
「くっ!!?」
「退路を断たれた」
(前方後方を占領し、退路を断ってきた)
(しかも、実の攻撃と虚の攻撃のどちらかを受けてなければならない)
(こいつ……頭に血が上ってるわりに、冷静じゃないか)
二択の勝負をせざるを得なかった。
「チッ。二人でどっちを受けざるを得ないな」
「……で、どっちを受ける?」
「どっちと言われても……」
判断がつかねるカインズとシーホ。
経験値のたりなさがここに来て、仇となった。
だが、カインズとダンストン、シーホも承知で相手をしている。
迫り来る虚実の猛攻にダンストンは突破口どころか、思い切ったことを口にする。
「カズなら、どうする?」
「あっ? なんで今、そんなことを聞いてくる」
カインズはここで、カズの名前が出ることに怒号を上げる。
「あいつなら、突拍子のないことをする。全てを相殺させる突きをしてもおかしくない」
「確かに、あいつなら、そんなことしそう……だ、な」
ここで、カインズは脱却する策を思いつく。シーホも“なるほどな”とぼやいて、双剣を構える。
「虚実がわからないなら――」
「――全部、相殺させればいい」
「“剣舞”!!!」
「“薄刃蜻蛉”!!!」
縦横無尽に放たれる無数の斬撃の塊。
柔軟な肘関節を活用した腕の振りで放たれる無数の斬撃の塊。
無数の斬撃が虚実の猛攻を相殺する。
「チッ……」
自分の猛攻を、あのような方法で躱した人間はおらず、驚きはするも、仕留めきれなかったことに悪態をつく。
「こりねぇガキ共だ」
「それはあんたもだろう」
皮肉には皮肉で返すカインズ。
「それもそうだな」
ボキボキと首と肩を鳴らすザルク。グッと足に力を込め、一気に距離を詰めてくる。
妖狼族ならでは、強靱な脚力だからこそ、成せるスピードだ。
「“獣王突撃”!!!」
巨漢を引き締め、岩と思わせる塊となって突撃してくる。迫り来る巨漢にカインズとシーホの前に立つダンストン。
両手に“動の闘気”を纏わせて、構える。
「“鬼の手”!!!」
強烈な張り手を巨漢に叩き込ませる。しかし、張り手をしても、勢いを殺すどころか押し返されていく。
「くっ!?」
ダンストンは苦悶し、今度は逆の手を叩きつける。
「“鬼鉄砲”!!!」
張り手の殴打。“鬼の手”を連続で叩きつける。
だが、“動の闘気”を纏わせた程度では、ザルクの体毛、身体を傷ついても体内にダメージが蓄積されない。
「ダンストン!」
(チッ、バカの一つ覚えだな。あの程度の“動の闘気”じゃあ、奴にダメージが通らねぇのに……)
舌打ちをし、悪態を吐くカインズ。
シーホもダンストンがバカの一つ覚えに“動の闘気”を纏わせているのに訝しむ。
「おい、あいつって……」
「ダンストンは単純明快な男だ。俺かカズの声に忠実に動く。カズはいつも、ダンストンに言うことは一つ。『強い相手と戦い続けろ』だ。俺はなぜ、カズがだんすとんにあんなことを言うのか見当がつかねぇんだ」
「なるほどな」
シーホはカインズの話を聞き、目を細める。
(漆黒なる狼の親玉となれば、自分の部下に戦い続けろというのか。酷だな)
カインズとシーホは気づいていなかった。ダンストンの本質を、唯一、気づいたのはカズだけで、彼はダンストンに“常に強い敵と戦い続けろ。そうすれば、お前は強くなる”と教えた。ダンストンはカズの言われたとおりにとことん、戦い続けた。
自分より強い敵と――。
ダンストンはがむしゃらに張り手の殴打をし続ける。
しかし――
「なんだ、その張り手は痛くもかゆくもねぇ。教えてやる。本当の“動の闘気”の纏わせ方を――」
ザルクは“動の闘気”を拳に大きく纏わせる。
「“獣王拳”!!!」
大きく纏わせた拳はダンストンの顔を殴りつけた。
殴られたダンストンは体勢を崩すだけに留まり、堪えきってみせる。
「チッ。本当に頑丈だな。いや、頑丈だけが取り柄だな」
「…………」
「おまけに答えないとか。どうなってる。お前は人形みたいだな」
ザルクはダンストンを言われたとおりに動く人形にしか見えなかった。
「不気味だ。このまま肉団子にしてやる――“獣王猛烈衝”!!!」
退路を断ち、ダンストンに虚実の猛攻が襲いかかる。
迫り来る猛攻の前にしても、ダンストンは黙りしており、ただ、防御するだけであった。
ただし、その瞳は諦めていなかった。いや、むしろ、ザルクを観察するかのような目をしていた。
だが、虚実の猛攻は全て受けてしまい、身体のあちこちに打ち身と打撲塗れになった。
ハアハアと息を吐いてるダンストン。ザルクの猛攻を全て受けきってみせた。しかし、身体には相当なるダメージが蓄積してしまった。
ダンストンは体勢を崩し、よろめいてしまうも持ちこたえ、体勢を立て直した。
しかも、彼は言葉を漏らした。
「……覚えた」
ダンストンの言葉に“あ゛っ?”と声を荒げ返すザルク。対して、カインズとシーホは首を傾げる。
「えっ?」
(覚えた。なにを……まさか……)
カインズはようやく、ここに来て、カズが言った“強い敵と戦い続けろ”という言葉の意味を理解した。
シーホも同じく理解したところで、ハハハッと思わず、顔を引き摺らせる。
「おい、カインズ。お前らのリーダー……とんでもないな」
「ああ……」
(カズはダンストンの特性を理解していたのか)
カインズはカズが知っていて、隠してたという事実にゾッと背筋を凍らせる。
体勢を立て直したダンストン。
彼の身体から放出される“動の闘気”。
全身を大きく纏わせる “闘気”の使い方にザルクは目を見開かせる。
「なっ!!?」
(まさか、このガキ……)
「“鬼の手”!!!」
張り手がザルクの巨漢を弾き返した。
「ゴフッ!!?」
強烈な張り手を喰らい、血を吐くザルク。
ズシンとよろめき、体勢を崩す。
「ぐっ!!?」
(なんて威力だ。さっきとは全然違う)
ダンストンはズシンと力強く踏み込んで、連続で張り手を叩き込み始めた。
「“鬼鉄砲”!!!」
止めることもない張り手の応酬。確実に身体の芯へ直接響くほどの威力が叩き込まれた。
激変したダンストンにカインズはタラリと冷や汗を流す。
(正直に言って、驚かされたぜ。ダンストンは純粋すぎた。だからこそ、純粋であるが故に何でも吸収しちまうんだ。だから、カズはダンストンに“強い敵と戦い続けろ”と言ったんだ。負けることがない。強敵と戦い続ければ、勝手に強くなってしまうから)
「俺やカルラたちも知らないことをカズが知っていたとは……」
(全く、その首を獲ろうとした俺の頭がどうかしているぜ)
自分がバカらしく思い、頭を掻いてしまうカインズ。
「ったく、嫌になるぜ。俺らのリーダーは――」
「カインズ」
シーホはカインズの心情を察し、嘆息をつく。
「今更、泣き言を言ったって変わらないぞ。今は……」
「ああ、わかってる。俺らの力を見せてやる」
“闘気”を滾らせるカインズとシーホ。
ダンストンに触発され、気合いを入れ直した二人。
二人は気づいていた。
ダンストンの“闘気”が著しく弱まってきてることに――。
ハアハアと息を切らしながらも強烈な張り手を叩き込み続けるダンストン。しかし、十代初頭であるため、身体の成長と“闘気”の総量に限界がある。
この戦いで限界を超えて、総量が増していたとしても、見合うだけの経験を積んでいない。
カインズとシーホが気づいているのなら、ザルクだって気づいている。
気づいた上で甘んじて受けていた。
(さあ、“闘気”を使い果たして倒れろ。その時がお前の最期だ!!!)
ダンストンにトドメを叩き込むことを考えているザルクは胸中で叫ぶ。
しかし、呆気なく、早かった。
なんの前触れもなく倒れ込むダンストン。
「ハッ?」
呆気にとられるザルク。
カインズは頭を抑え、ダンストンの重要課題を頭の中にメモった。
ダンストンは巨体に見合うだけの体力が備わっていない。
「これは、俺も見抜けなかった」
ハアと嘆息をついたけども、すぐに顔つきを変え、“闘気”を滾らせる。
「ハッ、もうガス欠か。だったら、このまま死ね!!!」
ザルクは足を上げ、ダンストンの頭を踏みつぶそうとした。
「「させるかよ!!!」」
カインズとシーホが地を蹴って、ザルクに接近する。
「ん?」
ザルクは視線を上に上げれば、カインズとシーホが近づいていることに気づき、目を見開く。
「“旋風”!!!」
「“十字架斬り”!!!」
横一文字とクロス斬りがザルクの巨漢を斬り裂く。
「ぐっ!!?」
痛みが脳髄に叩き込まれ、ダンストンを踏みつぶそうとしていた足が空を切り、ズシンと倒れ伏した。
「ここから先は――」
「俺らが相手だ」
選手交代とでも言うかのようにカインズとシーホ。二人がかりでザルクに挑みかかる。
水龍に乗って、屋上へ昇っていくカズ。
カイは北海を睨んでいたが、大フロアから突き上げる巨大な水柱を見上げ、大フロアに出現した巨大な“闘気”を感じとる。
「来やがったか」
大穴から駆け上がっていく水龍。
水龍は曲がりくねって、カイを見下ろす形で見てくる。
カズも水龍から見下ろす形でカイを見る。
カズが水龍を生み出して戻ってきた。カイも“形態変化”をし、龍の姿となって、カズに話しかける。
「ギョロロロロローーーー。生きていやがったか、小僧」
「お前を倒すまで、僕はなんどでも立ち上がるぞ」
「ギョロロロロローーーー!!! 面白ぇ。倒してみやがれぇ!!!」
カズとカイ。北方の命運をかけた大将戦が再び、刃を交える。
場面を戻して、カインズとシーホはザルクと激闘を繰り広げていた。
ダンストンは“動の闘気”を大きく纏わせた張り手を連発し、体力切れを起こして倒れ伏した。
なので、現在、カインズとシーホが激闘を繰り広げている。だが、いくら、疲弊しきってるとしても、相手は“三災厄王”の一人、“惨王”ザルク。
基礎能力に差があった。
ただ、ダンストンの張り手の応酬で予想以上に疲弊しきっており、息が上がってた。
「正直に言って、ここまで戦い続けただけでもたいしたものだ」
(しかも、このガキ共。確実に“闘気”のレベルが向上している)
カインズとシーホも息が上がっており、所々に生々しい手傷を負っていた。
しかし、ザルクも同じで、彼自身も生々しいあちこちに負っていた。
「まだ、いけるか?」
「誰に、言ってる?」
息が上がってたとしても、不撓不屈。心が折れることがなく、目の前のザルクに抗い続けている。
ザルクは折れていないカインズとシーホ、そして、倒れ伏してるダンストンの目を見る。
「まだ、折れるのか。勝機がどこにある?」
「折れないさ。カズが戦ってるのに、俺が戦いを止めるわけにはいかねぇ!!!」
「勝機がどこにあるか、だと? そんなの関係ない。俺たちは守るために戦うんだ!!!」
不撓不屈。七転八起。不屈不倒。諦めるというのを知らないカインズとシーホ。
絶望を知らない少年たち。
「そろそろ、現実の厳しさを教えてやる」
「「やれるものならやってみろ!!!」」
カインズとシーホはザルクに再度、挑みかかった。
再び、屋上に場面を戻して。
水龍を従えしカズと龍に“形態変化”をしたカイが衝突する。
「来やがれ!!! 小僧!!!」
絡み合い、喰らいつくカイと水龍。
ミシミシと鱗を砕こうと顎に力がみるみる入っていく。
「ギョォォオオオオオオオオ――――――――!!!!!!」
想像を絶する痛みに呻き声を上げるカイ。
ギロッと血走った目でカズを睨むカイ。
カズは海水を蹴って宙へ舞い上がる。
左脚を高く掲げ、紺碧の雷を纏わせる。
「さっきまでの僕と同じだと思うなよ! “海神落とし”!!!」
宙に舞ったカズ。高く掲げた左脚による踵落としがカイの眉間に炸裂する。
「ギョォォッ!!?」
踵落としが炸裂し、カイは床に叩きつけられる。
宙を舞っていたカズは雪原に降り立ち、全身の力を抜き、悠然とした構えをしていた。
「さて、皆に活力を与えないとな」
(特に、カインズには――)
カズは神槍の穂先で雪原を叩く。
「見せてやろう。屈強にして、不滅の北方の力を!!!」
カズは念じた。“蒼銀城”に敷かれた魔法陣を起動するために――。
「起動せよ!!!」
カズが叫んだのと同時に、“蒼銀城”、学園長室の床に刻まれし、魔法陣が起動する。
城から伸びる青白い光。
開戦前に発動した時と同じで、“蒼銀城”だけじゃなく、北方全域を活性化させる。
だが、開戦前と違うのは魔法陣をただ起動するためじゃなく、本来の使い方をするためだ。
起動する魔法陣の上にいる誰もが勘付いた。
しかも、“魔王傭兵団”アジトにまで勘付かせるほどに――。
カズは魔法陣が起動したのを感知できたところで、声を張りあげる。
「全軍に告げる! 傭兵団も残る敵は“三災厄王”と“魔王カイ”のみ! 踏ん張りどころだ!」
魔法陣を介して、カズの声が防衛軍全員に木霊する。
「僕が必ず、カイを倒す!!!」
力強い発言が防衛軍全員に轟かせる。
カズの強気な発言に心を振るわせ、未だに戦い続けている皆に鼓舞した。
カズの力強い勝利宣言が白銀の黄昏と漆黒なる狼の全員に轟き、雄叫びを上げる。
三階で激闘を繰り広げているズィルバーとアキレス。
「言うね。メランの子孫はよ!!!」
「当然だろうが、カズが負けるかよ。だが、もう一回言うけどよ。どこでなにしていやがった!!!」
怒りの声を張りあげる。
二階で死闘を繰り広げているユウトとヘクトル。
「随分とデカいことを言うんだね」
「当たり前だ。俺らは勝つために戦っているんだぞ。だが、一つだけ言わせてもらうぞ。どこで油を売っていやがった!!!」
ユウトもユウトで怒りの声を張りあげる。
巨大な壁周辺で狂巨人を相手に戦い続けるゲルトたち防衛軍。
カズの力強い勝利宣言を聞き、ゲルトは思わず、笑い上げてしまう。
「デカく出たな、カズ。有言実行とでも言うかのような、力強い発言……」
(自信がついたな、カズ)
ゲルトは笑いを抑えた後、自分の息子――カズの成長したことを実感する。
“炎王”センと対峙するティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人。
「あんたの彼氏さんも立派な男になったんじゃない?」
「それは、ズィルバーくんも同じでしょう」
「アハハハッ。男の子って一気に成長しますね」
(ユウトさんも、これぐらいになってくれると……あれ? どうして、今、ユウトさんのことを……)
シノアはなぜか、このタイミングでユウトのことを気にかけてしまった。
しかし、センはフンと鼻で笑い、侮蔑する。
「図に乗るな、小娘共。あんなガキにカイさんが負けはしない」
「さあ……」
「それはどうかな」
「ああいった男の人は強いですよ」
センの侮蔑に際し、彼女たちは好戦的な笑みを浮かべ、言い返した。
“鎧王”セルケトと対峙するナルスリーとシューテル、ミバルの三人。
「あら、狼のリーダーさん。随分と言うのね」
セルケトはカズに対し、クスッと微笑する。
「狼のリーダーもユウトに似て、力強い宣言をするんだな」
「それは、ズィルバーも同じかな」
「全くだ。力強く発言すれば、一気に皆の志気が高まってしまう上に、なぜか、負ける気がしねぇんだよ」
「ついでに言えば、なぜか、勝率が高いのよ」
「それは、ユウトも一緒だ」
フフッと笑みを零すナルスリーとミバル。
ナルスリーとシューテル、ミバルの会話を聞き、セルケトはフフッと笑みを浮かべる。
「なるほど。どうやら、お前らのリーダーは随分と我が強いんだ。でも、カイさんは強い。子供に負けるような柔な男じゃない」
「それは、ズィルバーたちも同じよ!!!」
ナルスリーたちはセルケトに立ち向かっていく。
屋上に場面を戻し、勝利宣言を告げたカズに“形態変化”をしたカイが棘突き金棒をぶん回す。
「俺に勝つ気でいるのか!!?」
「勝つ気じゃない。勝つんだよ!!!」
雷を纏わせた槍と金棒がぶつかり合う。
しかも、接触せずにバリバリと雷同士がぶつかりあっている。
ぶつかり合った衝撃波が分厚い雪雲から降り落ちる吹雪がより一層強くなっていく。
降り落ちる白き雷。
天候がより一層、悪化の一途を辿り始めた。
“惨王”ザルクと対峙するカインズとシーホ。
「危なかった。あと、一撃を喰らっていたら、確実にやられていた。運が悪かったな」
息を切らし、ボロボロなザルク。
限界を迎えそうになってるのを自分から口にする。
だが、カズの力強い勝利宣言を耳にし、カインズは思わず、口角を上げてしまう。
「全く……デカいことを言うな。だが、嫌いになれないな」
ハアハアと息を切らすカインズがフゥ~ッと息を吐き、最後の力を振り絞る。
シーホもカズの宣言を聞き、ユウトと重ねてしまい、自ずと身体が勝手に動いてしまう。
「ッ――!!?」
ザルクはカインズとシーホが立ち上がるのを見て、目を見開く。
「何も、言うな」
「勝負は時の運。運が悪かった……自分を呪うんだったな」
カインズとシーホ。
互いに“動の闘気”を鎌と双剣に大きく纏わせる。
全身全霊を込めた“闘気”。
渾身の一撃を叩き込ませるために――。
「“冥府斬鎌”!!!」
「“北蓮流”・“聖なる十字架”!!!」
両斜めに斬り裂く斬撃と縦に斬り裂く斬撃がザルクに叩き込まれる。
「ゴホッ!!?」
渾身の一撃が叩き込まれたザルクは盛大に血を吐き、白目を剝いて、ドシンと仰向けに倒れ伏した。
シュルシュルと“形態変化”が解かれ、人型の姿に戻ってしまった。
ハアハアと息が上がっているカインズとシーホ。
渾身の一撃を叩き込んだため、立っていられるだけの力が残っていない。
なので、その場でへたり込んだ。
「へへ……」
「や、ったぜ……」
ドサッと倒れ伏すカインズとシーホ。
極度の疲労により、二人はそのまま、気を失ってしまった。
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