カズとメラン。受け継がれる意志。
海中でぶつかり合う金属音。
神槍同士がぶつかり合う。
両者が似てるのは戦闘スタイル、武器、精霊、“闘気”の使い方、真なる神の加護。
ただし、唯一の違いは戦闘経験値の差だ。
「オラオラ。どうした?」
「ぐっ!!?」
メランの巧みな槍裁きにカズは防御に回らざるを得なかった。
カズは弾く衝撃を利用して、距離を取ろうとするも、グイッとたぐい寄せる。
「なっ!!?」
(バカな、どうやって……)
カズはメランがなにかを掴むように引っ張っているのを見る。
「ッ!!?」
(まさか……)
「余所見とは、いい度胸だな。“氷神一閃突き”!!!」
紺碧の雷が迸る槍がカズに迫り来る。
「くっ!!?」
カズは“静の闘気”で先読みし、身体を捻って躱そうとする。
メランもカズが躱すのを見越して、槍の軌道をカズが回避する先へ突いてくる。
「チッ!!?」
カズは身体を捻る形で回避する。
「ぐっ!!?」
だが、完璧には回避できず、脇腹を抉った。
痛みに苦悶し、脂汗を流しながら、カズはメランを見る。
(全てが僕より上。おまけに僕の動きを阻害している)
改めて、カズはメランの実力を目の当たりにする。
「どうした、少年。もう来ないのか? 俺を殴るんじゃなかったのか」
カズは脇腹を押さえていたが、どこか違和感を覚える。脇腹を触れば、傷がなくなってることに気づく。
「傷がない!!?」
(バカな。僕は初代様の突きで脇腹を抉られたはずだ。どうして……)
カズは自分の身体に違和感を覚え、動揺する。
「傷が治ったか。よく働いてるじゃないか」
「どうして回復するのか知ってるのか?」
「左手の紋章だ。そいつを持つ者は極寒と海中、海上では無敵の力を発揮できる」
「無敵……」
(それって、人間に許される力じゃない)
「ああ。この力は人間に許された力じゃない。俺もお前のように悩んだ。だが、力は所詮、力だ。良くも悪くも使い手の心次第だ」
「使い手の心次第」
「お前はなんのために力を求める。なんのために強くなる」
「北方を……いや、仲間を、友達を守るために強くなりたいんだ」
カズは“北方を守りたい”と口に仕掛けたが、自分にとって大事にしていることは自分を慕う仲間たちだった。
仲間のためなら、命を賭して守り通すと決めていた。
「北方よりも、仲間と友を守りたいか」
フッと笑みを零すメラン。
(俺ができなかったことをやろうとしている。挫折させたくねぇな)
メランはカズをかつての自分と重ねてしまい、先人として同じ思いをさせたくないと思ってしまった。
「ならば、超えてみろ。この俺を……」
「言われずとも!」
カズは海水を蹴って、メランへ突貫する。
メランはカズが海水を蹴って突貫するのを見て、目を見開く。
(海水を蹴った。知らずに使いこなしてる。分かってやったのか、分からずやったのかはわからないが、吸収しているのは間違えない)
「見せてやろう。この力の凄さを!!!」
メランは槍を背に携え、両手で海水を掴んだ。
突貫するカズはメランが海水を掴んだのを間近で見る。
(海水を掴んでいる)
「“渦巻く乱気流”!!!」
渦を発生させ、乱気流の海流を生み出す。
カズは無理やり海流を生み出したことに動転する。
「マジか!!?」
(災害じゃないか!!?)
「まだ終わらんぞ。“生きる乱気流”!!!」
自分が生み出した海流すらも自在に操り、海流の龍へ変えてしまう。
「うそだろう」
カズは自身の左手の紋章を思わず、見る。
(こんな使い方ができるのか)
力という使い方を改めて知った。
「お前の使い方は正攻法過ぎる。型どおりの使い方しかできないなら、この力も、レンの力も使いこなせれねぇぞ」
「正攻法か……」
(レン)
カズはここで、レンに話しかける。
『どうしたの、カズ?』
(強くなりたい。僕の力の全てをお前に預ける。だから、僕に力をくれ)
『いいの? 力と加護を回すと身体のどこかに不調をきたすよ』
(構わん。どうせ、初代様を殴り飛ばすにはお前の力が必要不可欠だ)
カズは渇望する。
力を、仲間を守るための力を欲した。
数の頭の中には逃げるという選択肢はなかった。
むしろ、敵を叩き潰すことしか考えていなかった。カズに恐怖があるのかと言われれば、ないと言うだろう。焦りすらない。あるのは敵を仕留める“覚悟”だった。
「海流を生み出す方法は見せてもらったんだ。僕と同じ力を持つなら、僕だってできる」
カズはぶっつけ本番で海流を生み出し、紺碧の雷とともに神槍に纏わせる。
纏わせた槍をカズは投擲体勢を取る。
「貫く」
(あんなデカい怪物を一撃で沈めるには核を正確に貫く必要がある。どこだ。核はどこだ?)
狙いが定まらずにいる。どこに投擲すれば、一撃で貫くのか、カズにはわからない。
だから。
『あそこよ。カズ』
レンが優しく指さしてくれた。敵の、メランの弱点を教えてくれる。
「あの場所だな。あの場所なんだな」
カズにも見えてきた。全ての因果を貫く核というのが見えてきた。
投擲すれば、敵を殺すことになる。だが、それがどうした。敵を仕留めねば、誰も守れない。
覚悟を決めた。甘えとか嘆きはない。
あるのは、どんなことがあろうと突き進むという意志だけだ。
「貫け――“全てを呑込み渦巻く槍”!!!」
紺碧の雷と海流を纏わせた神槍がメランめがけて、投擲された。
投擲された槍に、メランは龍の形をした海流を使役して、盾にする。槍は呑み込まれた。
フッと笑みを浮かべる。だが、槍は海流を貫き、メランへ突き進む。
今になって、メランは気づく。
(こいつはレンの加護を使ったな!!?)
“氷帝レン”。
レムア公爵家に代々、守り抜く精霊の一人。
精霊剣“神槍”の正体。
そして、神槍の加護は神穿。
いかなる防御も貫いてしまい、回避もできず、必ず貫くため、最強の加護。
回避不能。防御不能。全てを貫く槍となれば、答えは一つ。
「面白ぇ」
メランも槍を手に取り、投擲体勢を取ろうとした。だが、槍の投擲速度が速く、メランの投擲体勢に入ろうとしたタイミングで槍は心臓を貫いた。
「……ッ!!?」
ゴフッと血を吐くメラン。
槍は意志を持ったかのように動きだし、カズの元に戻ってくる。
神槍が戻ってきたカズはクルクルと回した後、構える。
血を吐くメラン。
摩訶不思議な力の前に心臓を貫いても治癒されるも、一行に治癒しない。彼はフッと笑みを零した後、“ハハハッ”と高笑いし始めた。
「初めて、レンの槍を受けた。なるほど。因果を断つというのはこういうことだったんだな」
初めての経験だ、と口にするメラン。
カズは海水を蹴って、メランに詰め寄り、紺碧の雷を纏わせた脚をメランの顔に叩き込む。
「“海神脚”!!!」
渾身の蹴りがメランの顔に叩き込まれた。
蹴られたメランはドコンと岩に叩きつけられ、土煙が舞う。
ハアハアと肩から息を吐くカズ。
全身に凄まじい激痛が走る。
レンの加護を使ってしまい、負担で全身筋肉痛が襲った。
「くそ……」
(もう体力が……)
気を失い、倒れそうになるカズ。
だが、カズを受け止めたメラン。
カズから受けた傷を見て、フッと笑みを浮かべる。
「この俺の心臓を穿ち、顔を蹴るなんざ。たいしたものだ」
カズを認める口調で床に寝かせるメラン。
「さて、俺たちができなかったことを、こいつらなら、できるかもしれねぇな」
(神を地に堕とすことが――)
数分後、カズは目を覚まし、起き上がれば、未だに海中にいた。
「起きたか」
「初代様」
カズはその場に座り込んでメランを見る。
メランもその場で座り込んで、話し出す。
「ひとまず、合格だ。俺の顔を蹴るなんざ。子供にしちゃあ。たいしたことだ。褒めてやる」
「どうも」
「ただ、まだ、お前は力の片鱗を使ってるにすぎん。俺が力の使い方を教えてやる」
「でも、時間が……」
カズはここで力を付けてる暇ではないと思っていた。
「安心しろ。ここで何時間鍛えようが、外では数秒しか経っていない。そもそも、ここはリヒトと魚人族、人魚族と話し合って作られた部屋だ。俺の血を継ぐ者だけが鍛えることができる部屋だ。ここでの時間密度は外の数十倍から数百倍だ。だから……」
「ここで鍛えても、外では時間が経たない」
「そうだ。あと、ここの海は千年以上前の海でできてる。海中に含まれてる魔力濃度が異常だが、お前は既に身体がついていけてる。深海一万メルの水圧にも耐えられるだろう。ただし、それを扱えるだけの身体と技術が追いついていない。だから、俺が鍛えてやる。光栄に思えよ。伝説を生きた俺の技を全て、教える。レンの加護もとっくにわかってるだろう」
「ああ。わかってる。精霊って本当にすごいな」
「だろう。お前はレンと仲間と力を合わせれば、もう負けることがない」
「わかってる」
カズはメランの話を聞き、頷く。
「あと、俺の手記を読んでるなら、“蒼銀城”を解放したことになる。左手の力を十全に扱えれば、北方のどこにいても、城の魔法陣は起動できる」
「魔法陣を見たけど、すごかったです。僕も錬金術を学んでるんですけど、初代様の錬金術はすごかったです」
「なぁ~に、お前も頑張れば、俺なんて超えるさ。俺たちが考案した魔法陣を起動したのなら、お前は既に錬金術の理解は一流だ。だが、これからも精進しろ」
「はい」
「さて、喋りはここまでにして。ここからお前を鍛えてやる」
メランは立ち上がり、背を向ける。
「ついてこい」
「はい!」
カズも立ち上がり、メランについて行く。
「俺の力の限りを教えてやる」
カズはメランの指導により、ズィルバーに匹敵するだけの力を身に付けることになった。
その頃、ヒューガは女王に呼ばれて、女王の御膳に来ていた。
「お呼びですか、陛下」
「ヒューガ。そなたには、あの少年と一緒に“魔王傭兵団”を戦いに行きなさい」
「よろしいのですか」
ヒューガは女王の命令に口答えをする。
「構わぬ。傭兵団には我らも多少の因縁がある。ツォーンに手酷くやられたからな」
「…………」
ギリッと歯軋りするヒューガ。
“ヴェルリナ王国”は“魔王傭兵団”の“七厄”の一人――ツォーンの手によって、手酷くやられたことがあった。
ヒューガが台頭して相手をしたが、痛み分けする形で退けたが、住民の数名が命を失った。
ヒューガは自分の家族を、ツォーンの手によって奪われ、いつの日にか仕返しをしたいと思っていた。
「ヒューガ。この戦いで人族を、他種族のことを見てこい」
「しかし、兵としての仕事が……」
「そんなものはよい。とにかく、かのカズと共に世界を見てこい」
「はい。承りました」
ヒューガは女王の命令を聞き、全うすることにした。
命を受けたところで、ヒューガは“静の闘気”で、巨大な“闘気”を感じとった。
「ッ!!?」
(なんだ、この“闘気”は……今まで、感じたことがない)
冷や汗を流すヒューガ。
数分後、玉座の間に来たカズ。
ヒューガはカズの身体から迸る“闘気”を感じとって思わず、身構える。
カズは身体から迸る“闘気”を見た。
「ああ、すまない。すぐに落ち着かせる」
フゥ~ッと息を吐き、気を落ち着かせる。すると、迸っていた“闘気”が薄く身体に纏わり付いた。
ヒューガはカズの“闘気”が大海を制するかの如く、静かに湛えていた。
カズは女王の御膳まで来て、頭を下げた。
「短い時間でしたが、僕を鍛えてくださり、ありがとうございます」
「よい。そなたがそこまで強くなるとは思わなかった。やはり、英雄の血筋は英雄を生むのだな」
感謝の言葉を述べるカズに女王は“構わぬ”と返礼した。
「失礼ですが、ヒューガを連れて行っていいですか」
カズはデリカシーもなく、ヒューガを連れて行こうとした。
「構わぬが、なぜ、ヒューガだ?」
「なんとなく、気が合うと思った」
カズは臆面なく、バカ正直に答えた。
彼の答え方に頬を引き攣る女王だが、カズの申し出を受け入れた。ヒューガはカズがバカっぽいと思い、肩を落とした。
カズはヒューガを連れて、国に出るのだが、ヒューガがカズを止める。
「おい、人族が外に出ると水圧で死ぬぞ」
魚人族と人魚族以外の種族は水圧に耐えきれず、死んでしまうと告げれば、カズは突拍子もないことを口にする。
「僕だけは大丈夫。それよりも急ぐぞ。戦いはいよいよ、大詰めだ。残ってるのが“三災厄王”、カイ、アキレスとヘクトルっていう奴らだな」
「そんなのがわかるのか?」
「“静の闘気”を使えば、わかる。ズィルバーもできるだろうな」
(今、思うと、ズィルバーはとんでもない次元にいるんだな)
「カズ?」
「あっ、なんでもない。それよりもいいのか。僕について行くってことは死ぬかもしれないってことだぞ」
「死は覚悟の上。それに、傭兵団をぶっ飛ばさないと無念に死んだ家族の魂が救えない」
ヒューガの覚悟ある言葉を聞き、カズは背を向ける。
「だったら、僕から言うことは一つ。死ぬな。精一杯生きて、家族に自慢ができる男になれ」
「言われずとも!」
ヒューガの言い返しにカズはニッと口角を上げる。
「じゃあ、行くぞ」
「おう」
カズとヒューガは深海に躍り出て、海上に向けて泳ぎだした。
その頃、“魔王傭兵団”アジト。大フロアでは“炎王”センと対峙してるティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人。
だが、三人がセンに滅多打ちを受けていた。
「俺たちに挑むなんざ。千年早い!!!」
炎を纏った拳がティア殿下たち三人を滅多打ちに殴りつける。
“止めろ”と声をあげるルアールたち。
殴り終えたセンはルアールたちに視線を転じ、向きを変える。
「次はお前たちだ。ガキ共」
床に倒れ伏すティア殿下たち三人。
打ち所が悪く、骨が砕け、折れ、血だらけだった。
これが現実だと思いたくないほどに――。
意気消沈するルアールたち。
だが、次の瞬間、センの目が白黒に支配された。
「いい夢が見れた?」
白黒となった世界に木霊する女の声。
ビシビシと景色に罅が入り、砕け散れば、センの視界に入ったのはティア殿下たち三人に集う乙女たち。
シズカ、ベラ、カナメ、ヒロ、ノウェム、コロネ、カルラ、ヘレナ、カルネス。
彼女たちがティア殿下たち三人を助け、フォローに回っていた。
しかし、彼女たちの体力も少なく、呼吸が少しだけ荒かった。
「なるほど」
センは拳を作り、シズカたちを睨みつける。
「さっきのは幻術か」
「正解。私の魔法で対象者がもっとも望む現実を見せることができる魔法」
「たいしたものだ。現実味のある幻術だった」
センはシズカに質の高い魔法であった賞賛する。
「だが、タイミングが悪かったな。もう通用すると思うな」
「思っていない。私たちの目的はあくまで、ハルナたちの回復だからね」
「なに?」
シズカの言い返しにセンは驚愕を露わにする。
「大丈夫?」
ベラとヒロ、カルネスがティア殿下たち三人の回復を始める。
「どうして、ベラたちがここに……」
「カズに言われたのよ」
「カズに?」
ベラの答えに疑問符を浮かべるハルナ殿下。
「カズが私とシズカに教えてくれたの。ハルナの方がキツそうだって……」
「カズ」
彼も戦ってるのに、こちらの方に配慮する気配りにハルナ殿下はギュッと拳を強く握る。
「カルネスたちも同じ口?」
「はい。ズィルバーに言われました」
ティア殿下も治癒してくれるカルネスに訊ねれば、彼女もベラと同じことを口にした。
カルラとヘレナ、カナメ、ノウェム、コロネ、シズカの六人でセンの相手をする。
「一時的な時間稼ぎ」
「相手は“三災厄王”。気を抜いたら死ぬぞ」
「今更だよね~」
「食い止めるぞ」
得物を手に構えるカナメたち。
だが、センは侮蔑しつつ、彼女たちに言いつける。
「貴様ら程度で俺の相手が務まるか」
「務まるかどうかじゃない!」
「あんたを止めるために、ここに来たに過ぎない!」
「見誤るな! 私たちの力を!!」
センの挑発に対し、カナメたちは声を荒げ、吼え返す。
彼女たちの吼え返しにセンは拳に炎を纏わせる。
「どうやら、死をもってわからせないといけないらしいな」
炎が大きくなるにつれ、ティア殿下たち諸共、焼き殺す気でいるのがわかった。
目が鋭くなっていく両者。
いつ、ぶつかり合ってもおかしくない状況。
いつ、動こうかと気を張り詰めていたところで、ノウェムとシズカは微かな物音を聞き取る。
ティア殿下たち三人を治癒していたヒロ、カルネス、ベラの三人も微かな物音を聞き取る。
ボコッ……ボコッ……
ノウェムとシズカは聞き取る方に意識を傾け、耳を澄ませる。
「おい、聞こえるか」
「ええ、聞こえる。泡が吹き出すような音が……」
「微かだがな」
(どこからだ)
ノウェムとシズカは周囲を見渡し、音の出所を聞き分ける。
泡を吹き出す音に続き、なにかが立ち上る音まで聞こえてきた。
「この音は?」
「わからない。でも、なにかが起きようとしてる」
シズカが口にした言葉を皮切りに、傭兵団のアジト全体に地響きが発生する。
「なに、これ……」
「地響き……」
「それに、この音……」
地響きが発生した辺りから耳長族じゃなくても、耳に入ってくる。
誰もが、地響きと音を気にする中、カナメだけは“静の闘気”を使用して、気配を感じとる。
「ん?」
(下?)
カナメは目線を下にし、“静の闘気”で気配を読み取る。
「ッ!!?」
気配を読み取ったことでシズカが言う。なにかが起きるのが判明し、顔を青ざめる。
「下からなにかが立ち上ってくる!!?」
カナメの叫びにノウェムたちも目線を下にして、“静の闘気”で気配と音を読み取れば、なにかが立ち上ってくるのを感じとれた。
次第に地響きも大きくなり、彼女たちにも焦りが見え始める。
「ま、まずいよね?」
顔を青ざめるカナメに、ノウェムもコロネも顔を青ざめ、頷く。
「とりあえず、下がれ!!!」
シズカの号令に従い、彼女たちはティア殿下たちのところまで下がる。
センもセンで距離を取る。
センが距離を取ったところで、床に罅が入る。
放射状に広がっていく罅に警戒する。
そして、彼らの耳にも声が聞こえた。特に、ハルナ殿下、シズカ、ベラ、カルラ、ヘレナは動揺する。
「噴き上げろ。“渦巻く乱気流”!!!」
床を破壊し、噴き上げる巨大な水柱。
ハルナ殿下たちは天井を突き破り、屋上まで伸びる水柱を眺める。
水柱は屋上まで破壊したところで、原形を留めきれず、雨となって大フロアを降り落ちる。
天井に大穴ができ、屋上から吹き込む寒波が大フロアに流れ込む。
床にも大穴ができており、海水で満ちていた。
カナメ、ノウェム、コロネの三人は大穴を見て、思わず、言葉を漏らした。
「海水……」
「なんで?」
「私に聞くな」
困り果てている彼女たち。
すると、海中から誰が出てきた。
海水に濡れた黒髪の少年が。
ハルナ殿下、シズカたちは黒髪の少年を見て、目を見開く。
『か、カズ!!?』
大穴からカズが出てきたことに度肝を抜かれる漆黒なる狼の皆。
『カズ様!!?』
『なんで、あんなところから』
動揺が走る狼の皆。カズは周りを見渡し、皆の顔を見る。
「悪い。カイにぶっ飛ばされちまってさ。北海に沈んでた」
『バカだろ!!!』
漆黒なる狼の皆が揃いも揃って、カズをバカにする。
「だが、安心しろ。僕は同じ敵に二度も負けることはない。僕がカイを必ず倒す!!! 皆、最後まで気合いを入れろ!!!」
カズの力強い激励に漆黒なる狼の皆の心を振るわせ、全員、揃って、声を張りあげた。
アジトの三階で熾烈な激闘を繰り広げているズィルバーとアキレス。
二階で戦ってるユウトとヘクトル。
ズィルバーとユウトの二人は大フロアの方からカズの“闘気”を感じとり、“静の闘気”でカズの声を聞く。
カズの勝利宣言にビキッと額に青筋を浮かべる。
「当然だろうが!!!」
「どこで油を売っていやがった!!!」
二人は思わず、怒りを露わにし、声を張りあげる。
レインもズィルバーが怒るのも至極当然だと思い、肩を落とす。
『カズくんもカズくんね』
(今更だろうが)
『それもそうね』
ズィルバーとユウトはそれぞれの相手と激戦を繰り広げた。
漆黒なる狼全体で志気が高まったところで、センがギロッとカズを睨む。
「貴様をカイさんのもとへ行かせん!」
「押し通るまでさ。それにお前じゃあ、僕の相手にはならない」
「ほざけ!!! “炎王拳”!!!」
炎を纏いし拳がカズに襲いかかる。カズは迫り来る炎の拳を前にしても余裕の顔つきだった。
彼は後ろに視線を転じれば、大穴の海水が渦を巻き、誰かが出てくる。
カルラとヘレナ、シズカとベラ、そして、ハルナ殿下は気配に気づき、大穴の方に振り向く。
「“貫く波”!!!」
その者は海水の槍を放つ。
しかも、カズごとセンを貫こうとしていた。
ハルナ殿下はカズが死ぬと思い、口元を押さえてしまう。
しかし、カズはその場で跳躍し、ブラインドになっていた身体が消えたことで海水の槍が接近してることにセンは今になって気づいた。
センは海水の槍に炎の拳を叩き込んで相殺させる。
海水を炎で相殺させたため、蒸発し、辺り一帯が水蒸気に支配される。
「水蒸気!!?」
「次から次へと……」
「あははっ、もう大乱戦ですね」
ティア殿下とシノアは少々苛立つ。
カズはその間にティア殿下たちに近寄り、背中に触れて体力と“闘気”を回復させる。
「「「ッ!!?」」」
体力と“闘気”が急激に回復したのを感じとったティア殿下たち三人。
カズは彼女たちに声をかける。
「ハルナ」
「カズ」
「そのままで聞いてくれ。お前らの相手は見た目が頑丈なだけで中身は少しずつボロボロだ。これだけ言えば分かるよな」
「うん。カズ。無事で良かった」
「悪い。面倒をかけた」
カズは男らしく力強い笑みを浮かべる。
「ッ!!?」
ハルナ殿下はドキッと頬を赤くし、プイッとそっぽを向く。
「それと、魚人族のヒューガっていう奴を仲間にした。信用できる協力してくれ」
「……うん。わかった」
ハルナはカズの伝言を聞いて頷く。
カズも伝言を告げたので、自分の戦いへ赴くため、動きだした。
カズが離れたところで、ハルナ殿下はムスッと頬を膨らませる。
「不意打ちはひどいわよ」
彼女の告げ口にティア殿下も同情する。
(わかるわかる。ズィルバーもたまに見せる男らしさに心がときめいちゃうのよね)
うんうんと頷いた。
カズは海水に触れ、掴み上げる。
掴みあげた海水は渦を巻き、水流へと変える。
「じゃあ、行きますか。“生きる乱気流”!!!」
水流は水龍へと代わり、天井の大穴へ駆け上がっていく。
カズも水龍に飛び移り、屋上へと向かった。
「待っていろ、カイ!!!」
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