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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流~決戦~
122/296

“七厄”全滅。

今年最後の投稿かな

 カズが北海に沈んだのをズィルバーとユウト。二人は“静の闘気”で感じとれた。

「カズ!!?」

「やられたのか!!?」

 心に僅かばかり動揺が走る。

 僅かな心の虚を突くかのようにアキレスとヘクトルは強烈な蹴りを叩き込む。

「余所見とは――」

「――随分と余裕だな!」

「ぐっ!!?」

「ガハッ!!?」

 強烈な蹴りを土手っ腹に叩き込まれたズィルバーとユウトの二人。

 二人は口からほんの少しだけ血を吐く。

 二人とも踏ん張りをつかせて、堪えきるも口から垂れる血が戦いをしていると実感する。

 カズのことで一瞬、心が乱れたのは確かだ。

 ズィルバーとユウトは口から垂れる血を拭い、体勢を立て直す。

(カズ……早く戻ってこい)

(カイがずっと、あそこにいるとは思えないからな)

 ズィルバーとユウトは屋上に居続けるカイがいつまでも、屋上に居続けるとは思えなかった。

 なので、カズの帰還を待ち望んでいた。




 首長の怪物――フェレライを相手してるビャクとルア。

「死にやがれ。“鈍重なる踏みつけ(ヘヴィ・スタンプ)”!!!」

 巨大かつ鈍重であるため、ビャクとルアの動きについて来れていないフェレライ。

 俊敏な二人を前にブチ切れたのか目が充血し、“魔族化”したフェレライ。

 凶暴化したことで、縦横無尽に暴れ出し、狭い廊下の壁を破壊していく。

「ちょこまかと動き回りやがって!!! “鈍重なる薙ぎ払い(ヘヴィ・テール)”!!!」

 尾を振るって、辺り一帯を薙ぎ払っていくフェレライ。

 ビャクとルアは壁に剣を突き刺して、回避していた。

「見境がないな」

「姉様。あれ、本で書かれてた“魔族化”でしょうか」

「おそらくね……にしても――」

 ビャクはフェレライの鱗を見る。

 フェレライの至るところに傷があるも、血が流れてるだけで、致命傷に至っていない。

「頑丈ね」

竜人族(ドラグイッシュ)だからでしょうか」

「うん。竜人族(ドラグイッシュ)だからこその硬さでしょう。ただし、ダメージは蓄積している。業腹だけど、凶暴化して、“動の闘気”を全開にして暴れてるから疲労の蓄積が早いのが幸いだな」

 ビャクの冷静な分析により、フェレライが疲労を蓄積してることに気づく。

 ここでフェレライに変化が生じる。

 首長の怪物から人型の形態に変化する。

「“形態変化”した……あれが奴の人型形態」

「見るかぎり……小太りしてるね」

「ルア。ポッチャリしたと言いなさい」

「姉様もちょっと、人のことを言えませんよ」

 フェレライの“形態変化”。

 百五十センチメル以上の相撲取りのような大男。

 ただし、目が充血してるため、凶暴化してるのが目に見えてわかる。

「ん?」

 ここで、ルアが首を傾げる。

「どうした、ルア?」

「なんか、一気に強くなったような……」

「ああ、ただ、力をぶちまけるだけが戦いじゃない。力を制御できる形態に変化したと思う。見た目のわりに考えてるのか。はたまた、本能で判断したのかは分からない」

「姉様。そろそろ……」

「そうだね」

 ビャクとルアは壁に突き刺した剣を抜き、床に降り立つ。

 ギロッと二人を睨みつけるフェレライ。

「ちょこまかと動き回る小娘共め。ずっと傍にいるが、二人一組じゃないと力が発揮できないのか?」

 フェレライはビャクとルアが二人一組に近い会話、動きをすることに毒を吐いた。

 しかし、ビャクとルア。双子姉妹はケロッとしていた。

「二人一組で、なにが悪い」

「私たちは双子。誰にも切ることができない」

 ビャクとルアは双子姉妹だ。

 双子だからこそ、最大の利点がある。

 それは、ズィルバーが教えてくれた。


「ビャク。ルア。こいつを使え」

 ズィルバーがビャクとルアに渡したのは二振りの剣。つまり、双剣だ。

 ビャクは淡い朱色の双剣。ルアは淡い青色の双剣だ。

 まるで、太陽と月を現していた。

「ビャクのが、“太陽の双剣(デュアル・ゾネ)”。ルアのが“月光の双剣(デュアル・リュヌ)”という双剣だ」

「“太陽の双剣(デュアル・ゾネ)”……」

「“月光の双剣(デュアル・リュヌ)”……」

 ビャクとルアは双剣の刃を見て、綺麗と、言葉を零していた。

「その二振りの双剣は“太陽と月”を現している」

「太陽と月」

「どうして、そう現されているんですか。委員長?」

 ルアの率直な疑問にズィルバーは答える。

「“(ゾネ)は夜を知らず(リュヌ)は昼を知らず”という語源がある。太陽と月は空を明るく照らすも、昼と夜で世界が違い、支配する。どちらかが兼ねることができず、両方を兼ねることができない関係だ。双子のキミらも兼ねることができない関係。そして、委員会を照らし導く太陽と月になる」

「明るく照らし……」

「……導く存在」

 ビャクとルアは自分が持つ双剣を見る。

「ビャク。ルア。キミらは一人では弱い。それは事実だ。しかし、二人で戦った時のコンビネーションは勝っている。力が合わされれば、より大きな力となる。ただし、個々の力が小さければ、合わさる力も弱い。つまり――」

「そのためには私たちが強くなるしかない」

「その通りだ。俺がキミらを鍛えてやる。キミらに似合う戦い方を伝授しよう」

「「はい!」」

 ズィルバーがビャクとルアに教えた戦い方。

 それは、千年前、[戦神ヘルト]の右腕と左腕とされた双子。

 カストルとポルックスの戦闘スタイルだからだ。


 双子の利点を思いだしたのと同時にズィルバーに言われた戦い方を思いだす。

「ねえ、姉様」

「ああ、今の奴なら、委員長から教わった戦い方ができる」

 ビャクとルアは互いに頷いて、双剣を構える。

「あ゛っ? なんだ、その笑顔は?」

 ビャクとルア。二人は笑っていた。

 フェレライにとっては気分を害したのか怒りを露わにし、“動の闘気”を大きく纏わせた尾で薙ぎ払ってきた。

 ビャクとルアは躱すのだが、ビャクは下にしゃがみ込み、ルアはふわりと舞い上がるように跳躍した。

「いくぞ、ルア!」

「はい、姉様!」

 二人は息を合わせて、双剣を振るう。

「「“双星の光子(アルカディア・ムーブ)”!!!」」

 朱色と青色の剣閃がフェレライを襲う。

 剣閃は縦横無尽に襲いかかり、フェレライの鱗を斬り裂いていく。

「なに!!?」

 フェレライは腕で顔を隠し、斬撃を受けきっている

(先とは、動きが違う。ちょこまかと動き回る蠅共だったと思ってた奴らが。全然、動きが読み取れねぇ……どうなってるんだ!!?)

 ズバッ、ズバッと鱗を斬り裂く。

 地で舞うビャクと宙で舞うルア。

 その姿はまさに、“嬰児”。二つの星が舞う嬰児――“双星の嬰児(ディア・メリソス)”であった。

 偶然、ムサシとコジロウがビャクとルアの戦い方を目撃する。

「すごい」

「舞を見ている気分」

 圧巻の一言であった。

「小娘共。いい気になるじゃねぇ!!! “飛び散れ、鱗よ(ヘヴィ・スケイル)”!!!」

 鱗を周囲に飛ばす。

 散弾に飛び交う鱗を、ビャクとルアの皮膚を斬り裂いていく。

 服には斬り裂くどころか鎧のように防がれた。

 しかし、斬り裂いたことには変わりなく、血が出ていることには変わりない。

「姉様!!」

「いくよ!!」

 地に降り立ったルアはビャクとともに地を蹴った。

 双剣には“動の闘気”を纏わせて――。

「「“双星の大賛美歌アルカディア・グローリート”!!!」」

 太陽の双剣(デュアル・ゾネ)月光の双剣(デュアル・リュヌ)を持つビャクとルアが繰り出す一糸乱れぬコンビネーション技。

 煌めく閃光が火花を散らし、フェレライの鱗を貫き、斬り裂いていく。

 目にも止まらない光速の太刀筋。

 ビャクとルア。

 双子姉妹の絶対的な信頼がなければ成し遂げれない。

 まさに、双子だからこそできる絶技。


「「ハァアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!!!!」」


 凜々しい雄叫びが轟き、フェレライの鱗を、肉を深く斬り裂いた。

 閃光が消え、辺りは殺風景ともいえる静けさがあった。

 ブシャッと、辺りに飛び散る血が、ビャクとルアの斬撃によるものだと思い知らせる。

 ズシンと俯せに倒れたフェレライ。

 白目を剝き、気を失った。

 ハアハアと肩から息を吐くビャクとルア。

 汗が止めどなく噴き出している。

「やったね、姉様」

「初めて成功した」

「ぶっつけ本番はまずかったね」

「これに懲りて、個人とコンビネーションを極めましょう」

「うん!」

 剣を重ね合わせ、互いに誓いを立てた。

「おーい。ビャク、ルア」

 ムサシがビャクとルアに声をかける。

「ムサシ」

「コジロウさん」

「倒したんだな」

「これで、“七厄”の一人が倒れた。戦況はこちらに傾いたのは確かだ」

 ビャクとルアが“七厄”の一人、フェレライが倒した事実が“魔王傭兵団”アジト内に轟き、傭兵団に動揺が走る。

 発端は、フェレライが倒れたのを見ていた団員が、すぐさま、声をあげ、騒ぎ立てた。

 騒ぎが伝播し、アジト内に轟き、動揺が走った。

 しかし、フェレライがやられたのと同時に、別の情報が伝播した。

 ツォーンがやられた。であった。




 時を遡ること、十数分前。

 魚に似た怪物――ツォーンと対峙しているカルラとヘレナの二人。

 二人は“静の闘気”を使い、回避し続ける。

 それはなぜか。

 鋭き爪と牙を持つツォーンの猛攻を躱し続けていた。

 カルラとヘレナは武器を持たず、魔法と体術のみで戦い抜いていた。

 その証拠に手甲と足甲を含め、軽装備をしている。


 カルラとヘレナは幼少の頃から幼馴染みであり、両親から武芸を教わり、魔法による補助する術を学んだ。

 しかし、両親を“教団”の残党によって命を取られ、敵を取りたいと思い、力を付ける道を選んだ。

 北方、“蒼銀城(ブラオブルグ)”の城下町、裏路地にて。

 気が荒れていたカルラとヘレナ裏路地界隈で暴れ続け、ゲルトに目を付けられ、“ティーターン学園”北方支部に無理やり入学された。

 カルラとヘレナも“問題児”クラスに配属されたが、授業という授業がなく、自力で知識を貪り、力を付けることにした。

 だが、半年後、中央からカズとハルナ殿下が編入し、“問題児”クラスに配属された。

 最初は自分らを押し込めたゲルトの息子――カズに苛立ちを覚え、徒党を組んで、カズとハルナ殿下に殴り込みをするも、返り討ちにされた。

 弄ろうと考えたけども、カズとハルナ殿下は聞く耳を持たず、ただひたすら、己を鍛えていた。

 自分に驕らず、ただひたすら鍛えるカズの姿にバカらしくなり、彼に倣って鍛えることにした。

 そこに、“魔王傭兵団”の敗走に追い打ちをかけるように強襲し、自分の存在を知らしめた。

 漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフという組織を立ち上げ、学園北方支部の治安維持することになった。


 そして、今、カルラとヘレナは“魔王傭兵団”幹部“七厄”の一人、ツォーンと相手をしている。

 鋭き爪と牙の猛攻を躱し続けた。

 カルラは躱しながら、徐々にツォーンを近づいていく。

 “動の闘気”を大きく纏わせた拳をツォーンの両脇腹に軽く殴りつける。

「ハッ。その程度のパンチが俺に通じるか!」

 ツォーンは鼻で笑い、鋭き爪を振るう。

 三本爪がカルラに迫り来るも、彼女は臆すこともなく、ツォーンの腹部に掌打を叩き込んだ。

 最後の掌打を叩き込んだとき、ツォーンの身体に異変が生じる。

 目を見開き、動きが止まる。

「グオォッ!!?」

 呻き声を上げ、吐血する。

「な、なぜ……」

 ツォーンは口から血を吐き、カルラを睨みつける。

(あんな生緩いパンチが、これほどのダメージを……まるで、()()()()()からダメージが……)

 ツォーンは体内からダメージが蓄積したのかが分かった。

「テメエ……!!!」

 ギロッと睨みつけるツォーンにカルラは答える。

「その通り。そのダメージはあなたの体内から生み出されたダメージ。大きく纏わせた“動の闘気”だからこそ、できたこと」

(もっとも、“動の闘気”を大きく纏わせるコツを掴んだのは、ここ最近だったから。うまくいけてよかった)

 内心、安堵してたカルラ。

 ゴフッ、ゲホッと血を吐き続けるツォーン。

 相当な痛みがだったのか怒りが膨らみ上がり、一気に激情(爆発)する。

「テメエ……ぶち殺してやる!!!」

 目が充血していき、鱗が浅黒くなる。

「ッ!!?」

 カルラはツォーンから発せられる“闘気”から本能的に危険だと判断し、一気に仕留めると判断した。

「ヘレナ!」

「分かってる!」

 ヘレナも感じとっていて、今のツォーンが危険だと悟った。

 彼女は地を蹴って、ツォーンに近づこうとするも、彼女の側面から尾が接近する。

 急な接近にヘレナは動揺し、カルラごと薙ぎ払われた。

「ブッ!!?」

「ガッ!!?」

 尾による薙ぎ払いは強烈だったのか口から血を吐き、ドコンと壁に叩きつけられた。

 想像よりもダメージが深かったのか痛みに苦悶する。

「痛ーい」

「大丈夫、ヘレナ」

「なんとかね」

 ガラガラと石つぶてを落としつつ、壁から出るカルラとヘレナ。

 土埃を払い、血を拭うも相当なダメージを受けたの確かだ。

「グッ!!?」

「本当に大丈夫?」

 痛みに苦悶するヘレナにカルラは心配な声をかける。

「あばらの数本は逝ったわ。カルラは?」

「私も同じよ。腕に罅が入ったわ」

 お互いの状況を把握し、まずい状況に陥ったのを悟る。

 ドシン、ドシンと近づいてくるツォーン。

 目が充血しており、尾を振るえば、壁を破壊し、瓦礫を作り上げる。

 もはや、理性なぞ存在せず、全てを破壊する凶暴な怪物となっていた。

「小娘共。ぶち殺してやる!!!」

 ツォーンの頭の中にはカルラとヘレナを噛み殺すことしか考えていない。

 カルラとヘレナも本能的に一気に勝負をつけないといけないと悟る。

「もうこうなったら……」

「攻めあるのみ!」

 二人は地を蹴って、ツォーンに接近し、“動の闘気”を纏わせた拳と蹴りを叩き込む。

「“跳梁蹂躙(ソテ・レーベン)”!!!」

「“陣掃烈波(プッツェン・ヴァーグ)”!!!」

 宙に跳躍し、貫手と蹴りの殴打をするヘレナ。

 地に近寄り、拳の殴打をするカルラ。

 “動の闘気”を纏わせし、拳と蹴り、貫手がツォーンの鱗ごしに叩き込まれる。

 “動の闘気”を纏わせているため、体内にまでダメージが浸透し、ツォーンは呻き声を上げながら血を吐く。

 白目を剝きそうになるも、ズシンと足で踏ん張った。雄叫びをあげながら、鋭き爪による掌打をカルラとヘレナの脇腹に叩きつけた。

「ガハッ!!?」

「ブッ!!?」

 掌打で吹き飛ばされるも、足に力を入れ、踏ん張りをつけて堪えきった。

 しかし、打ち所が悪く、痛みで意識が飛びそうになる。

 だが、ツォーンも同じで、カルラの体内攻撃。カルラとヘレナも殴打によるダメージが体内に蓄積し、肩から息を吐き、汗を垂れ流している。

 カルラもヘレナも息は荒くなくとも、脂汗を多量に流している。

(無闇に長引かせると痛みが悪化する)

(でも、それはツォーン()とて同じ)

 カルラとヘレナはツォーンが限界に近づいてるのに気づいている。

 見かけがピンピンなだけで内側は既にボロボロであった。

「この一撃で決める」

「限界を超えようじゃない」

 “動の闘気”を拳に大きく纏わせ、全身全霊の一撃を叩き込む、と意気込むカルラとヘレナ。

 足に力を入れ、地を蹴った。

 接近してくるカルラとヘレナにツォーンは鋭き牙で噛み砕こうとする。

 しかし、すんでの所で二人は左右に散って回避する。

 ツォーンが瓦礫を噛み砕いてしまったため、煙が発生し、視界が途切れてしまう。

「どこに行ったァア!!!」

 吼えるツォーンの両脇腹にトンと指と掌が触れられたのを鱗から感じる。

 不意に視線を後ろに転じれば、カルラとヘレナがツォーンの両脇腹に指と掌を触れていた。

 二人は息を吸って、触れた指と掌に“動の闘気”を一点に凝縮させた。

「“無音なる一撃(リヤン・リトム)”!!!」

「“合わせなる一撃(コーラル・リトム)”!!!」

 密着した状態で放たれる突き技。

 一点に凝縮された一撃がツォーンに叩き込まれ、ダメージ許容量の限界を超えた。

 渾身の一撃を叩き込まれたツォーンは白目を剝き、口から血反吐を盛大に吐き、ズシンと倒れ伏した。

 倒れた際、床が揺れ、土煙が舞う。

 魚に似た怪物の形態から、人型に戻っていくのを見て、ツォーンが戦闘不能になったのを確認する。

「……やった」

 勝利を喜び合うカルラとヘレナだが、脇腹からの激痛に堪えきれず、ゲホッ、ゴホッと咳き込む。

 口から多少なりとも、血や吐瀉物を吐き出すも二人は勝ったと実感し、拳を突き合わせた。


 二人が拳を突き合わせたところで、狼の部下と思われる者たちがカルラとヘレナに駆け寄ってくる。

「カルラさん! ヘレナさん!」

 部下たちが二人のもとに駆け寄ってくる。

 部下はカルラとヘレナの状態を確認し、治癒ができる者に声を飛ばす。

「おい、すぐに応急処置をしろ!」

「は、はい!」

 部下の一人に言われて、治癒ができる部下数名がカルラとヘレナの治療にあたる。

「動かないでください」

「すぐに応急処置をします」

「あ、ありがとう」

 カルラは治癒してくれる部下に感謝しつつ、戦況を訊ねる。

「現在、大フロアでは、“七厄”のナイトに加え、“炎王”センが参上しています」

「ハルナは?」

「ハルナ様はティア様と親衛隊の方と一緒にセンと戦っています」

「親衛隊?」

「バカな。親衛隊は解放軍の方に回したはず……」

 カルラとヘレナは親衛隊が敵本拠地(ここ)に来てるとは想定外で驚いてる。

「いえ、黄昏側に寄れば、中央の親衛隊らしく、顔なじみのようでした」

「どうやら、黄昏では親衛隊第二帝都支部とは、よく喧嘩してるとのことで、今回、独断で北方に来たと言っています」

「人数は?」

「五名です」

 ヘレナの問いの答えにカルラとヘレナは顔を見合わせる。

「たった五人なの」

「他に来ていないの?」

「いえ、来ておりません」

 部下の返答にカルラとヘレナはプッと笑みを零す。

「五人の援軍なんて、けっこうバカじゃない」

「そうね。でも、来てくれるだけ助かる」

 カルラとヘレナは多少バカにするも援軍に来てくれたことに感謝する。

「お二人は今、動けるに支障がない程度の応急処置をした後――」

「他の戦場に回るわ」

「あばらと脇の傷さえ治せば、問題ない」

 カルラとヘレナの戦況を把握さえすれば、自分がすべきことが分かっている。

「傷が治り次第――」

「私たちは雑魚共を倒しに向かう」

 まだ、戦いは終わっていないと認識した。


 しかし、ツォーンがやられたのを目撃していた傭兵団の団員が、すぐさま、その場から逃げ去り、“ツォーン様がやられた!!!”と叫び回った。

 そして、同じタイミングでフェレライがやられたことが伝播し、傭兵団に動揺が走ることになった。

『フェレライ様とツォーン様がやられたァアアア!!!』

『おい、冗談だろう。傭兵団の幹部“七厄”だぞ!!?』

『それが、本当だ。黄昏と狼の幹部の手によって完膚なきまでに敗北しやがった!!!』

『うそだろう!!?』

 傭兵団内で動揺が走る。

 敵勢幹部が十代初頭の子供に敗北した。

 この事実が、アジト内に浸透し、団員内に迷いが出ていた。

『どうする?』

『決まってるだろう! そいつらの首を獲りにいくんだよ!!!』

『でも、俺らに勝てるのかよ!?』

『フェレライ様とツォーン様と戦って、とっくに満身創痍だ。俺らでも首は獲れるぞ!!!』

 団員の一人が言い放てば、周りの団員も便乗して、ビャクとルア。カルラとヘレナの首を獲ろうと動きだした。

 ただし、行く手を阻もうと黄昏と狼の連合軍たる幹部勢が迎え撃った。


 互いに勢いづく戦場。

 勢いづく戦場。しかし、水を差すかの如く、壁を噛み砕く魔力ないしは“闘気”の牙が戦場を飛び交う。

『ッ!!!』

 自分らに襲いかかる牙を黄昏と狼の連合軍は回避するも、傭兵団の団員はそうといかずに牙に噛みつかれ、骨を噛み砕き、肉を噛みちぎる。

「ギャアアアアーーーーッ!!!」

「これは、ホッファート様の(ツァンナ)だ!!!」

「やめてくれ! ホッファート様! こんな近くで、牙を使わないでくれ!」

 阿鼻叫喚。

 団員らの泣き言や呻き声が飛び交い、痛みで悶えていた。

 黄昏の幹部部隊の一つ“八王”のアルスとライナが痛みで悶える団員を見て、異様な光景に冷や汗を流す。

「牙だけで、これほどか……」

「あっちからよ」

「急ぐか」

「ええ」

 アルスとライナは敵を薙ぎ倒しながら、牙の出所へ向かった。


「“突撃する牙(アッサルト・ツァンナ)”!!!」

「“斬り裂け、血の花よ(ブラッド・コルタール)”!!!」

「“突き刺され、血の槍クリムゾン・シュペーア”!!!」

 “形態変化”したホッファートの放たれた牙の斬撃を、シズカとベラは血の槍と刃で相殺させる。

 しかし、数に限りがあり、血の槍と刃では相殺しきれず、牙の斬撃がシズカとベラに迫り、襲いかかってくる。

「シズカ。躱して!」

「分かってる!」

 シズカとベラは“静の闘気”を駆使して、身体を捻らせて、回避し続ける。

 牙の斬撃が収まると、ホッファートは地を蹴って、シズカとベラに接近し、両の一本貫手がシズカとベラに襲いかかる。

「“断末魔の舞踊(デゼス・タンツ)”!!!」

 “動の闘気”を纏わせた一本貫手による連続突き。

 しかも、鋭き爪があるため、突かれたりしたら、肉が抉られると想像し、シズカとベラは“静の闘気”に全力で割かせて、回避し続ける。

「“柳流し(ソール・ヴィエ)”!!!」

 “静の闘気”を駆使し、巧みな足運びで、ホッファートの目の動きよりも速く動いて回避し続ける。

「なに!!?」

(透けていくように回避してる)

 ホッファートの目から見れば、透けて見えると錯覚してしまう。


 シズカとベラに格闘センスなどない。

 彼女たちも重々理解していた。

 二人の主体は魔法による殺傷だ。

 シズカとベラは内在魔力(オド)が豊富な“耳長族(エルフィム)”であるため、豊富な内在魔力(オド)を存分に生かせる魔法を主体にする戦い方を選んだ。

 しかし、カルラとヘレナの二人に挑むも、魔法を躱され、懐に入って一撃を叩き込まされるのが多くあり、敗戦することが多かった。

 魔法だけでは、この先、通用しないのかと思い至り、体術を鍛えようとした矢先、カズが無意識に零した言葉が救いとなった。

『ありとあらゆる魔法を取り込み、自分なりに昇華すればいいと思う。躱すなら、“静の闘気”で躱せばいいと思う。後は、それを行えるだけの足運びと体裁きを身に付ければ、魔法でも虚実ができると思う』

 彼の言葉が救いとなり、シズカとベラはカルラとヘレナから必要最低限の体裁きと足運びを教えてもらい、学園北方支部に蔵書してる魔法書を読み解き、一言一句理解し、カルラとヘレナを相手に実戦した。

 カルラとヘレナも魔法の恐ろしさを改めて実感し、対魔法使いとの戦闘を考慮した戦い方を学ぶことにした。

 カズとハルナ殿下はカルラとヘレナ、シズカとベラらと相手に実戦する。

 カズの槍裁きと足技にカルラとヘレナも腕に痺れが残すほどの威力を秘めており、ハルナ殿下の細剣の突き速度が魔法でも使用してるのか疑ってしまうほどの威力と速さを持ち、シズカとベラも本当に人族(ヒューマン)なのかと疑ってしまった。

 兎にも角にも、シズカとベラは感覚が鋭い“耳長族(エルフィム)”の特性を活かし、体裁きと足運びを特化して体術を鍛え続けた。


 透けるように躱し続けるシズカとベラ。

 髪で隠してる耳長族(エルフィム)の尖った耳と“静の闘気”を駆使して、一本貫手の連続突きを躱し続ける。

 ホッファートも一本貫手を突き続けても無駄だと悟り、突きを止めて、強靱な腕と脚から乱打をくりだされる。

「“暴れ狂う猛虎(エルガー・ティーグ)”!!!」

 縦横無尽にくりだされる拳と蹴りの乱打をシズカとベラは“静の闘気”を駆使して躱し続ける。

 拳と蹴りを躱せても風圧まで流すことができず、ピシュ、ピシュと切り傷が生まれる。

 切り傷とはいっても掠り傷だが、傷は傷であることは変わりない。

「チッ……」

「クッ……」

 シズカとベラは回避し続けるも風圧による傷が徐々に増えていく。そして、ホッファートの狙いを見抜く。

(あいつ……私たちが躱し続けるのを読んで、縦横無尽に振るっている)

(狙いは私たちに血を流して動きを鈍らせること)

 二人は狙いが分かれば、対処ができる。

(狙いが分かれば、容易い)

(こういう時は、この魔法ね)

 シズカとベラ。二人は“静の闘気”による回避を止め、拳と蹴りの乱打を受けに来た。

「へッ!」

(そろそろ、限界か)

「ズタズタに引き裂いてやる。“破壊し尽くす猛虎シュテールン・ティーグ”!!!」

 暴虐不尽。残虐非道。縦横無尽。

 もはや、清廉潔白の欠片もなく、強靱な膂力から振るわれる拳と蹴りによる乱打。

 手足の爪に皮膚を切り裂き、肉を穿ち、骨を断つ。

 容赦の欠片もなく、ただ、殺戮衝動。破壊衝動に駆られ、十代初頭の少女をいたぶれる高揚感いや愉悦に浸っていた。

「ガハハハハハーーーー!!! このまま、玩具のようにいたぶってやる!!!」

 下卑た笑みを浮かべ、下心に塗れた欲望を吐き散らした。

 ズタボロになるまでいたぶられたシズカとベラ。

 彼女たちは白目を剝いて、バシャッと血の海に倒れ伏した。

「ガハハハハハーーーー!!! これで、小娘共は俺の物だ!!!」

 下卑た欲望を吐き散らすかのように高笑いをするホッファート。

 だが、彼の耳に入る少女の声に呆気にとられる。

「いい夢を見れた?」

 ビシビシと景色に亀裂が入る。

 色彩も徐々に消えていき、ガラスのように砕け散った。

 砕け散った景色から色彩のある景色が視界に入れば、ホッファートは信じられないのを目にする。

「な、ん、だと……」

 目にしたのは、風圧による傷があるだけのシズカとベラの姿だった。

 つまり――

「まさか、俺がさっきまでいたぶっていたのは……」

「その通り。幻。幻惑です」

 シズカが使用した魔法は“理想の幻惑イデアル・イリュジオン”。

 ありとあらゆる魔法書を読み解き、独自に編み出した魔法。

 この魔法は対象者がもっとも望む現実を見せる。使い手の技量、タイミング次第で一気に形勢を逆転させる魔法だ。

 下卑た欲望や手の内を明かされてしまう有用性がある。

 ただし、使い手の技量とタイミングを誤ると一気に形成が悪化する可能性だってある。使い方は慎重に行いないといけないのが重要なポイントだ。

「ば、バカな……幻覚といえど、確かに手応えがあったんだぞ」

「ふーん。どうやら、うまくいけたようね」

 実験成功とまで言わんかぎりの笑みを浮かべるシズカ。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()

「ガハハハハハーーーー!!! だったら、次は魔法が使うタイミングすら与えず、ズタズタに引き裂いてやる!!!」

 下卑た笑い声を上げるホッファート。

 しかし、ベラはクスッと笑みを零す。

 まるで、憐れな男と侮蔑するように。

「何を言ってるの? もう終わってるわよ」

「ハッ?」

 ホッファートはベラの言葉が理解できず、呆ける。

「だから、あなたは()()()()()()()

「ハッ? 何を言――」

 ボコッ

 ホッファートの身体が醜く膨張する。

 いや、正確に言うなら、身体じゃない。筋肉、血管が膨張し始めた。

 血管が浮かび上がるほどに膨張し、ブシュッと血管が切れ、血を吹き出す。

 肉体が肥え太ったかのように膨張し、水風船のように脈動している。

「この……魔法は……」

「“咲き狂え、血の爆弾(クリムゾン・ボンバー)”。体内の血液を気化させ、()()()()()魔法よ」

「ば、く……はつ……」

 醜く膨張し続けるホッファート。

 しかし、膨張にも限界が来ていた。

 シズカとベラもホッファートの最期など興味がなく、踵を返す。

「下卑た欲望を吐き散らす男に相応しい最期ね」

「醜く死になさい」

 ホッファートの視界にシズカとベラが見えなくなったところだ。

 膨張した肉体が爆発し、辺り一帯に肉片と血が飛び散った。

 ホッファートの最期を目撃した者はいない。

 だが、この勝負は漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフのシズカとベラが勝利という形で終わった。




 場所を変え、ヒロとカナメは今、ファールハイトと激戦を繰り広げている。

「“転がり廻る竜(イリュ・ロタシオン)”!!!」

 骨質の板をとげに転がり回る黄土色の怪物――ファールハイト。

「…………」

「…………」

 迫り来る棘車輪にヒロとカナメは無言で頷き合い、左右に散る。

 しかし、ファールハイトも読んでいたのか軌道を変え、ヒロの方へ回り出す。

「ヒロ!!」

 声を飛ばすカナメに対し、ヒロは鎌を前に構えるも、“静の闘気”による“未来予測”をしたことにより――

(受けきれない)

 “動の闘気”を用いても受けきれないと悟ったのか。耳長族(エルフィム)の種族的特性と“静の闘気”を同時に生かして、回避し始める。

 ヒロが回避するのに合わせて、ファールハイトも軌道を変え、ヒロを追いかける。

「チッ」

(棘があるのに、こんな軌道するのか!!?)

 棘車輪の軌道に自棄になるヒロ。

 だが、心が自棄になっても、頭は冷静であり、床を滑るように回避し続ける。

「なっ……」

 カナメはヒロの回避する方法に度肝を抜く。

(足に“闘気”を薄く纏わせ、床を滑らせるように回避してる。“闘気”の運用がうまい。ズィルバー以外に、“闘気”の運用が器用な人を見たことがない)

 彼女はヒロが力を隠していたことに驚く。

「…………」

 棘車輪でヒロを追いかけ続けるファールハイトもヒロの“闘気”の運用に目を細める。

 ファールハイトは転がり回るのを止め、ズシンと四本足で立った。

 立った後、爬虫類の瞳孔でヒロを見続け、後ろにいるカナメを見る。

 ヒロとカナメ。

 異色の二人が手を組んで、ファールハイト(自分)を相手にしてることに彼女は目を細める。

 目を細めた後、身体が変化し始めた。

 四足歩行の怪物から二足歩行の人型へ代わり、鋭き爪と牙が生え、両腕と両脚に鱗が覆われ、背中に骨質の板が生え、尾が生えてた。

 声やしゃべり方から女性だというのを察していた。

 ファールハイトの人型はスラッとした女性。人族(ヒューマン)で街にくり出せば、世の男はファールハイトを振り向くだろう。

 ファールハイトの美貌は宝石のように輝いていた。

 しかし、彼女はヒロとカナメを交互に見る。

「見事な“闘気”の運用。初めて見た」

 ファールハイトの言葉に疑問符を浮かべるヒロとカナメ。

「“闘気”、“魔力”というのは身体から洩れ出す。鍛えたとしても同じだ。私が驚くのは、まだ子供なのに、“闘気”の運用、配分が上手だと言うことだ」

(少なくとも、身体を薄く覆わせるなぞ。初めて見た)

 ファールハイトからすれば、“闘気”の運用という一点においてはヒロとカナメの方が上だということ。

 逆に、ヒロとカナメからすれば、ファールハイトは戦闘経験と()()が上だということ。

 ゴクッと息を呑む緊迫な状況。

 カナメは魔剣を強く握り、刀身に“闘気”を纏わせる。

 アジト内の至るところで激しい戦いを繰り広げているため、パラパラと塵が舞う。

 カラッと石礫がファールハイトに落ちてきた。彼女は石礫を尾で弾いた。

 瞬間、カナメの剣が閃いた。

「“北蓮流”・“五月雨(さみだれ)剣舞(つるぎのまい)”!!!」

 剣一本から放たれる斬撃。

 途端、無数の斬撃に分裂し、軌道すらもファールハイト一直線に向かう。

 ファールハイトは後ろに視線を転じ、目を見開かせる。

「なに!!?」

(瞬時に“動の闘気”を大きく纏わせ、斬撃に転じた)

「しかも、斬撃が分裂し、軌道まで操れるとは」

 斬撃をも自在に操れるカナメの技量に驚嘆する。

「だが、甘い」

 ファールハイトは背中を丸め、鱗を立たせてる。

「“飛び出す鱗の刃弾(スケイル・ブレイク)”!!!」

 立たせた鱗が射出し、迫り来る斬撃を相殺させる。

 ファールハイトが少しの間だけ、カナメに意識を向いてくれたことで、ヒロも動きやすくなり、鎌に“闘気”を纏わせ、接近する。

「“飛燕”」

 鱗を斬り裂くかのように振るわれた鎌技。

 だが、ファールハイトもヒロが近づいているのを分かっていたのか。すぐさま、その場で回転し始める。

「“散弾しろ、鱗の刃弾ムーン・スケイル・ブレイク”!!!」

 辺り一帯に散弾する鱗が射出され、斬撃をも消し飛び、ヒロとカナメに襲いかかる。

 襲いかかる鱗に、ヒロは鎌を回転させ、カナメはもう一本の魔剣を抜き、心を落ち着かせ、不可侵領域を形成する。

「“水蓮流”・“制空剣界”」

 襲いかかる鱗が不可侵領域に入った途端、二本の剣で弾き始める。

「「アアアアァァァァァァーーーーーーーーッ!!!!!!」」

 全てを弾いてみせるかのように声をあげながら、凄まじい勢いで迫り来る鱗を弾き続けるヒロとカナメ。

 ファールハイトは回転を終えたところで、辺りを見渡す。

 辺りは鱗が貫通し、風穴だらけの壁や床、天井だが、ある一帯だけは床が無事だった。

 ヒロとカナメがいた場所だ。

 二人は肩から息を吐き、自分に襲いかかる鱗を弾ききった。

 ハアハアと息を吐く二人にファールハイトは賞賛の声をあげる。

「見事だ。私の鱗を全て弾くか。白銀の黄昏シルバリック・リコフォス……子供だけの組織にしては、質の高いメンバーが集まっている。確か、キミたちは“九傑”と呼ばれていたな。“四剣将”の次に地位のある幹部」

 賞賛の声をあげつつ、ファールハイトはヒロとカナメの肩書きを口にする。

 “九傑”。

 白銀の黄昏シルバリック・リコフォスにおける幹部の総称。

 総帥にして、委員長のズィルバーを頂点に、副委員長のティア殿下、“四剣将”、“九傑”と組織構成されている。

 “九傑”の構成は“問題児”の中で強者と部類にしている“問題児”で構成されている。

 ヒロとカナメも強者なので、“九傑”の一人として扱われている。

 しかし、ヒロとカナメはファールハイトの話を無視し、カナメが口パクに近い小声でヒロに伝える。

「仕留めれる?」

 という質問にヒロは頷く。

「まだ、手の内がある?」

 この質問にも頷く。

「じゃあ、私が作るから。ヒロが仕留めて」

 カナメはそう言い、ヒロは頷いた。

 ヒロが頷いたところで、カナメは床を蹴ろうとしたが、ファールハイトは床を蹴って、カナメではなく、ヒロに接近する。

「ッ!!?」

 さすがのヒロも予想外な行動に動揺し、一瞬だけ動きが鈍ってしまう。

 その一瞬を逃さず、ファールハイトはヒロの顔を掴んで、床に叩きつける。

「ヒロ!?」

 声をあげるカナメ。

 彼女はすぐさま、助けに行こうとするも、叩きつける際、ヒロから目配せで“近づくな”と言われたので、カナメは堪えて待つことにした。


「なにを企んでるのかしら?」

 ファールハイトはヒロを押さえつけながら、問いかける。

 ファールハイトはフードの隙間から見える尖った耳を見て、ヒロの種族を見抜く。

「なるほど。あなた、耳長族(エルフィム)だったのね。物好きね。あなたたちのリーダーは普通、耳長族(エルフィム)を含めた異種族を仲間にしたいと思わないわよ」

「ぐっ……」

 ヒロは押さえつけられて、真面に喋れず、答えれなかった。

「常識に考えて、あなたたちのリーダーって、変人じゃない。そうじゃなかったら、異種族を仲間にしない。違う?」

「……否定はしない」

 ヒロはかろうじて答える。

「私たちは変人の集まりと言われても構わない。ズィルバー自体、変人なのは確かだ。だが……」

「だが?」

「ズィルバーをバカにすることは、許さん」

 ヒロはズィルバーのために怒りを露わにする。

 彼女の怒りにファールハイトは黄昏内での信頼関係を知る。

「ふーん」

(穢れなき信頼関係。見せつけるじゃない)

「でも、ここで死ぬことに変わりない」

 頭を潰そうと力を入れるファールハイト。

「……あ……」

 ボソボソとヒロが言葉を紡ぐ。

「何が言いたいのかしら?」

 フフッと笑みを浮かべるファールハイト。

 だが、ヒロが紡いだ言葉によって起きることに動揺することになる。

(アグニ)よ!!!」

 ヒロを中心に炎が発生し、球体のように大きくなっていく。

「なにッ!!?」

 さすがのファールハイトもヒロが自決するとは思っておらず、手を放して距離を取る。

 炎の球体は大きくなり、周囲の壁や天井、床を焼いていく。

 炎の球体の中から人の姿が見える。

 球体の中にヒロがいて、()()()()()()()()()()()()()

 ファールハイトはヒロが炎に焼かれていないことに驚き、目を見開く。

「バカな。これほどの炎だったら、焼け焦げになってもおかしくない!!?」

 彼女が言うことはもっとも、常人だったら、炎の中に飛び込めば、その身は焼かれ落ちるのが常識だ。

 だが、ヒロは炎に焼かれるどころか平然としていた。

 炎が身体に纏わりつき、鎌の刃は炎の赤が燦爛し、明るく照らす。

 照らされる炎の球体にファールハイトは目を細める。

「あなたの在り方。あなたの覚悟は知れた。だが、あなたは()()()()()()()()()()()()を知らない」

 途端、ヒロの右目が光った。

 その光は“闘気”が集まってるのがわかる。

 次の瞬間、なにかが腹を貫いたのがわかる。

「うっ、ガハッ!!?」

 口から血を吐き出す。

 炎が消え、床に降り立つヒロ。

 右目から“闘気”と炎が灯ってた。

「“射貫かれる眼光(アイン・サハム)”」

 腹を貫かれたファールハイトは痛みで脂汗を流す。

 竜人族(ドラグイッシュ)の鱗を軽々と貫く手段を持つヒロを最大限に警戒するファールハイト。

 だが、ヒロへの警戒を強めたことで、彼女の意識を割くことができなくなってしまった。

「“剣蓮流”・“神朧太刀(かみのおぼろたち)”!!!」

 剣を納刀したまま、ファールハイトに近づくカナメ。

 剣が抜く際、刀身が煌めき、光速の居合がファールハイトを襲う。

 彼女も振り向きざまにカウンターを叩き込もうとしたが、カナメの剣閃が速く、鱗を斬り裂いた。

 カナメが剣を納刀した途端、肩から胴体にかけて斬り裂かれ、血が吹き出す。

「カハッ!!?」

 膝をつくファールハイト。

「せっかくだし。いいことを教えてあげる。見た目だけで敵の力量を判断してダメよ」

 カナメが最後に忠告し

「そのようね」

 ファールハイトもカナメの言葉に賛同し、口から血を垂れ流したまま、床に俯せで倒れ伏した。

 ファールハイトが気絶したのを確認するカナメ。

 ちょんちょんと指で突っついて反応がないのを確認し、ヒロとカナメはほっと胸を撫で下ろす。

「なんとか勝てた」

「うん」

「にしても、ヒロに、そんな力があるとは思わなかった」

「カナメこそ、コソコソ隠れて、剣技を極めてたじゃないか。人のことは言えない」

「確かに」

 ヒロとカナメ。二人は笑みを零し合う。

 味方でも手の内を隠したくなるのは普通だ。知らなくて当然だ。考えを改めた。

「さて、まずは戦況の確認だね」

「ああ、ん?」

 この時、ヒロは耳長族(エルフィム)の聴力でなにかを聞き取った。


 場所を変えて、シズカとベラの二人は“静の闘気”と魔法で戦況を確認する。

「どこもかしこも未だに戦ってるけど、ほぼ終わってきたところがあるわね」

「残る“七厄”は三人。“三災厄王”。そして、カイ。いえ、他に二人……」

「ズィルバーと少年が戦ってるのかしら? にしても、少年の方もけっこう強い」

「勝てそう?」

「さあ……ッ!!?」

 この時、シズカとベラの二人。耳長族(エルフィム)の二人になにかを聞き取った。

「この声は……」

『シズカ……ベラ……』

「ねえ、この声、カズじゃない」

「ええ、間違いない」

 声の主がカズなのを知り、“なんで?”と首を傾げる。

『悪い。カイに北海に叩き落とされた』

(バカなの?)

(バカでしょう)

一対一(サシ)で戦ってるから。仕方ない。今、僕は北海の海中に住んでいる魚人族(フィッシャー)人魚族(マーメイド)に助けられた。少しだけ時間をくれ』

(はいはい。わかったわよ)

『それと、ハルナたちの方がまずい状況になってる。カルラとヘレナも部下に治療されている。応急処置だ。()()()()()()()()()()()()

(骨……骨が折れてるのね)

「わかったわ」

『あと、これは一方的な伝言だ。お前らの声は僕には届いていない。あと、カイは僕が倒す!!!』

 カズの伝言を聞き、シズカとベラはビキッと怒ってしまった。

「当然でしょう!」

「どこで何をしているのよ!」

 思わず、呪詛を吐いてしまった。

「とりあえず、カルラとヘレナが先ね」

「位置的に近いわ。その後にハルナの方よ」

 二人はカズに言われた指示に従い、走りだした。


 ヒロの方はズィルバーからで、彼は彼なりに魔力で捏ねられた声を小声で話した。

『ヒロ。そっちは終わったかは分からん。これは、一方的な伝言だ。受け答えしなくていい』

(一方的か)

『ティアの方がまずい状況だ。アジト内で火事が発生している。部下を指示して消火活動に当たってくれ』

(火事だと!? 分かった)

『俺はアキレスっていう化物を、ユウトはヘクトルという化物と戦ってる状況だ。他が危険状況だったら、援護に向かえ。それと、ヤマトとカルネスの方も心配だ。近くに仲間がいたら、ヤマトの方にも手を回してくれ』

(ヤマトとカルネスは確か……)

 ヒロはズィルバーからの指示を受ける。カナメに戦況を教える。

「状況は分かった。火事の方は私に任せて。ヒロはヤマトの方に回ってくれ」

「ティアの方はどうする?」

「ノウェムかカルネスが聞いてるかもしれん。二人に任せよう」

「そうだな」

 ズィルバーの指示を聞き、二人はすぐさま、行動に移した。




 大フロアでは、二つの激闘が繰り広げられている。

 一つは“三災厄王”の一角。“炎王”センと対峙してるティア殿下、ハルナ殿下、シノアの三人。

 センの炎を纏った拳と蹴り、剣の応酬に手を拱いてる。

 もう一つは暴れ狂う怪物――ナイトと対峙してるノウェムとコロネ。

 乱気流の塊を躱すので精一杯な漆黒の大鳥(コロネ)

「うぇーん。ノウェム。怖いよ~」

「泣き言を言わない。確実に疲労が蓄積してる」

(無駄に“闘気”を垂れ流しかつ全力疾走な分、助かる)

 ノウェムは冷静な分析でナイトの状況を把握していた。

 ノウェムの弁では、ナイトは暴れ狂う怪物になって以降、常に全力疾走でノウェムとコロネの首を獲ろうと躍起になってる。

 ノウェムの的確な指示でコロネは回避に専念している。

「待ちやがれ!!! 小娘共!!!」

 ハアハアと肩から息を吐いているナイト。

 鋭き爪と牙で引き裂き、噛み砕こうとするも、コロネは泣き言を言いながらも回避し続ける。

「そろそろだな」

「反撃開始?」

「ああ、いくぞ」

 フゥ~ッと息を吐くノウェム。

 息が白くなり、頬に氷が貼りつく。

「コロネ」

「うん。()()を使うの? 大丈夫だよ」

「ありがとう」

 コロネは問題ないと言い返し、ノウェムは感謝のお礼を言ったところで、彼女は“闘気”いや、魔力を高め、放出する。

 放出した魔力が冷気となって、周囲の空気を変える。

 負傷した仲間の治療にあたっているティナ、ルアール、リィエルの三人。

 肌に触る冷気。

「冷気?」

「えっ、冷気?」

 首を傾げるティナとルアールの二人。

「なんか、急に寒くなった」

 リィエルが“寒くなった”と漏らした途端、大フロアが冷気に包まれ始める。

 ティア殿下たちも冷気を肌に掠め、口から白い息を吐き始める。

 ティア殿下は上を見上げる。

「ノウェム。あなたの仕業ね」

(急いでよ。このままじゃあ、味方にも被害が及ぶわ)

 彼女はノウェムに短期決戦を願った。


 ノウェムとコロネの首を獲ろうと躍起になるナイト。

「なんだ? 冷気……寒いぜ……」

 火照った身体と流れ落ちる汗が冷気で冷え、急速に体温が奪っていく。

「コロネ。いくぞ」

「うん」

 漆黒の大鳥(コロネ)から跳躍したノウェム。

 冷気を纏わせた槍を手に、宙に浮き始める。

 精霊の加護すらないノウェムが宙に浮けるのか。

 答えは簡単。

 魔法を使って、宙に浮いてるからだ。

 コロネも漆黒の大鳥から姿を変え、人型の姿になり、背に漆黒の翼を生え、滑らかな手足が鋭い鉤爪に、腕と脚に漆黒の羽毛に覆われる。

 “形態変化”をしたコロネ。

 魔法で宙に浮くノウェム。

「もう逃げるのはヤダ」

「そうね。ここいらでケリを付けましょう」

 ノウェムは冷気を自在に操り、大フロアの天井付近に冷気を集め始める。

 渦巻く冷気にナイトはグルルと気を荒立たせる。

 まるで、全身が凍らないだろうに、“闘気”と体温を放出するかのように。

 しかし、嘲笑うかのように、冷気がナイトの身体に触れ、みるみる体温と体力を奪っていく。

「“極寒世界(ニブルヘイム)”――」

 大フロアの天井部に溜まり込む冷気がナイトの身体に纏わり付き、霜が発生する。

 霜は徐々に広がっていき、身体の芯まで凍らせように纏わり付いてくる。

 ノウェムの発動領域圏内であれば、誰だって、この影響からは逃れられない。

「――“絶対零度(アブソリュート・セロ)”」

 ノウェムが魔法名を紡いだ瞬間、ナイトが凍りついた。

 ピクリと反応せず、冷気に纏わり付いたまま、宙を浮いている。

 そう、凍ってしまった。()()()()()()()()()()()()()

 凍ってしまっては溶かさないかぎり、二度と目覚めることがない。

 溶かす前に追撃を受けなければの話が前提だが。

 ノウェムは冷気を使役して、ナイトにまとわりつく冷気を霧散させた。

 グラッと落ちようとするナイトの氷像。

「あっ、アアアアアーーーー」

 下にいる団員が手を差し伸べ、止めようとする。

 ノウェムは彼らを見て、クスッと笑みを零す。

「コロネ」

 落ち始めようとするナイトに背後に移動したコロネ。ガシッと足の鉤爪で氷像を掴む。

「“黒き極点なる落雷チョールニイ・カニェーツ・モールニィ”!!!」

 床へ一直線に下降し、頭から床に叩きつけた。

 氷像を頭から叩きつけた途端、氷像の()()が粉々に砕け散った。

 コロネが使用した技で床に穴ができ、穴に落ちていくナイト。

 彼は白目を剝き、穴の底に倒れ伏せる。

 黒翼を羽ばたかせるコロネ。

 ナイトが再起不能になったのを確認し、ノウェムのもとまで飛び上がる。

「勝ったよ。ノウェム」

「よし」

 パチンと手を叩き合うノウェムとコロネ。

 立ち上る穴から覗き込む団員。

 ナイトが再起不能になってるのを見た途端、声を荒げる。

「ナイト様がやられた!!?」

 かの者の叫びを起点に傭兵団内で動揺が広がっていく。

 “炎王”センと戦ってるティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人も“よし!”とガッツポーズをした。

 だが、センは群がる団員に苛立ったのか声を張りあげる。

「雑魚共! いつまで、騒いでいやがる! さっさとガキ共の首を獲ってこい!」

「し、しかし……セン様。ナイト様を倒した敵に、我々が通用す――…………ギャアアアアーーーーーーーー!!!!!!」

 団員の一人がセンに言い返すも、センは、その団員を掴み上げ、自らの炎で焼き殺した。

「俺に指図するな。雑魚共」

 センは焼死体を放り捨て、改めて、声をあげる。

「ガキ共は手負いだ。テメエらでも、簡単に殺せる。いけ!!!」

『は、はい!!?』

 センの圧迫なる命令に団員はガタガタと震えながらも手負いのノウェムやコロネ、治療にあたっているクルーウたちに襲いかかった。

 しかし、声が震えており、自分らじゃあ殺せないのではと疑心に陥っている。

 襲いかかる傭兵団の団員に護衛に当たっていたシュウたちが応戦し始める。

 ティア殿下は大フロア内を見渡す。戦局は黄昏と狼の連合軍の方が優勢。

 なのに、センの一声で、僅かだが、戦局は傭兵団に傾いた。

「このまま行けば、私たちが勝利する。それでも戦うのかしら?」

 ティア殿下はセンに挑発する。

「寝言は寝て言え。黄昏と狼(ガキ共)風情が“魔王傭兵団(俺たち)”に挑むなんざ。千年早い」

「そのガキ共に劣勢に陥ってるのはどこかしら?」

 ハルナ殿下も煽り始める。

「子供に負けてるなんて、大人もたいしたことがないのですね」

 シノアもシノアで舐め腐ったかのように煽り始める。

「…………」

 センはティア殿下たち三人の煽りを聞きつつ、無言であり続ける。

 だが、燃え上がる炎は小さくなるどころか、大きくなっていく。

 炎の大きさが、まるで、センの心情を表しているかのようだ。

 黒翼をはためかせ、天井へ舞い上がるセン。天井付近にはノウェムとコロネがいて、二人を狙うのかと思いきや、軌道修正してティア殿下たち三人に向けて、突貫し始める。

「“炎王螺旋突撃ジャーマ・スピラル・アリアンサ”!!!」

 炎の螺旋に包まれたセンの突撃。

「しまっ!?」

「オラァアアアア!!!」

 炎の螺旋の突撃をまともに受けてしまったティア殿下とハルナ殿下、シノアの三人。

 炎の余波と衝撃の余波も受けてしまい、辺りに弾き飛ばされた。

 炎を纏いしセンはギロッとティア殿下たち三人を睨んでいた。




 大フロアとは別に激戦を繰り広げている。

 ニナとヴォルスト。

 ジノとガイツ。

 互いに“動の闘気”を解放させ、短期決戦に持ち込んでいる。


「“剣蓮流”・“神大太刀(かみのおおたち)”!!!」

「“地獄頭突き《ヘレ・テット》”!!!」

 ニナの剣とヴォルストの頭が激突する。

 “動の闘気”を大きく纏わせた一撃。両者の一撃がぶつかり合い、衝撃を生む。

 衝撃を生み、床や壁に亀裂がどんどん走っていく。

「ハッ!」

 ニナの太刀筋で脇腹を斬られ

「あ゛っ!」

 ヴォルストの拳が土手っ腹に叩き込まれる。

「ガハッ!!?」

「ゲホッ!!?」

 口から血を吐き、身体にダメージが蓄積していく。

 ニナは殴られた勢いで弾き飛ばされるも、足に力を入れ、引き摺りながらも踏ん張った。

 ヴォルストも脇腹の刀傷が思いの外、深く斬られたため、苦悶の表情を浮かべ、脂汗を流す。

「速ぇな。貴様の太刀筋……」

「そっちこそ、随分と頑丈じゃない」

 ハアハアと肩から息を吐いてるニナとヴォルスト。

 “動の闘気”を解放し、全力状態で戦っていたため、“闘気”と体力の消耗が尋常じゃない。

 しかし、今の彼女たちが抱いてる感情は怒りではなかった。

 これほどの実力者と戦える高揚感に浸り、ずっと戦い続けたい想いを抱いていた。

 だが、互いに身体は疲弊し、ダメージも相当に蓄積していた。

(無駄にだらだらと戦ってると、体力と“闘気”を無駄にする)

(初めてだ。怒りで我を忘れてしまったが、これほどの戦いは初めての経験だ。生きてると実感できる)

 ともに限界突破してるため、身体能力を向上している。

 向上してもなお、心身共に疲弊し、互いに命を賭けて、負けられない激闘を続けている。

 怒りとは、愛とは、なんなのか。

 理由は分からなくとも、これまで人生に受けた全てをぶつけ合っている。

「“地獄拳(ヘレ・ファウスト)”!!!」

 “動の闘気”を大きく纏った拳が左脇腹に叩き込まれ、激痛が脳髄にまで流れ込んでくるニナ。

 ニナは唇を噛み、痛みに堪え、剣を高く掲げる。

「“剣蓮流”・“神大散斬(かみのだいざんぎり)”!!!」

 頭を叩き割るかの如く、強烈な斬撃がヴォルストの胴体を斬り裂く。

 ゲホッと血反吐を吐くヴォルスト。

「“地獄膝(ヘレ・ロイ)”!!!」

 “動の闘気”を纏った左膝がニナの右脇腹に突き刺さる。

「うぐっ!?」

 ゴホッと血反吐を吐くニナ。一、二歩後ろに退く。

 ゲホッと咳き込むヴォルスト。

 限界突破したとしても、身体がダメージに堪えきれなくなり始めた。

 ニナも同じで“動の闘気”を解放させ、全身の筋肉を活性化させても、身体の内側はボロボロだった。

「終わりだ――“地獄超頭突き(ヘレ・シュロ・テット)”!!!」

  “動の闘気”を纏わせた頭突きがニナに襲いかかる。

 ニナはハアハアと肩から息を吐き、決意した。

(これが最後の一撃ね。神大散斬(かみのだいざんぎり)と同じでうまくできなかったけど、今なら――)

 ニナは剣に渾身の一撃を込めるべく、ありったけの“動の闘気”を纏わせた。

 その際、彼女の剣から()()()()()()()()()

 だが、ニナは、それに気づいていなかった。

「“剣蓮流”・“神太刀流(かみのたちながし)”――」

 迫り来るヴォルストの頭突きをニナは()()()()()()()()()()()()()をし、頭突きを躱す。

「なに!!?」

 ヴォルストは躱されたことに驚くも、ニナは片手で剣を振るった。

「――二連・“神剃刀”!!!」

 片手で振るわれた剣は斬撃を放ち、斬撃はヴォルストの鳩尾に直撃する。

「ァアアア……」

 白目を剝き、血を吐く。

 放たれた斬撃をヴォルストの鳩尾に直撃し、そのまま、壁に直撃する。

 直撃した壁は貫通し、弾き飛ばされる。

 いくつものの壁を壊し、ヤマトたちが走ってるところまで飛ばされた。

 傭兵団の団員から情報とヤマトの記憶を頼りに、()()()()へ向かってる中、壁を砕き、弾き飛ばされたヴォルストに、ヤマトとカルネス、ヨーイチは驚きを隠せなかった。

「な、なんだ、今の……」

「人が通った」

「だ、誰が……」

 驚いていた。

 ヴォルストを飛ばしたニナ。

 彼女はその場でへたり込み、ハアハアと息を吐いている。

 渾身の一撃を込めたせいか、“動の闘気”の解放も終えており、今にでも、意識が飛びそうだった。

(ま、まずい……意識が……)

 バタリと倒れたニナ。

 意識を失い、そのまま眠りに入ってしまった。

「よし。あらかた、掃除できた」

「ニナさんに報告じゃ」

 リエムとリリーが団員の掃除を終えたのでニナに報告しようと来た矢先、彼女が倒れてるのを見て、慌てた表情で駆け寄る。

「ニナ!」

「ニナさん!」

 二人は駆け寄り、ニナを俯せから仰向けにさせる。

 呼吸が荒いものの生きてるのは確かだ。

 だが、分かることはというと。

「リエム。わかるか?」

「内蔵のいくつかが損傷している。クルーウらに治療を任せないといけない」

「応急処置では無理というわけじゃな」

 ニナの容体を把握したリリーはリエムと頷き合う。

「ひとまず、クルーウの方に運ぶのじゃ」

「ああ」

 リエムはニナをおんぶして、クルーウを探しに向かおうとした矢先、天井に亀裂が入る。

「“剣蓮流”・“神鉄槌割(かみのてっついわり)”!!!」

 押しつけられ、叩き割ったかのように天井が崩れ落ちる。

 上階から落ちてくるのは戦闘不能に陥ったガイツと多少の手傷を負ったジノが落ちてきた。

「ジノ!」

「ジノさん!」

「リエム、リリー。下で戦っていたのか……ニナ!?」

 ジノはリエムとリリーを発見し、声をかけるも、リエムにおぶさっているニナを見て、顔色を変えてしまう。

 だが、リエムとリリーからすれば、なぜ、上階からジノが落ちてきたのかが気になる。


 それは、ニナがヴォルストを飛ばした十数分前に遡る。

 “魔王傭兵団”アジト二階にて。

 ジノは“七厄”の一人、ガイツと激闘を繰り広げていた。

 互いに“動の闘気”を解放し、限界突破したため、身体能力が飛躍的に向上している。

 ただし、“闘気”の消耗が著しく早いため、疲れがどっと押し寄せてきていた。

 しかし、疲れが一気に押し寄せてきたのは()()()だけであった。

「ば、バカな……」

 ハアハアと肩から息を吐いてるガイツに対し、ジノは息一つ乱れていなかった。

 汗こそは掻いてるけども、傷は負っているけども、ジノの顔色に変化がなかった。

「これほど、激しい戦いを繰り広げているのに、息一つ乱れてねぇ」

「鍛えているんだ。“闘気”配分もしっかりできる」

 ジノは鍛えたのだ。

 ニナよりも先に“動の闘気”の解放を会得し、十全に扱い熟すため、己を鍛え続けた。

 実力的にみれば、ジノが上であっても、ジノはガイツに対して、驕っていなかった。

(身体能力に関していえば、“動の闘気”の解放によって限界を超えている。しかし、ガイツ()獣族(アンスロ)。身体能力に関していえば、向こうが上。確実な一撃は当たられていないけど、“闘気”を常時解放してるから疲労が早いだけ。こっちは急所を受けずとも、余波を受けて傷が多くなれば、集中力が途切れかねない。長期戦は、まず不利と考えた方がいいな)

 剣を強く握るジノ。

「腹をくくるか」

 覚悟を決めたのか。迷いのない表情を浮かべる。

 ジノの覚悟に呼応するかのように“闘気”が荒々しくなる。

 ガイツも覚悟を決めたのか“闘気”の荒々しさがますます増していく。

「無駄に体力と“闘気”を消耗させるぐらいなら、一気に勝負をつけてやる」

「面白い。かかってこい」

「言われずとも」

 ガイツはジノへ襲いかかるように跳躍する。

「“跳躍せし虎の猛攻(ティアオ・フウ)”!!!」

 虎と思わせる襲い方にジノは僅かばかしの動きが止まってしまう。

 ガイツはジノに重くのしかかり、のしかかった体重を利用して首の骨をへし折りに来た。

(これは、首折りか)

「体術は苦手だが……この際、どうでもいい」

 ジノは脚に力を込め、“動の闘気”を纏わせる。

「“前進する蹴り(ファス・グル)”!!!」

 前に蹴る足がガイツの下顎に直撃し、蹴り上げられる。

「うほっ!!?」

 苦痛を上げるガイツに対し、ジノは息をつかせぬ猛攻なる追撃をし始める。

「“剣蓮流”・“神龍斬(かみのりゅうざん)”!!!」

 ジノは跳躍し、剣に龍の幻影が孕んだ斬撃がお見舞いする。

 斬撃はガイツの胴体を斬り裂く。

 ブフッと血を吐くガイツだが、逆さまになっても反撃を繰り出す。

「“荒れ狂う旋風(タイフェオン・カイト)”!!!」

 逆さまの状態で旋回して、ジノの顔と腹に拳と蹴りを叩き込む。

 ゴホッと咳き込むジノ。

 だが、猛攻は止まらなかった。

「“剣蓮流”・“神朧太刀(かみのおぼろたち)”!!!」

 下から斬り上げる斬撃。使い方次第で、居合としても使える。

 斬り上げた斬撃が宙で体勢を整えたガイツの腹を横切る。

 鱗どころか、硬い皮膚をも斬り裂く斬撃はもはや、魔靱の刃そのもの。

 尋常ならざる激痛が脳髄に叩き込まれる。

「ぐっ!!?」

 苦悶の表情を浮かべるもガイツは痛みを吹き飛ばす声をあげ、両手でジノの頭を抑え、身動きを取れなくする。

「“地獄で踊る乙女(ヘレ・ダンセ・ファム)”!!!」

 身動きを取れなくなった頭に変則的な膝蹴りを叩き込み、蹴り上げる。

 ブッと血を出し、鼻を押さえるジノ。

 鼻が折れたので、鼻を戻した後、鼻詰まりした血を出した。

「効いたぜ」

「貴様もな」

 ガイツは地を蹴って、高く跳び上がり、腕を掲げた。

「“爆ぜる戦斧の雷エクス・アッシュ・プロジオン”!!!」

 ガイツの右肘がジノの頭部めがけて、振り下ろされる。

「…………」

 ジノはガイツの肘が迫り来る中、フゥ~ッと息を吐いて、足を一歩下がる。

 一歩下がったことで、空中からのガイツの肘打ちを躱し、代わりに隙を与えてしまった。

 剣を高く掲げたジノ。解放した“動の闘気”を渾身の一撃を込めて、剣に纏わせた。

「“剣蓮流”・“神鉄槌割(かみのてっついわり)”!!!」

 振り下ろされた剣がガイツを押しつけた。

 しかも、ただの押しつけではない。全体重を乗せた一撃を圧力に変える技。

 押しつけられる圧力に身体中の骨に罅が入り、ガイツは全身に走る痛みに耐えきれず、血も声を吐けずに白目を剝いて気絶した。

 押しつけられた圧力は床に亀裂を入り、徐々に大きく広がっていく。

 押し広がっていく亀裂に堪えきれなくなった床は崩落し始めた。

「おおっ、と……」

 足場が崩れ、体勢を崩したジノ。

 ガイツとともに下の階へ降り立った。


 そして、現在に至る。

「ニナ!? 大丈夫か?」

「疲労で気を失ってるだけです」

「ジノさん。お主はなぜ、上から……」

 リリーの質問にジノは後ろを指さす。

 リエムとリリーは後ろを振り向けば、床に倒れ伏せているガイツの姿がある。

 “形態変化”をするだけの力もなくなり、人の姿に戻っていたが、ジノが倒したガイツであることに相違ない。

「あやつは“七厄”のガイツ」

「そっか。さっきまで戦っていた」

「そうだ。戦況は分かってるか?」

「いえ、全然分かりません」

「とりあえず、ニナさんとジノさんが“七厄”の二人を倒したことだけが幸いじゃ」

 リエムとリリー。二人から聞けたことを踏まえて、情報が欲しいと思ってたところに、ニナが開けたであろう穴からカルネスがやってくる。

 穴から出てきたカルネスは周囲を見渡し、ジノたちを発見し

「ジノさん」

 声をかけた。

 ジノたちも呼びかける声に反応して、振り向き、カルネスと合流する。

「カルネス。ヤマトと一緒に()()()()に向かっていたんじゃあ」

「委員長からの指示で大フロアに向かってるところです」

「ズィルバーが?」

 ジノはカルネスの話を聞き、目を細める。

「委員長からの伝言で、副委員長が危険だと言われて……」

「確か、相手は“三災厄王”だったな。ズィルバーが心配したくなるのもわかる」

「それと、“静の闘気”で調べましたが、“七厄”全員、討ち倒したようです」

 カルネスから戦況を伝えられて、戦況が自分らに有利であることが分かった。

「よし。戦況が分かれば、雑魚共を倒していこう。カルネス。すまないが」

「ニナさんの応急処置をします」

「頼む。それと、分かってる範囲で、状況を教えてくれ」

 カルネスから状況を聞くジノ。


 大フロアで戦ってる“炎王”センとティア殿下、ハルナ殿下、シノアの三人。

 カイがいた最奥の間で戦ってる“鎧王”セルケトとナルスリー、シューテル、ミバルの三人。

 最奥の間近くのフロアで戦ってる“惨王”ザルクとカインズ、ダンストン、シーホの三人。

 三階で戦ってるズィルバーとアキレス。

 二階で戦ってるユウトとヘクトル。

 そして、屋上でカズの帰還を待つカイと海中に沈むカズ。

 残った戦いもごく僅か、北方の命運を懸けた決戦も大詰めを迎えようとしていた。

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