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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流~決戦~
121/296

柔なる“四剣将”の解放。

 感情の爆発による心身共に限界突破したニナとジノの強大な“動の闘気”。

 これほどまでの強大な“動の闘気”となれば、誰もが勘付いてしまう。

「この“闘気”……」

「ニナとジノの“闘気”……」

「ここまで強大な“闘気”……初めて感じた」

 “魔王傭兵団”アジト内で戦っている誰もがニナとジノの強大な“闘気”を感じとる。

 “静の闘気”を使用しなくても感じとれるほどの強大な“闘気”。

 これでは、恰好の餌になるのが常識だが。強大な“闘気”が、存在感となって、近寄りづらくなっている。

 漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフや親衛隊ですら、これほどまでの“闘気”を感じたことがなかった。


 そして、ニナとジノの解放。

 二人と慣れ親しんでる者たちですら、気が向いてしまう。

「ニナ……ジノ……」

「離れて戦ってるのに、ここまで感じとれてしまうほどの強大な“闘気”……ズィルバーが言っていた。これが“動の闘気”の完全解放」

 “三災厄王”の一人。“鎧王”セルケトと相手をしてるナルスリーとシューテル、ミバルの三人。

 しかし、彼らですら、ニナとジノが放つ“闘気”に意識をそちらに向けざるを得なかった。

 セルケトですら、これほどまでの強大な“闘気”を感じたことがなかった。

「なんだ? この“闘気”……解放にしてはデカすぎない」

 セルケトは今まで、感じたことがない強大な“闘気”に冷や汗を流す。

「この“闘気”……」

(大きいが。感じたことがある)

 ミバルはナルスリーとシューテルに視線を転じ、見つめる。

(|ナルスリーとシューテル《あいつら》が安堵な笑みを浮かべてるところを見るに。この“闘気”を放出してる主は間違えなく、ニナとジノ。だが、どうして、これほどまでの力を……)

 ミバルはなぜ、ニナとジノがこれほどまでの力を持っているのか疑問視した。

 セルケトも不思議とミバルと同じ疑問に至る。

「一つ聞く。この“闘気”の主に心当たりある?」

 セルケトの問いにナルスリーが答える。

「心当たりあるよ。むしろ、友人」

「友人?」

「ニナとジノよ。血筋は現“()()”の血筋」

「“剣蓮”!!? あの男の家族か」

「ニナは“剣蓮”の娘で、ジノは“剣蓮”の妹の子よ」

 ナルスリーがニナとジノの血筋を明かした。

 明かされた血筋にセルケトは驚くも、ミバルは驚かなかった。

「おや? 驚かないね」

「そりゃ、あんたらと喧嘩ばっかしてれば、嫌でも素性を調べるだろう」

「それもそうね」

 今更だが、ナルスリーらは所々に傷ができ、血を流している。

 煤と土埃も流れ落ちる汗にへばりつき、清潔感の欠片もなくなりつつある。

「さて、お話はここまでにして。私たちも行きましょうか、シューテル」

「ああ、そうだな」

 ナルスリーの声かけに応じるシューテル。

 ミバルは首を傾げるも“炎王”センをハルナ殿下とシノアとともに戦ってるティア殿下が“静の闘気”で僅かな片鱗に気づく。

(そう。二人とも、やる気ね)

 ナルスリーとシューテル。

 二人はともにフゥ~ッと息を吐く。

 息を吐いた途端、ナルスリーとシューテル。二人の雰囲気が変わった。

 間近で感じとるミバルは目を見開かせる。

(静かだ。心が落ち着き、凪のように一点の穢れもない)

 同時に感じられる“闘気”。

 “静の闘気”を使用しなくても、肌がはっきりを感じらせる。

(荒々しくもないのに、静かに放出してる“闘気”)

「これが、()()という奴か」

(親衛隊でも、准将クラス以上の実力者は全員。この域に到達してると聞いてるが、ナルスリーに、シューテル。つまり、“四剣将”は既に実力は准将クラス以上。差を付けられてるな)

 ギリッと歯を食いしばり、戦斧を強く握るミバル。

 悔しがるミバルにナルスリーは声を飛ばす。

「悔しがるなミバル」

「ナルスリー」

「私たち“四剣将”ですら、この域に達したのは、つい最近、それまで喧嘩をしていたミバルとほぼ同じぐらいの実力。“闘気”を解放したって、急に強くなるわけない」

「うそつけ。急に強くなったように感じるぞ」

「そうなの?」

 ナルスリーは疑問符を浮かべつつ、聞き返す。

「自分では分からないものだ。僕らでもズィルバーとティアと隔絶の差があるように、ミバルとの差があるように感じるんだよ」

「なるほど」

「ふーん。ん? おい、ちょっと待て!!? 今、隔絶の差があるって言ったよな!!?」

「ああ、そうだが?」

「お前らのボスと№2はそんなに強いのか!!?」

 ミバルの動揺に、センと戦ってるハルナ殿下とシノアの耳にも入る。

 しかし、彼女たちは薄々、感じていた。

 ティア殿下が未だに力を隠している、と――。

「まあ、私から見ても、ハルナ殿下とシノアの二人も、まだ力を隠してるよね?」

 ナルスリーは“静の闘気”や“水蓮流”による経験から、動きからまだ力を隠してるのを見抜く。

「チッ!!?」

「本当に、うざったらしいですね。“四剣将”が一人。ナルスリー・リアナ」

 見抜かれたことに悪態をつくハルナ殿下とシノア。

 しかし、ティア殿下だけはフッと笑みを零す。

(強くなったわね。ナルスリー。私も負けてられないわね)

「余所見とは、いい度胸だな!!!」

 炎を纏いし剣がティア殿下に接近する。

「“炎王斬(ジャーマ・コルタール)”!!!」

 振り下ろされた炎の剣。ティア殿下は剣を納刀する。

 ハルナ殿下とシノアは“えっ?”と呆け、“諦めたか”とセンはニヤリと下卑た笑みを浮かべる。

 しかし、身体の力を抜いて、ふわりと宙に舞い上がる。

 さらに、炎の剣を振り下ろした際の衝撃を利用して、高く舞い上がる。

 宙に舞うティア殿下。彼女はハルナ殿下に目配せする。

 ハルナ殿下もティア殿下の意図を汲み取り、地を蹴った。

 シノアも“なるほどね”と意図を汲み取り、同じように地を蹴った。

 宙に舞っているティア殿下はシノアも動いたことに驚いていない。むしろ、動くことを想定していた。

(シノアだったら、私の考えを汲み取れるでしょう)

 分かっていたからこそ、ティア殿下は宙に舞ったまま、居合の態勢に入る。

「“剣蓮流”――」

「射貫け――」

「斬り裂け――」

 ティア殿下、ハルナ殿下、シノア。三位一体なる同時攻撃。

 センも自身の立ち位置を把握する。

(しまった。炎で退路がなくなった!!?)

「あのガキ……」

 センは上を見上げ、ティア殿下を睨む。

 彼女はクスッと笑みを浮かべている。

(動き回って、俺の移動範囲を狭めていたのか。白銀の黄昏シルバリック・リコフォスの副総帥。見た目のわりに冷徹かつ冷淡な女だ)

「あんたが怒りをぶちまけてくれたおかげで的が絞れた。むやみやたらに暴れてくれてありがとう」

 ティア殿下はお礼を言うも、聞き方によれば、侮蔑に近い言い方にカチンとくるだろう。

「貴様ァアアアアアアーーーーーーーー!!!」

 声を荒げ、怒りの咆吼を上げるセン。

「――“神朧太刀(かみのおぼろたち)”!!!」

「――“射貫く彗星(フラプ・コメット)”!!!」

「――“残雪鎌”!!!」

 三本の閃きがセンを襲いかかる。

 ハルナ殿下とシノアはセンの後ろにいて、ティア殿下はセンの背後に降りたった。

 剣を鞘に納めたところで、血飛沫が舞う。

 膝をつくセン。ゴフッと血を吐くも気を失うことがなかった。なにより、背中から燃える炎が消えていなかった。

「“炎王裏拳(ジャーマ・レベルソ)”!!!」

 炎を纏いし裏拳がティア殿下に襲う。

 ティア殿下は両腕に“動の闘気”を大きく纏わせ、ガードする。

 だが、怒りで力を振るってるため、力の加減ができておらず、全開の力で振るわれているため、弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 壁に叩きつけられたティア殿下は壁にめり込んでいた。

 センは立ち上がり、炎を身体にあてる。

 ジュウゥ、ジュウゥッと傷口を焼く音がする。

「焼いて、傷を塞いでる」

「応急処置ですね。でも……」

「チャンスでもある」

 今、攻め時だと判断したハルナ殿下とシノア。二人は地を蹴って、センを襲いかかるも、センは炎を拳に纏わせる。

「“炎王裏拳(ジャーマ・レベルソ)”!!!」

 またもや、炎を纏いし裏拳が振るわれる。

 裏拳はシノアに振るわれるもシノアは鎌を盾にして防ぐ。しかし、センの加減のない力に防ぎきれず、カハッと血を吐きつつ、ハルナ殿下諸共、吹き飛ばした。

 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたハルナ殿下とシノアもティア殿下と同じように壁にめり込んでしまう。

 センは、これで終わったと思ったばかりに背を向けるも微かに零れ落ちる瓦礫の音が耳に入る。

 思わず、後ろを振り返れば、光速の太刀がセンの鼻先を掠めた。

 振り返った先にいたのは剣を振り下ろしたティア殿下がいた。

 彼女はめり込んだ壁から抜け出し、()()で“神大太刀(かみのおおたち)”を放った。

 鼻先を掠められたセンはビキッと額に青筋を浮かべて激情し、背から生えている黒翼を広げる。

「まさか、飛べるの!!?」

 ティア殿下は飛べるのかと動揺する。

 広げた黒翼をはためかせ、低空飛行で床すれすれに滑空する。

 両拳に“動の闘気”を纏わせ、頭部にも“動の闘気”を纏わせる。

 しかも、それだけにとどまらず、両拳に炎を纏わせる。

 ティア殿下は“静の闘気”で先読みたる“未来予測”をする。

「ッ!!?」

 “未来予測”をしたことで彼女は息を詰まらせる。

(炎の拳に、頭突き!!?)

 非常にまずい状況に陥ったティア殿下。

 未だに壁にめり込んでいるハルナ殿下とシノア。

 痛みに悶え、顔を顰めている。

 ティア殿下は二本目の魔剣を抜き、“動の闘気”を纏わせ、交差する形で構える。

 ティア殿下らに突撃するセン。

 その姿はさながら、指向性のある炎の塊そのものだった。

 突撃するセンに対し、ティア殿下は二本の剣を掲げる。

「“炎王突撃(ジャーマ・アリアンサ)”!!!」

「“十字架斬り(クロス・エッジ)”!!!」

 炎の塊と振り下ろされた交差する二本の剣がぶつかり合う。

 二本の剣がセンの頭突きと衝突し、両拳がハルナ殿下とシノアに目掛けて振るわれる。

「ハルナ!! シノア!!」

 声を飛ばすティア殿下。

「うるさい……」

「……ですね」

「「ティア!!!」」

 間近で叫ばれたから怒りを露わにし、“動の闘気”を纏わせた拳を、炎の拳に叩きつける。

 三人揃えて、吼え上がるも、炎の塊の勢いが収まるどころか、増し続けている。

(勢いが……)

(増し続けてる)

(怪力にも程がある)

 ティア殿下、ハルナ殿下、シノア。三位一体となって、炎の塊と等しいセンの突撃を受け止めているのに、徐々に押され始めている。

 そして、センの怒号なる咆哮。力に押し負けた。

 壁にめり込むどころか、壁を壊して、大フロア方面へ押し飛ばされる。

 勢いが収まりきれず、壁をいくつのも砕き、大フロアまで吹き飛ばされてしまう。

 大フロアにいる戦ってる誰もが、壁を突き破って飛ばされてきたティア殿下、ハルナ殿下、シノアの三人を度肝抜かれる。

 床すれすれに滑空する三人をアスプロたち一年女子が身体を張って、受け止める。

「副委員長!!?」

「大丈夫ですか?」

 三人を受け止めたアスプロたちがこぞって、ティア殿下たち三人の安否を確認する。

 ティア殿下は痛みに堪えつつも、起き上がる。ハルナ殿下とシノアも同様に起き上がる。

「ここは?」

「大フロアです。副委員長」

 ティア殿下の疑問にルラキが答える。

「助けてくれてありがとう」

 シノアはお礼を言うと彼女を受け止めたアクアとフレイが手を横に振る。

「随分と飛ばされた」

 ハルナ殿下は悪態をつく中、ティア殿下は上を見上げる。

 上では漆黒の大鳥になってるコロネと背に乗るノウェムが怒れる怪物――ナイトと死闘を繰り広げていた。

「こっちもかなりの激戦のようね」

「は、はい。今、ノウェム先輩の指示で大フロアに近づけさせないようにしています」

「そう……ッ!!!」

「あの、副委員長……」

「離れてなさい」

 ティア殿下は立ち上がって、二本の剣を再び、交差するように構える。

 ハルナ殿下とシノアも気づいて、立ち上がって構える。

 彼女たちが飛ばされてきた方から炎の塊が飛び出してくる。

「“炎王突撃(ジャーマ・アリアンサ)”!!!」

 炎の塊が低空飛行で滑空してくる。

「“十字架斬り(クロス・エッジ)”!!!」

「“射貫く彗星(フラプ・コメット)”!!!」

「“残雪大鎌”!!!」

 二本の剣、細剣、鎌による三位一体なる同時攻撃と炎の塊が衝突する。

 火の粉が混じった衝撃波が大フロア全体に広がっていく。

 間近にいたアスプロたち一年女子は足で踏ん張って、衝撃波を受け止めている。

 先とは違い、今度は相殺しきって、衝撃波が爆散する。

 爆散する衝撃を利用して、三人はセンから距離を取る。

 センも距離を取った。距離を取ったところで、炎が霧散し、両拳と背中から燃える炎が大きくなっていた。

 それどころか肩にも、炎が広がっていた。

 目が充血している。

「ガキ共……皆殺しだ」

 センは両拳に燃える炎を壁に飛ばし、着火させる。

「貴様らを生かして帰さん」

 燃え広がり始める大フロアの壁。

 ティア殿下は炎の規模から、まずい状況を察した。

 ハルナ殿下とシノアも同様に察してた。

「まずい」

「ええ、まずいですね」

セン(あいつ)……このアジトを燃やす気!!?」

 敵味方諸共全滅させる気満々なセンの行動に三人はギリッと歯軋りする。

「アスプロ!」

「は、はい」

「動ける者全員。今すぐ、消火活動にあたって。このままだと、焼け落ちるアジトに押し潰されて死ぬのがオチよ!!!」

「ヴォルフの皆も手伝いなさい!!!」

『は、はい!!?』

 ハルナ殿下の叫びに狼の者たちも従い、すぐさま、消火活動に回った。

 そして、ティア殿下、ハルナ殿下、シノアの三人。彼女たちはアジトに炎を放ったセンと敵対する。

「これ以上、あんたの好きにさせない!」

「さっきはよくもやってくれたわね!」

「いい気にならないでくれる!」

 “まだ負けていない”という覇気を持って言い放つ三人に対して、センも言い放つ。

「貴様らもな!!!」

 怒りを秘めた目で睨み返していた。




 ティア殿下たちが戦っていた場所には、ナルスリーとシューテル、ミバルの三人がセルケトを、カインズとダンストン、シーホの三人がザルクと戦ってる中、ヨーイチは馬に乗って、ヤマトとカルネスの後を追っていた。

 ヤマトとカルネス。二人の行く手を遮るかのように団員がわんさか出てくる。

「しつこいな」

「頭数だけは一流の軍隊並」

 二人は悪態をついてる。

 ヨーイチは馬を走らせ、前方に敵がいるのを知り、馬に跨がったまま、弓に矢を携えた。

 しかも、矢を大量に手にして――。

「“さみだれ撃ち”!!!」

 大量の矢弾が放たれ、団員の額や身体の至るところを撃ち抜いていく。

「誰!?」

「後ろから!!?」

 ヤマトとカルネスも後ろから援護射撃が来たことに驚き、後ろを振り向く。

 振り向けば、後ろから馬に乗ったヨーイチがやってくる。

「大丈夫?」

 ヨーイチがヤマトとカルネスのところまで来れば、ヤマトが思わず、訊ねてしまう。

「なぜ、ここに親衛隊が来てるんだ」

「クレト中将の独断専行で、北方の増援に来た」

「まさか、第二帝都支部の全員が来てるのか?」

「いや、警備するだけの戦力を残して、ほとんどがこっちに来てる。でも、敵本拠地に来てるのは僕らの部隊だけだよ」

「僕ら……シノア部隊が? どうせ、ユウトだろう」

「うん。シノアもとっくに諦めてるから」

「おい、部隊長がなに、諦めてるんだよ」

 ハアと嘆息を吐く中、ヨーイチは状況を話してあげた。

「ユウトくんが屋上に向かって、シーホくんとミバルさん、シノアさんがユウトくんについて行ったよ」

「ならば、僕らも急ごう」

 ヤマトが急かすも、カルネスが猫耳を立てて、音を聞き取る。

「屋上から聞こえる声が減った」

「え?」

「カルネス。屋上の状況が分かる?」

「屋上には“魔王カイ”とカズが一対一(サシ)で戦ってる」

「えっ? ユウトくんは!!?」

「ユウトなる親衛隊は二階で誰かと戦ってる。ズィルバーもその上の階で、別の誰かと戦ってる」

「カイと一対一(サシ)……」

「非常にまずいけど、この先には血の師団ブラッディー・メイソンっていう、取引で得たのがあるらしい」

血の師団ブラッディー・メイソン……」

 ヨーイチはヤマトが口にした組織名に心当たりがあった。

 それも、()()()()()ほどに――。

「知ってるのか?」

 ヤマトはヨーイチの驚きように疑問符を浮かべる。

「うん……知ってる。悪いけど、僕がそっちに向かう」

「いいけど、一人では行かせないぞ」

「分かってる」

 ヤマトの頼みにヨーイチは渋々、賛同する。

 カルネスは猫耳を立てて、大フロアの方に視線を転じる。

「副委員長……」

「ティアがどうかしたのか?」

「副委員長が大フロアの方にいる。しかも、()()()()()()()()()がする」

「火事か?」

「おそらく……私たちは先に進むよ」

「うん」

「とにかく、急ごう。どっちか乗って」

 ヨーイチはヤマトとカルネスのどちらかを馬に乗せようと促す。

「だったら、私が乗る」

 カルネスはヨーイチの前に座る。

「僕が手綱を握るけど、もしもの時は……」

「安心して。その時は私がやる」

「馬に乗ったことがある」

()()()()()()

 カルネスはそう答えて、ヤマトは走って、目的の場所へ向かった。




 場所を変えて。

 “惨王”ザルクとやり合っているカインズとダンストン、シーホの三人。

 即興とはいえ、連携が取れていた。

「さすが、親衛隊。同い年にしちゃあ腕があるぜ」

「うるせぇよ。そっちも強いな」

「そりゃ、どうも」

「それよりも、ヤバくないか」

「同感だ」

 カインズとシーホの二人は鋼鉄の塊といえるダンストンと拳で殴り合ってるザルクを見る。

「瞳が赤い」

「毛の色が浅黒くなってる」

「おい、ザルク(あいつ)の変化に心当たりは?」

 カインズはザルクの変化について知ってるかシーホに訊ねる。

「詳しくは分からないが、大帝都にある帝立図書館で調べたことがある。何でも、この世界の全種族は心を怒りや恨みに染め上げ、闇堕ちした時、凶暴な魔族(ゾロスタ)っていう種族になるらしい」

「怒りか。そうには見えないが……」

「さっき言ったろう。詳しくないってな。調べた文献も千年以上前の文献だ」

「歴史が古ければ古いほど、それに関わる文献が少ないからな。まあ、言えることは倒さないと勝てないということだ」

「そうだが、なんだ? もう()()か?」

 シーホはカインズにいっぱいいっぱいなのかを訊ねる。

「限界? アホ抜かせ。カズが頑張ってるのに、俺が諦めるか」

「そこは、“限界は超えるためにある”って言えよ」

 シーホはカインズの答え方に呆れ返る。

「限界は超えるためにある、か。確かに――」

 カインズの脳裏に過ぎるのはカズがめげずに努力を続け、父親であるゲルトに挑み続けてることだ。

 彼我の差があったとしても、心が折れることがなく、立ち上がり続ける。カズの姿を見て、限界という壁を乗り越えていけるのだと、教えられた。

「――そうだな。俺がバカだった。いや、バカの主についてる時点で俺もバカだな」

「理由は聞かねぇが、変なところでバカは感染するものだ」

 シーホもユウトのバカさ加減に飽き飽きしていたが、限界知らずが移ってしまったと実感している。

「それよりもここだと戦いづらくないか?」

「そうだな。ダンストン!」

 カインズはダンストンを呼べば、ダンストンは“うすっ”と答えて、踏ん張っていた足に力を入れ、体躯ごとザルクを押し返した。

「うおっ!!?」

 体勢を崩されたザルク。

 それを見計らって、カインズがザルクの脇腹に回し蹴りを叩き込む。

「ぐっ!!?」

(この程度なら、まだ立て直せ……)

 さらに体勢を崩されたザルクは苦悶の表情を浮かべる。

(まだ、いける……)

「オラァ!!」

 シーホが双剣でザルクの足を斬りつけ、足払いをする。

「なにッ!!?」

 完全に体勢を崩され、僅か、数秒だが、ザルクは宙を浮いている。

「今だ! ダンストン!!」

「“金剛突撃(ヘヴィ・アリアンサ)”!!!」

 鋼鉄の塊といえるダンストンが宙に浮いたザルクにタックルを咬ます。

「グゥッ!!?」

 タックルが決められ、ダンストンはザルクごと壁に叩きつける。いや、叩きつけるどころか、壁を壊していき、別の場所まではじけ飛んだ。

「「よしっ!!」」

 ガッツポーズを取るカインズとシーホ。

 二人は頷いて、ダンストンを追うように、走りだした。


 カインズとシーホが部屋に出たところで、残されたのは“鎧王”セルケトと戦ってるナルスリーとシューテル、ミバルの三人となった。

「一気に静かになったな」

「そうね」

「でも、おかげで思う存分戦えるというものだ」

 ミバルの言葉にナルスリーとシューテルも頷き、剣を構える。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()

「感謝する」

 まず、最初に述べてきたのがお礼だった。

「感謝?」

「なぜ、礼を言う」

「意味が分からない」

 ナルスリーら三人からしたら、セルケトがお礼を言う筋合いがないと思っていた。

「ああ。その理由は単純だ」

 セルケトは篭手を掴み外していく。

「私は自分の素顔を――」

 レギンスも足靴も外し

「身体を――」

 鎧を外し

「他人に見られたくなかった」

 兜を脱いだ。

 セルケトの真の姿。

 軽装の服を着ているが、出るところが出て、引っ込んでいるところが引っ込んでいた。

 思春期のシューテルには見た目だけで、けっこう毒だ。

 だけど、シューテルはわりと平然としていた。

「あれ? シューテル。男の子だったら、あんな女性。目が向きそうだけど。平気ね」

「単純に慣れてるだけだ。母さんがセルケト(やつ)と同じぐらいだったからな」

「あぁ。目慣れしてるわけね」

 納得したと、ナルスリーはあきれ果てる。

 今のセルケトは誰もが見ても美女であり、どこかの国にいれば、確実に声をかけるはずに違いなかった。

 ただし、その()()()()()()()()の話だが。

 セルケトの顔には傷がある。

 右目部分の皮膚を大きく焼かれた()()()()が。

「火傷の、跡?」

 訝しげに目を細めるナルスリー。

 女性の美貌は顔で判断されるといわれても過言じゃない。

 セルケトが兜をしていた理由。それは――。

「その火傷の跡を隠すため?」

 ナルスリーが思い至った言葉を漏らせば、セルケトは自分の右目部分に触れ、話し始める。

「この火傷か。この火傷は昔、我が一族。我が国を滅ぼした者が付けた傷」

「滅ぼした? 故郷はもうないのか?」

「ああ、ない。我が祖国は滅んだ。安心しろ。ライヒ大帝国は関わりのない話だ。十年以上前に私の国は滅んだ。()()()使()()()()()()によって」

「大神の使い」

 ナルスリーとシューテル、ミバルの三人はセルケトが口にした“大神の使い”というのを頭の片隅に留めた。

「今更、滅んだ国のことを重んじていない。それとこれとは話は別だからな」

「確かに」

 セルケトは話を打ち切り、身体に変化が生じる。

 獣耳が生え、腕と脚に毛が生えてくる。

 爪も鋭くなり、なにより、最大の特徴は尻尾。

 尾てい骨から生える九本の尻尾。手入れされた毛並みから普段から気遣ってるのがわかるほどの毛並みの良さ。

 ゴクッと息を呑むナルスリーら三人。

「おいおい、マジかよ」

「まさか、妖狐族(フォックス)とはね」

 ナルスリーとシューテルはセルケトが妖狐族(フォックス)だったことに驚く。

「驚いてるようには見えないが?」

 セルケトは真紅の目を細め、言い返してくる。

黄昏(こっち)にも、妖狐族(フォックス)がいるものでね」

「見た目では判断しづらかっただけよ」

「確かに、獣族(アンスロ)は訓練することで獣的特徴を隠すことができる。黄昏も狼も中々のリーダーだ」

 ここで、セルケトはズィルバーとカズを高く評価する。

「普通なら、獣族(アンスロ)、異種族を仲間にするとは普通考えつかない。しかも、人族(ヒューマン)ならば、尚更な」

「ズィルバーはどこか変わってるよ」

「考えつかないことをするが、そこがズィルバー(あいつ)の長所なんでね」

 ナルスリーとシューテルはズィルバーの良さを口にする。

「なるほど」

 スルリと尻尾を動かせるセルケト。

「私は貴様らを強敵として見てやる」

 セルケトは顔が真剣な表情になり、“闘気”が高まってるのがわかる。

 対する、ナルスリーとシューテルも“闘気”を解放したことで、いつも以上に高まってる。

 ミバルも二人には劣るも“闘気”を高まっている。

「いくぞ!!」

「来い!!」

 シューテルとミバルは地を蹴り、セルケトは尻尾で応戦する。

 ニナとジノとは違った戦い。

 もはや、この戦いも誰にも止められなくなった。




 屋上では。

 屋上から一筋の人影が北海に叩き落とされたのが見える。

 人影の正体はカズ。

 白目を剝き、気を失っていた。

『カズ!!? カズ!!?』

 レンが脳裏にカズを呼びかける。

 屋上では“形態変化”したカイがカズを見ている。

「摩訶不思議な力を得たことで調子を得たガキが……あの足技……なんだって?」

 北海に沈んでいくカズ。

 カイはその場から動かず、北海を眺めている。

 次なる戦場へ向かうためじゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

「あのガキ……海に落ちてもなお、睨み続けるか」

 ビキッと額に血が上るカイ。

「ギョロロロロローーーー!!!!!!」

 盛大に笑い声を上げるカイ。

「いいだろう。ここで待ってやる。来るがいい。この俺の手で貴様の息の根を止めてやる!!!」

 カイも、北海に沈んでいくカズを睨み続けた。

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