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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流~決戦~
118/296

混沌と化す戦場。

 戦争は混沌と化し、激化していく。

「放て!!」

 ゲルトの号令により、魔法と矢が放たれた。

 雨のように傭兵団の決死隊に直撃する。しかし、団員は死すら臆することなく、防衛軍に向けて進軍する。

「こいつら、死を恐れないのか!!?」

「不気味だ……」

 諸侯、親衛隊の間に波紋のように動揺が広がっていく。

「ゲルト様。敵の進軍が収まりません」

「うむ。敵は死ぬことを前提に動いてる。戦況は?」

「被害とともに向こうが劣勢。しかし……」

「敵の数が一行に減らないというわけか」

「は……はい」

 ゲルトの聞き返しに家臣は頷く。

 “うーん”とゲルトは思考に耽る。だが、そこに追い打ちをかけるように次から次へと家臣が報告をしてくる。

「ゲルト様!! 緊急入電!!」

「話せ!」

「ハッ! 傭兵団はこちらに近づけないと悟ったのか。火炎瓶や石を投げてきました!」

「さらに、傭兵団は、()()()()()()()()()()()()()ようで……」

「あのような種族?」

 訝しげに眉を顰めるゲルト。

 だが、次の瞬間、視線を上に転じる。

 吹雪が吹雪き続ける雪原に地ならしが起きる。

 影が差し込まれたことで、ゲルトたちは一斉に上に視線を転じる。

 ゲルトは家臣からの報告を聞き、ギリッと歯軋りする。

「まさか……そんなものまで用意していたのか」

 雪原を暗くし、影が差し込むほどの巨体。

 体長十五メル越えの種族――その名は巨人族(ギガント)

 巨人族(ギガント)とは異種族の中で巨大な種族。人族(ヒューマン)の十倍以上の背丈を有し、身体能力も人族(ヒューマン)の常識を越えた力を秘めていると言われている。

「文献によれば、巨人族(ギガント)はその昔、奴隷のように扱われたという歴史がある。ライヒ大帝国では、[建国神]と[女神]の采配で西部に移り住んだとされているが……」

「ゲルト様! 肌の色をご覧ください! 浅黒く褐色化しています!!」

 家臣に言われて、ゲルトは肌が褐色化している巨人族(ギガント)を見る。

 確かに、戦場に出てきた巨人族(ギガント)の全てが、肌が褐色化している。ゲルトは文献を思い返す。

「文献によれば、あれは“魔族化”というらしい」

「“魔族化”?」

「千年以上前から存在し、怒りや憎しみが心を支配し、闇に堕ちた時、肌が褐色化し、凶暴な魔族(ゾロスタ)へと変貌するらしい」

「つまり、あれはまさか……闇堕ちした巨人族(ギガント)だというのですか!?」

「そうらしい。しかし、問題は山積みだ」

 ゲルトは戦況が優勢から劣勢に変わったことに気づく。

 家臣らも同様で危険な状況だと悟る。人族(ヒューマン)巨人族(ギガント)では種族的な差がある。しかも、凶暴化した巨人族(ギガント)では止めるに止められないと悟ってしまう。

「戦うぞ!!」

 ゲルトは家臣たちに声を飛ばす。

「ゲルト様!!?」

 ゲルトは戦場に来てる全ての者たちに声を飛ばす。

「諸君。状況は劣勢に陥ったことだろう。だが、臆するな!! これから、この国を背負う者たちが敵本拠地で戦っておられるのに、今を背負う我々が弱音を見せてどうする!! 死はもとより、覚悟の上ならば、命を賭して北方を守り通すぞ!!」

 彼の激励が防衛軍全体に響き渡り、志気を向上させる。


 そして、背後から雪原を踏み散らす馬蹄が木霊する。

「なんの音だ!?」

「ゲルト様! 南から増援です!」

「どこの部隊だ!?」

「それが、第二帝都支部のシン少将並びに本部のクレト中将とマヒロ准将の部隊です!」

 中央からの増援にゲルトたちは“おおっ!!”と気持ちが昂ぶる。

 北方支部の親衛隊も中央からの増援は予想外だが、願ってもいない増援に気持ちが高まる。

「本部が動いたのか!?」

「いや、本部からの連絡はない」

「まさか、クレト中将の独断専行!?」

「関係ない。今、すべきことは北方を、国を死守すること。中央の面子とか関係なく、敵を叩き潰すことだけ考えろ!!」

 隊員の一人の声に親衛隊全員の心が一つになった。


 馬蹄を轟かせ、防衛軍のもとへ馳せ参じるクレトら中央に位置する皇族親衛隊。

 向かい風に吹雪く吹雪の中。彼らは馬を走らせ、戦地へ赴いていた。

「おい、クレト。いいのか。こんなことやってよ」

「グレン。その言い方はないんじゃない?」

 シンはクレトに罵声するグレンを注意する。

「そうよ。グレンくん。本来なら、禁止条項なのをクレトは全責任を取って、第二帝都支部を動かしたんだから」

「もとより、本部は静観する腹積もり。皇宮も動かなかった。いや、動けなかった。下手に介入すれば、とんでもない事態になるからだ」

「とんでもない事態……なるほどな」

 グレンはクレトが言う“とんでもない事態”を察した。

「確かにとんでもない事態だな」

「皇族親衛隊本部を動かせば、中央が手薄になる。そうなれば、国家転覆に繋がる」

「でも、一部でも動かそうと思わないのかな。本部のお偉いさん方は?」

 シンは親衛隊本部にいる上層部が部隊を動かそうと思わなかったことに疑問視する。

「親衛隊本部は()()()()をしてる真っ最中」

 クレトは本部内での状況を零す。

「派閥争い?」

「おいおい、国家の危機だってのに、元帥の座を巡る()()()()()()をしてるんだよ。()()()()()()のか?」

 グレンは親衛隊本部の上層部のバカさ加減に呆れ返っていた。

「しょうがないわよ。グレンくん。本部の中将は年配な方が多いんだよ。地位に保身になるのが当然だよ」

 マヒロは本部の内情を知ってるためか。本部の年齢層を教えてくれる。

「現実を見てほしいものだ。“魔王傭兵団”に、北方だけじゃなく、この国を落とされたら、派閥争いもできるはずがないだろうに」

「無駄に実力があるんだから。その実力を、力を、この国を守ることに使ってほしいものだよ」

 マヒロは力の使い道を具申していた。

 馬を走らせるクレトたち。

 彼らの視界に入るのは、凶暴化した巨人族(ギガント)の姿であった。

「デケェな」

「傭兵団は、あんな連中まで引き込んでいたのか」

巨人族(ギガント)……」

「しかも、複数体。このままじゃあ、前線どころか、蒼銀城(ブラオブルグ)まで南下する恐れが――」

「ひとまず、防衛軍の大将をしてるゲルト公爵卿のもとへ急ぐぞ」

「うん。あれ、そういえば」

 ここでマヒロは真っ先に戦場へ駆けだそうとするユウトらを思いだす。

「グレンくん。ユウトくんは?」

「ああ? ユウトのガキなら、とっくに敵本拠地に向かっちまったぞ」

『ハッ?』

 この時、クレト、シン、マヒロの三人は呆気にとられてしまう。

「いつ!?」

「どうやって!?」

 切羽詰まるシンとマヒロにグレンは耳を押さえながら話す。

「俺たちが呑気に話してる合間にガキ共は山脈同士の隙間を通って北海に向かっちまったぞ」

「ちょっ!? シノアは止めなかったの!?」

「ユウトは聞くたまじゃねぇよ。しかも、敵本拠地には黄昏のガキ共がいるんだ。自ずと応えが出るだろう」

「確かに、ユウト曹長はズィルバー少年のことになると人が変わるからね」

 シンはユウトがズィルバーのことになると人が変わるのを思いだす。

 ユウトはズィルバーが目にしたり、噂を聞いたりしただけで目の色を変えて、挑みかかるのが多々あった。

 ズィルバー自身も“懲りないな”と言いつつ、ユウトとの一戦を交えてる。彼曰く、“()()退()()()()()()()”だそうだ。

 しかも、ズィルバー自身。とっくに気づいていた。ユウトの力と“闘気”の扱いが日に日に上達していることに――。

 なので、彼はユウトとの喧嘩は“()()退()()()()()()()”としか考えていなかった。

 そのためか、皇族親衛隊“シノア部隊”は白銀の黄昏シルバリック・リコフォスの間では顔なじみになるほど、喧嘩をしている上に伝統行事にまでなってる始末。

 ティア殿下もエリザベス殿下も頭を抱えるので、なんとかしてほしいのが本音であった。

「おかげで“シノア部隊”面々は階級に見合ってない実力を得ちゃったってわけ」

 シンが事細かく、ユウトらの成長を話した。

「まあ、自分の身は自分で守れるぐらいには強くなってる。心配することじゃねぇだろう」

「周りからすれば、傍迷惑なことをしてるよね?」

「それは言えてる」

 マヒロの問い返しにグレンは納得する。

「どこまで強くなってるかは知らんが、この戦争の結果次第で、制度を見直さないとな」

「勝てばの話だけどね」

 馬を走らせるクレトたちは防衛軍の本陣へ到着した。


 本陣に到着したクレトらは馬を下りて、ゲルトがいる本陣へ歩きだす。

 本陣天幕に入れば、ゲルトたちレムア公爵家の方たちが本陣に詰めかけていた。

「親衛隊本部、クレト中将だ。この戦に参戦させてもらいたい」

「レムア公爵家現当主ゲルトだ。こちらとしても、それは願ってのないことだ。戦況を教えよう」

「お願いします」

 クレト、マヒロ、シン、グレンの四人はゲルトに連れられ、本陣に入る。

 本陣はテーブルと椅子しか置いていなく、必要最低限の物しか置いていなかった。

「まず、戦況だが、傭兵団は団員による決死隊を編制し、総力をもって侵攻している」

「決死隊? 特攻するような言い方ですか?」

「カズが発動させた()()()により、敵は思うように攻められなくなった」

「魔法陣? 半日ほど前、北の方で青白い柱が伸びたと聞いているが、まさか、そんなのが――」

 シンは北方に、そのような仕掛けがあるとは夢にも思わなかった。

「親衛隊が知らなくて当然だ。何しろ、俺も魔法陣の存在は知れど、発動できなかった。カズが発動させたことで天命が来たのだと、嫌でもわかる」

「ゲルト公爵卿」

 感慨に耽るゲルトにマヒロは悲しげに見てくる。

「おっと、話を続けなきゃだな。そのため、決死隊のほとんどを我々が請け負っている。ズィルバー殿とカズの部隊が左右の山脈を伝って、敵本拠地に挟撃を仕掛け、カイの首を獲りに向かった」

「子供たちにですか!?」

「やっぱりな」

 マヒロが驚き、グレンはそうだろうなと納得する。

「知っておられるかは知りませんが、ズィルバー殿の白銀の黄昏シルバリック・リコフォスとカズの漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフは“魔王傭兵団”と一戦交えている。特に黄昏に至っては半年ほど前に第二帝都で……」

「確かに――」

 ゲルトの言葉返しにシンは思いだす。ズィルバーたち黄昏が傭兵団と悪魔団との混成軍と衝突し、全員無事で生還したという事実を。

 ズィルバーに至ってはカイとリンネンを相手に互角に渡り合えたという事実。

 先の二つの事実から黄昏の成長性は未知数。

 その脅威は危険性を孕んでいるが、今のところ、彼らは中央の学園の治安維持に努めているので問題なく見逃している。

「まあ、そうなるのは分かってた」

 話を戻す形でグレンは納得顔で先を進ませる。

「話を続けてくれ」

「うむ。我々は決死隊の足止めだったが、あのようなものが出ては、いよいよ、総力をもって迎え撃たなければならん」

 ゲルトが頭上を仰げば、凶暴化した巨人族(ギガント)がこちらへ近づいてきてる。

「陣形はズィルバー殿が考えてくれた“鋒槍陣”」

「鋒槍陣……通称、亀陣形」

「近づく相手を丸呑みにする陣形。おいおい、本当に子供が考えつく陣形か」

「天才とバカは紙一重とも言うが。グレン。お前の部下も存外、戦いにおいては天才かもしれんな」

「学に関してはバカの極みだけど。こと戦闘への頭の回転の良さは一級品だ」

「グレン。それって、まずくない?」

「ああ、まずいな。だけど、そんなの周りが勝手にどうかする」

「おいおい……」

 呆れるシン。だが、ゲルトは大人でも若者の彼らが来てもらったことに感謝していた。

「さて、せっかく、増援に来てもらったことだ。まだ国の守り方すら知ったばかりの子供たちに今、国を守る者たちの生き様を見せようではないか」

 ゲルトの言葉にクレトたちも頷き、得物を手に、本陣を出る。

 ゲルト自ら出たことで諸侯の誰もが気合いを入れ直し、本部のクレトらが来たことで北方支部の親衛隊に生気を取り戻した。

「全軍に告げる! 臆する必要はない。今こそ、北方の屈強さを知らしめようではないか!!!」

 ゲルトの力強き宣言により、防衛軍の志気が一気に向上した。

 迎え撃つは凶暴化した巨人族(ギガント)部隊――狂巨人(ジャイアンツ)

 今を生きる北方の勇姿を、屈強さを、傭兵団に見せつける。




 ライヒ大帝国、大帝都ヴィネザリア、皇宮クラディウス――。

 帝の間にて。

 皇帝とガイルズ宰相の耳に親衛隊本部クレト中将とマヒロ准将及び第二帝都支部長面々がいない報告を重臣から報告が入った。

 皇帝はワイングラスを片手に報告を聞いてた。

「ご苦労。下がれ」

 皇帝は重臣に言い返し、重臣は席を外す。

「若さとは素晴らしいものですな」

「国を重んじ、地位や権力よりも国防に準じる姿勢。天晴れと他ならぬ」

「親衛隊本部と言いますと、昨今、元帥の座を巡って、派閥争いをしているとのことです」

「フッ。国の危機よりも自分の地位が優先か。国がなくなれば、地位や権力がなくなるというものを。愚かしいものだ」

「いかがなさいますか?」

「放っておけ。今は北部の戦に着手せよ。聖霊機関(デ・セカンム)を動かす準備をしておけ」

「ハッ」

「この戦。勝利すれば、北部はレムア公爵家に完全統治せよ」

「それは次期皇帝――エリザベス殿下のためですか?」

 ガイルズは皇帝に不躾ながら、次期皇帝のため、盤石なる土台を作るためなのかと問う。

「次期皇帝もそうだが、今のライヒ大帝国は一つになるべきだ。この国全土にある膿を取り除く」

「では、地方の問題を着手すべきと仰いますか?」

 ガイルズは北部の一件で、東部も、西部も、南部も、中央でも、社会に僅かながら変化が起きていると示唆し、地方の問題解決に着手すべきと具申する。

「そうするほかない。そういや、ファーレン公爵家に昨年の褒賞を与えていなかったな」

「ズィルバー殿並びにアーヴリル公爵卿に、ですか?」

 ガイルズの聞き返しに皇帝は頷く。

「ズィルバー殿は分かりますが、アーヴリル公爵卿はなにも……いえ、申し訳ございませんでした」

 ガイルズがアーヴリルへの褒賞について、意見を述べようとしたところ、皇帝の一睨みで自分に非があったと認め、口を閉ざした。

「直ちに準備をいたしましょう」

「まあ、待て。褒賞の儀は北部が平定してからでよい。今や、ファーレン公爵家(中央)レムア公爵家(北部)だけではなく、パーフィス公爵家(東部)も、ラニカ公爵家(西部)も、ムーマ公爵家(南部)も、若者たちが力を付け始めてきた」

「若者……次期公爵卿たちですか」

 ガイルズは“やれやれ”となる。

「彼らの成長を見ると自分も年老いましたな」

「まだ若いだろうに」

 “ったく”と呆れる皇帝にワインを口にする。

「だが、この国は新たな波が来ているのかもしれん」

「“教団”によって生じた時代の波でしょうか。その波に生き残れる者たちこそ、次の時代を生き抜けるのでしょうな。北部の戦も、その一つとしか思えません」

「余は半年前の戦を気に、国内を揺るがす戦や事件が起きると推測している」

聖霊機関(デ・セカンム)の方に調査と報告するよう命じておきましょう」

「頼むぞ、ガイルズ。変化は始まったばかりだ」

「御意」

 ガイルズは頭を下げ、皇帝の指示を請け負ったのだった。




 激震。激闘。激戦。

 呼び方は様々だ。

 北方の威信をかけた戦いは、まさに、そのどれかに属するものだ。

 強者と弱者。勝者と敗者。生者と死者。

 戦いによって生じ、戦いによって生まれるもの。

 これらの因果関係は斬っても斬られないもの。

 北方の未来をかけた戦いは今、佳境へと突入する。


 巨大な壁があった境界線。

 北方と北海を通じる境界線でもある。

 巨大な壁周辺の村は焼け落ち、異臭が立ち込もっていた。

 焼け落ちた村を駆け抜ける五つの馬蹄の音。

 向かい風に襲いかかる吹雪を前にしても、馬は走り続ける。

 馬に跨がるのはユウトたち、シノア部隊。

 彼らの向かう先は“魔王傭兵団”アジト。そこでしかなかった。

 ユウトを先頭にして走らせている中、シノア、ミバル、ヨーイチ、シーホは“いいのかな”っていう表情をしていた。

「おい、シノア」

「なんですか、ミバル少尉」

「いいのか。私たちが中将たちを無視して独断専行なんかして――」

「アハハハハハ。元々、この戦を勝手に増援に向かったクレト中将もシン支部長も上の命令を無視して、独断で増援に来てる時点で、私たちが独断専行してもなんの問題もありませんよ」

 ミバルの問いにシノアは皮肉じみた笑みを浮かべて言い返してしまう。

「それもそうだが、ユウトの場合は闘える喜びで頭がいっぱいだぞ」

「ユウトさんはあれでいいと思いますよ。正直に言って、私でも制御ができません」

「おい、隊長!? しっかり、部下の制御ぐらいはしろ!!?」

 ミバルは思わず叫んでしまう。

 シノアは皮肉じみた笑いを飛ばすしかなかった。

「にしても、クセぇな。どんだけ人を殺したんだよ」

「磔台まであるよ。見せしめとしか思えない」

 ヨーイチとシーホは傭兵団の所業の数々に気分を悪くする。

「それにしても、北海に吹き荒ぶ吹雪はすごいな。向かうだけでこっちの体力が消耗するぜ」

「うーん。そうかな」

 シーホは体力の消耗を危惧するもヨーイチは首を傾げる。

 ヨーイチの疑問にシノアとミバルも同じことを思っていた。

「ヨーイチ。言いたいことは分かる」

「最近になって、私たちも体力がついてって思っていました」

「これもユウトが黄昏の総帥に毎回の如く、喧嘩するからだろうな。私たちが止めるにあたり、副総帥や“四剣将”とやり合ってるから。知らず知らずのうちに力がついてたんだって気づかされたよ」

「アハハハハハ。ユウトさんは黄昏の親玉――ズィルバー・R・ファーレンを捕まえたいだけなんでしょうね」

「まだ、同い年なんだが?」

「同い年だからこそ、自分の方が強いと認めてもらいたいのでしょうね。男って、そんなものですね」

 シノアは男という在り方を口にする。

「おい、シノア」

「少なくとも、僕とシーホはユウトくんほどじゃないからね」

 シーホとヨーイチはシノアに否定する。

 だが、先頭を走るユウトは傭兵団のアジトを視界に捉える。

「おい、そろそろつくぞ」

 ユウトの言葉でシノアたち四人も気を引き締める。ユウトは目を閉じ、“静の闘気”で戦況を把握する。

「おいおい、敵アジト全域が戦場だぜ」

「ユウトさん。“魔王カイ”の位置は?」

「屋上だ」

 シノアの質問にユウトは“静の闘気”で正確な位置を告げる。

「屋上ですか?」

「ああ、ズィルバーともう一人。黒髪に蒼い槍を持った奴。僕らと同い年」

「と、すれば……」

「レムア公爵家のご子息、カズ・R・レムアじゃない」

「つーか、なんで、場所やら戦況を把握できるんだよ」

 シーホはユウトが状況把握できる力を持ったことに怒鳴りつける。

「あっ? “闘気”を扱えば、できることだろう」

「できねぇから言ってるんだよ!!」

「ほんと、ユウトくん。自分が強くなってることに気づいていないよね」

 ヨーイチは強くなってることに気づかないユウトに苦笑する。

「そもそも、その歳で“闘気”を扱えることがおかしいんだ」

「去年、ユウトさんを治療した治癒魔法使いと医師の話によれば、ズィルバーさんとの戦闘で覚醒したそうです。“闘気”は本来、長期の鍛錬で引き出せるそうですけど、ユウトさんの場合、極限での戦闘時に覚醒したので、あの年齢で会得してしまったそうです。グレン中佐も、それを聞いたときは呆気にとられていたそうです」

「マジか」

「大マジです。と、そろそろ、敵本拠地の入り口です。そこを越えたら、後は分かってますよね」

「生きるか、死ぬかのどっちかだろう」

「上等だ。叩き潰してやるぜ」

「生き残ったら、始末書の山だね」

「行くぜ!」

 ユウトは腰に帯刀する魔剣――“布都御魂”を抜き放つ。

 シノアたちも得物を手にし、彼らを乗せる馬は敵アジトへ踏み入った。


 ユウトたち“シノア部隊”の五人が“魔王傭兵団”アジトに突入する。

 このタイミングで乱入してきたユウトたちに入り口付近で戦っていた黄昏と狼の連合軍、傭兵団の団員すらも驚きを隠せない。

「侵入者だ!!?」

「敵は何人だ!!」

「敵は五人! 背格好から皇族親衛隊です!」

「なに!?」

 傭兵団の間でも動揺が走る。

 黄昏と狼の連合軍いや、特に黄昏側はユウトたちの顔を見て、“なぜ、彼らがここに”という心境になる。

「第二帝都支部のシノア部隊だ!!」

「なぜ、奴らがここに!?」

「それよりも、第二帝都支部の親衛隊が来てるなら、防衛軍の方にも――」

「とにかく、目の前の敵に専念しろ! 連中のことは後回しだ!」

「連中のことは上が判断してくれる!」

 白銀の黄昏シルバリック・リコフォスの面々は目の前の敵を倒すことに専念した。

 漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフも彼らに倣って敵を倒すことに専念した。

 ユウトたちは馬を走らせて、アジトの最奥部へと向かう。

「このまま、まっすぐ行けば、敵の主戦力がいる」

「ユウトさんは?」

「決まってるだろう。カイの相手に行くんだよ」

「死にますよ」

 シノアはユウトがカイに挑みに行こうとしているを知り、“死ぬ”と告げる。

「死なねぇよ。むしろ、わくわくしてるんだよ」

 ニッと笑みを零すユウトにシーホは指摘する。

「バカだろうユウト。死ぬ気か?」

「だから死なねぇよ。じゃあ、先に行くぜ」

 ユウトは馬の腹を蹴って、先へ進む。

 この時、ヨーイチは視界の端にヤマトとカルネスが何処かへ走ってるのを捉えた。

「ごめん。僕も気になることをできたから。先に行って」

 ヨーイチも皆とは離れて、別の場所に向かった。

 ユウトとヨーイチも自分勝手に行動し始めてしまい、シーホは悪態を吐くもシノアは一々、気にしていなかった。

「どこもかしこも戦場なんです。一々、気にしていては時間の無駄です」

「そんなことは分かってるけどよ」

「おい、目の前を見ろ。ユウトに追いつくぞ」

 ミバルの叫びにシーホとシノアも視線を前に転じれば、ユウトが布都御魂にバリバリと“動の闘気”を流す。

「行くぜ!」

 ユウトが剣を振るった。


「ッ!?」

 “三災厄王”の一人、“炎王セン”をハルナ殿下とともに戦っていたティア殿下が不意に扉の方に振り返る。

「ティア。どうしたの!?」

 動きを止めた彼女にハルナ殿下は怒鳴るように話しかける。

「ハルナ。“静の闘気”を使って……なにか来る」

「えっ」

 ハルナ殿下はティア殿下に言われたように“静の闘気”を使用すれば、扉の反対側から四つの気配がこちらに向かってきてるのに気づく。

「なにか来る」

 センも彼女たちにつられて、扉の方に目を向けた途端、扉が斬られたかのように、崩れ落ちる。土煙が舞う中、馬蹄の音が耳に入るかと思いきや、尻でも蹴られたのか逃げるかのように駆けだした。

 土煙の中から飛び出す少年(・・)にティア殿下いや、黄昏の面々は驚きを隠せずにいる。

「チッ。ズィルバーはここにいないか」

 毒を吐く少年――ユウトにティア殿下、ナルスリー、シューテルの三人は動揺が走る。

 ハルナ殿下、カインズ、ダンストンの三人は“なぜ、親衛隊がここに”という心境だ。

 ユウトは天井に開いてる大穴を発見し、上を見上げて、屋上で戦ってる気配(・・)を感じとる。

「屋上か」

 ユウトは上にズィルバーがいると感じとる。

 ユウトは足に力を込めようとしたとき、センとセルケト、ザルクがユウトを仕留めようと突撃する。

「カイさんのもとへは――」

「行かせん!!」

「くたばれ、クソガキ!!」

 両者の剣がユウトに襲いかかる。一瞬をつくかの如く、センとセルケトの首を狩ろうと鎌と戦斧の刃が迫り来る。

「チィ!?」

「この、!!?」

 迫り来る刃を弾く方に意識を変え、激情する。

「死ね!!」

 鋭き爪がユウトに接近するもザルクに迫る双剣の刃。

「クソが!!?」

 ザルクは両手で双剣を掴んだことで、意識がユウトの方へ向けられなくなった。

「ありがとうよ」

 ユウトは止めてくれた皆にお礼を言った後、跳躍して、壁を蹴って屋上へと向かう。

 セン、セルケト、ザルク。

 “魔王傭兵団”、“三災厄王”の三人がユウトを止めようとして止められず、阻まれてしまえば、怒りが浸透してもおかしくない。

「誰だ!!?」

「邪魔した奴は!!?」

「ぶっ殺してやる!!!」

 怒りで感情が爆発するセン、セルケト、ザルクの三人。

 ハルナ殿下、カインズ、ダンストンもいきなりの乱入者にびっくりした顔をする。

 ティア殿下、ナルスリー、シューテルの三人だけは乱入者たる親衛隊に呆れつつ、確認を取る。

「死にたいのかしら。シノア准尉?」

「同じことを言い返しますよ。ティア殿下。いえ、ティア副総帥?」

「貶してるのかしら?」

「褒めてるんですよ」

 ビキビキと額に青筋を浮かべ、笑みを浮かべるティア殿下とシノア。

 剣呑なる空気にハアと嘆息をつくナルスリーとシューテル。

「テメエだったら、止めると思ったんだがな、シーホ」

「文句を言うなよ。あと、ここまで来た時点で諦めてる。やるだけやってやるよ」

「ミバル少尉も同じ?」

「業腹だけど、同じよ」

「ならいいけど。それよりも、あそこの二人をなんとかしましょう。ズィルバーとユウトの喧嘩もそうだけど、ティア殿下とシノアも仲良くならないよね」

「仲がいいんじゃないか。()()()()()()()をするぐらいだから」

「そうとも言えるけど、あれを仲がいいと言える」

「言えると思うぞ。ほら、“喧嘩するほど仲がいい”と言うだろう」

「「仲良くない!!」」

 ミバルの言葉が聞こえていたのかティア殿下とシノアは声を揃えて言い返す。

「ほら、仲がいいじゃん」

「戦いでは、喧嘩しないでほしいんだけど……」

「まあ、そこは彼女たちに任せるしかないんじゃないか」

 タラリと汗を流すナルスリーとミバル。

 しかし、センは敵を前にして口喧嘩をするティア殿下とシノアに苛立ったのか。

「お゛い゛、敵を前にして、口喧嘩してるじゃねぇ。クソガキ共!!!」

 断ち切ろうかとする魔靱の刃。迫り来る刃を前にハルナ殿下が声を飛ばすもティア殿下とシノアは反応すらしない。

 反応すらしてもらえない。自分を見ていないと思われてしまい、さらに激情する。

 だが、魔靱の刃はティア殿下とシノアに至近した途端、弾かれたように吹き飛ばされ、剣を振るったセンも吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

「「「え?」」」

「「は?」」

 ハルナ殿下、カインズ、ダンストンの三人は呆け、セルケトとザルクは呆気にとられる。

 ナルスリーとシューテル、ミバルとシーホだけは察しがついてるのか無表情だった。

「ねえ、シューテル」

「ああ、あれはねぇだろ」

「だな」

「ああ、邪魔されるのが気に入らないからって、()()()()()()なよ」

「おまけに息が合ってるし」

 四人の言葉にハルナ殿下たちは唖然としていた。

 センをぶっ飛ばしたティア殿下とシノアの二人。二人は剣呑なる空気で睨み合っていたが、ハアと息をついてから考え直した。

「とりあえず、目の前の敵を倒しましょう」

「いいですわね。あなたとはいつでも喧嘩ができますし。こう邪魔だてされると不愉快です」

「あら、奇遇じゃない。私もよ」

 ティア殿下とシノアが手を結んだことに黄昏と親衛隊は“ったく……”と呆れ果てる。

「ハルナ。気を抜かないで」

「気を抜かせたのは、あなたでしょう!! ティア!!」

 ティア殿下の声かけにハルナ殿下はストレスを発散するように声を荒げた。


 彼女たちを無視して、ナルスリーはミバルに声をかける。

「手を貸してくれるっていうなら、幸いよ」

「どっちに回ればいい」

「シーホはザルクに回れ」

「いいぜ。あんな毛むくじゃら。綺麗に剃ってやる」

「ミバルは私とシューテルに協力して、重い一撃が必要だから」

「あいよ」

 身の丈より大きい戦斧を肩に担ぐミバル。

「随分と大きい戦斧ね」

「あんたらと喧嘩するせいで筋力がついたんだよ」

「あら、そうなの。おまけに重心の配分が良くなってるじゃない」

「ほんとに動きから成長が読み取れるんだな」

「それが私の流派ですから」

「チッ、相手にしたくない」

 嫌みを言い合うナルスリーとミバルの二人にシューテルとシーホは同時に溜息をつく。

「お互い、苦労してるな」

「同感だ」

 カインズとダンストンからしたら、“親衛隊と仲良くしてる時点でどうかしてると思う”であった。

 ガラガラと崩れ落ちる瓦礫に埋もれるセン。

 瓦礫をどかして起き上がるも、センは怒りで感情を染め上げる。

 自分を無視して口喧嘩をしていた挙げ句、全てを斬り裂く魔靱の刃も弾かれた上に力尽くで吹き飛ばされたのだ。

 怒りが浸透しなくて、これをどう説明する。

「ガキ共……灼き殺す!!!!」

 激昂を露わにし、背中から炎を出した。

 センの背中から出た炎。なにもかも灼き尽くす劫火そのもの。

 セルケトとザルクの二人はセンが炎を出したのを見て、動揺が走る。

「おい、セン!!?」

「こんなところで、そんなの使うんじゃない!!」

 声を荒げるセルケトとザルク。

 センは二人の声に聞く耳を持たない。

「あ゛っ? 貴様らが焼かれ死のうが、俺には関係ねぇ!!!」

 むしろ、聞く気がなかった。誰が死のうがセンには関係がないことであった。

 センの思い切りの良さにティア殿下たちは絶句する。

「随分と仲間意識なんてないのね」

「仲間? はん。傭兵団に仲間意識なんざ不要。力で従わせる。それが、この世の道理だ。どこか間違ってるか?」

「否定はしない。でも、肯定はしない。理由なき力は、ただの暴力よ」

「暴力はなにも生まない。生まれるのは恐怖と憎しみ、怒りしか生まれない」

「だから、なんだ。俺たち異種族を迫害したのは、貴様ら人族(ヒューマン)じゃないか」

 センの怒りの発言。彼の発言は呪詛にも思え。降り積もった積年の怒り、恨みにも思えた。

 センの言葉はライヒ大帝国への深い怒りと憎しみが節々に聞き取れる。

 だが、ティア殿下とハルナ殿下、シノアからしたら、関係ないことであった。

「だから、なに?」

「異種族の迫害がなによ。そんなの、この戦いに関係ない」

「そんなに恨みたいのなら、この戦いに勝ってから恨みの捌け口をぶつけるがいい。勝てればの話だけどね」

 三人の言い返しにセンは剣に炎を纏わせる。

「いいだろう。貴様らを殺して、あの世で地獄となった国を見ているがいい」

「やってみなさい」

「殺せるものなら殺してみろ」

「地に倒れ伏すのはあなたでしょうけどね」

 感情的に言い返す三人。

 身体から迸る“動の闘気”が彼女たちが抱いた感情を表していた。


 屋上でカイと戦っているズィルバーとカズの二人。

 煤と埃が付着し、皮膚が切れるほどの傷と血が流れてる。

「“形態変化”しただけで強さが変わるな」

「“形態変化”?」

獣族(アンスロ)特有の能力の一つだ。獣族は生まれたときは受け継がれる血で種族的特徴が出るけど、訓練すれば、後天的に種族的特徴を隠せる」

「つまり、見た目は人間に似るというわけか」

「ああ。だけど、竜人族(ドラグイッシュ)だけは獣族の中では特殊。完全なる龍に化けれる上に、その両方の力を扱える形態に変化できる」

「なるほど。だから、“形態変化”ね」

 納得したのか。フゥ~ッと息を吐いたカズ。

 ズィルバーは聖剣(クラウ・ソラス)を肩に乗せ、カイを睨もうとしたとき、大穴の方から人の気配を感じとれた。

(誰か来る)

『このタイミングで敵を増やされては困るんだけど……』

 レインもこちらに来る気配に対し、警戒の声音を漏らす。

 カズも気づいたのか目線を後ろに転じる。

(このタイミングで増援?)

『敵の増援だったら、止めてほしいのだけど……』

 レンも敵の戦力増加に困っていた。

「おい、ズィルバー」

「ああ、分かってる」

 ズィルバーとカズ。少年二人は大穴から屋上に向かってる一つの気配に気づいてる。

 二人が気づいているのなら、カイも気づいており、彼も視線を大穴に転じる。

「ギョロロロロロ……ここに来て、増援とはな。どこのガキ(・・)だ」

 ズィルバーとカズはカイが漏らした“ガキ”という言葉に僅かばかり目を開く。

「ガキ? 同い年?」

『どんな死に損ないよ』

 カズとレンは不思議そうに思う中、ズィルバーとレインは既視感を抱く。

 念のためにズィルバーは“静の闘気”で向かってきてる気配の輪郭を感じとる。

 輪郭を感じとり、ここに向かってきてるのが誰なのかはっきり分かったのか。呆れ果てたかの如く、息をつく。

「死ぬ気なのか?」

『ここまで来ると相当なアホね』

 ズィルバーとレイン。二人はここに来る()のアホさに怒りを通り越してあきれ果てる。

「やっと、屋上に着いたーー!!!」

 戦場の中でおちゃらけた声が木霊する。

「って、寒いな。吹雪いてるし!!?」

 場違い感のある声音にズィルバーは無表情で話しかける。

「なんで、キミがいるんだ。ユウト」

「えっ? あっ、ズィルバーだ」

 ズィルバーはここに来た少年――ユウトに問いかけるもユウトはズィルバーを見つけたことに声をあげる。

「言葉のキャッチボールをしろ」

「久しぶり」

「ああ、久しぶりだな。なにしに来た?」

「えっ? カイをぶっ飛ばしに来た」

 ユウトは至極当然、当たり前なことを口にする。

 ユウトの発言もそうだが、カズからしたら、“なんで、親衛隊が来てるんだ”という心境だ。

(バカだよな)

『バカだね』

 カズとレンはユウトがバカであることが分かった。

 ユウトがカイを倒す発言にカイ自身、盛大に高笑いをした。

「ギョロロロロロ!! こいつは滑稽だ。おい、親衛隊のガキ。まさか、本気で俺を倒す気がいるのか?」

「え? 倒すつもりだけど?」

 カイの問いかけにユウトは素っ頓狂に答えた。しかも、バカ正直に――。

 カズもこれには、思わず絶句した。

(あんなバカ正直に言う奴がいるか)

『相当なアホね』

 カズとレンの二人はユウトの思考がどうなってるのか疑りたくなる。

 ズィルバーに至っては今更なので、念のために訊ねた。

「おい、ユウト。キミらの隊長はどうした?」

「シノアか。シノアなら、下で戦ってると思うぞ」

「キミがカイのもとへ行くのを止めなかったのか!?」

「グレンが連れてきてくれた」

「おい!! アホ中佐!!」

「ついでに言うとシノアも説得するのを諦めたって言ってた」

「おい、ダメ隊長!! どうせ、ティアと口喧嘩してるんだろうが!!?」

 思ったことをぶちまけるように声を荒げるズィルバー。

 剣の姿になってるレインも、これには思わず、同情する。

 ハアハアと肩から息を吐いてるズィルバー。

「どうした、疲れたのか?」

「キミのせいで、こうなったんだよ!!」

 ズィルバーの怒鳴り返しに首を傾げるユウト。カズもズィルバーに同情せざるを得なかった。

 ユウトはカイの姿を視界に捉える。

「あいつが“魔王カイ”か」

「ああ、そうだ」

 息を整えたズィルバーがユウトの質問に答える。

「へぇ~。あいつがカイね」

 ユウトはその言葉を皮切りに地を蹴って、カイへと走りだした。

「お、おい!?」

 ズィルバーは静止の声をあげるもユウトは聞く耳を持たず、突っ込んでいく。

「ギョロロロロロ……バカな奴だ」

 カイも身の程知らずに思われるユウトに対し、高をくくって笑みを浮かべる。

 しかし、ユウトが剣を抜いて、刀身にバリバリと纏わせる“動の闘気”を見て、僅かばかり、目を見開く。

 ズィルバーとカズですら、ユウトの技量に驚きを隠せない。

「ハッ!!」

 ユウトは剣を一閃するも、カイは一歩下がって回避する。ユウトからしたら、危ないから避けたという認識でニッと笑みを零す。

 カイは笑みを零すユウトに舐められたと思われたのか否や、ビキッと頭に血が上り、棘突き金棒を振るい、ユウトを弾き飛ばす。

 弾き飛ばされたユウトはドゴンと岩に叩きつけられて、瓦礫に埋もれてしまう。

 無謀の突っ込みで、この手打ち。普通であれば、諦めるのが基本。

 しかし――

「痛ぇ」

 瓦礫をどかし、頭から少々、血を流すユウト。

 頭を掻きながら、カイを見る。

「あいつの金棒。痛ぇな」

「だったら、無謀に突っ込むなよ。もう少し考えて突っ込めよ」

「いや、考えるだけ無駄だと思ってな」

「聞いた俺がバカだった」

(そうだよな。ユウトは感覚だけで生きるアホだよな)

 今更ながらにして、ユウトの人間性を思いだす。

「さっきとは全然違うな、カズ」

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 フッと口角を上げるカズに、ズィルバーも口角を上げる。

 ズィルバーとカズが笑みを浮かべてるのを見て、カイは今までの人族(ヒューマン)とは違うなにかを感じとる。

「この絶望的な状況の中で笑みを浮かべるか。心がへし折れねぇな」

「絶望?」

「アホ抜かせ」

「絶望や地獄はなんども乗り越えてきた。この状況が絶望的だって言うなら、喰らい尽くしてやるまでよ!!!」

 “闘気”を昂ぶらせて、好戦的になるズィルバー。

「こんなのが絶望なら……」

 カズの脳裏に過ぎるのは惨めな思いをし続けてきた自分の姿。

「とっくに心はへし折れてるわ!!!」

「なめるな。絶望なんて恐るるに足らず!!!」

 威風堂々たる姿勢。なんども傷ついても立ち上がれるだけの強き意志と心も秘めていた。

「親衛隊のガキ。テメエはどうだ?」

「俺? 俺は一度でも、絶望したことなんてないよ。ズィルバーになんども挑み続けるほどのバカだし」

「ユウトが自分でバカって言ったぞ!? 明日にでも、槍が降るんじゃないか?」

「ズィルバー。そこまで言うなよ」

『分かりきってることを一々、口に出さなくてもいい』

 ズィルバーはユウトが自分からバカと認めたことに動揺する。

「だから、自分より格上だから絶望しろとか、諦めろとか言われても、俺は知らないんでね。ここで貴様の首を獲ってやる!!!!」

 絶望すら知らない。絶望に恐れない。

 これほどの強敵はカイにとって初めての経験だった。

「いいだろう。その心。その意志。粉々に打ち砕いてやる!!」

 床に亀裂が走るほどの“闘気”を発し、猛りあげた。

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