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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流~決戦~
116/296

激化し始める戦場。

題名を変えてみました。

感想や意見をお願いします。

 北方の極地。北海にて、北方の未来ないしはライヒ大帝国の未来を決める戦い。

 境界線上での防衛戦。

 “魔王傭兵団”のアジトでの決戦。

 二つの戦いの行く末が少なからず、ライヒ大帝国の歴史に記されることになるだろう。




 北方の防衛戦争が始まったことがライヒ大帝国中に知れ渡った。

 大帝都ヴィネザリアでも、さまざまな声が飛び交っている。

「おい、北部の方で戦争が起きたって――」

「うそでしょう。北部じゃなくて北方といえば、レムア公爵家の領地でしょう?」

「北部の副学園長が“魔王傭兵団”を裏で手引きしていたっていう噂よ」

「えっ!? うそ!?」

「とんでもないことだぞ」

「確か、北部の学園長と副学園長って……」

「当時のレムア公爵家の当主と選挙した上で決まったそうよ」

「噂じゃあ、その学園長も裏で資金を着服して私腹を肥やしていたらしいよ」

 と、さまざまな声が飛び交う中、北部ないしは北方の未来を安否する声も続出している。

「これから北方はどうなるんだ?」

「レムア公爵家もどうなる。五大公爵家の基盤が崩れたら、ライヒ大帝国が荒れてしまうぞ!?」

「そういえば、中央と北部の学園同士で交流会がなかった?」

「何でも、中央からはファーレン公爵家の跡取りが向かったそうだ」

「とすれば、白銀の黄昏シルバリック・リコフォスっていう自警団も――」

「ああ、動いてるかもしれんという話だ」

 大帝都の至るところで北方の安否や学園の将来を危惧していた。


 皇宮クラディウス、帝の間。

 皇帝とガイルズ宰相が椅子に座り、議論をしていた。

「北方が今、荒れております」

「うむ。レムア公爵家の不始末よりも北部の学園長が着服、私腹を肥やし、副学園長も裏で“魔王傭兵団”と手引きしていた。これで学園の長を選定する際、いい機会となった。地方並びに中央の学園全てに忍び込んでる聖霊機関(デ・セカンム)に告げよ。学園長並びに副学園長、講師陣に金を密告していないか調査しろ」

「御意」

 ガイルズ宰相は影に潜ませている部下に告げ口にし、早速、調査に動きだした。

「陛下。北方の統治並び北部の学園の運営はいがかなさいますか?」

「無論、レムア公爵家に一任する。元より、学園となっている居城はレムア公爵家の物。学園の一部として使わせるよう指示したのが余だが、それを外道なる輩に形を変えられただけ。今一度、国の方針を改める機会になったのかもしれん」

「“教団”の一件然り。“魔王傭兵団”、“大食らいの悪魔団”、“獅子盗賊団”の一件然り。国内のうねりが止まることを知らないです」

「偉大なる三神に無礼をそそのかせないよう余たちがしっかりとすべきであろう」

「北方の再建への資金は?」

「レムア公爵家の跡取り(・・・)に回せ」

「カズ様にですか? しかし、彼はまだ子供だと思いますが――」

「構わん。ハルナがいる。さらに言えば、国に忠義する気がない部下がいるそうじゃないか。北方のために力を尽くしてもらえばいい」

「陛下は“彼らを利用すればいい”と仰るのですか?」

 ガイルズ宰相は無殺生なことを言うのかと訊ねれば、皇帝はその通りと言わんばかりに首肯する。

「この国に蔓延る“問題児”や“不良児”などのスラム街は、この国への忠義などないに等しい。ならば、仕えるべき相手を選ばせ、こき使わせておけばいい」

「では、ズィルバー殿たちもですか?」

「うむ。自由にさせておけ」

 皇帝の決定にガイルズ宰相は二の句を告げずに話を進める。

「北部の問題が終わり次第、皇宮に呼ばせますか?」

「時期を置いてからしろ。復興支援を始めてからでよい」

「御意」

 皇帝の決定にガイルズ宰相は席を立ち、帝の間を出た。


 第二帝都、“ティーターン学園”生徒会室にて。

 エリザベス殿下とヒルデとエルダの二人が紅茶を口にしつつ、北方の情勢を話していた。

「北方が荒れ始めたわね」

「父君はどう言っているの?」

「しばらく静観するって話よ」

 エルダの問いかけにエリザベス殿下は手を出さないと口にした。

「現状に北部に介入するのは難しいという判断よ。親衛隊にもその話が流れたわ。今から北部へ隊を動かせても間に合わないっていう話よ」

「でも、北方にはズィルバーやティア殿下、皆が行ってるのよ」

「なんとか連れ戻すことはできないの?」

聖霊機関(デ・セカンム)から得られた情報によると、北部の学園の副学園長が“魔王傭兵団”の裏で手引きをして、ズィルバーくんとカズくんたちを一網打尽に動いたそうよ」

「それって、つまり――」

「テロを起こしたらしく、ズィルバーくんたちは“魔王傭兵団”と敵対することになった。情報によれば、北部の学園長と副学園長は既に死亡。学園長に至っては皇家やレムア公爵家の目を盗んで、金の横領、着服し、私腹を肥やしていたのが判明されたわ。副学園長もそのおこぼれを頂戴してたそうよ」

「まずくない。それ……」

「ただでさえ、傭兵団との戦争している中、学園長と副学園長が私腹を肥やしてたのが明るみにされたら――」

「国民の間で反発が起きるでしょうね。でも、ズィルバーくんとカズくんたちが傭兵団を追っ払えば、北部全体の統治がレムア公爵家一本に落ち着く。どうやら、終わり次第、北部の復興並びに学園の統治権をレムア公爵家に預ける方針を示した」

「終わり次第って、ズィルバーたちが勝利するみたいに聞こえるけど――」

「そうらしいよ。聞くところによると、皇宮の地下に空洞があるじゃない」

「幼い頃、あなたと一緒に遊びに行った際、迷い子になった祭、見つけたのよね」

「実は私たちが発見した地下空洞の下に、さらに大きい空洞があって、床には魔法陣が掘られていたそうよ」

「魔法陣!?」

「私たちが見つけた場所よりも下に地下空洞があったの!?」

 ヒルデとエルダは皇宮の地下に空洞があり、その下にも空洞があったのを初めて知った。

 しかも、床に魔法陣が掘られていたのを初めて知った。

「床に魔法陣が掘られていたのを発見され、私たちが見つけた空洞の床を見れば、魔法陣が掘られていたのが発見されたの」

「魔法陣はいつからあるのか知ってるの?」

「現在、専門家に調査しているところだけど……大きい空洞の床に掘られてた()()()()()()()()()()()()そうよ」

「一部が?」

 疑問符を浮かべるエルダにエリザベス殿下は頷いた。

「専門家も最初は驚いたけど、方角的に北の方に掘られた魔法陣が光りだしたことを踏まえると時期的に見て――」

「北の方でなにかが起きたと推察できる。ハルナっていうより、カズくん自身になにか大きな変化が起きたかもしれない」

「なにかってなにが――」

「さあ、そこまでは私も」

 ヒルデの問い返しにエリザベス殿下は首を横に振る。

「一つだけ言えるとしたら、ズィルバーくんが“地下迷宮”を攻略したときから変化が訪れたと思う」

「……変化」

「そうでもなければ、立て続けに、これほどの事件が起きないわ」

「確かに言われてみれば、ズィルバーの名が世間に広まったあたりから国内に波紋を引き起こした。ノウェムたち然り。“獅子盗賊団”、“大食らいの悪魔団”、“魔王傭兵団”との抗争――」

「――そして、北部の防衛戦争。全てがズィルバーを中心に波紋が大きくなっている。でも、北部に関しては」

「カズくんが波紋を起こしてるのも間違えない。カズくんたちも彼らで傭兵団と何回か交えてるそうだし。一概には言えないけど、ここまで変化が大きくなったのは間違えなく、ズィルバーくんね」

 エリザベス殿下は変化の中心がズィルバーだと確信した。

「変な意味で目立っちゃったね」

「それでも、ズィルバーは自慢の弟だけど」

 ヒルデとエルダは苦笑するけど、自慢の弟であることは間違えない。

「北部の結果次第で、国内だけじゃなく、学園の情勢も少しだけ傾くと思う。とりあえず、彼らが勝利することを祈りましょう」

「そうだね」

「うん」

 エリザベス殿下、ヒルデ、エルダの三人は北部の防衛戦争の行く末を祈った。




 “魔王傭兵団”アジト全域で白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフと“魔王傭兵団”と戦争が白熱していく。

 アジト内を走ってるヤマトとカルネスの二人。しかし、彼女たちの行く手を阻む団員たち。

「ヤマト様。ようやく、帰ってきたんですか!」

 団員の一人がヤマトの帰還に大いに喜んでいるけども、肝心のヤマトはというと。

「帰ってきた? 冗談じゃない。僕は黄昏の一人。ズィルバーの部下だ!」

 金棒を振るい、団員を一掃する。

 死屍累々と倒れ伏す団員を尻目にヤマトとカルネスは走りだす。

 カルネスは無様に倒れ伏す傭兵団の団員を見て、ふと、疑問に思ったことがあった。

「ヤマト先輩はここのことを詳しいんですね」

「僕やムサシ、コジロウはここで生まれ育ったんだ。あのクソ親父の子供としてね」

「不満に思わないんですか? 委員長が父親をぶっ飛ばしても?」

「僕の方がぶっ飛ばしたいぐらいだ。ついでに言えば、モンドスの野郎にも……」

「モンドスと言いますと……武術基礎を指南なさるモンドス先生ですか?」

「そうだ。僕もノウェムもカナメも“ゲフェーアリヒ”に皆がモンドスを恨んでいるんだ」

 ヤマトは走りながら、モンドス講師への悪態を吐いた。

「“ゲフェーアリヒ”。去年、風紀委員本部の前にあったという“問題児”のたまり場」

「たまり場なんてものじゃない。収容所だ。自由なんてありはしない。“強者こそ正義”っていう戒律があったぐらいなものだぞ」

「つまり、モンドス先生は先輩方をそこに押し込めたというわけですか。学園も黙認していたとわりかし、学園も屑ですね」

 カルネスは平然と毒を吐く。

「僕はキミの方がわりかし、ひどいと思うけど」

「ひどくて悪いことないじゃないですか。私は国に忠義する義理立てなんてありません」

「それは僕も言えてるけど……キミって、本当に一年?」

「はい。一年です」

 ニコッと微笑むカルネスにヤマトは思わず、息を呑んだ。

 走っていると、向こうから誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

「先輩」

「分かってる」

 二人は壁際に隠れ、息を潜める。

「おい、血の師団ブラッディー・メイソンからの支援はどうなった!?」

「カイ様から聞いたが、手を切られたって話だ」

「冗談じゃねぇぞ。今回の取引(・・・・・)はどうなるってんだ!?」

 声を怒鳴り合う団員の話を聞くヤマトとカルネス。二人は未だに動かずにいた。

「おい、何をしてる!? 今、黄昏と狼のガキ共の始末に行くぞ!!」

 別の団員の怒鳴り声が聞こえたところで、ヤマトとカルネスは頷き合って、金棒と槍を振るい、団員を一掃した。

 一掃した後、二人は団員が出てきた方向へ走りだす。

「ヤマト先輩。この先は知っていますか?」

「いや、知らない。僕が興味本位で行こうとしてもクソ親父に殴られて通してもらえなかったんだ」

「ということはこの先に知られてはいけないものがあるというわけですね」

「僕もそう思う。周囲の警戒を忘れるな」

「はい!」

 ヤマトとカルネスは団員が出てきた方向へ走り続けた。


 その頃、屋上ではズィルバーとカズがカイと激闘を繰り広げていた。

「ギョロ!」

「はっ!」

 “闘気”を纏わせた剣と金棒がバリバリと激突する。

 巻き起こる爆風が吹雪を荒れ狂い、髪を靡かせながらズィルバーはカイの攻撃を正面から受け流す。

 カイは一歩下がって片手で金棒を振り上げた。

「“雷鳴撃墜”ッ!!」

 雷が迸る金棒が迫り来る。前回と違う点はそこにリンネンという婆さん()がいたから回避という考えに至らなかっただけ。今なら――。

(余裕をもって回避――ッ!!?)

 しかし、ここで“静の闘気”を使ったことで理解した。

(疾い!?)

 迫り来る金棒の速さに驚愕しつつも、後ろから走ってくる気配に気がつく。

「退け! ズィルバー!!」

 カズは槍で突きの構えをする。

「“一閃突き”ッ!!」

 槍による突き技。ズィルバーは転がるように前屈みで金棒を躱し、代わりに金棒と槍が激突。

 激突した衝撃がバリバリと衝撃波をもたらす。

 強烈な衝撃が豪雪と塵を巻き上げ、穴から雨のように塵が降り落ちてくる。

 それは階下にいるティア殿下たちが思わず、悪態をつきたくなるほどのものだった。

「全く、どう戦えば、塵が落ちてくるのよ」

「激しすぎよ」

 悪態をつくティア殿下とハルナ殿下の二人。しかし、センは値踏みするかの如く、彼女たちを睨みつける。

「なに? 睨みつけて……」

「少女を集めるのが趣味なの?」

 二人ともギロリと睨まれたら、ギロッと睨み返してくる。

「いや、ガキ共の親玉があの程度の強さだと思ってな」

「あの程度? 悪いけど、あの程度のズィルバーに逃げおおせたのはどちらかしら?」

「人様の縄張りを勝手に占領して、いびり散らしてる人たちに言われたくないわね。カズの強さはあの程度じゃないわよ」

 ティア殿下とハルナ殿下も負けじとセンに挑発する。

「口を減らないガキだな。だが、カイさんの力はあの程度ではない。あの人は()()()()()()()()

 センが言った最後の言葉。カイは鬼――鬼族(デモンズ)ではないという言葉――。

(どういうことなの)

 と、怪訝そうな眼差しを向けるティア殿下。

 屋上では、手傷を負わずにいるズィルバーとカズ。カイは二人をただのガキではないと判断したのか。

 変化が起きた。鋭き爪と牙が生え、獣の尾が生えてきた。鬼族(デモンズ)特有の角が三股の角に変化し、さらに二つの角が生えた。

 合計四本の角が生え、胴体が長くなったのと同時に鱗が出てきた。顔も人の顔から生物特有の顔へと変貌した。

 身体が徐々に大きくなっていく中、ズィルバーはカイの種族を本当の意味で理解した。

「ま、まさか……」

「ズィルバー……これって……」

 ゴクッと生唾を呑む彼もそうだが、カズも人が別の生き物になるのを初めて見た顔をする。

 しかも、()()()()()()となれば、驚きを露わにするのは必然だ。

「龍、だと――」

「……実在、するのか」

 動揺というよりも驚愕する二人。だが、ズィルバーはようやくとなって、カイの種族を知る。

「うそだろう。まだ()()()()()()のか」

「えっ?」

(生存?)

 カズは訝しげに疑問符を浮かべる。

竜人族(ドラグイッシュ)――」

竜人族(ドラグイッシュ)?」

 ズィルバーが発した言葉に武器の姿にしてるレインとレンすらも驚愕し、驚きの思念が使い手に流れ込んでくる。

(レン?)

「どうしたんだ?」

 カズは訝しげにレンに話しかける。

『絶滅されたとされる種族よ』

(絶滅?)

 カズは脳裏に語りかけてくるレンの話を聞く。

竜人族(ドラグイッシュ)獣族(アンスロ)の一つ。世界で最も気高い種族だった』

(だった。それが絶滅したのと関係あるのか?)

 カズは好奇心でレンに訊ねる。

()()()()()()()()()()()()()

「えっ?」

(迫害?)

 カズは前にレインから精霊も迫害の歴史があると教えてもらった。

『もちろん、この国の一部も迫害をしていたっていう話よ。千年前、メラン、リヒト様、レイ様、ヘルト様、この国において、伝説の大英雄は異種族を囲い込み、永住できるだけの場所と食糧を与えたのは正しい。それは、この国の歴史にも、国民の誰もが認めた話のはずよ』

 レンの話に関してはカズも知っている。むしろ、[女神レイ]の逸話が偉大すぎて、精霊に対する敬意を持ち始めたのが記憶に新しい。

『でも、精霊や異種族が迫害されたのは事実よ。人間は“()()()()()()” だと豪語する人たちがいたから』

(選ばれし種族?)

 カズは迫害の話になぜ、人族(ヒューマン)が選ばれた種族なのかが分からない。

 分からないけど、彼自身が思ったことがある。

(僕はズィルバーがすごいと思う。ズィルバーのところにはいろんな種族が堂々としていることだ。僕は人間が選ばれた意味が分からない。僕には彼らの方が一番優れていると思うんだけど――)

 ヤマトやノウェムらは自分とは違った強みを生かしている。だからこそ、すごいとカズ自身は思った。

 彼の想念はレンに伝わってくる。

『その考えは正しいわ』

 彼女もカズの考えを、想いを否定しない。

 だけど、ズィルバーの口から漏れた言葉にカズは目を見開いた。

「闇堕ちしたのか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ!!」

(闇堕ち――まさか……)

 カズは迫害になったきっかけを知った。

「ズィルバー!? “闇堕ち”ってなんだ!?」

「この世界の種族。全員に共通することだが、怒りと憎しみに心が支配され、一度でも世界を呪ってやると抱いたとき、全身が褐色し、()()へと転位する」

「魔族……」

「それが迫害の歴史の始まりだが、今は目の前のことに集中しろ!」

 ズィルバーはカズに発破を掛ける。

「先に言っておくが、魔族(ゾロスタ)になったばかりだと、()()()()()()()()()()()()()()()!」

「マジか!!?」

『本当よ。一度、魔族(ゾロスタ)へと成り下がったら、凶暴な獣と一緒よ。気を抜くとすぐに死ぬよ』

 レンにも言われて、カズは一気に集中力を高める。


 ズィルバーは龍になっていくカイを見るも、龍の形態から、どこの出身なのか理解できた。

「レイン。あの龍の形態は確か……極東の方にいた竜人族(ドラグイッシュ)だよな」

『ええ、極東の方にいる竜人族(ドラグイッシュ)よ。まさか、かの種族がまだ生きてなんて夢にも思わなかった』

「俺もだよ」

 タラリと冷や汗を流すズィルバー。

 彼は千年前、闇堕ちしたばかりの魔族(ゾロスタ)を相手にし、この手で殺したことがある。

 あの時も凶暴な獣かの如く、猛威を振るわれ、一個小隊が全滅させたのを忘れもしなかった。

(相手にするのはキツいな。女状態で勝てるほど甘くないからな。かといって、男状態で挑めば致命傷は避けられない。気が抜けない殺し合いになってしまったものだ)

 彼は思わず、胸中で悪態をついてしまった。

 龍へと変貌したカイは宙へと舞い上がる。

「ギョロロロロロ……テメエらをガキとしては見ねぇ。代わりに強敵として殺してやるぜ」

 ギロリと瞳がズィルバーとカズを睨んでくる。

 強烈な敵意、殺気がズィルバーとカズに重くのしかかってくる中、二人は思わず――

「「…………」」

 ニヤリと笑みを零した。

「なぜ、笑う」

 カイは怪訝そうにズィルバーとカズを見る。

「いや、凶暴な龍を斬れる機会なんて早々にないから。つい、嬉しくなってね」

「僕としては龍でも倒せば、一気に箔がつきそうだなって思っただけ。踏み台になってもらうよ!!」

 重くのしかかる殺気に勝るとも劣らずな“闘気”を滲み出る二人にカイは

「抜かせ」

 嘲笑した。


 嘲笑せしカイ。上体を反らす。いや、胴体が伸びていく。

「“鎌鼬”」

 咆吼を上げれば、無数の風の刃がズィルバーとカズに襲いかかった。なにもかも斬り裂くかの如く、襲いかかる風の刃をズィルバーとカズは剣と槍だけで弾いた。

 本来なら、二人は学園の二年生。つまり、剣術、槍術だけじゃなく、魔法も習っているはずだが、ここに来るまでに一度も魔法を使用していない。その理由は彼らの言動にある。

「いくら、俺たちが魔法を使用しても、あいつの皮膚に傷一つできないだろう」

「奴の皮膚の硬さも種族的なのか?」

竜人族(ドラグイッシュ)は“竜化”をする際、図体がデカくなるだけじゃなく、能力が飛躍的に上昇する」

「一般の子供だったら、魔物に勝てないと同じ理屈だね」

「そのため、魔力、“闘気”を無駄に消耗するより、武器に纏わせて直接斬った方が効率がいい!」

 ズィルバーは無数に飛び交う風の刃を子供の身体だったのが幸いし、軽々と躱していき、龍になったカイの眼前まで跳躍する。跳躍した際、左手にバリバリと“動の闘気”をより大きく纏わせる。

 カイも眼前にズィルバーが現れたことに驚くも彼は左拳で龍の頬に殴りつける。

「“我流”・“帝剣流”――“一骨豪蓮突き”!!!」

 僅かながらも血を吐きながら殴り飛ばされるカイ。

 雪原の上を走るカズ。彼も跳躍して、バリバリと“動の闘気”を左脚に大きく纏わせる。

 クルリと宙返りをしてから龍の顎に踵落としを叩き込む。

「ぐおおお!!?」

 呻き声を上げるカイ。さらに血を吐き、屋上の床が放射状に亀裂が入る。カズはそのまま走りだし、胴体へ駆ける。

 カイは体勢を立て直し、ズィルバーに視線を合わせ、ガブリと噛みつこうとするも彼の脚の速さに追いつくことはなく空を切る。

 聖剣(クラウ・ソラス)の加護――神速(ラヴィテス)の前では誰も捉えることはできない。

「龍の腸なんざ見たことないが。痛いんだろう」

 剣にバリバリと“動の闘気”を纏わせる。

「“我流”・“帝剣流”――“一骨豪剣突き”!!!」

 “闘気”を纏わせた剣の刃が龍の腸に深々と刺さる。

 腸に深々と突き刺さる強烈な痛みに呻き声を上げるカイ。

 ズィルバーは剣を抜いて、屋上に鎮座する岩へと駆けだす。カズは龍の胴体を走り、ズィルバーが突き刺した部分の正反対な場所へ来た。

「図体がデカい分、的が絞りやすい!! “雷鳴一閃突き”!!!」

 バリバリと“動の闘気”を纏わせた槍の穂先が竜鱗ごと肉を突き刺す。

「ギョオオオオ!!?」

 呻くカイだが、髭を操り、カズに纏わり付き、ブンッと岩に叩きつけた。

 吹雪が吹雪く空に立ち上る土煙。

 カイは土煙を睨む。いや、土煙の中にいるカズを睨みつける。

「こざかしい……!!! 俺の学習済みか!! ただの根性バカなガキ共じゃあなさそうだな……!!!」

 カイは髭を戻そうとするも髭がピンと伸びたかのように引っ張られる。視線を土煙の中に転じれば、カズが髭を掴んでいた。

 カズはギリッと歯を食いしばる。

「痛いじゃないか!!!」

 子供の膂力からは想像もつかない力を発揮し、十メル越えの龍を投げ飛ばした。

「……」

 これには、ズィルバーも唖然としていた。

(カズって、あんなに怪力(・・)だったか?)

『人のことを言えた義理。あんただって、()()()()()()()()()()()

(地味に効くから止めて……)

 ズィルバーは自分が怪力なのを認めざるを得なかった。

 瓦礫をどかしつつ、カイはカズを睨みつける。

「ガキのくせになんて怪力をしていやがる。テメエ、人間か?」

「人間だよ。ただし、精霊と契約した人間だけどね」

 神槍(ブリューナク)を手にするカズ。彼は思わず、笑みを浮かべる。その笑みが不敵に思われ、カイの怒気をさらに増長させるきっかけとなった。

「しかも、こいつら想像以上に……」

(強い……)

 カイは口を開き、魔力が充填していく。ズィルバーは“静の闘気”による先読みでカイがブレスを吐くのを読む。

(全てを焼き尽くす……灼熱の炎……!!?)

「カズ。しゃがむか横に跳べ!」

「分かった!」

 カズは横へ跳躍した。

「“煉獄火炎(フェーゲフランメ)”!!!」

 カイの口から放たれたブレス。高熱を発しており、全てを焼き尽くす灼熱の炎を吐いた。

 迫り来る炎の息吹を前にズィルバーは聖剣(クラウ・ソラス)を強く握る。

「“我流”・“神剣流”――四ノ型“焔斬り”!!!」

 剣で両断するように振るえば、炎の息吹が真っ二つに両断された。

 ズィルバーが炎の両断したのを見たカズ。

(あいつ……あんな芸当ができるのか!?)

 驚きを露わにしている中、レンは槍越しに今までの技に違和感を覚える。

(今の技は……)

 違和感はあるも可能性でしかなく、確証を得られなかった。

 ズィルバーはその場で高く跳躍する。

『“我流”・“帝剣流”――』

 剣に“動の闘気”を流し込めば、目映い閃光が輝きだす。

 カイは目映い閃光に目が眩む中、ゾクッと身の毛がよだつ感覚に襲う。

(なんだ!? この感覚……避けなきゃ、まずい……)

「“飛竜”――“一閃”!!!」

 巨大な斬撃がカイへと襲いかかる。しかし、カイはすんでの所で回避し、斬撃を受けずに済んだ。

 巨大な斬撃は“魔王傭兵団”アジトの一部を斬り裂く形で彼方へと消えていく。

「くそ……外した!!」

 ズィルバーは技が当たらなかったことを嘆く。

「いや、外したんじゃない……」

(躱された。それほどまでにズィルバーの剣が怖いのか)

(あれほどの技だったら、いくらの竜人族(ドラグイッシュ)の竜鱗だろうと傷跡ができるわ)

 カズとレンの二人はあのままでは、カイは傷を負っていたと悟った。

「チッ……!!」

 舌打ちするズィルバーに龍の髭が絡みつく。

 どうやら、カイはズィルバーを最重要危険人物と断定し、真っ先に始末に動いた。

 髭に絡みついたズィルバーを岩に叩きつけたカイ。

 カズは雪原を蹴って、カイへ近づき、バリバリと“動の闘気”を纏わせた左脚がカイの右頬に叩き込む。

「“爆裂蓮脚”!!!」

 蹴りの殴打がカイの左頬を中心に叩き込まれる。

 メリメリとめり込まれていくカズの蹴り。彼の蹴りを受ける度にカイの口からは吐き出てしまう。

 雪原の上に滴り落ちる血で紅く染まる。

 雄叫びを上げ、カズは蹴りを叩き込み続ける。強烈な痛みがカイに押し寄せてくる。最後の一撃に踵落としを叩き込んだことで、アジト全体に地響きが発生した。

 ガラガラと瓦礫に埋もれるカイを横目にカズはズィルバーに声をかける。

「生きてるよな?」

「誰にものを言ってる」

 ドゴン! とはじけ飛ぶ音がした。ズィルバーは自分に埋もれた瓦礫を剣で弾き飛ばした。

 瓦礫をどかしながら、カイを見る。

「カズ。キミがやったのか?」

「ああ、蹴りだけどな」

「蹴りだけでも大したものだ」

 ズィルバーは瓦礫をどかした際の土煙を剣で払って吹き飛ばす。

(カズの体術は蹴り主体かもな。槍で戦うスタイルだから。自ずと拳じゃなく、足技主体になったのだろう)

 ズィルバーはカズの戦闘スタイルを分析し、カズの脚力が同年代の中では上から数えた方がいい部類だと分析した。

 カイの微かな動きに二人はすぐに勘付いた。

「来るぞ」

「ああ」

 構えはせず、自然体に構える。余分な力を抜いて悠然といる姿勢でいるも“闘気”だけは満ち溢れていた。

 カイは起き上がる。起き上がって早々にズィルバーとカズを睨みつけた。

「ガキ共……」

 カイは天高くとぐろを巻いた。

 巻いた蜷局が解き放たれた。胴体が巻かれた際、風の乱気流が発生し、吹雪き続ける寒空に渦が発生した。

「“竜巻”!!!」

 天から巻き起こす災害――竜巻。豪雪と伴って、大気状態を荒れ狂わせた。

「おいおい、マジか!!?」

「竜巻を起こしやがった!!」

 荒れ狂う乱気流に加えて、雪原という足場の悪い環境。雪に足を滑らせたカズは風に乗って、宙高く舞い上がる。

「しまった!?」

(風のせいでうまく体勢がとれん)

 乱気流に流されるカズにカイは近づき、バクンとカズを食べてしまう。

 ズィルバーはカズがかいに喰われて、ビキッと額に青筋を浮かべる。

「おい、カイ! 貴様、俺のダチ(・・)に手を出すんじゃねぇ!!」

 聖剣(クラウ・ソラス)に“闘気”が流し込み、目映い光を放ちながら、構える。

 しかも、けんからほとばしるひかりが次第に龍の形へと変貌していく。

 カイは剣の光を見て、力の異様さを感じとる。

(あの剣か。異様な力の正体は!!)

「“聖旋風大龍巻ホーリー・エアロサイクロン”!!!」

 聖剣(クラウ・ソラス)を振るえば、カイが放った“竜巻”を上回る大龍巻を発生させる。

 発生した大龍巻はなにもかも斬り裂く斬撃が飛び交っている。飛び交う斬撃がカイの竜鱗を斬った。

 斬られた痛みでカイは呻き声を上げれば、血を吐く。

 血が吐いたのと同時にポロッとカズが吐き出された。

 カイは痛みで目が充血しながらも怒りを露わにする。

「あぁ、効くぜ。そうか……あれが伝説の“精霊剣”だな……!?」

 カイは再び、とぐろを巻く。

「“竜巻”で俺に挑むとは。ギョロロロロロロ!!」

 撒かれた蜷局が渦巻き、咆吼を上げる。

「“大鎌鼬”!!!」

 無差別に飛び交う風の刃がズィルバーとカズに襲いかかる。

 迫り来る無数の風の刃。カズは体勢を立て直し、ズィルバーは剣を強く握る。

「“大車輪”!!」

「“剣舞(つるぎのまい)”!!」

 カズは槍を巧みに回し、ズィルバーは斬撃を飛ばして、風の刃をいなし、相殺していく。


 しかし、屋上での激戦は瓦礫と雪の塊が階下に落ちていく。

 それどころか、他のフロアの天井にも影響を及ぼしている。天井に微かな亀裂が入り、亀裂から塵が落ちてきている。

 “魔王傭兵団”アジト。集会するための大フロアでは、傭兵団の団員と黄昏と狼の連合軍が正面衝突している。

 だが、屋上の激戦で天井に微かな亀裂。亀裂から落ちる塵が階下で戦っている者たちに何らかの悪影響を及ぼしていた。

 特に大穴がある階下で戦ってるティア殿下たちにはもろに影響を与えていた。

「ったく、どんな戦いをしているのよ!!」

 悪態をつくティア殿下。

「瓦礫と雪の塊が雨のように落ち続けてる」

 ハルナ殿下は上を見上げて、降り落ちてくる瓦礫と雪の塊を見ていた。

「派手にやってるわね、ズィルバー」

「下手したら天井壊れねぇか」

 鎧甲冑を着込むセルケトと相対してるナルスリーとシューテル。二人も屋上から降り落ちてくる瓦礫と雪の塊に状況の危険性を推移している。

「オラァァ!!」

「フンッ!!」

 カインズが振るう鎌とザルクの豪腕が衝突する。

 ギリギリと刃と皮膚がぶつかり合っている。カインズは腕を切断しようとしているけど、硬い皮膚と筋肉に阻まれ、切れ込みすら入っていない。

「ダンストン!!」

「うっす!!」

 筋肉の塊に等しき、ダンストンのタックルがザルクに激突する。

 タックルを激突させ、押し切る力を利用して鎌の刃で腕を切断しようとするも、一行に刃が進んでいる気がしなかった。

「硬ぇな」

 カインズは思わず、ザルクの皮膚の硬さに悪態をつく。

 だが、ザルクは鎌ではなく、カインズ自身を見ている。彼は気づいていた。

「その程度の“闘気”で、この腕を切断できると思うな!!」

 力で押し切り、弾き飛ばされるカインズ。弾き飛ばされたカインズは壁に叩きつけられ、めり込んでいた。

 次にダンストンに振り返る。

「腰に力が入っていないタックルなんぞ。俺を吹っ飛ばせねぇぞ!!」

 ザルクはダンストンの頭を掴み、一度、身体を持ち上げてから床に叩きつけた。

 床にめり込むダンストン。これでカインズとダンストンが脱落したかと思いきや、壁を砕いて床に降り立ったカインズ。床にめり込み、力で立ち上がってきたダンストン。

 少々、怪我はしたもののゴキゴキと首を鳴らした。

「効いたぜ」

 “動の闘気”を鎌に纏わせたカインズ。

「ダンストン。目が覚めたか(・・・・・)?」

「うっす」

 全身を“動の闘気”で纏わせたダンストン。

 ザルクは“闘気”やら雰囲気やらで大きく変化してることに気づき、思わず悪態を吐いた。

「いかれたガキ共だ」

 腕と脚に力が入り始めた。


 屋上では“大鎌鼬”によって、見るも無惨な光景になった。

 未だに吹雪き続ける中、土煙が舞う。

 土煙の中で最初の姿に戻っているカイのシルエットだけがズィルバーとカズの目に入る。しかし、所々、変化しているのに気づく。

「なんだ、()()姿()……」

「“形態変化”か」

 土煙の中、カイは棘突き金棒を持ち、笑みを零す。

「楽しいな……!! ギョロロロロロロ!!」


 戦局は少しずつ激しさを増していく。

 防衛軍率いるゲルトらと下っ端団員による決死隊の戦場。

 “魔王傭兵団”アジトの至るところで激戦を繰り広げている黄昏と狼の連合軍と傭兵団。

 裏社会、悪の魔王が落とされるようなことになれば、裏社会の情勢が大きく変わるだろう。

 本来なら、正面から挑んだところで、“大将”にすら辿り着けぬ戦力差。奇襲を成功させた時点で戦況はズィルバーたちに優勢に思える。

 だが、此度の防衛戦において、“大将”の首を獲っても終わることがない。

 ――いわば、総力戦。北方の命運を懸けた逃げ場のない戦争。

 傭兵団には強力な幹部たちがいる。彼らを野放しにすれば、戦力差が広がるのは必至。

 ティア殿下たちが幹部たちを阻止しなければ、北方は“魔王傭兵団”に落とされることは間違えない。

 今、ライヒ大帝国全土が北方の決戦に意識が集中している。

 結果はどうであれ。ライヒ大帝国の歴史に記されるのは必至であった。

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