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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流~決戦~
115/296

開戦。

 ゲルトを率いる防衛軍と傭兵団が睨み合っている。

 しかし、その睨み合いが対照的であった。鋒槍陣という亀陣形を迎え撃つのに対し、傭兵団は陣形すらなっていない並びをしていた。

 ゲルトは未だに攻めてこない傭兵団に違和感を抱く。

「未だに攻めてこぬか」

(向こうの狙いがなんだ? まるで、()()()()()()()()()()()()()攻めてこぬ)

「ゲルト様。敵はこちらの動きを予測しているのでは?」

 家臣の一人がゲルトに進言する。ゲルトもその可能性を考えたのだが、首を横に振る。

「そうであったのなら、それで構わない。我らは待つ者。気長に待つぞ」

「しかし――」

 家臣の言葉にゲルトも彼が言いたいことは十二分に分かっていた。

「言いたいことは分かる。しかし、ズィルバー殿はこうなることを読んでいた」

「ファーレン公爵家の跡取りが、この状況を呼んでいたと!?」

 家臣は信じられない顔を浮かべる。

 ズィルバーが傭兵団が攻めてこないのを予測していた。

「もちろん。自分も最初は“向こうが攻めてこないのなら、こちらが攻めればいいのでは”と進言した」

「そうです!! 向こうから攻めてこないなら、こちらから攻めるべきです!!」

 家臣は今こそ、攻めるときだと叫んだ。

「だが、それこそが罠だと教えられた」

「罠、ですか」

「うむ。ここに来るまで、避難民の凍死体や村の惨状を見て、平常心を保てというのが無理な話だ。我々も攻めて、同じことをすべきだと――」

「そうです。ここまで侮辱されて、我々も看過できません!」

「だが、ズィルバー殿は“そんなことをすれば、野蛮な傭兵団(連中)と同じだ”と諭されてしまった」

「なっ!?」

 僅か、十代の子供に諭されたゲルトに家臣は絶句する。

「我らは誇り高きライヒ大帝国の一人。そして、屈強な北方の戦士の一人。ゲスな行為をして辱めてはならぬ。と説かされた」

「この国には[三神]の加護があるとでも?」

「少なくとも、あの少年はそう思っている。でなければ、あのように諭されるのもおかしいことだ」

「カズ様もそうですが、ズィルバー様の考えはどうかしています」

 家臣は二人の少年に忌避感を持つ。

「ゲルト様の前で申し訳ないと思いますが、カズ様はどこか、我々と違います」

「…………」

 ゲルトは口を閉ざして、彼の話を聞く。

「普通に考えて、まだ、幼いカズ様が戦場に出るのがおかしいのです! いえ、カズ様だけではありません。ハルナ殿下、ティア殿下。ご友人が戦場に出るのがおかしいのです!」

 声を荒げ、家臣の言葉にゲルトは聞き続ける。

「なぜ、学園の生徒(彼ら)が戦場に出なければならなければならないのですか!」

 ゲルトに詰問する家臣にゲルトは口を開いた。

「お前の言ってることは正しい。自分もカズやズィルバー殿たちを戦場に立たせるのはどうかしていると思う」

「でしたら……」

「だが――」

 ゲルトは家臣の言動を止め、自分の意見を口にする。

「カズは今、自分で北方をなんとかしようとしている。守ろうとしている。俺にはできなかった事を成し遂げた。カズの想いを無碍にはできん」

「ゲルト様。戦場は情を持ち込むのは危険です」

「確かにな。だが、時には感情があるからこそ、人は強くなる」

「それはゲルト様の持論です!」

「そうとも言い切れん。カズには、伝説の初代様を重ねてしまう」

 ゲルトはカズを先祖――メランと重ねた。

「初代様と言いますと、レムア公爵家初代当主のことですか?」

「うむ。初代様はカズのようにストイックな御方だったと聞く。そして、屈強な北方へ導いた御方」

「現代に続く北方の基盤を作られた御方と聞いております。しかし、なぜ、カズ様と重なるのです?」

「さあな。俺にも分からん。だが、カズは俺にはできなかったことを成し遂げた。もしかしたら、初代様が言い残した。()()()()()()()()()()()

 “来たるべき時”。その言葉に首を傾げ、思わず聞き返そうとしたところで、伝令の連絡が入った。

「報告。傭兵団が進軍してきました」

「そうか」

 ゲルトは息を吐いて、声を高らかにあげた。

「奴らが近づくまで引き寄せろ!」

 押し寄せる傭兵団の団員。その姿は決死隊。魔法陣が迸り、身の内が焼かれながらも団員たちは押し進んでいく。

「まだ撃つな。引き寄せろ」

 ゲルトは時を見計らっている。獲物を来るのをジワジワと待っている。団員たちがラインを超えたのを見計らって――

「放て!!」

 反撃命令を出した。

 いよいよ、北方を巡る“魔王傭兵団”と北方の防衛軍との戦争が始まった。




 戦争が始まったのをズィルバーとカズは気づいた。

 二人とも“静の闘気”によって勘付いた。

 左右の山脈を越えて、挟撃を仕掛ける二人の部隊が山脈を越えて、北海側の雪原に足を付けたタイミングで戦争が始まったのを勘付いた。

「傭兵団の決死隊と防衛軍が正面から衝突した」

「ここからでもわかるの?」

 ティア殿下は今、自分たちがいる位置から戦場となった場所の動きを感じとれたのか訊ねる。

「ティアだって、“静の闘気”を鍛えてるんだろう? 僅かでも“闘気”の揺らぎに気づけるか?」

「薄らとだけど……」

 彼女は微かな“闘気”の揺らぎを感じとれていた。

「僅かでも感じとれているのなら、それでいい。急ぐぞ。敵の本拠地ももうすぐだ」

 吹き荒ぶ寒波の中、ズィルバーたちは前へ進んでいく。

 カズたちも同じであった。カズも防衛軍と傭兵団がぶつかったのを感じとり、防衛軍の方に視線を転じた。

「……父さん」

「カズ、どうした?」

 カインズが足を止めたカズに声をかける。

「どうやら、ぶつかったようだ。傭兵団が攻め込んできた」

 カズの言葉に全員のの緊張感が一気に上昇する。

「状況は分かる?」

 ハルナ殿下はおそるおそる聞いてみる。カズは目を閉じ、気配を探り、戦況を見る。

「ズィルバーが考えた陣形のまま、父さんたちが傭兵団を迎え撃ってる」

 彼は目を開けて、皆に状況を教えた。

「ハルナたちも感じとれるじゃないのか?」

「薄らと、だけよ。カズのように感じとれない」

 ハルナはカズのように感じとれないと言い返す。カインズたちも同じ口なようで頷いていた。

 しかし、レンからすれば、““闘気”が使えるだけでも優秀よ”と告げる。

「“闘気”は長年の鍛錬で引き出される技術なんだけど、極限状態かつ戦闘のショックで開花することもある。しかも、あなたたちまだ十代なんでしょう。成人にもなっていないのに“闘気”を習得してるだけすごいと思うけど」

「なあ、レン。“闘気”を強くするにはどうすればいいんだ?」

「己自身を鍛え続けるしかない。後は格上と戦い続けるのみよ」

「格上ですか?」

「“闘気”は極限状態において、さらに開花する。こういう話を聞かない。“人は戦う度に強くなる”って話……」

 レンのトンデモ理論にカズたちは呆気にとられる。彼女もそうなると見越した上で話を続ける。

「胡散臭い話だと思うけど、事実なのよ。伝説を残した英雄たちは常に戦い続けた歴史がある。逆に言えば、理由はどうであれ。戦い続けたことで伝説を残したとも取れる。カズ。あなたは北方を守りたい。自分の北方に仇をなす敵だけを潰すっていう単純な理由でいい。単純明快な方が楽でしょう。あなたの性格上。そうじゃない?」

 レンに言われて、カズも“確かに”と項垂れる。

「そろそろ、敵の本拠地よ」

「ッ!? お前ら、気合いを入れろよ。ここから先は勝つか負けるかの片道切符。勝てば、北方は僕らの物。負ければ、北方は傭兵団の物になる。それだけは忘れるな。行くぞ!」

『オォーー!!』

 カズの掛け声に全員、小声だけど、声をあげ、前進した。




 “魔王傭兵団”の本拠地では先遣隊ならぬ決死隊が防衛軍と衝突したとの団員の一人から報告された。

 しかし、団員からの報告に不可解な情報を耳に入る。

「なに? 白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフのガキ共が見かけねぇだと?」

「はい! 現在、数名派遣し、山脈の方を見張っています」

 団員は山脈の方に先遣隊を派遣したと報告する。

「しかし、派遣した先遣隊からの報告が来ていません!」

「カイ様! このタイミングで北海の天候が悪化。吹雪で視界不良に陥っています」

「なんだと!? ふざけやがって……よりにもよって大寒波だとは……」

 拳を強く握り、握っていた酒瓶を握り潰した。

「カイさん」

「なんだ、セン」

 カイが応じた人物。漆黒の翼が生えた一メル以上の大男――セン。

 “魔王傭兵団”の大幹部――三災厄王の一人。なにもかも焼き尽くす悪行から“炎王”という二つ名が付けられた。

「俺たちを支援援助してる血の師団ブラッディー・メイソンから援助は来ないのか?」

「あ゛ぁ゛!? あんな奴ら。とっくに手を切りやがったんだよ!! クソ。俺たちのことを舐め腐りやがって」

 カイは酒樽を手に取り、酒を飲み干すも気分が悪くなる一方。立て続けに起こる不運にカイの心境は煮えくりかえっていた。

 と、その時――。


 ドゴォォオオオオーーーーンッ!!!!


 爆発音と震動が押し寄せてきた。

「何事だぁ!!?」

 声を荒立たせるカイに団員の一人が報告に来た。

「カイ様! アジトの左右から襲撃! 襲撃者は白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフです!!」

 団員からの報告にカイを含め、幹部たちに動揺が走る。

 次々に入ってくる団員たちから報告が鳴り止まなかった。

「カイ様! 正面出入口から白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフが押し寄せてきました!」

「三方向から攻められて、とても対処できません!?」

「しかも、()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()!!」

 一人の団員からの報告にズィルバーとカズの姿を確認されていないのを知るカイたち。

「カイさん」

 センがカイに指示を仰げば、彼は声を大にして叫ぶかの如く、命じた。

「迎え撃て!! 誰の城に攻め込んできたのか、思い知らせてやれ!!」

『はい!!』

 団員、幹部が一斉にカイがいる大部屋をあとにしたが、センを含む“三災厄王”だけは大部屋に残り続けた。

 しかし、()()()()()()()()()()()()()ことにカイは苛立たせた。

 その苛立ちはカイから凄まじき“闘気”となって、大部屋の壁に亀裂を入れさせる。でも、それが、()()()()()()()()行為となってしまった。

 そして――


 ドゴォォオオオオーーン


 カイの背後、大部屋の壁が壊され、壁の向こうから複数の気配が押し寄せてきた。

 いきなりの強襲に驚きが走るカイも“三災厄王”の三人。

白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフのガキ共!!!」

「どこから来たァ!?」

「報告受けてねぇぞ!!!」

 動揺する“三災厄王”の三人。しかし、センは腰に携えた剣を抜き、カイへ押し寄せるズィルバーとカズの二人に斬りかかろうとする。

 だが、彼の剣を阻むはティア殿下とハルナ殿下の二人。

 カイは自分に押し寄せてくるズィルバーの顔を見る。

「ん!? テメエは、あの時のクソガキ!!」

「オラッ!」

 ズィルバーは脚でカイの棘突き金棒を蹴り飛ばし、叫んだ。

「カズ! 行けぇ!!」

 雄叫びを上げるカズ。彼の持つ槍には強烈な“動の闘気”が纏われていた。

 カイは叫ぶ。

「テメエ如きの槍で俺には――」

「北方から出て行け!!!!」

「――ッ!?」

 怒りの形相で吼えるカズにカイは言葉を詰まらせる。

 槍の穂先が狙う場所は心臓。

 心臓一突き。一撃必殺。初撃で決着を付ける腹積もり。胸の内から秘める闘争本能がカズを駆り立たせる。

 槍の穂先が血を吸い出しながら、カイの胸に突き刺さる。

「チッ!?」

 感触だけでカズは悟る。

(浅い)

 ギリッと歯を食いしばるも刹那――激痛が全身に迸る。

 想像だにしない痛みのせいか、カズの視線がブレた。彼の視線が自然に足下に吸い寄せられてしまう。

 違和感の正体が瞳に映し出される。大小様々な石ころ。脇腹にズキズキと痛みが脳髄を走ってくる。

「……殴られたのか」

(槍がカイの胸を刺したのと同時に脇腹に拳を叩き込まされた)

 先の数瞬の合間にあったことをカズは噛み砕きつつ思いだす。

「ギョロロロロロロロロロロロロローーーーーーーー!!!!」

 カイは笑いながら自身の胸に刺された槍を抜いた。しかし、笑ってしまったがために込み上げてきた血の痰を吐いて、口を開いた。

「今の一撃はいいぞ。カズ……」

「ズィルバーの言っていたとおり、硬いな。お前の身体は……」

 プッとカズは血を含んだ唾を吐き、悪態をつく。

「たいしたガキだ。咄嗟に“動の闘気”を脇腹に集中させ、俺の拳を堪えるとはな……」

 頭から垂れ落ちる血を舐め取り、立ち上がるカズ。

「痛いものは痛いんだよ」

 身体の状態を確認した後、身体を慣らし始める。ズィルバーも首を鳴らし、懐に隠れていた小鳥を取り出す。

「しかし、カズもよく耐えたものだ。鬼族(デモンズ)の筋力は魔族(ゾロスタ)の中で最高峰だってのに堪えきるとは恐れ入ったものだよ」

 ズィルバーはカズに賞賛の言葉を述べる。

「よく言うぜ。ズィルバーのガキ。テメエは俺とリンネンと相手にして、悠々としてたテメエが言うんじゃねぇよ」

「ふーん。あっそ」

 ズィルバーは小鳥を愛でながら平然と答えた。

 カズのもとには狼が近づき、彼の毛皮を撫でる。

「ガキ共!! テメエらはなぜ、ここへ来た!!?  ()()()()()なんて面白ぇこと言わねぇよなァ!!」

 カイは笑いあげながら、ズィルバーとカズに問いを投げつける。

「違うな」

 二人の少年は口角を少し上げ、カイの問答を否定する。

「お前も幹部も部下も傭兵団も!! お前ら全員ぶっ飛ばし、北方を追い出すために来たんだ

!! “全面戦争”だ!!」

 カズが高らかに吼えるように宣言したことで、ティア殿下たちも活気がつき、志気が高まっていく。

「ギョロロロロロ!! いい度胸だガキ共!! やってみろ!! 受けて立つぞ!!!!」

 バキバキと“闘気”が荒ぶっていくカイ。

「魔族最強の戦力を見せつけてやる!!!!」

 カイは金棒を手にし、頭上に咆吼を轟かせた。ドゴンと天井に風穴が空き、外界まで風穴が空いていた。

 すると、カイはズィルバーとカズを掴み上げ、外界へ投げ飛ばし、自分は跳躍力で外界へ跳んでいった。


 “魔王傭兵団”アジト屋上――。

 屋上に投げ飛ばされたズィルバーとカズは雪原にめり込んでいた。

 吹雪が吹き荒ぶ屋上に投げ飛ばされ、風圧で体勢が取れなかった二人にレインが旋風を巻き起こして、屋上の雪原に落としてやった。

「痛ぇな」

「レインさんのおかげで助かったな」

「カズ。いつの間にか、“様”から“さん”呼ばわりだな」

「レンが僕の相棒なんだ。相棒以外に様呼ばわりしたら、レンが拗ねるだろう。だったら、さん付けで呼んだ方がいいと思っただけだ」

「ふーん」

 ズィルバーは勝手に納得したところで勘付いた。

「来たぞ」

「ああ」

 二人は立ち上がって、穴の方に視線を転じる。

 途端、穴の方からカイが跳んできて雪原に降り立つ。

「ギョロロロロローー。ガキを相手にここまでいいようにされて腹が立つぜ」

 怒りを吐きつつ、金棒を床に叩きつける。

「殺し合いがしてぇなら、広い方がいい。テメエらの死に場所には相応しい場所だ」

「生憎と俺は死なないよ」

「僕も同じだ」

 ズィルバーは愛でてた小鳥を払えば、純白の剣が握られていた。

 カズは下で撫でていた狼の毛皮に触れながら、詠唱を紡ぐ。

「汝は我が手足なり。我は何時の手足なり」

 紡がれた詠唱に狼が反応し、数の手を中心に細かな粒子が渦を巻いて、一際大きな光を放つと蒼き槍が出現した。

 美しい槍だ。柄は蒼く染まり、穂先は宝石を鏤めたかのように光彩を放っている。

 この極寒の吹雪の中でも、槍は光彩を放ち続ける。

 ズィルバーはカズが持つ槍を見て、懐かしさが込み上げる。

(あの蒼き槍……メランが持っていたライヒ大帝国において、最強の矛。いかなるものを凍りつかせる聖槍――神槍(ブリューナク)

「まさか、もう使えるようになったのか?」

「まだ触り程度だよ。あのカイ(怪物)相手に試すだけだ」

「怖いねぇ」

 戦闘準備が整ったのを知り、カイは笑いあげる。

「面白ぇ。まさか、伝説の精霊剣(・・・)を拝めるなんざ。テメエらを俺の物にしてやるぜ!!」

 カイは金棒を振り下ろしたことで北方の命運を懸けた戦いが今、始まった。


 屋上にて戦いが始まった中、階下にいるティア殿下たちはカイの腹心たる“三災厄王”との戦いを始めようとしていた。

 得物を構えて戦いに、戦争しに来たズィルバーたち。しかし、子供が大人に挑むのは無謀に等しい。普通に考えれば、無駄に命を散らすだけだというのが大半の大人はそう言うだろう。

 しかし、“魔王傭兵団”の腹心たる“三災厄王”は傲りも油断もなく、ティア殿下たちを睨みつけている。

 漆黒の翼を生やした一メル越えの大男――“炎王”センに挑みたるは白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフのNo.2。ティア殿下とハルナ殿下の二人である。

「ガキ共も俺たちに挑んだことを地獄で後悔しろ」

「生憎と死ぬ気なんてさらさらないんでね!!」

「私も死ぬ気がないし。地獄に堕ちるのはあなたよ!!」

 彼女たちも臆することなく、センを睨みつける。


 全身を鎧で包まれた一メル越えの女――“鎧王”セルケトに挑みたるは白銀の黄昏シルバリック・リコフォスを支える四人の剣士の二人。シューテルとナルスリーである。

「クソガキ共。“魔王傭兵団(私たち)”の恐ろしさを身体に刻み込んでやる」

 シューテルとナルスリーは声から自分らの相手が女性だと知り、多少なりとも驚きを隠せない。

「こいつは驚いたぜ。鎧で隠していやがるが女性だったとはな」

「シューテル。その言い方は差別的に聞こえるよ」

「だが、事実だろう」

「それもそうね」

 二人の会話がセルケトの逆鱗に触れたのか声を荒げる。

「ガキ風情が私を差別するんじゃねぇ!!」

 怒気を乗せた声がシューテルとナルスリーの身体に重くのしかかる。常人であれば、萎縮してしまうのだろう。だが、この二人は――

「スゲぇな」

「ええ、これほどの“闘気”は初めてです」

 好戦的な笑みを浮かべる。セルケトの怒気にも萎縮するどころか笑みを浮かべてしまうほどであった。

 怒りを露わにしたセルケトも二人の笑みを浮かべたことに絶句する。

「普通、萎縮すると思うんだが?」

「萎縮してなんになる。まさか、手加減してくれんのか?」

「抜かせ。カイさんに楯突いたことを地獄で後悔しろ。私を女だと思って舐め腐ってんなら血祭りにしてやる」

「女だからなんだってんだ? 戦場は性別なんざ不要だぜ。強ぇ奴がのし上がる。それだけのことだ」

「実力主義。弱肉強食。武器を持ち、その道を志した時から実力でのし上がらないかぎり、自分らの存在を証明できないと千年以上前から変わらない!」

「へぇ~、分かってるじゃないか」

 兜越しにセルケトは笑みを浮かべる。

 今までの戦場において、自分の考えと共感できる敵がいなかった彼女にとって、今回の相手が子供だ。しかし、自分の考えに共感してくれる子供。だが――

「残念だよ。せっかく共感できる敵だったのに……」

「子供の私たちが言うのもなんだけど、人生いろいろということで」

 互いに獲物を抜き、構えた。


 筋骨隆々な身体を持つ巨漢――“惨王”ザルク。彼と対峙するのは漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフにおいて、カズを支える問題児にして幹部のカインズとダンストン。

 全身が色黒なのはカインズもわかる。しかし、一番の驚きが魔物かの如く、鋭い牙と爪。そして、荒々しい毛並みをする尻尾と耳があった。

「初めて見たぜ。妖狼族(ウルフィング)が生きてるとは……」

「俺が狼で悪いっていうのか?」

 狼の如く、喰い殺すそうとする眼光にカインズは臆さない。

「別に妖狼族(ウルフィング)は一度も見たことがなかっただけで戦いの良し悪しなんざ考えていねぇよ。なあ、ダンストン」

 カインズは十代初めの子供にしては引き締まった身体をしている少年に話しかける。

「うすっ」

 ダンストンも肯定する返事しかしなかった。ザルクはダンストンの不気味さに訝しむ。

「ああ、ダンストンは若干、脳筋でね。俺やカズぐらいにしか言うことを聞かねぇんだ」

「はっ。要するに従者って奴か。ひどいことをするんだな」

「勘違いするじゃねぇ。これは、ダンストンの人間性だ。俺らが国に忠義するか。俺らが忠義しているのはカズとハルナだけだ。それが最終的に北方と国の忠義になってるだけでしかない!!」

 カインズは忠義する相手を選ぶ権利があると言い切った。

「だよな、ダンストン?」

「うすっ」

 頷くだけではあるも、彼も仕える相手を選んでいると豪語する。

「そうか。そいつは失礼したな!!」

 ザルクは鋭い爪を立てて、カインズとダンストンに襲いかかった。




 アジトの屋上にて、戦いを始めたカイVSズィルバーとカズ。

 その階下にて、カイの腹心たる“三災厄王”と相対するのは、白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフのNo.2とリーダーを支える幹部。

 戦場はここだけではない。

 “魔王傭兵団”のアジト全域が戦場へと変わり、各所で白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフの連合体と“魔王傭兵団”の団員たちが正面衝突。

 いや、全面戦争。

 北方の。いや、ライヒ大帝国の未来をかけた戦争が今、火蓋が切られた。

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