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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流
114/297

英雄。戦の準備に入る。

 作戦会議を開いてるゲルトら。

 しかし、皆、誰もが“う~ん”と頭を悩ませていた。

「どうした。頭を悩ませて」

 皆が頭を悩ませていたところに、ズィルバーたちが帰ってきた。

『ズィルバー!』

『カズ!』

 ニナたち、カインズたちが自分らの主が戻ってきたのを心より待ち望んでいた。

「何かあったのか?」

 カズが皆に訊ねれば、カインズが答えてくれた。

「今、作戦会議を考えていたんだ。どうやれば、傭兵団の奴らを追い出せるのか」

「なるほど」

 カズは現在の状況を聞いて、考え始めようとするも

「ぐっ!?」

 急に頭が痛み出し、映像が流れ込んでくる。

「グゥッ!?」

「カズ!」

「大丈夫か!?」

 カズが頭を抑え込んで、顔を顰める。カインズらがカズの心配し、駆け寄ってくる。

「大丈夫だ」

 カズは汗を流しつつも、問題ないと言い放って、皆を落ち着かせる。

「大丈夫って……」

「汗を掻いてるよ」

 ハルナ殿下とカインズらは額から出ている脂汗から大丈夫じゃないと物語っていた。

 カズが問題ないと言い切ってるのに、ハルナ殿下らは心配そうに聞いてくる。しかし、ズィルバーはカズに話しかける。

「なにを見た?」

「え?」

「その顔。()()()()()()()()()()()()()()をしているぞ」

「なんで、分かるんだよ」

 カズはズィルバーが頭の中に流れ込んでくる情報がおぞましいのだと理解してしまったのかで疑った。

「さっき、言ったろう。顔を見れば、って。顔を見れば、おぞましいのを見たのがはっきりわかる。話さなくてけっこう、顔を見ただけで、どんなのが流れ込んだのか、大体、わかる」

「ズィルバー。聞かなくていいのか?」

「言い当ててやるよ。()()()()()を見たんだろう」

「――ッ!!?」

 ズィルバーになにを見たのか言い当てられて、カズは言葉を詰まらせる。ズィルバーは彼の顔を見ただけで理解した。

「図星だな。どうやら、傭兵団の連中は女だろうと、子供だろうと、容赦なく殺したな」

『……――ッ!?』

 ズィルバーの口からもたらされ、カズが顔を俯かせたことで、ティア殿下たちの脳裏にはおぞましい光景を想像し、貌を真っ青にし、息を呑む。

 カズは流れ込んできた映像からでも、“魔王傭兵団(連中)”がした残忍極まりない仕打ちに怒りを募らせる。

 彼が怒りを募らせれば、彼の身体が“闘気”が洩れ出すも――

「父さん」

「ん? どうした?」

「今、どこまで話は決まってるんだ?」

「情報を共有し、どういう作戦を立てようか検討しているところだ」

「それって、父さんたちがすることじゃないの?」

「正直に言って、“魔王傭兵団(奴ら)”のことに詳しいのはカズとズィルバー殿の部隊だけだ。今、軍を集め、策を考えてもうまくいくかどうか分からない」

 ゲルトが現状を告げてくれたことで、ズィルバーは一回、嘆息してから声をあげる。

「じゃあ、まずは、俺たちにも情報を共有してから、策を考えようじゃないか」

 彼が皆に発破をかけ、ゲルトらの意識を変えさせる。

「策を煮詰める前に俺たちにも状況を報告。そこから、策を煮詰めればいい」

 と、声をあげたことで、ニナたちやカインズたちも“そうだな”と、気を取り直して、今、来たばかりのズィルバーたちに報告する。

 仲間たちからの報告を聞いて、ズィルバーとカズの二人。

「よし。報告ありがとう」

「おかげで情報が分かりやすくなった。ありがとう」

 仲間に礼を言った後、ズィルバーとカズはテーブルの上に置かれた地図や資料を見る。

「これはゲルト卿が?」

「うむ。現状、可能なかぎり集められた諸侯軍」

 ズィルバーは資料に目を通し、総勢を把握する。

「北方の諸侯の総勢、一万か」

「皆、領地運営のことを考慮し、出せるだけの兵を出してくれた。残りは北方に駐屯している親衛隊でカバーするほかない」

「あと、俺たちだけか」

 彼は資料を見て、掻き集めた諸侯軍のリストを見る。

「う~ん」

(いくら、年長者といえど、練度に問題があるかからな。カイ率いる傭兵団は一流の冒険者でも苦戦必至の怪物だ。そこに集結する部下たちも一線級の実力者であることは間違えない。頭数を揃えても勝ち目があるかどうか)

「う~ん」

 ズィルバーが資料を見て考えてる中、カズはゲルトに訊ねる。

「父さん。中央から親衛隊の増援は?」

「無理だ。下手に増援などしたら、糧食などの様々なところで障害が出る。それにここに到達するまでに時間がかかる上に、到達するまでに“魔王傭兵団(奴ら)”が攻め込んでくる可能性だってある」

「前途多難だな」

 頭を悩ませるカズたち一同。しかし、ようやくとだが、ズィルバーが考えを口にする。

「ひとまず、これ以上の増援は不要だ。親衛隊同士でいざこざが起きて、かえって、統率が取れなくなる。北方だけでカイらを追い出すほかない」

「だが、ズィルバー殿。一万の兵力をもってしても、どう迎え撃つ」

「地の利がなくても、使い方次第で防衛することができます」

「防衛できる? どうやって?」

「ひとまず、意見を交換しましょう。まず、皆の意見が聞くことも大事です。勝つために意見を出すことをおすすめする」

 ズィルバーは皆をテーブルの周辺に集めさせ、意見を出すよう推奨した。

「意見を出して意味があるのか?」

「大事なのは自分の考えを主張すること。ただ、リーダーの意見を頷くだけの部下など不要」

「な、なるほど」

 会議などで意見をいう重要性を説かれ、ティア殿下たちは納得する。

「さあ、会議を始めよう。遠慮する必要はない。積極的に意見を申し出てもらえるか?」

 ズィルバーの宣言にティア殿下たちが表情を引き締めて背筋を伸ばした。


「まず、言わなければならないことは、これ以上、傭兵団の狼藉を許したら、北海周辺の村落の復興も間に合わず、北方だけじゃなく、この国そのものが傭兵団によって転覆されるのは間違えない。だから、傭兵団を迎え撃つ」

 誰もが表情を引き締めた状況下で、ズィルバーは再度、確認するために述べる。

 不平や不満など一ミリメルの欠片のないと判断したズィルバーは息を小さく吸ってから発破をかける。

「確かに、この状況は芳しくないけれど、まだ勝ち目は残っている。戦火に晒された民を救うため、北方をコケにされた仇を討つため、なにより、このままおめおめと引き下がれる性分ではないだろう」

 自信に満ち溢れたズィルバーの言葉にティア殿下たちは頷く。

「では、今後、どうしたいか聞きたい。何回も言うように意見のある者はどんどん言ってほしい」

「ズィルバーにはなにか作戦があるのか?」

 確認のためにシューテルが口火を切った。

 ズィルバーは小さく頷いて鷹揚に言う。

「もちろん、いくつか用意はしてある。けれども、先にも言ったとおり、自分の考えを主張すること。黙って従うだけの部下など不要だからだ」

 この場に、明日、英雄になる者が出るかもしれない。今後のためにも、その芽を見つけ、育てなければならない。優秀な者が一人でも多くいれば、それだけで多くの民が救われる。

「皇族とか、貴族とか――大層な肩書きなど不要。優れた意見があれば採用する」

 ズィルバーの言葉にカズはリーダーの重要性を問われた。

(憂うのは恐れに繋ぎ、上の顔色を窺うのは判断を鈍らせ、犠牲者を増やす一方。下手をしたら、北方が乗っ取られる結果を招く。僕らは今から、戦場に出るんだ。戦には萎縮する必要はない。とっと捨てるべきだ)

 カズは重要性を理解したところで、声をあげた。

「ズィルバー。地の利を生かして奇襲をするのはどうだ。“魔王傭兵団(奴ら)”は未だに()()()()()()()()()()()()。ならば、山脈を伝って、背後から奇襲をするのも手だ」

「それは無理じゃないか、カズ」

 と、カインズが口を挟んだ。

「奴らの本拠地は北海周辺だぜ。おそらく、近辺の状況なんざ把握してるはずだ。背後をとれたとしても、気づかれてる可能性が高いぜ」

「数で言えば、こちらが劣っている。父さん。()()()()()()()()()()()()()()()()って聞いたことがあるけど、本当だよな?」

 カズは父親――ゲルトに“魔王傭兵団”に支援を送ってる国が存在することを確認する。

「本当だ。北海よりも北側に多数の民族国家がある。噂では、魔族(ゾロスタ)という種族が住まう国があるそうだ」

「僕も最初は驚いたけど、支援をするということはそれだけ、規模がある。数に関していえば、こちらが不利だと思っておかしくない」

「だから、奇襲ってか。だが、どうやって?」

 カインズが言い寄れば、カズは押し黙る。

 見かねたハルナ殿下たちがテーブルに用意された資料を見て意見を述べた。

「こういうのはどう? 傭兵団には下っ端が多くいる。私たちが最初から下っ端を相手したら、それこそ時間と労力の無駄。だったら、掻き集められた一万の諸侯軍、北方に駐屯している親衛隊に、下っ端の相手をして、私たちが本丸である魔王や幹部たちを相手すべきだと思う」

「待て。相手の方が数が多い。それでは、幹部と相手をする前に僕らが疲労困憊になる」

 全員が議論に入るのに、時間はかからなかった。空気に熱が帯び始める。会議はより白熱の様相を呈し始める。されど、話はずっと平行線のままだ。どの意見も決め手に欠ける。ほどよいところで、ズィルバーは切り上げることにした。

「カズたちの意見はよく分かった。まず、いったん、落ち着いて水でも飲もうじゃないか」

 ズィルバーを無視するわけにもいかず、カズたちが荒々しい息を吐き出して、その場に立つ。

 全員が落ち着いたところで、ズィルバーはテーブルの前に立つ。カズも同じようにテーブルの前に来ようとするもズィルバーが制止させる。

「そのままでいい。俺の話を聞いてもらおうか」

 手を向けたことでカズたちが訝しい表情で立つ。

 彼が全員の顔を見回してから緩やかに話を切りだした。

「全員が北方を、国を想い、策を考えたことは誇らしく思える」

 全員が一丸となって、“魔王傭兵団”を迎え撃とうという姿勢が見てとれる。ズィルバーは大仰な身振りを交えながら言葉を発する。

「どれも素晴らしい案かつ、どれも捨てがたい。俺も心が決まったよ」

 ゴクリと誰もが喉を鳴らす。自分の策が採用されるかもしれないのだ。

 その策で勝利を掴むことにでもなれば、北方の歴史に名を残すのは間違えない。誰もが呼吸さえも忘れてズィルバーに注目していた。

「皆の策を採用しようと思う」

 当然――誰もが呆気にとられてしまう。

 何を言っているのか理解できないという顔だ。その反応を予想していたのかズィルバーは苦笑を浮かべていた。

「どれも悪くない手だ。それに、カズたち皆が北方を想う気持ちを無碍にはできない」

 自分の考えが反映されなかったからといって、ふて腐れる者などいないだろう。

 しかし、ズィルバーは全ての策を採用することでカズたちの絆を深め、一致団結を狙っていた。

 個々の力ではなく、全員の力を使って相手を打ち破る。

「粗は俺が修正しよう。奇策を使い、正を使い。“魔王傭兵団(奴ら)”を翻弄して勝利を掴み取りに行く」

 ゲルトはズィルバーが策の粗さを修正できるのかに些か、訝しい表情を浮かべるも彼はカズに視線を転じる。

「カズ。俺とキミで指揮官をするぞ」

「えっ!? 僕が!?」

「俺たちの目的はカイを北方から追い出すし。二度と北方に手を出させないことだ。キミは言ったよな」

「ああ、ここまでコケにして、僕ら漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフの北方に手を出したことを贖ってやるってな」

「そうだ。カズ。キミがカイを追っ払え! そして、“北方にカズあり”と、この国全土に知らしめろ!!」

 ズィルバーはカズに発破をかける。彼の発破をかけられ、効果があったのか。カズの身体から“闘気”が滲み出る。

「なに、当たり前なことを言う。当然じゃないか。この北方が誰の物か。骨の髄まで叩き込ませてやる。それだけのことだ」

 ここでカズは少々、感情を爆発させ、“動の闘気”を放出させる。

 その“闘気”の大きさにニナたちは息を詰まらせる。ゲルトもカズの成長を目の当たりにした。

 カズは自分らの部下に声をかける。

「カインズ! ベラ! シズカ!」

「「「は、はい!?」」」

「いつまで、呆けている。お前らの気概はその程度だったのか? お前らはいつも、僕の首を狙っていたのじゃないのか。それとも、お前らの気概はその程度だったのか?」

「あ゛っ?」

「カズ。調子に乗ってるならぶっ飛ばすよ」

「今は甘んじて、カズにリーダーの座を譲ってるだけ。ふざけたことを言うんだったら、ぶっ殺すよ」

 ドスの利いた冷たい声音になる三人がカズを睨み殺してくる。カズもカズでイラついてるのかは知らない。だが、その“闘気”は刺すかの如く、鋭い“動の闘気”をニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルは肌で感じとり、タラリと冷や汗が流れ落ちる。

 カインズ、ベル、シズカの三人もカズを睨むもカズの凄みを前に大人しく、矛を収める。

「前のカズだったら、力尽くでリーダーの座を奪おうって思ったが――」

「私たちを倒した時と同じ雰囲気なら、したがってもいい」

「ようやく、私たちの王様になってくれた」

 カインズたちも心のどこかでカズへの不信感を抱いてた節があるのをズィルバーは勘付く。でも――

(見たところ、カズの絶対な信頼を寄せる節を見せてる。ひとえに感情の爆発によって、本来の自分を手にしたってところか。そういえば、メランも感情が爆発したことで人が変わったからな。本当にあいつの血を引いてるだけのことはある)

「ズィルバー。お前の策はどうなってる? 僕らにあれだけ、意見を言わせて、全部を採用するってぐらいだ。あるんだろう」

「…………」

 ズィルバーはカズの妙な鋭さに顔を引きづらざるを得ない。

(妙に勘が冴えてるな)

「ああ、考えてある。ジワジワと追い詰める方が相手に伝わりやすい。いったい、誰を相手にしたのか、身をもって知ってもらうために――」

 テーブルの片っ端に手をついて、沸き立つ怒りを息と共に吐き出す。

「なるほど。話してくれる? “魔王傭兵団(奴ら)”を追い出す策というのを――」

「もちろん」

 カズの瞳も、ズィルバーの瞳も、その奥では烈火が荒れ狂っている。

 言葉に滲む“闘気”に、ティア殿下とハルナ殿下らの誰もが打ち震えた。

 離れて見ていたレインとレンもズィルバーとカズを見て、かつての面影を幻視する。

「まるで、防衛戦をした時、ヘルトとメランにそっくりね」

「千年の時を経て、再び、この日を拝めるときが来るなんてね」

 フフッと二人は笑みを浮かべていた。


 ゲルトはズィルバーとカズらの会議を見て驚嘆している。

(子供だけで、ここまで意見を言い合う。まだ、ズィルバー殿もカズも十代前後。その二人が、北方の危機に直面しているのに焦るどころか、平然としている。最前線で命懸けの殺し合いをしたからか。心の成長が早く感じる)

「俺も年老いたな」

 と、ゲルトは思わず、吐露してしまった。




 ズィルバーが作戦を立案し、皆に話し終えたところでカズはレンにある頼みごとをする。

「契約?」

「ああ、ここから先、僕らは戦場に赴く。戦場に出るのにリーダーたる僕が中途半端じゃあ皆を不安に思わせてしまう。だからこそ――」

「契約しなくても、カズは強いと思うけど……」

「子供の僕から見れば、“魔王傭兵団(奴ら)”は口先だけのガキとしか思われていない。僕はもう惨めな思いをしたくないんだ!!」

 カズの瞳に燃える炎。豪雪だろうと消えることがない烈火。その炎はまさに、カズの覚悟の炎にも等しきもの。

 彼の覚悟を無下にするほど、レンも非道な大人じゃない。

 彼女もカズの覚悟を、北方に対する想いを知り、決断をする。

「いいわよ。契約してあげる」

「えっ、いいのか?」

 カズはイチかバチかの問答をレンにした。彼自身、断られることを想定していた。しかし、レンは契約すると答えてくれた。これには、カズも呆けてしまう。

「いいも悪いも私は、あなたの北方へ対する想いを知れた。貴方の心を知れた。それで十分」

(メランの意志はカズ(あなた)の中で受け継がれている。だったら、力を貸してあげるのが私の覚悟)

 レンはカズの手を取る。

「ただし、これだけは誓って――。これからは無茶な鍛錬をしない。いいね?」

「見られたくないのを見せられたんだ。誓うよ」

「なら、守り通しなさい。北方は不滅であることを、この国に見せつけなさい!!」

「もちろんだ」

 カズは誓うためにレンに触れる手を払わなかった。すると、レンは詠唱し始める。詠唱をし始めたことで、大気中に含まれる外在魔力(マナ)が反応し、雪風をもたらす。

 雪風がカズとレン。二人に集まっていく。


 その反応にズィルバーとレインが気づく。

「この反応は――」

「レン。――とうとう、決めたのね」

 二人は二人の絆が深まったのを理解し、笑みを零した。


 雪風がカズとレンのもとに集まりに集まったところで、彼女は誓いの宣言を紡ぐ。

「汝。我が槍。我が命に誓う。我は氷帝レン。汝をいつ、いかなる時、守りし者」

「誓う。我は汝の担い手となり。汝の主になるとを誓おう」

 カズの誓いの宣言を紡いだことで、レンとの契約を済ませた。

 レンとの契約の証である刻印が右手の甲に刻印された。

「これで契約は完了した」

「案外、質素なんだな」

 カズは呆気にとられてたが、レンからしたら、契約は大層なものじゃない認識を持っている。

「精霊との契約は大層なものじゃないよ」

「契約者が成長し、扱えるときに契約するって聞いたけど?」

「その考えで当たっているわ。それでどう? 私と契約して、どこか変化した?」

「変化と言われても――」

 カズは手を開いたり閉じたりを繰り返す。変化をあったとは思えなかった。

「でしょうね。カズ自身が分からないだけで、周りに言われて気づくものよ」

「ふーん」

 素っ気ない反応を示した。




 翌日、ズィルバーたち一行は夜が明けて早々、北方の首都、“蒼銀城(ブラオブルグ)”から馬車と馬、歩きで戦場となる北海へ進行していた。

 ゲルトを先頭に一万の諸侯軍、親衛隊がついて行き、ズィルバーたち、カズたちが糧食を乗せた馬車を守るように進行していた。

北の山脈地帯から振り下ろされる吹雪もカズがいるだけで吹雪は防衛軍の進行を妨げてくれなかった。

 まるで、吹雪そのものがカズの言うことを聞いてるかのように――。味方をするかのように――。避けていく。

「すごい」

「北方に来るまで猛吹雪に晒されていたのに……」

「今じゃあ、カズがいるだけで避けていく」

 馬車を守る誰もが驚きを隠せずにいる。

「僕だって、ここまでの効果を発揮するとは思っていなかったから。驚いてるんだけど」

 嫌みで言い返した。

「だが、これで防衛軍の者たちに無駄な体力を消耗せずに済む」

「ハルナ。この人数だと目的地までどれくらいかかる?」

「良くてあと、三日かな」

 ティア殿下の問いかけに、ハルナ殿下は憶測を交えてつつ答えた。

「戦争になれば、一気に状況が一変する。肩に力を入れすぎず、気を抜かないように」

 ズィルバーの言葉に補給馬車を守る誰もが頷いた。


 三日ほど、時が流れて、一行は主戦場となる巨大な壁まで来ていた。

 しかし、進行するまでの間、いくつかの死体を発見する。

 しかも――

「凍死してる」

「格好から見るかぎり、北から南下したようだな」

 ナルスリーとシューテルが死体から読み取れる情報を推察する。

「ズィルバー。この人たちって……」

 カナメは“まさか”という顔つきで訊ねてくる。

「おそらく、巨大な壁周辺の村人だろう。傭兵団の掠奪に遭い、首都を目指して南下していたってところだな」

「でも、死体がここに転がってる、ってことは――」

「見た感じ、急いで村から出たのだろう。服装からして、掠奪に遭うのを恐れて、荷物をまとめて逃げ出したが、北方の寒さに体力が底を尽き、息絶えた。と、見て良いだろう」

 ズィルバーは凍死した死体から把握できるだけの情報を告げる。

 彼が口にした情報に傭兵団がした非道な行為にティア殿下たちは怒りを憶えた。

 目的地に着いたら、野営を設営して、天幕に集合して、作戦の再確認と数多くの業務をこなしていた。

 その間、ニナたちは戦に備えて、力を磨いていた。




 翌日――夜が明けて間もない早朝のことである。

 日の光は分厚い雪雲に覆われ、差し込まれることもなく、吹雪が吹雪き続けている。

 燃え尽きて、瓦礫となった家屋が点在する雪原にて、ゲルトたち率いる防衛軍は“魔王傭兵団”を捉えることに成功した。

 傭兵団は武器を片手に攻めあるのみの姿勢を示すかのように陣形すら整っていなかった。

 山脈の境目に設置した巨大な壁など、もはや、役に立たず、傭兵団の団員たちによる掠奪の際、粉々に崩壊されていた。

 対する防衛軍は横陣三列で悠然と構え、気負いは感じられない。

 いつでも戦えるように、第一陣の前列に弓兵を配置し、隙を突くべく背後には騎馬を揃えている。歩兵と魔法兵はその中央を固める陣形となっていた。

「鋒槍陣。こちらから仕掛けるつもりがない」

(このような陣形を思いつくズィルバー殿の頭はどうなっておるのだ)

 ゲルトは、このような陣形の配置を考えたズィルバーの思考に息を呑む。


 昨日、野営設置後、天幕に集合し、ズィルバーは最終確認を行う。

「壁が壊れていたのは想定内だ。攻め込む以上、あの壁は不要だという“魔王傭兵団(連中)”の考えは正しい。正面から突っ込んでいく敵のほとんどは下っ端ばかりと推察する。組織がどう動いてるかは分からないが、本命の主力が攻め込んでくるとは思えない」

「下っ端相手に疲弊したところで上から叩き潰すってわけか」

「ああ、一番手っ取り早いからな。だからこそ、こっちから仕掛ける必要はない。向こうが数が多いんだ。数にものを言わせて物量で攻め込んでくるはずだよ。その傲りと油断を突く。やりやすい相手だったら、それで十分だ」

 ズィルバーはニヤリと口角を上げた。

「ズィルバー。正面から迎え撃つのが全員じゃないだろう」

「もちろんだ。白銀の黄昏シルバリック・リコフォス漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフは山脈を伝って、側面から挟撃する」

「奴らも山脈を警戒すると思うが、山脈にいる魔物は狩ることすら難しい。敵が正面に意識しているなら、僕たちの挟撃にも気づかないというわけか」

「ああ、諸侯と親衛隊で正面を担当し、俺たちが左右から挟撃し、カイを倒す!!」

 ズィルバーの作戦にハルナが質問する。

「親衛隊にも協力した方がいいんじゃあ……」

「それは止めた方がいい。親衛隊は大帝都の防衛に戦力を注ぎ込んでいる節がある」

「皇宮防衛に戦力が集中している」

 ハルナ殿下の疑問を交えた言い返しにズィルバーを含めた白銀の黄昏シルバリック・リコフォスが頷いた。

 そこで、カズは中央で起きた事件を耳にしたのを思いだす。

「そうだ。ズィルバーたちは一回だけ、親衛隊と抗争している」

「正確に言えば、第二帝都に駐屯している支部だけど、精鋭揃いかと言われたら、そうとも言い切れない」

「支部でも一部の隊員だけが実力があるって感じだったかな」

 ティア殿下も当時の親衛隊の印象を思いだす。

「とりあえず、話を戻すが、挟撃はいつ、起こす?」

「奴らが正面の部隊に意識が集中したところで、一気に挟撃を仕掛ける。一瞬の駆け引きが勝敗を左右する。これだけは忘れるな」

「分かった」

 ズィルバーの最後の確認に、カズは頷いた。


 ゲルトは昨日のことを思いだし、今、自分たちが配置されてる陣形を提案したズィルバーに感嘆の息を漏らす。

「ズィルバー殿は戦の天才だな」

 笑みを零さずにはいられなかった。

 ズィルバーがゲルトたちに敷かせた陣形は鋒槍陣。

 鋒槍陣とは通称、亀陣形とも呼ばれている。それは、外から甲羅を叩いてくるのを待つもの。砕かれるはずがないと高をくくり、餌が近寄ってきたところを首を伸ばしてパクリと平らげる陣形である。

「数に任せて攻めてくる敵に対して、こちらは仕掛けない。驕らせ、油断させるのが狙い……かの少年は兵法を心得ているようだな」

(全く、敵に回すと厄介な男よ)

 兵法を心得ている者であれば、数に任せて無闇矢鱈に突撃を敢行したりしないだろう。しかし、兵法に心得がない者であれば、数に任せて突撃を強行する。

(こちらの数が少ないのも見越して逆手を取って陣形を用いる。下手に仕掛ける必要もなく、迎え撃つことだけに集中できる。さらに言えば、犠牲者を極力抑え込ませる陣形)

「やりようがあるんだが、向こうにとっては普通にやってくるとだろう」

 ゲルトはそう呟いて声を出す。

「気負いするな! 我らの目的は北方を死守することにあることを忘れるな!」

『オォォォオオオオオオオーーーー!!』

 彼の言葉に諸侯軍と親衛隊が揃って掛け声を上げ、剣や槍を打ち鳴らした。

「さて、カズとズィルバー殿らがカイの首を獲るまで、我らは北方を守り通す」

(気をつけろよ。カズ)

 ゲルトは父親としてカズの一計を案じた。


 その頃、ズィルバーたち白銀の黄昏シルバリック・リコフォスはというと。

「しかし、北方の山脈は寒ぃな」

「うん。ズィルバーが用意してくれた極寒用のコートがなかったら、手足が使えるものじゃなくなっていたよ」

 ジノとシューテルは北海を遮るように聳え立つ山脈から降り落ちる冷風に身震いしていた。

「何を言ってるの? 北海の寒さは伊達じゃないわよ」

「えっ、マジ!?」

 ジノとシューテルの動揺にナルスリーは“本当よ”と言い返す。

 カナメやノウェムもヤマトに本当なのか訊ねれば

「北海に関しては年がら年中、寒いよ」

 ヤマトが答えてくれた。

「北方に行く前に話しただろう。北海の寒さは異常だって。北海の寒さは強烈な北風が山脈に直撃し、北海周辺に対流している。そのため、山脈との境目か吹き下ろす山風でしか寒風は南下しない」

「うそだろう」

「ただでさえ、キャサリンさんが仕立ててくれた極寒用の服がなかったら、凍え死にそう。首都の方はそこまで寒くなかったんだけど」

 ニナは悪態を吐けば、ティア殿下も頷く。いや、彼女だけじゃない。北部出身ではない皆が盛大に頷いた。

「首都や街は寒いけど、北海の寒さは首都の倍以上の寒さ」

 ナルスリーの言い返しに“ひぇ~”となる一同。

 極寒用の服を着込んでも寒く感じるだけ、北海の寒さが桁違いであることが証明された。


 もう一方のカズたち漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフはというと。

「うーん。力の加減をしないといけないな」

 カズは山脈に棲みつく魔物を相手に得たばかりの力を制御しようとしていた。

 その様にはハルナ殿下たちも顔を引き攣ってしまう。

「カズ。どうしたの?」

「ん?」

「急に魔物を相手に戦いだすなんて」

 彼女たちからしたら、カズの行動に違和感を覚えてしまい、心配した。

「心配させて悪いな。僕は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

「でも、カズ。ここに来るまで、ズィルバーと力を磨いていたじゃない」

ズィルバー(あいつ)は強かったから。そこまで心配する必要がなかっただけで、これからのことを考えると、今のうちに力を制御しておかないとハルナや皆に迷惑をかけるからな」

「……カズ」

 ハルナ殿下はカズが力を得て傲慢な人間になったのではないかと疑心に陥りそうになる。

(カズがこのまま、カイと同じように北方を支配するような考えを言ったら、私――)

「心配するな。傲慢な人間、権力者になる気はない」

「カズ」

「そのために、ハルナや皆がいる。僕の間違えを正せる仲間(・・)がね」

「カズ……」

 彼は自分が傲慢なる人間にならないと言い放つ。

 なる気がないのにも、それなりの理由があった。

(もし、傲慢なる人間になったら、ハルナに改心されるまでぶん殴られる可能性がある)

 気まずそうにハルナ殿下から顔を逸らすカズ。彼女は彼が視線を逸らしたことに訝しげに眉を顰める。

「カズ~。どうして、私から視線を逸らすのかなぁ~?」

 ハルナ殿下はカズに目を合わせようとするけど、カズはハルナ殿下に目を合わせないように逸らし続けている。

「カズ~」

「…………」

 極寒の山脈地帯にいるのに、カズは今、ダラダラと冷や汗を掻く。

『はぁ~』

 カインズたちは呆れられていた。

「……にしても」

「どうした?」

 ベラは不思議そうに山脈に根付く魔物の死体を見ている。

「北方にいる魔物は雪原には少ないのに、山脈に多いのかなって……」

 ベラが抱いた疑問に漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフの全員、同じだった。

「そういや、そうだな」

「確かに、学園の授業でも魔物での実地訓練は少ないわね」

 誰もが不思議そうに首を傾げる。その答えを先導してる狼姿のレンが答えた。

「追い払ったのよ」

「追い払った?」

 彼女の答えにハルナ殿下は聞き返す。

「千年前、北海には星獣が棲みついていた。『大獅子シリウス』っていう星獣がね」

「星獣……」

「そんな生き物、聞いたことがない」

「知らなくて当然よ。星獣のほとんどはメランたちが退治したから」

「退治したって……」

 カズたちは伝説の偉人たちが星獣を退治していたとは思わなかった。

「星獣っていうのは人的被害が多くて、現代まで傷跡を残しているのよ」

「傷跡?」

「『テュポン・サイクロン』を知ってる?」

「中央で起きるっていう超弩級の大嵐のことか?」

「あの大嵐も星獣の引き起こしたものなのよ。逸話ぐらいは知ってるでしょう」

「うん。[建国神リヒト]と[戦神ヘルト]が討伐したっていう伝説だよね」

「あの逸話も本当のことで、リヒト様とヘルト様の二人で討伐したの」

 レンの口から逸話は本当だったのを知る。

「星獣が引き起こす人的被害の多くは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「魔力を帯びた自然災害?」

 カズたちからしたら、自然災害に魔力が帯びてることすら知らなかった。

「言ったでしょう。知らなくて当然って。現代に残る呼称された災害は千年前の残り香。あなたたちが恨み嫉みを言われてもしょうがないのよ」

 レンは申し訳なさそうに言ってからベラの疑問に答えた。

「それで、山脈地帯に魔物が多いのは千年前にメランとヘルト様が『大獅子シリウス』を討伐したことで魔物のほとんどが山脈の方に逃げ失せて、引き籠もっちゃった」

「頭が消えたことで統制が取れなくなったのかな?」

「メランはそう見ているよ。以来、北海周辺の山脈地帯は魔物の巣となり、敵国は山脈の裂け目を通ることになった。メランも裂け目だけに兵力を集中できるから防衛もしやすくなったのよ」

 レンの話を聞き、カズは自分の先祖と[戦神ヘルト]の凄さを改めて知った。

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