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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流
113/296

英雄。戦友の手記を読む。

 隠し階段から上階へ進んでいるズィルバーたち一行。

 一行は階段を上るも、隠し階段内は暗く、篝火の明かりが灯ってる程度の薄暗さ。なので、壁に煤と埃、汚れがついてることにすら気づかなかった。

「見事に汚れてるな」

「手つかずだったのかしら」

「さあな。とりあえず――おや?」

 先頭を歩くズィルバーが立ち止まる。

「どうしたの?」

 ティア殿下が声をかけてくる。

「いや、なに、行き止まりにぶつかっちゃって」

「行き止まり!?」

「ねえ、道を間違えたんじゃない?」

 ティア殿下とハルナ殿下は“道を間違えたのでは”と聞いてくるも

「私とレインが後ろからついてきてたけど、分かれ道なんてなかったよ」

「そもそも、階段の分かれ道なら、踊り場があってもおかしくない」

 最後尾にいたレインとレンが否定する。

 彼女たちの話を聞いて

「と、すれば……」

 ズィルバーは壁や天井を触り始めたり、叩き始めたりする。

 壁や天井を触ったり、叩いたりして、数分後、彼は天井を叩いたときの音が違うことに気づく。

「天井の向こうに部屋がある」

「隠し部屋?」

「おそらく――」

 ズィルバーは腕に力を入れて、天井を押し上げようとする。押し上げようとするも、天井のレンガはビクともしない。

「はぁ~、キツイ」

(子供の腕力でこじ開けれないな。“動の闘気”で底上げしても無理か)

「天井に仕掛けでもあるのか?」

 カズがズィルバーに近づく。

「仕掛けというより、隠し部屋がある。だけど、子供一人の力じゃあ、持ち上がらん」

「そうなのか?」

「そうだよ。キミでも開け――」

 ここでズィルバーは、一つの考えに至る。

(そうだ。あの隠し扉もカズに言われたとおり開けて、ここまで来れた。だとすれば、この城の鍵になってるのは……)

 彼は一つの考え、可能性に至り、カズに頼みごとをする。

「カズ。開けてみろ(・・・・・)

「はっ?」

 カズやティア殿下、ハルナ殿下もいきなり、ズィルバーの素っ頓狂な頼み方に顔が呆けてしまう。

「だって、ここまで来れたのは、カズが仕掛けを見抜いたもの。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「僕のみが知ってる?」

「おそらくね。でも、キミ。隠し扉の仕掛けを教えた際、頭を抑えて、言ったよな。“情報が流れ込んでくる”、と――」

「ああ、そう言ったな」

「ここで、俺は仮説を立てたんだが、カズが学園長の部屋にあった魔法陣を起動させたことで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「僕が、城の主……」

 ズィルバーの素っ頓狂な仮説にカズは若干、狼狽えた。

「可能性の話だ。とりあえず、天井の隠し扉を開けるぞ」

「あ、ああ……」

 ズィルバーに急かされる形でカズは天井の隠し扉を開ける。しかし、カズは天井を押し上げるのかと思いきや、壁を触る。

 薄暗くて気づかなかったが、レンガの一部だけ形が違う。

 カズは形が違うレンガを押した途端、ゴゴゴゴッと地響きしながら動きだした。

「「「…………」」」

 ティア殿下、ハルナ殿下の二人は、“まさか、カズが隠し扉の仕掛けを解く鍵なのでは”と疑ってしまい、カズ自身も自分はどうしたんだと疑ってしまう。

 しかし、ズィルバーだけは違った。扉の仕掛けを解いたカズを見た。

(やはり――)

 と、確証を抱いた。

(この城は、メランとカズだけにしか扱えず、北方は、カズの意のままに操れる。そして、かつて、メランが北方において、無敵の力を発揮できた理由も分かった気がする)

 天井の隠し扉が開かれ、ズィルバーとカズは顔を頷き合い、慎重に上へと歩を進める。

「位置的に見て、学園長の部屋の天井裏か?」

「私に聞かれても?」

「うん」

「たぶん、そうだと思うぞ」

 ズィルバーが発した言葉にティア殿下とハルナ殿下は困惑するも、カズは確証めいた答えをする。

「その心は?」

 ズィルバーは思わず聞き返してしまった。“なぜ、分かったのか”を――。

「ズィルバーの言うとおり。僕は今、頭の中に、この城の構造が正確に分かる。でも、不思議に思えるんだ。なんで、僕なのか。なんで、僕が惨めな思いをしたのか」

「カズ……」

 彼の自問自答にハルナ殿下は悲しい顔を浮かべ、声を漏らす。

「でも、今だったらわかる。今なら、初代様が城に、こんな仕掛けをした意味が少しだけわかるかもしれん」

 カズが口にした言葉にズィルバーは微かな疑問を抱く。

(メランが城に、仕掛けをした意味?)

 抱いた疑問を頭の片隅に追いやり、彼らは天井裏の部屋に足を踏み入れた。




 ズィルバーたちが学園長の部屋の隠し階段の仕掛けを解いた頃、レムア公爵家では、ちょっとした騒ぎになっていた。

「ゲルト様! 見張り台で監視してる衛兵から報告が!?」

「話せ」

 切羽詰まる使用人に水を出してから、報告を聞く。

「居城より、青白い光の筋を見たとの報告あり!」

「城から青白い光の筋だと?」

「はい。各見張り台へ向けて、光の筋が伸びた、とのこと」

「見張り台――」

 ゲルトは見張り台を思いだす。見張り台の構造上、一階に安置されてる魔法陣が刻まれた台座を思いだす。

「見張り台の一階に安置されてる台座が光りだしたのか?」

「見張り台にいる衛兵からは、そう報告されています」

「ふむ」

 ゲルトは戦の準備をしていた書類作業を止め、城の方に視線を転じる。

(カズ。お前がやったのか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この騒ぎの中心がカズによるものだとゲルトは直感する。

 彼はカズのことを心配していた。中央から帰って早々、自分に言い訳して無茶にも程がある鍛錬や勉学に励んでたことを知ってる。

 寝る間を惜しんで、必死になる彼を離れて見るほかなかった。

(カズ。少しでもいい。努力が実ったか。実ったのなら、お前は自分に言い訳しなくてもいい。お前は強い。ズィルバー殿に負けないほどの強さを手に入れている)

 ゲルトは父親として、息子――カズを褒めた。

「ゲルト様?」

 使用人はゲルトが急に笑みを零したことを不審に思い、話しかけた。

「どうした?」

「何やら、嬉しそうな顔をしていますけど……」

「そうか」

「はい。子供のことを重んじる親の顔をしていました」

「……そうか」

 使用人に嬉しそうに笑みを浮かべていた理由を見抜かれ、ゲルトは僅かばかり、頬を赤くした。

「それよりも、北海の方はどうなっておる」

「調査隊の連絡し次第になりますが、壁周辺の村はもう……」

 使用人の痛々しい表情からゲルトは察する。既に村としては成り立ってるとは思えないという結論に至った。

「とにかく、“魔王傭兵団(奴ら)”とて。進軍するにはなにかと時間を要するはずだ。戦の準備を整え、迎え撃つほかない」

「はい。現在、北方諸侯に催促状を届けてるところです」

「連中がその隙を突くかもしれん。何かあれば、すぐに逐一報告せよ」

「はっ!」

 ゲルトの指示に使用人は返礼し、部屋をあとにした。

 彼は椅子の背もたれに深々ともたれ掛かり、城の方に視線を転じる。

「運命とは酷なことをする」

 彼は自分の息子――カズの運命の皮肉さを呪った。

(カズだけにあのような思いをさせてどうするのだ)

 父親として、息子の将来を案じていたゲルト。しかし、彼は息を吐いて、考えを霧散させる。

(いかんいかん。俺がすべきことは北方を連中から守り通すこと。将来のことは俺ではなく、ハルナ殿下やズィルバー殿たちがなんとかしてくれる。だが――)

「だが、カズが()()()()()()()()()()()()()()()()

 ゲルトは居城――蒼銀城(ブラオブルグ)に眠られた魔法陣を知っていた。

 知っていたけども、発動するまでに至らなかった。

 ゲルト自身、魔法陣が発動しなかった理由を考えたことがない。いや、考える気すらなかったというのが正しい。

 正しいからこそ、余計なことを考えず、自分ができる範囲を広げようと懸命に努力し続けたのが普通だというのが世界の認識だった。

(だが、ズィルバーとカズは違う。努力こそはすれど、できる範囲が違う。生まれた時から違ってたかもしれん)

 という事実をゲルトは抱かざるを得なかった。




 同時刻。

 北海付近の村――村を中心に暴虐の嵐に吹き荒れていた。

 ウルルが率いる傭兵団は容赦がなかった。

 掠奪、虐殺、点在する家々は悉く焼かれ、村は無残に破壊されていった。

 男は徹底的に地獄の苦痛を与えられ、逃げ惑う女たちは欲望の捌け口となり、子供や老人ですらも例外なく、家族の目の前で首を切り落とされて雪原に野ざらしとなっている。

 豪雪風とともに腐臭が北海周辺の覆いつつある中で、昨日今日で北海側の巨大な壁周辺の村が焼き払われていく。

 家屋は焼け落ち、牛舎から黒い煙が立ち上り、死臭と混ざり合って天に昇っていく。

 豪雪風で大きな炎が小さな炎へと弱まるも、炎が燻る家々の周りは、焼け爛れた人族(ヒューマン)で埋め尽くされていた。

傭兵団(うち)が奴隷制を採用していたら、女どもを連れて帰るんだけどな」

「気にする必要はないだろう。南に行けば、まだまだ女が溢れているからな。むしろ、枯れる心配した方がいいんじゃないか?」

 あちこちから下卑た笑いが渦巻く中で、思いを口にする団員たちの姿。

 彼らの手には掠奪品によって塞がっていた。

 女たちの悲鳴に心地よく耳を傾けながら、団員たちは我が物顔で村を闊歩する。

「ヴォルスト様も思いきったことをするぜ。巨大な壁周辺の村を相手に掠奪できるとは思わなかったがな」

「って、ことは、いよいよ、北方を乗っ取ろうという計画が始まるのか」

「カイ様による北方の統治。そして、最後はこの国を乗っ取る計画……楽しみだぜ」

「違いねえ」

 と、お互いに笑ってから団員たちの足が止まる。前方からヴォルストが一人で歩いてきたのだ。

 その表情はフツフツと怒り狂っていた。

 豪雪が舞いあげて団員たちの前で止まった。

「いつまで遊んでいやがる! 集合しろ!」

 団員たちはお互いの顔を見合わせて、肩を持ち上げると不平を口にする。

「そりゃねぇよ。ヴォルスト様。まだ仕事は終わってないんだが」

「そうだぜ。まだ帰還の期日じゃないだろうが」

 彼らが不満を言うのも仕方がないことだ。

 仕事という名目で掠奪にありついてから、まだ半日以上である。

「黙れ! これは、センからの命令だ。これを聞かずに、貴様らが命令を放棄しても、私の与り知らずだってのを忘れるな! 代わりにテメエらの首が飛ぶと思いな!」

 ヴォルストは踵を返しながら、来た道に巡らせると、そのまま雪原の上を歩いていき、北海の方へ駆けていく。

「いきなり、なんだってんだ」

「ちくしょー。まだまだ暴れ足りねぇぜ」

「仕方ない。まだ殺されていない女でも漁りに行くか」

 団員たちは掠奪品をその場に捨てて、女たちの悲鳴が聞こえる方角に足を進めた。




 焼き払われた村から半日離れた場所に、傭兵団の本拠地がある。

 豪雪が舞い、北海に面した本拠地。

 その中央には岩で積み上げられた巨大な洞窟。洞窟内には巨大な建築物が建てられていた。

 厳重な警備を抜けて建物の中に入れば、魔王カイや、幹部たちが会議を開いてた。

「カイ様。予定通り、北海側、巨大な壁周辺の村の全てを焼き払いました」

「男の首を刎ねて壁側に並べ、住民は女子供も残らず殺しました。北方側の村の住民たちは、恐れ戦いて避難民となって南下しているそうです」

 と、団員の一人が告げたことで、周りの幹部たちは下卑た笑い声を漏らしている。団員たちがもたらした狼藉の数々――その報告を受けて笑いがこみ上がってくる。

 しかし、別の団員からの緊急報告に笑いも静まり、言葉を失う。

「カイ様! 壁の方にいる団員たちから緊急報告です!」

「話せ」

「突如として、地面より巨大な光の柱が伸びたとの報告。一個小隊、北方に足を踏み入れた途端、青白い炎に身が焼かれた死亡しました」

「足を踏み入れただけで身体が焼かれたのか?」

「おそらく、そうかと思われます」

 団員からの報告を聞き、幹部たちがざわめき出す。

「足を踏み入れただけで身体が焼かれるだと? そんな魔法がどこに存在するんだよ!」

「しかし――」

 声を荒げる幹部に対し、団員は言明しようとする。

「そいつの話は本当だよ」

 遅ればせに会議に入り込んでくるヴォルスト。

「ヴォルスト様」

「おい、ヴォルスト。その話は本当か?」

「ああ、カイさん。私も見てきた。青白い光が伸びたのを――。そして、ひとたび、足を踏み入れれば、全身が焼かれてしまうのもな」

 ヴォルストの報告により、団員の信憑性が増した。

「ヴォルスト。オメエの見立てではどんな感じだった?」

「見たところ、強力な魔法だ。いや、魔法っていうより、魔法陣だ」

「魔法陣?」

「青白い光が伸びたのもそうだが、光の筋が緩やかな曲線を描いていた」

「緩やかな曲線――円か」

「ああ、そうだろうな。規模から見て、()()()()()()()()()()()()()って感じだ」

 ヴォルストの憶測に幹部たちがざわめき出す。

「ヴォルストの話が本当だとすれば、どうやって攻めればいいんだ!」

「ふざけるんじゃねぇ。ようやく、ここまでこぎつけたんだぞ!」

 声を荒げ、怒鳴り合うが如く、言い争う幹部たちに強い衝撃と轟音が鳴り響く。

「静まらんか! バカもん共!」

「カイ様」

「わざわざ、攻めに行く必要もねぇ。攻め来させるんだよ。奴ら――北方の愚民共を!」

「攻め来させる。まさか、傭兵団の本拠地に誘き寄せる気ですか!?」

「ああ、そうだ。村の襲撃も、今後の作戦上、仕方のないことだ。少しばかり犠牲者が出ても文句はねぇだろう」

「北方の財政を困窮させるつもりですな」

「ああ、そうだ」

 カイは酒樽の酒をグビグビと飲み干していく。

「なんの関わりもねえ人間だったら無下に扱うかもしれねぇが、北方の民となれば、話は別だ。受け入れねぇっていう選択肢はとれねぇだろう。ゲルトの奴はな」

 カイはレムア公爵家現当主――ゲルトの性格を言及する。

「人間が生きていくには糧が必要。衣、食、住、どれも欠かすことはできない。しかも、急激に人が増えれば、蓄えられた金銀、糧食を開放せねばならない。必ず、そこには不和が生まれる。元より住んでいた者たちは避難民を疎ましく思うだろう」

 幹部の一人が北方におけるこれからの未来を予期する。

 自分たちが苦労して領主に納めた物が、避難民に食い荒らされる。

 まさに――悪意なき侵略行為。

 不満が憎しみや悪の感情に変わり、鬱憤が統治者に向けられて、爆発したときにはもう止めることはできない。

 内乱が始まり、大国の内乱はどう転んでも国を滅ぼすことだろう。

「ライヒ大帝国は強大だ。だが、強大であるが故に命取りになる」

 酒を飲み干したカイはまた新しい酒樽を手に取り、酒を飲んでいく。

 カイの考えに幹部たちも納得する。

「なるほど。そのための掠奪。そのための虐殺」

「見せしめですか。さすが、カイ様。我ら傭兵団の恐ろしさを知らしめるにはうってつけです」

 喜び合う幹部たちもいれば、懸念している幹部もいる。

「しかし、カイ様。こちらの動きを読む者もいるはず、ゲルトが避難民を受け入れない可能性だってある」

「それこそ、願ったり叶ったりだ。避難民を押しつけ合ってくれれば、貴族同士で不和が起きるってものだ」

 カイは酒を飲みきったところで酒樽を握り潰した。

「楔を打ち込むんだよ。この世界、この大陸の頂点に立った気でいるライヒ大帝国にな」

 カイから放たれた気迫に幹部たちが押し黙った。

「会議はこれで終わりだ。一時の休息を取ってから、あの壁を壊そうじゃねぇか!」

 “ギョロロロロロ!”と盛大に笑い上げるカイに、幹部たちも盛大に笑いあげた。




 北海に浮かぶ氷塊の上に座る伝説の大英雄――アキレス・J・オデュッセイア。

 彼は巨大な壁の向こうに伸びる青白い光の柱を目にする。

 吹き荒ぶ豪雪の中、彼は身体をさすりながら言葉を漏らす。

「いや~、寒い寒い。北方の最たる関門――“地獄の門”が目を覚ましたか。と、なれば、術者がいるのが常識。だが、厄介だな。要の機転となる、あの城(・・・)が健在なら、あの門を突破することはまず不可能。門の外に連れだすってのもいいが、その裏を掻くのがヘルトだからな」

 アキレスは千年前、北海から南下して侵攻した際、ヘルトとメランによる防衛戦で敗走する事態に陥った悪夢を思いだす。

「厄介なことに、あの方陣は()()()()()()()()()()()()()()、魔術をベースに錬金術を編み出した。あれを単独突破するのも無理。門の外に出ても、返り討ちに遭うのが目に見えている。北方を死守するっていう連中の気概を突き崩すのは無理だ。絡め手を使って、なんとかしようにも、逆手に取られて、迎え撃たされることになるだけか」

 彼は攻め方を検討するも、全ての策が、かの男に逆手に取られる可能性が高いと踏んだ。

「やれやれ、千年の時を経てもなお、北方は攻められないってか。さて、現代の奴らはあの門周辺の村を襲って、避難民にさせたようだが、この寒さだと、野垂れ死ぬのが関の山。あの居城に辿り着く前に死ぬのがオチ」

(ひどいことをするものだぜ。避難民として利用するつもりだろうが、蓄えもない見窄らしい格好で、この寒さを南下するのは自殺行為。北方で避難民を利用するのは自分たちの首を絞める行為。ガキ連中に大義名分を得られて、北海の奥地へ追い返されるのが見え見え)

「現代の連中は戦争のなんたるかを知らないようだな」

 彼は嘆息を吐いて、避難民を生み出した連中に戦争の巧妙さのなんたるかを説いたかった。




 時は少し進み、蒼銀城(ブラオブルグ)、学園長の部屋の天井裏に来たズィルバーたち。

 カズを先頭にして部屋に入ったけども、彼らが目にしたのは、“こんなものがあっていいのか”と信じられない物を目にした。

 それは――

「なんで、こんなところに……()()()()()()()()()()!?」

 そう、天井裏の部屋いっぱいに敷き詰められていた金銀財宝の数々。

 その財宝の山には部屋に入ってきた誰もが驚きを隠せなかった。

「部屋一面に財宝に置かれている」

「しかも、錆びついている痕跡がない」

「どれも当時のままに残された年代物よ」

 部屋に入った全員が財宝を手にとって、その価値の高さと貴重さが物語ってた。

 ズィルバーは財宝を手にとって見た後、部屋の隅っこに机と椅子があったのに気づく。

 机の上には一冊の手記が置かれていて、彼は訝しげつつも手に取る。

(年季があるけど、千年の時を経たって感じがしないんだよな)

 彼はそう思いながら、手記の内容を読み始める。

「――っ!?」

 手記の内容を読み始めて、ズィルバーは思わず、目を見開いた。

(この内容もそうだが、この文字、この筆跡……間違えない。メランの筆跡だ)

 彼は机を再度、調べる。机には引き出しとかなく、最初から置いてあった手記だけが唯一の手がかりだった。

 彼はペラペラと手記を速読し、内容を読んでいけば、この手記が誰宛に書いたのか理解し、“自分が読むべきものじゃないな”と判断した。

「カズ、レン」

 彼はカズとレンの二人を呼ぶ。

「どうした、ズィルバー?」

 カズがズィルバーに訊ねてみれば、彼はカズに手記を手渡す。

「これは、手記?」

「読んでみろ。キミらが読むべき代物だ」

 彼は自分が読んでしまったことを少しだけ後悔する。

 カズとレンはズィルバーから手渡された手記を読み始める。手記を読み進めていくうちに、レンの瞳から涙が零れ始める。

 ズィルバーは軽く嘆息し、レンの心情を察する。

「ズィルバー。あの手記は誰が書いたの?」

 レインが小声で彼に話しかける。

「メランだ」

「え?」

「メランが、いつの日にか、復活するであろうレンと、その子孫に当てた内容だ」

 彼も小声で手記が誰宛に書いたのかを教える。

「手記には、自分の死期を悟ったメランは国家が安定したとき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()リヒトの指示とはいえ、己の半身ともいえる彼女を封印するのはつらさが書かれていた。そして、いつの日にか解放してくれた者と()()()()()()()という想いが綴られていた」

(まさに、親心。メランやルフスたちは苦渋の決断をした上でレインたちを封印することを決めた覚悟の内容――。リヒトはなぜ、レインたちを封印することを決めたのか分からない。もし、仮にだが、奴らを倒すための秘策として封印させたのなら――いくら、親友の俺でも怒るぞ。彼女たちに、そんなつらい思いをさせなくてもよかったじゃないか)

 ギリッと歯を食いしばるズィルバー。

 あの時、過労死してしまった己の不甲斐なさを呪った。


 メランの手記を読むカズとレン。

 二人は彼が貫き通した覚悟、想い、つらさを知る。

 彼の手記を読み、レンは涙を零す。

「なんで……今になって……こんなのに書き残すのよ。メラン」

 離ればなれされ、積もりに積もったつらい思いの壁が決壊し、滝のようにこぼれ落ちる涙を手で拭うも、止めどなく零れ続ける。

 カズも手記を読み通し、泣きじゃくるレンに想いを馳せる。

 手記を読み終えたところで、カズは怒りを吐いた。

「ふざけるなよ。レンやレインさんをここまでしておいて。契約してくれだと……」

 彼の身体から滲み出る“闘気”。その凄まじさにズィルバーたちは目を見開かせる。

(なんて“闘気”だ。感情の爆発による“動の闘気”――それだけで、俺が萎縮するとは……)

 ズィルバーはカズの“闘気”にあたって萎縮してしまった。

「チッ、屈辱……」

 ギリッと歯軋りしたズィルバー。思わず、悪態を吐いた。

「ふざけるんじゃねぇぇぇぞ!!」

 感情の爆発による“動の闘気”の解放。放出された“闘気”の衝撃波がズィルバー、ティア殿下、ハルナ殿下、レイン、そして泣きじゃくってたレンですら、カズの“闘気”を一身に浴びる。

『……――ッ!?』

 五人の背筋が凍り、鳥肌が立った。

 なにより、ここにいる誰もが、カズの“闘気”に()()()()()()()()()

 中央において、学園内で最強ともいえるズィルバーですら、鳥肌が立ち、萎縮する。

 聖帝レイン。氷帝レン。名だたる精霊ですら、悪寒が走り、萎縮した。

 怒りの感情に支配するカズ。普段の彼から、予想もつかない言葉を吐いた。

「どいつもこいつもバカにしやがってふざけるんじゃねぇ! 初代様。こんな不始末、残すとはとんだ男だ。本当なら、一度、殴り気分だが、まあいい」

 解放された“闘気”は静まってるけども、未だに滲み出ている状況だ。

「傭兵団のこともそうだ。どいつもこいつもバカにしやがって――」

 滲み出ている“闘気”が今のカズの気持ちを露わにしていた。

「だったら、教えてやる。僕の、いや、僕ら、漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフの北方に手を出したことを地獄の果てまで後悔させてやる!!」

 怒りのままに発したカズの叫びにハルナ殿下とレンは言葉を詰まらせ、胸をときめかせた。

 ティア殿下とレインの二人は昨日のカズとは全然違って見えたが、ズィルバーは交流会が始まって以来、時折見せるカズの感情の吐露に気づいていたが――

(ここまで、感情を爆発するとは思わなかったな)

 指で頬をかいていた。

「あぁー、もういい。レン」

「な、なにッ!?」

 レンの顔は泣きじゃくってたから赤く腫れていたが、カズの訊ねには戸惑いつつ返事する。

「学園長の部屋の魔法陣を発動すれば、この城はレムア公爵家の物に戻ったんだよな」

「話し方が変わっていない?」

「なに?」

「え、ええ、魔法陣を発動すれば、この城――“蒼銀城(ブラオブルグ)”は完全にレムア家の、いえ、カズの物よ」

「僕の物、ね」

 フッと口角を上げるカズにハルナ殿下はドキッと頬を紅潮する。

 ティア殿下とレインは彼女を見て、

「惚れ直したわね」

「ええ、そうね」

 小声にせず、堂々と言い放った。

 二人はズィルバーに視線を転じれば、

「ん? なんだ?」

 コテンと首を傾げた。

 ティア殿下はクスッと笑みを零す。

「なにも」

 答えた。本心で言えば、ティア殿下はズィルバーに惚れていた。理由は言わずもがな。地下迷宮(ダンジョン)の時だ。彼に背中を託し、大きく見えた。頼りないと思っていた彼が大きく見えたとき、惚れ込んでしまった。

 でも――。

(でも、それはまだ言いたくない。ズィルバーにはズィルバーなりのかっこよさがあるから)

 フフッとティア殿下は微笑んだ。

「ハルナ。いつまでも呆けていないで、行くぞ」

「行くって――」

「決まってる。さっさと準備を整えて、“魔王傭兵団(奴ら)”を北方いや北海から追い出すんだよ!」

 カズはそう言い放ち、隠し階段を降りていく。

「ま、待ってよ、カズ」

 熱に浮かされてたハルナ殿下も意識を取り戻し、カズの後を追う。

 ズィルバーとティア殿下は一度、顔を見合わせ、肩を竦めつつ、二人の後を追うように部屋を出て行く。

 残ったレインとレンは人間の成長を目の当たりにした。

「ズィルバーもそうだけど、レン。あなたの新たな主人は心の成長が早いわね」

「新たな主人じゃないわ」

「そう? 少なくとも、私から見て、今のあなたはカズくんの器に惚れ込んでると思ったけど」

「な、なな、何を言ってる!」

 レインに指摘され、レンはテンパるも声を荒げ、言い返す。

「私が、彼の器に惚れ込んだ、ですって!!」

「私から見て、そう思うもん。どれだけ、時が経っても私たちの中で変わらないもの。一度、主君として決めた人と同じ志に惹かれちゃう」

「…………」

 レインが口にした言葉にレンは口が噤んでしまう。言い返そうで言い返せない。

「でもさ、思いださない」

「そうね。似てるね。北方を防衛した、あの時と同じ」

 彼女たちの脳裏に過ぎるのは、北海との境界線で防衛した戦争を思いだされる。

「レンは覚えてる。あの防衛戦の相手が魔族(ゾロスタ)だったことを……」

「覚えてるよ。メランが魔族(ゾロスタ)への意識が違ってたから」

「私たちが相手をする“魔王傭兵団”の親玉は鬼族(デモンズ)なのよ」

鬼族(デモンズ)!? 魔族の中でもっとも、野蛮な種族の!?」

「それは一部だけど、概ね、間違っていないよ。鬼族(デモンズ)は野蛮なのは今に始まったことじゃないし」

「そうね」

 暗い表情を浮かべるレインとレン。幼少の頃、人間にも、異種族にも、奴隷のように扱われる同胞たちを目の当たりにしたことがあるからだ。

「でも、私は魔族が野蛮なのは一部だけだと思う。ズィルバーのもとに集うノウェムたち(彼ら)は違うと思う。私はそう信じたい」

 レインは魔族にもいい人がいることを信じてる。

「でも、親の教育がなっていなかったら、元も子もないけど……」

「それは言わない約束」

 彼女たちは笑みを零し合った。

「レイン。何をしてる?」

 ヒョコッと顔を出すズィルバーに呼ばれ、彼女たちは隠し部屋をあとにした。




 “蒼銀城(ブラオブルグ)”を出て、レムア公爵家へやってくるも、ゲルトがズィルバーたちが泊まってる屋敷に向かったといい、彼らは自分らが泊まってる屋敷へ向かう。

 空き屋敷に来てみれば、ゲルトがニナたちと一緒に作戦会議を開いていた。

「う~ん」

「う~ん」

「う~ん」

『う~ん』

 ゲルトもノウェムもヤマトもニナも皆、頭を悩ませていた。

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