英雄。再度、入場する。
彼らは蒼銀城内へ足を踏み入れる。
城内に入って分かったことが、いくつか分かったことがある。
(城内に人気がない)
「誰もいないのか?」
「昨日、父さんが使いを送って調べたのか」
カズは使用人に調査したのか訊ねる。
「カズ様たちが空き屋敷で休息を与えてすぐに調査隊を派遣しました。城内は既に人の気配はありませんでした。代わりに城内の至る所に血を拭いとった跡がありました」
「血を拭いとった跡? 血が出たんなら拭うんじゃあ……」
「そうか。確かに妙だ」
カズは使用人が説明する内容に首を傾げるも、ズィルバーは使用人の話を聞いて、違和感を覚える。
「妙って、どこが?」
ティア殿下は使用人の話のどこに違和感を覚えたのかわからず、ズィルバーに訊ねた。
「俺たちがもし、怪我をして、治癒魔法もかけずに放置してても、血は出続けるし、乾くのにも時間がかかる」
「乾くに時間がかかる?」
「ほら、クルーウやルアールが医者になろうと医学の勉強をしているのを知ってるだろう」
「ええ、知ってるよ」
「俺は、その際、医学の本を読んだとき、血が乾くにも時間がかかるのを知った。クルーウに詳しく聞いたら、“血が乾く環境によるが、時間はかかる”って言っていた」
「環境?」
「夏の時期で、中央だったら、一日近く経っていたら、血が乾くそうだが、北方だと、血が乾くのにかなりの時間を要するらしい。クルーウの話によれば、“北方で血が乾くに要する時間は一週間はかかる”って言っていた」
「一週間!?」
「そこまで時間を要するってことは――」
「ここにあったと思われる血はここ数日前にできたってことになる」
四人は話し合って結論に至った。使用人もズィルバーたちに気分を悪くする話だと百も承知で話してくれた。
「警備隊の遺体が城近くの古井戸から発見されました。北方の寒さで腐敗していませんが、傷口の痛み具合から交流会が行われる数日前と考えております」
使用人の口から警備隊が殺された時間が数日前だと断定する。
「と、すれば、副学園長は夏期休暇前から傭兵団と手を組んでいたことになる」
「でも、細かい日程や警備隊の配置まで知ってるとは思えない。わざわざ、警備隊に扮してまで、配置されるのも妙だと思うけど」
カズは夏期休暇前から仕組まれてたと思い至るも、ハルナ殿下は警備隊に扮するのかがわからず首を傾げる。
「ハルナ。敵を騙すには、まずは味方から。敵が味方だと信じ込ませるために警備隊を殺し、成り代わってもおかしくない」
ティア殿下は亡き副学園長の策略を見抜いた。彼女が見抜きには、レムア公爵家の使用人は目を見開いていた。
「ティア殿下はご理解と知恵が回りますな。ハルナ殿下と同じように皇族の方々は知恵が回る」
「方便はいいから。他に分かったことは?」
「奪われたのは食糧と金品ですね。しかし、奪われた金品は城内のではなく――」
「死んだ学園長と副学園長の金品だった?」
使用人が言おうとしたことにズィルバーが言い当てる。使用人も“そこまで見抜けるのか”と目を大きく見開いた。
「まだ、詳しく調査していませんが、学園長と副学園長は学園の運営資金を私利私欲のために使われていた節があります。学園長室の机を調べた際、不正利用されたと思われる帳簿を発見。隣の部屋には、学園長の私財が置かれた痕跡がありました」
使用人の口から明かされた学園長の不正利用。所謂、汚職事案。カズとハルナ殿下はギリッと歯軋りする。
どうやら、心当たりがあったようだ。
「僕らは、知らず識らず、学園長と副学園長の私欲を手伝っていたのか」
「自分の不甲斐なさを呪いたくなる」
手を強く握る。血が滲み出るほど――。
ズィルバーとティア殿下は二人に同情してはいけないと思い、話の続きを促す。
「それで、死んだ学園長と副学園長並びに汚職に加担した講師陣はどうなりますか?」
「正式には決めておりませんが、ゲルト様は汚職に加担した講師陣に厳罰を与えると思われます。中央の皇宮に報告し、調査官が派遣されることでしょう」
「そうなれば、学園の全権がレムア公爵家に一任されるというわけか?」
「たぶん、そうじゃない。私に聞かないでよ」
「わるい」
ズィルバーはティア殿下に話を振ってみれば、彼女は“話を振らないで”と言われてしまい、自分に悪びれがあると理解して、渋々納得した。
なので、彼は使用人に話の続きを促した。
「将来的には、この城を含め、学園長になるのはゲルト様だと思われます。最終的には皇宮の厳命によりますが――」
「まあ、この城の長が最終的にどうなるのかよりも、俺たちがすべきことは傭兵団を北方から追い出すことが最優先。そのためにも、城を取り戻さないといけない」
「ズィルバーの言うとおり。今は、この城を取り戻し、傭兵団を追い出す」
カズはズィルバーの言い分に賛同し、決意を固める。
「ここまで、僕らをコケにして、失態。いや、醜態を晒されて、レムアの誇り、僕の誇りに泥を塗り、恥を晒された」
「カズ様」
「カズ」
ハルナ殿下と使用人がカズの憤りを目の当たりにする。
「二度と北方に足を踏み入れさせん。北方の屈強さを、恐怖を、その身をもって叩き込ませてやる!!」
「カズ様!」
「カズ!」
カズのうちに秘める魔力いや“闘気”は組織のリーダーないしは次期公爵位の才覚の片鱗を垣間見せた。
「とりあえず、コケにされて感情は苛立つのもわかるが、胸の内に秘めておけ。今、俺たちがすべきことだけを考えろ」
ズィルバーは優先すべきことを見誤るなと告げた。
「わ、分かってる」
彼に言われて、カズは項垂れながらも、渋々、納得する。
「それで、レン。俺たちはどこへ向かえばいい」
ズィルバーは子狼姿のレンに話しかける。
「ひとまず、当主の部屋。今は学園長の部屋に行きましょう」
彼女が行く先を口に指定したことで、彼らの向かう先が決まった。
学園長の部屋に来れば、中の状況が否応なくわかる。
「見事に散らかってるな」
「荒らされた痕跡がありまくり」
部屋の中が見事に荒らされていた。蝋燭立てなり、壺なり、本なりが散乱していた。
子狼姿のレンは部屋の様子を見るや否や、最初に口にしたのが
「千年経っても部屋の構想は変わってない」
変わったところがないであった。
レンはキョロキョロと辺りを見渡し、暖炉を発見する。
「こっちよ」
彼女は暖炉へと足を運ぶ中、ズィルバーは、この部屋の造りに違和感を覚える。
(この部屋の造り……どこかで見たことがあるな)
う~んと彼は、部屋の造りをどこで見たのかを記憶を整理して思いだす。
レンが暖炉についた。
ついたら、子狼のまま、彼女は暖炉に入り、ガリガリと壁面を触る。
「あぁ~、もう、動物形態だと隠し階段を開けるのも一苦労ね」
「「「隠し階段?」」」
カズ、ハルナ殿下、ティア殿下が驚く中、ズィルバーはようやく、思いだした。
(そうだ。この城は隠し部屋や隠し通路、隠し階段を張り巡らせていたんだ。メランが緊急時の備えに城の部屋の一カ所に隠し扉を設置していたのを忘れてたよ)
「メランが、緊急時に備えて、隠し扉を作らせてたのよ」
「知らなかった」
「学園として運用してからは隠し階段があるなんて思いも寄らなかった」
カズとハルナ殿下は、レンに言われるまで、隠し扉の存在に気づけなかった。
「普通じゃあ見つけられないよ」
気づけなくて当然だと、レンは言う。
「何しろ、この城を設計したメランが編み出した隠し方法だから」
「初代様が編み出した隠し方法?」
カズたちはメランが編み出した方法がなんなのか首を傾げる。
「錬金術よ」
「錬金術?」
(そういや、メランは独学で錬金術を学んでたな)
「メランは生前、錬金術を学んでいてね。当時の錬金術師も太鼓判を押すほど、腕が良かった」
レンの話でメランが錬金術を得意にしていたことが明かされた。
「この城の外壁や内壁の至るところに術式が刻まれている。隠し扉もメランの錬金術で隠してあるの」
「錬金術。学園の授業で習ったことがあったけど」
「この城に錬金術が使われてるなんて知らなかった」
カズやハルナ殿下、ティア殿下は蒼銀城に錬金術を使われてるとは思いもよらず、現代技術よりも遙かにレベルの高い技術が使われている。
「この城の内壁にはちょっとした細工があって、その細工に気づけば、隠し扉がどこにあるのかもわかる」
子狼のまま、暖炉の壁を押そうとするレン。
しかし、このままじゃあ、時間がかかると思い至ったカズが暖炉に入り、レンに変わって、壁を押し始める。
でも、一行に壁が動かず、ハアハアと息を吐くカズ。
隠し扉の場所を知ってるレンが“おかしいわね”と呟く。ズィルバーは千年前の記憶を総動員して、メランの性格と癖を思いだそうとする。
(確か、メランはカズに似て、どこか抜けてる部分があった。寝る時間に規則性がなかったのもそうだ。だが、隠しごとをするのは大の得意で、壁や天井に細工を施して、隠し部屋に大事な物を隠してたよな)
「ん?」
ここで、彼は細工した方法と錬金術を思いだす。
(錬金術は触媒と円を用いて作られる。メランが暖炉の内壁に隠し扉があるのを聞いたことがある。確か――)
ズィルバーは千年前、メランに言っていたのを思い出そうとしてる。
「本当に隠し扉が存在するのか?」
「本当にあるよ。メランが“この部屋の暖炉の内壁に隠し扉を作った”って言っていたから」
「初代様。なんで、こんな作りにしたんだよ。僕らのことを思って作ったとは思えないぞ」
カズは今なきメラン――自分の先祖に文句を言う。
「暖炉のどこかにメランが残した名残があったはず……円でも見つかれば――」
「円……」
ここで、ズィルバーは千年前、メランに言っていたことを思い出した。
(そういえば、メランが言っていた。『俺の錬金術の中心は部屋の床が中心だ』って――)
彼はレンが言ったヒントで思いだし、部屋の中心部に視線を転じる。
部屋の中心にはカーペットが敷かれており、ズィルバーはしゃがんで、カーペットに手探りで触れると違和感を覚える。
(カーペットでわかりにくくされているが、溝がある。だとすれば――)
「おい、カズ、ティア、ハルナ。手を貸して」
「どうしたの、ズィルバー?」
彼に声をかけられ、彼のもとに集まる。集まったところで、彼は頼み込んだ。
「今から、カーペットをどかしたい。手伝ってくれるか」
「カーペットを?」
ハルナ殿下は協力することは構わないが、なぜ、カーペットをどかすのかに疑問を抱く。
「理由はカーペットをどかしたときにわかる。とにかく、手伝ってくれ」
ズィルバーに言われて、暖炉から出たカズもカーペットをどかすのも協力した。
レインとレンも人の姿になって、手伝いをする。
数分後、学園長の部屋にあるカーペットをどかしたことで、レンが言っていた“城を取り戻す”、本当の意味がようやく分かった。
学園長の部屋の床の中心部に魔法陣が描かれていた。これには、レンも驚きを隠せない。
「部屋の中心にこんなものを描かれていたなんて……」
「ねえ、カズ。これって……」
「ああ、レムア家の紋章旗に似てる」
中心部に描かれた紋様は雪の結晶と狼を思わせる象形文字が描かれていた。
カズは魔法陣に描かれた紋様にレムア公爵家の紋章旗に似てると口にした。
「まさか、部屋の真ん中に、魔法陣が描かれていたなんて――」
「うん、知らなかった」
「レイン様も、レン様も知らなかったのですか?」
ティア殿下の問いかけにレインとレンは知らなかったと答えた。
だが、これで、カズはレンが言った話の本当の意味を理解した。
「そういうことだったのか」
「カズ、何か分かったの?」
ハルナ殿下はコテンと首を傾げる。
「ハルナは僕が錬金術を勉強してるのを知ってるな」
「うん、知ってるけど……」
「錬金術は、円が力の核であり、大きくすればするほど、その力が強くなるって、教えてもらった。もし、この魔法陣が、この城の中心なら――」
「――なら?」
カズは魔法陣へ歩み寄り、両手を魔法陣に触れる。
カズが魔法陣に触れた途端、青白い閃光と雷が迸る。
「ぐぅ~ッ!?」
「な、なに、これ」
「魔法陣が光りだした」
突如の閃光に誰もが目を守ろうと腕で光を遮ってしまう。
「これはっ――!?」
ズィルバーは、青白い閃光と雷を肌で感じとる。
(これは内在魔力の光――)
青白い閃光と雷からカズ自身の内在魔力と共鳴していた。
(まさか、あの魔法陣はメランと、その系譜にしか反応しない仕組みになってるのか!?)
「それじゃあ、北方の防衛力が落ちても仕方ない」
彼は皮肉じみた言葉を吐いた。
さらに、彼は“静の闘気”で蒼銀城全体が呼応し始めてるのを感知する。
「城全体が、カズの魔力と共鳴している!?」
「「ッ!?」」
ティア殿下とハルナ殿下もズィルバーの叫びを聞いて、“静の闘気”を使用し、彼が言っていたとおり、この城そのものがカズの魔力と呼応し、共鳴し始めている。
「ズィルバーの言うとおり……」
「この城全体が共鳴してる。いえ、違う――うそでしょう!?」
ティア殿下は“静の闘気”による感知で、さらに信じられないのもを感知する。
「そ、そんな……」
「どうしたの、ティア?」
ハルナ殿下が彼女になにがどうしたのか訊ねる。
「この城だけじゃない。この街全体がカズの魔力と呼応し、共鳴してる!!?」
ティア殿下の告げた言葉にハルナ殿下に動揺が走る。
カズが魔法陣に触れて、すぐさま、居城から伸びる青白い光の線が城壁へと伸びていく。
北方の首都――蒼銀城。その外壁は六本の見張り台と真円を描くように城壁が築かれている。
六本の見張り台と真円。それは、まるで、魔法陣の上に首都ができているかのように――。
居城から伸びる青白い光の線は六本の見張り台。見張り台の一階に安置されてる魔法陣が描かれた台座に触れた。
途端、台座に描かれた魔法陣が光りだし、台座から時計回りに城壁内に光の筋が伸びていく。
しかし、ズィルバーたちは大きな間違えをしていた。
カズが触れた魔法陣は城から光の線が伸びただろう。でも、見張り台の一階に安置されてる台座と共鳴した途端、北方全域に巨大な魔法陣が展開される。
北方全域に力の要点は存在しない。しかし、カズが魔法陣に触れ、首都に安置されてる魔法陣が起動したことで北方全域。地方との境目を走る光の線が結び、巨大な魔法陣を展開される。
力の要点は存在しない。ただし、特殊な条件を揃えば、魔法陣が起動する仕掛けになっている。
魔法陣を起動させたカズは、その条件を揃えていた。
だからこそ、起動したことがカズ自身にはっきりと理解された。
「…………」
青白い閃光が収まった魔法陣の上に立つカズ。彼は魔法陣の上で立ち尽くしている。しかし、その目は俯瞰するかの如く、見回していた。
「カズ?」
ハルナ殿下は立ち尽くしているカズに心配そうに詰め寄る。
「…………」
だが、カズはハルナ殿下の呼びかけに応じない。意識がない。
まるで、意識がどこかへ飛んでるかのようだ。
「カズ! しっかりしてよ。カズ!?」
彼女は彼の身体を揺さぶる。
「カズ、しっかりしてよ、カズ!!?」
彼女は涙目になりながら、彼の身体を激しく揺さぶる。
「カズ! カズ!! カズぅううううううーーーーーーーー!!!!」
ハルナの揺さぶりは焦点を狂わせるほどの揺さぶり。このままでは、カズの意識が戻っても、今度は別の意味で気を失いかねない。
なので、ティア殿下がハルナ殿下を止めに入る。
「ハルナ。落ち着いて」
「落ち着いていられる!?」
「落ち着きなさい。このままじゃあ、別の意味でカズが気を失うよ」
「あっ……」
ハルナ殿下はティア殿下に言われて、手を離したら、カズはバタリとカーペットに倒れ伏した。倒れたカズは目をクルクルと回していた。
レインとレンの二人はハルナとティアの年相応、明るい雰囲気を見て、懐かしい光景を思いだした。
「懐かしくない」
「千年前の私たちを見てる気がする」
「そこっ!!?」
「だって、私たちも、あの頃はあの娘たちと同じようにメランたちを困らせたじゃない」
「でも、ヘルトやレイ、リヒトは優しくしてくれたよね」
「うん。人間にもいろんな人がいるんだって知れた」
「今の彼らを見ると、変わらないのがわかる」
「どれほどの時が流れても、優しい人間がいるのがわかる」
長き眠りにつき、千年の時を経て、復活したレインとレンの二人がティア殿下とハルナ殿下の年相応の行動を見て、人間は変わっていないのを知れた。
しかし、ズィルバーから見れば、この千年で変わったと認識している。
(レインとレンは変わっていないと口にするが、俺からしたら、変わったと思ってる。歴史が進み、人が築く時代へと変わった。奴らに支配された時代ではない、と――。千年前、俺たちが戦い続けてきたことが無意味ではなかった、と――)
ズィルバーは時の流れ、時代の変化を一身に受けた。
だからこそ、彼は抱いた。“この時代の在り方を。人間の在り方を損なわれてはいけないのだと――”
「う、う~ん……」
このタイミングで、カズの意識が覚醒し、起き上がる。
「あれ? 僕、どうしたんだ? なんか、意識が――うぐっ!?」
彼は頭を抑えつつ、起き上がるも、急に頭痛が走り、頭を抑える。
「カズ。大丈夫?」
ハルナ殿下が駆け寄り、心配そうに声をかけた。
「……大丈夫だ」
カズは脂汗を掻きつつも、これといった支障はなかった。
(なんだ、今のは……頭の中に、光景が飛び込んできた)
カズはつい先ほど、頭の中に流れ込んできた光景に頭を痛めた。しかし、痛めた頭の中に入り込んできた光景には、城の、街の、北方の重要なこと。レンが言った“城を取り戻す”という真意も理解できたカズはハルナ殿下に指示を出した。
「ハルナ……」
「なに、カズ――」
カズは暖炉の方に指を指す。彼女も暖炉の方に視線を転じる。
「暖炉の右側の内壁に隠し扉のスイッチがある」
「スイッチ?」
「入って、手前のレンガを押してくれ。そうすれば、隠し扉が開く」
「カズ。どうしてわかるの?」
ハルナ殿下はカズがどうして、隠し扉の仕掛けが分かるのか疑問と同時に恐怖を感じる。
「分からない……分からないけど、頭の中に流れ込んでくる。この城の仕掛けとか、外の気候とか、北方全域の状況とかが一気に流れ込んでくる」
カズは頭を抑えながら、答えてくれた。
ハルナ殿下はカズのことが心配で寄り添う。
ズィルバーとティア殿下はカズの話を聞き、訝しげに見つめる。
「ねぇ、ズィルバー。どう思う?」
「どうと言われても、カズの頭の中に膨大な情報が流れ込んできたとしか思えない」
(千年前、メランも、一時期は膨大な情報で頭が耐えきれず、一日、二日、寝込んでしまったと聞いたことがある)
ズィルバーは千年前の親友も同じようなことが起きたのを知ってる。
知ってるからこそ、カズに起きた症例を口にした。
「とりあえず、カズが言ったとおりに、隠し扉の仕掛けを解こうじゃないか」
彼は暖炉へ歩み寄り、手を伸ばして、右側の内壁を手探りで探すと――
ガコン
なにかがはまり込んだ音が耳に入ってくる。
すると、ゴゴゴゴッと部屋全体が揺れるかの如く、暖炉の床と壁が動きだした。
床と壁の一部が消え、中を覗いてみれば、上に伸びる階段を発見する。
隠し扉ならぬ隠し階段を発見したズィルバーたちの誰もが驚きを隠せずにいる。
この部屋に隠し扉と隠し階段が存在するとは思いも寄らなかった。レンの話で聞いてはいても、本当に実在するとは考えもつかなかった。
「とりあえず、中に入ろう」
ズィルバーの呼びかけに応じ、彼らは暖炉の中に入り、隠し階段で上の階へ向かった。
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