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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
北方交流
111/296

英雄。入場準備をする。

 分厚い雲に覆われてる空。外は未だに吹雪が吹いていた。

 南に行けば、やわらかい風が吹いて、雪の中から草花が顔を覗かせて楽しげに揺れていたであろうが、北に行けば行くほど、山脈から吹き下ろす吹雪が蒼銀城(ブラオブルグ)を含めた街全体の家屋に叩きつけられる。

 朝の肌寒さに目を覚ますズィルバー。

 周りを見渡せば、皆、身を寄せ合って眠っている。

 昨日。夕食を取った後、浴場で汚れを洗い落とし、各々の部屋で寝ようと考えたが、各部屋のボロさを見て、大広間で寝ることを決めた。

 幸い、人数分以上の寝袋があったので、それを使用して眠りについた。

 しかし、眠りにつく際、間隔を詰めるかどうかで議論した。

『この寒さのことを考慮して、間隔を詰めて寝た方がいいと思うが――』

『僕も、それには同意するけど、男女に分けて寝るべきだと思う』

 ズィルバーとカズは結論づけた。

 二人としては性的で寝付けないのを考慮して、男女に分けて寝るべきだと考えた。

 全員、二人の考えに賛同したが、本音を言えば、早く、暖まって寝たいという気持ちが勝っているのだろう。

 ズィルバーとカズも皆の気持ちを汲んで、テキパキと寝袋を、間隔を詰めて配置し、さっさと眠りについた。


 そして、今、ズィルバーは目を覚ました。

 もっとも、朝の肌寒さで眠気が覚めてしまったとも取れる。

 よく見れば、暖炉の火が消えているので、熱が大広間に行き渡らなかったのだと推察する。

(このままじゃあ、風邪を引いてしまう)

 体調面を考慮し、ズィルバーはそそくさと寝袋から出て、灰となった燃え木を捨て、新しい薪を置いて、火を付けた。

 パチパチと燃える音が耳の中を木霊する。

 暖炉から発せられる熱が少しずつであるが、大広間を暖めていく。

 暖炉の熱で暖まっていたズィルバーだが、ここで大広間を見渡した。

「ん?」

 ここで、彼は一つだけ寝袋が空なのに気づく。しかも、その寝袋で寝ていたのが誰なのかも知ってる。

(あそこには、カズが寝ていたはず……そういや、カズの姿が見当たらない)

 ズィルバーは周囲を見渡し、カズの姿が見当たらないことに気づいた。

「まさか――」

 ここで、彼は“静の闘気”を使用し、気配を探る。

 気配を探ってれば、カズがどこにいるのかが分かった。

(ん? 外にいるな)

 ズィルバーが些かな疑問が生まれる。

 外は言わずもがなの極寒。精霊の加護もなく、耐寒性の服でもなければ、外に出ることすら困難のはずだ。

 なのに――

(なのに、カズは外にいる。しかも……槍?)

 彼は“静の闘気”でカズが何をしているのかを正確に把握した。

 把握したからこそ、なぜ、槍を手にしているのかだ。

「あっ!」

 ズィルバーは昨年、レインがカズに言ってたことを思い出す。

(そういえば、カズはレンと仮契約していたんだったな。だったら、外に出ても問題ないか。水属性の精霊は大抵、水分保持と耐寒性を与えられるからな。俺もレインの加護を持ってるといえど、寒さには堪える。千年前、北方の寒さに堪えたからな)

 ズィルバーは千年前、体験した北方の記憶を思いだす。

(――にしても、カズも槍か。メランに似て、槍術士として大綬するだろう。後は、レン自身がカズのことをどう思っているのかだな)

「こればっかりは当人同士の問題だな」

 カズとレン。契約者と契約精霊。人族(ヒューマン)と精霊――。

 絆を紡がせるのは、相応な努力がいる。

(俺の場合は千年前からの絆があるから問題なかっただけで、カズとレンは一から絆を紡がなければならない。レインやレンといった“五神帝”が、普通の精霊と違うのが、そこだ。普通の精霊は契約者の成長に合わせて、契約するよう促され、加護や能力強化が得られる。しかし、“五神帝”は最初から、仮契約される上に加護も与えられる。ただし、聖剣(クラウ・ソラス)などの精霊剣は本契約しないといけない)

「やはり、カズ自身が、レンの心を開かせないといけないな」

 北方を立て直すのも、レンとの絆を紡がせるのも、全てはカズ自身にあるとズィルバーは考えていた。

「う~ん」

(でも、このまま、カズを一人にさせるのも癪だし。顔でも見せに行くか)

 ズィルバーは暖炉から離れ、カズに会いに行くために大広間で出た。

 その足で向かった先は、空き屋敷の庭園。

 “静の闘気”を使用して、カズの位置を正確に把握してたので、問題もなく、歩いていく。ただし、事態が事態なので、警戒した足取りでカズのもとへ向かった。


「ハッ! ヤッ! アッ!」

 空き屋敷の庭園で、カズは一人黙々と鍛錬に明け暮れていた。

 しかも、剣ではなく、槍でだ。

 薙ぎ払い。振り下ろし。突きなどの槍捌きに庭園に来たばかりのズィルバーから見れば、

(大したものだ)

 褒め称えた。

(動きから見ても、夥しい鍛錬をしていたはずだ)

 鍛錬の際の動きから、どれほどの時間と労力を注ぎ込んだのかがわかる。

(それにしても――)

「それにしても、カズは学園の授業では、槍じゃなく剣を選んだんだ?」

 ズィルバーの中で些かな疑問が生まれた。昨年の春頃、カズが授業で使用した武器を思いだす。

(確か、カズはモンドス先生での授業の際、剣を持っていたはず……なのに、今は槍を手にしている。しかも、剣よりも動きがいい。なんでだ?)

 胸中に抱いた疑問。

 カズが剣じゃなく、槍で鍛錬をしているのか気になってしまい、息を潜め、こっそりと見続けていたズィルバー。

 カズは鍛錬をし続けていたが、積もった雪で足がもつれて転げ落ちた。

「ぐっ!?」

 カズが倒れ込んだのを見て、ズィルバーは駆け寄ろうと足が出たが、“静の闘気”による気配感知で後ろから二つの気配を感じたので首を後ろに向けば、防寒装備をしたティア殿下とハルナ殿下がいた。ズィルバーも気配の主が彼女たちだったことに胸を撫で下ろす。

「俺とカズの姿がなかったから。探しに来たのか?」

 ズィルバーは二人がここに来た理由を訊ねる。

「まあ、そんなところよ」

「起きれば、暖炉に火が灯っていたし。カズとズィルバーがいなかったから――」

「“静の闘気”を使用して、俺の位置を探り当てた、と?」

「正解」

 自分がここにいた理由を言い当てると、ティア殿下は肯定した。

「俺も起きたときには、カズがいないことに気づいてな。カズの探してたら、ここに付いたって次第だ」

「なるほど」

 と、今更ながら、ズィルバーたち三人は小声で話し、こっそりと覗き込んでいた。

 “ハアハア”と肩から息を吐いてるカズを見て、ティア殿下も鍛錬してるのかを知る。でも、ハルナ殿下だけはハアと溜息を吐く。

「根を詰めすぎよ」

 悪態まで吐かれる始末。ズィルバーは首を傾げるもティア殿下はなんとなくだが、理由が読めた。

「もしかして、ズィルバーに関係がある、ハルナ?」

 ティア殿下はハルナ殿下に確認を込めて訊ねる。

「俺?」

 ズィルバーは言葉の意味が分からず、首を傾げる。ティア殿下は彼の首を傾げたことに嘆息を吐いた後、話した。

「前に話したと思うけど、カズやハルナたちが中央の学園から地方の学園に移った話をしたでしょう?」

「そういや、聞いたな」

 ズィルバーはティア殿下からカズたちが地方に戻ったのを聞いたことがある。

「よくよく考えてみたんだけど、“地方に帰りたい”って言ったの。カズたち(・・・・)からじゃない?」

 彼女はハルナ殿下に地方へ転校しようと口にしたのはカズたちじゃないのかと考えた。

 ハルナ殿下もティア殿下の考えが正しいかの如く、頷いた。

「うん。カズの口から“北方に帰ろう”と言ってきたの。最初は“どうして、北方に帰りたい”のか。理由を聞いたの。そうしたら、カズはなんて言ったと思う?」

 ズィルバーとティア殿下は、その時のカズの心境を理解し、気まずそうな表情になる。

「“もうこれ以上、惨めになりたくない”、そうよ。私も最初に、その理由を聞いたとき、カズの気持ちや痛みが分かっちゃった。私も同じ気持ちを抱いてた」

「「…………」」

 ズィルバーとティア殿下。二人はカズとハルナ殿下いや、地方に帰った彼らの気持ちを今になって知った。

「私もね。ズィルバーとティアが学園中で人気者になっていくのを見て、惨めな思いをした。二人が気づいていないだけで、周りの生徒から陰口とか言われたことがあってね。カズの場合はズィルバーとの比較がされすぎてて、けっこう、惨めな思いをしたそう」

「…………」

 ハルナ殿下に言われるまで知らなかったズィルバーは思わず、絶句する。

「驚いたでしょう。だから、カズは中央にいたくなくて、“北方に帰りたい”と口にしたのよ」

「ふぅ~ん。だから、夏休み明けにキンバリー先生が教えてくれたってわけね」

(私。その時、あまり深く考えていなかった)

 ティア殿下は当時、あっけらかんと尊大な対応をしていたのを思いだす。

「北方に帰っても、カズは一人で黙々と力を磨き、学を積んでたそうよ。“全てはズィルバーに勝ちたいから”って言って頑張っていたの」

 ハルナの話を聞き、ズィルバーは納得するも、些か、疑問が生じる。

「じゃあ、なんで、カズはあいつらをまとめ上げたんだ?」

 彼はカズのもとに集う“問題児”たちに疑問が生じる。

 ティア殿下は彼に言われて、“そういえば、そうね”と首を傾げる。

「ああ、彼らは昨年度の終わり頃、努力に励んでいるカズを、北方を統治するレムア公爵家の跡取りが妬ましいという理由で喧嘩を売ったそうなんだけど。カズが見事に返り討ちにしちゃって――」

「「あぁ~」」

 ハルナ殿下から事情を聞き、半目になるズィルバーとティア殿下の二人。

「力で説得しちゃったのか」

「いや、もしかしたら、ズィルバーのように力で屈服して、その実力を買って、仲間にしたって可能性だってあるよ」

 ズィルバーは力で納得させたのかと思ったが、ティア殿下は彼がノウェムたちにしたのと同じように力と言葉だけで仲間にさせたという考えていた。

「いや、そんなはずが――」

「ティアの言う通りよ」

「――マジか!?」

 信じられなさそうに驚くズィルバー。彼を無視して、ハルナ殿下はティア殿下に事情を説明した。

「ちょうど、秋口の頃、中央でとんでもない事件があったでしょう」

「あっ、“獅子盗賊団”との一戦交えたわね」

「もう少し、正確に言えば、ティアたちが風紀委員を設立した時期。メンバーの名字を見て、不思議に思っちゃった。極悪人の血を引いてる同級生を仲間にしちゃうズィルバーくんに――」

「おい、それはまるで、俺が変人みたい聞こえるんだが?」

「変人でしょう」

「ひどくない!?」

「まあ、ズィルバーが変人に思われるのはしょうがないけど」

「ティアもなにげにひどくない!?」

「あと、ズィルバーはちょっと黙ってて」

「…………」

 ズィルバーはティア殿下から黙るように言われてしまい、隅っこでいじけ始めた。

 ティア殿下とハルナ殿下も彼を無視して、話をし始める。

「事件が起きた頃に、カインズたちがカズに喧嘩を売って返り討ちにしちゃった」

「そこで、仲間にしちゃって、街にいる傭兵団の団員たちを追い出しちゃった、というわけ?」

「うん」

 ティア殿下の応えに頷いたハルナ殿下。

「ふぅ~ん」

 妙に納得のいく感を見せる彼女。

 と、変わったガールズトークをしていると、カズが立ち上がり、槍を手にして、再び、鍛錬に励み始める。

 しかし、鍛錬を再開しようとしたところで、思わぬ割り込み者がやってきた。

「精が出てるね」

 物陰からカズを見てたレンがカズの前に姿を見せる。

 カズは息を整えつつ、不謹慎そうにレンを睨んでいる。

「なんのよう?」

 訊ねてくる。勝手に見られて、カズとしては気分が悪い。

「別に、ただ、精が出てるね。と、思っただけ。でも、明らかに無茶をしてる。身体ができていない状態で、これ以上の鍛錬は将来を棒に振ってるのと同じよ」

「余計なお世話だ。僕には、強くなりたい理由がある」

 カズはレンの忠告を無視して、再び、鍛錬に入ろうとした。だが、槍を振るおうとした途端、またもや、足がもつれてバランスを崩して、降り積もった雪の上に座り込んだ。

 レンは分かりきってたことを口にする。

「ほら、言わんこっちゃない。今の貴方は無駄に酷使してるだけ。今、すべきことは安静する!」

「キミになにが分かる!!」

 レンに指摘され、神経を逆撫でされたのかいざ知らず。カズは怒鳴ってくる。

「分かるわ」

「……ッ!?」

「私は精霊。しかも、あなたと仮契約した精霊よ。あなたが普段、()()()()()()()()()()のか分かってるつもりよ」

 レンに気持ちを気づかされ、カズはギリッと歯軋りした。

「精霊の私が言うのも烏滸がましいと思うけど、今のあなたを見ると、先祖に似ている部分がある」

「先祖? 初代様のこと?」

「ええ、メランはとことん負けず嫌い。特にヘルト様だけは負けたくない思いがあった」

 カズはレンの話に耳を傾ける。

 彼女の話は覗き見ていたティア殿下とハルナ殿下そして、ズィルバーも盗み聞いた。

「メランはあなたと同じように、ヘルト様に対して、対抗心を剥き出しにしていた」

「僕の先祖が――」

「レイ様から聞いたことだけどね。メランはよく、ヘルト様に勝負を吹っ掛けていたわ」

「僕とご先祖様は一緒じゃない」

 カズは自分がメランなる人物と似ていないと言う。

「確かにね。でも、似てるところはあるよ」

「どこがだ」

「まず、負けず嫌い」

「うぐっ!?」

「次に、剥き出しじゃないけど、対抗心を抱いている」

「うぐっ!?」

「形を変えての、ズィルバーに勝ちたいという欲がある」

「うぐっ!?」

「あれ? 言ってみれば、あなたはメランに似てるところが多いわね」

「僕はご先祖様に似てない!!」

 カズはレンに今、自分が抱いてる感情を見抜かれてしまい、感情が爆発し、怒鳴り散らした。

「似てる、似てないなんて、この際、良いじゃない。でも、あなた、北方が好きでしょう?」

「な、なんだよ、急に……」

「北方を本気で好きな人が、あんな発言をしない」

「あんな発言?」

「あなた、自分で言ったでしょう。“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。その言葉は本当に北方を愛してる人じゃなきゃ、言えない言葉。自分が生まれ育った場所。白銀の雪原。自分にとって大事で、失いたくない場所。“魔王傭兵団”なる外敵に、北方を汚されたくないって思ってないと、あのような発言はしない」

 レンにそこまで言われて、カズは急に恥ずかしくなったのか。顔を赤らめてしまう。

「でも、僕に、北方を守り切れる自信が……」

「何でもかんでも、全部、一人で解決しようと思わない。そのために仲間がいるんでしょう。仲間を信じてあげなさい。あなたの部下は、それほどまでに弱いのかしら?」

「そんなことはない。僕の部下はズィルバーたちにも負けない屈強な奴らだ」

「だったら、最後まで彼らを信じなさい。全部、一人で解決しようと思わない。貴方は一人で解決できるほど、自信がない。なら、仲間を信じなさい。強いんでしょう。あなたの仲間は――」

「もちろんだ。カインズたちは誰にも負けん」

「だったら、その強さを北方に知らしめなさい。“北方に漆黒なる狼シュヴァルツ・ヴォルフあり”。それが、あなたがズィルバーに負けられない唯一無二の強みになるでしょう」

「…………」

 レンに言われて、納得がいくところがあったのか。胸中に抱いていた蟠りが消え去った。

 それはまさに、嵐が過ぎ去り、峠を越えたかのように――。


 盗み聞いてたズィルバー、ティア殿下、ハルナ殿下の三人。

 特に、ズィルバーはレンの言葉、話に納得する部分があった。

(そう。メランは俺に対して、対抗心を剥き出しにしていたし。勝負も吹っ掛けられていた。俺はメランから、そのいろんなことを学んだ。“なにごとにおいても自分は勝っている自信”、“諦めずに挑んでくる忍耐力”を学んだ。あの自信と忍耐力があったから。北方は屈強とまで呼ばれるほどに成長した。メラン自身は人一倍の努力家だ。俺が知らないところで武芸や勉学に励んでたのをレイから聞いた時、それがメランの強みなんだなと知った)

 千年前、ズィルバーはメランの強みを知って、尊敬し、背中を預けれると思った。

(まあ、口にはしなかったが、行動から分からされたのだろう)

「全く……俺もカズも不器用だな」

「ズィルバー。なにか言った?」

「いや、なにも」

 ズィルバーはなにごともなかったようにカズとレンを見ていた。


「とりあえず、背中を向けなさい。治療するから」

「レンは治療ができるのか?」

「レインほどじゃないけど、簡単な治療ができる。今は身体を治しておきなさい」

「レンはどうして、目を覚ましたんだ?」

(僕のことをどう思ってるんだ)

 カズは本心を隠したまま、訊ねる。

「私だって、今、目覚めるべきじゃないと思ってた。仮契約してるあなたが私を扱えるだけの強さを得られるまでね。でも、こうして目覚めたからには私はあなたを見定めてもらう」

「見定める?」

 レンが言う“見定める”とはどういうことなのか。カズは疑問符を浮かべる。

「契約するに相応しいか否かね」

「契約するに相応しいか、ね」

 カズは自分に契約するに相応しいのかをレンから問われた。

「正直に言えば、私たちに精霊にだって、契約した人を選ぶ権利はある。精霊は契約者の人格、才能、実力などのさまざまな面で推し量ろうとする。最終的に精霊は相応しい使い手と契約する」

 レンが明かしてくれる精霊との契約する際のいくつかの条件。カズは条件を聞き、自分に当てはまるものがないと悲観視してる。

「でも、それは普通の精霊。私たちは“五神帝”だけは別。私たちは使い手たる一族からヘルト様のような人物を選定してる。レインの場合はヘルト様。私の場合はメランよ」

「じゃあ、なんで、父さんじゃなくて、僕に仮契約や夢で話しかけたんだ」

 カズは夢で自分に話しかけてくるレンの声に疑心を抱いていた。

 “う~ん”と頭を捻らせて、レンは考え込むも

「分からない」

 と、答えた。

「私にも分からない。でも、あなたからはメランの面影を感じたからかな」

「面影……」

 偉大なる人の面影。カズには自分は似てるのかと頭の片隅に追いやってしまった。

「これで、治療は終わり」

 レンはカズの治療を終え、カズも自分の身体を確認する。

 彼は手を開いたり、閉じたりして、身体の調子を確認する。

()()()()()()()()()

「一応、応急処置みたいなものよ。後で、治癒魔法ができる人に診てもらいなさい。かなり、骨が軋んでいたから」

 レンは医師や治癒魔法師に診てもらうように進言し、カズはそれを了承する。

 でも、彼女は彼の身体を見て、違和感を持つ。

(なんてことを口にしたけど、明らかに傷の治りが早い。かなり、身体を無茶してるはずなのに――“()()()()()()()()()”だって? 冗談じゃない。常人だったら、早くて一週間。長くて一ヶ月はベッドの上で絶対安静のはず)

 レンはカズの異様な回復力に身の毛がよだっている。

(全く、メランにまで似た異様な回復力。諦めない忍耐力。北方を愛する心。後は、今までの努力を裏付けるだけのきっかけ、自信を持てば、本契約してあげようかしら)

 レンはカズの今後の成長を加味し、契約に踏み切ろうと決断をした。


 レンによる治療を終えたカズは時間も時間なので、朝食を取ろうと屋敷に戻ろうとしたとき、彼は見てしまった。物陰でこっそりと見ていたズィルバー、ティア殿下、ハルナ殿下の三人を――。

「「「…………」」」

 三人は覗き見していたのがバレてしまい、身体が固まってしまう。

「…………」

 対して、カズも見られていたのかと知り、恥ずかしさで顔を赤らめ、俯いた。

「い、いつから……」

 顔を俯かせたまま、尋ねてくるカズにティア殿下とハルナ殿下が言い淀んでる中、ズィルバーが正直に答えた。

「カズが鍛錬をしてた辺り――」

「ほぼ最初からじゃないか!!?」

 頭を抑えながら、叫ぶカズ。彼女たちは“なんで、話した”と表情から見てとれる。

「うそをついても無理だと思うよ。慎重深いレンが本音を聞こうと凍らせてきそうだし」

 ズィルバーは半目にしつつ、レンに視線を転じれば、彼女から発せられる内在魔力(オド)に当てられ、息を呑んでいた。

「あら、レインの契約者だけあって、私の性格を知ってたのね」

「ま、まあね」

(実際、千年前、秘密の会話を聞かれた際、冷静な彼女も怒ってしまうのを知ってたからな)

 ズィルバーはタラリと汗が頬に流れ落ちた。

 内在魔力に当てられ、神経が凍りそうになるのを、ズィルバーは気を張り詰め、内在魔力で対抗してた。

「ふぅ~ん」

 レンは訝しげにズィルバーを見る。

内在魔力(オド)で対抗するね。その手の対応がやっぱり、ヘルト様にそっくり。まさかとは思ってたけど……この少年が、あの方(・・・)としか――)

 彼女は推測に推測を重ねて、一つの仮説に思い至った。

 だが、彼女は恥ずかしげに顔を俯かせるカズを見て、“しょうがないわね”と嘆息ついた。

「ひとまず、朝ご飯を食べましょう。お腹が空いてきたし」

 屋敷に戻るよう、彼らに告げ、ズィルバーたちも“そうだな”と頷いた。




 暗い。そこは、この世でもっとも、寂しく、孤独を感じさせる漆黒の世界。

 漆黒の世界にポツンと灯る篝火。

 篝火に集いし者は六人。彼らは篝火を前に話し合う。

「かの少年が、北方へ向かった」

「北方。ライヒ大帝国の中で屈強な戦士ばかりが集う北国」

「ケッ。北方といや、メランの故郷」

「メラン。北方の大将軍にして、屈強なる北方へと変えた立役者。そして、彼も真なる加護を持つ大英雄」

「ケッ、海洋神(ポセイドン)。あなたが余計なことをしちまったから。魔族(ゾロスタ)は攻めれなくなっちまったじゃない」

 女は怒気を発し、海洋神(ポセイドン)なる人物に飛ばす。

「いやね。あなたが激情するなんて()()()()()()()のに気づかないの?」

「黙りなさい。ゲス女。あなたに美徳を追求する義理はない!」

 一触即発の空気を醸しだす中、リーダーと思われる男が

「静まれ」

 圧のある言葉で彼女らを黙らせる。

「北方は今、“魔王傭兵団”が支配させようと使いを送らせた」

「なんと、大神様はそこまでのことを――」

「失敗したとしても、アキレスを向かわせた。時期に吉報が来る。その時まで待て」

「はい」

 篝火が消え、漆黒の世界が闇に閉ざされてしまった。




 暖かい。春うららかな世界。温かな風。心が安らぐ花園。

 花園に集いし六人の男女。

 中心となる人物、エメラルドグリーンの女性。

 彼女を筆頭に六人の男女が円卓に取り囲んで座っていた。

「北方が荒れ出したようだ」

「北方。屈強伝説を残したメランの領地ね」

「かの地はライヒ大帝国でもっとも過酷な環境。千年前よりも北方が厳しくなっておられる。このままでは、ヘルトとて。死んでしまうぞ」

「ええ、そうでしょうね」

 ここで、エメラルドグリーンの女性――守護神(アテナ)はメランとレンの姿を思い浮かべる。

「ですが、メランの子孫とレンが復活し、契約さえすれば、北方は再び、屈強伝説を築きあげることでしょう」

「しかしだね。守護神(アテナ)よ。精霊レンは冷静沈着かつ慎重深い。いくら、メランの子孫とて。そう簡単に契約できるとは思えん」

 他の方々が守護神(アテナ)の考えを少々否定する。

「どれほどの時が経っても、彼らの意志と魂は継承し続けます。大丈夫。二人は必ず、契約を果たし、北方を守り通すことでしょう」

 彼女はメランの子孫――カズとレンがともに手を取り合って、北方を守り通すと確信していた。

守護神(アテナ)――」

 他の者たちも彼女の述べた意見を覆せるだけの意見がなく、鵜呑みをせざるを得ない。

「人と精霊は本来、手を取り合って、共存し合えます。それを壊してしまったのが、()()()()()。だからこそ、取り戻さないといけない。自分たちが撒いてしまった種を、芽を摘み取らなければならない。そう、それが私たちの責任です」

 彼女は自分たちが犯した罪を償う意志を持って、動いている。その意志、その覚悟を理解してる軍神(アレス)を含めた五人が人一倍に理解していた。

「あら?」

 ここで、守護神(アテナ)は使い魔越しにかの少年――ズィルバーを見ていた。

「どうした、守護神(アテナ)

 軍神(アレス)守護神(アテナ)に話しかける。

「どうやら、ヘルトがメランの居城に入るそうよ」

「あの男の城か」

「北方最大の砦にして、要。ライヒ大帝国を魔族(ゾロスタ)からの脅威を退けてきた」

「千年の時が経とうと、あの城は落とされてはならぬ」

「こればっかりはメランの子孫にかかっている」

 守護神(アテナ)軍神(アレス)を含めた六人は全ての鍵を握るメランの子孫――カズしかいなかった。

「北方を統べるのはメランの血族のみ。他の血族では統治できん」

「でも、千年前、彼は()()()()()()()()を残して、死んだのよね」

「とんでもないもの?」

「レンがいないと、蒼銀城(ブラオブルグ)の本来の用途を成し得ないはず――」

 守護神(アテナ)は千年前、メランに頼まれて、そのように細工するよう頼まれたのを思いだす。

「あの男もなんてことをする」

「北方を守るために、そこまでのことをするとは……なんて男だ」

 軍神(アレス)らは大英雄メランの覚悟を思い知られた。

「死してなお、北方のことを思い入るとは……彼奴ら(・・・)は常識の枠を飛び越えてる」

 軍神(アレス)らは彼らの考えは計り知れないと鳥肌が立った。

「しかし、メランと言えば――」

「どうした?」

「いや、メランは海の神――海洋神(ポセイドン)の真なる加護を得た男。海上において、無類の強さを発揮する。だが、北方で海上となれば、北海しかない。あそこまで行くのは不可能に等しいぞ」

 男が北方の危機感を募らせるも、守護神(アテナ)は“問題ない”と言い返した。

海洋神(ポセイドン)の真なる加護には隠された加護があってね。メランは、それに気づいて、北方を守り、統べる道を選んだのよ」

「なんだと!?」

「たぶん、ヘルトだったら、気づくわ。極寒が弱点にならない。むしろ、強みになる」

 守護神(アテナ)は加護に口で教えたのとは違う効力が発揮すると言った。

 軍神(アレス)らは守護神(アテナ)が言ってる意味が分からず、首を傾げるしかなかった。




 朝食を食べ終えたところでズィルバーたちがいる屋敷にレムア公爵家の使いが来た。

「カズ様。居城へお越しくださいますようお願いします」

「分かった」

 カズも使いの者の指示に従い、支度を整える

「ズィルバー殿。ティア殿下、ハルナ殿下もご一緒にお願いします」

「分かった」

 使いの者はズィルバーたち三人にも城に来てもらうよう言われてしまい、三人も支度を整える。

 支度を整えた四人は吹雪いている中、手配してくれた馬車に乗り込み、居城へ向かう。

 なお、向かう際、レインは小鳥の姿になって、ズィルバーの右肩にちょこんと座り、レンに至っては――

「小型犬ならぬ小型狼になって、カズの膝に頭を乗せてるとは――」

「精霊って、姿の使い分けがいいよね」

「羨ましいかぎり」

 レインで見慣れてるかと思いきや、レンの小型狼になったのを初めて見たという呈を見せていた。

 カズは自分の膝に頭を乗せる小型狼――レンの滑らかな毛を触るとモフモフと羽毛のような感触に見舞われる。

 カズはモフモフとした感触に

(意外にも肌触りがいいな)

 と、薄青色の毛並みをモフり続けてた。モフり続けるカズにハルナ殿下がウズウズと“触りたい”、“モフりたい”と願望が溢れ出していた。

 ティア殿下もモフりたい欲を抑えていたが、ズィルバーが見かねて、小鳥になったレインを眼前に近づけると彼女は優しく手にとって、優しく撫で始めた。

 と、何やら、混沌とした雰囲気の中、ズィルバーたち四人を乗せた馬車は蒼銀城(ブラオブルグ)に到着したのだった。

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