聖帝と氷帝の懐かしき痴話喧嘩
“魔王傭兵団”を北方から追い出す打開策の兆しを見出したズィルバーたちはゲルトに言われて、急遽、用意してくれた空き屋敷に向かった。
吹雪も若干、弱まったことで辛うじて、歩けるぐらいには収まっていた。
空き屋敷まで来たところで、ズィルバーは立ち止まると頭上を見た――目の前にユキで積もった三角屋根の空き屋敷が建っていた。
「えらくデカいな」
「元々、ここは商会の本部だったそうだが、数年前の事件で経営が成り立たず、商会を辞めることになったらしい」
「取り壊そうとか考えなかったのか?」
「更地にするより、倉庫として流用した方がなにかと安くつく。“維持費も微々たる物だ”と父さんが言っていた」
「なるほど」
ジノがノックをしてから扉を開けて、ズィルバーとティア殿下、カズとハルナ殿下が入り、ニナたちが四人を背中に庇うようにして、内部を進む。
気配は複数。息を潜めてうまく身を隠してはいるが、まだまだ修練が足りない。
「俺たちだ。全員出てきてほしい」
その声に反応して、複数の男女が出てくる。彼らはズィルバーとカズの前で跪くと頭を下げた。
「ズィルバー。ご無事でなにより」
「本当だよ。委員長に何かあれば、カルラさんに怒られちゃう」
ハクリュウと女の子が親しげに声をかけてきて、シュウは礼をそこそこに立ち上がった。
「ズィルバー。まずはご無事だったことを喜ぶよ。でも、悠長に時間も残されていないので、まずはお互いの状況を確認と行きたいと思うが?」
「ああ、俺もいろいろと聞きたいことがあったからな。城を出た後の街の状況とかあまり分からないからな」
「じゃあ、まず、僕たちは容易く城を抜け出すことができた」
ズィルバーたちが食事会に参加し、学園と北方を巡る陰謀に巻き込まれてる頃、街でも異変が起きたらしい。
潜伏していた傭兵団の団員たちが街道を行き交い、貴族や商人の屋敷へ向かったそうだ。
しかし、厳重な警備を敷かれることはなく、目的を達した団員たちは街の外に向かった。
そして、城からも続々と団員たちが飛び出し、その中にはウルルたちも含まれていたそうだ。
彼らの行く先は北に向かっていった。
「よく分かった。次は俺たちの方だ」
ズィルバーはシュウに労いの言葉をかけてから、城で起きたことを話す。
「なるほど。副学園長が傭兵団と手を組んでいた。しかし、最終的な目的があわずに殺されてしまった。学園長も不在。とすれば、北方を統べるにはレムア公爵家の力が必要不可欠ですね」
「それと、ズィルバー。街の様子に気づいていたか?」
「そういえば……俺たちが逃がしたというのに傭兵団の姿を見かけなかったな」
「確かに、父さんもそんなことを言っていた」
「だろうな。街を堕としたわけじゃない。ほとんどが北海へ向かったそうだ。その数は五百を超えているかもしれん」
「街を堕とさずに、北海へ?」
「まるで、総力をもって、ここを潰そうと考えてるみたいだ」
「それが妥当だろうな」
ズィルバーとカズは二人で“蒼銀城”を落とそうとしか見えなかった。
「裏を返せば、自信の表れ。俺たちなんぞ、目じゃないってことだ」
「もしくは、壁を破壊するために全戦力を投入せざるを得ないのか」
カズが発言したことで、皆の視線が彼に向けられる。
「屋敷で話した巨大な壁は初代様が建造して以来、壊れることもなかった。壁の一部が崩落するきっかけになった“教団”との事件以降、壁周辺で犯罪者が往来してるのも、壁としての力がなくなってるんだと思う」
「壁が崩壊すればどうなる。カズはわかるか?」
ズィルバーが問えば、カズは迷うことなく口を開いた。
「崩壊した壁から北国が押し寄せてくる。そうなれば、確実に北方は終わる」
「ズィルバー。中央にいるお父様に救援を求めるべきだと思う。皇室親衛隊の力を借りるべきよ」
ティア殿下の提案は悪くはないが――
(なるほど。そういうことか……)
ズィルバーはなぜ、中央の学園と地方の学園との交流を考えたのか理由が分かってきた。
今に至るまでの違和感が脳裏に連鎖していくことで答えが生み出される。
「中央。皇宮は、このような事態になることを読んでいたかもしれんな」
「学園長と副学園長の仲の悪さも、副学園長が内乱を起きるのを知ってたと?」
でなければ、説明できないことが多すぎる。夏期休暇を利用して、北方との交流を提案したのか。昨年から著しい活躍を見せ続けるズィルバーたちを学園の特使に近い扱いで派遣するはずがない。
ズィルバーたちの存在が煩わしいと思うのであれば、ファーレン公爵領の領地開発に尽力させるよう放り込めばいいだけの話だ。
おそらくは、北方との交流で内乱の火種が中央ないしは皇宮に降りかかる前に対処しようとしたのだろう。
ズィルバーたちが人質に取られても、殺されても、大義名分を得て、皇室親衛隊や軍を送り込ませ、北方と協力し、短期決戦を仕掛けるつもりなんだろう。
(そう思い通りにさせないがな。北方はメランの領地だ。滅ぼすわけにはいかない)
ズィルバーは千年前の知識を総動員して、傭兵団を北方から追い出す算段を必死に模索した。
そして、カズとレンを見て、ズィルバーの頭に妙案が浮かぶ。
(これはもう一度、北方を屈強な地方に戻すべきだな)
「中央に救援を求める必要はない。俺たちは殺害されていないし。今回は副学園長が“魔王傭兵団”と手を組んだ上での暴走であり、学園長並びに北方の本意ではない」
「じゃあ、どうするの?」
「俺たちが傭兵団を北方から追い出すしかない。傭兵団の戦力、メンバーの戦い方を知ってるのは中央にいる親衛隊本部、北方の諸侯、そして、ここにいる俺たちだけだ。だったら――」
「子供の私たちで傭兵団を追い出し、反乱を鎮圧させるしかない」
「そう言うこと。ただし、それを成就するためにも、学園となった城を取り戻すことが最優先だ」
ズィルバーは優先すべき事項を告げ、口元に薄らと笑みを浮かべた。
ライヒ大帝国中央部――大帝都。皇宮では多少の混乱の嵐が吹き荒れていた。
諜報機関――聖霊機関からもたらされた情報が皇宮に集まる貴族たちをざわつかせる。
「北方で内乱が起きたらしいよ」
「親衛隊は何をしている!?」
「噂じゃあ、学園の北方支部、副学園長がクーデターらしいぞ」
「面倒なことを引き起こしやがって……」
と、いろんな貴族が右往左往し、北方の学園長と副学園長へのバッシングがひどかった。
死んだというのに、バッシングに遭うとはなんとも憐れとしか思えない。
帝の間では、皇帝とガイルズ宰相が椅子に座って、北方で起きようとしてる内乱の火種を聖霊機関に調査させ、その情報を今、仕入れたところだ。
「北方の学園。学園長と副学園長へのバッシングが止まりません」
「構わぬ。此度の引き金は学園長と副学園長に責任がある。内乱が終われば、学園長と副学園長の家族諸共処断する」
「聖霊機関に暗殺の依頼を出しておくよう手配しておきます」
ガイルズ宰相は処理活動を皇帝に進言した。皇帝も“それで構わぬ”と言外に言わずに頷いた。
「それにしても、あの少年の行くところは事件ばかりが起きるな」
「ファーレン公爵家次期当主――ズィルバー・R・ファーレンのことですか?」
「あの少年以外に誰がおる」
「申し訳ございません」
「よい。其方が疑ってしまうのもしかたあるまい」
皇帝はグラスのワインを揺らしながら、クツクツと笑みを零していた。
「陛下。北方の処遇はいかがいたしましょう」
「レムア公爵家に一任する。聞けば、学園の長も城の長たるレムア公爵家が引き受けよう賭したのを横槍しおったバカ共のせいで、このような事態になりおったのだ。本来、地方の城は“五大公爵家”だけの物。余所者が占有するものではない」
皇帝は皇帝あるまじき発言、北方の学園長と副学園長に侮蔑の言葉を言い放つ。
「陛下。そのような発言は自分の前では良くても、ご家族、民たちの前では控えるようお願いします」
ガイルズ宰相は発言の仕方を忠告する。
「そうだな。すまぬ」
皇帝も発言の不備を認め、慎むことにする。
「しかし、陛下は北方と言えば、“魔王傭兵団”の拠点があります。此度の反乱の火種は副学園長が傭兵団と手を組んだのが次第。北方の問題が終わり次第、聖霊機関に査察団として派遣すべきだと思います」
(いくら、レムア公爵家だろうと、此度の内乱で力に自惚れて、中央を攻め込んでは敵わない)
ガイルズ宰相は国の先行きを案じていた。
「心配することもあるまい。ゲルトは、そのようなことを考える輩ではない」
「ゲルト公爵卿は、そうであっても、跡取りのカズ殿はいかがなものかと」
ガイルズ宰相はカズが将来、中央を襲い、国を乗っ取るのではないのかと危惧してる。
「ガイルズよ。其方の言いたいことも分かる。案ずるな。あの小僧も、そのようなことを考える輩ではない」
「陛下。それは、あなたの主観であります。根拠にはなりません」
ガイルズ宰相は皇帝の言葉に信じられず、鵜呑みにできない。
「主観か。いや、主観ではない。客観だ。カズ・R・レムアは北方のことしか考えておらん」
「北方のことしか考えていない、ですか?」
「うむ。地方は広い。地方を統括する者は地方のことで精一杯なのだ。余には分かっておる。ガイルズよ。北方の反乱を鎮圧せし次第、支援を送れ」
「御意」
ガイルズ宰相は皇帝の命令を受け、席を立ち、帝の間を退出した。
吹き荒ぶ風が吹いていた。猛吹雪が窓を叩きつけてる中、ズィルバーたちは各自の自室で暖を取ってるよりも大広間で暖を取ってた。
ズィルバーは窓を叩きつける吹雪を見て、ブルリと身震いした。
「外は未だに吹雪いているぞ」
「今回の吹雪は明日の夜頃まで吹雪いてるって話だからな」
「吹雪が吹雪く原因は分かってるのか?」
「一応は調べがついてる。北海周辺の山脈から吹き下ろす風が大量の雪を巻き上げてるらしい」
「マジか。俺たちが向かう先の北海は山脈から吹き下ろされる風を受けながら、向かっていくっていうわけか」
ハアと嘆息混じりに悪態をつく。
だが、このタイミングで来てはいけないものがズィルバーに襲いかかった。
「……ッ!?」
(このドロッとした感覚……まさか……)
ズィルバーは今、自分の身体に押し寄せてきている感覚に苛立ちを覚える。
(……ったく、こんなタイミングで来るなんざ。いい意味でも悪い意味でも、嫌な体質だぜ)
どうやら、月齢期だったらしく、ズィルバーの生まれ持った体質――両性往来者より、身体が反応し、身体の内部のホルモンバランスと性別が逆転する。
自分の身体の変化にズィルバーは顔を真っ青にする。
(あれ? 胸……ちょっとだけ大きくなっていないか?)
ズィルバーは自己魔力調整をしつつ、身体の変化に確認する。
(まさか、この一年で身体が成長し、徐々に女らしく、男らしくなっているのか!?)
サァーッと顔を真っ青にし、ゴクッと生唾を呑み込むズィルバー。
しかし、周りはズィルバーの心境なんか関係なく、彼の違和感に気づく。
「ズィルバー。顔色が悪いけど、何かあったのか?」
カズが訝しげに見てくるも
「何でもない。ちょっと、体質が出ただけだ」
ズィルバーは顔色が悪いまま、自分の異能体質が出たと告げる。
「「「えっ!?」」」
ズィルバーの異能を知るティア殿下、カズ、ハルナ殿下は顔が強張る。
「なんで、こんなタイミングで!?」
「俺に聞くな。俺の体質は外界からの影響を受けやすいんだからな」
「ふぅ~ん。体調は?」
「自己魔力調整で魔力を調整してるが、まだ、本領にまで回復しきれていない。だから――」
ズィルバーは懐で暖を取っている小鳥――レインを取り出す。
「いつまで寝てる、起きろ」
声をあげて、レインを叩き起こせば、小鳥が光りだし、人型に戻ったレイン。
「ん~。なによ、寒いんだから。もう少し寝かせてよ」
「なに、天然じみたことを言ってる。レンから説教を受けるぞ」
「えっ? レン?」
タラリと汗が頬を流れ落ちる。
「まっさか、あの慎重すぎるバカレンが目を覚ましてるはずがないじゃん」
颯爽とレインはレンへのバカにする。
(棒読みだし。空笑いなんだが)
ズィルバーは自己魔力調整をしつつ、呆れ返っていた。
「へぇ~。“慎重すぎるバカな私が目を覚ましてるはずがない”ねぇ~」
大広間に冷風と聞き覚えの声が吹かれる。
しかも、声音に至っては冷たい声音。明らかに怒ってるのがまるっきり分かってしまった。
レインもビクッと背筋を伸ばし、ガタガタと震えだす。
「あら、どうしたの? 生まれたての子鹿のように震えちゃって」
今度はレンがレインをからかいだす。
「なによ、レンだって、ビクビクしながら聞いてくるじゃない」
いつの間にか、レインは震えが止まり、からかい返した。
「はっ?」
ビキビキと額に青筋を浮かべ、目が次第に笑わなくなるレン。
「私が“ビクビクしてるです”って、天然アホレインがよくそんな言葉を覚えたものね」
「はっ?」
レンの言い返しに、レインも目が次第に笑わなくなり、額に青筋を浮かべる。
「私が子鹿のように震えると思う。冷静沈着が売りのレンが随分と幼稚な言葉を言うものね」
レインとレン。互いに言ったことを理解し、解釈したところで――
「「あ゛っ!?」」
額をこすりつけ、睨み合う。
『…………』
いつの間にか、険悪な空気になったレインとレンを見てるズィルバーたちが唖然としていた。
あの空気を醸し出す二人に声をかけていいものか困っている全員。
「ズィルバー。なんとかできないのか?」
カズが小声でボソボソと訊ねるも
「痴話喧嘩だ、諦めろ」
ズィルバーは止める気すらなく、自分の体質の副作用による体調を安定するため、自己魔力調整に専念した。
「あれが、痴話喧嘩?」
「どう見ても、痴話喧嘩に見えないんだけど」
ティア殿下とハルナ殿下はレインとレンの口喧嘩が痴話喧嘩には見えなかった。
ズィルバーからしたら
(変わらんな)
という心境だった。
(レインとレン。いや、彼女たちは千年前から、頻繁に喧嘩するのが日課だった。契約者の俺やメランたちも、子供らしい痴話喧嘩としか思えなかった。だから、止める必要がない。それに――)
「それに、レインとレンは口ではああ言ってるけど、仲はいい方だぞ」
仲がいいと豪語するズィルバーに
「「仲良しなんてならない!!」」
二人とも声を揃えて、ズィルバーに怒鳴りつける。
「ほらな。二人とも仲がいいだろう」
「いや……」
「仲がいいとは、とても……」
ティア殿下とハルナ殿下はレインとレンが、とても仲がいいとは思えなかった。
「いやいや、よく言うだろう。“喧嘩するほど仲がいい”って……だから、あんな痴話喧嘩ができるんだよ」
ズィルバーから見れば、レインとレンは仲がいいからこそ、喧嘩をするのだという認識であった。
(俺としては容体を安定することが優先だ。二人の喧嘩なんざ。心底どうでもいい)
ズィルバーにとって見れば、“口喧嘩は余所でやれ”という心境。今の彼は魔力循環系を安定させることで精一杯なのだ。
ズィルバーは自己魔力調整をしつつ、自身の魔力循環系を確認する。
(リヒトが残した遺産での修行のおかげで自己魔力調整による魔力循環系への順応も良くなっている。でも、年相応の順応だ。こればっかりは、この身体の成長を待つほかないな)
自分の身体の容体が安定してきたのを見計らって、“フゥ~”ッと息をついた。
「ズィルバー。身体はもう大丈夫なの?」
ティア殿下が心配そうに詰め寄ってくるも
「ある程度、身体の調子が良くなった。今のところは問題ない」
「でも、いつ、容体が悪化するか分からないから。今日は早めに寝なさいよ」
「……分かってる」
と、彼女からしたら、心配でいっぱいなので、寝る時間や食事の取り決めなどを考えないといけなかった。
「分かってないじゃない!。ズィルバーは私の言いつけ聞かないでしょう! 前に本を読んでたあんたに“そろそろ、帰りなさいよ”って言ったのに、委員会本部に帰らず、学園の大図書館で寝ていたのを誰よ!」
「だから、あの時は悪かったって――」
「悪かったと思ってるのなら、しっかり、生活習慣を改めなさい! あんた、根を詰めすぎなのよ!」
ズィルバーを心配していたのに、次第に説教をし始めるティア殿下。
ズィルバーも“もう聞きたくない”と耳を塞ぐ始末。
「耳を塞がない!」
ティア殿下は耳を塞いでる手を取って、説教を再開する。
ティア殿下の説教ぷりを見て、ハルナ殿下はカズを見て、
「この際だし。カズの悪癖を直しておかないとね」
ジロリと睨みつける。
ビクッと身震いするカズ。
「は、ハルナ……」
冷や汗を流し始めるカズ。
「カズもいい加減に寝る時間の規則性を持ちなさい! いつも、起こす私の身にもなって!」
「いや、ハルナ。最近は規則的に寝てるぞ」
「起きる時間がバラバラじゃあ意味がないのよ!」
カズもカズでハルナ殿下の説教を受ける羽目になった。
((なんで、こうなるんだよ))
というのが、今、ズィルバーとカズが抱いた心境、気持ちであった。
なお、シューテルとカインズらは自分らのリーダーの不出来さに肩を落とすのであった。
レインとレン。
子供じみた痴話喧嘩をしていたが、ズィルバーとカズが説教を受けられてるのを見た。
「大人にもなって、こんな惨めな痴話喧嘩をするのはみっともないわね」
「そ、そうだね。さっきまで、痴話喧嘩をしていた自分が恥ずかしい」
コホンと一回咳払いしてから、頷き合って、ティア殿下とハルナ殿下を止めに入る。
「ティアちゃん。もうお説教はそこまでにしたら。ズィルバーも口から魂が出かけてるから」
「ハルナさんも今日はそこまでにして、カズが死にかけそうだし」
ズィルバーもカズも、ティア殿下とハルナ殿下の説教をされ続けて、口から魂らしきものが出かけていた。
彼女たちも彼らが“もう聞きたくない”と言わんばかりに口から魂が出かけてるのを見て、
「「あっ……」」
((やり過ぎた))
彼女たちもやり過ぎたことを反省する。
「ズィルバー。ごめんね。もう怒らないから。許して、ね」
「私も怒り過ぎちゃった。生活習慣も少しずつ変えていけばいいからね」
反省した上でズィルバーとカズの介抱をする。
背中から抱きつかれて、彼らの魂が肉体に戻っていく。
背中越しに十代初めにしては大きめな双丘の感触を感じてしまったズィルバーとカズは
「「…………ッ!?」」
悶々と感情が渦巻く。ただでさえ、思春期間近の子供が、このような情操教育をされたら、悪い方向へ進みかねない。
ティア殿下もハルナ殿下も、それを分かってるのか分からないでやってるのか判断しかねるけども、彼女たちが背中から抱きついたことで彼らが復帰したことに変わりなかった。
この時、ティア殿下は背中から抱きついたことで、あることを知ってしまい、神妙な面持ちになる。
(胸が成長していない? 半年ぐらい前は慎ましく、控えめな胸だったのに、今は同い年の女の子とも思われてもおかしくない大きさをしてる)
「……ズィルバー。胸、成長してるよね。下着つけた方がいいんじゃない」
「余計かつ大きなお世話だッ!!」
背中越しに小声で話され、ズィルバーはティア殿下を突き放して、顔を赤らめたまま、両腕で胸を押さえた。
カズとハルナ殿下はズィルバーの動揺と胸を隠す仕草。そして、ズィルバーの体質から察した。
(えっ!? ズィルバー。女の子らしい体型になりつつあるの!?)
(どんな身体をしてるんだよ。本当に……)
ハルナ殿下は驚き、カズは呆れ返っていた。
レンはレインからズィルバーの体質――両性往来者のことを教えてもらい、思い至ったことは
(ヘルト様と同じ体質、ね)
と、千年前の友――ヘルトのことを思いだす。
(そういえば、ヘルトも両性往来者で美男美女だった。美女の場合、控えめじゃなくても、慎ましさのある胸をしていた)
「さてさて、ズィルバーなる少年は、どう成長するか見物ね」
「言っておくけど、ズィルバーには手を出さないでよ」
ジロリとレンを睨むレイン。
「出さないよ。精霊は契約者以外と下手な関わりを後々、面倒くさくなるから」
レンも領分はしっかりと理解してるようだ。
(……にしても)
レンはティア殿下に胸をツンツンされ、顔をさらに赤らめるズィルバーを見る。
(見たところ、自己魔力調整を身に付けている。月齢期を除いて、不定期に来る性転換の行き来が制御されてる。あの年で、あれだけの自己魔力調整は大したもの。おまけに“闘気”、魔力を臓器に充填する術を会得済みとは……まるで、ヘルト様と同じね)
「ん?」
レンは自分で言って、自分で気づいたのがズィルバーの自己魔力調整の仕方に既視感を抱いていた。
(まさか――)
レンは微かな可能性を考慮しつつ、頭の片隅に留めておく。
一度、レインに目を向け、彼女は、この可能性を知っているのか疑問を抱いた。
(レインは、このことを知っているのかしら? ズィルバーがヘルト様であることに気づいてるの?)
レンはレインを見続けてると、彼女の視線に気づいたレインはレンを見返す。
「なに?」
首を傾げるレインに対し、レンは“何でもないわ”と言い返した。
「ふ~ん」
と、レインも聞き返す気がなく、素っ気なかった。
しかし、聞きたいことが生まれたけども、これ以上、聞くのは野暮だと思い、紡ごうとした口を閉ざした。
時間が流れ、窓を覗けば、吹雪が弱まり、辺りが暗くなったことに気づく。
「ズィルバー。そろそろ、夕食を食べないか?」
ジノの第一声でズィルバーたちも夜の時間だと気づき、夕食を食べることにした。
何しろ、交流会で出た食事に手を出さず、今に至るまで、何も口にしていなかった。
今更ながら、空腹だったことに気づく始末であった。
夕食を食べた後、空き屋敷に備え付けられてた浴場に入って、汚れを洗い流した後、明日、なにが起きるのか分からないので、備えに備えて、早めのうちに眠りにつくことにした。
しかし、翌日、朝早くから一報が届くとも知らずに――。
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