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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
学園入学前
11/295

英雄は女になった。

 眠りについたけども、寝苦しい夜だった。なにより夢見がおかしかった。

 生ぬるい泥に浸かっている感覚があった。手足が重く、身体も碌に動かせない。っていうか、どこまでが身体か泥かが分からなかった。そもそも、境界線が曖昧だ。今の彼、彼女にはそこが曖昧で自分の形が分からない。ゴポゴポと泥の沼から気泡が浮かぶ。下に火でもあるか、沼は底の方から徐々に熱されてきた。気がつくと、焦りが込みあがってくる。彼、彼女は懸命にもがき始める。感覚がおぼつかない手足で泥をかき分けていく。かき分けていくもいっこうに抜けだせない。

 足元からじりじりと熱気がよじ登っていく。皮肉にもその熱が自分と泥の間で徐々に鮮やかな輪郭を形成していき


「――うぁっ」


 全身の熱が耐えがたいほどに極まった瞬間、俺、ズィルバー・R・ファーレンはベッドから跳ね起きた。


「はぁ、はぁ、はぁ……いつになっても…慣れないな、この夢は……」


 暗い部屋の中、荒い息を吐いて俺は呟く。同時に、全力疾走した直後のように火照った身体を自覚した。何度も体験しても慣れない感覚だ。

 湿ったシーツが肌に張り付く感触の不快さがある。


「ひどい寝汗だ。着替えようにも…替えの服がどれかも分からない。それに汗を流したい。とりあえず、ルキウスが来るまで待とう」


 ベッドから出ようとした時、ふと違和感を覚えて動きを止めた。――やはり。という感情が渦巻く。身体を動かす感覚に妙な新鮮さがある。そして――中でも、とりわけ頼りなく感じられる部位が一カ所あった。


(やっぱり…)


 英雄だった頃から分かるものだと思いながら視線を落とし。片手で服の布を捲って、本来なら男にない、()()()()を覗きこみ、


「はぁ~」


 深い息を吐く。

 胸に僅かな丸みがある。下も妙にスゥスゥする。本当に女の子になってしまったようだ。


「全く、()()()()()()のは嫌なんだよ」

(まあ、分かったこともあるか)


 俺は“両性往来者(トラフィックダイト)”、性転換体質が発動する条件が分かった気がした。


 “両性往来者(トラフィックダイト)”、性転換の発動する条件は2つ。1つは生まれた性に対しての異性との接触。柔らかな乳房に触れるや接吻(キス)をした時に性別が反転する。この条件はヘルトだった頃に判明したこと。もう1つは月齢。“両性往来者(トラフィックダイト)”は外界からの影響を受けやすい。特に月齢に強く反応する。思えば、昨夜は満月だった。

 月にはマナの濃度を高めたり低めたりする。魔術の刺激が激しい今の時代が下地になって、体質が発動したのだろう。これは知らなかったことだからいいけど、血流が速くなる現象は前者と同じだったから。身体に及ぼす変化は同じだと推察できる。問題は性別を変わっている期間。前者は長くても半日が限界だった。だけど、後者の場合だといつまでなのかいまいちピンとこない。

 いや、ピンとこないのは体調が悪いのかもしれないな。起きてからずっと頭痛がするし。変な眩暈もする。気分が昂ぶって考えるだけの集中ができない。全く、嫌な体質を持ってしまったよ。

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