英雄。戦友の墓と打開策を考える。
既にお気づきだと思いますが、性転英雄は週一のペースで更新していきます。
「ごめん、ティア。北方の問題に巻き込んでしまって……」
「まさか、副学園長が傭兵団と手を組んで、このような暴挙に出るとはな」
カズとハルナ殿下が謝罪を口にして、頭を下げてきた。
松明の光がカズとハルナ殿下の横顔を照らす。顔には情けない自分自身が照らされていた。
ズィルバーは四方を見回す。壁には松明が掲げられており、それは出口まで続いているようだ。
目を閉じてからズィルバーとティア殿下は深呼吸を繰り返して、カズとハルナ殿下に向かって口を開いた。
「ここで立ち止まっても仕方がない」
「ああ、ひとまず、外に出るぞ」
ズィルバーはヤマトに目配せする。壁から松明を一つ手にとったヤマトは、壁に均等に配置された松明に火を灯しながら歩き始める。
食事会に参加したヤマトの周りに群がりつつ、この先に何があるのか確認に向かった。
その後ろをズィルバー、ティア殿下、カズ、ハルナ殿下の四人がついてきた。
「カズ。ひとまず、聞く。ここがどこに繋がってるのか、知ってるのか?」
「父さんの話だと、この先にある出口を抜ければ、初代様の墓がある庭園に出ると言っていた」
「つまり、レムア公爵家の庭園に出るのか?」
「いや、学園の一部だ」
「なに?」
「どういうこと?」
ズィルバーとティア殿下はカズの言ってる意味が分からず、疑問符を浮かべる。ハルナ殿下はカズから事情を聞いてるのか事情を説明してくれた。
「これは、カズのお義父さんから聞いた話だけど、カズのお祖父様の代までは、この城がレムア公爵家だったの」
「えっ!?」
ティア殿下が驚くも、ズィルバーは千年前の北方を思いだす。
(確かに、蒼銀城は、この城を指すことであり、この城塞都市そのものが蒼銀城というわけではない。何かあったんだ。ここ数十年の間で――)
「私も詳しくは知らないけど、北方の学園支部を創設にあたり、学園長がカズのお爺様と学園長の父君が候補に出たんだけど……」
「ちょうど、その頃、ある組織が活発し始めかけた時期でもある」
カズが口にした“ある組織”。ズィルバーとティア殿下は少し考えた後、一つの応えに至った。
「「“教団”か/ね!?」」
「ああ、“教団”が活発し始めたのをきっかけに学園長の父君が“教団”と結託し、レムア公爵家を城から追い出したんだ」
「…………」
カズの口から明かされた真実にズィルバーとティア殿下は驚愕を露わにする。
「ここだって、“蒼玉”を持つ者しか入ることが許されていない。だから、学園長と副学園長は、城の秘密の通路や宝物庫も知らないんだ」
「…………宝物庫?」
ティア殿下は、この城に宝物庫があることに目を見開く。
ズィルバーはカズの話を聞き、一つの可能性に至る。
「もしかしたら、傭兵団はこの城の財宝を狙ってるかもしれんな。カイだったら、“蒼玉”がなくても力尽くでこじ開けるかもしれん」
「そうなってしまうとまずいわね」
「うん。とにかく、今はどうやって、傭兵団をこの街いえ、北方から追い出すか検討しないと」
「そのためにも、出口を目指そう」
カズの告げた言葉に頷き、黙々と歩き続けると――先行してたヤマトたちが戻ってくる。
「ズィルバー。この先に広場を見つけた。広場には墓らしきものが安置された」
「今はカナメらとベラらが警戒にあたってる。急ぐぞ、カズ」
カインズが発破をかけられ、やがて、出口に辿り着いた。
薄らと明かりに照らされているのは石の扉。手入れが行き届いているのかコケなどは見当たらない。
既に扉は開かれており、扉の向こうにはヤマトが言っていた通りに広場と墓が安置されていた。ズィルバーは物音を立てずに広場の中央、墓に向かう。
墓の周りには花畑があり、その花にズィルバーは見覚えがあった。
(こいつは北方といった寒い気候でしか咲かず、五十年の周期で花が咲く“白蓮”。メランが好きな花だったな)
ズィルバーは亡き戦友に想いを馳せ、フッと笑みを零した。
ふと、ズィルバーは墓に刻まれた文字を読む。
『北方の大将軍、“メラン・W・ブラオ”、ここに眠る』
墓に刻まれた文字には戦友メランの名前が刻まれていた。
しかも、ご丁寧に墓にはなにかを嵌めさせる窪みまで削られていた。
ズィルバーは墓を読む際、見つけたが、なんのためにあるのか分からなかった。しかし、食堂にあった鉄製の門を開ける際、壁に嵌めた蒼玉の窪みと酷似してる。
(なるほど。メランはこうなることを見越していたというわけか)
「ズィルバー。どうしたの?」
声をかけてくるティア殿下。彼女の他にも、カズとハルナ殿下も一緒に墓の前に来ていた。
「いや、レムア公爵家、初代様の墓を見ていただけだよ」
ズィルバーはバレないようにティア殿下たちにうそを交えて言い返した。
ズィルバーは一歩下がって、ティア殿下たちにメランの墓と対面させる。カズは墓に刻まれた文字を読み、自分のご先祖と対面する。
「これが、僕の先祖、初代様の墓――」
「“メラン・W・ブラオ”……前にレイン様に言われて、北方の歴史を調べてみた時に出た偉人。北方を屈強な軍隊にさせたという[戦神ヘルト]に並び称される伝説の大将軍」
「そんな偉人の墓が、ここにあるなんて思いもよらなかった」
「うん。んーーっ?」
ここで、カズはズィルバーと同じように墓に削られた窪みを発見する。
「窪み?」
カズにつられて、ティア殿下とハルナ殿下も墓に削られた窪みを発見する。
「本当、窪みがある」
「でも、どうして、窪みがあるのかしら?」
カズたち三人は墓に窪みがあるのか頭を悩ませる。
「もしかして――」
ここで、カズはなにかに気づき、蒼玉の首飾りを取り出す。取りだした蒼玉を墓の窪みに嵌めた。
すると、蒼玉を中心に墓が光りだした。
「なっ!?」
「なによ、これ!?」
「急に光りだした!?」
ズィルバーたちは墓が光りだしたことに驚き、周辺を警戒してるカナメたちも突然の光に目を細めた。
光が収まり、目を開いたズィルバーたちが目にし
「…………は?」
思わず呆けた声を出してしまう。
なぜなら、墓の目の前に一人の女性。
大海のように透き通る蒼き髪。雪のように煌めく白い肌。令嬢と思わせるドレスを着た女性。
そして、なにより、彼女から放たれる圧倒的な魔力。
ズィルバーは、この魔力に見覚えがあった。
(吹雪く雪原にいる冷たさ。忘れもしない。レインと同等の力を持つ精霊。間違えなく、彼女だ。彼女が今、目を覚ました)
「――“氷帝レン”」
ズィルバーが目の前の彼女の正体を言い当てる。
「氷帝レン……」
ズィルバーにつられて、カズが言葉を漏らす。
まさか、夢に出てくる彼女が、こうも容易く出てくるとは思いもよらなかった。
問題よりもカズやティア殿下たちが驚いているのは、その魔力だ。
並の精霊すらも圧倒させる魔力。人外とも等しき魔力に、ここにいる全員が息を呑んだ。
「うっ、うん~」
レンは長き眠りから覚めたように、目を開ける。
ズィルバーは、その瞳を見て、目の前の彼女がレンだという証明になった。
(深海を思わせる濃い蒼の瞳。千年前の時と同じだ。彼女こそ、戦友メランが契約していた精霊、“氷帝レン”だ)
ズィルバーは懐かしき友に会えたという喜びに浸ってしまう。
目が覚め、視界が明瞭になりつつあるレンは朧気な目で周囲を見渡し始める。
「ここは、どこ?」
朧気な視界のまま、見渡し、ズィルバーたちの方に目を向ける。
いや、より正確に言えば、カズに目を向けていた。
「メラン?」
朧気な瞳のまま、レンはカズをメランなる人物と勘違いしてる。
しかし、徐々に瞳が明瞭化したところで、目の前の人物をはっきり、認識する。
「あなたは、誰?」
明瞭とした瞳でカズを捉える。
「ん~」
目を凝らして、注意深くカズを観察する。
「メランに似ているけど、メランじゃない。あなた、誰?」
改めて、レンはズィルバーたちが何者なのか認識する。
感極まっていたズィルバーも意識を取り戻して、カズの肩を叩く。
「自己紹介しないと」
「あっ、そ……そうだな」
ズィルバーに指摘され、カズは“ハッ!!”っと気を取り直してから
「僕はカズ。カズ・R・レムアって言うんだ。よろしく」
自己紹介するも、どこか挙動不審だ。ズィルバーは“おいおい、まさか……”となる。
(まさか、レンに魅入られたのか?)
ズィルバーはカズのキョドり方から察した。
(間違えなく、精霊に魅入られたな。――ったく、こんなところまでメランに似る必要がないだろうに……)
ズィルバーは“はぁ~”ッと嘆息をつく。
「レムア?」
しかし、レンは黒髪の少年――カズ・R・レムアという名前より、名字が気になった。
「“レムア”って、リヒトがメランに与えた家名――」
カズをジッと見つめるレン。髪の色や瞳、顔の輪郭を見る。
「う~ん。どこから見ても、メランに似てるところがあるし。レムアの名前を継承してるところからメランの血筋なのは間違えないね」
レンは手をカズの頬に添えて、じっくりと観察する。対して、カズはレンに観察させて視線がしどろもどろとしていた。
カズの挙動不審さにムムッとハルナ殿下がレンに睨みつけた。
ズィルバーとティア殿下は苦笑を浮かべてしまった。
ズィルバーはコホンと一度、咳払いをしてからレンに話しかける。
「氷帝レン。すまないが、今、緊迫した状況であるため、大至急、ここを出ないといけない。詳しい事情は後にしてくれないだろうか?」
「あなたは?」
「ズィルバー。ズィルバー・R・ファーレンだ」
「ファーレン。ヘルトの子孫ね。分かりました。今は、貴方たちの言うことに従いましょう」
「協力に感謝します」
ズィルバーはレンに頭を下げるも、レンはズィルバーの懐に目を向ける。いや、睨みつけてる。
(なに、主の懐に温まってるの? なんか、余計に腹が立つ)
不機嫌にズィルバーの懐で温まってるレインを睨んでいた。
「カズ。ここから外への出入口は?」
「こっちだ」
ズィルバーはカズについて行き、物音を立てずに出口に向かう。
外に人の気配はないか探ってから後ろを振り返った。
「外に気配がないな」
「この先はレムア公爵家の裏口に通じてる」
「そうか。よし、出るぞ」
ズィルバーの言葉を最後に全員、広場の外に出る。
寒空に星はなかった。分厚い雲が流れることで、月光の輝きは暗闇に閉ざされている。
地上に光が届くことはなく、強風が唸りを伴って獣のような咆吼を上げていた。
「早く、こっちに!」
凍てつく風に紛れる雪が視界を覆う中、カズの急かす声が空気を切り裂いた。
慌てて追いかけようとしたズィルバーだったが、雪に足を取られて片膝をついてしまう。
「大丈夫!?」
「大丈夫だから先に進もう。ここに留まってると凍死するぞ」
「そうね」
「うん」
「いずれ、傭兵団と戦うんだ。今は父さんに事情を話さないと」
カズは裏口の扉を開けて、屋敷に入る。
裏口を潜り、中に入ると、そこは厨房に通じていて、厨房で夕食の準備をしていた給仕たちが裏口からズィルバーらが入ってきたことに動揺し、ざわめいた。
「カズ様! ハルナ殿下! なぜ、裏口から!!?」
「緊急の用件だ。すぐに父さんの部屋に通してくれ」
「すまないが、他の者たちに温かい飲み物を用意してくれ」
ズィルバーとカズの緊急用件に給仕たちもすぐに承諾して、カナメたちを屋敷に招き入れた。
「そうか。学園で、そのようなことが起きていたのか」
ゲルトはズィルバーとカズから事情を聞き、嘆息をつきつつ、頭を抑える。
「すぐに皇宮に一報を送ろう。北方で内乱が起きれば、周辺諸国がライヒ大帝国へ侵攻する。それだけは死んでも避けなければならない」
ゲルトは事態の深刻さを目の当たりにして、すぐに中央に一報を送ることを決めた。
事態の深刻さに関していえば、ズィルバーやカズにだってわかる。わかるからこそ、自分自身が不甲斐なく思ってしまった。
「幸い、ズィルバー殿とカズの部下たちは我が屋敷で確保し、空き屋敷で暖を取っている」
「感謝しています。ゲルト公爵卿」
ズィルバーはゲルトに感謝の言葉を述べる。
なお、部下たちを先に逃がしたのは理由がある。
あらかじめ、城に滞在していたハクリュウたちが街の方に避難させていたからだ。
彼らとした決めごとは至極単純なこと、城に異変が起きる前に城を離れて、レムア公爵家に身を隠すよう頼むという指示だ。
(この寒さだ。いくら、装備が充実していても、体力が消耗するはずだ)
レムア公爵家でも、一度に数十人の部下を招き入れたら、目立ってしまう。ならば、身を隠すには人目につかない場所で、それでいて、体温を奪われない場所に限られてくる。
ゲルトもそれを見越して、空き屋敷を提供してくれた。
この吹雪の中――しかも、この時間帯を含めて、外に出る者は稀ということを考慮すると自然と答えが導かれるというもの。
「……して、ゲルト公爵卿。傭兵団に関しては如何様に?」
「もちろん、迎え撃つ。奴らが北方を拠点にライヒ大帝国を乗っ取ると考えてるのなら、それを止めないといかん」
「俺も迎え撃つのは賛成ですが、問題は“魔王傭兵団”の拠点です。今、奴らが根城にしてる場所はどこなのですか?」
ズィルバーは傭兵団こと“魔王カイ”の居場所を尋ねる。
(ここは颯爽と頭を潰すことが定石。ならば、奴らの拠点を叩いた方が賢明だ)
と、ズィルバーは考えている。
「前々から調査をしていた」
ゲルトは懐に忍ばせておいた、地図を取り出す。
食卓に地図を広げて、食堂に座る全員が地図を見る。
「我々がいる北方の首都“蒼銀城”がここ」
ゲルトが指し示す中心部。そこが、北方の首都だと示される。
「そして、傭兵団がいる場所はここだ」
次に、指し示した場所。そこは北方において、もっとも危険な場所とされてる北海であった。
「北海か」
(また、あそこを攻め落とすのか)
ズィルバーは思いだす。千年前、メランと共同で北方の勢力拡大していた時を――。
「北海は山脈が多い。山脈から降り下ろされる吹雪で、首都よりもさらに冷え込む。しかも、地形的に攻めるのは不可能。私としては迎え撃つなら、唯一の陸路を超えさせて迎え撃たせた方がいいと考えている」
ゲルトは唯一の陸路を譲る形で守り抜こうと考えている。
その考えにズィルバーは
(いや、あの陸路を譲ってしまえば、守るに守れなくなってしまう。そもそも、地の利ではこっちの方が上だ。こっちが地の利を生かさなくて――ッ、そうか)
否定的な考えをしていたが、ここで一つの可能性に思い至る。
「ゲルト公爵卿。いくつか質問したいことが」
「なんだね、ズィルバー殿」
「北海付近にある山脈に生息する魔物は駆逐されたのですか?」
「山脈にいる魔物は駆逐されていない。それがどうかしたのか、ズィルバー殿」
「俺としては北海と首都へ通じる陸路の裂け目で迎え撃つべきだと思う」
ズィルバーは自分の考えの一端を述べた。
「その心は?」
「北方の山脈は千メル以上。魔物もいれば、上から吹き荒ぶ吹雪。北海付近の山脈は天然の砦。守るにはうってつけだ。逆に攻める側は唯一、攻める場所が山脈の裂け目しかない。守るなら、そこしかないと思う」
その考えの根拠を説明したズィルバー。
「ズィルバー殿が言いたいことは分かる。しかし、それは不可能だ」
「なぜです?」
「ズィルバー殿。北海との境界線には巨大な壁が設置されてる上、壁を突破しなければ、北方へは侵入はできなかった。しかし、数年前の“教団”の壊滅で壁の一部が崩落し、北海との往来を許してる。なにより、北海付近の寒さは氷点下を下回ってる。現状での装備では守ろうにも守れないのだ」
ゲルトの説明を聞き、ズィルバーは言葉を出せない。
(まさか、千年経ったことで北方の防衛力が落ちてるとは――)
ズィルバーにとっても予想外。地図を見るかぎり、壁を越えたら、広い雪原があるのみ。それでは――
(数に有利な傭兵団が圧倒的に有利。ゲルト公爵卿の考えでは、北方の損害が大きい。なにより、北方が落とされたら、ライヒ大帝国の危機に直面する)
「死んでも北方を守り通さないといけないと考えているが、現状の戦力は北方貴族の諸侯軍と駐屯してる親衛隊。そして、ズィルバー殿とカズの組織だけ。個人個人の技量が拙い現状では護るに守り通せれんのが現実だ」
血が滲むほど拳を強く握るゲルト。彼の顔には苦悶の表情を浮かべていた。
食堂内に暗雲な空気が立ちこめる中、空気を引き裂くかの如く、レンの言葉が木霊する。
「なに、しんみりした空気になってるの?」
彼女の言葉が暗雲とした空気を払拭し、視線が一斉にレンに集中する。
「防衛力を上げたければ、城を取り戻せばいいじゃない」
レンの言葉を聞き、ズィルバーは忘れていたことを思いだした。
(そうか。忘れてた。北方の守護の要は“蒼銀城”にあるって――。そもそも、地方の防衛力を最大限に生かせる仕組みを作ったのは――)
「城をレムア公爵家が取り戻せば、北方の防衛力は戻るわ」
レンはレムア公爵家の者たちが城を取り戻せば、北方の防衛力が復活すると明言する。
だが、急に割り込まれた上に、城を取り戻すと言われて、困惑するゲルトはズィルバーとカズに彼女が誰なのか訊ねる。
「カズ。彼女は誰だ?」
「“氷帝レン”と言われる精霊です」
「なっ!? 精霊だと!? レムア公爵家が代々、守り続けていたという精霊なのか!?」
ゲルトも割り込んできた女性が精霊だとは思いもよらなかった。
「それで、レンだっけ。どうして、城を取り戻そうって言ったんだ?」
カズはレンが言っている意味が分からず、聞き返してしまう。
レンはカズの聞き返しだけで、時代の流れを知り、深く嘆息してから説明した。
「“蒼銀城”は北方の中心に位置し、レムア公爵家の者だけが扱える魔法陣が備え付けている」
「僕と父さん。家族だけが使える魔法陣」
「知らなかったようね。千年も経てば、失伝しちゃうのも無理もない」
レンの冷静な物言いに皆、絶句する。
「だから、今は城を取り戻し、完全にレムア公爵家が掌握すれば、北方の魔法陣は復活するはずよ」
レンがもたらした情報はズィルバーたちの風向きを変える兆しになった。
「ゲルト公爵卿。これなら……」
「うむ。すぐに城を取り戻す!」
ゲルトは立ち上がり、近くにいる家臣に命じた。
「衛兵と文官たちを連れ、城へ向かえ。内部の状況を確認しろ」
「はっ!」
「カズ。ズィルバー殿。キミたちは私が用意した空き屋敷に向かい、英気を養ってくれ。状況が確認し次第、動こうと思う」
「分かった、父さん」
「分かりました」
ひとまず、ズィルバーたちは打開策の第一歩を踏み出せる兆しを見出した。
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