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ベニバナ

作者: 春名みやび

 鮮やかな深紅が白色の中に落ちた。無音だった。

 それを見た少年は安堵するように長い息を吐いた。


「二本目……」


 手には血のように真っ赤な花を持っていた。

 少年の名はロアといった。

 ロアの持つ大輪の花は茎の根元から手折られ、赤く紅く朱く、不思議な神々しさを放っていた。


「あとひとつ」


 ロアは立ち上がり、一歩を重そうに踏み出した。上げた足が白色に落とされる。

 しゃくり。

 白色の中に足が沈み込み、踏んだ後には足跡が刻まれた。

 足取りは重く、後ろには深く足跡が刻まれた。

 凍てついた音とともに風が吹くが、まとった毛皮が冷気もろとも全てを遮断する。


「急に風がでてきたな」


 ロアは下ろしていた口あて布を喉元から引き揚げて鼻から下を冷気から守った。しかし、冷たさの針は容易に布を通過して肺をいじめる。

 重かった足取りはさらに重く、鎖でつながれてしまったかのようにぎこちない。

 まばらにある樹の陰に座り込み、持ち出してきた最後の干し肉をかじる。日が暮れる前には家に戻らなければならない。それでもロアには戻るという選択肢はなかった。


「あと一本……あと一本探しださなきゃ」


 少しの休憩を挟んでどれくらい歩いただろう。辺りは闇に包まれ、わずかに空が青暗い。寒さもより一層深くなった。


「帰れるかな?」


 右も左も分からなくなった闇の中、小さな灯火を頼りに歩く。その口元は乾き、嗤うようにかたまってしまっていた。


「…………!」


 遠くから声が聞こえた。

 やがてはっきりと耳に入ったその声に、少年は安心感を覚えながら意識を手放した。



 * * *



 眠る顔に絹のような光を感じた。

 だんだんと目がむずがゆくなり、ロアはまぶたを上げた。

 朝の光を通す白い布に、木目の美しい茶色い天井。光がさらさらと空間を撫でている。いつも迎える朝と何も変わらない景色だった。


「ん……」


 少々重く感じる体を起こして、寝床の外に出る。足元から冷気が全身をかけあがり、ロアはブルブルと体を震わせた。

 いつの間に家に帰ってきたのだろう。上着を羽織り、ぼんやりと昨晩のことを考えながら、良いにおいを漂わせている扉へと足を向けた。


「おはよう、クレア」


 ロアは扉を開けた先にいた少女に声をかけた。

 楽しそうな鼻歌を奏でていた彼女は肩をビクッとさせて振り向いた。


「びっくりしたあ……」


 腰まで伸びる金糸のような髪が、彼女が振り向く動きに数拍遅れて追従する。


「おはよう、ロア」


 優しく垂れた目を細め、猫のようにクレアは笑った。


「朝ご飯もうすぐできるから、顔洗って着替えてきな」

「分かった」


 ロアは部屋に戻って着替えた後、クレアが早朝に汲んできてくれたのであろう井戸水を染み込ませた布で顔を拭った。

 その頃には肉の焼ける匂いが家中に広がり、刺激された胃が空腹を訴えた。

 クレアのもとに戻ると、調理場の前にある机の上に二人分の朝食が用意されていた。

 ロアが席につくと、向かいにクレアも座った。


「今日は食後にロアの好きな果物も用意してあるのよ」

「ほんとに?」

「もちろん」


 ロアの口元がほころんだ。


「食べましょう」

「うん」


 食べ物に感謝の祈りを捧げ、朝食を食べ始める。今朝の献立は肉の腸詰と野菜を焼いたもの。加えて体の温まるキノコのスープだ。

 ロアはこの肉の腸詰が大好きだった。若干焦げ付いた表面からは香ばし匂いが漂い、歯をあてがうだけで香辛料の存在がこれでもかと舌を刺激する。弾力のある表面の皮を歯が突き破ると、熱い肉汁が噴出し口の中に喜びが満たされる。ところどころにコリっとした歯応えがあり、食感も楽しい。

 にこやかに食事をするロアを、クレアは慈しみの表情で見つめていた。

 朝食も終わりかけの頃、クレアがしかめ面になって口を開いた。


「昨日のことは覚えてる?」


 クレアの固い声に、覚えのありすぎるロアは言葉に詰まった。


「また森に行って帰ってこなかったでしょ」

「はい……」

「暗くなり始めても帰ってこないから心配して探しに行ったんだよ? そしたら雪の中で寝てるじゃない。死んだらどうするのよ」

「ごめん」

「前もそうだった。今回で二回目なのよ。前言っていた反省はどこにいったのかしら」


 ロアは何も言えなかった。


「しばらく森に行くのは禁止ね」


 黙るロアに痺れを切らして、クレアは告げた。


「それはダメ!」

「どうして?」

「それは……」


 言えない。ロアは森に行く理由を何度も何度もごまかしてきた。それも限界になりつつあった。


「毎回毎回ごまかして本当の理由を言ってくれないのは分かってる。わたしは心配なの。どうして教えてくれないの?」

「……ごめん」


 クレアの顔に陰が落ちる。ロアは申し訳なさそうに顔をそらした。


「とにかく、森にはもう行かないで」

「………………」


 ロアはだんまりを決めこみ、食べ終わった食器を持って席を立った。

 確かな返事をしないままこの話は終わりになった。

 朝食を終えたら、昼食や夕食の買い出しに市場に向かう。その役目はロアのものだ。


「おつかいに行ってくるよ」

「寒くない格好している? 鞄は持った?」

「大丈夫だよ。心配しすぎ」


 毎日される確認にロアは苦笑する。

 だが、今日は一言多かった。


「森には行かないこと」

「分かってる。買い物したらすぐに帰ってくるよ」

「本当に?」

「ほんとさ」

「神に誓って?」

「もちろん」


 ロアは家の中で履いていた履物を外用の靴に履き替えた。


「買い物したらすぐ帰ってくるから。行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 ロアは家を出て、村の商店へと向かった。二人の住む家は村の端の端にあり、村の中心近くにある商店までは距離がある。道端には雪が積もり、雪を耐え忍ぶ木々が黒々と立っていた。一面白と黒の世界。この景色が春になると一変して多様な色彩を持ったものになる。村が近づいてくると人の声が聞こえ始め、雪の中から茶色い地面がのぞくようになる。そして中心まで来ると雪かきをされて地面がはっきりと顔を出す。


「ロア! 今日は隣の村が川魚を持ってきてくれたぞ。どうだい?」


 贔屓にしている肉屋の店主が今朝も威勢よく声をかけてきた。たくましい体にひげを蓄えた姿は、見ているこちらも元気になる。


「魚か……良いね! 大きさはどのくらい?」

「今日持ってきたのは小せえ奴らだな。衣をつけて油をくぐらせるのにちょうどいい奴だ」


 店主は親指と人差し指で大きさを示して見せた。まだ声変わりの最中であるロアや女であるクレアの口には十分大きいように見えた。


「三尾、いや四尾欲しいな」


 今日のお昼は魚に決定した。川が近くにないこの村では、たまに隣村が持ってきてくれる魚だけが唯一の供給源だった。当然、滅多にないごちそうである。

 そんなごちそうを一人前ではないロアやクレアの二人だけの家庭が買うことができるのにはワケがあった。


「今日はコレを持ってきたよ」


 ロアは鞄から細長い筒に入った赤い粉を店主に渡した。


「いつもの風邪薬じゃあないんだな。こりゃ何だ?」

「いつものを強力にしただけだよ。そろそろ冬の流行り病の季節だ。早めに渡しておこうと思って」

「もうそんな時期か。ロアはしっかりしてるな。お前の親父さんが倒れちまった時はどうなるもんかと思ったが、心配いらなかったな」

「父さんにはまだ遠く及ばないよ」

「そんなことねえ。もう立派にこの村の薬師だ」


 ロアは店主のまっすぐな目に照れ臭くなった。ロアの両親は三年前の流行り病の対応で自らも病に罹り、疲労も相まって亡くなってしまった。クレアは両親が知人から引き取った娘であり、両親の死後はクレアと二人だけになってしまった。しかし、早くから父から薬の作り方を習い、薬師としての才能を開花させていたロアは父の後を継ぎ、若くして薬師として生計を立てていた。


「ほら、四尾だ」

「ありがとう」


 ロアは薬と交換で魚を受け取った。


「お、ロアか。今日の昼飯は魚か。四尾も買って食べきれるのか?」


 肉屋にやってきた村人がにこやかに話しかけてきた。薬師という立場のため、村人とは皆顔見知りである。


「まさか。ひとりで四尾も食べないよ。クレアと二人で食べるに決まっているじゃないか」

「クレア? おいおいクレアは……」

「おい」


 怪訝な表情をして話し出した村人を店主が低い声で一喝した。村人は何かを思い出したように目を見開いた。


「いや、何でもねえ。気にすんな」

「そうかい」


 村人は店主と会話を始め、ロアは薬を歩き売りしながら買い物を続けた。魚のほかに野菜や保存食を買ったロアは家への帰路についた。

 家に着くとクレアは掃除を済ませ、ロアの帰りを今か今かと待ちわびていた。


「おかえり!」

「ただいま」


 ロアは買ってきた食材をクレアに渡した。


「これから薬を作るから、お昼になったら呼んでね」

「分かった」


 ロアは寝室の隣にある工房に入り、一息ついた。薬草の香りが閉め切った部屋に満たされている。普通の人が嗅いだら強すぎるほどの草の匂いだ。クレアでさえもこの部屋に入った時は鼻をひそめる。だが、ロアにとっては慣れ親しんだ心地よい芳香だ。


「よし」


 ロアは昨日の荷物から採取した赤い花を取り出した。そして澄んだ水色の液体の満たされた細長い瓶の中にそっと入れた。液体は一瞬だけ白い光を放ち、その光が収まったあとには無色の液体とより一層紅が深くなった花があった。


「これで二本目」


 机の端にある金庫を開け、すでに入っていた一本目の隣に作ったばかりのソレを置いた。

 それを険しい顔でロアが見つめていると、空気が揺れて、囁くような声が聞こえてきた。


『間に合うのかしら?』

「間に合わせる」


 ロアの顔の周りに金色の粉が舞い、声の主が姿を見せた。青白い肌に紫の瞳、翡翠のような髪色の手のひらに乗りそうな女だった。さらに、その全てが半透明で向こう側の景色が透けて見えている。明確な存在が無く、ロアにしか見えない妖精だった。その顔は意地悪そうにニヤついている。


『三年もあって期限は残り二週間。本当にあとひとつ作れるのかしら?』

「やる。やらなきゃいけないんだ」

『もしできなかったら、三年前に流行り病で死んだはずのあのクレアとかいう娘は本当に死を迎えるわ。これからの人生一緒にはいられなくなるわよ? あの時、親を差し置いてまで執着したあの子を失うの』

「分かってる。そのためのまじないだ。今更言うな」

『私も我慢の限界なのだけれど……』

「うるさい。君が期限を三年と言ったんだろう。邪魔をするだけなら帰ってくれ」

『嫌よ。人の揺れる感情は蜜の味ですもの。味わってから帰るわ』

「いるなら、どこを探せばあの花が咲いているか教えてくれ」


 鳥のような羽根もないのに空中を泳ぐ妖精がうっとうしい。ロアは作業になかなか集中できなかった。


『本当はあまりよくないんだけど、ここまで待って成果なしじゃ困るのよね。良いわ、次に探しに行くときに教えてあげる』

「良いのか?」

『あなたが言ったんじゃない。その代わり、最上級の物を頼むわよ』

「当然。最高の物を用意する」

『期待してるわ』


 妖精はくすくすと笑いロアの視界から姿を消した。



 * * *



 あれからクレアの目が緩み、ロアが森に潜ることができるようになったのは一週間後だった。

 クレアには薬の材料が足りなくなったので少し遠出して近隣の村から調達してくると言ってある。これなら何日か家を空けても大丈夫である。森に入るとは言ってない。

 妖精との取引によって存在を保っているクレアを完全に救うには、あと一週間のうちに妖精の要求する秘薬を完成させなければならない。


『準備はよろしいかしら?』


 森を歩くロアのそばにあの妖精が現れた。金色に瞬く粉を振りまきながら、ロアの周囲を回るように飛んでいる。


「もちろん。さあ、案内してくれ」

『かなり厳しい場所にあるから、途中で断念したりしないでよね。その時点であの子の魂は貰っていくわ』

「諦めるわけがないだろ」


 ロアは妖精の先導の元、森の中を奥の奥まで突き進んだ。

 いつもは踏み入れないような奥地まで潜りこみ、獣の唸り声を避けながら進む。

 月が昇って、日が昇った。

 また月が昇った。


「まだなのか?」

『そろそろよ』


 帰る頃にはもう三日ほど経っていそうだ。クレアが相当怒っているだろう。

 ふと景色がゆがんだ。


『着いたわ』


 妖精が示した先には、暗闇の中に妖しく咲き誇る紅の花畑があった。


「すごい……」


 今まで見たことのない光景にロアは見入った。


「どうして今まで教えてくれなかったんだ」

『妖精が手助けするのは本来御法度なの。今回は本当に特別だから、他の子たちにばれないうちに採って、ここから離れるのよ』


 これだけの中から薬に使える中でも上等な個体を選ばなければならない。妖精の要求は最上級の秘薬だ。

 ロアはさっそく花畑の中に足を踏み入れ、数ある花を選別していく。花畑全体を探索している暇はない。ロアは三分の一ほどの範囲を見た中で最も上等に見える個体を採取し、保存瓶の中に入れた。


「これでよし、と」

『採ったなら、さっさと出るわよ』


 妖精が花畑の外から手招きし、帰り道の先導を始める。再び空間がたわんだ感覚があり、そっと振り向くと花畑は見えなくなっていた。


『ここから村まで三日くらい。来るまでに同じくらいの時間を使っているから帰る頃には期限の一日前よ。急ぎなさい』

「ありがとう。絶対に間に合わせる」


 これまでと違う優し気な妖精の表情に、ロアは決意をもって答えた。

 ロアはここ数日の強行軍による疲労をものともせず、帰り道を行きと同じ速さで踏破した。

 家に帰りついたのは皆が寝静まる頃、月が遥か西の空に見えている。

 ロアはクレアを起こしてしまわないように工房に入り、さっそく三つ目の秘薬作成に取り掛かった。

 水色の液体の満ちた瓶に紅色の花を入れると光を放ち、花はより深い紅色に染まった。


「できた……!」


 ロアは完成した三本の秘薬を机の上に並べた。


『ようやくできたのね。おめでとう』


 息つく間もなく光の粉と共に妖精が現れた。


「これでクレアを完全に生きている状態にしてくれるんだろう?」

『あなたとあの娘がずっと一緒にいられるようにしてあげるわ』

「良かった」


 ロアの三年間募り続けた思いが涙となって頬を垂れた。

 三年前、ロアの両親とクレアは流行り病に倒れた。床に臥せる三人を見守るしかなかったロアの前に妖精は現れ、一人なら助けられるかもしれないと言って取引を持ち掛けてきた。妖精の力を増幅させるベニバナの秘薬を作る代わりに、一人を死から救ってあげる。ただし、期限は三年。それまでは仮死状態としてロアにのみ見える存在となる。三年を過ぎた場合は契約不履行として、妖精がクレアの魂を連れ去ることになっていた。

 今日がその最終日。ぎりぎりでロアは薬を完成させることができた。


「もうクレアは大丈夫なのか?」


 ひとしきり涙を流し、落ち着いたロアは妖精に確認した。


『いいえ。最後の仕上げが残っているわ』


 妖精の顔にあの意地の悪そうな笑みが戻っていた。


『これを使うのはあなたたちよ。一本はあの娘に、もう一本はあなたが飲み干しなさい。そして最後の一本を口に含んだ状態であの娘と口づけなさい。そうすれば、あなたとあの娘はずっと一緒よ』

「これはお前が欲しがったんじゃないのか?」

『まさか。妖精が必要なのは妖精の作る薬だけよ。人間の作った薬は妖精に効かないわ。妖精のまじないとその秘薬があの娘には必要だった。わたしの力だけじゃ不十分だったのよ』

「そうだったのか……」

『さあ、行きなさい。早くあの娘も、あなたも呪縛から解放されるのよ』


 妖精に促され、ロアはクレアの寝室に向かった。

 ノックをして部屋の中に入ると、クレアが寝ぼけた様子で上体を起こした。


「ロア……ようやく帰ってきたのね。いつもなら帰ってきたときはそのまま寝るのに。こんな時間に何の用なの?」

「クレアに今すぐ飲んでほしい薬があるんだ」


 ロアは秘薬をクレアに差し出した。


「薬? わたしどこか悪かったかしら?」

「実は、クレアは緩やかに死に向かう特殊な呪いのような病にかかっていたんだ。今まで無用な心配をしなくて済むように黙っていたけど、ようやく薬が完成した」


 クレアに真実は告げない。

 クレアの代わりに、両親を見殺しにしたことは知られたくなかった。


「さあ、飲んで」

「もしかして、今まで森の中で採取していた材料って……」

「うん。これの材料だよ。そのせいでクレアには心配ばかりかけて……本末転倒だよね」

「そんなことない。ありがとう」


 クレアはそう言って何も疑うことなく瓶のふたを開けて、一息に飲み干した。

 ロアは部屋に入る前に一本飲み干している。あとは最後の一本を口に含んで口づけするだけだ。

 飲み終え、少し液体が気管に入ったのかクレアが咳き込むすきにロアは秘薬を口に含んだ。


「けっこう苦い薬ね……ッ!」


 飲み干して味に苦笑いを浮かべているクレアに向かって飛び込み、そのままの勢いでロアはクレアに口づけた。

 クレアは突然の出来事に驚き固まっている。ロアもクレアに口づけたという事実に、顔から火が出るかのように熱くなっていた。

 クレアに変化が訪れた。唇同士が離れ、クレアがうめき声をあげる。クレアの体はところどころ金色の粒子となり、消えかかっていた。

 だが、それはロアの体にも起こっていた。


「どういうことだ……!」


 胸を押さえ、苦しみつつもロアは虚空に向かって訴えた。

 その訴えに答えるように空中に金色の粒子が走り、妖精が姿を現す。その顔は今まで見た中で最も楽しそうに笑い、かつ邪悪に歪んでいた。


『言ったでしょう? 激しい感情の揺らぎは妖精にとって蜜の味。三年間焦がれ続け、悲願の達成が絶

望的になった時に訪れた希望、ついに願いが叶う時、なぜか愛する人が崩れ落ち、それがただの幻想だったという絶望。ここまで綺麗に騙されてくれた子は久しぶりよ』


 高らかに笑う妖精。クレアの体はもう顔あたりしか残っていない。


「この野郎!」


 ロアは妖精に掴みかかろうとしたが、その手は粒子となって消えており、虚しく空を切った。その顔が、きつく歪んだ。

 ロアの体がすべて粒子となって空中に消えた。


『ありがとう、ロア。最後まであなたの感情は美味しかったわ』


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