表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

1話.それはまるで御伽噺のような

「……ご安心ください。次に目覚めた時には『異世界』ですよ。」


その言葉を最後に、「俺」の意識は闇に落ちた。










──次に意識を取り戻した時は、鳥のさえずりが聞こえてきた。



次第にはっきりしてくる手足の感覚。冷たい土の感触。

どうやら何かにもたれかかるようにして眠っていたようだ。


とすると、ここは──







視界が開ける。


眼前に飛び込んできたものは記憶にある無機質な「白い空間」とはあまりにも対比的な瑞々しい緑であった。



──森である。


どこまでも続いているような木々。見渡す限りの緑。


ふと、自分がもたれかかっていたものに目を向ける。

それは見上げるほど大きく、

若々しい葉をつけた枝が風にそよぐ「樹木」であった。


確かめるように手で触れる。

硬く、ごつごつとした樹皮であったが

やはりというか、明らかに紛い物の感触ではない。


一瞥しただけで森と認識できるほどには。

やはり夢だったのではないのではないかと錯覚するほどには。

既視感を覚える光景が広がっていた。


しかし、樹木に触れたその手は、

その「夢」を現実だと思い知らせるかのように異様な、

しかし「森」とは違う既視感を覚える

金属の装身具に包まれていた。







手を覆い、守るように。

しかし動きを阻害しないような作りになっているそれは

御伽噺でいうところの「篭手」のようであった。


しかし、装身具はそれだけではない。


幹を支えに徐に立ち上がると、

なんとも言えぬ違和感とともに

かちゃかちゃと金属の触れ合う音が鳴り響く。


幸いにも近くに水辺があったため、それを鏡のようにして自分の姿を覗き込む。

水面に映ったそれは、御伽噺に描かれるような不思議な出で立ちをしていた。



随所に金属の装飾が施された、革のようなもので出来ている衣服。


どこかの民族衣装、または工芸品にも見えるそれは

衣服と形容したものの、もっと身を守るに適した形状をしていて──



むしろ「鎧」と呼ぶべきだろうか。








次に、腰に据えてある()()に手を伸ばす。

人が握るための部分──おそらく「柄」を把持し、

それを包んでいた「鞘」からゆっくりと引き抜いてゆく。


片腕ほどもある鉄の塊。

陽光を受けて鈍色に光るそれは、

想像していたより随分と軽い印象を受けるものの、

間違いなく鋭利な刃物、「剣」であった。


思わず握る手に力が込もる。

そのまま軽く振ってみたところ、

自分の筋力でも扱うのに支障はないように思える。


仮装コスプレ」か何かと疑ったが、

それは「衣装レプリカ」と呼ぶにはあまりにも頑丈で、

剣に至っては実剣を用いる必要などない。







それでもまだ信じられず、

透き通るような水を掌で掬い、顔を洗う。


──冷たい。


至極当たり前の感触ではあるが、

これを「現実」だと認識し、混乱した頭を落ち着かせるには十分であった。


もしこれが「異世界」だとするならば。

いや、そうでなくともいつまでもここにいるのは得策ではない。

おそらくだが街や村、といったものがあるはずだ。

このまま野宿、というのはさすがに避けたい。






ふと冷静になると、見つめていた水面を照らす陽光が

次第に山吹色のような、やわらかな色に変わっていた。


ここにも昼夜の概念があるのだろうか。などと呑気に考えていたものの

それが意味するところに気がつくと、確かめるように木々に視線を戻した。


やはりというか、注意を向けたその「景色」は、先程とその色を変えていた。

聞こえていた鳥の囀りはなく、

その代わりに木々のざわめきだけがいっそう強くなる。



やわらかなあかに染まる景色を前に

既視感を覚えていたこともあるのか、

すぐに馴染みの深い()()現象を思い浮かべた。












──おそらく日が暮れようとしているのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ